挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
本好きの下剋上 ~司書になるためには手段を選んでいられません~ 作者:香月 美夜

第四部 貴族院の自称図書委員

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

375/677

貴族院へ出発

 ギーベ・ハルデンツェルの後も次から次へと色々な人が挨拶にやってきた。

「ローゼマイン様」
「あら、ギーベ・イルクナー。その後、いかがですか? できれば、収穫祭でイルクナーに向かいたかったのですけれど……」

 わたしは収穫祭でイルクナーに行って、製紙業がどのように発展しているのか見たかったし、フォルクの子供も見てみたかったのだが、「ハルデンツェル、イルクナー、グレッシェル、一人でどれだけ抱え込む気だ」と神官長に怒られたのである。
 祈念式は魔力を与えたり、小聖杯を配ったりするので、わたしがどれだけ抱え込もうと文句は出ないけれど、収穫祭は自分達の取り分に大きく関わるので、青色神官から文句が出るらしい。今年はグーテンベルクのいるグレッシェルに向かうのが最優先だったため、諦めたのだ。

「ローゼマイン様がいつもお忙しいことは存じています。印刷業を広げ始めたのですもの。わたくしがお仕えしていた頃よりずっとお忙しいでしょう」
「では、ブリギッテ。イルクナーの様子を聞かせてくださる?」
「もちろんです」

 ギーベ・イルクナー夫妻とブリギッテとヴィクトア夫妻は新しい紙の作成に奮闘していることやイルクナーから近くのギーベのところへと派遣され、製紙工房で紙の作り方を教えた職人達の話を聞かせてくれた。イルクナーの周辺は山や木が多いところが多く、水が綺麗なため、グレッシェルのような問題はなく、紙の作り方を教えられたようだ。

「ローゼマイン様、ご挨拶させてくださいませ」

 ギーベ・イルクナー達との話が一段落ついたところで、お母様の声が聞こえて振り返る。そこにはお母様とヴェールを被ったアウレーリアが挨拶に来ていた。

「アウレーリア、新しいヴェールができたのですね」
「はい。ローゼマイン様のご提案通り、同じように染めのヴェールを身に付けることで、周囲の視線が少し和らぎました」

 これまではあまり身に付けることがなかった可愛らしい布を使えたことも嬉しい、とアウレーリアが小さく呟くのが聞こえてくる。

「アウレーリアが少しでも過ごしやすくなったのでしたら、わたくしも提案した甲斐があります。……ただ、許可が下りず、魚料理が遠のいてしまったのです。お約束したのに……」

 ……故郷の味が恋しいよね? 早く食べたいよね? ごめんね。

 わたしの下町の家族は、泥臭さを抜く手間がかかる川魚には興味がなかったようで、魚が食卓に上がることはなく、専ら肉だった。わたしは森でルッツに釣ってもらって、塩をかけて焼いた泥臭い川魚を食べて以来、魚を食べていないのだ。その時に一緒に釣った魚は干物と言うにはカピカピになりすぎて、出汁として使うのも拒否された。おいしいお魚を食べたい欲求はあの頃からずっとある。
 きっとアウレーリアも故郷の味を恋しく思っているはずだ。

 ……だって、わたしは魚料理が恋しいもんっ! アウレーリアの気持ちはよくわかるよ!

「貴族院から戻ったら、なるべく早く魚料理に手を付けますから、それまでお待ちくださいね」
「わたくしにまでそのようなお心配りをいただけて、本当に嬉しく存じます。今はエーレンフェストのお料理を楽しんでいますから、お気になさらないでくださいませ」

 ……あ、あれ?

 故郷を離れてやってきたアウレーリアの郷愁の念を盾に、早く調理法を教えてほしい、と神官長や養父様にお願いしようと考えていた。けれど、早く魚が食べたい、と思うわたしの渇望と違って、アウレーリアは特に急いでいなくて、ゆっくりでいいらしい。

 ……おかしいな。わたしのお魚計画が遠のいたよ。

 首を捻っていると、ヴィルフリートがくいっとわたしの腕を引いて、一歩前に出た。

「ローゼマイン、アウレーリアとの話はそのくらいにしておけ。あちらからの視線が痛い」

 ヴィルフリートの指が小さく動いた方向には旧ヴェローニカ派の集団が見えた。アウレーリアとの接触を図ろうとしているが、お母様がついているため、近付きにくいのかもしれない。

「アウレーリア、其方の話はランプレヒトより聞いている。このような時世であるので、不自由しているかもしれぬが、少しでも居心地よくできるように私も努めるつもりだ」
「恐れ入ります、ヴィルフリート様。……けれど、わたくし、今のエーレンフェストでの生活を特に不自由だとは感じていません。アーレンスバッハにいた頃よりもずっと自由に過ごしていますから」

 会う相手を姑によって制限され、旦那の実家の離れで過ごす日々を不自由と思っていないはずがない。そう思っていたけれど、わたしにはアウレーリアが本当に自由を感じているように聞こえた。

 ……アーレンスバッハで一体どんな生活を送っていたんだろう?



 冬の社交界が始まると、大人は社交で忙しくなる。貴族院への出発の日まで、わたし達は例年通りに子供部屋で過ごすのだ。
 初日にはお披露目を終えたばかりの新入りの子供達からの挨拶を受け、その後は新入りの子供達にカルタやトランプでの遊び方を教える役を貴族院の上級生に割り振るようにハルトムートに頼んだ。

「子供達のやる気を引き出せるように、上手く負けてあげてください。貴族院を卒業すれば、老獪な貴族相手に仕事をしていかなければならないのですもの。上級生ならば、子供達の気分を上手く扱うくらいはできるでしょう?」
「ローゼマイン様はそのようにおっしゃって、上級生の自尊心を上手くくすぐるのですね」

 軽く肩を竦めたハルトムートが上級生達に声をかけに行くのを見送り、わたしはヴィルフリートに二年生を率いて、去年も子供部屋で過ごしていた子供達とゲームをするようにお願いする。

「それは去年も子供部屋にいたシャルロッテの方が適任ではないか? 私は知らぬ子供も多いぞ」
「シャルロッテには新一年生のお勉強がございます。それに、ゲームなどでその場を盛り上げるのは、シャルロッテよりもヴィルフリート兄様の方がお上手ですよ」

 最初から景品のお菓子を見せて、ゲームで気分を盛り上げていくのは、ヴィルフリートと二年生に任せて、わたしはモーリッツに声をかけた。

「モーリッツ先生、今日は新一年生に地理と歴史の勉強を教えてくださいませ。こちらが去年まとめた参考書です」
「去年も多少は教えて参りましたが……」
「成績向上委員会が行うゲームに公平性を持たせるためなのです」

 わたしはシャルロッテに新一年生を集めてもらうと、貴族院で行っている成績向上委員会の活動について教えて、「上級生はすでに準備が進んでいるので、新一年生も頑張ってくださいませ」と激励しておいた。

 毎日少しずつ貴族院へと学生達が移動していき、子供部屋の人数が減っていく中、ヴィルフリートやシャルロッテも含めて、領主候補生がいない時の子供部屋での学習計画についての話し合いをしたり、不足する教師を補充してもらえるように要望をまとめたり、子供達に新しいお話の読み聞かせをして、時間を過ごす。

 ダンケルフェルガーから借りた本の現代語訳、勝つまで戦い続ける熱い騎士物語は、意外と騎士見習いを目指す男の子に受けが良かった。

 ……この現代語訳をエーレンフェストで本にして、ダンケルフェルガーのお話として広めても良いか、ハンネローレ様に聞いてみようっと。



 そして、出発までの短い期間にある夕食は、おじい様や神官長も同席する保護者との会議のような時間になっていた。ヴィルフリートやシャルロッテとはすでに話し合っていることも、わたしは知らないことが多くて、質問したり、要望を出したりする時間がどうしても必要になるのだ。

「わかりました。今年も料理人はエラとフーゴを連れて行くので、構いません。去年と同じように、フーゴは明日にでも移動させて、エラはわたくしと同じ日に移動いたします。……あの、養父様。魚の調理方法を知っている宮廷料理人がいらっしゃいますか?」
「あぁ、フェルディナンドが言っていた件か。アウレーリアが持ち込んだ物に、危険性がないことが確認できれば、其方の料理人に調理方法を教えることに関しては問題ない。去年、其方の専属料理人が作ったレシピをいくつか教えてもらったようだからな」

 今年もよろしく頼む、と言われ、わたしはフーゴとエラの新作レシピを思い浮かべる。二人で作った分に関しては、特に契約魔術に抵触しないので問題ない。貴族院で一緒に料理をするうちに流れるレシピもあるだろう。

「どちらにせよ、其方が貴族院から戻った後の話だ」
「はい」
「それから、去年、其方等が努力し、成績を上げ、流行を広げたことで、貴族院への予算も増やすことができた」

 他領との取引が増えたことで、全体の予算が増加し、貴族院の予算も増やすことができたらしい。その取引が増えた原因が貴族院でのやり取りなので、優遇されているそうだ。

「今年もまた成績向上と流行の拡散や定着のために使うように。……と、ヴィルフリートやシャルロッテには言ったが、増えた予算をローゼマインは何に使うつもりだ? 領地対抗戦だけに使うのではないのだろう?」
「下級貴族に紙やインクを配るのに使う予定です」

 ダームエルが言っていたように、下級貴族は木札を準備して、講義を受け、終わったら木を削って、また使う。削り方によっては、せっかく書き留めた記載が残らないこともあり、少し時がたてば見直すことも難しくなる。

「ですから、皆が自分の講義内容を残せるように、紙を渡したいのです。個人ではなく、エーレンフェスト全体の成績を上げるには、底上げが肝心ですから」

 上級貴族は自分達のプライドのために、放っておいても恥ずかしくないような成績を取る。そのための努力は惜しまないし、羊皮紙やインクをたくさん準備でき、書いた物を保存する余裕があるので、兄弟や親戚が残した講義内容の資料も多い。

「勉強の記録を残すことが容易ではない下級貴族にこそ、援助が必要なのです。もちろん、わたくしが頼んでしてもらっている写本に関しては、今まで通りわたくしがお金を払いますけれど」

 仕上がった写本の所有権を主張するためにも、わたしが個人的に買い取ることが大事なので、これは譲らない。
 増えた予算を下級貴族の底上げに使う、と言うと、シャルロッテが不思議そうに藍色の目を瞬いた。

「お姉様、上級貴族への援助はどうなさいますの? 下級貴族だけでは平等ではないでしょう?」
「もちろん、平等に援助はいたします。紙が欲しいと言われれば、拒否をするつもりはございません。下級貴族と同じように支給するつもりです。けれど、上級貴族なのに、貴族院で使うための文具が準備できていないとは言えないでしょうから……」

 結果として、不平等に見えるだけだ。でも、正直なところ、援助の必要がない上級貴族に余計な予算を使う必要はないと思う。

「それから、養父様。わたくし、今年は印刷物……とは言っても、授業の参考書にはならない騎士物語や恋物語、楽譜などを貴族院に持ち込むつもりですが、よろしいですか?」
「私は構わぬが、印刷について知られれば、また来年の領主会議が大変になるのではないか?」
「寮から持ち出すのは一冊だけです。全く同じ物がたくさんあるということが知られなければ、ただの字が整った本です。印刷技術が漏れることはないと思われます」

 それに、中にはガリ版印刷で作られた本もある。これは印刷機を知らなければ、完全に手書きにしか見えないだろう。

「エーレンフェスト紙で作られた新しい形態の本ということで軽く紹介して、本好きの同士を増やしたいと考えています。将来の客層の開拓です」

 ハルデンツェルで印刷された本、ローゼマイン工房にハッセの工房と印刷物は少しずつ増えている。これらの本を貸して、回し読みで本好きを発見して、客層の開拓と同時に、作家を育てていかなければならない。
 貴族に受ける本は貴族に書いてもらうのが一番である。わたしは自分の恋愛小説を犠牲にして、それを悟ったのだ。

「軽く紹介? 君が紹介するとなれば、熱が入りすぎて、倒れる予想しかできぬ。本を紹介するのはローゼマイン以外の者の方が良いのではないか?」
「叔父上の言う通りだ。目の前で倒れつつ、手渡された本となれば、嫌な記憶として残るだろう。其方、またハンネローレ様に負担をかけるつもりか?」

 神官長の冷静な言葉にヴィルフリートが何度か頷いて、わたしに追い打ちをかけた。ハンネローレの嫌な記憶に本の貸し借りが入るのは困る。わたしはハンネローレと仲良くしたいのだ。

「では、わたくしは本の紹介文を書くに止めます。紹介して広げるのは、ヴィルフリート兄様やシャルロッテにお願いいたします」
「よろしい」

 神官長が頷き、ヴィルフリートとシャルロッテも顔を見合わせて頷いている。
 自分で紹介したかったな、と唇を尖らせるわたしを見て、養父様がクックッと軽く笑った。

「あまり落ち込むな、ローゼマイン。其方の要望を色々と検討した結果、寮に本棚を入れることはできたのだ。機嫌を直せ」
「直りました」

 貴族院の寮は学ぶところなのに、本棚の一つもないのはあり得ない、と言って、本棚を入れて、図書コーナーを作るように要請していたが、どうやらわたしの要望が通ったらしい。

「皆が使えるように、参考書を置くのはもちろん、エーレンフェストで印刷された本を並べなければなりませんね。持って行く本を増やさなければ」

 ……コツコツと本を増やして、一つの本棚を二つの本棚に、そして、いずれは図書コーナーから図書室へ進化させるんだ!

「本棚は設置したが、城の図書室に英知の女神 メスティオノーラの像を設置するのは、必要が感じられず却下した」

 ソランジュ先生によると、メスティオノーラの像があれば、本が集まりやすくなるという御利益があるそうだ。王宮図書館にも英知の女神 メスティオノーラの像があるらしいので、お城の図書室にも英知の女神 メスティオノーラの像を設置して、エーレンフェストの本が増えるように毎日お祈りを捧げるべきではないだろうか、と提案したのだが、それは却下されてしまった。

「女神の像よりも本を入れる方が重要だ。違うか?」
「では、養父様。本を購入するための予算をください」

 わたしが本の購入費を要求すると、養父様はものすごく嫌そうな顔をした。

「本一冊にいくらかかると思っている? それほどの予算はない。其方が納本制度を作ったのだから、その内に増える。しばらく待て」

 ……ビバ! 納本制度! 最初に取り入れたわたし、グッジョブ!

 待っていれば本が増えるなんて、なんて素敵な制度だろうか。印刷物が増えるのが楽しみだ。

「図書コーナーの設置もしてくださいましたし、皆が頑張って参考書作りをしていましたから、今年の成績は期待してくださって良いと思います。去年よりぐっと上がりますよ」

 座学の方は問題ない。この調子で頑張れば、ある程度上位につけるはずだ。他に成績を上げる余地があるとすれば実技である。魔力を増やしている途中ではあるけれど、誰がどれだけ伸びているのか、わたしには全くわからないし、魔力が増えるのと上手く扱えるのはまた別物なので、成績にどのくらい結びつくのかもよくわからない。

 ……あと、伸びる余地があるのは、ディッターなんだよね。

 わたしは、笑って話を聞きながら食事をしているおじい様へと視線を向ける。特訓の成果を聞きたい。

「おじい様、見習い達の連携はどうなりましたか?」

 わたしが尋ねると、おじい様は待っていましたというように身を乗り出して、特訓内容やどの程度ができるようになったのか、教えてくれた。

「ローゼマインの望み通り、騎士見習いは結構鍛えたぞ。まだまだ穴だらけだが、去年に比べると連携が少しはマシになっているはずだ」
「まぁ! ありがとう存じます、おじい様。これでディッターの順位も上がりますね」

 作戦のさの字もなかった去年に比べれば、今年は最初から作戦を立てて練習ができそうだ。有用な練習ができれば、魔力圧縮が少しずつ進んでいる今、順位を上げることは簡単だろう。

「おじい様から見て、見所のある者はいましたか?」
「む?……伸びが良いのは、やはり領主一族の護衛騎士見習いで、其方の魔力圧縮を知った者だ。そういう意味では惜しい者もいるな」

 旧ヴェローニカ派の子達は努力しても、魔力の伸びに違いがあり、それが実力にも響いているのだろう。

「養父様、報酬としての魔力圧縮はどうなりましたか?」

 旧ヴェローニカ派の子供達がランプレヒト兄様とアウレーリアの結婚式での襲撃を防いでくれたお礼がどのようになったのか、わたしはまだ聞いていない。どれだけの者が結婚式の当日に襲撃計画があったと、知っているのかわからないので、肝心の言葉は全て口に出さなかったけれど、養父様には通じたようだ。

「よく知らせてくれたと労い、情報料は払っておいたし、魔力圧縮を教えたいと其方からの要望があったことも教えた」

 その後、養父様が一度目を伏せ、深緑の目を真っ直ぐにわたしに向けてくる。

「……同時に、魔力圧縮を教えるための条件も伝えた」
「どのような条件が付けられたのですか?」
「領主一族に名を捧げられるならば、と」

 ゴクリと息を呑む音が周囲で聞こえた。大きく目を見開いて、周りの人達が養父様を見つめる中、わたしは一人、意味がわからなくて首を傾げる。

「あの、名を捧げるというのは、何ですか?」
「自分の名を封じた魔石を捧げ、命を預け、忠誠を誓うことだ」
「え?」
「其方に身近な例がここにいる」

 すぐには呑み込めないわたしに、養父様は神官長とその背後に立つエックハルト兄様とユストクスを示した。

「ユストクスとエックハルトはフェルディナンドに名を捧げて忠誠を誓っている。だからこそ、フェルディナンドが神殿に入った後もこの二人だけはフェルディナンドの側近として遇された」

 権力者であるヴェローニカに疎まれている者に名を捧げるなど愚かな、と言われる中で、二人は神官長の信頼を得るために名を捧げたのだという。名を捧げた者は主に生殺与奪の権利を委ねている状態で、他の者に仕えることは、主が許さない限りできないらしい。

 ……わたしから見ると、重すぎる忠誠だけど、周囲が敵だらけだった神官長にとっては何物にも代え難い信用できる忠誠だったんだろうな。

 確かに、領主一族に命を懸けられるほどの忠誠があれば、魔力圧縮を教えても問題はないだろうけれど、権力を持つ者が変わったら、おもねる方を変える中級や下級貴族にとって、名を捧げて仕えるのは難しいに違いない。

 そんなことを考えているうちに、すぐに貴族院への出発の日はやってくる。

「シュバルツ達の衣装も入れましたし、ダンケルフェルガーの本も入っています。ハンネローレ様にお貸しできるように、エーレンフェストで印刷された本も準備できました。もう、忘れ物はないかしら?」

 貴族院に在学する側近達は先に貴族院へと出発した。残っているのはオティーリエとリヒャルダ、ダームエルとアンゲリカの四人だけだ。今年もリヒャルダが一緒に貴族院へと来てくれる。

「アンゲリカはこちらに残って何をするのですか?」
「鍛錬をします。今年はお師匠様が見習いの特訓をしていたので、久し振りにお師匠様の特訓を受けたいと思っています」

 おじい様の特訓を受けるのだ、と青い目を輝かせてはりきっている。そして、そんなアンゲリカと一緒に鍛えられることになるダームエルは「今年も短期集中特訓か」と去年を思い出して、遠い目になっていた。

「あの、アンゲリカ。他にすることはないのですか? 婚約もしましたし、エックハルト兄様と社交の必要性も出てくるのでは?」
「わたくし、第二夫人ですから、社交の場にエックハルト様と出ることはございません。訓練以外には、自分のマントに刺繍をしたり、シュティンルークに魔力を注いだりする予定です」

 ……戦闘力の強化以外にやりたいことはないんだね。

 わたしは転移陣のある部屋へと向かった。
 転移できるように荷物を魔法陣の上に積み、準備している間に、わたしは保護者達と別れの挨拶をする。

「今年はなるべく平穏に過ごすように」
「あら、養父様。わたくしはいつだって平穏を望んでいるのですよ」

 ものすごく胡散臭いものを見る目で見られたけれど、わたしは別に騒動を起こそうと思って過ごしているわけではない。図書館に引き籠って、本だけ読んで過ごしたいと常々思っている。何故かうまくいかないだけだ。

「ローゼマイン、今年は講義を終えたら、側近が動けるようになるまで君が時間を潰せるように、ハルトムートに本を数冊預けてある」
「何故、ハルトムートに渡すのですか?」

 わたしが神官長の言葉に目を剥くと、神官長はフンと鼻を鳴らした。

「君に渡したら、講義を終えるより先に夜通し読んで、講義も最速で終えて、図書館に突進し、時間を潰すための本が用をなさなくなるからだ」

 神官長の言葉に、リヒャルダが「さすがフェルディナンド坊ちゃまですね。姫様のことをよくご存知ですこと」と大きく頷いた。
 男子の部屋が並ぶ二階には、わたしが立ち入れないので、ちょうど良いらしい。

 ……ぐぬぅ、新しい本!

「ダンケルフェルガーの領主候補生に迷惑をかけぬように。空の魔石をリヒャルダに渡してあるが、魔石の数には限りがある。君の興奮は際限がない。よくよく気を付けなさい」

 ……気を付けろって言われても、本を前にしたら興奮するのは当たり前だよね? どう気を付けたらいいんだろう?

 首を傾げていると、神官長がうっすらと冷たい笑みを浮かべた。

「私が図書館の禁止をせざるを得ないような事態を引き起こさないように気を付けなさい」
「わかりました。できるだけ気を付けます」

 そして、わたしはリヒャルダに促され、準備ができた魔法陣に入る。

「わたくしも明日には参ります、お姉様」
「えぇ、シャルロッテ。待っていますからね。では、皆様。いってまいります」

 その言葉と同時に魔法陣が光を発し、わたしの視界はぐにゃりと歪んだ。
色々な人とお話をして、子供部屋の様子を見たら、貴族院に向かって出発です。
今回、久し振りに養父様のセリフが多かったですね。
貴族院の寮に図書コーナーができました。
ローゼマインを寮に止めておけるように色々と対策が練られています。

次は、労いと忠誠心です。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ