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本好きの下剋上 ~司書になるためには手段を選んでいられません~ 作者:香月 美夜

第四部 貴族院の自称図書委員

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聖典を調べる 前編

 真剣な眼差しの養父様から「フェルディナンドに気付かれて、連れ戻されぬように気を付けろ。読書時間が確実に減るぞ」と注意を受け、わたしはこてりと首を傾げた。神官長に気付かれずに神殿に戻るのは不可能だ。

「気を付けるも何も……神殿に戻る時にはいつもフェルディナンド様が側仕え達に連絡を取ってくれていたのです。あの魔術具の手紙で」
「む?」

 養父様が少し眉間に力を入れて、何か考えるように腕を組んだ。どうやら養父様はよくわかっていないようなので、わたしは神殿に戻るための手順を説明する。

「城に戻る時はオルドナンツで事が済みますが、神殿に戻る時はフェルディナンド様にお願いして、側仕え達に魔術具の手紙で連絡しなければならないのです。出迎えの準備が必要ですから」

 オルドナンツ以外を使う必要がない養父様は、わたしの言葉に納得の表情を浮かべて、何度か頷いた。

「なるほど。だが、案ずるな。魔術具の手紙ならば、私が其方にやろう。これで其方の側仕えに連絡するが良い」

 養父様はガサゴソとあちらこちらを探して、魔術具の手紙をくれた。今日これからすぐに戻りたいところだが、夕食の時間が近い。さすがに間に合わないだろう。わたしは明日の朝食後に神殿に戻ることに決め、フランに向けて手紙を書いた。

「養父様、シャルロッテかブリュンヒルデから注文書が届いたら、まず、神殿に送ってくださいませ。わたくしからギルベルタ商会にお願いしますから」
「あぁ、わかった。他には何かあるか?」
「ハルトムートやフィリーネがまたどこかのお話を手に入れていたら、神殿に送ってくださると嬉しいです。読む物はたくさんある方が幸せな気分になれますから」

 読書が休憩になるところが理解できぬ、と言いながら、養父様がゆっくりと頷いてくれた。
 わたしは他にお願いしておくことはないか、考えながら封をして、魔術具の手紙を飛ばす。これでフラン達はわたし達の受け入れ準備をしてくれるはずだ。これでよし。

「では、ローゼマイン。しばらくの間、読書をしてゆっくり休め」
「はい!」



 養父様の執務室から出ると、わたしはすぐに部屋に戻った。側仕え達には神殿に向かう準備をしてもらわなければならない。

「養父様の命令で、聖典を詳しく調べて参ります。ハルデンツェルの奇跡についてギーベ達が色々と知りたいことがあるようなのです。ですから、わたくしはしばらく神殿に戻りますね」

 リヒャルダを始めとした側近達にそう言って、神殿に戻る準備をしてもらう。ダンケルフェルガーの本やソランジュに借りた資料などたくさんの本を抱えて、わたしは笑み崩れる。これから奉納式まで養父様の命令で読書三昧である。休養が一番大きな目的なので、聖典を調べたけれど、何もありませんでしたという回答でも全く問題ないのだ。

 ……やったね!

 ダームエルとアンゲリカにもしばらく神殿にいてもらうことになるので、準備をしてもらい、厨房にいるエラにも連絡を頼む。明日の朝には神殿に向かって出発だ。

「ずいぶんと急ですね」

 オティーリエが明日のために移動準備をしながら呟くと、リヒャルダは「今更何を」と言って息を吐いた。

「姫様が神殿に向かわれるのは、いつも突然ではありませんか」
「準備を急がせてしまってごめんなさいね。春の祈念式までに聖典を調べようと思ったら時間がないのです。わたくし、奉納式の後は貴族院に戻らなくてはなりませんもの」

 今日は領主夫妻が貴族の会食に招かれているようで、わたしは自室で一人、夕食を摂った。城での夕食は神殿と違ってヴィルフリートが基本的に一緒だったので、妙に寂しくて、夕食だけ貴族院に戻りたいと思いながら食べた。



 次の日の朝、わたしは長期間神殿に籠るための準備を終えたダームエルとアンゲリカの騎獣に先導されて神殿に戻った。猛吹雪の中の移動はやはり大変で、明るい黄土色のマントがなければ、いつも自分がどこを飛んでいるのかがわからなくなる。騎士達は何故間違えずに神殿に着けるのだろうか。不思議だ。

「おかえりなさいませ、ローゼマイン様」
「お戻りをお待ちしていました」

 凍り付くような寒さの中、わたしの側仕え達が勢揃いで出迎えてくれた。ダームエルとアンゲリカが踏み分けて作ってくれた道を通って、わたしは転ばないように慎重に側仕え達のところへ歩いて行く。今回は転ばずに神殿に入ることができた。

 ……わたしの筋力、少し戻っているかもしれない。

 ただ、他の人に比べると時間がかかるので、外套は雪まみれになってしまった。神殿に入ってすぐのところでモニカが外套を脱がせて、雪を丁寧に払ってくれる。パラパラと足元に雪が落ちていくのを俯いて見ていると、ザームが辺りを見回して首を傾げた。

「ローゼマイン様、神官長はご一緒ではないのですか?」
「えぇ。神官長は社交に忙しいですから、奉納式まで貴族街にいると思います。わたくしはアウブのご命令で聖典を調べるために戻ってきたのです」
「聖典を調べるのですか?」

 不思議そうに目を瞬くフランに、わたしはハルデンツェルの奇跡について話をした。

「祈念式で春を呼ぶことができたので、他のギーベもハルデンツェルの儀式を真似たいのですって。そのためにも聖典をよく調べてほしいそうです。青色巫女時代に図書室の聖典は読み比べていましたし、神殿長になった時に神殿長の聖典を読みましたから、違いを探したり、もう一度読み直すだけなのですけれど、期限が奉納式までなので、あまり時間がないのです」
「確かに時間があまりございませんね」

 フランが納得したように頷き、わたしは神殿長室に入ると、ニコラが淹れてくれたお茶を飲みながら、神殿の報告に耳を傾ける。ギルによると、プランタン商会に新しいダルアが入ったせいで、しばらくは店に立ち入らないように、と言われているらしい。ルッツからの連絡が来るまで待て、と言われたそうだ。

「プランタン商会はこちらの情報をなるべく知られたくないと言っていました」
「一体どんなダルアが入ったというのでしょうね?」

 ギルド長の孫であるダミアンが印刷にガッツリと関わっているのに、それ以上に警戒しなければならないようなダルアは思い浮かばない。

「クラッセンブルクの商人の娘だそうです」
「え?」

 ……クラッセンブルクの商人? え? なんでそんなダルアを入れたの、ベンノさん!?

「のっぴきならない事情があったそうです。詳しくはルッツも知らないと言っていました」
「そう。何事もなければいいけれど……」

 報告を聞きながらお茶を飲み終わったわたしは、フランに聖典の準備をしてもらった。魔石で守られた豪奢な聖典が祭壇から執務机へと運ばれる。わたしの前に丁寧に置かれ、その隣には聖典の鍵が置かれた。わたしは鍵を手に取って、カチリと鍵穴に差し込む。魔力を取られるのがわかった。

 一通り目を通したら、聖典の研究は終わったことにして自分の本を読むのだ、と考えながら、わたしは鼻歌まじりに聖典の分厚い表紙を開いた。同時に、自分の記憶にある聖典とは違う物が目に飛び込んできて、大きく目を見開く。

「……何、これ?」
「どうかなさいましたか、ローゼマイン様?」

 わたしの呟きにフランが即座に反応した。不思議そうにわたしと聖典を見比べるフランの姿に、許可を出さなければ神殿長の聖典は他の者には読めない、と神官長が言っていたことを思い出した。フランには見えていないのだ。同時に、貴族以外の者に魔術に関する知識を与えないように神官長が気を付けていたことを思い出して、そっと安堵の息を吐く。

「何でもありません、フラン」

 わたしは取り繕った笑顔を浮かべてフランに向かってそう言った後、じっと聖典を見つめる。わたしの目には表紙を開いたところに魔法陣が浮かび上がって見えているのだ。魔法陣だけではない。これまでのインクで書かれた文字の上に、魔力で書かれた別の文字が浮かび上がっている。今までになかった変化にすぅっと背筋が冷たくなった。

 ……ちょっと待って。何、この変化。わたしが神殿長になってから大きく変わったことって何かあったっけ?

 わたしは必死で記憶を探り、魔術具である聖典に変化が出るような出来事がなかったか、考える。一番大きいのは、貴族院に行ったことだ。貴族の一員となるためにシュタープを取得した。あれが多分一番大きな変化だと思う。シュタープを得て、わたしは魔力のコントロールも上がったし、様々なことができるようになった。

 ……ううん、違う。

 ハッとしてわたしは首を振った。シュタープを取得した後で、わたしは聖典を読んだはずだ。ハルデンツェルで祈念式を終えた後、神官長と一緒に聖典を確認した時にはこんな魔法陣はなかった。神官長も何も言っていなかった。

「ローゼマイン様、何かあったでしょう? 何が起こったのですか?」

 わたしの様子を見ていたアンゲリカが即座に反応して駆け寄ってきた。警戒心を露わにしつつ、聖典とわたしを見比べる。鋭いアンゲリカの言葉にダームエルも訝しげな顔になって近付いて来る。

「アンゲリカには聖典の内容が見えますか?」

 わたしが問いかけると、鋭い目で聖典を睨むアンゲリカが視線を外さないまま、首を振った。

「何も見えません。白紙です」
「神殿長であるローゼマイン様の許可を得なければ見えないのではありませんでしたか? 前にフェルディナンド様がそうおっしゃった記憶がございます」

 ダームエルの言葉にわたしは軽く頷いた。本当に見えていないかどうか確認したかっただけだ。

「……では、アンゲリカに聖典を見る許可を与えます。何が見えますか?」
「難しい言葉が見えます」

 文字は見えるようになったようだが、魔法陣は見えないようだ。アンゲリカだけに見えないのか確認したくて、わたしはダームエルにも許可を与えてみた。

「ダームエルには何が見えますか?」
「神より与えられし言葉、と書かれているように読めます」
「わかりました」

 ダームエルにも魔法陣は見えなかったようだ。どうやら魔法陣を見るのに、シュタープの有無や貴族であるかどうかは全く関係がないようだ。何故こんな魔法陣が見えるようになったのか、原因を調べることは難しい。

「聖典を見る許可を取り消します」
「何かわかったのですか、ローゼマイン様?」

 アンゲリカを見上げ、わたしは「貴族院を卒業したアンゲリカが考えることを放棄したことがよくわかりました」と言って、魔法陣に関しては誤魔化しておく。

 ……神官長に要相談だね。うん。

 よくわからないことは神官長に尋ねよう。そう考えながら、わたしは浮かび上がった文字を読み始めた。

 ……汝、王となるを望む者? いやいや、別に望んでないですよ。

 最初の魔法陣と共に浮かび上がっていた言葉に首を振りながら、わたしは読み進める。王になる気はないが、本は読む。知らない文字列は読んでおく。それがわたしの望みだ。
 浮かび上がった魔法陣は見てみたものの、複雑すぎてよくわからない。とりあえず、全属性が関わる魔法陣であることは理解できた。それだけだ。

 ……魔法陣はよくわからないからパス。後で神官長に聞けばいいよね。

 パラリとページを捲った。また文字が浮かんでいる。けれど、魔法陣はない。わたしは文字列に目を通していく。浮かび上がる文字で書かれていたのは、王になりたかったら、ひたすら神に祈りを捧げよ、ということだった。

 王になることを望む者はまず魔力をできるだけ上げておかなければならない。神に祈りを捧げて魔力を増やすのだそうだ。祈りを捧げて魔力を増やすというのがよくわからないけれど、そうらしい。
 そして、どんどんと魔力を増やしていって器の成長が止まったら、また神に祈りを捧げる。そうすると、今度は神々の元に至る道が開かれるらしい。そこでは王としての力を振るうために必要な物が神々より与えられるのだそうだ。ちなみに、神々に至る道が開かれなかった場合は、王としての資格が足りなかったということらしい。

 ……資格って何?

 力を振るうために必要な神の力を手に入れたら、また神々に祈らなければならない。よく祈ったら、今度は神々より王となるために必要な知識を与えられるそうだ。両方を手に入れることができて、やっと王と認められると書かれている。

 ……なんか祈ってばっかりだね。

 王になるためのヒントというところだろうか。流れは何となくわかったけれど、詳しくハッキリと書かれているわけではないので、よくわからない。誰もが王になれるわけではないから、曖昧にぼかして書いてあるのかもしれないし、書かれた当時ではこの表現方法で誰もが理解できたのかもしれない。

 ……まぁ、わたしは王にならないから、王になる方法なんてどうでもいいんだけど。

 浮かび上がる文字だけを読んでみた結果、書かれていたのはハルデンツェルの儀式には全く関係のないことだということはわかった。

「とりあえず、養父様に言われたことを優先しよう」

 文字を読み終えると、もうどうでもよくなった。わたしには全く関係のないことだ。魔法陣だけは控えておいた方が良いかな、と思ったけれど、魔法陣を描くのはフラン達がいないところで作業しなければならない。自分の工房に聖典を運ぶことを考えると、とても面倒な気分になった。

 ……神官長が帰ってきてからでいいや。先にハルデンツェルのことを調べようっと。

 わたしは聖典をパラパラと捲って、ハルデンツェルの儀式に使われていた土の女神の眷属が水の女神に祈りを捧げる部分を探す。何度か確認のために読んだ部分なのですぐに見つかった。じっくりと読んでいく。詩と挿絵はあるけれど、やっぱり舞台の作り方に関しては全く載っていなかった。

 ……大事な舞台を壊しちゃうなんて、聖典を書いた人だって想定外ってことだよね。



 聖典の確認が終わったので、午後はソランジュから借りてきた資料を読むことにした。他人からお借りしている資料は早目に読んで、なるべく早く返せるようにしておかなければならない。図書館で使われている魔術具に関して書き出せるように、ペンを構えながら数代前の司書が書いていた仕事の報告書を読んでいく。

 昔の司書の一日がわかって、非常に楽しい資料だった。
 まず、講義の始まりを示す二と半の鐘が鳴るまでに開館準備をしなければならない。司書が数人で手分けし合って魔術具に魔力を注いで回るのが日課のようだ。まずは図書館の建物にくっついている大掛かりな魔術具からで、執務室にある魔石に魔力を次々と注いでいくらしい。時間を示して光る魔術具や館内を掃除する魔術具、閲覧室内の大きな声を抑えるための魔術具などに魔力を注いだ後は、閲覧室の鍵を開ける。

 閲覧室でシュバルツ達に魔力を注げば、シュバルツ達も開館準備を始めてくれるようだ。閲覧室の扉を開けて回り、貸出し手続きに必要な道具を準備するらしい。シュバルツ達が準備に取り掛かる姿を思い浮かべると口元が緩む。とても可愛い光景だと思う。
 そして、シュバルツ達が一階で準備している間に、司書は二階にある魔術具にも魔力を注いで回るそうだ。古い資料が朽ちないように保存しておくための時を止める魔術がかけられた書箱や日光で本が傷まないようにするための魔術具もあるらしい。これはぜひローゼマイン図書館に取り入れたいものである。

 ……こうやって魔力を注ぐ中にじじさまが含まれているんだろうな。

 わたしは二階の閲覧室にあったグルトリスハイトを抱えたメスティオノーラの女神像を思い出す。どうやら、わたしはすでに司書らしい仕事をしていたようだ。ちょっと嬉しくなってきた。図書館にどのような魔術具があったのか、紙に書き写しながら、どんどんと先を読んでいく。

 生徒が出入りする時刻になってからは、わたしが知っている仕事をしていた。本が返却されれば返したり、キャレルを貸し出したり、学生が持ち込んだ参考書を査定したり、先生方が準備して欲しい資料についてオルドナンツを送ってくるので、それを準備したり、想像するだけでとても楽しい図書館ライフが綴られていた。

 ……いいなぁ。わたしもこういう生活がしたかったな。

 ソランジュが前に言っていたように、この時代には何人も司書がいたせいだろう、仕事には余裕があったようで、先生方と情報交換のお茶をするために図書館から出ている記述も時々見られたし、生徒がお茶会に誘うこともあったようだ。

 新しい発見だったのは、上級貴族の司書が貴族院にいるのは領主会議の時期までで、会議が終わると今度は王宮図書館に移動して勤務すると書かれていた。上級貴族の司書は季節によって貴族院の図書館と王宮図書館を移動して仕事をしていたようだが、中級貴族や下級貴族の司書はそれぞれの専任で移動することはなかったらしい。

 ……ソランジュ先生はずっと貴族院の図書館にいるってことで、きっとずっと王宮図書館に勤務している司書もいるんだろうね。

 上級貴族の司書が貴族院の図書館に増員されないのだから、王宮図書館も人手不足で中級貴族の司書が必死に運営しているのだろう。書き留めていった魔術具の多さを考えると、中級貴族が数人ではとても大変だと思う。

 後は、当時と今で時代が違うのがよくわかった。当時は卒業寸前にシュタープを取りに行っていたようで、卒業式の時には初めてシュタープを得た卒業生が誇らしげに高く掲げて光らせる様子が書かれ、卒業を寿ぐ言葉が綴られている。

 ……今は一年生から持ってるもんね。

 他には領主会議には成人した王族が参加することが義務付けられていたようで、図書館にもやってきたことが書かれていた。上級貴族の司書が三人、勢揃いして出迎えたそうだ。

 ……そういえば、ヒルデブラント王子を出迎えるのはシュバルツ達だよね? そっちの方が絵面としては可愛いなぁ。

 とても楽しそうな図書館ライフに心を飛ばしながら資料を読んでいると、突然フランがゆさゆさとわたしの肩を揺さぶった。

「な、何ですか、フラン?」

 目を瞬きながらフランを見上げると、フランは無言で机の上に降り立ったオルドナンツを示した。

「ローゼマイン、私は君にジルヴェスターの監視を頼んでいたはずだが、監視している君は一体どこにいる? ジルヴェスターと一緒か?」

 底冷えのするような神官長の声に、わたしはうひっと息を呑んだ。どうやら養父様は監視役のわたしを神殿に戻して、どこかに逃亡したに違いない。

 ……ちょっと見直したのに、養父様のバカバカ! このままじゃわたしだけ神官長に怒られる!

 わたしに神官長の雷が落ちて、ほとぼりが冷めた頃に当たり前の顔で日常に戻っている養父様の姿がありありと思い浮かんだ。要領が良くてサボリ慣れている養父様に比べたら、わたしは圧倒的に言い訳能力と怒りの回避能力が負けている。

「すぐに出て来なさい」

 三回、同じことを述べたオルドナンツが黄色の魔石に戻った。

「ローゼマイン様、アウブのご命令で戻られたのですよね?」

 フランにまで疑惑の目で見られ、わたしは何度も首を振って「そうです」と肯定する。けれど、護衛まで含めて人払いされた執務室で受けた命令である。アウブから命令を受けたことはわたし以外に誰も知らない。養父様がすっとぼけたら、わたしが嘘を吐いていることになってしまう。

 ……わたし、悪くないのにっ!

 サボりたくて、監視のわたしを神殿に戻そうとした養父様のやり口に気が付かなかったのは、ちょっと鈍かったかもしれないと思うけれど、今回のわたしは別に悪いことなんてしていない。悪いのは全部養父様だ。

 ……わたしが悪くないのに神官長にめちゃくちゃ怒られて、城に戻されて、罰として今度こそ完全に読書時間がなくなるんだ。どうしよう? 何とかしなくちゃ。

 わたしはその魔石を握りしめ、冷汗の吹き出る思いで必死に頭を回転させて、何とか神官長の怒りと城へ戻される事態を回避できないか考える。

 ……そうだ! あの魔法陣を見たら、絶対に神官長は怒っている場合じゃなくなるはず!

 わたしはシュタープを取り出すと、黄色の魔石をコンコンと軽く叩きながら魔力を流す。白い鳥へと姿を変えたオルドナンツに向かって口を開いた。

「アウブのご命令で、わたくし、聖典を調べるように言われたのです。とんでもない新事実が発覚したので、フェルディナンド様に至急ご相談したく存じます。早く帰ってきてくださいませ!」
軽く聖典を見直したらいいや、と考えていたら、聖典が妙な変化をしていました。
本当は読書を楽しんでから神官長に報告するはずが、怒りを回避するためにすぐに呼ぶことになりました。
読書時間が減って、ガッカリですね。

次は、後編です。
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