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本好きの下剋上 ~司書になるためには手段を選んでいられません~ 作者:香月 美夜

第四部 貴族院の自称図書委員

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シュタープの基礎

 基礎的なシュタープの使い方に関する実技の日まで、また数日の余裕があった。わたしは絵本の原稿作りや二年生の予習をしながら、毎日を過ごしていた。
 シュタープの使い方をマスターすれば、晴れて図書館へ行けるのである。わたしはシュタープの使い方の基礎を教えてくれる実技がある日を指折り数えて待っていた。

「今ばかりはローゼマイン様の優秀さが恨めしいですわ」
「本当に」

 音楽の先生方とのお茶会を早く設定したいブリュンヒルデやわたしと共に図書館に行ってシュバルツとヴァイスの採寸をしようと考えている女の子達が、座学の合格を全て得ようと、今必死で勉強をしている。

「ローゼマイン様、あまり急いで合格しなくてもよろしいのですよ」
「このままでは、わたくしシュバルツとヴァイスの採寸に行けなくなるかもしれません」

 一発合格を狙っていた時の一年生のような必死の形相で女の子達が勉強している。それにつられるように、座学が残っている男の子達も勉強に力が入っていた。
 そんな多目的ホールを見回し、わたしは笑顔で首を振る。わたしは図書館に行くのをこれ以上待つつもりはない。

「わたくしは急いで合格して、急いで図書館に行くのです。一日も早くシュタープの講義が始まってほしいくらいですわ」

 絶対に一度で合格するのだと張り切っていたら、ハルトムートが小さく笑った。

「シュタープの基礎を学ぶのはそう簡単ではありません、ローゼマイン様。下級貴族は本当に期間いっぱいかけて習得するものなのです。領主候補生でも初日に合格した者の話は滅多に聞きません」

 さすがに無理ですよ、とハルトムートは言ったけれど、そう言われると意地でも合格したくなる。

「わたくし、合格に向けてできる限り努力します。図書館に向かうためならば、いくらでも努力できるのです」
「そうですわ、ハルトムート。図書館を前にしたローゼマイン様がこの快進撃を止めるはずがありません。最速で合格することを念頭に置いて、側近であるわたくし達は予定を立てなければならないのですよ」

 あの勢いで図書館に籠られては、お茶会の予定を立てるのも難しいではありませんか、とブリュンヒルデが呟きながら、参考書に視線を落とす。ブリュンヒルデは今握っている参考書の講義に合格すれば、座学が終了するらしい。

「なるほど。図書館のためならば、一切の手抜きもしない。全力で立ち向かうということですか」
「そういうことです」
「では、私はローゼマイン様が新しい伝説を作られるのを心待ちにしております」

 そんなハルトムートの激励をもらってしまった。

 ……新しい伝説と図書館か。……どうしよう?

 これ以上噂を盛られるのは、正直なところ避けたい。埋没した平穏な生活は必須だ。だが、平穏な生活のためには図書館が必須だ。どちらを取るべきか。これは非常に難しい問題である。

「ぜひ、新しい伝説を作りましょう」
「ローゼマイン様、目立つのを避けたいならば、一度くらいは合格を先送りしても良いのではないですか?」

 そんな側近達の声に送られて、わたしはシュタープの基礎を教えてくれる実技へと向かった。いつも通りの小広間へと、わたしはヴィルフリートや上級貴族達と一緒に入っていく。

 ヒルシュールとルーフェンが入ってきた。今日の先生はこの二人のようだ。ルーフェンが拳を握ってシュタープの説明を始めた。

「シュタープは自分の中に神の意志を取り込んで初めて使えるようになる、貴族しか使えぬ道具だ」
「最奥の間で得られたのは、自分に最も相応しい石です。自分の魔力と最も馴染みが良く、きちんと取り込むことができれば、非常に効率的に魔力を使うことができるようになります」

 貴族として認められるためには、「神の意志」を取得できるだけの魔力量が必要なのだそうだ。その選別が洗礼式で行われる魔力量の確認らしい。

 神が初代の王に与えた物の一つが、このシュタープだ。それまで自分の魔力を持て余していた王は、神に与えられたシュタープにより、自身の魔力を自由に扱うことができるようになった……と聖典の建国神話には書いてあった。聖典にあることが完全な事実かどうかは知らないけれど、その話の元になるような出来事はあったのだろう、と今では素直に考えられる。

「最初はシュタープの形を作るところから始めます。各自、自分が扱いやすいシュタープを作り出してくださいませ。安定して出すことができるかどうか確認するために、シュタープを出すのと消すのを三回繰り返して行っていただきます」

 ヒルシュールが「安定して形が作れるようになれば、わたくしのところへ来てください」と言った。

「よし、すごいシュタープを作ってやる」

 誰しも考えることは同じなのだろう。シュタープの形や大きさに凝ろうと、皆が自分のシュタープを出し始めた。魔力の扱いに多少なりとも慣れている領主候補生は、どのようなシュタープが自分に相応しいのか考え、最高のシュタープを作り出そうと躍起になっている。魔力の扱いに慣れているとは言えない上級貴族は、シュタープの形を作るために自分の魔力を動かすところで、すでに難儀していた。

「私はカッコいいシュタープを作るのだ。ローゼマインはどのようなシュタープにするつもりだ?」

 ヴィルフリートが楽しそうに深緑の瞳を輝かせながら、わたしを覗き込んできた。わたしは「神の意志」を取り込んだ日に、ベッドでゴロゴロしながら一通り遊んだので、シュタープのデザインにこだわるつもりは全くない。シンプルなのが一番だという結論に、すでに達しているのだ。

「……わたくしは、他の大人が持っているような普通のシュタープです」
「何だ、それは。つまらぬではないか。もう少し凝った方が良いのではないか? 騎獣があのように変わっているのだ。其方のシュタープも変わっていたところで、誰も驚かないぞ」
「シュタープは凝る必要がないのですよ」

 納得するまで凝ると良いよ、と心の中で呟きながらヴィルフリートの健闘を祈ると、わたしはヒルシュールのところへと向かった。

「あら、ローゼマイン様。どうされました?」
「シュタープを作ります。見てください」
「……こっそり練習していましたね」

 軽く肩を竦めたヒルシュールに促され、わたしはシュタープを形作った。魔力を動かして、三回きちんと同じ形のシュタープを作ってみせると、ヒルシュールが少し目を丸くして、ハァ、と息を吐く。

「素晴らしい安定具合です。次の段階に進んでも全く問題なさそうですね。次はシュタープを使って、魔術具に魔力を込めるのが課題です。ルーフェン、魔石の準備はできておりますか?」
「あぁ、ヒルシュール。できている」

 自分の腰に下げている革袋を軽く叩きながら、ルーフェンが生徒達の少ない離れた場所へと向かって歩いていった。その様子を見ながら、ヒルシュールがわたしに次の課題を教えてくれる。

「ローゼマイン様、あちらでオルドナンツの作り方をルーフェンが教えてくださいます。オルドナンツをわたくしに飛ばしてみてください」
「はい」

 わたしがコクリと頷くと、ヒルシュールはニコリとした笑顔を浮かべたまま、声を潜めた。

「オルドナンツは少量の魔力でも形が作れることから教材として選ばれています。できるだけ注ぐ魔力は抑えてくださいませ」
「わかりました」

 わたしは魔術関係の座学で学んだことだが、オルドナンツを作るための魔石は普通の魔石ではない。一度調合されてできあがった、用途が限定されている魔石だ。形が魔石なので、皆が魔石と呼ぶけれど、厳密には魔術具の一種なのである。

 同じように用途が限られていて、生活の中でよく使われているのは、緑の魔石だそうだ。これは側仕えがよく利用する物で、水瓶と水差しを繋ぐために使われているらしい。水差しの底にはめ込まれている魔石をシュタープで叩くと、ずっと水が出てくるのだそうだ。専らお風呂に水を満たすために使われている。

 ルーフェンのところへと行くと、見覚えのある黄色の魔石を手渡される。わたしが自分の手のひらにある魔石を見ていると、ルーフェンが口を開いた。

「オルドナンツの使い方を覚えておかなければ、他人に声を届けることができぬ。これは、仕事をする上で専門に関係なく誰もが使うので、オルドナンツは使えるようになっておかねば、見習い仕事にさえ困ることになるぞ。いいか?」
「はい」
「返事が小さい!」
「はいっ!」

 精一杯返事をすると、「その意気だ」とルーフェンは満足そうに笑った。だが、わたしはこの熱血具合にどこまでついて行けるか、少し不安になる。魔力に問題がなくても、体力には大きな問題があるのだ。

「まず、こうしてシュタープで軽く叩きながら、この魔石に魔力を注いでオルドナンツを作る」

 ルーフェンの手本を見ながら、わたしは手渡された魔石を左手の手のひらに置いて、右手に出現させたシュタープを握る。そして、ヒルシュールに注意された通り、できるだけ魔力を少なめに注いだ。
 シュタープは自分の魔力を効率的に使えるというのは本当のようで、今までの感覚がバケツでだぱっと注ぐような感じだったのが、水道の蛇口で量が調節できるようになったように感じる。

 シュタープで軽くコンと魔石を叩くと、黄色の魔石が見覚えがある白い鳥へと変化していった。
 バサリと一度羽を広げた白い鳥が、わたしの腕につかまって、羽を畳む。重さはほとんど感じない。不思議な存在に、わたしは大きく目を見開いた。

 ……うわぁ、わたし、とっても魔法使いの気分。

 自分の意志で自由に魔力を扱うための道具であるシュタープが出てきて、それで黄色の石を叩いたら、白い鳥になるのだ。いつの間にか、わたし自身が完全にファンタジーな存在になっている。

「お、上手にできたじゃないか。では、オルドナンツが口を開けたら、声を乗せてみろ」

 オルドナンツが、かぱっと口を開くのを待って、わたしは声をかけた。

「ローゼマインです。ヒルシュール先生、オルドナンツができました」

 わたしが言葉を切ると、オルドナンツが口を閉ざす。これでよし、とヒルシュールに向かってオルドナンツを飛ばそうとしたら、ルーフェンが自分のシュタープを指示棒のように軽く振った。

「まだ他にも言いたいことがあれば、もう一度シュタープでくちばしを叩けば、口を開けるからな」

 それは初めて知った。ほぅほぅ、と頷いて、わたしは一度オルドナンツのくちばしを叩いてみる。かぱっとオルドナンツが口を開けた。

「……どうしたら閉じるのですか?」
「声をかければ閉じる。……ほら」
「え? と、取り消しはどのようにするのでしょう!?」

 間抜けなやりとりまで初めてのオルドナンツで送りたくない。わたしの質問にルーフェンが笑いながら「シュタープで魔力を吸収すれば、元の魔石状態に戻る」と教えてくれた。わたしはシュタープで魔力を丁寧に吸収して、もう一度声を録音し直した。

「声を乗せたら、ヒルシュールの元へと飛んでいくことを考えながら、魔力で押し出すようにシュタープを振るんだ」

 力一杯やれ! とルーフェンが言ったけれど、わたしが力一杯振ったら、魔力が多すぎると思う。特にすぐ近くに見えているヒルシュールに飛ばすのだから、魔力はほとんど必要ないと思う。
 そっと押し出すように、わたしはシュタープを振った。
 オルドナンツはヒルシュールの元へと飛んでいき、わたしが知っている通り、三回同じ言葉を繰り返し、喋った。

 その後、ヒルシュールの伝言を抱えたオルドナンツが飛んできて、「よくできましたね。ローゼマイン様、次の課題へと進んでください」と三回言うと、黄色い魔石に戻った。
 わたしはその魔石をルーフェンに返す。

「次の課題は何ですか?」
「シュタープで魔力を打ち出す訓練だ。単純に魔力を打ち出して攻撃にすることもできるが、今回はロートを打ち上げるのが課題だ。ロートは救援を求めるための赤い光だ。これができれば、何かあった時に救援が呼べる。騎士が駆けつけてくれるはずだ」

 そう言って、ルーフェンが自分のシュタープを出して、ロートの打ち上げ方を教えてくれる。

「こうして、シュタープの先に魔力を集めてくる。体中からぐっと……」

 ルーフェンがそう言いながら、シュタープの先に魔力を流しているようで、拳大の光がシュタープの先に集まっていく。すぐにパチパチと静電気が弾けるような音がし始めた。

「ロート!」

 ルーフェンがそう叫んで、大きくシュタープを上に向かって振り上げると同時に、赤い光が天井に向かって打ち付けられ、しばらくすると消えていく。白い天井にはもう何も残っていない。

「創造魔法の建物は魔力では傷が入らないし、ロートが突き抜けていくこともない。安心して自分の全てをぶつけるんだ」
「あの、ルーフェン先生。全てをぶつけるのは構わないのですけれど、本日の実技はこの課題で終了ですか?」

 全部ぶつけたら、この後困るではないか。そう思って質問すると、ルーフェンが何故か驚いたように何度か目を瞬いた。

「課題はまだある。だが、まさか、今日中に全ての課題を終える気か?」
「はい。そのつもりですけれど、何か問題がございますか?」
「……いや、魔力を温存しておいた方が良いのではないか、と思っただけだ」
「でしたら、この課題で全てをぶつけるのもおかしいですよね?」
「う、うむ。まぁ、いい。程々に全力でぶつかっていくんだ」

 ……わけがわからないよ。程々に全力って、つまり、どうするの?

 とりあえず、まだ他にも課題があることがわかったのだから、ルーフェンの言葉は適当に聞き流して、魔力は温存方向で行きたいと思う。
 わたしはルーフェンがしていたように、シュタープの先にゆっくりと魔力を流していき、大人の拳くらいの大きさまで魔力を溜めていく。シュタープの先に集まった魔力がじわじわと順調に大きくなっていった。

「よし、いいぞ! その調子だ! もっと大きく! どんどん魔力を注いで!」

 ……でも、ホントにこのシュタープってすごいね。

 自分の魔力を最も効率的に扱うことができる道具というのは、誇張でも何でもない。不安定で細かい調整が難しかったわたしの魔力がずいぶんと扱いやすくなっているのだ。まるで、ユレーヴェを使って眠る前と同じような感覚で、魔力を扱うことができる。

「さぁ、放て! ロートと叫んで力一杯空に向かって打ち上げるんだ!」

 ……天井ですけどね。

 わたしはシュタープを握った右手を高く上げ、拳大になった光を天井に向かって打ち上げる。

「ロート」

 赤い光が天井に向かってまっすぐに伸びた。魔力の調節もきちんとできているようだ。わたしは何事もなく課題を終えたことに安堵の息を吐いた。

「よし、合格だ。……だが、そろそろ魔力が足りなくならないか?」

 ルーフェンが周囲を見回しながら、少しだけ心配そうにそう言った。わたしもつられて周囲に視線を向ける。
 どうやら、上級貴族はシュタープを作り出すための魔力の扱いで、すでに疲れているようだ。そして、カッコいい自分だけのシュタープを作り出すことに夢中になっていた領主候補生は、かなり魔力を無駄遣いしていたようで、疲れたように座り込んでいる。
 ヴィルフリートはずいぶん張り切ってシュタープを作ろうとしたのか、最初の位置から一歩も動いておらず、疲れた顔になっていた。

 自分だけのオリジナルシュタープの形にはこだわらず、シンプルなシュタープを作った者だけがオルドナンツに挑戦している。それでも、相当に疲労感があるのか、オルドナンツに挑戦する手前で辞めている者もいれば、オルドナンツを作り上げた後にぐったりしている者もいるようだ。

 ……わたし、本当に魔力量は規格外なんだ。

 軽く目を閉じればわかるが、わたしの魔力にはまだまだ余裕がある。

「どうする? 次の課題にも挑戦するのか?」

 周囲と足並みを揃えて埋没する方を選択するか、規格外だと言われようと一刻も速く図書館に向かう方を選択するか、ほんの一瞬だけ悩んだ。

「次の課題に挑戦します」

 わたしがそう言うと、ルーフェンが軽く目を見張った。その後、「自分の限界に挑戦するのも人生には必要だ。よし、やってみろ!」と熱意に燃えた目で、次の課題を教えてくれる。

「最後の課題だ。魔力を含んだ道具として使えるように、シュタープを変形させる」

 わたしが一番目にしている変形は、騎士達が戦う時にシュタープを武器に変化させるというものだった。だが、一年生の課題はシュタープをナイフとペンと混ぜ棒に変化させるというものらしい。

 ふむふむ、と聞いていると、ヒルシュールがこちらに向かって歩いて来るのが見える。どうやら、他の生徒達は先に進まず、全員がリタイアしたようだ。
 魔力の使い過ぎでぐったりとしている生徒達を見回し、ヒルシュールが口を開く。

「シュタープを変形させる訓練は非常に大事です。来年は魔術具の調合の基礎を学びますが、その時にシュタープを変形させたナイフとペンと混ぜ棒が使えなければ、調合の成功率が大きく下がりますからね」

 魔術具の調合を主に行っているヒルシュールの言葉に生徒達が表情を引き締めた。ナイフで素材を刻み、ペンで魔法陣の書き込みをし、混ぜ棒で魔力を注ぎながら調合鍋をかき混ぜなければならないそうだ。
 ただ、ユレーヴェ作りを行ったわたしは知っている。別にシュタープがなくても、代用できる魔術具があれば調合はできることを。

「どのようにすれば変形できるのですか?」
「まず、ナイフから始めましょう。シュタープを出し、どのように変化させるかを頭の中にハッキリと描きます」

 ヒルシュールに言われるまま、わたしはシュタープを出した。そして、神官長が調合の時に使っていたナイフを思い浮かべる。「メッサー」と声を出したヒルシュールにつられるように、わたしも「メッサー」と唱えた。

「あ……」

 シュタープが形を変え、ナイフとなって自分の手に握られていた。ヒルシュールを見ると、その手にもよく似たナイフが握られている。

「大変結構です。リューケンと唱えて、変形を解除してください」

 わたしはナイフを握って、「リューケン」と唱えた。すっと形を戻したシュタープがそこにあった。
 おぉ、と周囲から感嘆の籠った声が上がる。

「では、ナイフと同じようにペンと混ぜ棒も作ってみてくださいませ」

 ヒルシュールに教えられるままに「スティロ」と唱えてペンを、「バイメーン」と唱えて混ぜ棒を作る。

「……まさか初日で全ての課題に合格するとは思いませんでした。フェルディナンド様以来の快挙ですよ。さすが愛弟子ですね」

 呆れたような溜息を吐いたヒルシュールの言葉に、生徒達が驚いたように顔を見合わせた。ざわざわとし始めて、その声の一部が届いて来る。

「エーレンフェストのフェルディナンドといえば……あの有名な?」
「確か、宝盗りディッターで有名だっただろう? 用兵が巧みと聞いたぞ。その者がいる年だけ、我が領地は優勝を逃したのだと語り継がれている。其方達はあれがいなくて幸いだ、と言われたぞ」
「いや、次々と魔術具を発明した天才だったはずだ。私の叔父上は彼から大量の魔術具を買っていたから間違いない」
「周囲の魔物を狩りつくす勢いで素材を採集していた戦闘狂だろう? 質の良い素材は大体彼が持っていったと聞いたことがある」
「フェシュピールの名手ではなかったか? 私の叔母がそれは素晴らしい演奏だった、と……」
「一体どれが正しいのだ!?」

 ……どれも多分正しいですよ。領主候補生であり、騎士見習いであり、文官見習いであり、全てで優秀な成績だって聞きましたから。

 わたしは改めて他領で語られている神官長の偉業に目を瞬いた。神官長の超人的な評価は単なる身内贔屓でもなかったらしい。

「フェルディナンドの愛弟子が領主候補生として存在するならば、エーレンフェストの成績が突然上がったのも納得できるぞ」

 周囲の話題が神官長のものへと移っていき、皆が自分の知っている神官長伝説を語り始める。絶対に神官長だけではなく、何人分もの伝説が混じり始めたな、と思うくらいに噂話が盛られてきた頃には、わたしへと注がれる視線がぐんと減っていた。

 ……すでに何かやらかした天才がいると、わたしが目立たなくていいね。



 周囲が神官長だけではなく、過去の伝説級の生徒の話で盛り上がる中、ヒルシュールがわたしに声をかけた。

「いちいち目を閉じて、その形を思い浮かべなくても、呪文と共にすぐに変形ができるように慣れておいてくださいね」
「はい」

 ……やった、やった。全部合格したよ! これで図書館に行けるー!

 基礎的なシュタープの使い方でした。
 ヴィルフリートは何とかカッコいいシュタープができないものか、まだ考えています。
 ローゼマインの伝説は、フェルディナンドの伝説にとってかわられました。

 次は、お茶会に関する打ち合わせです。
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