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本好きの下剋上 ~司書になるためには手段を選んでいられません~ 作者:香月 美夜

第四部 貴族院の自称図書委員

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シュタープの変形

 小広間に入ると、普段は真っ白な床に魔法陣が描かれた布が広げられているのが目に入った。徴税官や神官長が使う物を転移させる魔法陣のようだ。何に使うのだろう、とわたしが転移陣を見ていると、その前には手を腰に当てて仁王立ちしているルーフェンと目が合った。

「おぉ、ローゼマイン様。今日の実技は本当に楽しみです」

 白い歯が光りそうな爽やかさでルーフェンが笑っているけれど、一体何が楽しみなのかわからない。わたしは愛想笑いで流して、ハンネローレの姿を探し始める。本好きのお茶会について話をしなければならないのだ。
 うきうきしながら見回すと、ハンネローレがヴィルフリートと話をしているのが見えた。他の人と話をしているところに入るのは遠慮してしまうけれど、ヴィルフリートならば大丈夫だ。

「ごきげんよう、ヴィルフリート兄様、ハンネローレ様」
「遅かったな、ローゼマイン」
「これでも図書館から真っ直ぐに来たのですよ。わたくしにはこれが精一杯です」

 ヴィルフリートにそう答えていると、ハンネローレが「ローゼマイン様は図書館にいらっしゃったの?」とニコリと笑った。

「えぇ。エーレンフェストの一年生の登録とシュバルツとヴァイスに魔力供給をするためです」
「シュバルツとヴァイスは元気なのですね。わたくしも図書館に行きたくなりました」

 やはりハンネローレは図書館に興味があるようだ。わたしは嬉しくなって早速お茶会の話をすることにした。話題に出しておいて、後日、側仕え達を通して正式に招待状を送るのだ。

「ソランジュ先生とお話をしていたのですけれど、ハンネローレ様も図書委員として活動されるでしょう? 本好きのお茶会にお誘いしたいのですけれど、ご迷惑ではございませんか?」
「本好きのお茶会ですか?」
「はい。司書がソランジュ先生お一人なので、先生は図書館から出られません。ですから、利用する学生達が少ない時期に図書館の執務室でお茶会をするのです。ハンネローレ様のご都合はいかがでしょう?」

 ハンネローレは「そうですね……」と呟きながら、少し首を傾げて考える。

「座学は比較的早く終わりますから、十日ほどたった後の午前中ならば時間が取れると思います」
「では、わたくしがお茶会の準備をして、ソランジュ先生とハンネローレ様のお二人を招待いたしますね。場所は図書館ですけれど」
「楽しみにしていますわ」

 ハンネローレが嬉しそうに笑った時に4と半の鐘が鳴り始める。お喋りを止めて、先生方が並ぶ方へと視線を向けた。ルーフェンの近くにはプリムヴェールの姿も見えるけれど、楽しそうに目を輝かせているルーフェンだけが妙に目立っている。
 鐘が鳴り終わると同時にルーフェンが学生達を見回して、大きな声を上げた。

「よし、皆揃っているな? 今日はシュタープの変形を行う。今年の課題は武器と盾を作ることだ」

 ……うわぁ、ルーフェン先生がとっても生き生きしてるよ。

「貴族は自分の身を守るため、領地を守るため、戦う力を持っていなければならない。これは騎士に限ったことではない!」

 ルーフェンはダンケルフェルガーがユルゲンシュミットで担ってきた役割を語りだし、戦力がいかに大事なのかを力説し始めた。

「領主一族は自分の領地を守るため、戦える力を持っていなければならない。礎の魔術を守れるのは、最終的には領主だけだ。そして、領主一族の側近くで仕えることになる上級騎士は戦闘に特化した能力を当然持っているべきだ。生活を整える側仕えも主を守れなければならない。文官とて同じだろう。いついかなる時に危険が襲ってくるのかわからない。せめて、領主を逃がす間の時間稼ぎくらいはできなくては側近とは言えない。違うか!? 強さだ! それが何よりも大事なのだ!」

 拳を握った熱いルーフェンの主張に、男の子達は目を輝かせているが、女の子はそれほどでもないようだった。温度差が激しい。パッと見たところ、何人かは熱心に聞いている女の子がいる。彼女達はきっと騎士見習いに違いない。

 ……ルーフェン先生が熱すぎて思わず引いちゃうけど、言ってることは間違ってないんだよね。戦闘力や防御力って必須だもん。非常事態って本当に突然起こるから。

 神殿で他領の貴族が暴れたり、城の中に襲撃者がやってきたり、わたしだってこれまでに何度か危険な事態に遭遇している。魔力を使って我が身と周囲を守るのは魔力が多い貴族の役目だと思う。
 けれど、文官見習いや側仕え見習いはどうにもピンとこないような顔をしていた。もしかしたら、政変が終了して貴族が激減しているため、身の危険を感じる機会は減っているのかもしれない。

 そんな中、プリムヴェールがおっとりとした微笑を浮かべながらルーフェンの前へと進み出た。ゆっくりと女の子達を見回し、柔らかな声で語りかける。

「戦うことは騎士や殿方に任せておけば良いと考える方もいらっしゃるかもしれませんね。けれど、それは間違いです。女性こそ我が身を守るための力が必須なのですよ。不埒な殿方を近付けてはなりませんからね」

 ハッとしたように女の子達の顔が上がり、その目が真剣になった。それを見たプリムヴェールは一度頷くと、ルーフェンより少し後ろに下がり、発言の場をルーフェンに譲る。

「皆、やる気になったようで何よりだ。では、まず盾から練習しよう!」

 武器はそれぞれ向き不向きがあるし、騎士見習いと文官や側仕え見習いでは必要になる武器も違う。皆が同一のものを作れるように盾を作るところから始めてほしい、と説明をし、ルーフェンとプリムヴェールが魔法陣から盾をいくつか取り出していく。金属でできている長方形の盾で、簡易な風の魔法陣が彫り込まれている物だ。

「これは盾の形を統一させるために金属で作らせたものだ。この盾を思い浮かべながら、ゲッティルトと唱えてシュタープを変形させる。こうだ。ゲッティルト!」

 ルーフェンがシュタープを変形させて盾を作り出した。そういえば、去年の宝盗りディッターで見たダンケルフェルガーの騎士見習いもエーレンフェストの騎士見習いも皆同じ盾を持っていた気がする。こうして講義で習うからか、と納得しながら、わたしはルーフェンの握る盾を見る。

「盾を並べて大きな攻撃を防ぐ時には大きさや幅が揃っている方が守りやすいのだ。ゲッティルトは魔力で作られる盾なので重くない。女性の文官や側仕えでも問題なく作れるはずだ」

 騎士が使うことを考慮して決められている形のようだが重くないらしい。非力なわたしにはとても嬉しいことだ。早速作ってみようと思ったところで、ルーフェンが盾を高く掲げて彫り込まれているように見える簡易な魔法陣を示した。

「ここに魔法陣が刻まれているのが見えるか? こうして風の女神 シュツェーリアの守りを盾に重ねることで防御力が増す。この魔法陣をきっちりと思い浮かべることでシュツェーリアの盾になるのだ」

 ……ん? それって、この簡素な魔法陣よりも神殿にあるシュツェーリアの神具である盾を思い浮かべた方が、威力はアップするってことじゃない?

 神具の盾はもっと複雑な魔法陣が描かれていて、魔石もたくさん付いている。ヴィルマがカルタや絵本で絵に描いてくれたので、わたしは風の盾を作る時にはいつも神具をイメージしている。

 ……でも、シュツェーリアの盾を長方形にするって難しいな。

 わたしにとっては風の女神 シュツェーリアの盾は円形だ。むしろ、自分や守りたい周囲を丸く包む半球状態で使うことが一番多い。長方形にしろ、と言われても固定されているイメージを咄嗟に塗り替えるのは難しい。下手に塗り替えたら、今度から風の盾を作るのにも影響しそうだ。

 ハンネローレやヴィルフリートがシュタープを出して、ゲッティルトの練習を始める中、わたしは一人困っていた。

「ローゼマイン様、ずいぶんと難しい顔をしていらっしゃいますね」
「それほど難しい課題ではないだろう?」

 ハンネローレとヴィルフリートがシュタープさえ出さずに考え込んでいるわたしを覗き込んでくる。

「難しいです。わたくしにとってシュツェーリアの盾は円形なのです。急に四角で思い浮かべろと言われても、すぐには切り替えられませんもの」
「シュツェーリアの盾は円形なのですか? ローゼマイン様はご覧になったことがございますの?」

 普段神殿に出入りしない貴族達には神具の形さえわからないらしい。ハンネローレがきょとんとした顔で首を傾げた。

「祭壇に飾られている神具の盾は円形なのです。わたくしにはその方が馴染み深く感じられます」
「ルーフェン先生に円形の盾ではダメなのか、聞いてみれば良いではないか」
「そうですね。このままでは本日中に合格できませんもの。伺ってきます」

 わたしは皆が練習している様子を見ているルーフェンのところへと向かい、「円形ではいけませんか?」と聞いてみた。

「神殿育ちのわたくしには神具の盾の方が馴染み深いのです」
「ですが、ローゼマイン様。騎士見習いは長方形でなければ、他の者と訓練ができません」

 困ったようにルーフェンに言われ、わたしは首を傾げた。確かに騎士見習いは他の人達と合わせて訓練しなければならないので、形を合わせる必要もあるかもしれない。けれど、わたしは領主候補生で、誰かと一緒に戦う予定はこれっぽっちもない。

「ルーフェン先生、わたくしは領主候補生ですから誰かと一緒に戦う予定はございません。円形の盾でも全く問題ないと思うのですけれど」

 わたしの言葉が理解できないというようにルーフェンが腕を組んで首を傾げた。

「フェルディナンド様の愛弟子が騎士コースを取らない? 何故ですか?」
「何故と言われましても……興味がないからです」

 ルーフェンは今度こそ顎が外れそうな程に口を開けて、ぶるぶると頭を振った。「いや、まさか、そんな……」という呟きが漏れたかと思うと、くわっと目を見開いて顔を近付けてくる。

「ローゼマイン様、ディッターはどうなるのです!? 騎士コースを受講しなければディッターに参加できませんよ!?」
「何故ルーフェン先生がそのように驚かれるのかわかりません。わたくしは別にディッターが好きなわけではないのですけれど」
「なんと!?」

 ……わたし、どれだけディッター好きだと思われていたんだろう?

 ルーフェンがディッターの素晴らしさについて語り始め、盾の形に関する話が流れていくのを感じたわたしは助けを求めて周囲を見回す。

 ……だ、誰か助けて!

 わたしの視線を受け、水が流れるような優雅な足取りで進み出てきてくれたのはプリムヴェールだった。頬に手を当てて微笑みながら「困ったこと」と呟く。

「ディッターのお話は講義中に行うことではございませんよ、ルーフェン」
「だが、プリムヴェール。ローゼマイン様が……」

 プリムヴェールは軽く手を挙げてルーフェンの言葉を遮ると、わたしを見下ろしながら優しく微笑んだ。

「ローゼマイン様の盾を見せてくださいませ」
「はい、プリムヴェール先生」

 わたしはシュタープを出して手に握り、魔力を込めていく。そして、軽く目を閉じて脳裏にはっきりとシュツェーリアの盾を思い浮かべた。今日は守るべき対象もいない。大きめの鍋の蓋くらいの大きさで良いだろう。

「ゲッティルト!」

 何度もお祈りで作りだしたことがあるシュツェーリアの盾が自分の手にあった。貴色である黄色で半透明。そして、その表面には複雑な文様に見える魔法陣が描かれている。思い描いた通りの盾だ。

「……神具だ」

 驚いたようにルーフェンがわたしの盾をまじまじと見つめる。周囲の生徒からもざわりとした声が上がった。皆が四角の盾を練習している中で、一人だけ円い盾を作っているのだから、目立つのは仕方がない。

 ……大事なのは合格だもん。

 わたしは盾を持ったまま、合否を問う視線をプリムヴェールへと向ける。プリムヴェールは微笑んで頷きながら「では、試験をしてみましょう」と言った。

「よし、盾を構えるんだ!」

 やる気に満ちた顔でルーフェンが自分の革袋から親指の第一関節くらいまでの大きさの魔石を取り出した。一度親指と人差し指で挟んでその大きさを見せると、腕を振りかぶり、力一杯わたしの盾に向かって投げつける。

「きゃっ!」

 盾で防ぐのだ、とわかっていても力一杯投げられた石が自分に向かって飛んでくるのは怖い。わたしは思わず盾に魔力を注いだ。

「うわっ!?」

 盾に当たった瞬間、パン! と派手な音を立てて魔石が飛び散り、盾からは風が吹いてルーフェンを吹き飛ばす。同時に、わたしが身に着けていたお守りが一つ発動した。魔石を投げつけられたことで攻撃されたことになったらしい。盾を握っている手首を飾るブレスレットの一つが光る。

「ルーフェン先生、防御してください! 反撃が行きます!」
「ゲッティルト!」

 戦い慣れているせいだろう。手首のお守りが光り始めた瞬間、ルーフェンは顔色を変えて飛び起き、わたしの忠告とほぼ同時に盾を出していた。
 手首のお守りから攻撃の魔力が飛び出し、ルーフェンに向かって矢のように真っ直ぐに飛んでいく。しっかりと準備されていた盾でルーフェンがお守りの反撃を防いだのを見て、ハァ、と安堵の息を吐いた。

「ローゼマイン様、今のは何ですか?」
「何かあった時に身を守れるように、とフェルディナンド様にいただいたお守りです。魔石を投げられただけだったので、大したことがない反撃でよかったです」
「今のが大したことない反撃ですか!?」

 ルーフェンが驚愕したように目を見開いているけれど、今発動したのは神官長が持たせてくれたえげつないお守りの中で一番弱い威力の反撃だ。盾もなく受けたところで、死ぬことはない。ものすごく痛いだろうけれど、大丈夫。ちなみに、一番えげつないのは死ねない反撃だ、と神官長が唇の端を上げながら言っていた。

「詳しくは秘密です。……それよりも、わたくしの合否はいかがでしょう?」
「ローゼマイン様は神具そのものを写し取ることができているのですもの。盾は合格です」
「ありがとうございます、プリムヴェール先生」

 わたしは合格をくれたプリムヴェールに向かってニコリと微笑み、「リューケン」と唱えて変形を解除した。そして、ヴィルフリート達のところへ戻るために、くるりと体の方向を変える。
 その途端、ざっと皆が避けるようにして道を開けてくれた。その表情に怯えが少しばかり浮かんで見えるのは、間違いなく神官長のお守りのせいだ。
 せっかく道を開けてくれたので、わたしは真っ直ぐにヴィルフリートのところへと戻る。

「盾は合格しました、ヴィルフリート兄様。騎士見習いは盾の形を揃えなければならないそうですが、わたくしは領主候補生なので円形でも問題ないそうです」
「ローゼマイン、其方、この状況で言うべきことはそれだけか?」

 ヴィルフリートが頭を抱えてそう言われ、わたしは他に言うことを探す。

「他に何か……あ、そうそう。神具の盾の方が複雑な魔法陣を使っている分、防御力も上がるようです。ヴィルフリート兄様も騎士コースを取るわけではないのですから、神具の盾を作っても良いかもしれません」
「そうではなく、ずいぶんと物騒なお守りを持っているのだな? せめて実技の時は外しておいたらどうだ? 周囲が危険ではないか」

 ヴィルフリートが眉間に皺を刻んだ難しい顔で、ゆっくりと頭を振った。言いたいことはわかるけれど、神官長が必要だと感じて身に着けておくようにくれたお守りだ。勝手に外すことはできない。

「わたくしも周囲に危険を及ぼすのは本意ではございません。ヴィルフリート兄様がフェルディナンド様の許可を取って下さったら外せます。お願いしてくれますか?」

 わたしの言葉にヴィルフリートが貴族らしい作り笑いを浮かべ、ゆっくりと首を振った。



「盾の練習時間は終了だ。またそれぞれ練習してくるように」

 ルーフェンの言葉にハンネローレが、ふぅ、と息を吐いた。ゲッティルトで盾の形はすぐにできるけれど、その上に魔法陣を重ねるのが難しいそうだ。
 ヴィルフリートは皆と同じ長方形の盾にするか、威力重視で神具の盾を再現できるか試してみるか、ずいぶんと悩んでいる。イメージが明確にならなければ変形させることができないので、早く決めなければ、と気ばかりが急いているようだ。カルタと聖典でシュツェーリアの盾を知っているだけに、どちらでもできそうなのが悩みの種らしい。

「くっ、今日は悩む以外に何もできなかったではないか」
「ヴィルフリート兄様は図書館に行きたいわけではないのですから、ゆっくり考えればいいと思いますよ。去年はそうして紋章入りのシュタープを考えたのでしょう?」

 シュタープを作るのにもずいぶんと時間をかけたようだし、もしかしたらカッコいい盾も作り出すかもしれない。

 そんな話をしている間に、ルーフェンとプリムヴェールが転移陣から次々と武器を取り出し始めた。剣や槍、鎌、斧などがずらりと並ぶ。どれもこれも斬ることを考慮した武器ばかりだ。

「……弓はないのですね。フェルディナンド様は使っていましたけれど」

 わたしの呟きに答えてくれたのはハンネローレだった。

「弓は魔石に命中させるのに訓練が必要で難しいですから、このような基本だけを教える場では扱わないと聞いています。騎士コースで扱うそうですよ」
「ハンネローレ様、よくご存知ですね」
「ダンケルフェルガーは他領よりも騎士の比率が高いですから、寮における会話の中心がどうしても騎士見習いになるのです」

 恥ずかしそうにハンネローレがそう言って俯いた。ダンケルフェルガーの寮はどうやら体育会系のノリらしい。本好きでおとなしいハンネローレはもしかしたらダンケルフェルガーでは浮いているのではないだろうか。

「次は武器だ。文官や側仕え見習いならば、あまり間近で見たことがない者もいるだろう。自分に合う武器を選び、シュタープを変形させるんだ。騎士見習いは剣ともう一つ武器の扱いを覚えてもらう。いいな?」

 ルーフェンの声を聞いて、武器が並べられた方へ皆が移動し始める。ヴィルフリートも興味があるのか、いそいそと行ってしまった。

「剣はシュヴェールト、槍はランツェ、鎌はリーズィッヒェル、斧はアクスト……」

 ルーフェンが変形させるための呪文を説明しているのを聞きながら、わたしは考える。
 シュタープを変形させて武器にするだけならば、槍が一番簡単だ。わたしが握ったことがあり、日常的に見ているのでライデンシャフトの槍ならばすぐにイメージできる。

 ……でも、扱えるかどうかは別問題なんだよね。

「ローゼマイン様は武器をご覧になりませんの?」
「えぇ。すぐに出せると思うので……」
「すぐに出せるのですか? もしかして、武器も神具ですの?」

 ハンネローレが赤い目を瞬き、じっとわたしを見つめてきた。明らかに期待されている。お友達に期待されれば、応えないわけにはいかない。

「ハンネローレ様。よろしければ、ライデンシャフトの槍、ご覧になりますか?」
「よろしいのですか?」

 わたしはまずシュタープを出し、軽く目を閉じた。脳裏にライデンシャフトの槍を思い浮かべる。シュネティルムを退治した時に握った槍だ。大きさも魔石の数も思い出せるくらいハッキリと脳裏に焼き付いている。
 分厚い灰色の雲の下、真っ白に吹きすさぶ吹雪を起こしていたシュネティルム。それを討つために奮闘していた山吹色のマント。そして、自分の手に握り、魔力を限界まで込めた青く光るライデンシャフトの槍。

「ランツェ」

 わたしの手には思い浮かべた通りの槍があった。ハッキリと思い浮かべたのがシュネティルムの戦いの時だったせいか、手の内に現れた時から魔力たっぷりで青い光を放っているのが非常に物騒だ。

「……これがライデンシャフトの槍? なんて綺麗なのでしょう」

 ハンネローレの驚きに満ちた呟きに気を良くしていると、青く光る槍の出現にルーフェンが血相を変えてやってきた。

「ローゼマイン様、これは何ですか!?」
「ライデンシャフトの槍です。わたくしには一番馴染み深かったのです。なにしろ、神殿育ちですから」

 神具に詳しいのは「神殿育ちだから」で押し切って、わたしは槍を握ったまま首を傾げた。

「ルーフェン先生、武器も試験がございますか?」
「……これだけの魔力をぶつけられれば、大変なことになりそうです。合格とするので、変形を解除してください」

 ここが騎士の専門棟であれば威力をこの目で確認したのに、とものすごく悔しそうに呟きながら、ルーフェンが合格を出してくれた。
 わたしは「リューケン」と唱えて、変形を解除する。

「ローゼマイン様、素晴らしいものを見せてくださってありがとう存じます」

 ライデンシャフトの槍をわたしの武器とするのはいまいち使い勝手が悪いけれど、合格がもらえたし、ハンネローレが喜んだし、ひとまず良しとしよう。

「それにしても、わたくしが扱えるような武器が思い浮かびません。どうしましょう?」

 ダンケルフェルガーで武器を見慣れているハンネローレは展示されている武器を見に行く必要がないらしい。けれど、何に変形させるのか、決められないようだ。
 ハンネローレが悩んでいる横で、わたしも一緒に悩む。剣を振り回すのは無理そうだし、槍は一度だけ使ったことがあるけれど、わたし向きの武器ではない。もっと手軽で簡単な武器が欲しい。

 ……弓にするんだったらボウガンみたいに力が弱くても何とかなるようなのがいいなぁ。神官長の弓みたいに射れば矢が分裂して雨あられと降り注ぐような武器にできれば、命中率が多少悪くてもカバーできる気がするんだよね。

 むーん、と唸りながら、わたしは考える。

 ……わたしが簡単に使えそうな武器。できれば、レッサーバスの中から攻撃できるのがベストだよね。

 どう考えてもわたしは接近戦に向かないので、遠くから攻撃できるのが望ましい。自分の身を守りつつ、攻撃を仕掛ける。卑怯で結構。安全第一。わたしは我が身が大事だ。
 しかし、麗乃時代を考えても、わたしは武器らしい武器を使った記憶がない。

 ……包丁も小刀も彫刻刀もカッターもはさみも武器になるかもしれないけど、武器としては使いたくないし、魔獣に襲われた時には大して役に立たなそうだし。わたし、平和主義者だから攻撃なんてしなかったし。あ、攻撃された記憶はあるけどね。

 子供の頃にしゅーちゃんが持っていたおもちゃのピロピロと電子音がして光るような銃で撃たれて倒れることを強要されて寝転がったまま本を読んだり、夏になったら本を読んでいる背中をよく撃たれたりしていた。

「……『水鉄砲』?」

 シュタープを握ったままでそう呟いたわたしの手には、子供の手にぴったりの半透明で安っぽい水鉄砲が握られていた。

 ……弱っちい!
シュタープの変形自体は合格です。
うん、合格。
でも、ローゼマイン専用武器の開発、強化が望まれます。

次は、武器の強化です。
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