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本好きの下剋上 ~司書になるためには手段を選んでいられません~ 作者:香月 美夜

第四部 貴族院の自称図書委員

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本好きのお茶会 後編

「督促のお仕事に関しては、許可が出ればヒルデブラント王子にお任せいたしますね。許可が出なければ去年と同じようにしますから、お気になさらず」

 許可は出ないと思うけれど、気を落とさないでね、と遠回しに言いながら、わたしは頭の片隅でお茶会に相応しい話題を探す。まだ貴族院に入学しているわけではないヒルデブラントでも興味を持てそうな話題が必要だ。ハンネローレと共通する講義内容や貴族院での人間関係に関する話題では、全くわからないヒルデブラントが疎外感を覚えるだろう。図書委員という貴重な共通の話題から変更を指示されると、すぐには思い浮かばない。

 ……王族が喜ぶ話題って何?

 アナスタージウスとはエグランティーヌの話しかしていなかった。エグランティーヌの話さえしておけば、基本的に機嫌が良かったのでそれでよかった。ヒルデブラントが好きなものがさっぱりわからない状態ではどうしようもない。洗礼式を終えたばかりで、部屋に籠っていることになっているヒルデブラントに関しては全く情報がないのだ。

 ……ここにいる皆が盛り上がれそうな話題。共通点は貴族院だけだよね。あ、そうだ!

「わたくし、一度聞いてみたいと思っていたのですけれど、ソランジュ先生は貴族院の二十不思議をご存知ですか?」

 わたしが話題を出すと、ハンネローレとソランジュが軽く目を見張って話題転換に飛びついた。

「貴族院に伝わる不思議な話はいくつか存じていますけれど、二十もなかったと思いますよ」
「わたくしもいくつか耳にしたことはございます。ソランジュ先生のおっしゃるように二十もなかったと思いますけれど」

 二人ともいくつかの不思議を知っているらしい。ヒルデブラントも興味を持ったようで、明るい紫の瞳を輝かせて、わずかに身を乗り出した。

「貴族院の二十不思議ですか? どのようなものでしょう?」
「学生達が面白がって増やし、似たようなものは統合され、改変され、どんどん形を変えていくので、嘘か本当か、出所さえ不明なお話です。わたくし達のお父様やお母様が学生の頃、貴族院にあったお話だと、わたくしの知っている文官が教えてくれたのです」
「聞かせてください、ローゼマイン」

 どうやら話題の変更には成功したようだ。皆が興味津々という顔でわたしの方を見ている。ただ、わくわくとしているように見えるヒルデブラントには悪いけれど、わたしは詳しく知らない。むしろ、わたしが余計なことを言わずに済むように、ソランジュとハンネローレに語ってもらうつもりなのだ。

「そうですね。……卒業式の夜に踊る神の像、時の女神が悪戯をする東屋、ディッター勝負を始めるゲヴィンネン。それから、開かずの書庫。わたくしは詳しい話は存じませんけれど、ソランジュ先生やハンネローレ様はいくつかご存知なのでしょう? 教えてくださいませ」
「アルトゥールは何か知っていますか?」

 ヒルデブラントがそう言って自分の側仕えを見上げた。アルトゥールと呼ばれた二十歳くらいの側仕えは困ったような笑みを浮かべ、ヒルデブラントの肩に手を置く。

「ソランジュ先生のお話をよく聴いてください」

 お茶会で側仕えをお話の主役に持って来てはならない。あくまで側仕えは控えているものだ。いつもの癖で尋ねてしまったらしいヒルデブラントが「あ」と小さく呟いて前を向く。社交に慣れていない子供の姿をソランジュが温かい眼差しで見つめながら、「どのお話が良いかしら?」と呟いた。

「祭壇の最高神のお話はいかがでしょう? 貴族院のあちらこちらに神をまつった祠があるのですけれど、その祠で悪戯ばかりする悪い生徒がいたのです。直接学生達や先生方に何かするわけではないので、注意を受けるだけでした。調子に乗った生徒は更に悪戯を続けました。けれど、ある日、強い光が降り注いだかと思うと、突然姿を消してしまったのです。その学生はもう戻ってきませんでした」
「え? どこに行ってしまったのですか?」

 ヒルデブラントとハンネローレが怖々とした表情で尋ねると、ソランジュは一度笑みを深めた後、静かに首を振った。

「残念ながら、それは誰にもわかりません。……神の目を盗んだつもりで、悪いことをしていても神々はお見通しなのです。王子も姫様方も周囲の者のお話をよく聞いて、良い子にしていなければ、奥の間にある祭壇の最高神が動き出し、はるか高みに連れて行かれてしまいますよ」

 ……小さい子供に聞かせるような教訓話っぽいけど、本当にありそうなところが怖いよね。

「あとは、そうですね。ローゼマイン様が口にされたお話の中で、わたくしが存じているのは時の女神が悪戯する東屋でしょうか。王子や姫様方にはまだ少し早いかもしれませんけれど、あの東屋は気になる異性との逢瀬の場なのです。側近を連れ歩く領主候補生が二人だけで話ができるように、側近達を立ち入らせないための場所。皆様もいずれ使う日が来るかもしれませんね」

 ソランジュが茶目っ気のある表情でわたし達を見回し、クスッと笑った。
 東屋は完全に壁に囲まれているわけではないので、外に控える側仕え達には自分の主が何をしているのか、行動はよく見える。けれど、盗聴防止の魔術具を使うと会話は聞えなくなるので、二人だけで話ができる場になるそうだ。お互いしか見えていない二人の時間は驚くほど短く、あっという間に過ぎ去ってしまうので、時の女神が悪戯する東屋と言われるようになったらしい。

「ですが、時の女神が悪戯する東屋にお誘いを受けても、簡単に承知してはなりませんよ。周囲からは恋人関係に見られますからね」

 ソランジュの言葉に、わたしはお母様が書いた貴族院の恋物語を思い出した。

 ……あ~、貴族院の恋物語で養父様が必死に養母様を誘い出そうと奮闘していた東屋だ。なんで東屋にこだわるのか、全く理解できなかったけれど、恋人同士が行く場所だったのか。「別の場所ならばご一緒します」って、一度断られたんだから、別の場所に連れて行ってあげればいいのにって思ってたよ。

 養母様に断られた後、養父様が神々へ嘆きを訴える詩がつらつらと続く苦悩がいまいち理解できなかったのだが、ようやくわかった。ほぅほぅと納得していると、ハンネローレが知っている不思議話を教えてくれる。

「わたくしが知っているのはディッターを始めるゲヴィンネンのお話です。洗礼式を迎える子供くらいの大きさのゲヴィンネンが夜中にディッターを始めるというものです。目撃情報が多かったとは伺っていますけれど、わたくしもあまり詳しくないのです」

 ……何となくディッターと聞くと、ダンケルフェルガーの関与があるって考えちゃうよね。ルーフェン先生のせいだけど。

 ハンネローレが教えてくれたことに礼を言って、わたしはソランジュに視線を向けた。

「ソランジュ先生、開かずの書庫については何かご存知ないですか?」
「開けられない書庫、という意味でしたら、わたくしが知っているだけで三カ所ございますよ」
「えぇ!? 三カ所もあるのですか!?」

 さらりと答えが返ってきたことに驚き、その内容にもう一度驚いた。ソランジュはヒルデブラントとその側近にちらりと視線を向けた後、ゆっくりと頷く。

「前任の司書は三人いました。そして、三人がそれぞれに鍵を管理し、全ての鍵が揃わなければ入れない書庫があるのです。盗難を防ぐために鍵の在処はそれぞれしか知りません。彼らが去ってから鍵の在処がわからず、入れなくなってしまった開かずの書庫が三カ所ございます。滅多に使わない古い文献を保管するための書庫ですから、今のところは特に問題ございません。恐らく鍵は彼らの私室にあると考えられますので、書庫を開けるためにもこの図書館に上級貴族の司書が派遣される日が来るのを待っています」

 神殿にも神殿長に任命された者にしか使えない鍵や聖典がある。そういう類の鍵なのだろう。開けられない書庫が三つもあるというだけで、血沸き肉躍る気分になる。ヒルデブラントとその側近は中央の上級貴族になるはずなので、いずれ開けることができるかもしれない。

 ……でも、三つの鍵が揃えば開けられる書庫と、ユストクスが言ってた王族でなければ入ることができない書庫って、別物だよね?

「では、王族しか入れない開かずの書庫については何かご存知ですか?」
「わたくしは存じませんけれど、そのような書庫があるのですか?」

 ソランジュは知らないらしい。がっかりだ。「王族しか入れない」というところに反応したヒルデブラントが目を瞬いた。

「王族だけならば、私は入れるのですね」
「噂ですから、本当にあるかどうかはわかりませんよ。今の世代では不思議話を知っている者も少ないですから、尚更です」
「父上や母上に尋ねてみましょう。面白いお話を何かご存知かもしれません」

 ヒルデブラントが楽しそうにそう言って笑った。王族が知っている面白いお話というところで、わたしは思わず身を乗り出す。

「ヒルデブラント王子、面白いお話があれば、わたくしにも教えてくださいませ」
「はい」

 エーレンフェストに戻ってユストクスにお話をねだり、ヒルデブラントが教えてくれる話を加え、貴族院の二十不思議を本にまとめれば、騎士物語以外にも男の子が楽しめる本を作れるかもしれない。

 ……あ、本。返却しなきゃ。

 帰り際にバタバタするわけにはいかない。わたしは文官見習い達がいる一角へ視線を向けた。ハルトムートとフィリーネがお茶会の様子をメモしているのが見える。わたしと目が合った瞬間、ハルトムートが立ち上がり、本に手を向けた。その動作にわたしは軽く頷く。

「ハンネローレ様、先にお伝えしたように、わたくしはエーレンフェストに帰還することになりました。ですから、今、お借りしていた本をお返ししてもよろしいでしょうか?」
「えぇ。わたくしもお返しいたしますね」

 ハンネローレが自分の文官見習い達を振り返る。準備してきた本を文官同士で交換し、汚損や破損がないか、それぞれが確認し始めた。その様子を少しの間見ていたハンネローレがくるりとわたしの方を向いて、ニッコリと笑う。

「ローゼマイン様が貸してくださった本は現代の言葉で書かれていて、とても読みやすく、楽しめました。わたくし、エーレンフェストの本が大好きです」

 ……どうしよう。めっちゃ嬉しい。言葉が出ないレベルで嬉しい。

 ルッツ達と作ってきた紙、ローゼマイン工房の皆が一生懸命に印刷してできあがった本である。それがエーレンフェスト以外の貴族に受け入れられたことがとても嬉しい。本が好きで読みたいと思ってくれるお友達の存在の素晴らしさを思うだけで、神に祈りを捧げたくなる。

 ……祝福が飛び出そう! 抑えて、わたし!

 感動に打ち震えるわたしの背後に立ったリヒャルダがこっそりと魔石を渡してくれた。それを握って、魔力を流していく。ホッと安堵の息を吐いていると、ハンネローレが何度か目を瞬いた。

「どうかなさいましたか、ローゼマイン様?」
「いいえ。この本を作るまでに色々とあったことを思い出しただけです。ハンネローレ様のお言葉で全てが報われたような気がいたします。こうして、一緒に本を読んで、語り合うお友達が欲しいとずっと思っていたのです」
「勿体ないお言葉ですわ」

 ハンネローレはそう言って控えめな笑みを浮かべる。

「次は貴族院の恋物語をお貸ししますね。わたくし達のお母様やおば様の世代で実際にあった話や噂話が入っているのですって。わたくしにはどなたのお話か、わかりませんでしたけれど、ヒルシュール先生はご存知のお話がいくつもあったようです」

 フィリーネがわたしのところに恋物語を持って来てくれた。そして、フィリーネがハンネローレの文官見習いに差し出す。受け取った文官見習いが中を軽く改めて、ハンネローレに渡した。

「ダンケルフェルガーのお話もあるかしら?」
「騎士見習いが主役のお話がいくつかあったので、もしかしたら、ダンケルフェルガーの騎士見習いのお話かもしれません」

 ディッターの勝利を捧げると恋人に約束した騎士見習いのお話があった。勝ったのと負けたのと両方あったけれど、ダンケルフェルガーならば、勝つまで戦うのだから、勝った方の騎士見習いの話だろう。

「楽しみです」
「ハンネローレ様がダンケルフェルガーの恋物語をご存知でしたら、教えてくださいませ。このように本になるかもしれません。文官見習いが原稿にしてくださったら、わたくし、喜んで買い取ります」

 わたしの言葉に目を輝かせたのは、ハンネローレではなく、ハンネローレに仕えている文官見習いだった。たくさん物語を集めてくれると、とても嬉しいので、ぜひ頑張ってほしい。

「ローゼマイン様、エーレンフェストの新しい本をわたくしにもぜひ拝読させてくださいませ。職業柄、新しい本には目がないのです」
「その気持ち、よくわかります。ハルトムート、その本をソランジュ先生にお渡ししてください」

 ハンネローレから返してもらったばかりの恋愛中心の騎士物語本をソランジュに渡してもらう。ハルトムートから本を受け取ったソランジュがそっと本の表紙を撫で、花の透かしを不思議そうに見つめた。そして、パラリと本を開く。

「エーレンフェストの本は薄くて持ちやすくて、とても読みやすいのです。挿絵もあって素晴らしいのですよ」

 ハンネローレが興奮気味に頬を紅潮させて、ソランジュにエーレンフェストの本を猛プッシュしてくれる。ソランジュが顔を上げて、嬉しそうにハンネローレを見つめた。

「えぇ。こうしてハンネローレ様のように本をお好きになる方がいらっしゃるだけで、エーレンフェストの本がどれほど素晴らしいのか、すぐにわかります」

 ソランジュの言葉にわたしはとても嬉しくなってきた。突然の帰還命令に感謝したくなるくらいだ。すぐにでもエーレンフェストに戻って、プランタン商会や工房の皆を褒めてあげたい。

 ……大領地の領主候補生も喜んでくれたよって報告するんだ! ルッツは絶対に一緒に喜んでくれるだろうけど、販路拡大ってベンノさんも喜ぶかも? 孤児院の皆にもご褒美がいるよね。

 冬は準備した食料が尽きないように節約が基本で贅沢できないので、春になったら孤児院の食事をちょっと豪華にしてもらおう、と決意していると、ヒルデブラントがソランジュとハンネローレを見比べた後、おずおずと口を開いた。

「あの、ローゼマイン。私もエーレンフェストの本を読んでみたいと思うのですが、よろしいですか?」
「もちろんです、ヒルデブラント王子」

 よしっ! とわたしは内心でガッツポーズを作る。一度失敗したようなので、ヒルデブラントが言い出さなければ、こちらからはエーレンフェストの本を勧めにくかったのだ。わたしがハルトムートに視線を向けると、ハルトムートは騎士物語をヒルデブラントの側仕えアルトゥールに差し出した。

「ハンネローレ様には恋物語を中心にした騎士物語をお貸ししたのですけれど、殿方には戦いを中心にしたお話の方が楽しめると思うのです。この本は文字を読むことができるようになった子供達が読書を楽しめるように、と考えて作ったのです。大人にとっては軽い読み物になりますが、子供にとっては読書に慣れるためにちょうど良い本になったと思います」

 わたしの言葉を聞いていたアルトゥールが軽く頷きながら中を改め、ヒルデブラントに差し出す。

「ローゼマイン様のおっしゃるように、今のヒルデブラント王子には程良い難度の本です」

 簡単に読めるわけではないけれど、全く読めなくて匙を投げるような難解なわけでもない。ハンネローレやソランジュと同じように本を手にしたヒルデブラントが「頑張って読みます」と嬉しそうに頷いた。

「では、わたくしからもローゼマイン様にお貸しいたしますね。クラリッサ」

 全員に本が行き渡るのを待っていたようにハンネローレがそう言って、自分の文官見習いに視線を向けた。クラリッサと呼ばれたダンケルフェルガーの文官見習いが分厚くてしっかりとした装丁の本をハルトムートに渡す。

「ありがとう存じます、ハンネローレ様。これでエーレンフェストに帰還してからの楽しみができました」

 新しく読む本が手に入ったので、貴族院の図書館からは引き離されてしまう辛さが減った。ハンネローレはわたしの救世主だ。

「あの、ローゼマイン様はいかがでした? その、ダンケルフェルガーの本は言い回しも古いでしょう?」

 エーレンフェストの本を見れば、確かに、ダンケルフェルガーの本が理解できないのではないかと心配になるのも不思議ではない。わたしは笑顔で首を振る。

「わたくし、古い言い回しは聖典で慣れていますし、ダンケルフェルガーの歴史の長さや厚みに圧倒されました。とても楽しかったです」
「楽しんでいただけたのですね」

 安堵したようにハンネローレが微笑む。その笑顔に甘えて、わたしはハンネローレに大事なお願いする。

「それで、その、わたくし、ハンネローレ様にお願いがあるのです」
「何でしょう?」
「わたくし、ダンケルフェルガーの歴史書を現代語訳したのですけれど、間違っていないか、確認して欲しいのです」
「……え?」

 目を瞬くハンネローレやクラリッサにハルトムートが現代語訳した原稿の束を差し出す。クラリッサが手に取って、パラパラと中を改めながら目を剥いた。

「量がございますから、この場で間違いがあるかどうかを確認するのは難しいと存じます」
「もちろんお貸しいたします。この場で確認していただきたいわけではございません」

 わたしの言葉にハンネローレが「それでしたら、確認させていただきます」と快く引き受けてくれた。

「それから、せっかく書いたので、エーレンフェストで本にしたいのですけれど、お許しいただけませんか?」
「ダンケルフェルガーの歴史をエーレンフェストで本にするのですか?」

 ハンネローレが不可解と言いたげな表情になって、自分の側仕えに視線を向ける。他の領地の歴史が綴られた本を読むのはとても楽しいのだが、あまりそういう楽しみ方はしないのだろうか。それとも、禁帯出なのだろうか。

「……さすがにわたくしの一存では決められません。その、原稿を一度持ち帰り、アウブに相談させていただいてよろしいですか?」
「はい、よろしくお願いいたします」

 ……アウブ・ダンケルフェルガーが快く許可してくれますように。

「では、わたくしからはこちらの資料をお貸しいたしましょう。司書の気分に浸れるかもしれません」

 ソランジュが数代前の司書が書いていた仕事の報告書を貸してくれた。突然、上級貴族の司書がいなくなったソランジュが参考にしながら仕事をしていた大事な報告書らしい。

「以前にはこの図書館で動いていた魔術具に関する記述もございます。ローゼマイン様が魔術具を考える際の参考になるのではございませんか?」

 図書館の本棚に並んでいる貸し出すための資料ではない。現役の司書が書いた仕事の報告書だ。図書館の魔術具について、これ以上詳しい資料はないかもしれない。

「わたくし、ソランジュ先生が大好きです」
「あら、まぁ……」

 ホホホと笑うソランジュからハルトムートが受け取った資料をダンケルフェルガーから借りた本に重ねて置いた。
 読んだことがない本が積まれているのを視線で追いかける。すぐにでも読みたい。けれど、お茶会の途中で本を手にしたら他が全く目に入らなくなる。それを側近達も知っているのだろう。わたしの視界に本が映らないようにコルネリウス兄様がそっと立ち位置を変えた。

「アルトゥール、私もローゼマインに何かお返しをしたいです。良い本がありませんか?」

 ヒルデブラントが自分の側仕えを振り返ってそう言った。王族ならば献上されて当然で、お返しなど特に考えなくても不思議ではない。けれど、ヒルデブラントは律儀に本でお返しをしようと考えている。

 ……おおぉぉ! ヒルデブラント王子はとっても良い王子だ。中央の本が読めるなんて!

 未知の領域にある本が読めるかもしれないことにわたしが感動していると、アルトゥールは少し考えるように目を伏せた。

「次回までに本を見繕っておくことも可能ですが……」

 そう言った後、アルトゥールがちらりとわたしへ視線を向ける。

「王宮図書館に招待する許可を得る方が、ローゼマイン様は喜ばれるのではございませんか?」

 嬉しさのあまり、わたしはその場で昏倒した。
二十不思議に本の貸し借り。
そして、いつも通り昏倒して終了です。

次は、帰還です。
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