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本好きの下剋上 ~司書になるためには手段を選んでいられません~ 作者:香月 美夜

第四部 貴族院の自称図書委員

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シュタープの取得

 午前中はフェシュピールの練習と参考書作りだ。神殿では朝食後から3の鐘がフェシュピールの練習時間だったので、ロジーナが練習をするように、と言って、皆が何となくフェシュピールを持って多目的ホールに集まったため、皆で練習することになった。

 わたしは先生方とのお茶会のために、他の皆はそれぞれのレベルに合わせて練習している。他の学年でも座学が終わった者が増えていて、多目的ホールでは3の鐘が鳴るまで皆がフェシュピールの練習だ。この時間に勉強したい者は自室で行うことになっているが、音が気になって集中できず、少し時間がたつとフェシュピールを持ってくる者が出てきた

「以前はこのように、フェシュピールの練習時間をきっちりと取っていませんでしたから、練習量が減ったのでしょうね。学年が進むごとに音楽の実技で褒められる数が減っていたのです」
「では、毎年音楽の練習をする時間を決めておくと良いかもしれませんね」

 わたしがお茶会で披露する曲を練習している間、ロジーナは新曲の歌詞を添削していた。

「ローゼマイン様、英知の女神 メスティオノーラを称える曲なのですから、図書館ではなく、グルトリスハイトを喜ぶ方が良いのではありませんか?」

 グルトリスハイトは英知の女神 メスティオノーラが持っている最古の聖典で、神々に選ばれたらしい初代の王はグルトリスハイトを写すことを許されたのだそうだ。
 神話に関するあれこれがどんどんと歌詞に追加され、その分、わたしの図書館に対する熱情はどんどんと削られて、英知の女神 メスティオノーラ自身を称える歌詞へと変わっていた。最終的にはわたしの歌詞はほとんどなくなりそうな勢いである。

 ……でも、まぁ、わたしの図書館への思いって、あまり周囲の人に受け入れられないからね。

「せっかくですから、最初からロジーナが作詞してくださらない? わたくしが作詞して、図書館を称える歌にしてしまうと、いつ祝福が飛び出すかわからないのですもの」
「あら、神を称える歌なのですから、ローゼマイン様がフェシュピールを奏で、祈りを捧げ、祝福が出る分には全く問題ないと思われますけれど?」

 神殿という神の家で、芸術巫女の元、純粋培養されたわたしの楽師は、祝福に関する意識がちょっとずれているようだ。貴族院で祝福をやってしまうと、結構騒ぎになるのだけれど、あまりよくわかっていないと思う。

「なるべく祝福が飛び出さないようにしたいのです」
「……そうですか。わかりました。図書館に関する歌詞は避けましょう」

 3の鐘が鳴った後は、フェシュピールの練習を終えて、文官の参考書作りをしているハルトムートのお手伝いをして、文官コースの予習をしていた。

「ローゼマイン様は文官見習いの講義も受けるおつもりですか?」
「えぇ、司書になりたいので、領主候補生の講義と並行して文官見習いの講義をも受けるのです」

 フェルディナンド様には相談済みですよ、と言いながら、今の三年生が受けている内容を見ていく。

「ローゼマイン様はアウブ・エーレンフェストを目指してはいないのですか?」
「そのような面倒な地位に就きたいと思ったことは、一度もございません。わたくしは、図書館の司書になりたいのです。今の将来の夢はエーレンフェストの聖女として神殿に居座り、神殿図書館を私物化するか、領主の仕事を手伝いながら、城の図書室を私物化したいという野望に燃えております」

 できれば、司書になるよりも、大きな図書館を持っている方のお嫁さんになって、その図書館を出ることなく生活ができたら最高だが、さすがに側近にそんな夢は語れない。

「ですから、わたくしの側近になっても将来に繋がらないと思えば、いつでも申し出くださいませ。希望通りにいたしますから」



 午後の実技はシュタープの取得だ。
 自分の中にある魔力を最も効率よく、そして、思うままに扱うために最適な道具がシュタープで、これを手に入れて、やっと正式な貴族となることができる。
 今までシュタープ以上に使い勝手の良い道具を作れないものか、と何人もの研究者が挑戦してきたらしいが、未だにそのような道具はできていない、と神官長が言っていた。素材の質が段違いなのだそうだ。

 十年くらい前までは、貴族院の三年生、専門コースに分かれる時にシュタープの取得が行われていたようだ。けれど、シュタープの使い方を覚えるためには、なるべく早い時期に取得した方が都合は良いと考えられ、入学とほぼ同時に行うように今の王が変更したそうだ。

 シュタープの取得は一人前になるために重要なイベントである。講堂へと向かうために玄関ホールに集まっている一年生の顔には軽い興奮が見えた。
 そして、午後の講義へと出かけていく上級生は、一年生のわくわくしている様子を懐かしそうに見ながら、「落ち着いていけ」と声をかけていく。

「全員揃っているな? では、行くぞ」

 ヴィルフリートの号令によって、一年生が出発した。今日は一年生全員がシュタープの取得を行うので、講堂に集められるのだ。

「……一年生だけでこれだけいたかしら?」
「ローゼマイン様はもう座学にいらっしゃらないから、そう感じるのでしょう」

 地理と歴史の座学には参加しているフィリーネがくすくすと笑った。合格してしまってから、わたしは午前の座学に行っていないので、これだけ多くの一年生が集まっているところを久しぶりに見た。

 ざわざわとしていた講堂も先生方が姿を現すと同時に、シンと静まる。プリムヴェールが前へと進み出て、講堂の中をぐるりと見回した。

「全員集まったようですね。それでは領主候補生から最奥の間へとご案内いたしますが、その前に必ず守ってほしいことがございます」

 本日の実技は、シュタープの原料となる「神の意思」を見つけたら、採集して戻ってくる、それだけだ。

「最も注意するべきことは一つだけです。採集を終えた後は他の者に触れぬように気を付けてください。質の良いシュタープにするためには、自分だけの魔力で染めなければなりません。帰りはぶつからぬように距離を空けて歩くこと、そして、明日の土の日は一日じっくりと魔力を流し込むようにしてくださいませ」

 領主候補生が並ぶと、プリムヴェールが先に立って歩き始めた。講堂の奥に扉があり、奥の部屋へと入っていく。

 ……礼拝室!

 真っ白の部屋で、左右には円柱状の柱が等間隔で並んでいる。一番奥の壁には天井から床まで色とりどりのモザイクで複雑な文様が描かれていて、奥の壁の中央には床から三階くらいの高さまで40段くらいの階段が雛壇のように続いていた。
 その階段には神への供物はもちろん、神の像が飾られていた。最上位にいるのは最高神の夫婦神、そして、少し下がって聖杯を抱えた土の女神、更に下がって、水の女神、火の神、風の女神、命の神が並んでいる。

 ……神殿の側仕え達はどうしてるかな?

 見慣れた祭壇を見上げ、何となく神殿に帰ってきたような気がして、妙に懐かしい気分になった。
 二年間の留守を任せられたのだから、わたしがいなくてもきちんとお仕事をしてくれているのはわかるけれど、フラン達に何だか無性に会いたい。

 祭壇を見上げて、ホームシックのような寂しさを感じているのは、わたしだけだったようで、他の皆はあまり見ることがない祭壇に、ほぉ、と感嘆の声を上げている。

「神に最も近い、最奥の間です。採集できる機会は一人につき、ただ一度しかございません。採集した後は他の者とぶつからぬように細心の注意を払ってくださいませ」

 行く者と帰る者がぶつからぬように道が二本あるので、必ず左側の道を通るように、と言いながら、プリムヴェールが何かの魔石に触れた。
 次の瞬間、ズズズズッと大きな物が動くような音がして、祭壇の階段の一部が動いた。祭壇の奥へと入れるように暗い穴が大きく口を開けている。

「願わくは神々の御加護と導きがあらんことを」

 プリムヴェールに促され、緊張した面持ちで、最初の領主候補生が足を踏み出し、中へと入って行く。わたしとヴィルフリートもそれに続いた。

 祭壇も貴族院や寮と同じ白い石でできているようで、四角にきっちりと整備された入り口だった。コツコツと足音を響かせながら、順番に歩いていく。それほど狭い道でもなく、三人くらいは並んで歩けそうな広さがある。

 5メートルほど進んだところで、きっちりとした四角の通路が突然途切れた。歩く部分の白い道だけは今まで通りだが、周囲はごつごつとした岩肌が露出した天然の洞窟のようだった。行きと帰りのための白い道だけが淡い光を放って浮かび上がっているように見える。

「礼拝室の奥にこのようなところがあったのですね」

 周囲を見回しながら、とりあえず、先に進み続ける。
 洞窟は大きく曲がるように白い道が続いていて、だんだん上へと上がっていくようだった。途中でいくつか階段があり、しばらく進むとまた階段。そんな感じでじわじわと自分の位置が上がっていくのがわかる。

 ……ずっと早歩きで、息が切れそう。

 身体強化の魔術具を使っても人並み程度のわたしは、周囲との身長差もあり、歩くのが遅いので、次第に前と距離が開いてきた。

「お先にどうぞ。わたくしはご覧の通り、皆様方と身長に差がありますから、歩く速さを合わせるのが大変なのです」

 後ろを歩く領主候補生にわたしは道を譲ろうとした。すぐにヴィルフリートが「私はローゼマインと共に……」と言って一緒に歩こうとしてくれたが、わたしはそれを断る。

「どうせ帰りは共に帰ることができませんもの。ヴィルフリート兄様は先に行ってくださいませ。そして、帰りにすれ違った時には、できれば、あとどのくらい歩かなければならないか、わたくしに教えてくださいませ」
「……わかった」

 不満そうな顔をしつつ、ヴィルフリートは何度か振り返りながら領主候補生と先に進んでいく。
 わたしは自分のペースで歩き始め、ホッと息を吐いた。ほんの少しならば頑張って周囲に合わせるけれど、どこまで続くのかわからない道をずっと早歩きで優雅に見せながら歩くのはきつい。

 領主候補生が行ってしまって、少したつと足音が近付いてきた。上級貴族がやってきたのだ。一人で歩くわたしに何と声をかけたものか、迷っているような上級貴族に、わたしは同じように告げて先に行ってもらう。エーレンフェストの上級貴族はヴィルフリートと同じように心配そうに何度か振り返りながら、先へと進んでいった。
 後続を通しながら、わたしは自分のペースで歩く。

 上級貴族が行ってしまうと、次は中級貴族である。奇異の視線を向けられつつも、わたしは同じように先に行ってもらう。

「ローゼマイン様?」
「あら、ローデリヒ。先に行ってくださってよろしくてよ」

 わたしがローデリヒにも同じように説明していると、突然少し前方を歩いていた他領の中級貴族の少年が「あった!」と弾んだ声を上げた。

「え?」

 何があったのかわからない。わたしの目には同じように続く洞窟の岩肌しか見えない。何も変わった物は映らない。
 けれど、その少年はただ一点を見つめたまま、白い道から外れて洞窟の壁の方へと向かい、手を伸ばして壁に触れた。迷いのない動きに、彼には何かが見えているのがわかる。
 くるりと振り返った少年の手には何かが握られているようだ。筒状の物を持っているように指の形が丸まっている。

「すまないが、少し道を開けてくれないか?」

 そう言って、少年は道を開けてもらうと嬉しそうに顔を綻ばせて、皆が立ち止っている行きの道を横切り、帰りの道に飛び乗って早足で歩き始めた。少年の視線はずっと自分の手の中に注がれている。

「……何を見つけたのでしょうか? ローゼマイン様にはわかりましたか?」
「いいえ、わたくしにも見えませんでした」

 初めて「神の意志」を見つけた者が出たことで、周囲が興奮気味になり、注意深く周囲を見回しながら歩き始めたため、進む速度が遅くなった。わたしが同行するのにちょうど良い速さになり、わたしはローデリヒと「神の意志」が一体どのような魔石なのか、と話しながら足を進めていく。

 少し歩くと、今度は後ろから「見つけました!」と少女の弾んだ声が聞こえてきた。前の方でも白の道を飛び出して、壁に向かって行く少年の姿が見える。
 見つけた者は迷いなく進んでいくことから、本当に「神の意志」と呼ばれる魔石があることは確実だ。

 周囲の者がちらほらと自分の「神の意志」を見つけているせいか、ローデリヒが辺りを見回し始める。自分の物が欲しくて仕方がない顔だ。

「あ!」

 鋭い声を上げたローデリヒの視線が前方の一点を見つめた。やはりわたしには見えないけれど、ローデリヒにはわかるようだ。

「あったのですか?」
「はい! とても美しく光っています」

 誇らしそうに笑って、ローデリヒが白い道から降りて駆けていく。岩の壁に向かってゆっくりと手を伸ばして、そっと触れたのがわかった。
 一度驚いたように目を見張り、ローデリヒは自分の懐に抱え込むようにして、わたしには見えない魔石を持った。

「ローゼマイン様、お先に失礼いたします」
「落としたり、どなたかにぶつかったりしないように気を付けてくださいませ」

 ローデリヒが帰りの道へと上がり、わたしとは反対方向へと歩いていく。
 周囲で続々と声が上がり、皆がお互いにぶつからないように距離を取って帰るようになる頃には、こちらに向かって帰りの道を歩いて来る上級貴族が出始めた。
 奥から上級貴族が出てくるということは、多分わたしの魔石があるのはもっと奥に違いない。

 ……奥まで歩くんだ。

 わたしは人が減った行きの道をのそのそと歩き続ける。周囲の者がどんどんと採集に向かって道から外れるので、とても歩きやすい。楽に歩けるし、視界も良くなってきた。けれど、皆がいなくなるので、ちょっとだけ寂しい。

 この周辺は中級貴族の「神の意志」が多く採れるところのようで、かなり先の方から上級貴族が戻ってくるのが見える。
 コツコツと歩いて、階段を上がり、更に歩いて行く頃には、行きの道には誰もいなくなり、帰りの道がいっぱいになっていた。誰も彼もぶつからないように間隔を空けて歩くため、妙な行列だ。

 そして、戻ってくる上級貴族の中に領主候補生が混じり始める。実技の授業で見知った顔ばかりになってきた。その中にヴィルフリートがいた。

「まだこんなところにいたのか、ローゼマイン。領主候補生の魔石があった場所はまだまだ奥だぞ」

 一人でのそのそと歩くわたしの姿に目を見張ったヴィルフリートも、大事そうに何か抱えていた。
 ヴィルフリートにまだまだ先だと言われて、わたしは少しずつ身体強化の魔術具に魔力を込めていく。こうすれば歩くのが楽になるけれど、魔力を流しすぎると後で反動もあるのだ。次の日、筋肉痛がひどくて本当に動くことが億劫になるので、あまり長時間の多用はできない。

 少しだけスピードを上げて、わたしは一人で奥を目指した。
 じきに帰りの道を歩く領主候補生もいなくなって、本当に一人になってしまった。しんと静まった洞窟の中、わたしはコツコツと歩き続ける。
 階段を上がり、更に歩いていく。何もないまま、また階段を上がる。代わり映えのない景色と誰もいない状態がつまらなくなってきた。

「……どこにあるの~、わたしの魔石ちゃん。もう疲れたよ~」

 呼びかけてみるが、返事はなく、洞窟内にうわんうわんとわたしの声が響くだけだ。白い道を歩くとまた階段があった。
 数段しかなかった今までの階段と違って、一階分は上がらなければならない螺旋階段だ。

「うあぁ、また階段。どこまで歩かせる気よ」

 ぶつぶつと文句を言いながら、わたしは白い螺旋階段を上がる。上がるにつれてどんどんと周囲が明るくなってきた。

「わぁ……」

 そこは光が差し込む白い広場だった。行き止まりのようで、その先に繋がる道はない。
 白い床が円状になっていて、真ん中に同じ材質の白の彫刻のような大木があった。天井へと幹が伸び、天井には白い枝が広がっている。大きな穴が開いているようで、白い彫刻の木に茂った白い葉の間から木漏れ日のような光が細く幾筋も降り注いできている。

 その木の根元に虹色に光る魔石があった。真っ直ぐに地面から突き出している。水晶のような六角柱状で、わたしのお腹近くまで伸びていた。

 ……これが、わたしの石だ。

 皆が言った通り、一目でわかった。ちらちらと降り注ぐ木漏れ日が当たると、不思議な色へと変化するように見える。
 神秘的な光景と石を前に、敬虔な気持ちになり、わたしは背筋を伸ばして「神の意志」の前へと歩いていく。きらりと石が光った。

「頂戴致します」

 わたしは「神の意志」の前に跪き、そっと手を伸ばした。手が触れた瞬間、地面の部分からスパリと切れて、受け取れ、と言わんばかりに自分の前に浮かび上がってくる。
 虹色に光る「神の意志」を抱えて、わたしはそっと満足の息を吐いた。

「よし、帰ろう」

 これを持って、戻らなければならない。「神の意志」を抱えて、わたしは身体強化を強めようと魔力を流した。

「あれ?」

 新しく流し込む全ての魔力が抱えている魔石に吸われていく。これ以上の身体強化はできないようだ。

「……つまり、今以上の強化はせずに自力で帰れ、と?」

 ここまでやってきた道のりを思い返して、肩を落とし、わたしは白い大木に背を向けるととぼとぼと歩き始めた。
 長い道のりをまた戻らなければならない。今度は最初から最後まで一人だ。

 魔石を抱えて両手がふさがっているので、怖々と螺旋階段を降りていき、今度は帰りの道を歩いていく。コツコツコツコツ、と響く足音は自分のものだけだ。帰りは下りになるので、気分的に行きよりは楽だけれど、普段の運動不足が祟って、ぐったりとしてきた。

「ちょっと、休憩。さすがにきついよ」

 途中の階段でわたしは魔石を抱えたまま、座って一休みすることにした。どこまで戻って来られたのか、同じ景色が続くので、自分でもわからない。「もうちょっとで出口だったらいいな」と呟きながら壁に寄り掛かって、大きく息を吐く。
 うつらうつらと瞼が下がってくるのを感じ、わたしは「寝てはダメだ」と自分に言い聞かせながら、寝た。



「こんなところで寝るなぁ! 寝ると死ぬぞ! 起きろ! 立ち上がれ! まだまだ人生はこれからだぞ!」
「はいっ!?」

 いきなりの大音声が洞窟の中で反響して、耳がキーンと音を立てる。わたしが驚いて飛び起きると、拳を握って、わたしに熱く呼びかけるルーフェンの顔が間近にあった。

「よかった。意識が戻ったようだな」

 ルーフェンがそう言って、少し体を引く。すると、そこには数人の先生の姿が見えた。ヒルシュールがルーフェンと入れ替わるように、わたしの前へと進み出た。

 なんと、戻ってくるのがあまりにも遅いため、捜索隊が出されてしまったらしい。
 一本道なので迷うはずがないけれど、と言いながら、ヒルシュールが捜索してみれば、途中で行き倒れていた。
 姿を見つけたものの、すでに「神の意志」を持っているならば、触ってはならない。声をかけるしかできないが、ヒルシュールがいくら声をかけても反応がない。

 焦ったヒルシュールは礼拝室へと一度戻り、数人の先生を連れて戻ってきた。最も声が大きいルーフェンが呼びかけることで、わたしは意識を取り戻したのだそうだ。

「体が弱いと伺っていたので、死んでいるのではないかと、本当に心配いたしましたわ」
「申し訳ございませんでした」
「まだ完全に体調が戻っているわけではない、とフェルディナンド様からは伺っていたのですけれど、貴族院での活動状態を見る限りでは、問題なさそうだったので、失念しておりました」

 ヒルシュールはそう言いながら、立ち上がるように、とわたしを促す。



 エーレンフェストの聖女、「神の意志」を取得に行き、最奥の間で、危うくはるか高みへと昇りかける。
 貴族院の歴史に、わたしは不本意ながら新しい伝説を刻んだようである。

 無事に魔石は取れたけれど、最奥の間で、遭難した唯一の生徒として、名を残したローゼマイン。

 次は、土の日。貴族院の休日です。
+注意+
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