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本好きの下剋上 ~司書になるためには手段を選んでいられません~ 作者:香月 美夜

第四部 貴族院の自称図書委員

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初日全員合格

 今日で座学は全て終わる、終わらせる。そして、余裕ができた午前中には来年の予習をしたり、水鉄砲の改造をしたりして、強くてカッコいいわたしになるのだ。

「お兄様、お姉様、二年生の健闘をお祈りいたします。……去年も全員が初日に合格したのですから、わたくしの心配の必要などなさそうですけれど」

 シャルロッテが頬に手を当て、そっと息を吐きだしながらそう言った。シャルロッテが率いる一年生は、昨日の午後に行われた歴史と地理で下級貴族三人が不合格になったようで、すでに全員の初日合格を逃している。昨日の夕食後、わたし達が二年生の実技の報告会をしている間、シャルロッテは一年生と対策会議を開いていたそうだ。

「事前に多少の教育と参考書をいただいても、下級貴族を合格させられませんでした。どのようにすれば、事前準備もなしに貴族院へ行って下級貴族全員を合格に導くことができるのか、本当にわからなくて……」

 シャルロッテがものすごく不思議そうな顔で首を傾げる。子供部屋で数年間子供達をまとめてきたので、一年生だけを率いるならばそれほど難しいことではないと思っていたらしい。けれど、実際にやってみると、十日ほどの詰め込みでは合格ラインには届かなかったそうだ。

「シャルロッテ、あれは常人が真似できることではないぞ。ローゼマインは合格基準に達しない者に教えながら、その者の苦手な部分を把握し、それを徹底的に潰すための復習問題を準備していたのだ。自分の睡眠時間を削ってな。その上で自分の勉強をしながらずっと下級貴族達に張り付いて勉強をさせ、重圧をかけ続ける……。あの時の下級貴族達は本当に可哀想であった」

 しみじみとした顔で去年の今頃を振り返るヴィルフリートの言葉にわたしは軽く肩を竦めた。その言い分ではまるでわたしがスパルタ教育を行う神官長のようではないか。

 ……まぁ、多少参考にさせてもらったけど。

「ヴィルフリート兄様はそのようにおっしゃいますけれど、図書館登録のためになるべく早く合格を、と言いだしたのはヴィルフリート兄様ではございませんか」

 ヴィルフリートが一年生全員が座学に合格するまで図書館登録を延期すると言わなければ、わたしはあんな詰め込み教育はしなかった。

「あぁ、そうだ。私が無知だったのだ。あれで私は、其方に本関連の条件を付ける時は決して他の者を巻き込んではならない、と学習した。シャルロッテ、其方もローゼマインを動かす時は十分に気を付けろ。ローゼマイン自身が行うことやできることを基準に、周囲に同等のものを求めるのだ。普段と違って限界までの努力を求めてくるからな」

 ヴィルフリートの忠告にシャルロッテが神妙な面持ちで頷いて「お姉様と同等のものを求められるのは辛すぎます」と妙に実感のこもった声で呟いた。

「今年の一年生は最速で合格できなかったが、領主候補生に何日も重圧をかけられながら、ご飯の味も感じられないような状態で勉強内容を詰め込まれるよりは、伸び伸びと勉強ができた方が良いではないか」

 ヴィルフリートの言葉に、一年生がものすごく気の毒そうな顔で二年生の下級貴族達を見る。その顔には明らかに「自分達じゃなくて良かった」と書いてある。

「お兄様の言う通りですね。今年はじっくり取り組んで一年生は高得点を目指そう、と昨夜お話したのです。上級生に比べると学ぶ内容は少ないですから、高得点を目指しても勝ち目はありますもの。初日の全員合格は来年の目標にしよう、と話し合って決めたのです。一年間準備ができれば、わたくし達にも勝機はありますもの。ね?」

 シャルロッテの言葉に一年生が大きく頷く。そこにはきちんと信頼感が見てとれた。洗礼式を終えてから三年間、子供部屋の統率をしてきたシャルロッテはしっかりと一年生をまとめているようだ。初日合格できなかった一年生を励まし、次の目標を立てて、導いている。

「学ぶ内容が少ないところは一年生が有利でしょうけれど、上級生は準備万端ですから、今年はおそらく成績優秀者も多いかもしれませんよ。油断大敵です」
「お姉様ったら、そのような重圧をかけないでくださいませ」

 シャルロッテに軽く睨まれながら、わたし達は中央棟を進み、二年生は講堂、一年生はそれぞれの教室へと向かう。

「今日、一年生は騎獣の作成を行うのでしょう? 皆、頑張ってくださいね」
「えぇ、わたくしもお姉様と同じような乗り込み型の騎獣にするつもりです。お姉様の騎獣を間近で見ていますから、少しは有利かもしれません」

 シャルロッテはそう言って笑いながら分かれていった。他の一年生もそれに続いていく。わたし達は講堂で最後の座学だ。

「では、わたくし達は全員で初日合格を勝ち取りましょう」
「一年間かけて学んだのだ。合格は間違いない。重要なのはいかに高得点を取るかだ」

 ヴィルフリートがニッと自信たっぷりに二年生を見回しながらそう言う。去年の座学に合格してからすぐに図書館で二年生の参考書を見比べながら新しい参考書を作り上げた。そして、全員でできあがった参考書を共有して、それぞれが書き写し、一年かけて勉強してきている。その自信が皆の顔にあった。

「今年は自信があります」

 去年の歴史と地理で苦戦したフィリーネとローデリヒが胸を張った。わたし達は大丈夫。そう言えるだけの自信がわたしにもあった。

 講堂の10番の席に並んで座り、魔術具のペンを取り出す。今日はエーレンフェストの二年生が昨年に引き続き、初日に全員合格ができるかどうかが決まる日だ。周囲の学生達にも注目されているのがわかる。

「やぁ、ヴィルフリート。今日の講義で合格すれば、本当に全員が初日合格できるのか。驚いたよ。ドレヴァンヒェルは下級貴族に不合格がもう数人出ているからね」

 3番の席へと向かう途中で足を止めたオルトヴィーンがそう言った。ヴィルフリートはずらりと並ぶドレヴァンヒェルの学生達を見て、軽く肩を竦める。

「8人が合格すれば全員が合格になるエーレンフェストと違って、ドレヴァンヒェルには30人くらいの二年生がいるではないか。全員合格の難易度が段違いではないか」
「それはそうだけれど、少人数でもエーレンフェストの成績が飛躍的に上がっているのは間違いないだろう? 実は今日の全員合格を私も楽しみにしている。まぁ、高得点を取るのはドレヴァンヒェルだが」

 オルトヴィーンがフッと笑いながら、自席へと向かって行く。
 ドレヴァンヒェルからの激励にヴィルフリートが嬉しそうに笑いながら、自分達で作成した参考書を見直し始めた。深緑の目が好敵手を前にして、燃え上がっている。

「負けられませんね」
「うむ。私は領地に関係なく、自分の成績でオルトヴィーンに勝ちたいのだ」

 ……いいなぁ。こういう友人関係。

 去年の貴族院で、ヴィルフリートが作ってきた関係を少しばかり羨ましく思いながら、わたしも最後の見直しをする。詩を学ぶ文学と経済や倫理の社会学が今日の科目だ。どちらも簡単な基礎なので、それほど難しくはない。
 すぐに鐘が鳴り響き、先生方が入ってくる。そして、明日の実の日は一年生が「神の意志」の取得を行う日なので、午前に一年生の座学が行われるらしい。教室の関係で二年生も午前と午後の講義が入れ替わるそうだ。
 そんな事務説明の後、文学の試験が行われた。

「ドレヴァンヒェル、エーレンフェスト、全員合格です」

 文学の試験は全員合格だった。ヴィルフリートがぐるりとエーレンフェストの皆を見回して一つ頷くと、すぐさま次の試験勉強に取り掛かる。
 社会学は政変の前後で先生が交代し、大きく講義内容が変わった科目の一つである。神官長の参考書と新しい講義内容が違って、参考書をまとめるのが大変だった。しかも、内容としては神官長時代の方が難しくて将来の役に立ちそうという教科である。

「それでは、社会学の試験を始めますよ」

 前に立った社会学の先生はフラウレルムである。全員に試験用紙が行き渡ったのを見回して、ニッコリと笑う。そして、問題文を読み上げ始めた。

「え? 何だ、それは……」
「そのような内容はなかったぞ」

 途端にざわりとした声が上がる。ドレヴァンヒェルや周囲の上級貴族、どちらかというときっちりと予習をしている領地から上がるのが多い。
 講堂に広がっていく動揺の声にフラウレルムがキッと強い眼差しを生徒達に向ける。

「お静かになさいませ! 試験問題を読み上げるのは三回ですよ! 質問は問題を読み上げてからにしてくださいませ。他の方の迷惑です!」

 フラウレルムのキンキンとした高い声が音を響かせる魔術具を通して講堂の中に響き渡った。思わず耳を押さえたくなる声で、まだざわめきが残っているのも構わずにフラウレルムは問題の二回目を読み始めた。聞き逃しては大変だ、と皆が一斉にペンを手に書き込み始める。講堂のざわめきは瞬時に消えた。

 一問目を三回言い終わったところで「フラウレルム先生!」とドレヴァンヒェルから声が上がり、皆が座って書きこんでいる中、オルトヴィーンがざっと立ち上がる。

「何でしょう、ドレヴァンヒェル?」
「試験の内容がおかしいです。このような内容は去年ありませんでした」

 オルトヴィーンの言う通りだ。フラウレルムが今述べた問題は神官長時代の講義内容の物である。政変後、正確にはフラウレルムが担当するようになってから、講義内容が変わっていたはずだ。担当する先生が変わる時に講義内容が変わることは珍しくないけれど、同じ先生が担当する間に内容が変わることはなかったはずだ。
 周囲の生徒達からも同様に指摘の声が上がり、しばらくの間、静かにそれを聞いていたフラウレルムが唇の端を上げた。

「去年の内容と違う? それはそうでしょう。今年、これから習うことですからね。授業内容が必ずしも前年と同じだとは限りません。今の問題に関しては昔の学生が学んでいたことです。昔の講義内容から学んだ方が良いと判断したものを取り入れただけですよ」

 言葉だけを聞くならば、教育熱心な先生の言葉だった。昔の講義内容を調べ、生徒達が学んだ方が良いと判断したものを自分の講義に取り入れたのだから。

 ……赴任した初めの数年ですれば感心したし、あの笑顔がなかったら「先生も頑張ってるんだな」と思えたんだけどね。

 講義内容の変更について述べ、フフッ、と笑うフラウレルムの視線はオルトヴィーンではなく、エーレンフェストの方へと向いている。講義初日の全員合格を阻むための試験だというのが嫌でも察せられる笑みだ。

「質問が以上でしたら座ってくださいな、ドレヴァンヒェル」
「……わかりました」

 オルトヴィーンにもフラウレルムの視線の意味がわかったのか、座りながらわずかに振り返って心配そうな視線をこちらに向けてきた。周囲からも同情めいた視線が向けられているのがわかる。けれど、最初に声を上げた大領地のドレヴァンヒェルが反論なく座ったことで、周囲もそれ以上の声はあげられなくなった。

「私達はできるだけのことをすれば良い」

 ヴィルフリートの呟きにわたしはコクリと頷いた。ローデリヒとフィリーネもフラウレルムを見ながら、ゆっくりと頷く。

「では、続けますよ」

 静まった講堂にフラウレルムの問題を読み上げる声が響き、その合間にはペンを走らせる音が聞こえ始めた。試験再開だ。



「……全員終了か?」

 エーレンフェストが試験を終えた時には、ほとんどの領地が提出を終えていた。全く習っておらず、ここ十年ほどの授業で全く行っていない内容が半分ほども出された試験を解けるはずがない。大半の領地が早々に諦めて半分ほど白紙の試験用紙を提出したからだ。
 試験を終了しているけれど、ほとんどの領地が自席に残っているのはエーレンフェストの成績がどうなるのか興味があるからに違いない。

「ローデリヒ、これで提出してきてくれ」

 ヴィルフリートの言葉に頷き、試験用紙をまとめて持ったローデリヒがフラウレルムのところへ向かう。エーレンフェストの提出を待ち構えていたらしいフラウレルムがニヤニヤとした笑みを浮かべて試験用紙を手に取った。

「早速エーレンフェストの採点をいたしましょう」

 そう言って採点を始めた途端に、フラウレルムの目が大きく見開かれ、採点していく手がわなわなと震え始める。

「ほぅ、素晴らしい回答ではありませんか」
「これで満足したでしょう、フラウレルム先生? エーレンフェストは不正行為などしていない。何しろ、全く教えていない内容でさえ全員合格するのですから」

 一緒に採点をしている先生方が軽く眉を上げて、面白がるように試験用紙とフラウレルムを見比べた。

「くっ……。エーレンフェストは全員合格ですわ」

 悔しそうな響きさえ感じられるフラウレルムの声が響き、講堂に驚きが走る。試験中の者も驚きに顔を上げ、エーレンフェストへ視線を向けてきた。

「全員合格!?」
「何故!?」

 周囲の驚きにヴィルフリートが得意そうな笑みを浮かべて、周囲を見回す。フィリーネとローデリヒも小さく笑っているのがわかる。間違いなくわたしも「してやったり」という会心の笑みを見せているはずだ。

 先に試験を終えていたドレヴァンヒェルがザッと音を立てて立ち上がり、エメラルドグリーンのマントを翻してこちらへ向かってきた。

「ヴィルフリート、全員合格おめでとう。だが、何故合格できたのか聞かせてくれないか? 試験問題は講義内容と違ったはずだ」

 オルトヴィーンの質問にヴィルフリートは軽く肩を竦めた。

「簡単なことだ。フラウレルム先生が言ったではないか。昔の講義内容だと。我々はそこも勉強の範囲に入れていただけだ」

 昔と学ぶ内容が違うと、後々仕事を始めてから上司や先輩との知識に差が出てしまう。昔の方が高度なことをしているのだから、必要なことは全て学んでおいた方が良い。神官長も「教育レベルが下がっているのが騎士見習いだけだと思わないように」と言っていた。
 エーレンフェストでは昔の教育を基準に騎士見習い達や新人騎士が特訓を受けて叩き直されていて、新人文官達への教育が見直されているのに、貴族院の学生をそのままにしておくはずがない。

「エーレンフェストの勉強方法を見直す際に、昔の講義内容と今の講義内容を比較しながら新しい参考書を作ったことが、今回の試験でたまたま役に立っただけなのですよ、オルトヴィーン様」

 二年生だけではない。わたし達が新成人となった時に教育不足などと言わせないために、全コースの参考書は昔と今を比較し、両方とも網羅できるように新しく作り直されている。どの学年、どのコースで今回と同じことが起こっても全く問題ないのだ。

「……驚いた。ドレヴァンヒェルでも参考にさせてもらうよ」

 オルトヴィーンが薄い茶色の瞳を瞬いた後、ニッと笑う。来年のドレヴァンヒェルはかなり手強い相手になりそうだ。30人でも全員合格しそうである。
 ヴィルフリートは「お互い頑張ろう」と好敵手を見つけて笑っている。多分、ヴィルフリートは全力を出してお互いに戦いたいタイプなのかもしれないが、わたしはどちらかというとできるだけ楽をして勝ちたいタイプだ。

 ……もうちょっと聖典絵本は秘匿しておこうっと。

「あぁ、そうだ。ローゼマイン様」

 オルトヴィーンに突然声をかけられて、わたしは目を瞬いた。オルトヴィーンがヴィルフリートではなく、わたしに声をかけてくるなんて滅多にない。なるべく優雅に見えるようにおっとりと首を傾げるわたしに、オルトヴィーンが「アドルフィーネ姉上からの伝言です」と言った。
 瞬時に脳内には親睦会でワインレッドの髪に指を滑らせて艶を見せつけてきたアドルフィーネの姿が思い浮かんで、思わず身構えてしまう。

「今日で座学を終えたのならば、奉納式でエーレンフェストに帰還されるまでに午前中は時間があるでしょうから、ローゼマイン様とぜひお茶会を、と。去年、クラッセンブルクのエグランティーヌ様とは社交シーズンに入る前にもお茶会を楽しんだと聞いて、姉上が残念がっていましたから」

 ……お、おおお、お茶会に招かれちゃったよ! うわぁ、行きたくない。何を聞かれるのかわからなくて怖いもん。

 リンシャンをすぐさま真似てきたドレヴァンヒェルからのお招きである。内心で「ひいぃぃっ!」と恐れ戦いているのを顔に出さないように、わたしは殊更ニコリとした笑みを深める。ドレヴァンヒェルのお誘いを断るなんてできるはずがない。わたしには笑いながら誘いを受けるしか選択肢がないのだ。

「まぁ、アドルフィーネ様のお招きですか? とても嬉しく存じます。わたくしからも楽しみにしています、とお伝えくださいませ」

 ……あぁ、図書館時間が減っちゃう。



「姫様、全員が合格した割にはお顔の色がよろしくございませんよ」

 昼食のために寮へ戻る。寮へと入った途端、心配そうにリヒャルダが顔を覗き込んできた。わたしは軽く頭を振る。

「ドレヴァンヒェルからお茶会の打診がありました。そのうち招待状が届くと思いますから、側仕え達は対応をお願いしますね」

 わたしの言葉にブリュンヒルデが飴色の目にやる気満々の強い光を宿して、グッと拳を握った。

「ローゼマイン様の早すぎる社交についていくことができるように、一年間わたくしは勉強してきたのですもの。きっちり対応させていただきますわ」
「奉納式で戻られる前なのに、ずいぶんと多くのお約束がございますね。音楽の先生方のお茶会、図書館のお茶会、ダンケルフェルガーのハンネローレ様、ドレヴァンヒェルのアドルフィーネ様とのお茶会ですか? 豪華すぎる顔ぶれで、ローゼマイン様の交流関係には本当に驚かされます」

 リーゼレータが約束している面々を数え上げて、小さく笑った。今までのエーレンフェストとは交流範囲が違いすぎるので、準備にとても気を遣うそうだ。

「まぁ、リーゼレータ。こういう場合は腕が鳴ると言うのですよ。社交の始まる時期が早すぎますけれど、わたくしは楽しみですわ。とてもやりがいがありますもの」

 ブリュンヒルデは張り切っているが、本来はわたしが奉納式で戻った後から社交が始まることを考えると、他の人にとっては早すぎる時期に社交がたくさん入りすぎているのは間違いない。

「側近に負担だからという理由でドレヴァンヒェルのお茶会をお断りすることはできませんよね?」
「全てお断りするならばまだしも、ドレヴァンヒェルだけというのは無理ですね」

 わかっているけれど、と軽く息を吐いていると、一年生も昼食のために戻ってきた。
 帰ってくるまではニコニコと微笑んでいたシャルロッテが、わたしと目が合った途端に駆け寄ってくる。その顔色は青ざめていて、途方に暮れているようだった。

「何があったのです、シャルロッテ?」
「あの、お姉様。わたくし、本日の実技の時にドレヴァンヒェルからお茶会のお誘いを受けたのです。初めてのお茶会は緊張するでしょうから、お姉様と一緒にどうぞ、と」

 ……うわぁお、完全に包囲網を敷かれた気分。

 リンシャンの製法は簡単に研究されて真似られた。髪飾りも糸を編んで作っているので、真似されるのは時間の問題だ。母さんは一番小さな花を転がすだけで編み方を悟ったのだ。手練れの職人ならば、一つ髪飾りを手に入れれば、複雑な編み方の髪飾りも一年ほどで再現してくるようになるだろう。
 植物紙はそう簡単には製法がわからないと思うけれど、繊維を調べることができるならば、植物から作られていることはすぐにわかると思う。何を聞かれても、何を答えても研究されてしまいそうだ。

 じりじりと後ずさりしたい気持ちが広がっていく。もういっそ病気になって寝込んでしまいたい。後ろ向きな気持ちでいっぱいになる。
 そんな時にシャルロッテの呟きが聞こえた。

「ドレヴァンヒェルとのお茶会だなんて、どうしましょう……」

 ……ハッ! シャルロッテも招かれているのに、わたしが寝込んだらシャルロッテが一人で行くしかなくなるんじゃ? それはダメ!

 わたしでも憂鬱な気分になるようなお茶会にシャルロッテを一人で行かせるわけにはいかない。初めてのお茶会に不安がるシャルロッテをわたしが導いてあげなければならないのだ。

「大丈夫です、シャルロッテ。わたくしが付いています。心を強く持って、一緒にドレヴァンヒェルに立ち向かいましょうね」

 シャルロッテが藍色の目を瞬きながら、わたしをじっと見た。わたしはシャルロッテを元気づけるために笑って見せる。

 ……頼りにしてくれていいよ。だって、わたし、シャルロッテのお姉様だからね。

 わたしの気持ちが通じたのか、シャルロッテも不安そうな中に気丈な笑みを浮かべて頷いた。

「えぇ、わたくしもできるかぎりの努力をいたします」
凶悪なグリュンを模した騎獣で自分を襲った上に、集団カンニング疑惑のあるエーレンフェストの化けの皮を剥がそうとフラウレルム先生は一生懸命です。
そして、ドレヴァンヒェルからのお茶会の打診がありました。
わたくしが頑張らなければ、とローゼマインもシャルロッテも思っています。

次は、回復薬の調合です。
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