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本好きの下剋上 ~司書になるためには手段を選んでいられません~ 作者:香月 美夜

第四部 貴族院の自称図書委員

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領主会議のお留守番 後編

「フェルディナンド様は何の呼び出しだったのですか?」

 呼び出されたその日の夜には神官長が戻ってきていたようだ。次の日は普通に講義が行われる。領主会議で何があったのか尋ねてみたら、「何でもない。もう終わった」と簡潔に返されてしまった。

 でも、普段よりも機嫌が悪そうな厳しい顔になっていて、メルヒオールが微妙に怯えているように見える。一緒に講義を受けているヴィルフリートも強張った顔をしていて、神官長の顔色を時々伺っているのがわかった。

 非常に緊張感に満ちた講義を終えて、昼食を摂る。おじい様が神官長の様子を目に留めて、わたしと同じ質問をした。

「フェルディナンド、領主会議の用件は何だった?」
「……もう終わったことです」
「本当に終わったことならば、そのような顔をしているはずがあるまい。何らかの懸念があるのであろう?」

 さっさと話せ、とおじい様に言われた神官長が一つ息を吐いた後、口を開いた。

「アーレンスバッハから成人間近の領主候補生の婿に来るように要請がありました」
「え? ディートリンデ様の婿ということですか?」
「他にいないであろう?」

 神官長に冷たく睨まれ、わたしは口を噤んだ。その通りだ。アーレンスバッハには領主候補生が二人しかいなくて、一人がディートリンデ、もう一人がレティーツィアというまだ貴族院にも入っていない幼女だったはずだ。

「アーレンスバッハからの申し入れはあったが、すでに断った。今、エーレンフェストから私が出ると成人した領主候補生がいなくなること。私がローゼマインの後見人であること。上級貴族と中級貴族の娘では、領主代理を務める領主候補生に釣り合わぬこと。ヴェローニカと私の関係など理由はいくつもある」

 養父様がアーレンスバッハの領主夫妻を相手に奮闘して、お断りしたらしい。それでも、神殿の役職に就いたままいることで、ヴェローニカとの確執のまま神殿に押し込められていて、不当で不遇な扱いをされているのではないか、と疑われたらしい。

「ゲオルギーネが本人の口から答えを聞きたいと言ったのだそうだ。エーレンフェストで意に染まぬ役職に就けられているよりも、アーレンスバッハの次期アウブの配偶者となる方を本人は望むのではないか、と」

 それで神官長が呼び出され、意向を聞かれたらしい。そこで神官長本人がお断りしたそうだ。

「だから、終わったことだと言ったではないか」



 それから、更に数日後、神官長はまた呼び出された。今度は王の呼び出しらしい。次から次へと大変ですね、とわたしは神官長を見送る。神官長は「まったくだ」と面倒臭そうに言いながら、転移陣で貴族院へ向かった。

「……今回は長いですね。何があったのでしょう?」

 神官長が呼び出されてすでに二日がたっているけれど、神官長は戻って来ない。そのため、領主候補生の予習はお休みで、わたしはフェシュピールのお稽古に加えて、花嫁修業の刺繍をさせられている。正直なところ、刺繍よりも実技の予習がしたい。

「おじい様に教えていただくことはできないのでしょうか?」
「ボニファティウス様は領主代理で執務をされていますからね」

 そのような時間はございませんよ、とリヒャルダが言った。今は主要な文官達が領主会議に行っているので、数も少なく大変なのだそうだ。

「では、わたくし、おじい様のお手伝いを……」
「今の姫様はお勉強や執務から逃れようとするジルヴェスター様と同じお顔をされていますよ。わたくしの目は誤魔化せませんからね」

 ……バレてる。

 昔から脱走常習犯だった養父様を逃がさないように、逃げられたらひっ捕まえてきたリヒャルダの目を誤魔化せるはずがない。誤魔化すのは諦めて、正攻法で頼んでみよう。

「リヒャルダ、わたくし、刺繍よりも本が読みたいです。楽しむための本でなくても構いません。来年の貴族院の予習がしたいのです。本を読ませてくださいませ」
「ローゼマイン様は奉納式の間、貴族院を不在にするので予習が必要なのです。文官コースと領主候補生の両方を取られますから」

 借りた本を写本中のフィリーネとローデリヒが応援してくれたが、リヒャルダは厳しい顔のままで首を振った。

「文官コースの座学の予習は貴族院でとっくに終わっているではありませんか。それに、領主候補生の勉強に関してはフェルディナンド坊ちゃまが戻ってくるまでお休みです。何のお勉強をなさるのです?」

 貴族院での動向もしっかりと握っているリヒャルダにそう言われ、わたしは肩を落としながら刺繍の続きをした。

 夕食の席はおじい様も一緒だ。神官長がいなくなって、執務が一人の肩に圧し掛かるせいだろうか、疲れているように見える。

「おじい様、フェルディナンド様まで領主会議に呼び出されてしまったので、一人では大変でしょう? わたくしで良ければお手伝いいたしますよ」
「いや、心配はいらぬ。私は大丈夫だ」

 孫に心配をかけるわけにはいかないと言っていたおじい様がハッとしたように顔を上げた。

「……うん? 待て。そ、そうか。ローゼマインが手伝ってくれるのか」
「はい。わたくし、神殿ではフェルディナンド様のお手伝いをしていますし、冬は養父様のお手伝いもしましたから、少しならばおじい様のお力になれると思います」
「ローゼマイン、其方、冬に父上のお手伝いをしていたというのは?」

 ヴィルフリートが驚いたようにわたしを見た。わたしは奉納式が始まる時期よりも早く帰還させられたので、奉納式までの間、ハルデンツェルの儀式について尋ねてくる貴族を回避し、養父様のお手伝いをしていたことを説明する。

「私もボニファティウス様を手伝います。このままではローゼマインに次期領主の仕事を全部取られてしまうではないか」
「取りませんよ、そんなもの」

 むしろ、どんどん持って行ってくれて構わない。わたしが欲しいのは仕事ではなく、本だ。読書タイムだ。そこを勘違いしないでほしい。
 ただでさえ人数が少なくて大変な時にヴィルフリートの教育まで加われば、おじい様が大変かもしれない。わたしがおじい様の様子を窺うと、おじい様は「まぁ、よかろう」と頷いた。

「次期領主となるならば、ヴィルフリートはどんどん仕事を覚えて行った方が良い。父親を亡くすのが早かったジルヴェスターはかなり苦労していたからな」

 養父様がそれまで逃げ回っていたから、という言葉を巧妙に隠し、おじい様がそう言った。
 ヴィルフリートがやる気になっているので、ヴィルフリートの文官もまとめてお手伝いをすることで決定である。成人している文官もいるので、何とかなるだろう、とおじい様が請け負ってくれた。

「おじい様は騎士見習いといい、わたくし達といい、ご自分が大変になるのに後継を育てることに全く躊躇いのない姿勢が素敵ですね。フェルディナンド様は使えない者をさくさくと切り捨てる人なので、つい比べてしまいます」

 神官長は今でこそ少しずつ後継者を育てることを視野に入れるようになってきて、神殿の仕事をカンフェルやフリターク達に振り分けるようになってきたけれど、それでも自分でやった方が早いと仕事を抱え込みがちだ。おじい様のように人数が少なくて忙しい時に、邪魔になりそうな子供に仕事を教えるようなことは絶対にしないと思う。

「そうか。素敵か」

 おじい様が嬉しそうにそう言ったところで、メルヒオールがバッと挙手した。

「ボニファティウス様、私も一緒にやりたいです」
「お兄様やお姉様と一緒のことをしたいのはわかりますけれど、メルヒオールにお手伝いは無理ですよ」
「……兄上や姉上と一緒にいたいのです」

 自分でも足手まといにしかならないことはわかっているのだろう。メルヒオールがシャルロッテの言葉にしょんぼりと肩を落とす。その様子を見ていたシャルロッテが仕方なさそうに息を吐いた。

「ボニファティウス様、お姉様。執務室の隅でお勉強するくらいは良いですか? メルヒオールがお邪魔にならないように、わたくしが付いていますから」

 今はお父様もお母様もいらっしゃらないので、余計に寂しい気持ちになるのでしょう、とシャルロッテが微笑む。その顔がとても養母様と似ていて、親子だなと思った。



 次の日から、わたしはおじい様のお手伝いをすることになった。午前中はそれぞれの勉強をして、午後からお手伝いである。わたしはフェシュピールと奉納舞のお稽古をしたら、すぐさまおじい様のお手伝いに向かった。午後からは子供の数が増えて、大変なことになりそうなので、午前中にできるだけ仕事を分けておくためだ。

「これはヴィルフリート兄様と文官達、これはわたくしの側近、これはおじい様でなければ無理ですね」
「ローゼマインはヴィルフリートの文官がどの程度こなせるのかまで知っているのか?」
「いいえ、貴族院で一緒だった見習い達だけです。今日の様子を見ながら、もう少し任せられそうならば、任せていきます」

 ヴィルフリートの文官がどの程度の仕事を任せられるのがよくわからなかったので、わたしの側近が抱え込む分が一番多くなっている。けれど、神殿での仕事振りを考えて抱え込んだので、時間内に終わるはずだ。
 領主候補生ごとに大まかな仕事の振り分けが終わったら、わたしは自分が抱え込んだ仕事を自分の側近用に分けていった。

「ローデリヒ、フィリーネ、フィリーネ、ローデリヒ、ダームエル……」
「ちょっと待て、ローゼマイン。今、文官ではない者の名前が出てこなかったか?」
「え? わたくしの騎士はアンゲリカ以外、神殿では文官仕事もこなしますから、問題ありません。……もしかすると、城では問題があるのでしょうか?」

 ダームエルだけではない。コルネリウス兄様もレオノーレもユーディットも神殿に護衛騎士として来た時には神官長のお手伝いに駆り出されているのである。
 わたしの説明におじい様は難しい顔になった。

「ううむ……。騎士を文官として使うのは前例がないが、領主会議の期間だけならば問題あるまい。人数が少ないのは事実だからな」

 使えるのならば使え、と柔軟な答えが返ってきて、わたしのおじい様への好感度がぐんぐんと上がっていくのがわかる。

「わたくし、おじい様と一緒にお仕事ができてよかったです」

 午後からは皆でお仕事である。けれど、養父様の執務室におじい様、ヴィルフリート、シャルロッテ、メルヒオール、わたし、そして、それぞれの側近全員が入れるわけがない。場所を会議室に移して、執務を行うことになった。

 メルヒオールは計算の練習をしていて、シャルロッテはその様子を見ているが、シャルロッテとメルヒオールの側近には遠慮なく仕事を与えていく。

「メルヒオールの側近がしっかりお仕事をすれば、自分は役に立たない、とメルヒオールが引け目を感じることもなかろう。しっかりやれ」

 自分の仕える主のためだ、とおじい様に言われ、シャルロッテとメルヒオールの側近もお仕事を始めた。ヴィルフリートの文官達はおじい様の指示を受けながら、仕事を進めている。

「では、わたくし達も始めましょうか」
「……神殿だけではなく、城でも文官仕事をするのですか?」

 他の護衛騎士はアンゲリカと同じように領主候補生の後ろに付いているか、扉を守っているのに、とコルネリウスがぼやく。

「領主会議の人数が足りない間だけですよ、コルネリウス。ボニファティウス様は構わないとおっしゃいました」

 わたしの分だけ明らかに仕事の量が多かったが、護衛騎士も机に向かっている上に、神殿で仕事をさせられることに慣れているので、他の領主候補生の文官より早い。

「終わりました、ローゼマイン様。確認をお願いいたします」
「これはこの通り計算するので問題ありませんか?」
「この部分……ここのお金の流れが少しおかしい気がします。よく確認してみた方が良いと思います」

 途中でダームエルが横領っぽいお金の流れを発見したが、証拠固めなどは養父様達が戻ってきてからという話になった。

 5の鐘が鳴ると、側仕え達が運び込んできたお茶やお菓子でしばらくの間午後の休息をとる。

「兄上や姉上はすごいですね。私も早くお役に立てるようになりたいです」

 メルヒオールがお菓子を食べながら、尊敬の眼差しでわたしを見た。弟からの賞賛の眼差しが心地良い。これは明日も張り切ってお仕事をしなければならない。

「フェルディナンドは神殿でずいぶんと仕事をさせているのだな。正直なところ、騎士がこれほど文官仕事をこなすとは思わなかったぞ」

 おじい様の言葉に、ヴィルフリートとシャルロッテも頷いた。

「文官の質がまるで違う、ということは貴族院でも言われていたが、騎士達までこれほど違うとはな」
「ヴィルフリート様、書類仕事は騎士の仕事ではありませんから」

 ランプレヒト兄様が「ローゼマイン様を真似て、騎士に無茶ぶりをするのは止めてください」と言い、コルネリウス兄様が大きく頷いた。

「文官に関しては真似たことが良いことはたくさんあると思いますが、騎士には騎士の仕事をさせればよいのです」
「文官には普段からもっと仕事をさせねばならぬな」

 印刷業の仕事を少しずつやっているのだが、とヴィルフリートが言う。これからエーレンフェストの主軸になる印刷業だが、まだヴィルフリートが関与している部分はそれほど多くない。今年、領主候補生の側近の中で印刷関係の補助として出せるレベルなのはハルトムートしかいなかったのだ。

「やる気があるのでしたら、最終責任者であるエルヴィーラからどんどん仕事を回してもらいますよ。印刷業に関わる文官は下級文官が多いので、領主会議に連れて行けるような上級や中級の文官が欲しいと言っていたのです。来年の領主会議に同行させられるように鍛えてもらいましょう」

 貴族院で印刷物を周知させる予定の来年は領主会議も大変なことになるので、人員は多い方が良いだろう。

「成人の側近を一人でも領主会議に送り込めれば、あちらの雰囲気もわかりますもの。自分達が向かう前に側近が領主会議について熟知していると心強いですし」

 ハルトムートからの報告が楽しみです、とわたしが言うと、ヴィルフリートは対抗心を燃やしたように自分の側近を見回した。

「よし、来年は領主会議に出席させるぞ」

 ……よし、印刷業の人材をゲットしたよ!

 数日たてば仕事風景にも慣れてきて、休憩時間には他愛ないおしゃべりができるようになってくる。コルネリウス兄様によると、ローゼマイン式の魔力圧縮で魔力量が増えて、騎士見習いの成績がぐっと伸びているそうだ。

「そんな中、圧縮方法も知らないまま、独自で必死に圧縮して成績を伸ばしているマティアスはすごいです」
「マティアスはわたくしの代わりに指揮を任せることもできますし、中級貴族にしては魔力が多いです。旧ヴェローニカ派でなければ、ローゼマイン様の側近に欲しい人材ですね」

 トラウゴットが辞任したため、後を任せられる騎士見習いがいないのです、とレオノーレが困った顔で述べる。
 おじい様は難しい顔でレオノーレの話を聞き、「……ゲルラッハの子か」と低い声で呟いた。

「どれだけ技量があり、惜しく感じられても、名を捧げられることがなければ側近には入れられぬな。ローゼマインにとって危険すぎる」
「おじい様?」

 まるで何か知っているような口ぶりにわたしが首を傾げると、おじい様は軽く首を振った。

「旧ヴェローニカ派は危険だということだ。それはそうと、ローゼマイン式魔力圧縮方法は素晴らしいぞ。よく思いついた」

 おじい様は成人した騎士達も魔力量が増えていることを述べ、わたしを褒めてくれた。

「これがなければ、下級騎士のダームエルは護衛騎士を続けることなどできなかったであろう」

 幸いなことに成長期が遅かったことと、わたしが教えた魔力圧縮が上手く重なったことで下級騎士には珍しく魔力が伸びた、とおじい様がダームエルを見ながらそう言った。成長期が遅かったわけではなく、わたしの祝福が大きく影響していたようだが、それはお父様とわたしだけの秘密である。

「ダームエルはまだ成長しているのですか?」
「いや、この一、二年はほとんど成長が見られない。いくら成長期が遅かったとはいえ、さすがにもう止まったのだろう。もちろん、器の成長が止まっただけで、ローゼマイン式魔力圧縮でこれからも多少魔力を増やすことができるし、戦い方を考えて鍛えることで技量は伸びるはずだ」

 ダームエルの魔力は中級貴族の中から下で止まったらしい。それでも、ダームエルの元々の魔力を考えるとずいぶんと伸びたようだ。

「これ以上の劇的な伸びはなかろうが、それでも、ローゼマインはまだダームエルを護衛騎士として使うのか?」

 強さとしてはそろそろ頭打ちだ、とおじい様が言う。ぐっときつく拳を握ったダームエルを見ながら、わたしはすぐさま頷いた。

「おじい様、ダームエルの強さは魔力だけではないのですよ。ダームエルがいなければ、わたくしの側近達は上手くまとまらなかったのです。これからも、わたくしはダームエルを護衛騎士から外すつもりはございません」
「そうか。ならば、これからもビシバシと鍛えることにしよう」

 ダームエルが顔を引きつらせたけれど、鍛えてもらわなければ困るのは本人である。大変だとは思うが頑張ってほしい。わたしの秘密をたくさん知っているダームエルが護衛騎士から外される時は保護者達による口封じの心配をしなければならない。わたしはそんな怖い心配をしたくないのだ。

「おじい様、ダームエルだけではなく、騎士見習い達もビシバシ鍛えてくださいませ。連携は少しとれるようになってきましたが、貢献度についてはまだよくわかっていなかったようです」

 わたしはお魚解体の時のユーディットを例に出すと、おじい様が「なるほど。教育課程の見直しが必須だな」とニィッと唇の端を上げながらこの場にいる騎士見習い達を見回した。



「おじい様の貴族院の思い出はどのようなものがございますか?」

 他の日は貴族院の思い出について聞いてみた。政変によって、神官長とわたし達でも大きな違いがある。おじい様ほど年が離れていたら、もっと色々な違いがあっただろう。
 わたしはソランジュから借りた図書館司書の昔の日誌の話をして、昔と今がずいぶんと違うことを述べて、おじい様の思い出話を尋ねてみた。

「貴族院の思い出と言われても……宝盗りディッターのために奔走していた思い出しかないぞ」

 文官達は回復薬を覚えたら、必死で回復薬を作り、ディッターに必要な魔術具を作る。側仕え達は情報戦に忙しく、騎獣で飛び回って騎士達に魔術具や回復薬の補充をすることもあったらしい。
 宝盗りディッターでおじい様は一番に飛び出していくタイプかと思えば、領主候補生なので、領地対抗戦では指揮を執り、人を動かすことに専念していたらしい。

「もちろん、個人の武勇を誇る場では大暴れさせてもらったが」

 ダンケルフェルガーや今はもうないベルケシュトックの上級貴族と仲良くしていたらしい。狩りに行ったこともあるのだそうだ。

「そういえば、宝盗りディッターの最中に貴族院の辺鄙なところにある祠を壊したことがあったな」
「ダメじゃないですか! もしかして、貴族院のあちらこちらにある、神をまつった祠で悪戯ばかりする悪い生徒がいたという二十不思議はおじい様のお話ですか?」
「私ではない。私が壊したのは一つだけだし、すぐに申告した。さすがにもう修復されているはずだ」

 神様の祠を壊すなんてダメですよ、とおじい様を見ていると、おじい様は慌てたように手を振って否定する。

「何だ、その話は? 聞いたことがない」

 当人は知らないのだろう、とわたしはおじい様にソランジュから聞いた二十不思議の一つを話してあげる。メルヒオールやシャルロッテも興味深そうに聞いていた。

「それにしても、修復されているはずって、おじい様は確認されていないのですか?」
「卒業したら貴族院に入る機会はほとんどないのだ。私が悪いわけではない」

 おじい様の言葉にわたしが「なるほど」と納得していると、お茶のお代りを入れてくれるリヒャルダがクスクスと笑った。

「そのような誤魔化しはいけませんよ。ボニファティウス様は騎士団長時代、先代アウブの護衛騎士と共に毎年領主会議に行っていたではございませんか」
「リヒャルダ!」

 同年代で同じように昔を知っているリヒャルダに暴露され、おじい様がばつの悪い顔になった。

「では、おじい様の代わりに、今度わたくしが確認しておきますね。どの辺りですか?」
「冬は雪に埋もれて見えぬ。雪がなくなる領主会議の時期でなければわからぬ場所だ」

 つまり、わたしが貴族院に行った時に探すのは難しいらしい。残念である。ついでに、図書館の開かずの書庫についても何か知らないか聞いてみた。

「開かずの書庫と言われても全くわからぬな。図書館というのは文官に必要な資料を取りに行かせるところで、自分で赴くところではなかったからな」

 おじい様は意外と普通の領主候補生だったようだ。

「ボニファティウス様は姫様と違って図書館を利用することが少なかったではございませんか」
「リヒャルダ!」

 おじい様がむすっと黙り込む。その拗ねたような顔がちょっと可愛く見えて、話を聞いていた皆で笑った。過去を知る者が近くにいると、昔話をするのも難しいようだ。



 そんな感じで毎日を過ごすうちに、領主会議は終わったようだ。
 アウブ夫妻の側仕えが戻ってきて、主を迎える準備を始めたと報告が入った。
 領主会議の期間中、神官長が戻って来なかったことが心配だったので、わたしは転移陣の間へ出迎えに行く。もちろん、両親が戻ってくるのを楽しみにしているヴィルフリートとシャルロッテとメルヒオールも一緒だ。

「父上、母上!」
 メルヒオールの弾んだ声が上がる。うきうきしながら待っていると、アウブ夫妻が戻ってきた。養母様はいつも通りの微笑みを浮かべているが、養父様はほとんど笑みを浮かべていない無表情に近い顔をしている。
 出迎えの挨拶した後、わたしは養父様に近付いた。

「何かあったのですか?」
「報告会で話す」

 素っ気なく簡潔な答えを述べた後、「くそっ、あの馬鹿」と舌打ちと共に小さな罵り言葉が聞こえてきた。

「ジルヴェスター様」

 たしなめるように養母様が声をかけると、養父様は一つ息を吐いて子供達へ向ける笑みを浮かべて、部屋を出るように促す。

「これからどんどんと戻ってくる。ここを出るぞ」

 養父様がそう言うのを見計らっていたようなタイミングで転移陣が光った。戻ってきたのは神官長だった。

「おかえりなさいませ、フェルディナンド様」
「あぁ、今戻った」

 そう言った神官長はこれまで見たことがないくらいに見事な作り笑顔だった。

皆と一緒が嬉しいメルヒオール。
おじい様とお仕事をして、昔話を聞くお留守番。
リヒャルダの訂正がちょくちょく入ります。(笑)

次は、報告会です。
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