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本好きの下剋上 ~司書になるためには手段を選んでいられません~ 作者:香月 美夜

第四部 貴族院の自称図書委員

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ターニスベファレン 前編

 上手くローデリヒを乗せたフィリーネを「よくできました!」とわたしは内心褒めていた。これでフィリーネが降りたら出発だ。わたしは後部座席から視線を外してシートベルトを締める。
 その時、ローデリヒが不安そうな、すがるような声を出して、レッサーバスから降りようとしているフィリーネを引き止めた。

「フィリーネ……」
「あの、ローデリヒ。離してくれなければ、わたくし、降りられません」

 バックミラーを覗けば、ローデリヒがフィリーネの手をつかんでいるのが見えた。フィリーネは自分の手をつかんでいるローデリヒと、お留守番と命じたわたしを見比べ、とても困った顔になる。
 わたしは軽く息を吐いた。自分を引っ張って騎獣に乗らせてくれたフィリーネがいた方が、きっとローデリヒは心強いのだろう。それならば、フィリーネも同乗していればいい。

「フィリーネ、乗っていてもいいので、ローデリヒにシートベルトの付け方を教えてあげてくださいませ」
「え? わたくしが同行してもよろしいのでしょうか?」

 目を丸くするフィリーネにわたしは軽く頷いた。不安そうなローデリヒを後部座席に一人座らせておくのも心配なのだ。誰か一緒にいた方が良い。 

「ローデリヒはまだわたくしの側近ではありませんから。騎士ではないけれど監視役です。ただし、決してこの騎獣から出ないように」
「かしこまりました」

 フィリーネが嬉しそうに笑うのをバックミラーで見ながら、わたしはハンドルに魔力を流し始めた。片手に水鉄砲を握っているため、ちょっと危険に思える片手運転である。

「あ、あの、ローゼマイン様、私は……」
「ローデリヒ、行きますよ!」

 今にも降ります、と言いだしそうなローデリヒの言葉を遮り、一番に飛び出したコルネリウス兄様の後について、わたしは空中へと駆け出した。



 黄色の光を放っている採集場所へ向かってスピードを上げていく。寮からそれほど距離はないので、雪が積もる森の中、円柱状に光っている採集場所がすぐに見え始めた。その採集場所に向かってターニスベファレンが通った後が黒い筋になっているのが空中からでもわかる。
 けれど、先に戦っているはずの騎士達の姿は見当たらない。多分、マジックミラーのようになっている採集場所にいるのだろう。

「突入します!」

 コルネリウス兄様がそう声を上げて、採集場所へと突っ込んでいった。ぶわりと翻った黄土色のマントを追いかけて、わたしも採集場所へとレッサーバスで飛び込んでいく。
 結界を突き抜けるほんの一瞬で、景色が雪景色から全く雪がない状態に変わった。けれど、わたしの記憶と違い、薬草や木々が青々と茂っていた採集場所はターニスベファレンに荒らされて四分の一ほどが朽ちている。植物の緑や木々の茶色ではなく、ただ剥き出しになった土でもなく、黒い汚泥の池ができているようだった。

「……ひどい」
「誰もいない!? どこにいる!?」

 焦っていることがわかるコルネリウス兄様の声にハッとする。この場を荒らしたターニスベファレンの姿がない。騎士見習い達も見当たらない。

「採集場所を守るために、どこかにターニスベファレンを誘導したのでしょう。ここを出て探しましょう」

 レオノーレの言葉に頷いたコルネリウス兄様が採集場所を飛び出していく。わたしもこの地の惨状を苦々しく思いながらコルネリウス兄様に続いた。

 ……後でフリュートレーネの癒しが必要だよ、これ。このままじゃエーレンフェストの学生達が満足に採集できないじゃない。

 そんなことを考えながら採集場所から出た瞬間、森の中から地鳴りが響いてきた。

「ひゃうっ!?」
「きゃあ!」
「わっ!」

 レッサーバスの中でも驚きの声が上がり、思わずびくりと身を竦ませるような轟音だ。空気がビリビリと震えているのを肌で感じる程だった。

「どこから!?」

 騎獣で上空高くへと上がれば、深い森の中にターニスベファレンが移動した痕跡が続いていて、奥の方で木々が数本倒れていくのが見える。そんな木々の間から騎獣が飛び出し、また降りていった。明るい黄土色のマントだ。

「いた!」

 騎獣を駆って森の奥へと急行すれば、大きくなっているターニスベファレンが見えた。ローデリヒの説明通り、巨大な犬やオオカミのような形をしている。だが、四足で大人よりも大きいくらいと言っていたが、その二、三倍はあるように見えた。

「こんなに大きくありませんでした!」

 ローデリヒの悲鳴のような声にわたしは頷きながら、眼下のターニスベファレンを見据える。

「攻撃された魔力を得て成長したのでしょう。……ずいぶんと魔力を叩きこんだみたいですね」

 こんなに成長させる前に気付け、と怒鳴りたかった言葉を呑み込んだ。トロンベ退治に同行できない見習い達は魔力を奪うタイプの魔獣に遭遇したことがないのだから、仕方がない。

 でも、さすがにもう攻撃をするのが危険であることはわかっているようだ。あまり森に被害を及ぼさないように、ターニスベファレンを牽制し、周囲を飛び回っている騎獣がいくつか見えた。雪の中に映える黄土色のマントはエーレンフェストの騎士見習い達で間違いない。
 けれど、その数はヴィルフリートが連れていった騎士見習い達の数にも満たなかった。

「……これだけ? 他の騎士見習い達は?」

 ターニスベファレンの剥き出しの黄ばんだ大きな歯がガチガチと鳴って、眼前を飛び回る騎士見習いを食らおうとしていた。

「危ない!」

 ターニスベファレンの動きを読んでいるように、騎士見習いが黄土色のマントを翻して素早く方向を変える。ホッと安堵の息を吐いたのも束の間の事だった。
 体が巨大化しているターニスベファレンは口も大きく、口の端から滴る唾液も大きくなっていた。ボタリと唾液が落ちれば、その場は黒い汚泥が揺れる朽ちた土へと変貌していく。ターニスベファレンの動きと共に土が痛み、拠り所を失ったように木々が倒れ、踏み潰されると同時に形を失っていくのが目に見えてわかった。
 根を張っている分、行動範囲が定められている魔木ではなく、四足で走り回り、動きが俊敏でどこにでも移動できる魔獣である分、巨大なトロンベよりもターニスベファレンは(たち)が悪い。
 この場にいない騎士見習い達がどうなったのかわからなくて、わたしは慌てて周囲を見回す。

「ローゼマイン様!」

 フィリーネの鋭い声にわたしがハッとすると、ターニスベファレンの赤くて巨大な目がこちらを向いていた。ローデリヒは額に並ぶ黒い瞳と言っていたが、今は黒ではなく、自分が食らった魔力を示すように、赤、青、緑など色とりどりの目へと変化している。その全ての目がわたしを見た。

 ぞくりと背筋が震える。冷たい汗が全身から噴き出すようだった。自分を餌だと認識している魔獣の目をわたしは知っている。それが今、自分に向けられていた。

 クンと鼻を動かしたターニスベファレンは魔力の大きさがわかるのか、周囲を飛び回る騎士見習い達が攻撃してこないことを理解しているのか、牽制しようとする騎士見習い達を完全に無視して、真っ直ぐにわたしに向かって駆けてきた。

「ローゼマイン様、上空へ! ターニスベファレンが飛び上がっても捕まらないくらいまで上空へ飛び上がってくださいませ!」

 レオノーレの鋭い声にわたしはすぐさま上に向かってハンドルを切り、上空へと駆け上がる。逃がすか、と言わんばかりに、四足だったターニスベファレンが後ろ足だけで立ち上がり、レッサーバスに食らいつこうと飛び上がった。
 レッサーバスの窓からターニスベファレンの太い前足が見え、獣特有の体臭と大きく口を開けた口臭が背後から迫ってくるのがわかって、血の気が引いていく。

「きゃああぁぁ!」
「うわああぁぁ!」

 後部座席に座る二人の悲鳴を聞きながら、わたしは目一杯にアクセルを踏み込み、全速力で上に上がりながら、後ろに向かってしっちゃかめっちゃかに水鉄砲を乱射した。けれど、全く当たらなかったようだ。ターニスベファレンが失速する様子は微塵もない。
 運転席の窓から黄ばんだ歯が見えた。こんな獣の歯を裏側から見たことなどない。生温かい吐息をここまで怖いと思ったことはない。

 ……食べられるっ!

 頭が真っ白になるような恐怖の中、わたしは魔力をハンドルに流し続けた。

 ガチン!

 すぐ背後で歯が合わさる音がした。噛みつくのに失敗した音だと気付いたのは、ターニスベファレンの前足が後ろに向かって動いたせいだ。
 直後、「ギャウン!」と大きな悲鳴がターニスベファレンの口から上がる。

「やりました!」

 ユーディットの元気な声が上がる。振り返ると、ユーディットの攻撃が顔に当たり、コルネリウス兄様が全力攻撃を横腹に叩き込んだのがわかった。

「ローゼマイン様!」

 ハルトムートが血相を変えて飛んできた。力を入れすぎたせいか、ハンドルを握ったままの形で指が固定されたように動かない。

「……大丈夫、無事です」

 わたしの口から掠れた声が漏れた時、ヴィルフリートとその護衛騎士達も駆け寄ってきた。ヴィルフリートがこちらへ駆けてくるなり、わたしに向かって怒鳴った。

「ローゼマイン、其方、無茶をするのではない!」
「祝詞を教えに来ただけです」
「先生方に連絡さえ取ってくれれば、時間稼ぎだけならば、我々だけでも問題なくできるのだ。魔獣に食われたり、このような戦いの場で其方に突然倒れられたりする方がよほど困るぞ!」

 ヴィルフリートの言い分はもっともで、わたしは「申し訳ございません」と素直に謝った。

「皆の武器に祝福を与えるために来たのです。それが終われば、わたくしは寮に戻ります」
「そうか」

 ターニスベファレンの上空にコルネリウス兄様達も集まってきた。ぐるりと見回しても、やはり人数が足りない。旧ヴェローニカ派の子もいないし、ヴィルフリートと共に出発した他の騎士見習い達の姿もない。

「ヴィルフリート兄様、他の騎士見習い達はどうしたのです?」
「休憩している。長丁場になると思ったから、交代でターニスベファレンの相手をすることになっていたのだ」

 そう言って、ヴィルフリート兄様は森に向かってロートを打ち出した。赤い光が伸びていくと、森のあちらこちらに分散して休息を取っていたらしい騎士見習い達が出てきて集まってくる。

「コルネリウス、レオノーレ、ユーディット、ハルトムート。あれだけ巨大になっていては危険です。ヴィルフリート兄様達がしていたように、攻撃力が揃うまではターニスベファレンからの攻撃を回避しながら時間を稼いでください。わたくしはここで皆に祝詞を教えます」
「かしこまりました」

 コルネリウス兄様達がザッと音を立てて、ターニスベファレンの気を引くために降りていくのを少しだけ見送り、周囲に集まってきた騎士見習い達を見回した。
 休息していた騎士見習い達は大体二つに分かれている。マティアスを中心にした旧ヴェローニカ派の輪と、トラウゴットを中心にした輪だ。

「ローデリヒから受けた説明とずいぶん状況が変わっているので、説明をお願いします」

 わたしがそう言うと、騎士見習い達の視線が一斉にトラウゴットへと向かった。トラウゴットを中心としている輪は決してトラウゴットに好意的な視線を向けてはいないことに気付く。

 去年の後半はユストクスを側仕えにつけられていたため、おとなしかったけれど、魔力圧縮を覚え、どんどんと魔力を増すと同時に、自信も取り戻していた。そんなトラウゴットが今は悄然として項垂れている。それだけで何となくわかった。ターニスベファレンを巨大化させたのはトラウゴットではないか、と。

「トラウゴット、説明せよ」

 ヴィルフリートが命じると一度言葉を詰まらせ、トラウゴットはやや俯きながら口を開いた。

「今は採集場所で暴れられたら、採集物が全滅してしまうので、森の中へ誘導している最中です。……私が全力で攻撃して、ターニスベファレンを巨大化させてしまいました」

 ヴィルフリートと共に駆けつけたトラウゴットは攻撃せずに周囲を飛び回りながらターニスベファレンを採集場所から森へと誘導している騎士見習い達を発見したらしい。攻撃した魔力が奪われることにいち早く気付いたマティアスが、決して攻撃はするな、と命じていたのだが、トラウゴットはそれを知らなかった。

 彼らを助けるつもりで、一撃でターニスベファレンを叩き潰そうと考えたのだ。救援が救援にならないことに気付いたマティアスが「ダメだ!」と叫んだが、それさえも聞こえず、トラウゴットは全力で攻撃した。

 直後、大人よりも大きい程度だったターニスベファレンの体がぐわっと膨れた。魔力に耐え切れず弾け飛ぶように見えた膨らみはそのまま定着し、二倍以上の大きさになってしまったらしい。

「一体何故、と思っているところにシャルロッテ様の護衛騎士見習いからオルドナンツが届いて、その性質と倒すためには闇の祝福を受けた武器が必要であることを知らされました」

 ついでに、祝詞を教えるためにわたしが飛び出したこと、先生に救援を求める連絡を入れたというオルドナンツがリヒャルダから届いたらしい。
 マティアスがターニスベファレンへと視線を向けながら、付け加えてくれる。

「それからはヴィルフリート様がターニスベファレンに攻撃しないように気を付けつつ、採集場所から離し、同時に、我々の回復のために時間を稼いでくれていました。そのおかげで回復薬を飲み、回復するための余裕ができました」

 怪我をした者は回復薬を飲み、休憩しているところだったらしい。まだぐったりとしている者もいるし、怪我をしている者もいる。

「先生方に連絡もしてくれているので、もう少し時間を稼げば大丈夫でしょう。よく頑張ってくれた皆にルングシュメールの癒しを与えます」

 シュタープを変形させているので、わたしはシュタープではなく、指輪の魔石に魔力を込めてルングシュメールの癒しを与える。指輪の魔石から飛び出した緑の光が騎士見習い達へと降り注いだ。

「恐れ入ります、ローゼマイン様」

 痛みが引いたようで、ぐったりとして背が曲がっているように見えた騎士見習い達が姿勢を正した。

「では、武器を出してください。一度祝福を解除すると、その日はもう祝福を得られませんから、ターニスベファレンを倒すまで解除しないように気を付けてくださいませ」
「……解除の仕方も知らないから問題ない」

 ヴィルフリートの言葉に小さく笑いながら、わたしは復唱するように言って祝詞を唱える。

「高く亭亭たる大空を司る、最高神たる闇の神よ 世界を作りし、万物の父よ」

 自分の武器をじっと見つめながら、騎士見習い達が復唱する。はるか下の方にコルネリウス兄様達がターニスベファレンを牽制しているのが見えた。

「我の祈りを聞き届け 聖なる力を与え給え 魔から力を奪い取る御身の祝福を 我が武器に」

 少しでも早く、と気が急くのを抑えながら、わたしは軽く目を閉じる。気を散らさずに、今は祈りを捧げなければならない。

「御身に捧ぐは全ての魔力 輪から外れし魔を払う 御身が御加護を賜らん この地にある命に一時の安らぎを与え給え」

 ゆっくりと目を開くと、皆の武器が闇の力を得て、黒く染まっていた。黒一色の武器を手に、皆が目を見張っているのがわかる。

「これで攻撃すれば、ターニスベファレンから魔力を奪うことができます。わたくし、魔石を取りたいので、なるべく四肢を切断する方向で攻撃してくださると嬉しいです」
「ローゼマイン、そのような余裕があると思っているのか?」

 ヴィルフリートがそう言って溜息を吐きながら、頭を振った。そして、わたしを指差した。

「今の状況を見てもわかるように、ターニスベファレンは素早く走り回るが、空を自由に駆け回ることはできぬ。ローゼマインは我々の目が届く位置、そして、決して攻撃の届かない上空で待機せよ」
「わかりました」

 一度武器が軽く光ったせいだろうか、コルネリウス兄様達が集まってきた。上質の魔力が上に集まっているのがわかるのだろうか。ターニスベファレンが狙いを定めて食らいつこうと飛び上がってくる。もちろん、前足も届かないような上空にいるけれど、獲物を定めて光る眼がこちらに向いていて、大きな口が飛びかかってくるのは心臓に悪い。

「魔物に関する書物を読み込み、ターニスベファレンの特性を詳しく知っているのはレオノーレだけです。今日はレオノーレの指示に従ってくださいね。特に、トラウゴット。いいですね?」
「……はい」

 わたしの言葉にトラウゴットが項垂れるのを見て、ヴィルフリートが何度か頭を振った。

「ローゼマイン、トラウゴットはターニスベファレンの特性を知らなかったのだ。あまり責めるな」
「……わかりました」

 わたしは口を噤んだ。この後の戦いは騎士見習い達に任せておけば良い。闇の祝福を付与し、武器を整えたことでわたしの役目の半分は終わった。
 最後に、土地の回復が必要だけど、一度寮に戻った方が良いかな、と呑気に考えていたら、レオノーレは戦いの場でもわたしに役割を振ってきた。

「では、次にローゼマイン様ですが……」
「わたくしも戦うのですか? 寮に戻ろうと思っていたのですが」
「戦地にいて、尚且つ、大量の魔力があり、安全な遠距離から攻撃できるローゼマイン様を戦いに投入しない理由がありますか? それに、先程のターニスベファレンの動きを見ても、ローゼマイン様が動かれると、ターニスベファレンが追いかける危険がございます」

 寮に戻す方が危険だ、とレオノーレは言った。そして、ここにいる以上、人材は余すところなく使うそうだ。合理的というか、敵を倒すための最善だけを見ているレオノーレに少し驚いたけれど、わたしは役割を振られたことがちょっと嬉しい。

 ……皆の役に立ってるってことだからね。

「ローゼマイン様はターニスベファレンの攻撃が届かない上空からミズデッポウで攻撃してくださいませ。ハルトムートとユーディットは決してローゼマイン様から離れないように」
「はい!」

 わたしはやる気満々で水鉄砲を握る。レオノーレはやる気に満ちたわたしを見て少し微笑むと、トラウゴットへと視線を向けた。

「トラウゴット、コルネリウスと攻撃を合わせて四肢の切断です。アンゲリカとコルネリウスがよくしていたでしょう? あれをお願いします」
「……いや、私は……」

 先程の失敗が尾を引いているのだろうか。トラウゴットがきつく目を閉じながら、首を振る。けれど、辞退しようとするトラウゴットを許さず、レオノーレは静かに言葉を重ねた。

「コルネリウスに合わせられるだけの魔力を持っているのはヴィルフリート様とトラウゴットしかいないのです。失敗したと思うならば、失点を補うために全力を尽くしてください」

 レオノーレの淡々とした言葉にトラウゴットが肩身狭そうに体を小さくした。皆の視線が集まるトラウゴットを庇うようにヴィルフリートが前に出た。

「見様見真似になるが、私が合わせよう」

 ヴィルフリートの言葉に、レオノーレは一度トラウゴットへと視線を向けた。けれど、トラウゴットは何も言わない。ただ、俯いていた。
 静かにその様子を見ていたコルネリウス兄様が一つ息を吐くと、ヴィルフリートに向かって微笑んだ。

「いいえ、ヴィルフリート様が全力で打ち込んでください。私が合わせます」

ちょっと短いのですが、前編です。

次は後編です。
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