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本好きの下剋上 ~司書になるためには手段を選んでいられません~ 作者:香月 美夜

第四部 貴族院の自称図書委員

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図書館計画と衣装の完成

 図書館を作ろうと思い立ったものの、フィリーネの言葉で最初の難関が神官長だと知った次の瞬間、わたしはとても冷静になれた。神官長の許可をもぎとるためには、図書館の存在意義や運営方法など、この世界の図書館運営について細かく研究し、理詰めで説得しなくてはならない。

 ……今は野望をひた隠しにするんだ。後で絶対に勝利をつかみ取るために!

 よぉしっ! とわたしはやる気満々で楽しい図書館計画を練り始めた。麗乃時代にはなかった魔術という不思議な力がある。これを使えば、きっとすごい図書館ができると思うのだ。

 ……シュバルツ達みたいな魔術具は絶対に欲しいよね。貸し出しや返却のカウンター業務ができて、無断持ち出しまで把握できるなんて、完璧だし、わたしを守ろうとしてくれた時の様子から考えると、色々な機能があると思うし、何より可愛い!

 神官長とヒルシュールが研究していたのだ。似たような魔術具がそのうち作れるのではないか。わたしはたくさんの色違いのシュバルツ達がひょこひょこと動きながら作業をする図書館を思い浮かべて、にんまりとする。

 ……せっかく魔術がある、こんなファンタジーな世界なんだし、図書館自体が不思議な建物でもいいと思うの。こう、蔵書が増える度に階が増えて、大きくなっていく、まさに「成長する有機体」って感じで! どうよ、これ?

 ランガナタンが提唱したのとは意味が違うけれど、本が増える度に地下に伸びていったり、上に向かって伸びていったりする図書館というのはロマンがあると思う。収納場所にも困らないし、選書しなくても全ての資料が収められて素敵だ。

 ……それにね、魔術具を使えば、本にも色々な機能が付けられると思うのよ。例えば、自動で分類番号順に本棚に戻っていくとか、貸出し期限を越えたら転移陣が発動して図書館に戻ってくるとか、検索したら該当する資料が光って一目でわかるとか……。ヤバ! 楽しすぎて止まらないっ!

 あんなことやこんなことができたらいいな、とうきうきでローゼマイン図書館の計画を練っていたところ、わたしは自分の側近による裏切りを受けた。なんと、フィリーネとハルトムートとフランが、神官長のお手伝いの時間にわたしの図書館建設計画を暴露したのである。

「ローゼマイン」
「はひ」

 目を三角にした神官長に凄まれ、睨まれながら、わたしは説明を求められた。

「ずいぶんと楽しげに面白い計画を立てているようだが、私は全く報告を受けていないぞ。君は一体何をするつもりだ?」
「そ、それは、その、まだ全く計画できていないですし、わたしの願望を書き出した上で、あちらこちらの図書館を見学して研究して、ユルゲンシュミットで一番すごい図書館を建てたいな、と思いまして……」

 きちんと計画を立てたら、報告するつもりでした、とわたしが一生懸命に弁明する横で、フランが溜息を吐きながら首を横に振った。

「ローゼマイン様、計画を立てる前に、神官長への相談が必要なのです」
「何を言うのですか、フラン。神官長を説得するのに、何の材料もなく立ち向かえるわけがないでしょう。まずは研究と立案が大事なのです。相談はその後で……」
「つまり、意図的に報告しなかったということだな?」

 神官長の声の温度が下がった。ひゅおっと冷気が飛んできたような気がして、わたしは慌てて首を振った。

「違いますっ! 成功させるためには事前準備と根回しが必要だと神官長が教えてくださったではありませんか。わたくし、貴族らしく頑張っていただけですよ。だ、だいたい、まだ事前準備もできていないのに、何を報告するのですか?」

 ここでわたしの夢を潰されては困る。図書館建設のために、わたしは全力で頭を回転させ、何とか神官長の怒りを解こうと奮闘する。
 わたしの必死の主張が通じたのか、何を言っても無駄だと諦めたのか、神官長は机の上を指先でトントンと軽く叩きながら、口を開いた。

「本が関わる時以外にも、その貴族らしさを発揮してほしいものだが、一体何をどうしたいのか、簡単に説明しなさい。図書室の充実ならば、事と次第によっては協力することもやぶさかではない」

 ……進んで神官長が協力してくれるなんて!

 最大の難関と思われた神官長が協力者になってくれれば、最強である。感動して、わたしは自分が作りたい図書館について、語った。図書館の意義や目指すべき図書館、「できたらいいな」を詰め込んだ魔術具について、それはもう、雄弁に語りまくった。

「こういう図書館が欲しいのです!」

 その結果、神官長に深くて長い溜息と「……君は本当に馬鹿だろう」という一言をもらうことになった。

「もう少し現実味のある計画を立てなさい」
「あの、神官長。どの辺りに現実味がないのですか?」

 創造魔術を使えば、一分とたたずに街を作り変えることができるような世界の「現実味」がわたしにはわからない。
 首を傾げるわたしを見て、フィリーネとハルトムートは鳩が豆鉄砲を食ったような顔になった。どうやら二人にとっても、現実味のない計画らしい。

 ……あれ?

 周囲の反応にわたしが戸惑っていると、神官長はこめかみを押さえながら、「まず、大きさだ」と説明する前から疲れたような声を出した。

「そのような規模の図書館は必要ない」
「え? 必要あります。これから本は無限に増えるのですから、どんどんと広げていける図書館が良いと思うのです。創造魔術ならば、本当に成長する図書館が作れるでしょう?」
「君は創造魔術を誤解している。図書館を成長させるのではなく、改築するのだから、その度に膨大な魔力が必要になるぞ」
「それは、つまり、魔力だけあれば、何とかなるということですよね?」

 図書館のためならば、わたしは神官長の激マズ薬さえ進んで飲む。そのくらいの覚悟はあるのだ。

「魔力だけの問題ではない。改築の度に全ての資料や本棚を建物から一度運び出さなけれならない労力と時間についてはどのように考えているのだ?」

 下町で行ったエントヴィッケルンは、建物には全く関係しない地下をいじったので、荷物を運び出すことも、上に立てた木造建築部分が壊れることもなかった。けれど、よくよく思い返してみれば、貴族街にネバネバのいるトイレを作った時には家具を庭に全て出したとおじい様が言っていたような気がする。

「……あぅ、考えていませんでした。こう、後から付け足すことで何とかなるのではないか、と……」

 上にカポッと付け足す様子を自分の手で表現したが、神官長には首を振られた。どうやら創造魔術を使っても、成長する図書館を作るのは、そう簡単なものではないらしい。
 仕方がない。次々と分館を作っていくことで対処しよう。

 ……縦に伸ばせないなら、横に伸ばせばいいじゃない。これなら、本を全部出す必要がないし。

「何より、それだけの規模の図書館を作るには魔力がとんでもなく必要になる。不可能だ」
「大丈夫です。薬をガブガブ飲んだとしても、わたくしはやり遂げますから」

 拳を握って主張すると、神官長は「違う。そうではない」と首を振った。

「君だけが頑張ってもどうしようもない。作った図書館を維持するにも魔力が必要だが、子孫にそれだけの魔力が維持できるかどうかがわからぬ。維持できなかった場合、創造魔術で作られた君の図書館は崩壊するぞ。先程君が主張していた、保存という図書館の重要な役目が果たせなくなる」

 ……なんですと!?

「創造魔術で作る場合、自分だけではなく、これから先に維持できるかどうかを計算することが最も大事なことになる。だからこそ、領主は不用意に街を拡大しない。君のような魔力の持ち主が薬を飲んで、限界ギリギリの魔力を使って作り上げ、更に拡大していくような図書館を、誰がどのように維持していくのだ?」
「わたくしの子孫ならば、きっと図書館を大事にしてくれます!」

 ……本好きの子は本好き! きっとそうなるよ!

 図書館を何より大事にするように育てますから! と主張したところ、神官長はとても冷ややかな目でわたしを見た。

「……君は自分の祖先の残した物を、本より大事にしたことがあるのか?」
「ないです」
「さもありなん。自分にできないことを他人に期待するのではない」

 当たり前と言えば、当たり前のことを言われて、しょんぼりと肩を落とす。そんなわたしに神官長は軽く肩を竦めた。

「君は貴族院の図書館と同じようにシュミル型の司書が欲しいとも言っていたが、あれを動かすのにも大量の魔力が必要なことは知っているだろう? それだけの貴族を図書館維持に割けるほど、エーレンフェストに魔力の余裕はない。君の計画に現実味がないというのは、そういうことだ」

 ……むぅ! 魔力の余裕がないなら、魔力を増やせばいいじゃない。

 わたしが魔力圧縮を教えているのは、エーレンフェストの魔力を増やすためだったはずだ。増えた魔力を図書館維持に使えばいい。

「いま、一生懸命に増やしているところではありませんか。何のための魔力圧縮ですか?」
「少なくとも全く現実味のない図書館運営のためではないな」
「ひ、ひどいです、神官長」

 あまりにもすっぱりと切り捨てられて、わたしがショックを受けているというのに、神官長は慰めるどころかどんどんと追い打ちをかけてくる。

「ひどいのは全く現実を見ていない君の計画だ。実現可能な範囲で最初から練り直しなさい」
「あうぅ……」

 わたしの夢が詰まったファンタジーな図書館は完全に却下されてしまった。ガッカリである。もう何もやる気になれないくらいにガッカリだ。

 ……あぁ、図書館。わたしの図書館。

「ローゼマイン、今の図書室でしばらくは事足りるのだから、しょぼくれている場合でない。君には図書館よりも先に考えなければならないことがあるだろう」
「……そうでした」

 神官長の言葉に、わたしはポンと手を打った。確かに、今はまだ城の図書室で間に合うのだから、先に考えなければならないことはたくさんある。

「図書館を作るためには、城の図書室では間に合わないくらいの本が必要になりますから、本を増やさなければなりませんね。今まで通りに写本で他領の本を増やすことに加えて、作家を増やしたり、校正ができる人を育てたりしなければ。……いえ、貴族だけでは人数を考えると厳しいですから、やはり平民の識字率を上げるべきでしょうか」

 グリム計画と同時進行で神殿学校を始める時期になってきたのか、と考えていると、神官長がこめかみを押さえて、即座にわたしを止めた。

「待ちなさい。私の意図と違うぞ」
「え?」
「碌な計画さえ立っていない図書館よりも、先に貴族院のことを考えなさい」
「貴族院ですか? 貴族院の写本ならば、もう始めていますけれど?」
「違う! 図書館から離れなさい。冬には二年生だろう? 準備をするのが先ではないか」

 これはまた、わたしの意識には全くなかった言葉が出てきた。貴族院に向かう準備など何かあっただろうか。すぐには思い浮かばない。

「魔術具の衣装作りはどうなっている? 私はまだ魔法陣の点検をしていない。中央や上位領地の貴族の目に触れるのだ。確認はしっかり行わなければならぬ」

 神官長は、シュバルツ達の衣装の完成、貴族院向けの薬の作成、今年流行らせる物についての話し合いなど、貴族院へ行くまでにしておかなければならないことを指折り数え始めた。

 ……そんなことより、図書館の計画、立てたいなぁ。

 ハァ、と溜息を吐いていると、神官長がぐにっとわたしの頬をつねる。

「ローゼマイン、真面目に聞いているか?」
「わたくしはいつでも真面目ですよ」

 ……本を読むためには。



 その日のお手伝いを終え、神殿長室に戻って、お昼ご飯を食べた後、わたしはリーゼレータに向けてオルドナンツを飛ばした。シュバルツ達の衣装の進行について聞くためである。

「リーゼレータ、ローゼマインです。どのくらいで刺繍が完成しますか? フェルディナンド様が確認をしたいそうです」
「リーゼレータです。刺繍はすでに仕上がっています。これから神殿にお持ちいたしますね。フェルディナンド様に見ていただいて、早く完成させたいのです」

 すぐにリーゼレータから弾んだ声のオルドナンツが戻ってきた。普段の冷静沈着な様子からは、少し信じられないくらいに明るい声だ。わたしが目を丸くしていると、リーゼレータの姉であるアンゲリカが教えてくれた。

「仕事中以外はいつもこのような感じです。今は仕事というよりも趣味に没頭している気分なのでしょう。ローゼマイン様もいらっしゃいませんし」
「……切り替えがハッキリしているのですね」
「そうです。わたくし達姉妹は周囲の者達によく言われていました。公私の区別がきっちりしているリーゼレータと、興味のあるなしがきっちり分かれているアンゲリカ、と」

 ……アンゲリカ、キリッとして言ってるけど、それ、褒め言葉じゃないからね。

 アンゲリカの言葉にわたしが何と返事をしたものか困っていると、ダームエルが肩を竦めて、普段のリーゼレータについて教えてくれた。

「リーゼレータはきっちりと切り替えます。ローゼマイン様がいらっしゃらない時は、ユーディットやフィリーネと色々話をしていますよ。私など、女心がわかっていない、となじられたこともございます」

 苦笑気味に「女の子の勢いには勝てないです」と言われても、ダームエルを詰るリーゼレータが全く思い浮かばなくて、わたしはハルトムートやフィリーネにも視線を向けた。

「傍で見ていると、詰るというよりは、からかうという方がしっくりきます。ダームエルは話しやすいですから、懐かれているだけです」

 ハルトムートも楽しそうに饒舌におしゃべりをするリーゼレータを見たことがあるそうだが、わたしは一度も見たことがない。主従関係なので、仕方がないことなのかもしれないが、ちょっと寂しい感じだ。

「リーゼレータが持ってくるならば、護衛を付けた方が良いと思うのですけれど、護衛騎士見習いの予定はどうなっていますか? わたくし、リーゼレータを一人で移動させるのは不安なのです」
「ボニファティウス様による今日の見習い達への訓練は、午前中で終わりのはずです」

 フィリーネがすぐに答えを返してくれた。
 わたしはオルドナンツで、「護衛騎士見習いと神殿に来るように」と言付ける。

「かしこまりました」

 わたしの言葉に忠実に従ったようで、リーゼレータとブリュンヒルデがコルネリウス兄様とユーディットとレオノーレと共に、刺繍の仕上がった布を丁寧に包んで持って来てくれた。

「こちらがヴァイスのエプロン部分で、こちらがシュバルツのベスト部分です」

 リーゼレータは誇らしそうにそう言いながら、神殿長室のテーブルの上に、びっしりと刺繍の入った布を広げた。
 複雑な魔法陣に加えて、魔法陣をわかりにくくするためのラインや模様が様々な色の糸で刺繍されている。それが模様にも見えるように、花や蔓のような植物もある。

 見ているだけでわたしは頭がくらくらとしてきた。よくこんなに細かい作業を延々と続けられるものだ。
 感心して見ていると、ブリュンヒルデが小さく笑った。

「一番大事なエプロンとベストの刺繍を終えたので、今は衣装を作っているところです。シュバルツのシャツとズボンができました」
「シュバルツのズボンの裾にも少し刺繍を入れています。ヴァイスのスカートの裾にも同じ意匠の刺繍を入れたくて、今刺しているところですわ」

 オルドナンツで聞いた声とは違って、リーゼレータは落ち着いた様子で進捗状況を教えてくれているけれど、濃い緑の瞳は楽しそうに輝いて見える。

 ……本当にシュミルが好きで、その衣装作りも楽しいんだろうな。

 これだけ細かい刺繍を、好きで丁寧にしてくれるのだ。騎士はリーゼレータを嫁にすればいいと思う。

「では、こちらの刺繍は預かりますね。フェルディナンド様が確認して問題なければ、エプロンとベストを作成していただくことになります」
「かしこまりました」



 わたしはフランに刺繍の終わった布が届いたことを報告してもらう。神官長はよほど刺繍の出来が気になっていたようだ。すぐに工房へ来るように、という返事をもらって、フランが戻ってきた。
 わたしは写本していた手を止めて、刺繍された布の包みをフランに持たせて、神官長の部屋へと向かう。

「神官長の工房は他の誰も入れませんよね?」

 確かエックハルト兄様も入れなかったはずだ。わたしはついて来ようとしている側近達を見ながら、首を傾げる。

「渡す物もあるし、君の工房では都合が悪い」

 神官長はそう言いながら、隠し部屋の扉を開けた。わたしはフランから包みを預かると、神官長の工房へと入った。相変わらず物がたくさんあって、雑然とした工房である。

「神官長、婚約者がいる女性が側仕えも連れずに、異性と二人きりになるのは外聞が良くないのではございませんか?」
「それはそうだが、私は保護者でもあるし、君の消えるインクについての情報が漏れるのは避けたいので、やむを得まい。君がおとなしく刺繍をしていれば、このような状況は必要なかったのだ」

 消えるインクの検証をしたいので、側近は邪魔らしい。
 神官長は器具が色々と置かれたテーブルの端の方を空けて、包みから取り出した布を広げた。

「ほう、これは見事だな」

 刺繍の全体像を見て、神官長がそう呟いた。その後は真剣な目で、刺繍されている魔法陣に問題がないのか、指で丁寧にたどっていく。魔法陣の刺繍が途切れていないかどうか、間違いがないかどうかを確認した後は、きちんと起動するかどうか、わたしも触って、消えるインクで描いた魔法陣に問題ないか、を確認された。

 魔法陣に関する勉強を少ししたので、模様のいくつかがわかるようになっている。ここの魔法陣には風に関する魔法陣が多くて、火の魔法陣と複雑に絡んでいる物もある。何となくしかわからないけれど。

「大丈夫そうですか?」
「あぁ。君が触れると淡く光っているが、上から刺繍しているので、それほど目立たない。二重に魔法陣がある状態なので、もしかすると、効果が強力になるかもしれぬが、強力になる分には問題なかろう」
「意外と適当ですね」

 ポロッと本音を零すと、神官長は軽く肩を竦めた。

「検証するには少し危険だからな」

 シュバルツ達の衣装に元々組み込まれていた魔法陣には自動で攻撃を相手に返す物があった。その魔法陣と、改良版の魔法陣にはエックハルト兄様が実際に攻撃して検証したらしい。

「軽い攻撃でも間違いなく自分に戻ってくるからな。どのくらい強力になったのか、検証するのは、骨が折れる作業だ」

 ……言葉通り、本当に骨折するレベルなのですね?

「自動で攻撃が確実に返ることだけ、検証できていれば良い。図書館の魔術具に攻撃を仕掛けるような愚か者は王族への反逆者と見做されても不思議ではないので、威力が落ちるのでなければ問題なかろう」
「そうですね。図書館へ攻撃を仕掛けた時点で、死を覚悟しておくべきですもの」

 図書館やシュバルツ達に攻撃するような不届き者がどのような目に遭ったところで、わたしは痛くも痒くもない。

「君は図書館や本が関わると途端に凶悪になるな」
「図書館と本を守るためならば、わたくしは『ブラッディー・カーニバル』の開催さえ辞さない覚悟ですから。でも、凶悪な魔法陣を作成している神官長には言われたくないですけれど」

 わたしがそう言っても、神官長は涼しい顔で、「凶悪と言われるのには慣れている」と呟いた。貴族院時代のディッター勝負では、「鬼畜」「凶悪」「魔王」など、様々な呼称があったらしい。

「それから、これを。その凶悪な魔法陣を組み込んだお守りだ」

 シュバルツ達の衣装のために魔法陣を研究しまくった神官長はお守りも色々と改良してくれたらしい。

「ありがとう存じます」
「……せっかくなので、誰か引っかからぬものか」

 神官長の口から怖い希望が漏れた。無表情でボソッと呟かれるからこそ、一層怖い。わたしは思わず、ひぃっ! と息を呑んだ。

「嫌ですよ。そんな物騒なことを望まないでくださいませ!」
「別に物騒なことを望んでいるわけではない。そうなっても、問題ないとは思っているが……」
「いくら他に人がいない工房だからって、本音が出すぎです!」

 わたしの言葉を、神官長はフンと鼻で笑って流した。改める気はないらしい。

 ……そりゃね、貴族にとって隠し部屋は本音を出しても良い唯一の場所だけど! そんな怖い本音、聞きたくないよ!

「ところで、君が刺繍した魔法陣はどれだ?」
「えーと、ポケットの、これです」

 こっちがシャルロッテで、これがアンゲリカ、とわたしが指差しながら、言っていると、神官長は眉間に深い皺を刻んだ。

「他には?」
「ありません。一つは刺繍をするように、と言われたので、一つは頑張りましたよ。ほとんどわたくしの側仕えがしました。リーゼレータはすごいでしょう」

 ふふん、と胸を張ってリーゼレータの頑張りを自慢すると、神官長にコツンと頭を小突かれた。

「君の側仕えがすごくても、君がすごいわけではない。すでに婚約者がいるのだ。花嫁修業として刺繍は練習しなさい」
「えぇ? 何となく形にはなっているのですから、もう良いではありませんか。正直なところ、刺繍にかける時間が惜しいです。わたくしの人生において、刺繍より写本の方が大事なのです」

 刺繍なんてしても、本は増えないではないか。もちろん、図書館に敷くカーペットに騒音防止の魔法陣を刺繍しろ、と言われたならば、全力で取り組むつもりである。

「まったく、君は……。何でも正直に言えば良いわけではない」



 刺繍に関する合格が出て、わずか三日後。リーゼレータはシュバルツ達の衣装を完璧に仕上げていた。
ローゼマインのファンタジーな図書館計画は、神官長に「現実味がない」と却下されました。
現実味のある図書館計画に向かって行きたいローゼマインですが、片付ける問題はたくさんあります。

次は、冬の社交界の始まりです。
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