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本好きの下剋上 ~司書になるためには手段を選んでいられません~ 作者:香月 美夜

第三部 領主の養女

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シュネティルムとの戦い

 わたしは雪に囚われないようにレッサーバスを空中に浮かせたまま、周囲を騎士達に囲まれて守られていた。
 目を細めて渦巻く吹雪を見上げたけれど、真っ白の雪を周囲から叩きつけられているようで、満足な視界が得られない。すぐ近くの騎士達の黄土のマントすら霞んで見えるほどだ。

「ローゼマイン様、ダームエルです」

 近く寄ってきた騎獣に乗っていた鎧が、兜の顔を覆っているブレスの部分を跳ね上げて呼びかけてくる。

「ダームエル、何かあったのですか?」
「フェルディナンド様から命令を受けました。入ってよろしいですか?」
「どうぞ」

 わたしがレッサーバスの助手席側をぐにょんと開けると、ダームエルが自分の騎獣の羽の上を歩いて、レッサーバスの助手席に入ってきた。そして、騎獣を魔石に戻す。

「フェルディナンド様が何をおっしゃったの?」

 神官長から、不安だからわたしに付いているように、と言われたらしい。ダームエルは遠回しなことを言っていたが、わかりやすくまとめると「私が呼びに行くまで何もさせるな。問題を起こさないように監視していろ」という内容になった。どうやら、わたし、全く信用がないようだ。

「特に、魔力の温存を重視するように、とおっしゃっておられました。ローゼマイン様は感情や目の前の状況を最優先でお祈りをするので、それを止めるように、と」
「う……」

 神官長には完全に見抜かれている。やらないとは絶対に言えない。
 わたしが口ごもると、ダームエルは困ったように眉を下げた。

「……やっと見習いから騎士に戻れたところなのです。私が処分対象になるような無茶はお控えください」
「できる限り控えます」

 シキコーザのとばっちりで一年間、見習いとして頑張ったダームエルの泣きそうな顔での訴えに、わたしは頷かざるを得なかった。

「……これがローゼマイン様の騎獣ですか。見た目はともかく、中はすごいですね」

 助手席に座ったダームエルがあちこち触って、「うわ」とか「おぉ」とか、小さく声を上げている。

「うふふん、座り心地は良いでしょう?」
「はい。ブリギッテから聞いた通りです」
「ブリギッテは何と言っていたのかしら?」

 助手席に平然と座ってくれるので、気に入ってくれていることはわかるけれど、ブリギッテはどちらかというと口数が少ない。口元がちょっと緩んでいるのを発見するくらいで、あまり感想を教えてくれないのだ。
 わたしがわくわくしながら、ブリギッテの意見を聞くと、ダームエルは記憶を探るように少し視線を下げて目を伏せた。

「移動するだけならば、ローゼマイン様の騎獣は実に乗り心地も良いけれど、武器を持って戦うことを想定するならば、今の騎獣に跨っている方が武器を振り回しやすい、というようなことを言っていました」
「確かに、騎士は戦わなければなりませんものね。これではちょっと戦いにくいでしょうね。……ですけれど、戦う時と移動する時で騎獣を使い分ければ良いのではありませんか?」

 一瞬で騎獣を出せるようにするには明確なイメージと慣れが必要なため、用途によって使い分けるのは、迅速さを重視する騎士には難しいそうだ。

「ローゼマイン様は大きさを自在に変えますが、本来はそれほど簡単なことではありません」

 ダームエルはそう言うけれど、わたしのイメージは常に車だ。一人用からマイクロバスまで、まとめて車だとイメージしているから、大きさを変えることに対して抵抗がないのだと思う。

「あぁ、始まりますよ。ご覧ください」

 吹雪の渦巻きを中心に見て、左右に一つずつ、強い光が見える。それを指差して、ダームエルが言った。

「あれは、騎士団長とフェルディナンド様です」

 いくら目を凝らしてみても、神官長もお父様も見えない。ただ、同じような大きさの光が見えるだけだ。

「遠目ですので、わからないかもしれませんが、あれはシュツェーリアの夜にゴルツェを倒した攻撃です」
「あの、一発でゴルツェを倒した攻撃ですか?」
「ローゼマイン様、身構えてください! ものすごく強い衝撃がきます!」

 ダームエルの鋭い声と共に、吹雪の渦巻きに向かって、二つの光が叩きつけられた。
 光の尾を描きながら、左右から光が飛んでいき、渦巻きとぶつかる。
 思わず耳を押さえてしまうような轟音が響く。

 渦が乱れたのは、ほんの一瞬。
 その一瞬に、吹雪が途切れて大剣を振り抜いた二人の姿が見えた。

 神官長がゴルツェを倒した時の攻撃なら楽勝かも、と呑気に思った次の瞬間、渦に近い位置にいた騎士達が次々と体勢を崩していく。波のような乱れがこちらに向かってくるのを騎士達の動きで視認できた。

 ……来るっ!

 身構えた途端、吹き飛ばされそうな衝撃が襲ってきた。わたしはぐっとハンドルをきつく握って、耐えるための魔力を注いで、踏ん張る。
 周囲の騎士達もよろけながら、何とか耐えている姿が見えた。爆心地から離れたここでもこれだけの衝撃があるのだから、中心に近いところは一体どのくらいの衝撃だったのだろうか。

 衝撃をやり過ごして、わたしは辺りを見回した。
 シンと静まったように見える。ただ、吹雪の渦巻きは変わらずにそこにあった。

「……勝ったのですか?」
「いえ、シュネティルムはそれほど簡単な相手ではないはずです」

 ダームエルがわたしの言葉を否定して前方を見据える。
 その途端、おおおおぉぉぉ、と地の底から響くような唸り声と同時に吹雪が一層強くなった。渦巻きのようだった吹雪が竜巻のように勢いを増して、巨大化していく。

 ……こんなのに、勝てるの?

 ゴクリと唾を呑み込んだ直後、竜巻のように渦巻いていた吹雪から、次々と白い塊が飛び出して周囲に飛び散っていくのが見えた。
 遠目には小さな白い塊に見えるけれど、騎士達の騎獣よりもやや大きいくらいのサイズだ。

 何だろうと、よくよく目を凝らしてみると、それぞれの白い塊が動物に似た姿を取って、周囲の騎士達に襲い掛かるのが見えた。
 豹のようなもの、ウサギのようなもの、狼のようなもの。大きさも種類もバラバラだが、全てが騎士達に襲い掛かり、騎士達はそれに応戦している。

「何ですか、あれは?」
「眷属です」

 ダームエルは前方を見据えたまま、短く答える。

「眷属とは何でしょう?」
「シュネティルムの魔力によって作られた配下のことです」

 あの白い動物達はシュネティルムの魔力で作られているらしい。
 どうやら、眷属は吹雪から出ているようで、眷属が出現すると同時に渦巻いていた吹雪の勢いが弱まり、段々と中心にいた大きな魔獣の姿が見えるようになってきた。

「あれが、シュネティルム」

 薄れていく吹雪の渦巻きの中心にいたのは、シュツェーリアの夜に巨大化したゴルツェよりまだ大きな魔獣だった。
 遠くから見ても山のような巨体で、神官長やお父様の騎獣が周囲を飛び回って攻撃を仕掛けている様子が、ネコの周囲を飛び回るハエのように見える。それくらい、大きさの差があった。

 シュネティルムの姿は、まるで雪の虎だ。ホワイトタイガーのように白に黒の縞が入っている巨大な体に、口から長く突き出た大きな牙と鋭い爪を持っている。
 その目はぎょろりと大きく、魔獣の特徴なのか、赤く鋭く光っているように見えた。周囲を飛び回る騎士達を視界に捉えようとあちらこちらへと視線を動かしている。

 巨体の割に敏捷性は高いようで、攻撃を仕掛けようとする騎士達を払いのけようと動かす前足の動きは素早い。
 そして、シュネティルムが暴れると同時に吹雪が起こる。唸り声を上げて、吠えると吹雪が巻き起こり眷属が生まれていく。

 神官長とお父様、二人がかりの攻撃でも傷一つ付いていないように見えるシュネティルムに勝てるような要素があるのだろうか。
 どう考えても倒せない気がする。

「本当に、大丈夫でしょうか」

 わたしが不安に駆られてダームエルを見ると、ダームエルも目を細めてシュネティルムを見据えていた。

「かなりの長期戦になると思われます」

 ダームエルの見立ては正しかった。
 シュネティルムが吠えたら吹雪が起こり、その吹雪の中から眷属であるいくつもの種類の白い魔獣が出てくるのだ。

 最初は騎士達も万全の状態なので、比較的楽に倒しているけれど、倒された魔獣達はまた吹雪のように散って、シュネティルムの方へと戻っていくように見えた。

「また、来ますよ」

 眷属の数が減ってくれば、シュネティルムの周囲に少しずつ吹雪が増えていく。
 シュネティルムの姿が吹雪に隠れるよりも先に、またシュネティルムが地の底から響くような唸り声を上げて、辺り一面に響くような大きな声で吠えた。

 その声で次々と吹雪から眷属が生まれていく。生まれたばかりの眷属達が騎士達を襲い、中級貴族の騎士達が応戦して討ち取っていくけれど、その戦いはきりがない。

 最初は有利に見えた戦いが、段々と五分五分の戦いへと移っていき、次第に騎士達が苦戦しているように見えてくる。

「ローゼマイン様の祝福があっても、これだけ苦戦するのか……」

 シュツェーリアの夜にもわたしは武勇の神アングリーフの御加護を祈った。それで、ずいぶんと騎士達の動きは変わったはずだ。あの時は楽になったと言っていたけれど、今回は、その加護付でも苦戦しているように見える。

「危ないっ!……あぁ、くそっ」

 中級貴族の騎士達では眷属を抑えきれなくなっていて、下級貴族の騎士達がこちらへ向かってくる眷属を必死に退治している。

 ダームエルがすぐにでも加勢のために駆け出したそうな顔で歯噛みして、小手に包まれた手を開いたり握ったりしている。
 加勢したい気持ちはよくわかるし、騎士として戦いたい気持ちもわかる。けれど、ダームエルの任務はわたしの護衛だ。「行ってきてもいいよ」と言ってあげたいけれど、命令違反になるようなことは言えない。

「わたくしにも何かできることがあれば良いのですけれど……」
「武勇の神アングリーフの御加護も頂きましたし、これ以上は……。魔力を温存するように、とフェルディナンド様からも厳命を受けております。お忘れですか?」

 ダームエルは苦境を目にしながらも、魔力をこれ以上使うな、とキッパリと言い切った。

「それは、そうですけれど……」

 見ているだけというのも、じりじりとした焦りで胸が焼けるようだ。特に味方が苦戦しているとあれば尚更である。

「毎年、冬の主とは戦っているのです。シュネティルムは中でも巨大な相手ですが、絶対に倒せないということはございません」

 冬、そのものを相手にするようなものだ。長期戦で当たり前。毎年のことだ、と言われれば、わたしが飛び出すのはただのバカな行為にしか見えないだろう。

「上級貴族の騎士達も戦っております。ローゼマイン様は魔力を温存して待機するのが役目です」

 どうしても近くで戦っている騎士達に視線が向いてしまうけれど、中級や下級の騎士達が次々と生まれてくる眷属を倒している間に、上級の騎士達は巨大な雪虎に攻撃を仕掛けていた。

 巨大なシュネティルムに立ち向かっていく騎獣がいくつも見える。あちらこちらで小さな光が見え、それがシュネティルムに向かって飛んでいった。神官長やお父様程の威力は無いようだが、同じような攻撃だろう。
 だが、いくつもの光が当たろうとも、シュネティルムの動きには全く変化がなく、攻撃が効いているように見えない。



 しばらく膠着状態が続いた。
 倒しても、倒しても、眷属が生まれてくる。それを必死に退治し続ける騎士達。
 段々と苦戦し始めたので、このまま押されてしまうのかと思った。けれど、そうはならなかった。

 騎士達はそれぞれが準備している薬を飲んで、体力を回復させながら、戦いを続けている。ダームエルが言った通り、長期戦を覚悟し、そのための準備は整えてあったようだ。

「……苦戦する前に薬を使って欲しいものですけれど」
「いつまで続く戦いになるかわかりませんから、薬も温存したいのです」

 どれくらいの時間がたったのか、わたしにはわからない。
 ただ、倒しても、倒しても、眷属が生まれてくる状態に違いはないけれど、シュネティルムがまとう吹雪が少し減ってきて、一度に生まれる眷属の数が減ってきたように思える。

「多少、弱ってきたようです」

 ダームエルがそう言った時、シュネティルムの左右で、また一際強い光が生まれた。最初の攻撃に等しい強い光だ。

「騎士団長とフェルディナンド様でしょう」

 ダームエルがその目を希望に輝かせて、やや前のめりになりながら、シュネティルムの方を見つめる。
 勝機を見出した目に、わたしも同じようにハンドルをつかんで前のめりになりながら、目を凝らした。

 二人から放たれた光が、シュネティルムの右前足を集中して襲う。交差するように飛んだ光が前足を穿(うが)ち、爆発した。
 シュネティルムの体内に潜って爆発したせいか、こちらまで衝撃は届かない。

 渾身の力が籠っていたのだろう、シュネティルムの右前足がちぎれて落ちた。
 次の瞬間、周囲の上級騎士達が一斉に左の前足を目がけて攻撃を放ち始める。一点に集中した攻撃にはかなりの効果があったようだ。

 シュネティルムが大声で吠えた。
 今までの眷属を生み出すための唸り声とは全く違う、苦痛と怒りに満ちた唸り声を上げて暴れ始める。

 その途端、周囲の吹雪が完全に晴れた。
 そして、騎士達が戦っていた眷属の姿が掻き消える。

「勝った、のですか?」
「わかりません。ただ、吹雪が晴れ……駄目だ! 傷が癒えていく!」

 今度こそ勝ったのかと思ったけれど、そうではなかった。吹雪を起こす力を、自分の傷を癒すために使っているのだ。
 集中攻撃されたシュネティルムの左前足の傷が、どんどんと塞がっていく。このままでは、少し時間がかかるだろうが、せっかく落とした右の前足でも再生させてしまうだろう。

 目を見開いてシュネティルムを見ていると、ものすごい勢いでこちらに向かって飛んでくる騎獣が目に入った。

「フェルディナンド様がいらっしゃいます!」

 邪魔にならないように出ます、と叫んで、ダームエルはレッサーバスの外側に自分の騎獣を出して、自分の騎獣へと飛び移った。
 わたしもライデンシャフトの槍をつかんで、神官長がやってくるのを待ち構える。

「ローゼマイン、来なさい!」

 神官長がレッサーバスに向かって手を差し伸べる。来なさいと言われても、レッサーバスは宙に浮いた状態だ。ドアを開けたものの、どうして良いのかわからずに躊躇っていると、神官長が舌打ちして、シュタープを取り出した。

 ブンとシュタープを振ると、光の帯が飛び出して来て、わたしにぐるぐると巻きつく。え? え? と目を白黒させているうちに、一本釣りのように強く引かれた。わたしの体はひゅんと空を飛んで、気付いたらわたしは神官長の騎獣の上にいた。

「全く手間がかかる」
「……お、お手数をおかけいたしました」

 レッサーバスを魔石に戻し、シュネティルムの方へと移動する。レッサーバスの中にいた時と違って、空気は肌を刺すように痛く尖って、高速で移動すると目を開けているのも辛い。

「完全に再生するまでが勝機だ。絶対に逃がすな」
「……はい」
「両手でしっかり握って、魔力を全力で込めなさい」

 神官長の左腕がわたしの前に回され、落ちないように支えてくれている。
 わたしはライデンシャフトの槍を両手で強く握って、魔力を注ぎ込んでいく。すでに魔石の色は変わっているので、魔力は満たされているはずなのに、流し込めば魔力はまだ流れていく。

 晴れ渡っていた空が曇天へと変わっていき、また雪が降り始めた。
 左足の傷は完全に塞がっているようで、ぶんぶんと振り回されている。そして、右の前足も半分ほどが再生されているように見えた。

「まだだ」

 頭上で神官長の声がする。
 わたしはどんどんと近付いて来るシュネティルムを見据えながら、槍に魔力を込めていく。
 神官長がぐっと騎獣を上に向けて、ひたすら上空へと上がり始めた。

「まだ足りない」

 全力で魔力を流し込んでいく。
 飽和状態になったように、魔力がバチバチと火花を散らし始め、ライデンシャフトの槍の穂先が青く光り始めた。

「いつでも投擲できるように右手で構えなさい」

 神官長の言葉に頷き、わたしはライデンシャフトの槍を槍投げできるようにつかんで構える。
 神官長は「しっかり握っていなさい」と言いながら、槍に触れないように、右手でわたしの手首をつかんだ。そして、手綱を握ったままの神官長の左腕が安全バーのようにしっかりとわたしのお腹に回される。

「行くぞ!」

 神官長のその一言で、騎獣は真下に向かって突っ込み始めた。勢いを付けて落下するのだ。自由落下より怖い。
 バタバタと神官長のマントが翻る音しか聞こえない。
 空気に頬がバチバチと叩かれるような感触と胃の中の物がせり上がってくるような浮遊感に涙が自然と盛り上がってくる。

 声にならない悲鳴を上げながら、わたしは神官長と一緒にシュネティルムに向かって突っ込んでいった。

「投げろ!」

 神官長はそう言いながら、わたしの右手首をつかんだまま、投擲できるように動かしていく。わたしにできたのは、タイミングを合わせて、槍から手を離しただけだ。

 青い光が流れ星のようになった。ライデンシャフトの槍が真っ直ぐにシュネティルムに向かって落ちていく。

 それを見届けると、神官長はすぐさま騎獣の向きを変えた。
 ぐっと勢いよく向きを変えられたため、体にかかる重圧も方向を変わる。予想外の重圧に、わたしはうぐっと呻いた。

 次の瞬間、地鳴りと共に下からものすごい衝撃が来た。神官長は騎獣を上に動かすことで衝撃をやりすごし、一度上空で止まる。
 神官長の左腕にしがみつくしかできないわたしと違って、神官長は身を乗り出すようにして、下を見下ろした。

「討伐完了だ。魔石の回収に向かうぞ」

 計画通りだというような淡々とした声でそう言って、神官長はシュネティルムがいた場所へと降りていく。

「しっかりしなさい。魔石の回収は君がしなければならないのだ。意識を失ったり、倒れたりするのはその後だ」

 無茶なことを言うなぁ、と思いながら、わたしはゆっくりと息を吐いた。
 大きく抉れた地面の穴に、ライデンシャフトの槍と魔石があった。シュネティルムの体はすでにない。

 ライデンシャフトの槍は傷の一つもなく、魔力を空にした状態で魔石に突き刺さっていた。
 わたしはライデンシャフトの槍を引き抜いて、魔石を回収する。白い魔石がほとんど淡い黄色に染まっている。

「もう少しだな。このまま君の魔力に染めてしまいなさい。魔力が足りないようならば、こちらで包んで持ち帰れば、後日魔力を込めることもできるが……」

 別の魔力で染まる可能性はなるべく排除したい、と神官長が言った。せっかく最高品質の素材が目の前にあるのだ。できるだけ良い状態に仕上げたい。

「やります」

 わたしは魔石を持って魔力を込め始めた。
 その間、騎士達は回復や癒しを行い、帰還準備をする。

「今年の討伐は予想以上に早く終わったな。ローゼマインのお蔭だ」

 お父様がそう言って、ニッと笑った。
 ものすごく苦戦しているように見えたけれど、例年はもっとひどいらしい。武勇の神の加護があり、わたしが全力で止めを刺したため、日程は大幅に短縮されて楽に終わった、とお父様は言う。

 わたしの魔力に染まった魔石を採集袋に入れる。
 初めての素材採集の成功だ。
 わたしはホッと安堵の息を吐いた。



 次の日は吹雪が晴れて快晴だった。

 城の子供達は久し振りの晴れ間に歓声を上げながら、外へと飛び出していく。スケートのような遊びやそり遊びを楽しんでいるらしい。
 これだけの快晴ならば、孤児院の子供達はパルゥ採りに行っているだろう。

 わたしは熱を出して、布団の中だ。
 ……あぁ、パルゥケーキが食べたいなぁ。
 そんな呟きに深い頷きで答えてくれたのはダームエルだけだった。
 頑張りました、騎士の皆さま。
 ローゼマインは無事に一つ目の素材を手に入れました。

 次回は、冬の終わりです。
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