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本好きの下剋上 ~司書になるためには手段を選んでいられません~ 作者:香月 美夜

第四部 貴族院の自称図書委員

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コンラートを神殿へ

「ローゼマイン様」

 リーゼレータと共に荷物の準備を終えたフィリーネが応接室へと入ってきた。ヨナサーラからコンラートを庇う位置に立っているわたしを交互に見て、安堵と諦めの表情が複雑に浮かぶ。

「フィリーネ、コンラートはわたくしと神殿に向かうことになりました」

 フィリーネは悲しげに眉を振るわせた後、コクリと頷き、不満と怒りに満ちた目で父親を見上げた。

「お父様、コンラートの魔術具はわたくし達のお母様の物ですのに、何故、ヨナサーラ様のこのような横暴を許すのですか?」

 継子に与えられるために奪われた魔術具はフィリーネの実の母親が元々使っていたものらしい。母の形見の魔術具がコンラートから奪われ、その魔力の登録が塗り替えられるのは許し難いとフィリーネが唇を震わせ、決断した父親と魔術具を奪った継母を精一杯睨みつける。

「もう魔力の登録が塗り替えられてしまったのだ。仕方がないだろう。……それに、魔力の強い者が跡取りになるのは当然だ」

 娘の必死の訴えを聞いてもシッカークの態度は変わらない。
 シッカークに言葉と想いが届かないことを実感したフィリーネの瞳に失望が広がり、ぽたりと涙が落ちた。ぎゅっときつく目を瞑り、フィリーネが俯く。

 ……奪われたのが亡くなったお母様の形見の魔術具だったなんて。

 貴族が魔力の強い者を跡取りとしたいのはわかりたくないけれど、わかる。けれど、それで子供から母親の形見を取り上げるのは理解できない。

「フェルディナンド様、赤子に与えられる魔術具はどのくらいのお値段なのですか?」
「新しく買おうと思えば、小金貨5枚はするのではないか? 素材も高いが、高い魔力がなければ作れぬからな」

 私は買ったことがないから知らぬ、と神官長が呟いた。結婚もしていない神官長が赤ちゃん用の魔術具の正確な値段など知るはずがない。

「フィリーネ、わたくしがお金を貸してあげましょう。あくまで貸すだけです。そのお金でお母様の魔術具を買いなさい。大事な形見ですものね」
「あのように古びた魔術具ならば、小金貨3枚もせぬ」

 神官長がそう言いながら、するりとギルドカードによく似たカードを出してくる。虹色に輝くカードを出して、シッカークへと向けた。

「シッカーク、その魔術具を売ってもらおう。小金貨3枚だ。不満はなかろう」

 神官長の言葉に軽く目を見開きながら、シッカークはコクリと息を呑んで同じようなカードを取り出した。カチリと音を立ててカードを合わせると、シッカークは赤子の魔術具へと手を伸ばす。

「これはこの子の魔術具ですわ!」
「別の魔術具を買えばいい」
「嫌です! いつ手に入るかわからないではありませんか!」

 ヨナサーラが抵抗したが、シッカークは頭を振って魔術具を取り上げ、神官長へと差し出した。
 神官長が受け取った魔術具をわたしの前にコトリと置く。わたしはフィリーネの母親の形見であるという魔術具をフィリーネに渡した。

「ありがとうございます、フェルディナンド様、ローゼマイン様」

 ぎゅっと魔術具を抱きしめて、フィリーネが泣いた。今度は嬉しそうに目を細めて。
 笑顔が戻ったことにわたしが安堵の息を吐いていると、一度俯いて、目元を拭ったフィリーネはクッと顔を上げて、強い瞳で父親と継母を見上げる。

「お父様、ヨナサーラ様、わたくしはローゼマイン様の側近としてお城で生活いたします。コンラートのいないここに戻ってくることはありません」

 さっと顔色を変える父親と安堵したように息を吐いた継母の表情が対照的に思えた。フィリーネは若葉の瞳に決別の光を浮かべて、口を開く。

「時の女神 ドレッファングーアの紡ぐ糸が重なる日はないでしょうけれど、神々の御加護と共に健やかに過ごされされますように」

 フィリーネはそう挨拶すると、コンラートと手を繋ぎ、自分の家を出た。



「ローゼマイン、今日、神殿へと連れて行くつもりか? 予定外だぞ、まったく」

 フィリーネ家から出た瞬間、神官長がじろりとわたしを見下ろす。まるで子供が捨て猫を拾って帰ってきたのを見て「元居た場所に返してらっしゃい」と目を三角にする母親のような顔だ。ここが神殿やわたしだけしかない場所だったら、間違いなく「何でもかんでも考えなしに拾ってくるな」と言われているに違いない。

 でも、わたしは知っている。文句は言うし、貴族としての立ち回りを優先するけれど、虐げられている子供には色々と思うところがあるらしい神官長はよほどの理由がない限り、見捨てることはしない。

「わたくし、神殿長で孤児院長ですもの。このような子供を見たのに、放置しておくなど、とてもできません。フェルディナンド様はできるのですか?」
「……仕方がない。この後、神殿に向かう……と言いたいところだが、君の護衛騎士は未成年者が多いから、城に戻さねばならぬ」

 神官長が未成年者の方が多いわたしの側近へと視線を向けてそう言うと、ハルトムートがニコリと笑った。

「フェルディナンド様、印刷業に携わる文官見習いは神殿への立ち入りや下町の商人との話し合いができることが条件に含まれております。私はぜひお連れください」

 仕事熱心というよりは、聖女の神殿に行ってみたいと顔に書いている気がするのは気のせいだろうか。だが、その条件ならば、フィリーネも連れて行ける。

「フェルディナンド様、文官見習いは良いのではありませんか? これから先、何度も神殿に足を運ぶことになりますし……」

 わたしが文官見習いへの許可を願うと、ユーディットが「はい!」と挙手した。

「ローゼマイン様、わたくしもアンゲリカと一緒に護衛騎士のお仕事がしたいです」
「文官見習いはともかく、護衛騎士見習いの仕事範囲は貴族街と決められている。これから先、神殿を騎士見習いの範囲に含めるかどうかはアウブ・エーレンフェストとの協議で決めるが、今日は戻りなさい」

 神殿の側仕えにこれから神殿に戻ること、同時に、一人の孤児を連れていくことを書いた白い鳥の手紙を書きながら、神官長はちらりとユーディット達に視線を向ける。
 神官長の命令には逆らえない。ユーディットは残念そうに項垂れながら、城に戻るための騎獣を出した。

「ユーディット、残念かもしれませんが、成人まではわたくしも神殿に入ったことはなかったのです」

 アンゲリカは自分の騎獣を出しながら「ユーディットも早く成人すると良いですよ」と少しばかり得意そうに胸を張る。ユーディットはそんなアンゲリカの言葉に笑顔を見せながら、「アンゲリカ、神殿はどのようなところなのですか?」と尋ねた。
 少し考えるように上を向いたアンゲリカがニコリと笑う。

「神殿はおいしいところです」
「え?」

 きょとんとするユーディットにわたしは軽く肩を竦めた。それでは通じないだろう。

「ユーディット、わたくしの専属料理人がいますから、神殿の食事は貴族院と同じ料理が出てきます。アンゲリカはそれを言っているのでしょう」
「えぇっ!? 騎士寮とは大違いではありませんか! ほ、他には? 他にはどのような……?」

 初めて知る神殿事情のようで、ユーディットが菫色の瞳を輝かせて、アンゲリカを見上げる。そうですね、と少しの間考え込んでいたアンゲリカがポンと手を打った。

「神殿は手強いです」
「はい?」

 またもや意味不明の言葉にユーディットが説明を求めてわたしを見たけれど、わたしにも意味がわからない。首を振るわたしを見て、アンゲリカが言った。

「神殿では全員が文官のような書類仕事もやらされます。訓練の相手はエックハルト様ですし、何においても手強い気がいたします」

 呆れるくらいアンゲリカ基準だった。
 神殿に入ったことがあるコルネリウス兄様は「神殿はそんなところじゃない」と頭を振っているし、入ったことがない人たちは首を傾げている。

「婚約者であるエックハルト様との訓練が楽しみだなんて、惚気ですね! 羨ましいです」

 ……え? 惚気? 今のは惚気に含まれるの?

 きゃあ、と華やいだ声を上げるユーディットの基準も理解不能だ。アンゲリカとユーディットの噛み合っているのか噛み合っていないのかわからない会話に皆がポカンとしているのだが、そのポカンにも色々と違いがあったようだ。
 アンゲリカの妹であるリーゼレータが大きく目を見開いて、わたしとアンゲリカを見比べる。

「全員が文官仕事……? まさかお姉様が書類仕事をしているのですか!?」
「いいえ、リーゼレータ。わたくしは扉を守っています。たった一人で」

 キリッとした顔でアンゲリカは言っているが、あぁ、書類仕事はできないよね、と納得したような見習い達の生温かい視線が向けられる。皆、アンゲリカの成績を知っているせいだ。

「お姉様が貴族院ばかりではなく、神殿でもローゼマイン様にご迷惑をかけているのではないと思いましたが、書類仕事には手を出されていないのですね。ホッといたしました。これからも、書類仕事には決して手を出してはなりませんよ、お姉様」
「わかっています。神殿の側仕え達は有能ですから、わたくしに書類仕事を任せようとはいたしません」

 アンゲリカが書類仕事を手伝ったら、一体どれだけ迷惑なのか、と不安になるようなことを言いながら、リーゼレータは自分の騎獣を出した。

「ローゼマイン、お喋りしていないで、君も早く準備をしなさい。君の騎獣にその子供と文官見習いを乗せるように。護衛対象はまとめておく必要がある」
「わかりました」

 城へと戻る見習い組を見送り、わたしはレッサーバスにハルトムートとフィリーネ、コンラートを乗せて出発である。

 家を出たことに安堵の表情を見せるコンラートとそんな弟を見て不安そうに表情を曇らせるフィリーネがぎゅっと手を繋いでいる。ハルトムートは大きいサイズのレッサーバスを間近で見ることがなかったせいか、乗り込んだ後、色々と見回しているのがわかった。

「ハルトムート、静かに座っていてくださいね。移動中の質問は受け付けません。集中できませんから」
「……どなたかが移動中に質問をなさったのですか?」
「ユストクスです」

 その様子が思い浮かんだのか、ハルトムートが小さく笑った。
 神官長の先導に続いて、レッサーバスを出発させる。

「わぁ!」

 騎獣に乗ったことがないコンラートが驚きの声を上げた。空を駆け、周囲を護衛騎士に囲まれながら、神殿へと向かう。
 下級貴族の家が集まっている貴族街の南、北門に近い場所にあるフィリーネの家から神殿まではそれほど遠くない。貴族門を飛び越えて、神殿の貴族区域の入り口へと到着した。

「おかえりなさいませ、神殿長、神官長」

 神官長の側仕えの他に、フランとモニカも出迎えに来ていた。新しい孤児がやってくるということで、ヴィルマも一緒だ。

「私は孤児を受け入れるための書類を作成するので、君はその子供に食事でも与えてやりなさい」
「はい」

 神官長に言われた通り、神殿長室にハルトムートとフィリーネ、そして、コンラートを連れて行き、食事の準備をしてもらう。

「突然のことで悪いけれど、よろしくね、ニコラ」
「もうじき4の鐘が鳴りますから、ちょうど良い時間です」

 ニコラが食事の準備をする間に、わたしはその場にいる神殿の側仕え達をハルトムートとフィリーネに紹介する。

「神殿でわたくしの側近をしているフラン、ザーム、モニカ、ヴィルマ。ヴィルマは孤児院の世話をお願いしています。料理の準備をしてくれているのがニコラで、工房にギルとフリッツがいます。追々、紹介しますね。そして、こちらがハルトムートとフィリーネ、わたくしの城での側近で文官見習いです。これから、印刷業に関することで神殿へと出入りすることになります」

 紹介しているうちにニコラがお皿を持ってやってきた。コトンコトンとお皿を並べていく。

「今日はふわふわパンと野菜のスープ、それに、ベーコンを焼きました。ローゼマイン様がお戻りになる予定ではなかったので、少し質素なのです。それから、他の皆様はこちらのお菓子をどうぞ。急いで作ったのですよ」

 ルムトプフとよく泡立てられてもったりとした生クリームが包まれたクレープが出された。わたしがそれを食べて見せると、皆が食べ始める。フィリーネとハルトムートがクレープを食べて目を丸くした。

「神殿ではこのようなお菓子が出るのですか?」
「ローゼマイン様のところだけですよ、ハルトムート。フェルディナンド様はそれほどお菓子に興味がないようです。どうです? 神殿はおいしいでしょう?」

 優雅にクレープを食べながら答えたのはアンゲリカだ。護衛騎士が食べる時は交互になる。いつだって先に食べるのは階級が上のアンゲリカだ。
 ダームエルはお腹を押さえながら、護衛任務についていて、お菓子に舌鼓を打つハルトムートとフィリーネに肩を竦めて見せた。

「この神殿の孤児院では青色神官の食事の残りが神の恵みとして与えられているので、騎士寮よりも味が良いと思う。量も決して少なくない」
「そうなのですか?」

 驚きに目を見張るフィリーネにダームエルは頷いた。

「青色神官の側仕えとなれるように、ローゼマイン様の工房で本を作る仕事をして働けるように、文字も計算も教えられる。神の教えにより、暴力を振るう者もいない。……あの家にいるより、コンラートの生活は格段に良くなるだろう」
「そのように言ってくださって、安心いたしました」

 ダームエルの言葉に、フィリーネが安堵したように息を吐いた。

「フラン、神官長がいらっしゃるまで少し時間があるでしょう? プランタン商会へのお手紙を書くので、ギルかフリッツに届けさせてちょうだい」
「本を売る日が決定したのですか?」

 そう言いながら、フランは手紙を書くための準備をしてくれる。工房ではすでに城での販売のための準備が整っているそうだ。

「ローゼマイン様、どのような手紙を書くのか拝見してもよろしいですか?」
「……えぇ」

 ハルトムートに見られるのであれば、きっちりとした堅苦しい言葉で書かなくてはならない。間違っても「貴族院で最優秀とったんだよ、すごいでしょ? うふふん」とは書けないのだ。
 文官達が出入りするようになると、手紙を書くのも一苦労になりそうだ、と思いながら、わたしはプランタン商会への手紙を書き上げた。

 その頃には神官長がコンラートを孤児院で受け入れるための書類を作ってやってきた。貴族の子が青色神官として預けられることはこれまでにもあったけれど、孤児院に入る前例はないので、記録を残しておきたいそうだ。

 テーブルでは神官長とわたしが並んで座り、フィリーネとコンラートが向かいに並んで座る。アンゲリカとハルトムートはわたしの後ろにつき、ダームエルが下げられていくクレープを未練がましく見つめる。食べ損ねたらしい。

「では、コンラートは一時的に孤児院で預かります。フィリーネがお金を貯めれば、孤児や灰色神官は買取りができますから、いずれ一緒に過ごすことができるでしょう」

 わたしの言葉に神官長が厳しい顔で首を振った。

「待ちなさい。どこで暮らすつもりだ? 君から一室を与えられて城で過ごすフィリーネが弟と過ごすことなどできぬ。自力で家を買えるくらい貯めねばならないということだ。簡単なことではない。……それに、それだけしても、その子供はもう貴族には戻れぬぞ」
「何故ですか? 魔術具も取り戻しましたし、洗礼式の年までにお金を貯めて戻すことができれば……」

 フィリーネの母親の形見である魔術具は取り戻した。あれに新しい魔石を入れて魔力を溜めながら、フィリーネの迎えを待てば良い。わたしはそう考えていたが、そう簡単なことではなかったらしい。
 フィリーネの母親の形見である魔術具を膝の上に置いて、悲しげに目を伏せて撫でながら呟く。

「ローゼマイン様、お金は貯めたり、借りたりできますが、魔力は溜められないのです」
「え?」

 意味がわからずに首を傾げるわたしに、神官長が軽く溜息を吐いた。

「跡取りにもなれぬ下級貴族の子供と領主の養女となれる君を同じに考えてはならない。洗礼式前から自力で圧縮していた君と違って、誰もが君のように魔術具も必要ないくらいの速さでいくつも魔石を染められるわけではない。他人の魔力が混じらないようにするための魔術具を使って、何年もかけて講義に使う魔石をいくつも準備するのだ」
「フェルディナンド様のおっしゃる通りです。コンラートはもうじき5歳になります。今まで溜めてきた魔石もなくなりました。……今からでは魔術具と魔石があっても間に合わないのです」
「そんな……」

 あの虐待親から切り離して、わたしが後援をすれば、二人は姉弟として仲良く暮らせると思っていた。けれど、貴族としての常識ではできないことらしい。
 わたしがコンラートを貴族社会に戻すつもりだったことを知った神官長が溜息を吐いて首を振った。

「ローゼマイン、神殿長であり、孤児院長である君にできるのは、親に不要とされた子の命を救うことで、貴族としての生活を保障することではない。履き違えぬように。それから、自分の側近一人だけを依怙贔屓しているように見えるのは問題だ。言動にはくれぐれも気を付けなさい。君は領主の養女であり、神殿長という役職に就いているからこそ、越えてはならない線がある」

 指摘されたわたしはグッと奥歯を噛んだ。その通りだ。同じように連れて来られた貴族の子がいてもわたしは全員に同じことはできない。自分の気分で優劣を付けていては、前神殿長と同じだ。

「ローゼマイン様、そのように落ち込んだお顔をしないでくださいませ」

 フィリーネがコンラートへと視線を向けた後、ニコリと笑う。

「コンラートが生きていける場所があるだけで、わたくしは安心したのです。あのままはるか高みへと昇ることになるのでは、と思っていましたから。その上、ローゼマイン様はお母様の形見を取り戻してくださいました。感謝しております」

 一生懸命にお仕えして、なるべく早くお金は返します、とフィリーネが言った。

「そして、できれば、お金を貯めて、コンラートを買い取り、貴族同士でなくても一緒に暮らしたいです。わたくしの唯一の弟ですから」

 フィリーネの笑顔を見て、一緒に笑い合ったコンラートを見て、やっぱり思う。生きていてほしい、と。魔力の優劣で比べられ、あのように魔術具を取り上げられて、死んでいく子供はいない方が良い。

「……フェルディナンド様、コンラートのような子供は珍しくないのですか?」
「魔術具が高価だからな。下級貴族には他にもいるのではないか?」
「同じように辛い目に遭っている貴族の子を何とか救えないでしょうか?」

 できれば、平民の身食いも含めて、と言ったわたしの言葉に神官長だけではなく、ハルトムートやフィリーネまでが呆れたような顔になった。

「印刷業に加えて、そのようなところにまで手を伸ばすつもりか? 馬鹿だろう、君は」
「でも、気になるではありませんか。それに、魔力不足の今はそのような子供を孤児院で受け入れられれば、少し変わると思うのですけれど……」

 エーレンフェストの魔力不足は深刻だ。少しの魔力でも掻き集めたいのが現状なのである。

「魔力不足の今は、だ。貴族の数が満ちればどうする? 不要なところが削られるようになるのだぞ。感情的にならず、先を考えなさい。君は基本的に目の前しか見ないだろう」

 わたしはうっと息を呑んだ。神官長の言うことはもっともだ。けれど、魔力を持っていれば、できる仕事の範囲も増えると思う。土地の魔力を満たすことができれば、次の仕事を見つければ良いだけだ。

 ……何ができるだろう?

 貴族としては扱われない魔力を持った灰色孤児達を社会の役に立て、自分達を賄うためのお金を稼ぐ道を作れば良いのだ。貴族としては生きていけなくても、他の生き方もある。死ぬよりはよいと思う。

「待ちなさい。考えなくてよい」
「え?」
「君が考えると、大体の場合、とんでもない方向へと事態が動く。今は余計なことを考えず、自分の仕事をまず片付けなさい。そのような大きな課題はアウブ・エーレンフェストの判断も必要になる。考えるのは止めなさい」
「わかりました」

 ……それでも、わたしは考えるよ!

 テーブルの下でグッと拳を握る。その途端、隣で神官長が溜息を吐いた。

「全て顔に出ているぞ」

 慌てて頬に手を当てると、神官長がじろりとわたしを睨んだ。
フィリーネはコンラートを孤児院へと入れました。
これからコンラートはディルクと共に魔力を持つ孤児として育つことになります。
ローゼマインが余計なことを考えそうで警戒中の神官長。

次は、本の販売です。


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気になる方はご覧くださいませ。
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