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本好きの下剋上 ~司書になるためには手段を選んでいられません~ 作者:香月 美夜

第四部 貴族院の自称図書委員

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領主会議のお留守番 前編

 祈念式が終わったら領主会議のための打ち合わせが忙しい。イタリアンレストランでプランタン商会やギルド長を始めとした大店の店主達と、去年の反省とどのような改善ができているか、今年の受け入れられるラインなど、下町の状況に関して話し合った。
 それに加えて、プランタン商会とは印刷や出版関係に関する要望や最低ラインなどの話を詰める。領主会議に印刷関係の文官として出席するお母様に提出して、貴族側の視点を入れて書き直してもらう。
 下町との話が終わったら、今度は城に戻って養父様と打ち合わせだ。

「ダンケルフェルガーとの協議では、エーレンフェストが絶対に譲れないラインはここで、この辺りまでは交渉次第で何とかなるとハルトムートが言っていました。できれば、この辺りまで受け入れてもらえると、今後、他の領地との交渉がとても楽になります」

 資料を借りる時、印刷をする時、販売する時、翻訳の印税など、結構細かくプランタン商会とは話し合った。わたしの知識で始めて、ここに見合ったやり方に合わせて、少しずつ変わっていけば良いと思う。

「それから、取引先ですが、エーレンフェストは基本的にこれ以上の商人を他領から受け入れるのは難しく、商業ギルドによると、取引先は増やしてほしくないとのことです」

 去年は中央とクラッセンブルクから8つの商会を受け入れた。合計で16だ。高級な宿を作って対応に努力はしているが、きちんと対応できるのは20が限界だそうだ。本当の限界まで商人に押しかけられると、少しのトラブルにも対応できなくなるので、そういうことにしてほしいと言われている。

「だが、ダンケルフェルガーと印刷関係の交渉をするのに、取引を増やさぬわけにはいかぬぞ」

 他は断れてもダンケルフェルガーを断るのは難しい、と養父様が顔をしかめる。わたしは大きく頷いた。

「わたくしも下町の商人にそう伝えました。そして、良案がないか考えていたところ、新しい勘合紙を発行することでクラッセンブルクの商人の数を減らし、代わりにダンケルフェルガーの商人を入れるのはどうか、とプランタン商会のベンノから提案がございました」
「クラッセンブルクの商人を減らすというのはどういうことだ?」

 養父様にそう言われ、わたしはベンノの意見を伝える。

「取引を終えて戻るクラッセンブルクの商人がエーレンフェストに娘を置き去りにしたことはすでに報告した通りです。プランタン商会が保護したため、娘は今も無事です。けれど、冬支度ができていない人間を半年以上保護するのは、エーレンフェストではとても大変なことです」

 雪が長引けば困るので、予備の分まで考えて季節一つ分の食料を準備しなければならない。たった一人増えるだけでも必要な食料や薪の量は大きく変わってくる。

「エーレンフェストならば、商人を置いて行っても保護してくれるとか、次の年に連れて帰れば良いし、上手くすれば新しい商品に関する情報も得られるというように考えられると困ります。すでに厄介事が起こった以上、クラッセンブルクの商人に何らかの対応は必要です。置き去りにするような商人を出さないために人数制限をするなり、取引する商会の数を減らすなりの措置を取るのはいかがでしょう? と言っていました。クラッセンブルクを減らした分、ダンケルフェルガーの商人が入れられます」

 去年は中央とクラッセンブルクから8つの商会を受け入れたけれど、中央は引き続き8つ、問題を起こしたクラッセンブルクを6つにすれば、ダンケルフェルガーを6つ入れられる。

 カーリンのトラブルを逆手にとって、あちらに圧力をかけつつ、ダンケルフェルガーの枠を確保するのはどうだろうか、とベンノが何とも迫力のある笑顔で言っていた。カーリンの一件が相当腹に据えかねているらしい。

「最終的に決定するのは養父様ですから、どの領地も平等に6つずつの商会を入れることにして良いですし、ドレヴァンヒェルも入れて、全て5つずつにするのでも構いません。エーレンフェストで受け入れられるのは20が限界なので、その中でどうするかは養父様にお任せいたします」
「……わかった。考えてみよう」

 制限しなければならないのは、他に受け入れられる町がないからである。エーレンフェストの下町だけでは限界があるので、何とか他の町も整備してほしい。

「まだグレッシェルでは商人の受け入れができないのでしょうか? 他の町でも受け入れができるようになれば、とても楽になるのですけれど」
「エントヴィッケルンの申請はされているが、すぐのことにはならぬ」
「そうですか。では、今年は取引ができない代わりに、リンシャンの製法を高値で売るのはどうでしょう? ドレヴァンヒェルでも色々と研究されているようですけれど、植物紙や勘合紙を研究されるよりはリンシャンが一番エーレンフェストの利益に影響が少ないと思うのです」

 できるだけ様々な流行を発信し、できるだけ早く町を整え、少しでもエーレンフェストの交易を発達させ、人の往来を増やすのが理想だ。けれど、元々他領の者を受け入れることが少なかったエーレンフェストでは問題が山積みで、正直なところ一気に交易を発達させるのは難しいと思っている。

「どうせユルゲンシュミット全体のリンシャンをエーレンフェストで賄うなど不可能ですし、すでにエーレンフェスト内では植物油の高騰が問題になっていると聞きました。高く売れるうちに、製法を売るのも悪くないと思います。エーレンフェストの新事業は印刷と出版ですから」

 わたしとしてはリンシャンを他所に譲っても、しばらくの間はエーレンフェストで印刷業を独占していたいのだ。ドイツで初期の印刷業が行われても、書物の都として花開いたのがヴェネツィアだったように、人々が多く集まるところへいずれは印刷や出版の中心が移っていくだろう。それでも、できるだけエーレンフェストを印刷と出版の中心にしておきたい。

 リンシャンの製法を売る際の値段について、わたしは養父様にこれまでの利益から導き出される相場を教えておく。ついでに、他領で製法が見つけ出され、真似られたら売れなくなることも付け加えた。

「考慮しよう。それはそうと、イタリアンレストランの料理人を領主会議の時期に派遣する件はどうなった?」
「オトマール商会に尋ねたところ、今の季節ならば三人は出しても問題ないという回答をいただきました。あちらの料理人が考えたレシピを売ることも可能だそうです。わたくしは自分のレシピと交換したのですけれど、とてもおいしかったですよ」

 イルゼの新しいレシピとわたしのレシピを交換したことに加えて、ダンケルフェルガーのロウレが手に入らないかどうかもフリーダに尋ねてみた。カトルカールに入れるとおいしかったよ、と言うと、今度ヴィゼというお酒と一緒に仕入れてくれることになったのである。

「そうか。新しいレシピの売買に関しては追々考える。今は料理人の数を揃えることが重要だからな」

 取引に応じられないところは料理でもてなし、相手が出せる金額によってレシピを売ったり、リンシャンの製法を売って終わらせることになる。多くの者が接触を求めてくるため、料理人は数を揃えなければならない。

 側仕えが足りなかった場合は、ギーベ達に連絡すればエーレンフェストの貴族の中から掻き集めることもできる。けれど、料理人はそういうわけにはいかない。わたしのレシピがある程度作れて、腕に問題がない、と太鼓判を押せる者でなければならないのだ。
 去年は料理人が足りずに大変だったと聞いていたので、フリーダにお願いして料理人教育にも力を入れてもらっていた。今年は準備バッチリである。

「今年はシャルロッテへの求婚もたくさんあるかもしれませんね」

 少しばかり面白くなさそうに養父様が口元を歪めた。エーレンフェストが一過性ではなく、流行を発信し続けることになれば、縁を持ちたいと考える領地が出ることは当たり前だ。

「複数のお申し込みがあって、選ぶ余地があるのでしたら、なるべくシャルロッテの意思を尊重してあげてくださいませ」

 何か言いたげにわたしを見て、一瞬口を開きかけた養父様が目を伏せて「わかった」とゆっくり頷いた。



 細々とした打ち合わせは領主会議に出発するギリギリまで続く。
 最初に転移陣で移動していくのは側仕え達で、今年は側仕えを統括しているノルベルトが最初から貴族院へと向かった。メルヒオールも北の離れに移ったため、本館の領主夫妻が過ごす区域を完全に閉め切り、領主会議に専念するのだそうだ。

 次に移動するのは騎士の一部、そして、文官達である。
 わたしは文官の見送りに転移陣へ向かった。今年はハルトムートが成人したため、お母様と一緒に印刷関係の文官として出席するからだ。

「私はローゼマイン様の側近で、ローゼマイン様の本に対する思いを一番よく存じています」

 そう豪語するハルトムートに、お母様の補佐をお願いしたのだ。印刷関係の文官は平民と話ができる下級文官が多いので、領主会議のように他領の文官と交渉をする時は上級貴族であるハルトムートがいると助かるとお母様が言っていた。

「お母様の補佐をよろしくお願いいたします。ハルトムートは優秀ですから期待していますからね」
「ローゼマイン様のご期待に添えるように頑張ります」
「これだけ綿密に決めた資料があるから大丈夫ですよ。本の出版に関しては、わたくしも思い入れがございます。お任せくださいませ、ローゼマイン様」

 ハルデンツェルで印刷している恋愛物語のために他領から原稿を買い取ることにも深く関わってくるので、お母様が今回の交渉はとても張り切っている。任せておけば大丈夫だろう。

 文官達が貴族院に向かうと、最後が領主夫妻である。護衛騎士であるお父様に挨拶しているうちに、ヴィルフリートとシャルロッテとメルヒオールの三人は領主夫妻に挨拶している。

「留守の間の魔力供給は其方等に任せる」
「はい、父上。たくさん練習します」

 メルヒオールが笑顔で頷くのを見たヴィルフリートとシャルロッテがクスリと笑った。

「わたくしが初めて魔力供給をした時はしばらく動けなくなるほど疲れましたから、たくさん練習するのは難しくてよ、メルヒオール」
「少しずつ扱える量を増やした方が良いぞ」

 二人の言い方にメルヒオールが不安そうに両親を見上げるが、同じように「やりすぎ注意」と言われて顔を強張らせた。

「ボニファティウスの言うことをよく聞けば問題ない。フェルディナンドはやらせすぎないように注意してくれ」

 自分基準でスパルタ教育になる神官長に釘を刺して、養父様達は転移陣で貴族院へ向かった。



「ローゼマインは今年から二つのコースを同時に受講する以上、少しでも予習しておいた方が良かろう。奉納式に帰還すると、社交が全くできなくなる」

 神官長の一言で、今年の城での生活は貴族院の三年生の講義を先取りして勉強することが中心になると決められた。自分基準でスパルタ教育をするな、と養父様に言われた直後に開始されるスパルタ教育だが、自分基準ではなく、わたし基準なので問題ないらしい。

 ……神官長ってもっともらしい顔で屁理屈こねるのが得意だよね。

 文官コースの座学に関してはすでに勉強済みなので問題ない。領主候補生だけに知らされる講義の方が大変なのだそうだ。わたしが領主候補生の勉強をすると聞いたシャルロッテは軽く目を見張った。

「叔父様、わたくしもお姉様と一緒に教えてほしいです」
「私もお願いします。領主候補生に関しては全く資料がないので、予習ができないのです」

 ヴィルフリートとシャルロッテが一緒に予習したいと言い出すとは思っていなかったのか、神官長は軽く目を見張った後、少し考えるようにこめかみを叩く。

「ローゼマインの速度に合わせるので、其方等は基本的に見学になるであろう。それでよければ、入室を許可する」

 わたしを奉納式に出すための予習であり、ヴィルフリート達に理解できるまで教えるつもりはないのだと言いながら、神官長は許可を出した。許可が出たことに顔を輝かせるヴィルフリートとシャルロッテを見たメルヒオールが自分も見学したいと言い出した。

「叔父上、私も見学させてください」

 わたしだったらメルヒオールにお願いされたら即答で許可を出すけれど、神官長は自分の予定が邪魔されるのを嫌う。すでに何年か接していて、どの程度言うことを聞くのかわかっているヴィルフリートとシャルロッテならば、ともかく、ほとんど初対面のメルヒオールは入れたくないのだろう。眉間に深い皺を刻んでメルヒオールを見下ろしている。

「兄上や姉上のお邪魔にならないように静かにするとお約束しますから」
「……邪魔をした時点で摘まみ出すからな」

 冷たい声で言いながらも、神官長は許可を出した。皆と一緒だと無邪気に喜ぶメルヒオールを見て、わたしが表情を緩めていると、神官長が面倒臭そうに軽く息を吐く。面倒でも許可を出す辺り、神官長はとても人間が丸くなったと思う。

 ……昔の神官長だったら、「邪魔だ」の一言でピシャリと打ち切ってたよね。

 貴族院で講義が側近を排した状態で行われるのと同様に、城で行う領主候補生の予習は側近達が立ち入り禁止になるらしい。それぞれの護衛騎士を一人ずつ部屋の前に置くと、それ以外は邪魔なので4の鐘が鳴ったら迎えに来るように、と神官長は側近を解散させた。

「そういえば、中央へ領主候補生は移籍できないのに、どなたが領主候補生の先生なのでしょう? 講義内容を教えられる先生がいるのですか?」

 こうして、領主候補生だけの講義になると、教えられる先生の存在が不思議で仕方がない。わたしの疑問に、いくつもの魔石を準備しながら神官長が首を傾げた。

「私の時は王族だったな。もしくは、王族と結婚した元領主候補生だ。以前は教師となりうる者が何人もいたのだが、今は一体どうしているのであろうか?」

 政変によって王族の数が激減しているはずだ。一体誰か教えてくれるのか、神官長にもわからないそうだ。

「そんなことは貴族院へ行けばわかる。今日はまず魔力の属性を分けるところから始めるぞ。これができなければ、領主候補生の実技には移れぬ」

 魔力の属性を分けるのは、三年生の共通の課題らしい。属性ごとの魔力を合わせたり、分けたりするのだそうだ。

「適性のある魔力は扱いやすい。それは知っているな?」

 神官長の説明によると、下級貴族は自分が持っていない属性が多いので、魔力を合わせるのも分けるのもどちらも苦労するらしい。一つしか属性を持っていない者は自分の属性だけを分けるのは得意なことが多いのだそうだ。

「上級貴族や領主候補生は持っている属性が多いので、自分が持っている属性を合わせるのは比較的楽に誰もが習得する。ただし、普段は常に混ざり合っている自分の魔力から属性を分けるのに苦労するのだ」

 それぞれの属性の魔石を準備し、それに触れて、その属性の魔力だけが引っ張られる感覚を理解し、なるべく他の属性の魔力が混ざらない魔石を作るように、と言われる。

「完全に自分の魔力を自在に扱うことができるようになれば、魔力を空にした魔石にその属性の魔力だけを満たした純粋な属性の魔石を作ることができるようになるし、器用な者ならば魔石の属性を塗り替えることもできるようになる」

 魔物を狩って得た魔石からその属性ごとに分けることも可能になるそうだ。わたしは魔石に触れながら、自分の魔力から属性を分けていく。

「混ざっている。やり直しだ」

 三人揃って、何度もやり直しをさせられる。まだ魔力圧縮がほとんど進んでいなくて、魔力量が少なく、扱いに慣れていないシャルロッテが一番に脱落した。ヴィルフリートは頑張っていたが、気分が悪くなってきたということで実技を終える。

「回復薬を飲んで、魔力は回復させておけ。夕食後には魔力供給があるからな」

 そうだった、とヴィルフリートが小さく呟きながら自分の腰のベルトに下げられている回復薬に手を伸ばす。

「ローゼマインは集中しろ」

 神官長に怒られながら、わたしは魔石に集中する。量の調節と属性の調節は感覚が全く違うので難しい。

 ……混ざりきってるのを分離するやり方って、何かなかったっけ?

 少しでもイメージがあると魔力は扱いやすくなる。わたしは唸りながら必死に考える。

 ……分離、分離……。遠心分離器? そういえば、ペーパークロマトグラフィとか高校の生物で習ったね。

 そんなことを考えていた結果、最終的に手を振って、指ごとに違う属性の魔力を出す方法で魔力の分離を習得した。

「ローゼマイン、その手を振る動作は何だ?」
「わたしの中の分離イメージです」
「……美しくない」

 神官長にはすこぶる不評だったが、完璧に分けられるようになったので問題ない。
 その日の夕食後の魔力供給が大変だったようで、シャルロッテは翌日から魔力を使う実技の部分に関しては見学で、魔力を使わないことには積極参加するようになった。

「魔力の分離と合成を覚えたら、次は、魔石を魔力で飽和させて金粉を作るのだが、これはすでに何度もやらかしたことがあるので、君に教える必要はないな。エントヴィッケルンの練習をする」

 礎の魔術に使われる魔石と同じ魔石が入った小さい箱の中で、箱庭の町を作るのが講義でも行われるらしい。ここでの難敵は設計図である。イメージ通りの町を作り上げるには、設計図ができなければならない。

「実際に街を作る際には、それまでの建物を利用しつつ、小さな改変を行うことが多い。それは設計図を準備するのが大変だからだ」

 設計図を作るのは文官に手伝ってもらうこともできるが、大掛かりな魔術になるので、失敗はできない。領主は自分で設計図に間違いがないか確認できる程度の知識は絶対に必要になるのだそうだ。
 そして、わたし達は揃って設計図を書く練習をさせられることになった。最初の課題は自分の理想の部屋である。

「設計図は得意だ」

 そう言いながら、ヴィルフリートがうきうきとした様子で自分の部屋の設計を始める。
 シャルロッテは今の自分の部屋をそのまま再現するようで、家具などを細かく描き込むのだと張り切っている。メルヒオールも一緒に設計すると言っているが、線のガタガタ加減から考えると、部屋として完成させるのは難しそうだ。

 ……理想の部屋、か。

 一番に頭の中に思い浮かんだのは、本が大量にあって、本に囲まれた空間……麗乃時代の最後にいた自宅の書庫だった。自分の死にざままで思い出してしまって微妙な気分になってしまい、わたしは思わず唸る。

「ローゼマイン、それほど難しいか?」
「理想の部屋で思い浮かんだ部屋はあるのですけれど、本に囲まれすぎて、本が降ってきて死ぬところまで想像できてしまったので、理想と言えるかどうか疑問に思ってしまったのです」
「……とりあえず、明日までに設計図を仕上げて来るように」

 勝手に悩めと突き放されるように課題を出されて、その日の講義は終わった。



 4の鐘が鳴り、皆で食堂へ移動して昼食を摂る。一人で執務をしているおじい様は大変そうだが、「ローゼマインが神殿の仕事をしながら最優秀を取るためには仕方がない」と協力してくれているらしい。

「おじい様の期待に添えるように頑張りますね」

 昼食を摂りながらも、わたしの頭の中は課題にされた理想の書庫でいっぱいになっていく。地震が起こっても本が降ってこない部屋作り。それが何よりも重要なのだ。
 考え込んでいると、食堂の扉が開いた。取次を願う者がいると声がする。

「領主会議に緊急の呼び出しだそうです。フェルディナンド様、至急貴族院へ向かってください」

 去年は色々と不足がありながらも、領主会議への呼び出しはなかった。緊急の呼び出しに神官長の表情が一気に厳しくなる。城で神官長に付いている側仕えや数人の騎士にユストクスが指示を出す中で神官長は手早く昼食を終えた。

「大変失礼とは存じますが、退席いたします」
「こちらのことは私に任せて良い。行って来い」
「恐れ入ります、ボニファティウス様」

 神官長が足早に食堂を出て行く。にわかに慌ただしくなり、食堂の向こうの廊下を行き交う者達の声が聞こえるようになった。その騒がしさがわたしの胸を騒がせる。
 神官長の厳しい表情は貴族院の図書館で中央の騎士団長と対峙していた時の表情とよく似て見えて、何とも言えない不安が広がってきた。
打ち合わせをして、領主会議に皆が出発です。
そして、お留守番中は神官長の講義。
神官長が会議に呼び出されてしまいました。

次は、おじい様とお留守番の後編です。
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