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本好きの下剋上 ~司書になるためには手段を選んでいられません~ 作者:香月 美夜

第四部 貴族院の自称図書委員

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初めての土の日

 やっとのことで自室にたどり着いた。ベッドに魔石を置くように、と言われ、わたしはリヒャルダに言われるままに、ベッドに魔石を置いた。

「こうしていても魔石に影響が出るかもしれませんから、気は進まないのですけれど……」

 そう溜息交じりに言いながら、魔力を通さない手袋をはめたリヒャルダがてきぱきとわたしの服を脱がしていく。
 本来、お風呂に入るのは「神の意志」に魔力を流し終わった後らしいが、剥き出しの岩壁に寄り掛かって寝ていたわたしは、このままベッドに上がれる状態ではなかった。さすがにお風呂に入れるのは無理だとリヒャルダに言われたけれど、お湯で濡らしたタオルで拭いてもらうことはできてホッとする。

「姫様、こちらを飲んでゆっくりとお休みくださいませ」

 リヒャルダは神官長特製の激マズ薬を準備すると、少し下がってわたしが薬を飲むのをじっと待っていた。
 身体強化の魔術具のおかげで、わたしの体は元気に動ける気がするけれど、寒気はひどいし、頭はぐらんぐらんしている。完全に高熱が出ているのを自覚しつつ、できれば飲みたくない薬とリヒャルダを見比べた。

 ……この体調で、優しさの欠片もない激マズ薬は飲みたくないなぁ。

 全く味については考慮されていない神官長特製の激マズ薬を出されて、わたしが怯んでいると、リヒャルダは笑顔で目を三角にするという、実に器用な表情を作ってわたしを見つめる。

「この季節に最奥の間のような洞窟で眠り込んでいれば、普通の者でも風邪を引きますし、下手をすれば、はるか高みへと昇っていくことになります。何でもないことで寝込む姫様ならば、今、こうして生きているのが不思議なくらいではありませんか!」
「……ご心配をおかけいたしました」

 城でわたしの虚弱さに一番慌てていたのはリヒャルダだ。
 今回、なかなか戻って来ないわたしの心配をしたリヒャルダが、ヒルシュールを初めとした先生方に今までの虚弱さを暴露した。そのせいで、先生方の認識が、「神の意志」を取りに行って、疲れて休憩していた体力のない子という認識から、行き倒れて死にかけていた子になってしまったのだ。

「さぁ、姫様。お飲みあそばせ」
「はい……」

 わたしはでろんとした緑の薬が入った瓶を片手で手に取って、勢いよく飲んだ。この薬を飲むのに躊躇ってはならない。一気に飲まなければ、苦しい時間が長引くだけだ。

「んぅ~っ!」

 久しぶりに激マズ薬を飲んだわたしは、吐きださないように口元を押さえて、涙目でのたうった。だが、苦しむうちに、体調はみるみるうちに良くなってくる。本当に効果は高いのだ。飲んだ瞬間に、天に召される気がするだけで。

「では、ゆっくりとお休みくださいませ」

 リヒャルダは部屋の片付けを終えると、すっと出て行った。



「結構小さくなったね」

 わたしはゴロリとベッドで横になったまま、片手で持てるくらいの大きさになった「神の意志」を見つめた。ぎゅっと握って、魔力を流せば流すほど、小さくなっていく。魔力と溶け合って、自分の中に吸収されているのだそうだ。

 最奥の部屋で転寝してしまって、起きたら小さくなっている魔石に驚いていたら、ヒルシュールが「そういうものです。己と同化するまでよく魔力を流してくださいませ」と言っていた。

 つまり、「神の意志」を自分の中に取り込むまで、卵を温める親鳥のように魔石を抱えて過ごすことになる。
 ほとんどは一昼夜抱えていれば自分の魔力を流し込み、同化することができるため、毎年、実の日がシュタープの取得、講義がお休みとなる土の日が魔力で染める日と決まっているそうだ。

「まぁ、でも、無事に帰れてよかったよね」

 わたしは先程までの騒動を思い返して、ハァ、と溜息を吐いた。ルーフェンの大声で起こされたのはよいものの、その後が大変だったのだ。

 寝ている間に身体強化の魔術具へ少し多めに流していた魔力が、普通に戻っていた。そして、すでに筋肉痛が始まっていて、わたしは立ち上がろうにも足がプルプルする有様だった。おまけに、転寝している間に風邪を引いたようで頭が痛いし、寒気がするのに、体は熱い。

 そんな状態でも、先生方はわたしに触ることができず、おろおろハラハラしながら見守るしかできない。

「ヒルシュール先生、今日だけで良いのです。寮まで騎獣に乗って戻ってもよろしいですか?」

 エーレンフェストの城内ではアウブ・エーレンフェストの許可をもらって騎獣に乗っている。貴族院の寮もアウブ・エーレンフェストの持ち物なので、養父様の許可で乗り回せる。

 しかし、貴族院は王族が管理する施設だ。館内で騎獣を乗り回すには、責任者の許可が必要になる。わたしは周囲の先生方を見回し、許可を求めた。プリムヴェールが形の良い眉をひそめながら、ゆっくりと首を振る。

「許可はできますけれど、魔石を抱えたまま、騎獣は出せませんわ」

 そう言われて、身体強化しようと思ったら、魔力が全部「神の意志」に吸われたことを思い出した。でも、騎獣用の魔石を手に持って、意識的にそちらに魔力を流し込んだら、騎獣はできるかもしれない。

「……一応やってみます」

 わたしは騎獣用の魔石を握って、魔力を流し込んでみる。流した魔力の半分は「神の意志」に取られたけれど、何とか一人用のレッサーバスはできた。わたしはよろよろと乗り込んで、「神の意志」を足元に転がすとハンドルを握る。

 魔力がレッサーバスを通して「神の意志」に流れ込んでいるのか、頭がぼんやりするせいで魔力の流し方がおかしいのか、わからない。普段よりもゆっくりの速さでレッサーバスは動き始めた。

 普段よりもゆっくりとはいえ、きちんと動いているので、先生方も少し安堵したようだ。のそのそと動き出したレッサーバスの周囲を歩きながら、先生方が口々に感想を述べ始めた。

「まぁ、これが噂の……?」
「ほほぅ、これがフラウレルムを卒倒させた騎獣か。確かに強そうだ」

 ……強いんじゃないもん! わたしのレッサー君は可愛いんだよ!

 ルーフェンの言葉に反論したかったけれど、口を開くのも億劫だったので、唇を尖らせて不満顔をするに止めておいた。

「スカートのままでも乗れるところが素敵でしょう? わたくし、今度この形の騎獣を作れないか、挑戦してみようと思いますの」

 ヒルシュールの言葉に食いついたのは、プリムヴェールだった。やはり、騎獣に乗るためには着替えが必要なのがわずらわしいのだろう。

「どのようにするつもりですの?」
「ローゼマイン様に説明していただいても、ハンドルやアクセルというものがよく理解できませんでした。ですから、このように中に入って座れる形にして、今までの騎獣と同じように手綱を中に付けてみようと考えています」

 羽もなく飛べるのは非常識だとフラウレルムは叫んでいたけれど、ヒルシュールに言わせると目の前にあるのだから、飛べる者もいると認識して飛ばせば、問題なく飛べるはずだと言った。

「フラウレルムは少し頭が固いのですよ。騎獣に優美さより、利便性を求めても良いではありませんか」

 わたしのレッサーバスを美しくない、と変な物扱いするくせに、ちゃっかり荷物運びとして利用する神官長が脳裏に浮かぶ。

 ……師弟って似るんだね。

 そして、わたしは興味津々の先生方に周囲を囲まれ、騎獣の中を覗き込まれながら、一人用レッサーバスで出口まで向かった。わたしが歩くのに比べるとスピードが段違いに速いし、無事に帰りつけたことで、先生方が安堵の息を吐いていたのがとても印象的だった。
 ずっと帰りを待っていてくれたリヒャルダと、ヴィルフリートに「無事でよかった」と泣かれ、「講義で死にかけられたら、おちおち研究もしていられない」と言うヒルシュールに寮まで送られて戻ってきたのだ。



 今日は土の日。貴族院に来てから初めての休日で、講義はお休みの日だ。一年生は休日を満喫することはできない。昨日採集した「神の意志」に魔力を注ぎ続けなければならないため、親鳥のように魔石を抱えて過ごさなければならないのだ。
 品質の良いシュタープにするためには、他人の魔力が混じらない方が良い。そのため、食事も側仕えに個々の部屋へと運んでもらい、一人で食べることになっている。

「上級生達は休日をどのように過ごすのですか?」

 朝食を運んできたリヒャルダに尋ねてみた。上級生達は図書館に参考書を読みに行ったり、他領の友人とお茶会を開いたり、情報収集をしたり、騎士見習いの訓練に参加したり、それぞれ好きに活動するらしい。

「わたくしも図書館に行きたいです」
「姫様は体調を治して、全ての講義を終えてからですわね」
「お薬を飲みましたから、体調は良くなりました。それに、魔石もかなり小さくなったのですよ」
「はいはい、それでも、今日は一日ベッドですよ」

 そう言われて、改良版の薬を出された。薬を飲んだわたしは、すぐさまベッドに追い払われる。

「せめて、本を持って来てくださいませ」
「今日は魔石と向き合う日ですよ、姫様」

 そう言われて、わたしはベッドでゴロゴロとしながら、自分の手のひらに収まるくらいに小さくなった魔石に魔力を流そうとして、気が付いた。

「身体強化の魔術具を外せば、もっと楽に魔力が流せるんじゃない?」

 左手に魔石を持ったまま、わたしは左腕の魔術具を外してみる。みるみるうちに魔石が小さくなっていって、完全に消えた。

 ……もっと早く気付けよ、わたし!

 魔石が消えてなくなった手のひらを呆然と見た後、わたしは大きく息を吐いて「熱があったから仕方がないよ」と自分をちょっと慰めながら、身体強化の魔術具をはめ直した。
 完全に「神の意志」が解けきったわけだが、わたし自身には何の変化もないように見える。

「うーん、これで本当にシュタープができるのかな?」

 わたしは大人達が持っているシュタープの形状を思い出し、利き手である右にシュタープを握った状態を考えてみる。
 次の瞬間、見慣れた光るタクトが自分の手の中に現れた。

「できた! すごい! わたし、魔法使いっぽい!」

 初めてのシュタープに興奮しながら、わたしは寝転がったままブンブンとタクト状のシュタープを振り回す。

「……他の形にもできないかな?」

 どうせ魔法使いの杖にするならば、水の女神 フリュートレーネの杖のように長くてごてごてとした杖を持つのも良いかもしれない。
 わたしは神殿にあるフリュートレーネの杖を頭に思い浮かべて、シュタープを出してみた。

「おおぉぉ、できた!」

 さっきのタクト状のシュタープと同じように振り回そうとして、ハッとした。この長さでは使いにくい。わたしがよく見るシュタープの使い方は、魔石を叩いてオルドナンツを作るというものだ。この長い杖では、振り回して魔石を叩くのも難しい。

「シュタープが短いのも一応理由があったんだ」

 魔石を叩いて魔力を注ぐならば、これくらいの長さがちょうど良いな、と思った長さにすると大人達が持っているシュタープと同じくらいの長さになる。持ちやすいようにちょっと形を変形させてみたり、剣の鍔のような物を装飾的に付けてみたり、本の形にしてみたり、ペンの形にしてみたりと色々形を変えて遊んでみた。

 けれど、それもこれも使い勝手が悪い。形を変形したり、装飾を加えたりするのは、明確なイメージが必要になるので、毎回形が微妙に変わるという不安定な結果になった。
 本やペンは形だけならば、わたしが心躍る素敵な感じになった。だが、本やペンで実際に魔石を叩いたり、変形させてジル様を叩いていた神官長のように使ったりできるかというと、躊躇ってしまって、とてもできない。

 最終的には大人達が使っている指示棒のような形に落ち着いた。

「何か面白い使い方があればいいんだけどね」

 とりあえず、シュタープの使い方に関して、次の講義で基礎を教えてくれることになっている。それを楽しみにしておくしかなさそうだ。

「姫様、昼食をお持ちいたしました」

 昼食後もリヒャルダに「部屋を出て歩き回るなんてとんでもございませんよ」と言われた。もうすっかり熱が下がったし、魔石も解けたと言っているのに、許してくれない。

「夕食まで良い子にしていれば、夕食は食堂で取ってもよろしいですよ」

 リヒャルダは昼食の食器を片付けるために部屋を出て行く。それをベッドから見送り、わたしはリヒャルダが去っていくのを確認してから、そっとベッドから滑り降りた。
 本もなく、一日寝ているなんて、暇で、暇で、仕方がない。こっそりと自分の机から合鍵を取り出して、書箱を開けると本を取り出して、ベッドへ飛び込んだ。

「読書の時間だ。うふふん」

 本を読み始めると、食器を片付け終えたリヒャルダが戻ってきた。ベッドで本を読んでいるわたしを見て、目を吊り上げる。

「姫様! 今日は一日お休みの日と申し上げたはずですよ!」
「ですから、まさに今、お休みしているではありませんか」
「本当に、この姫様は何度申し上げても、本に関しては全くわかってくださらないのですから! その頑固なところはジルヴェスター様やフェルディナンド様にそっくりですよ!」

 リヒャルダはぷりぷりと怒って、わたしから本を取り上げると、「お元気なのでしたら、お話がございます」と言った。

「何かしら?」
「姫様はアウブ・エーレンフェストを目指してはいないのですよね?」

 リヒャルダの言葉に「どうしてそのようなことを?」と、わたしは首を傾げた。同じ質問を昨日も聞いた気がする。

「姫様は正式な領主夫妻の養女ですから、アウブ・エーレンフェストになることができます。ヴィルフリート様を次期領主と定めていたあの頃と違って、今はその気があれば、ローゼマイン様も地位を得ることができるのです」

 カルステッドの娘ならば、先々代の領主の血を引いているので、血統にも特に問題はないのだ、とリヒャルダは言った。

 ……皆が知らないだけで、問題があるんだけどね。

「元々、領主は最も力の強い者がなると考えられてきました。それでも女性よりは男性の方が望ましいのですけれど、姫様はエーレンフェストの聖女という肩書を持っています。だからこそ、ローゼマイン様を領主にと考える側近もいるようです。わたくしは周囲に道を固められてしまう前に、姫様の意志をお伺いしたいと存じます」

 ……あぁ、ハルトムートが何か言ったんだな。

 昨日の今日で、ハルトムートは何やらこっそりと動いているらしい。多分、わたしの聖女伝説を加速する方向で。

「わたくしは自分がアウブ・エーレンフェストになることは全く考えておりません。将来のアウブ・エーレンフェストの補佐をしながら、図書室の管理をするのです」
「まぁ、姫様らしいこと」

 リヒャルダがクスクスと笑って、肩の力を抜いた。

「わたくしは、アウブ・エーレンフェストになるつもりはない、とおっしゃる姫様の意に従いますわ」

 リヒャルダがすっきりした顔で退室していく。周囲を固められるのをリヒャルダがある程度防いでくれるだろう。
 わたしはリヒャルダの足音が遠ざかったのを確認して、もう一度書箱から本を取り出して、ベッドに潜り込んだ。

「姫様!」

 リヒャルダが戻ってきた時には布団に隠しておくつもりだったが、本を読みながら寝てしまったので、また怒られた。失敗、失敗。



 だが、よく寝たので、完全回復した。こっそりと本を読むくらいならば、食堂で他の者との交流を深めた方がマシです、と怒るリヒャルダに着替えさせてもらって、わたしは部屋を出る。
 二年間寝ていたわたしは、他領どころか、自領の貴族との交流が全く足りていない。一年生とは座学の一発合格という試練に共に立ち向かった連帯感や勉強を教えることで多少の交流が持てたけれど、上級生はまだまだである。
 正直なところ、自分の側近とさえ、碌に交流を持っていない。

 筋肉痛の体でレッサーバスに乗り込んで、リヒャルダと部屋の外で護衛をしていたアンゲリカと共に多目的ホールへと向かう。今は夕食が近付いているので、出かけていた生徒達も戻ってきて、思い思いに過ごしているらしい。

「アンゲリカは今日一日何をしていたのですか?」
「午前中はコルネリウスとレオノーレとトラウゴットに誘われて、ディッターの練習をしておりました。ユーディットも行きたがったのですが、彼女は護衛任務があったので、また今度ですね」

 そんな話をしていると、二階でトラウゴットが待機していた。トラウゴットも合流して、多目的ホールへと向かう。

「ディッターとはどのような競技ですか?」

 結構前にエックハルト兄様から貴族院でよくしていた騎士見習いのゲームだと聞いたことがある。わたしの問いにアンゲリカが簡潔に答えてくれた。

「魔物狩りです」
「アンゲリカ、それではローゼマイン様に通じないぞ」

 トラウゴットは顔をしかめて、アンゲリカにそう言うと、わたしに詳しく説明してくれた。

「ディッターにもいくつか種類があり、狩った魔物の強さを競ったり、数を競ったり、速さを競ったり、その時によって勝利条件が変わります」

 一番大規模なのは、自分の騎士団が守る魔物を狩るところから始まる宝盗りディッターだそうだ。全領地の騎士見習いから人数を決めて行うディッターで、それぞれ寮の近くに陣を作る。そして、他領に奪われてはならない宝とするための魔物を狩ってくる。これは弱らせるだけで、魔石に変えてしまってはならないところがポイントらしい。
 そして、その魔物を他領の攻撃から守りつつ、自分達が攻撃されないように気を付けつつ、他領の魔物を奪ってくるのだそうだ。ちなみに、他領の魔物を奪ってくる時は魔石に変えてしまっても問題ないらしい。

「昔は宝盗りディッターが領地対抗戦の花形だったそうですが、全体的に人数が減って、宝盗りディッターが難しくなったので、今は先生が作り出す訓練用の魔獣をいかに早く倒せるかを競うディッターが採用されています」
「では、領地対抗戦が楽しみですわね」
「ローゼマイン様に良いところを見せられるように、頑張ります」

 見たことがないので、想像するのも難しいが、領地対抗戦が楽しみだ。強くなっているらしいアンゲリカとコルネリウス兄様の戦いぶりも、まだわたしは見たことがない。

「今年はアンゲリカとコルネリウスがいるので、領地対抗戦でも良い線に行くのではないかと思っています」

 そう言ったトラウゴットの声は低く、表情は不満そうに見える。

「良い線に行くと言っていますけれど、トラウゴットの表情はちっとも嬉しそうではありませんね」
「正直、悔しいのです。来年は、私もローゼマイン様の圧縮方法を知って、魔力を伸ばしてもっと強くなって参加したいと思っています」

 多目的ホールに到着すると、リーゼレータとブリュンヒルデを中心に、女の子達が顔を寄せ合って、何やら書いているのが目に入った。

「何をしているのですか?」
「ローゼマイン様!?」

 声をかけた途端、「きゃっ!」と声を上げて、慌てて隠されて、わたしは首を傾げた。

「わたくしに見られては困るものですか?」
「いいえ、その……主であるローゼマイン様を差し置いて盛り上がっていたので、少し()まりが悪いように感じただけですわ。やましいことなどございません」

 ブリュンヒルデが困ったような微笑を浮かべ、リーゼレータや周囲の女の子達もコクコクと頷く。

「シュバルツとヴァイスがあまりに可愛かったものですから……。ローゼマイン様が衣装をご準備されるならば、どのような流行を取り入れて作るか、話し合っていたのです。ローゼマイン様のいらっしゃらないところで、先走ってしまい、申し訳ございませんでした」
「わたくしは別に構いませんよ。どのような衣装案が出ているのか、見せてくださる?」

 わくわくしながら、わたしが手を出すと、リーゼレータがそっと紙を差し出してくれた。黒のインクでずいぶんと上手にシュバルツとヴァイスが描かれている。
 両方が色違いのワンピースを着ていた今の状態と違って、男女の格好をさせたいらしい。

「花飾りは欲しいですし、できれば、男女の格好をさせるのが良いのではないか……と」

 色々と書き込まれている衣装案を見る。
 ヴァイスに関してはレースで可愛く、という案もあれば、シュバルツにはキリッとカッコよく、という意見もある。花飾りを使うならば、どのような大きさでどのように使うか、結構細かいところまで考えられている。

「ローゼマイン様が今年の始まりの宴でお召になられていた衣装のスカート部分が大層可愛らしかったので、それを取り入れられないかと考えていたのです」

 リーゼレータが目を輝かせながら、わたしが丈を誤魔化すために採用したバルーン状のスカートの話をし始める。わたしは周囲の評判をあまり耳にしなかったけれど、凝っていて可愛いという評判だったそうだ。
 二年前のブリギッテのドレスだけではなく、自分の衣装にも新しい物を生み出しているという評価があったらしい。初めて知った。

 普段より饒舌に喋るリーゼレータをちょっと驚きながら見ていると、アンゲリカが小さく笑った。

「リーゼレータは昔から可愛い物が大好きで、家で飼っているシュミルにも自分で作った服を着せていることがございます」
「お姉様!」

 アンゲリカの告げ口にリーゼレータが頬を膨らませる。そういう姿は年相応で微笑ましい。

「……わたくし、全ての講義を終えれば、図書館に入ることができますから、その時までにリーゼレータの座学が終わっていれば、採寸に同行しますか?」
「よろしいのですか!?」
「皆で考えるのは楽しいですもの。他にご一緒したいと望む方はいらっしゃるかしら?」

 リーゼレータが嬉しそうに顔を綻ばせて周りを見ると、前回図書館に同行しなかった他の女の子達が採寸に同行したいと言い出した。

「実際にシュバルツとヴァイスを見て、測ってみた方がどのような衣装が似合うか、わかりますものね」
「楽しみですわ」
「では、わたくしが講義を終えるまでに、皆、座学を終えてくださいませ。楽しいことを始めると、お勉強はどうしても疎かになりますから」
「そうですね! 頑張ります!」

 皆で座学を終わらせようと盛り上がり始める女の子達を見て、わたしはニッコリと笑った。
 可愛いシュバルツとヴァイスを守るためには、ヒルシュールを止められる他の人を連れて行くのが一番だ。それも、シュバルツとヴァイスに好意を持っている人が良い。

 ……わたし、大きいシュミルの採寸の仕方なんて詳しく知らないし、暴走しそうなヒルシュール先生を止める人手は多い方が良いもん。わたし、一人じゃ絶対に無理。適役がいっぱい見つかってよかった。
 初めての土の日は基本的に寝て過ごしました。
 でも、シュタープは何とかなりそうです。

 次は、奉納舞です。
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