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本好きの下剋上 ~司書になるためには手段を選んでいられません~ 作者:香月 美夜

第三部 領主の養女

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アンゲリカの魔剣

 朝食を終え、わたしは毎日の日課として騎士の訓練場へと向かう。
 ここ数日はレッサーバスではなく、歩いて訓練場に向かっているので、ヴィルフリートには完全に置いていかれている。
 今日、部屋から一緒に歩く護衛騎士はダームエルだけだ。ブリギッテとコルネリウスは先に訓練に行っている。護衛騎士を一人付けて、その人以外は訓練に出てもらっているのだ。

「ローゼマイン様の魔力量が羨ましいです」

 のったのったと歩きながら訓練場へ向かう途中、ダームエルがぼそりとそう言った。恋煩いか、と思いつつ。わたしはダームエルを見上げる。

「魔力量を増やすのは訓練次第ですよ、多分。わたくしの魔力はものすごく圧縮されているとフェルディナンド様がおっしゃいました。わたくし、生きるために必死だったのです」
「……え?」

 くるりと周囲を見回し、人気がないのを確認して、わたしはダームエルにしゃがむように言った。跪いて視線が合う高さになったダームエルに声を潜めて言う。

「わたくし、魔術具なしに生きてきたので、魔力が体に納めきれず、死にかけの連続だったのです」
「あ……」
「ですから、生きるために無意識に圧縮を繰り返しました。それで、今の魔力量があるのです」

 それだけ言って、わたしはまた歩き始める。ダームエルも立ち上がって、歩き始めた。

「ダームエルはまだ魔力が増えているのでしょう? わたくしの魔力量が羨ましいならば、いっそ魔術具を外して、死にかけながら圧縮してみてはいかが?」
「……考えがいたらず申し訳ありませんでした」

 平民時代のわたしを知っているダームエルは、貴族の子と違い、普段魔術具を付けていなかったわたしを思い出したのか、情けなく眉を下げて謝った。

「ぜぇ、ぜぇ……やっと着きましたね」
「休憩室に向かいます」

 訓練場と部屋の往復だけでわたしには十分な運動量である。
 訓練場にたどり着いたら、まず休憩である。息が整ったらラジオ体操。それで、本日の訓練は終了……いや、違う。部屋に着くまでが訓練だ。

 今日もラジオ体操をするためにエックハルト兄様を呼び出してもらおうと思ったけれど、騎士の一人が顔を曇らせた。

「今はエックハルトが呼び出されていて不在なのです。大変申し訳ございませんが、戻るまでお待ちいただけますか?」
「わかりました。ありがとう」

 わたしの面倒を見るエックハルト兄様が不在のため、わたしは訓練を禁止された。そうなると、ダームエルは訓練ではなく、護衛の業務をしなければならない。

「エックハルト兄様がいないのに、動き回るわけにはいかないですよね?」
「はい」

 騎士達が魔術による攻撃の練習をしていると、流れ弾のような物が飛んでくることもある。ダームエルでは防ぎきれるかどうかわからない。エックハルト兄様がいないところでわたしがうろうろするのは危険なのだ。

 わたしは未だに気まずそうなダームエルを見ながら、ゆっくりと溜息を吐いた。
 ダームエルが下級貴族で、魔力が少ないことを嘆いているのは知っている。そのせいで、ブリギッテには最初から恋愛対象外にされたことも知っている。
 けれど、すでに祝福は与えているので、わたしにはどうしようもない。本人が努力するしかないのだ。

「ねぇ、ダームエル。貴族院に入ると魔力の扱いを教えられ、その中で圧縮の方法を学ぶと聞いたけれど、神の名前を憶えるのと同様に、わたくしのやり方と貴族院のやり方では違いがあるかもしれません」
「え?」

 魔力を扱う上で大事なのは、頭の中ではっきりと思い浮かべることだ。わたしの圧縮のイメージを教えてあげれば、少しは役に立つだろうか。
 わたしは休憩室を見回して、木箱と革袋を発見した。

「ダームエル、そこの木箱を開けて、自分のマントを入れてください」
「は? はい」

 ダームエルは疑問符を頭いっぱいに浮かべながらマントを外して、丸めて木箱に入れる。ぐしゃっとなっているマントは木箱から少しはみ出していた。

「この木箱がダームエルの体で、マントが魔力としましょう。今の状態が魔力を全く圧縮していない状態です。魔力を圧縮して、容量を増やそうと思えばどうすれば良いですか?」

 ダームエルは無言でマントを畳んで、木箱に入れた。丸めて木箱に入れた時よりは空いている場所が大きくなっている。

「そうですね。こうして畳んだ状態のマントを増やして、体の中に魔力を満たすのが魔力の圧縮だとわたくしは考えているのですが、間違いないですか?」
「間違いではないです。今までは、あまりこうして視覚で認識していなかったので、とてもわかりやすいです」
「感心しているところ恐縮ですけれど、兵法をゲヴィンネンでわかりやすくしたダームエルのやり方を見習っただけですよ?」

 わたしの言葉にダームエルはポンと手を打った。魔力の扱いはイメージが大事なので、言葉で説明されるより、見た方がわかりやすいと思ったのだ。

「では、このように魔力を折りたたんで、自分の中で圧縮してみてください」
「やってみます」

 ダームエルは目を閉じて、眉を寄せながら、自分の中の魔力を動かしていく。集中しているのがわかるので、わたしは声をかけず、じっと待っていた。
 しばらくして、ダームエルが目を開けた時、感動したように目を輝かせる。

「できました、ローゼマイン様。今までよりずっと圧縮されています」
「そう、それはよかった。ダームエルの魔力がどのくらいの時間で増えるのか存じませんけれど、神殿の護衛の時は魔力を使う機会も少ないでしょう? どんどん魔力を体内に増やして、増えた分をまた圧縮していけば、今までに比べると魔力を大量に蓄えることができるのではないかしら?」
「ありがとうございます!」

 魔力を抑え込むことに慣れてくると、同じ器の中にも溜められる魔力の量が変わってくるのだ、と神官長は言っていた。

「では、ダームエル。あの革袋を取ってくださる? そして、マントを貸してちょうだい」
「は? はい」
「ちなみに、わたくしの魔力の圧縮はこのようにしています」

 わたしはマントと革袋を受け取ると、畳んだままのマントを革袋に入れた。そして、革袋の上に座り込むようにして、空気を抜いて圧縮し、ぺたんこにして口を閉める。
 ただ畳んだだけの状態より、マントがずっと薄く小さくなっているのを見て、ダームエルはポカンと口を開けた。

「参考にしてもよろしくてよ」

 革袋で圧縮されたマントを取り出したら、皺がいっぱいでくしゃくしゃになっていた。ダームエルが頭を抱えながら、必死に皺を伸ばしていると、扉の向こうで小さなベルの音が響く。

「どうぞ、お入りになって」

 休憩室の扉を開けて入ってきたのは、今日から復帰のアンゲリカだった。動きやすいように後ろで一つまとめた淡い水色の髪をサラリと揺らして、部屋に入ってくる。

「ローゼマイン様、ただいま戻りました。本日から護衛騎士として、またよろしくお願いいたします」
「アンゲリカ、おかえりなさい。全ての講義を終えたのでしょう? よく頑張りましたね」

 アンゲリカはあちらこちらへの挨拶や報告を終えて、やっと訓練場に来られたらしい。アンゲリカの後ろにはブリギッテとコルネリウス兄様もいた。ダームエルやアンゲリカと訓練を交代しようと思って来たらしい。

「エックハルト兄様がいらっしゃるまで、わたくし、動けませんの。ですから、その間にアンゲリカの魔剣に魔力を込めようと思ったのですけれど、後の方が良いかしら?」
「今、お願いいたします」

 他の皆も魔剣にわたしの魔力を注ぐとどのように変化するのか見てみたいと言い出した。普通は他人の魔剣に魔力を注ぐことがないので、気になるそうだ。

「わたくし、魔剣について全く知らないので、教えてくださる? 魔剣も見てみたいですし……」
「こちらがわたくしの魔剣です」

 アンゲリカが腰に装備されている剣の柄を手に取って、スッと引き出す。短剣のような長さの鞘に収まっていたけれど、抜いてみると刀身は50センチくらいの長さがあった。
 わたしが「予想以上の長さに驚きました」と目を瞬いていると、アンゲリカは嬉しそうに目を細めた。

「込める魔力によって、刀身の長さが変わります。最初はナイフ程の長さもありませんでした」

 今は50センチくらいの長さがあるだろうか。コツコツと魔力を注いでいった結果らしい。

「魔物と戦うには、刀身は長い方が有利になるので、早く育てたいのです。それに適性も増やしたいです」
「適性とは何ですか?」

 知らない言葉が出てきて、わたしが首を傾げると、ブリギッテが説明してくれる。アンゲリカに説明を任せたら、二度手間になるとここにいる者にはわかっているからだ。

「魔力の適性です。適性により、どの神々の加護を受けやすいかが変わります」
「適性がなくては、加護が受けられないのですか?」
「いえ、そういうわけではありません。ただ、神々の目に留まる何かがないと、加護を得るのは難しいと思いますけれど」

 適性があれば楽に加護が得られるけれど、適性がなくても、全く加護が得られないわけではないそうだ。

「アンゲリカの適性は何ですか?」
「わたくしは火と風に適性があります。風の属性の加護は得られませんでしたけれど」
「え? 適性があっても加護が受けられないこともあるのですか?」
「……稀に」

 ブリギッテの苦しそうな声から察するに、適性があれば得られるはずなのだろう。
 他の人達にも適性を聞いてみたところ、ブリギッテは火と土で、ダームエルは風に適性があるらしい。
 コルネリウス兄様は光と水と火と風だと言った。多いことに驚いていると、「領主と近い上級貴族ですから」という答えが返ってきた。上級貴族の方が魔力も豊富で適性も多いそうだ。

「ローゼマイン様の適性は何ですか?」

 ブリギッテに問われて、わたしはふるふると首を振った。そんな当然のように聞かれても、わたしは知らない。

「存じません。その適性とはどこでどのように知るのですか?」
「洗礼式で魔力の登録をした時に、フェルディナンド様に教えられたのではないのか?」
「登録証が適性のある神の貴色に変化したはずです。何色でした?」

 矢継ぎ早に質問されて、わたしは自分の洗礼式を思い返す。

「……えーと……」

 確か、7色に変わって、「やはりな」と言われたような気がする。けれど、神官長から魔力の適性に関する丁寧に説明はされなかったはずだ。

 そこでハッとした。
 兄妹であるはずのコルネリウス兄様が4色なのに、第三夫人の娘ということになっているわたしが7色だなんて言ってしまって良いのだろうか。公言して良いのかどうかわからない。もしかしたら、秘密にしておくために神官長は敢えてわたしに言わなかったのだろうか。

「その、いくつかの色に分かれましたけれど、適性に関係があるとは存じませんでしたし、よく憶えておりませんわ。フェルディナンド様はすぐに箱に入れてしまわれたので」

 わたしの答えに、うーむ、と唸ったダームエルが口を開く。

「あれほど簡単に武勇の神 アングリーフの祝福を授けられるのだから、火の適性はあるでしょう」
「風の女神 シュツェーリアの盾が使えるのですから、風の適性もありますね」

 ブリギッテも続けてそう言った。
 他に何か、皆の前で使った魔術があっただろうか。わたしは記憶を探る。

「わたくし、トロンベ退治の後、土地の癒しを行いましたけれど……」
「あの時は神殿から持ち出した神具をお使いでした。神具自体が属性を持っているので、魔力の適性は関係ございません。適性がなければ、神具を扱えないのでは神官や巫女が困るでしょう?」
「確かにそうですね」

 水の適性がないので、トロンベに荒らされた土地を癒せなかったり、祈念式で祈れなかったりするようでは困る。
 魔術具自体に属性を付けることもできるのか、と頷いていると、ブリギッテが少し首を傾げた。

「フリュートレーネの夜、ローゼマイン様の歌に泉の魔力がずいぶん反応しておりましたから、わたくしは水にも適性があるのではないかと思っておりますけれど……」
「水と火と風だったら、コルネリウスとよく似ていますね」

 アンゲリカの言葉にダームエルが笑って頷いた。

「やはり兄妹だからでしょう。どうしても親の適性に左右されますから」
「そうなのですか。……それで、魔力の適性は魔剣にどのような影響を与えるのですか?」

 わたしの疑問にアンゲリカが魔剣の柄を優しく撫でながら答えてくれる。

「魔物も適性を持っていますから、魔剣が持つ適性によって、倒しやすかったり、倒しにくかったりします。できるだけたくさんの属性を集めたいのです」

 アンゲリカは二種類の適性しかなく、魔物を倒して魔石の魔力で土を少し加えたけれど、なかなか属性は増えないらしい。
 ふむふむ、とわたしが頭を整理している間に、護衛騎士達がどのように魔剣を育てていくかについて議論を交わし始めた。騎士という役職に就いているだけあって、皆、魔剣には興味があるようだ。

「なるべくアンゲリカに足りない適性を埋めれば良いのではありませんか?」
「いや、アンゲリカは刀身を伸ばしたいと言っているし、ローゼマイン様の魔力は刀身を伸ばすために使えば良いのでは?」
「アンゲリカは短所を自分で埋める気が全くないから、短所を埋めてやった方が良いと思う。刀身や長所は自分で伸ばせるだろう?」

 三人の意見を聞きながら、わたしは魔剣を見つめる。

「アンゲリカはどうして欲しいですか?」
「コルネリウスの言う通り、わたくしは自分の短所を補うのが下手なので、短所を補って欲しいです」
「アンゲリカに足りないものを埋めるように念じながら、魔力を込めれば良いのですね?」
「はい!」

 アンゲリカに足りない適性が付けられるように、と周囲に言われながら、わたしは魔剣の柄頭についている魔石にそっと触れた。
 今までアンゲリカが込めてきた魔力を越えてはならないと言われているので、そろそろと少しずつ魔力を流していく。

 ……アンゲリカに足りないのは、適性云々の前に、知性だと思うんだけどね?

 思考回路がスピードと戦いにしか向いていないのだから、そんなアンゲリカの足りないところを埋めようと思えば、剣に知性を付けるしかない。

 剣に知性を付けるなんて、そんなファンタジーなことがあり得るのだろうか。この世界ならあり得るのかもしれない。とりあえず、できる前提で考えてみよう。

 ……周囲の意見を聞いて憶えておく機能が付いていて、間違ったことをすれば叱って軌道修正してくれて、知識の足りないアンゲリカに助言ができる知性的な……って、それはもう剣じゃない! 神官長だよ!

「そこで集まって一体何をしている?」
「ぴぎゃあっ! エックハルト兄様!?」

 考え込んでいるところに声をかけられて、わたしは魔剣から手を離して、その場で飛びあがった。

「アンゲリカの魔剣に魔力を注いで……」
「駄目だ」

 全てを言う前にエックハルト兄様に却下された。

「ローゼマイン、魔剣を育てるのは難しい。魔力を注ぐのはフェルディナンド様がいらっしゃる時に、監視下で行いなさい」
「あの、エックハルト兄様。とても言いにくいことですけれど、もうすでにちょっと注いでしまいました」

 ひくっと頬を引きつらせたエックハルト兄様が、即座にシュタープを取り出す。それと同時に黄色の魔石を取ってココンと叩いた。

「オルドナンツ!」

 白い鳥の姿となったオルドナンツに向かって、わたしが他人の魔剣に魔力を注いだことを告げて、ブンとシュタープを振って飛ばす。神官長に向かって一直線に飛んでいくオルドナンツを見て、わたしは不安になってきた。

「エックハルト兄様、わたくしがアンゲリカの魔剣に魔力を注ぐのは、良くないことなのですか?」
「中級貴族のアンゲリカと領主の養女となれるローゼマインでは魔力の量も質も違う。魔剣がどのような変化を起こすのかわからぬ」
「えぇ!?」

 アンゲリカが不安そうに自分の魔剣を手に取ろうとした。

「触るな! フェルディナンド様に見ていただくまで、そのまま待機だ」

 エックハルト兄様の睨みにうっと息を呑んで、アンゲリカは伸ばしていた手を引っ込めて、自分の胸の前でぎゅっと握る。
 すぐにオルドナンツが戻ってきた。「今行く」という実に簡潔な返事が来た。声が怒っている。ひんやりしているのが嫌でもわかった。

 ……怒られる。マジで怒られる。

 神官長が来ることがわかったら、気が楽になったのか、エックハルト兄様は一度息を吐いた後、コルネリウス兄様を睨んだ。

「コルネリウス、其方も何故止めぬ?」
「魔力のやりとりは本人同士の了解があればそれで良い、と貴族院で習ったから、ローゼマインが許しているならば良いと思ったので……」

 コルネリウス兄様の言葉に護衛騎士が揃って頷いた。皆、同じ考え方だったため、誰も止めなければならないことだという認識がなかったそうだ。
 エックハルト兄様はハァと溜息を吐いた。

「ローゼマインはまだ貴族院へ行っていないだろう? つまり、魔力に関する知識がない。儀式の関係で魔力を込めることは慣れているが、量を調節したり、適性に分けて魔力を扱ったりするような技術は全くないのだ」
「……あ」
「本来、貴族院に入っていない子供は挨拶程度の魔力のやりとりしかしない。ローゼマインは神殿で儀式を行ったり、騎士団に祝福を与えたりしているので、忘れられがちだが、知識も技術もないのだ。自分達と同じに考えてはならない」

 護衛騎士が全員愕然とした顔になった時、文字通り、神官長が騎獣で飛んできた。
 ザッと騎獣から飛び降りて、騎獣を消すと、つかつかとわたし達のところへと歩いて来る。神官服のまま、城に来るのだから、かなりお怒りのようだ。

「ローゼマイン、何もするな、と言っておいたはずだ。違うか?」
「ご、ごめんなさいっ!」
「まずは問題の魔剣を見せてみなさい」

 神官長が手に取って、魔剣をじっくりと眺める。ほんの微量の魔力を通して、わたしの魔力の影響を調べ始めた。

「今のところは特に何も起こっていないな。他人の魔力が入りすぎると、持ち主が制御しにくくなる。君はただでさえ魔力が多いのだから、このような繊細な制御ができるわけがない。アンゲリカからローゼマインへ魔剣の持ち主が変わったらどうするつもりだったのだ!?」
「え、えーと、わたくしが主になってしまったのでしたら、アンゲリカに仕えてね、って魔剣に言えばいいのではありませんか?」

 主の命令ならば聞いてくれますよね? と首を傾げると、アンゲリカがパァッと顔を輝かせた。

「さすがローゼマイン様ですね。それならば、わたくしでも強い魔剣が使えそうです」
「……この馬鹿者!」

 魔剣を台の上に置いた後、わたしとアンゲリカだけではなく、護衛騎士全員に対して、神官長の長いお説教が始まった。
 魔剣に限らず、魔石や魔術具に自分の魔力を通して、自分だけが使えるようにする意味、利点、欠点はもとより、魔力のやり取りについても、神官長の息切れと喉が心配になるくらいお説教される。

「ローゼマイン、君のやろうとしたことの危険さがわかったか?」
「はい」
「アンゲリカ、君はどうだ?」
「何となくわかったような気がします」

 ……全然わかってない顔だ!

 今まで勉強を教えてきた「アンゲリカの成績を上げ隊」にはわかる。全く理解できていない顔だ。
 ぴくっと神官長のこめかみが動くのと、雷が落ちるのはほぼ同時だった。

「一体何を聞いていた、この馬鹿者!」
「……え?」

 神官長の声が何故か二重に聞こえた。
 雷を落とした神官長さえも目を瞬く中、台の上に置かれたままのアンゲリカの魔剣が神官長そっくりの物言いでお説教を始めた。正確には柄頭の魔石から声が響いて来る。

「我が主、君は何もわかっていない」

 神官長が不気味そうに、声を発する魔石の部分を見下ろし、そして、わたしを見た。

「……ローゼマイン、君の仕業か?」
「濡れ衣ですっ!」
「そうか、すまない。魔剣が説教を始めるような奇妙な現象が起きるのは、君が関係しているとしか思えなかっただけだ」

 神官長がこめかみを押さえるのと、魔剣がきらりときらめくのは同時だった。

「正解だ。我が主の主であるローゼマイン様の魔力と望みにより、私は生まれた」
「へ!?」

 周囲の視線が一斉にわたしに向いた。
 わたしは目を瞬きながら、魔石をじっと見つめる。魔石は神官長の声でしゃべり続ける。

「周囲の意見を聞いて憶えておく機能が付いていて、間違ったことをすれば叱って軌道修正してくれて、知識の足りない我が主に助言ができる知性的な剣が必要だったのであろう? それは神官長だと強く思っていたではないか」
「そういえば、考えていました。魔力をちょろちょろと注ぎながら、アンゲリカに足りないのは知識だって……」

 まさかこんなことになるなんて、わたしが目を見開くと、神官長がじろりとわたしを睨んだ。

「やはり君が原因か。濡れ衣でも何でもないではないか」
「ローゼマイン様の望みに加えて、神官長が魔力を通してくれたため、私は誕生するに至った」

 神官長の魔力を通して、物言いや人格のようなものを決定したらしい。神官長が魔力を通さなかったら誕生しなかったのだ。

「最終的に止めを刺したのはフェルディナンド様じゃないですか!」
「明らかに君が悪いだろう、この場合」
「うぐぅ……」

 確かに、剣に知性があれば良いと考えたのはわたしだ。やってしまったことは責任を取らなくてはならない。

「アンゲリカ、ごめんなさい。こんな残念な進化を遂げるとは思わなくて……。お説教臭い魔剣が嫌ならば、責任を持ってわたくしが引き取ります」
「いいえ、ローゼマイン様」

 魔剣が「我が主」と言ってくれたことが、非常に嬉しかったのだと言いながら、アンゲリカは台の上の魔剣を手に取って、魔石の部分をそっと撫でた。

「わたくしの代わりに憶えてくれて、色々教えてくれる剣なんて、他にはありません。わたくしは、この魔剣を大事にしたいと思います」
「あぁ、我が主に足りない知識は私が補う」

 魔石の言葉にアンゲリカは嬉しそうに「知識に関しては任せます」と言い出した。気が合っているようだが、不安で仕方がない。

「……アンゲリカ、本当にそれでよろしいのですか? ものすごく口うるさいですよ?」

 口出しするだけの神官長が始終側にいるようなものだ。絶対に落ち着かないと思う。
 わたしの主張に神官長が「ほほぅ」と低い声を出した。

 ……ヤバい、失敗したっぽい。

 神官長はわたしの頬をぐにっと摘まみながら、アンゲリカを見下ろした。

「君がその魔剣で良いのならば、そのまま使っても構わない。ただし、以後、ローゼマインが魔力を注ぐのは禁止する。これ以上妙な変化をされては困るからな」

 神官長の言葉に、残念そうなアンゲリカを除いた皆が大きく頷いて同意した。
 ダームエルはローゼマイン流魔力の圧縮を覚えた。増やせるかどうかは努力次第ですね。
 そして、アンゲリカの魔剣はお説教剣になりました。剣に教えられながら、成長すると良いよ。

 次回は、夏の販売に向けて、印刷物を増やします。次の更新は9月1日です。
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