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本好きの下剋上 ~司書になるためには手段を選んでいられません~ 作者:香月 美夜

第四部 貴族院の自称図書委員

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シュバルツ達の衣装

 
 成人式が終わって、春の洗礼式までのおよそ一週間がのほほん神殿生活である。正直なところ、神殿にいる方が仕事量は多いのだが、陰謀めいた雰囲気や周囲が緊張感に包まれているようなことがないため、居心地が良い。

 今日は午後から読書の予定だ。神官長のお手伝いをしつつ、うきうきしながら4の鐘を待っていると、神官長から声がかかった。

「ローゼマイン、今日の午後は予定があるのか?」
「はい。読書をします」
「ふむ。特にないならば、ちょうど良い」

 ……いやいやいや! ちょっと待って。わたし、今ちゃんと予定を言ったよね!?

「予定はあります! 読書の予定です。きちんと聞いてください」
「それは予定の内に入らない。図書館の魔術具の衣装について話し合う方が優先される」

 勝手に優先順位を決めないで! と叫びたかったが、シュバルツ達の衣装に関しては、わたしが神官長にお願いしている立場である。読書を優先したいと言って、放置されたら困るのは他の誰でもない、わたしだ。
 敗北感にどっぷりと浸りつつ、わたしはカクリと項垂れる。それを頷きと捉えたらしい神官長は「よろしい」と小さく呟いた。

「場所は君の工房だ。素材や資料を運び込むので、扉を開けておきなさい」
「……はひ」

 4の鐘が鳴り、自室に戻って昼食を終えると、わたしは神官長に言われた通り、隠し部屋の扉を開き、いつでも入れる状態にしておく。
 わたしは読むために準備していた本が入っている棚を未練がましく見ながら、溜息を吐いた。

「ハァ、読書がしたかったです」
「明日はできると良いですね。明後日にはギルベルタ商会との面会が入っておりますから」

 苦笑気味のフランに慰められ、わたしは小さく頷く。明後日は新しい髪飾りを注文するためにトゥーリを連れて来てくれるようにギルベルタ商会へ手紙を出しているのだ。髪飾りだけではなく、他にも注文しようと思っている物がある。

「髪飾りだけではないとおっしゃいましたが、何を注文されるのですか?」

 衣装は城の側仕えに相談しながら決めるのですよね? とモニカに不思議そうな顔で尋ねられ、わたしは胸を張って答えた。

「エラの結婚祝いの髪飾りと図書委員の腕章です」
「……腕章というのは一体どのような物ですか?」
「こういうものです」

 わたしはトゥーリに見せるため、紙の上に原寸大で書いた腕章の型紙をバッと広げてモニカに見せる。ちなみに、「図書委員」の部分は漢字で、明朝体でレタリングしている。周囲の者にはきっと何が書かれているのか、全くわからないだろう。でも、図書委員の気分に浸れるので、わたしは嬉しい。

 トゥーリには色違いの腕章を4つ頼むつもりだ。シュバルツとヴァイスとわたし、そして、新しいお友達であるハンネローレの分である。
 ハンネローレには本好き仲間として、ぜひ一緒に図書委員をしてほしい。嫌がられたら諦めるけれど、シュバルツ達とお揃いの腕章をして図書委員活動をするハンネローレはとても良いと思う。

「二年生になったら、わたくし、お友達と貴族院で図書委員として活動するのです。うふふん、楽しみ……あら?」

 すっと壁をすり抜けて、白い鳥が入ってきた。部屋をくるりと回って、バサバサと机の上に降り立つ。

「ローゼマイン様、エルヴィーラです。シャルロッテ様がまとめられた先日の質問への答えを送ります」

 お母様の声でオルドナンツが三回そう言った。直後、白い鳥がもう一羽飛んできて、机の上で手紙となって下りてきた。シャルロッテというより、側近の文官がまとめた劇的ビフォーアフターに関する回答だった。わたしはその手紙に目を通す。

 領地対抗戦でドレヴァンヒェルがネバネバの有効活用として下水道の作成や利用方法について発表したのは、もう八十年ほど昔のことらしい。そして、ドレヴァンヒェルの領主が自領の街にそれを取り入れ、汚物の臭いがなくなったこと、処理が簡単になったことなどを領主会議で述べ、貴族院の寮に取り入れる許可を王に願い出た。

 王の許可が下り、ドレヴァンヒェルの寮には下水を処理する下水路とネバネバが設置された。周囲に汚物を捨てるのが常だったが、それがなくなり、ドレヴァンヒェル寮の周囲は美しく過ごしやすくなる。
 それを確認した中央がその権利を買い取り、貴族院や王都を劇的ビフォーアフターで美しくし、ドレヴァンヒェルを褒めた。

 それからは各領地で劇的ビフォーアフターが流行し始める。領主会議で申請を出し、権利を買い取るお金を出し、許可を得てから行われるので、各領地に取り入れられるには当然のことながら数年単位ずつ時間差ができる。
 当然、この流行も上から下へと流れていくので、当時、小領地と並んで最下位から五本の指に入るエーレンフェストは、許可が下りるのも遅かった。ドレヴァンヒェルが取り入れてから十年以上が経過し、ようやく劇的ビフォーアフターができるようになる。

 ところが、そう簡単に事は進まない。許可が下りた時期が良くなかったのだ。アーレンスバッハの姫君が嫁いできたことで、次期領主と目されていた領主候補生が領地内の乱れを防ぐために、直轄地から土地を与えられて、伯爵に封じられた直後だった。
 優秀な領主候補生、その妻、次期領主と目されていたため、領主候補生として育てられていた彼の子供達、全てがエーレンフェストの街から出ることになり、一時的に領主一族の魔力量がガクンと落ちた時である。

 扱える魔力量が減っても、貴族社会では見栄を張ることが大事だ。エーレンフェストはまず他領の者から一番に見える貴族院の寮を劇的ビフォーアフターで改造した。その数年後に領主の城を。さらに数年後には貴族街を。
 下町は放置された。いずれ、余力がある時に直せばよい、と。残念なことに、エーレンフェストには余力ができなかった。そのまま時間が経過しているらしい。

 すでに下町が整備されていない理由さえ忘れられている。むしろ、知っている世代がいなくなりつつあるので、養父様に相談してみるとシャルロッテの手紙は結ばれていた。

「今までは注目される物がなくて、他領からやってくる商人が少なかったから良かったのかもしれないけれど、これからはどんどん来るから、何とかしなきゃダメだね」

 ……でも、今だって魔力に余裕なんてないよね?

 城や貴族街の劇的ビフォーアフターをした設計図は、領主にしか扱えない創造魔法に属する資料のため、領主の資料室にあるそうだ。養父様の文官に確認してもらったらしい。

 ……道理で、図書室の資料目録を作ったわたしが知らないはずだよ。そっちの資料室の立ち入り許可も欲しいなぁ。

「ローゼマイン様、神官長がいらっしゃいました」
「はい」

 わたしはシャルロッテの手紙を片付けながら、神官長を工房の方へ通してくれるように頼む。
 神官長の側仕え達が入ってきて、抱えている木箱が3つ、工房へと運び込まれた。側仕え達は出て行き、工房にいるのは神官長とユストクスとエックハルト兄様、わたしとアンゲリカとダームエルの六人となった。
 一応わたしが婚約済みなので、貴族の側仕えや護衛なしでは独身の神官長と会うのも良くないせいだ。

「これだけ人数がいると、ちょっと狭いですね」
「私の工房はもっと狭いし、魔力量の制限で君以外には入れないから仕方がなかろう。それに、これでも最低限の人数だ。城で調合しようと思えば、文官が数人、側仕えが数人ついてきて、もっと大人数になる」

 面倒くさそうにそう言いながら、神官長がユレーヴェ作りの時にも見た魔法陣の付いた布を広げ、何やら素材のような物を次々と取り出していく。無造作に取り出される素材の数々をユストクスがせっせと木箱に詰めていた。

 エックハルト兄様はすでに指示を受けているのか、持ち込んだ文箱から資料を取り出して、作業台に広げている。どうやら、ヒルシュールと神官長の研究結果がまとめられた資料のようだ。

「エックハルト兄様、見てもいいですか?」
「後で嫌でも見ることになるので、頭を退けてくれ。邪魔だ」

 神官長の命令遂行中のエックハルト兄様はつれない態度でわたしを追い払うと、資料を広げ続ける。

「ローゼマイン様、皆がお忙しそうな時は邪魔をしてはなりません。こういう時は一歩下がって黙っていると良いですよ。そうすれば、滞りなく準備が整っていますから」

 何もしないのが一番の手伝いである、とアンゲリカは両親に言われた言葉を教えてくれた。なるほど、確かにアンゲリカは頭脳労働関係の話をしている時は一歩下がって、皆を見守っているような穏やかな笑顔を浮かべていたことを思い出す。無関係を装いたい時は一歩下がって微笑むらしい。アンゲリカについて、また変な知識が増えた。

「神官長、準備が整ったら声をかけてくださいませ」

 工房にいても何もすることがなく、準備ができるまで邪魔扱いされることになるので、わたしは予定通り読書をすることにした。「待ち時間に読書をするなんて」とアンゲリカに驚かれたが、皆が準備している中、工房の隅の方で集中して身体強化の訓練をこっそりとしていたアンゲリカだけには言われたくないものである。



「まず、これを見なさい」

 作業台として使われている机の上の資料を指差して神官長がそう言った。わたしはお行儀が悪いことを一言断った上で、椅子の上に膝立ちになり、身を乗り出して覗き込む。
 複雑な魔法陣が個別に大きく描かれた紙が十枚、そして、全ての魔法陣を重ね合わせた時のデザインが描かれた大きめの紙が一枚ある。

「フェルディナンド様、わたくしのマントにもこの魔法陣を刺繍しても良いですか!?」

 アンゲリカが目を輝かせている。改良した魔法陣は開発した者の物なので、許可が必要になるらしい。アンゲリカのお願いに、神官長は虚を突かれたような顔になった。

「……計算機が動かせぬ其方が刺繍などできるのか?」
「できます。やります。この魔法陣はとても素晴らしいです。わたくしのマントに刺繍する許可をくださいませ」

 アンゲリカの目が輝いてキラキラしている。刺繍させてくださいと頼み込む姿は、お裁縫好きで可憐な姫君だ。

「衣装作りに役立てば、その時は許可する。この辺りの刺繍を手伝いなさい」
「お任せくださいませ」

 ……アンゲリカ、残念な子だと思ってたのに、意外と女子力高かった。わたし、負けてる。

 アンゲリカに負けていることに肩を落とすわたしに、神官長は説明を続ける。

「図書館の魔術具の衣装には守りの魔法陣が複雑に縫い込まれていた。それは知っているな?」
「はい」
「ヒルシュールと私の研究で、今までの物に改良を加えることはできた。これから先は、新しい衣装作りをすることになる。素材を揃えて、調合し、材料を作り上げなければならない」

 本当はヒルシュールのように、シュバルツとヴァイス自体の研究も進めたいが、衣装作りが最優先だと神官長が呟いた。それには心から賛同する。衣装を作った後でじっくり研究して欲しい。衣装の研究は終わったと、今、衣装作りを放り投げられたら困る。

「素材を揃えるって、また採集の旅に出るのですか?」
「いや、素材は私が持っているので問題ない。採集に時間を取られると間に合わぬ。魔力を通し、魔法陣とするための糸や魔力を溜めておくための魔石を、魔術具の主である君の魔力で作らなければならないのだ」

 魔法陣として活用するためには魔法陣となる糸にもわたしの魔力が必要で、わたしの魔力を溜めておくための魔石も必要になるらしい。

「……素材の提供って、神官長の負担が大きくないですか?」
「新しい衣装と引き換えに、これまで着用していた衣装をもらえればそれでよい。同じ数だけ魔石が付いているし、糸や布も研究したいからな」

 そちらが目的だと言いたそうな神官長の笑みに、わたしはシュバルツとヴァイスの古い衣装が出て来ない理由を悟った。きっと新しい衣装を作った後、放出した素材を回収したり、前任者の魔術を研究するために分解されたりしたに違いない。

「ボタンの魔石だけでも、今までの魔石を使うわけにはいかないのですか?」

 最後の最後にボタンだけでも付け替えができたら、余分な素材も使わずに済むし、調合も必要なくなる。時間や魔力の節約になるのではないだろうか。
 わたしの提案に神官長は首を振った。

「使えないわけではないが、魔力の効率を考えると、自分の物に変えた方が良い。君はいつでも貴族院へと赴けるわけではないのだから、少しでも効率的な魔石にしておきなさい」

 途中でいきなり動かなくなる魔術具では困るだろう? と言われて、わたしは頷いた。春から秋の間、数回は貴族院の図書館に魔力供給のために、と言って読書に向かうつもりだが、わたしが行くのに間に合わず、シュバルツ達が動かなくなるのは困る。いきなり動きを止めたら、ソランジュが驚いて悲しむだろう。

「衣装の作り方だが、まず、魔法陣を刺繍するための糸を準備するところから始める。主である君が刺繍しなければならないため、時間が必要だろう?」
「はい!? わたくしが全部刺繍するんですか!?」

 主であるわたしが刺繍、と言われて、頭が真っ白になった。ヒルシュールはエーレンフェスト全体で取り組む課題になると言っていたので、刺繍のような細かい作業はそれが得意な女子力高めの女の子達にお願いするつもりだったのだ。

「この辺りの魔法陣を誤魔化すための刺繍は他の者でも良い。君が刺繍するのは、この魔法陣だけだ」
「だけって……いっぱいあるじゃないですか!」

 個別に描かれている魔法陣を十枚指で示されて、わたしはげんなりとする。一つでも複雑で嫌になるような細かさなのに、それを十個も、次の冬までに刺繍するなんて無理だ。わたしにはそんな時間はない。

「これでも改良の時点で統合した魔法陣があるのだから、数は減っているぞ。それに、あの魔術具にはそれだけの守りが必要なのだろう? 主の役目だ。しっかりしなさい」
「刺繍じゃなくて、染めではダメなんですか!? 魔力で染めれば、効果としては同じだと思うんですけれど」

 刺繍よりはまだ描く方がマシだと思う。わたしの主張に神官長は目を細めながら首を振る。

「刺繍が一番確実に布へ魔法陣を固定できる。染めは染料が滲んで細かい図案が描けぬし、魔力濃度の高いインクが必要になるので、糸を作るより魔力の無駄遣いになるのだ」
「……だったら、『友禅』みたいに染料が滲まないように『糊』を使うのはどうでしょう?」
「ユウゼン……? ノリとは一体何だ?」
「防染剤なのですが……」

 友禅と言ったために、頭に思い浮かんだのは米糊こめのりだ。しかし、米糊はここではできないと思う。代わりになる物が必要だ。

 ……米糊がダメなら、玉糊(たまのり)もダメでしょ? ちょっと待って。友禅にならないかも!? えーと……ここですぐに手に入りそうな物って何がある?……あ! 蝋結染(ろうけつぞめ)なら大丈夫かも!

 内心で慌てふためいていた様子を見せないように笑って見せる。

「一番わかりやすく、調達しやすいのは、(ろう)ですね」
「蝋とは、神殿で明かりに使う蝋燭(ろうそく)の蝋か?」

 側仕えが多くいる城では魔術具の明かりが使われることが多く、あまり蝋燭が使われることはない。わたしにとっては下町時代から馴染んだ明かりだが、神官長にとっては神殿で使う物らしい。

「熱して溶かした蝋で線を引きます。冷めると蝋が固まるでしょう? その蝋が染料の滲みを防いでくれるのです」
「ほぉ、蝋にそのような使い方があったのですか?」

 ユストクスの目が楽しそうに細められる。下町の知識だろう、と見当をつけたようで、楽しげに表情が動いた。このままでは他の利用方法を探して下町をうろつきかねない。

 ……ヤバ! なるべく早くギルベルタ商会に広げなきゃ!

「わたくし、刺繍の技術は全く足りませんが、魔力は薬を飲んで回復すれば何とかなります。染めましょう。刺繍は冬までにできる気がしません」

 神殿の業務、印刷業と忙しいのだ。ちまちまと刺繍をしている時間などない。

「花嫁修業と思って頑張りなさい」
「……婚約解消しましょう。お嫁に行かなかったら、練習しなくていいと思います」
「それが許される立場でないことはすでにわかっているだろう? この馬鹿者」
「わかってますよ。言ってみただけです」
「その言ってみただけ、で足元をすくわれることもあるのだ。口に出す言葉には気を付けなさい」

 はい、と答えながら、わたしは魔法陣が描かれた紙を一枚手に取った。

「……ペンで描くのも難しそうですもの。本当に刺繍は無理だと思うのです。そんな細かくて複雑なこと、わたくしにできると思えません。魔力で染めるための染料はあるのでしょう?」
「ふーむ、魔力がきちんと残る染料か……。血で染めれば良いかもしれぬ」

 神官長が無表情に怖いことを呟いた。契約魔術の度に血を取られていた平民時代を思い出して、わたしは一気に血の気が引いていく。

「そんな怖くて痛そうなのは嫌です!」
「冗談だ。王族の魔術具に血染めの服を着せるのは、あまり見た目も外聞も良くないからな」
「神官長が言うと全く冗談に聞こえませんよ」

「だが、血に匹敵するだけの魔力が籠ったインクなど、調合するにも恐ろしく魔力が必要になるぞ」
「構いません。刺繍よりマシです」
「そう言いきれるローゼマイン様の魔力量が羨ましいです」

 魔力圧縮しても全く届きそうにないとダームエルが小さく呻いた。そんなダームエルの嘆きをフンと鼻息一つで流しながら、神官長の調合の講義が始まる。

「魔木や魔獣といった魔物から取れる素材には属性がある。緑は水の属性で、他の属性も神々の貴色と同じだ。それは知っているな?」
「はい、一年生の座学で習った分ですよね?」

 緑が水の属性、青が火の属性、黄が風の属性、赤が土の属性、白が命の属性、黒が闇の属性、金が光の属性だ。貴族院の一年生で神の名と共に覚えさせられるのだが、わたしは聖典を読んでいたので、すでに知っていた。これは各誕生季とも関係があるので、ほとんどの者が知っていたはずだ。

「そうだ。そして、材質としての特性も神々に通じる」
「それは二年生の分ですよね? 参考書を作るために予習しましたから、きちんと覚えてますよ」

 水の属性ならば、癒し、洗浄、変化などに効果がある。火の属性ならば、攻撃、増幅、育成など。風の属性ならば、防御、速さ、知識など。土の属性ならば、受容、忍耐、拡散など。それぞれの神々の特性に似通った効果が出るらしい。

 土の属性は他のどの属性と混ぜても混ざるし、いまいち相性が良くない属性同士を混ぜる時の緩衝材としても使われるとか、命の属性は基本的にどの属性とも反発して混ざりにくいとか、参考書には書かれていた。

 他には、人でも複数の属性を持つ者がいるように、素材の中にも複数の属性を持つ物があるので、反発しやすい属性は素材の時点で両属性を持つ物を使うと調合しやすいとあった。

「素材の品質によって、調合時に蓄えられる魔力量が変わる。高品質の素材を手に入れたければ、高魔力の魔物から採取する必要があるのは知っているな?」
「はい」

 ユレーヴェ作りの時に強い魔獣と戦ったことを思い出して、わたしはコクリと頷いた。弱い魔獣から得られる魔石と強い魔獣から得られる魔石では全く品質が違うことを知っている。

「これから作るインクで、君の魔力を定着させるためには、君の魔力をきちんと受け入れられる品質の素材が必要になる。インクは英知の女神に属する魔術具になるので、風の属性が最も高品質でならなければならぬ」

 そう言いながら、神官長は木箱をごそごそと探し始めた。当初予定していた糸を染める物とはまた違う調合が必要になるらしい。「本当に君は予定通りに行かない」と文句を言われたけれど、仕方がない。わたしが全部の魔法陣を刺繍するなんて無理である。

「品質が高い魔木の黄の素材に、効果を増幅させるための青の素材を加えて、耐性を上げるために赤の素材を加えておくか……」

 よくわからない干からびた木の根っこや液体の入った瓶や粉が並べられていく。並べられたところで、わたしにはどれがどの属性でどのような働きがあるのか全くわからない。

「神官長、素材の属性はどうすればわかるのですか?」
衣装作りのための魔術具作りが始まりました。
始まっただけです。何もできてません。
ローゼマインが刺繍なんてできない、とだだこねたせいです。
属性や素材の特性の説明はまた少しずつ、追々。

次は、インク作り。さっさと作りましょう。
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