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本好きの下剋上 ~司書になるためには手段を選んでいられません~ 作者:香月 美夜

第三部 領主の養女

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奉納式

 子供教室でのカルタ勝負を、わたしの勝利で終えた後、わたしは悔しがって地団太を踏んでいるヴィルフリートに声をかけた。

「ヴィルフリート兄様、わたくし、三日後から奉納式のため、しばらく留守に致します。戻ってきた時にはカルタでわたくしに勝てるように、練習しておいてくださいませ」
「ぬ? しばらく留守だと?……皆、勝機がやってきた。今度こそローゼマインに勝つぞ!」

 負けた悔しさよりも次の勝利に意識が向いたヴィルフリートの声に、数人の男の子達がつられたように意欲を燃やし、拳を握って返事した。

「はいっ! 絶対に勝ちましょう、ヴィルフリート様」
「よぉし、作戦会議だ! ローゼマインはあっちへ行け。聞いてはならぬ」

 子供教室で競争相手ができたヴィルフリートは、生来の負けず嫌いな性格が良い方に作用して順調に成長している。この冬の目標を「わたしにカルタで勝つ」と決めた時から仲間を集めて、何やら作戦会議らしきものを繰り広げているのも、無邪気な小学生男子という感じで微笑ましい。

「ローゼマイン様はどのくらい神殿へいらっしゃるのですか?」

 フィリーネの若葉のような黄緑の瞳が不安そうにわたしを見てくるが、明確な答えは返せない。前神殿長が抜けた分がどの程度影響するのか、養父様が勝手に引き受けてしまった小聖杯をどうするのか、不安要素がいくつもあるのだ。

「小聖杯を全て満たすのにどのくらいかかるか、わかりませんから、はっきりとは申し上げられませんわ。フィリーネは時間があれば、こちらのお話も書き写しておくと良いですよ」

 わたしはフィリーネの母親が語ったお話の二作目を手渡しておく。わたしが書いた分はいずれ本にするための原稿として置いておくが、フィリーネ自身が書き写した分は最終的に糸で綴じて、冊子にしてあげるつもりだ。

「恐れ入ります、ローゼマイン様」

 顔を輝かせて、フィリーネが原稿を受け取った。ふふっと笑い合っていると、横から数人の女の子が駆け寄ってくる。

「ローゼマイン様、ローゼマイン様。わたくしもお母様からお話を伺ってきたのです」
「神様の絵本も素敵ですけれど、わたくし、吟遊詩人が語ってくださる騎士の物語も絵本で読んでみたいですわ」

 可愛い女の子達に取り囲まれ、彼女達が語るお話の内容を順番に書き留めながら、次に作る本の構想を練っているうちに三日が過ぎた。



「リヒャルダ、少し動きにくいです」
「何をおっしゃるのですか、姫様? このような吹雪の中を騎獣で行こうとするならば、防寒はまだ足りないくらいですよ」

 神殿に戻る日は猛吹雪で、かなり視界が悪い。雪が深すぎて馬車ではとても行き来できないので、今日は騎獣で移動することになっている。
 わたしの体調を心配したリヒャルダが、防寒のために次々と服を重ねてくるのだが、それが窮屈で動きにくい。

「わたくしの騎獣は壁も屋根もありますし……」

 マイクロバスサイズのレッサーバスを出して、エラやロジーナ、そして、護衛のためにブリギッテを乗せる。
 乗り込めば、雪も風も遮断されるので、特に寒くない。

 神官長とダームエルとブリギッテは、トロンベ討伐の時と同じ全身鎧にマントを付けている。この吹雪の中、金属の鎧など着ていたら、凍傷になるのではないだろうか。
 わたしの疑問を神官長が一笑に付した。

「この鎧は魔術具の一種なので、そのような心配は無用だ」

 なんと一見金属にしか見えない鎧が魔術具の一種で、防寒や耐火の機能が付いているらしい。性能は元になる魔石の質と本人の魔力によって変動があるそうなので、神官長よりもダームエルが心配だ。

「フェルディナンド様とダームエルもレッサーバスに乗りませんか?」
「いや、周囲の警戒は必要だから、君がそれで動けるならば問題ない。では、行くぞ」

 騎士団は吹雪の中に出現する魔獣を退治するために出動することも珍しくはないようで、二人とも特に問題はないと言って、騎獣に飛び乗った。騎士団は予想以上に過酷なところらしい。

「吹雪の中を移動すると伺った時にはどうなることかと思いましたけれど、これは快適ですね」

 ロジーナの言う通り、吹雪に全く当たることなく、事故を起こすことなく、無事に神殿に到着した。馬車に比べて快適だっただろう。
 ただし、これは吹雪で視界が真っ白の中、先導してくれる神官長とダームエルがいてくれたおかげだ。二人の青と黄土色にはためくマントがなければ、わたしは神殿にたどりつけなかったと思う。
 空を駆けると方向感覚が全くなくなって危険すぎる。雪道を運転するのも怖いが、雪空を運転するのはもっと怖かった。

「おかえりなさいませ、ローゼマイン様」
「ただいま戻りました、フラン、モニカ」

 さっさとレッサーバスを片付けて、神殿へと飛び込むように駆け込むと同時に、慌てた様子でフランとモニカが出迎えに飛び出してきた。さすがにこの吹雪の中では、騎獣を視認できなかったようだ。

「ローゼマイン、着替えたら奉納祭の打ち合わせのために神殿長室へと向かう。君も着替えて待っていなさい」
「わかりました」

 吹雪の中を騎獣で飛んでいたのに、神官長もダームエルも雪だるまになっていない。騎士団の鎧はすごかった。

 鎧から着替えるということで、ダームエルが先に護衛部屋で着替え、ブリギッテは鎧姿のまま、護衛をしている。
 フランがダームエルのところにお茶を運びに行った。ブリギッテが着替えに行くと、ニコラが護衛の部屋へお茶を持って行く。

 わたしも着替えだ。騎獣から神殿までのほんの短い距離で雪にビシビシと当たったので、モニカに顔や髪も拭ってもらい、大量に重ね着させられた服を、まるで玉葱の皮を剥くように一枚一枚脱がせてもらう。
 そして、神殿長の服に着替える。体が軽くなって動きやすくなった。

 着替えを終えて、温かいお茶を飲みながら一息吐いていたら、鎧から神官服に着替えた神官長がやってきた。

「カンフェルとフリタークは滞りなく奉納式の準備を終えているそうだ。当初の予定通り、明日の土の日から奉納式を始める。今日はゆっくりと体を休めておくように」
「わかりました。……けれど、前神殿長が抜けた分がどの程度影響するのか、養父様が引き受けてしまった小聖杯をどうするのか、決まったのですか?」

 ただでさえ、青色神官が少なくて、魔力も足りない状態だ。そこにジルヴェスターが小聖杯を引き受けてきたのだが、一体どうなるのか。
 今後のことを考えて「自分の後始末は自分で」と言ったけれど、冬の社交で忙しい領主が神殿まで魔力の奉納に来られるわけがないのは、わかりきっていることだ。神官長が「当てはある」と言っていたけれど、何とかなったのだろうか。

「きちんと領主夫妻に責任を果たしてもらった。問題ない」

 神官長はそう言いながら、腰に下げている袋の中から魔石を二つ取り出した。魔力を吸収するために使われる魔石にたっぷりと魔力が注がれているのが見えた。これだけの魔力を溜めようと思えば、かなり多くの魔力が必要なはずだ。

「……まさか領主夫妻に魔力を注いで頂いたのですか!?」
「まさか。領地の維持に必要な魔力を注いでいる二人にそのようなことをさせるわけがないだろう」
「神官長ならやりかねないと思っただけです。自分の後始末くらいは自分でしろ、と言って、魔力を奪ってきたのかなって……」

 最悪の予想が外れてホッとしていると、神官長はゆっくりと手のひらの上で魔石を転がしながら、ニィッと唇の端を吊り上げる。

「今年は魔力の豊富な罪人がいるからな。魔力に関しては去年より豊富だと言って間違いない。あれは処分せずに長く生かしておくのが良いだろう」

 その邪悪な微笑みから察するに、領主夫妻に交渉して幽閉中の領主の母やビンデバルト伯爵から魔力を吸い取ってきたのだろう。利用できるものは徹底的に利用するその姿勢が頼もしい。味方の時は。

「青色神官に魔力の扱いを教え、これを使って奉納式を行う。慣れれば、魔力量は豊富なので、去年より早く終わるはずだ」

 自分の魔力が少ないので、強大な魔力の扱いに慣れていない青色神官に扱い方を教えるのが大変だろうが、後は楽だ、と神官長は言い切った。

「私は今日これからカンフェルとフリタークに魔力の扱いを教えに行くが、君はおとなしくしておくように。今日は孤児院へ行くのも禁止だ。体調を崩さないように気を付けなさい」

 本当ならば、わたしは神殿長なので、奉納式の最初から最後まで儀式の間にいる必要があるけれど、体調と魔力の奉納を最優先させることに決定している。今年の奉納式の全工程を見守るのは神官長だ。

「奉納式の途中で冬の素材を採集するための呼び出しがある。体調だけは万全に整えておくように」
「はい」



 次の日は朝から湯浴みをさせられ、儀式用の衣装を着せられる。去年とは違って、神殿長としての儀式用の衣装に金色のタスキのような物をかけて、銀色の帯を締める。それ以外に身に付ける小物は全て赤だ。
 簪はお披露目で使った物と同じである。ロジーナの指示を受けつつ、着付けてくれるモニカとニコラも少しずつ慣れてきているようで、着付けにかかる時間がかなり早くなった。

「できました。どうですか、ロジーナ?」
「えぇ、よくできているわ」

 ロジーナの合格点が出たので、後は儀式の準備が整うのを待つだけだ。
 フランとモニカから不在の間に起こったことの報告を聞きながら待っていると、ザームがやってきた。

「ローゼマイン様、準備が整ったようです」
「わかりました」

 フランとザームに先導され、わたしは儀式の間に移動する。儀式の間には、この神殿長室が最も近いので、今年は移動が楽である。
 長い裾を踏まないように気を付けて歩いていると、儀式の間の前で待ち構えている灰色神官が、わたし達の歩みに合わせて扉を開けてくれた。
 扉の向こうには、去年と同じように祭壇がしつらえられ、神具が飾られ、小聖杯がずらりと並んでいた。両側の壁際には篝火のように火が焚かれていて、それが部屋を暖めている。

「お待たせいたしました」

 去年と違って、儀式の間にいたのは神官長だけではなかった。カンフェルとフリタークも一緒だ。それぞれが魔力の詰まった魔石を持って、緊張した面持ちで待っている。

「……では、始めよう」

 神官長が、わたしに前へ出るように促し、自身は祭壇に向かって跪き、両手を赤い布に当てた。カンフェルとフリタークも神官長に続いて跪く。魔石が赤い布に触れるように置いて、その上にそっと手を乗せている。
 わたしは神官長の横を通り、数歩前に出たところで同じように跪いた。一度祭壇を見上げた後、赤い布に手をついて、顔を伏せる。

 去年は神官長に続いて復唱すればよかった祈りの言葉だが、今年はわたしの祈り言葉に皆が復唱するのだ。軽く息を吸って、わたしは口を開いた。

「我は世界を創り給いし神々に祈りと感謝を捧げる者なり」

 わたしが祈りの言葉を口にすると、後ろの三人が復唱し、低い声が儀式の間に朗々と響いていく。

「高く亭亭たる大空を司る、最高神は闇と光の夫婦神 広く浩浩たる大地を司る、五柱の大神 水の女神 フリュートレーネ 火の神 ライデンシャフト 風の女神 シュツェーリア 土の女神 ゲドゥルリーヒ 命の神 エーヴィリーベ 息づく全ての生命に恩恵を与えし神々に敬意を表し、その尊い神力の恩恵に報い奉らんことを」

 祈りの文句を口にするうちに、するりと自分の中から魔力が流れていく。魔力を吸った赤い布がキラキラと光り、魔力が光の波となって祭壇の方へと流れていく。
 光の波はわたしの後ろからも次々と流れてきて、その勢いに乗るように、更にわたしの魔力が引き出されていった。

「そろそろ止めよ」

 神官長の声に顔を上げ、わたしは赤い布から手を離す。流れていく光の波を見つめ、満たされた小聖杯の数を数えていく。
 去年は神官長と二人で一度に7~8個の小聖杯を満たしたけれど、今回は一度で40個ほどの小聖杯を満たせたようだ。

「この分ならば、明日には終わりそうですね」
「いや、魔石の魔力がほとんどなくなっている。奉納式を終えるのは、あと三日ほどかかるだろう」

 神官長はカンフェルとフリタークの二人から回収した魔石を見て、そう言った。確かに、魔石の色がほとんど黒になっていて、魔力は残り少なくなっている。

「カンフェル、フリターク、ご苦労だった。部屋に戻って休むと良い」
「二人のおかげで助かりました。ゆっくりと休んでください」

 自分が扱ったことがない大きな魔力を扱い、ぐったりと疲れている二人に声をかけて、退室を許可する。

「恐れ入ります」
「失礼いたします」

 二人が退室した後、神官長は扉の外に控えていた灰色神官にも声をかける。

「カンフェルとフリターク以外の青色神官を全員呼んできなさい。後は一度に終わらせる」
「かしこまりました」

 すすす、とほとんど足音も立てずに灰色神官達が下がっていった。

「あと三日で終わるならば、去年に比べるとずいぶんと楽ですね」

 去年は神官長と二人でほとんどの小聖杯を満たした上に、領主と神殿長に渡された余所の小聖杯まで満たさなければならなかった。あの状態で貴族の社交も行わなければならないと覚悟していたので、予想外に楽になったことに自然と笑顔が浮かぶ。

「去年と違って、十日以上かかることはないだろう。冬の素材を回収しなければならない、次の土の日までには間違いなく奉納式を終えられそうだ。助かったな」
「休息して魔力も回復する余裕がありそうですから、ホッとしました」

 リュエルの実に魔力を込めていくのは大変だったし、自分の魔力で染めようと思うと多くの魔力が必要になる。奉納式で魔力を使うと、あのとんでもなく苦い薬で無理やり魔力を回復させなければならなかったので、余裕があるのは素直に嬉しい。

 ……あの小聖杯がなかったら、もっと早く終わるんだけど。

 そう思いながら、わたしは領主が勝手に増やした小聖杯に視線を向けた。

「神官長、養父様が引き受けてきた小聖杯は一体どちらの物なのですか?」
「エーレンフェストの西、フレーベルタークの小聖杯だ」

 神官長の言葉に、わたしは地図を思い浮かべた。西側の領主とエーレンフェストの領主は仲が良いと聞いたことがある。

「西の領主は仲良しなんですよね?」
「そうだな。関係は良好だ。だが、フレーベルタークからの頼み事には領主夫妻が揃って弱いのが困る」

 今までは神官長が交渉の場に出て、こちらに有利な条件を付けたり、時と場合によっては却下したりしてきたが、これから先、神官長が交渉の場に赴かなければ、領主夫妻では良いようにあしらわれるだろう、と言った。

「フロレンツィア様も、ですか?」
「フレーベルタークの領主夫妻は、エーレンフェスト夫妻の兄と姉なのだ。弟妹はどうしても強く出られると弱いのだろう」

 ジルヴェスターにとっては二番目の姉がフレーベルタークへと嫁ぎ、フレーベルタークの領主の妹であるフロレンツィアがエーレンフェストへと嫁いできたらしい。
 そして、フレーベルタークはエーレンフェストと違って、数年前の中央で起こった政変にガッツリと巻き込まれた土地で、先の領主はそれが元で処刑され、後を継いだフロレンツィアの兄は領地の立て直しに必死なのだ、と神官長は言った。エーレンフェストよりも色々な意味で大変なのだそうだ。

「どちらも兄弟仲が良かった分、助力してあげたい気持ちがあるのだろうが、皺寄せがこちらへ来るので困っていたのだ。君のおかげで助かったぞ、ローゼマイン」
「神官長、そう言って、またわたくしを矢面に立たせるおつもりですね?」

 ふんぬぅ、と睨み上げると、神官長は涼しい顔で軽く眉を上げた。

「君が神殿長で、私はしがない神官長だからな」
「神官長は、しがないの意味を調べてきた方がよろしいですよ。憶え間違いだなんて珍しいこと」

 ふふふふ、ほほほほ、と笑い合っているところに青色神官達がやってきた。
 揃って怯んだ顔になって、入り口で足を止めるのを見た神官長がわたしに退室を促す。

「神殿長は下がって休むと良い」
「では、お先に失礼します。後のことはどうぞよしなにお願いいたします」

 わたしは神官長に後を任せて退室し、青色神官に愛想笑いを向けて自室に戻る。
 モニカを呼んで儀式用の服から普段使いの服へと着替えた。

「フラン、奉納式が予想以上に早く終わりそうですから、城に戻る日も早まりそうです」
「いつになるかわかりますか?」
「あと三日は奉納式にかかる、と神官長はおっしゃいましたけれど、それ以上は……。あぁ、次の土の日にはわたくしも同行しなければならない素材回収があると伺いました」

 わたしが神官長から聞いた予定を伝えると、フランは書字板に書きこんでいく。「当初の予定よりは、ローゼマイン様に負担が少なそうです」と呟いた。
 当初の予定では、奉納式の途中を抜ける形で素材回収をして、戻ってきたら、すぐに奉納式に参加するというものだったようだ。

「神官長が薬を準備されていらっしゃいましたが、使う必要がなくなりそうですね」
「それに関しては、わたくしも嬉しく思っています」
「では、ローゼマイン様。神殿にいらっしゃる間に、こちらに目を通していただけますか?」

 フランが持ってきたのは、城に行っていた間に溜まっていたお手紙や書簡だ。文字に目を通していくだけの簡単なお仕事なので、わたしは嬉々として書類仕事を始めた。
 大半は「収穫祭に来てくれてありがとう。祈念式もよろしく」という儀礼的な書簡だったが、ちらほらと前神殿長への個人的な手紙が混じっている。

「……これは、あの人かしら?」

 前神殿長への秘密の恋文が届いていた。筆跡鑑定に自信はないが、筆跡が似ているように思えるので、多分間違いないと思う。
 手紙には「どうしてもお願いしたいことがございます。頼れるのは貴方だけ」というようなことが書かれている。

 ……お願いしたいことがある、と言われてもねぇ。

 すでに亡くなってしまっている神殿長と会えるわけがない。しかも、会いたいと手紙で指定されている日付は、すでに過ぎている。
 差出人も宛先も書かれていない手紙を前に、わたしは腕を組んで、むー、と唸った。
 さて、一体どうすればよいだろうか。

「とりあえず、神殿長は亡くなりましたって返信を書いて、神官長に相談するしかないよね」

 返信用の紙が同封されていたので、その紙にわたしはいつも通りに返事を書いた。神殿長個人へと当てられた手紙に書く文言は同じだ。たらたらと長い挨拶文の後、「神殿長ははるか高みへと続く階段を上がって行かれました」と書いて、締めの挨拶を書く。
 ハッセの町長と違って、秘密の彼女さんはお貴族様なので、問題なく意味は通じるはずだ。

「これでいいいでしょう」

 ペンを置いて、インクが乾くのを待つ。そして、封筒に入るように半分に折った瞬間、指輪から魔力が紙へと流れていった。

「ぅひゃっ!?」

 わたしの魔力を吸い取ると、受け取った書面も返信用の書面も、オルドナンツのような鳥の姿を取り、ひゅん、と飛び出していった。

「ローゼマイン様、大丈夫ですか?」
「えぇ。大丈夫よ、ブリギッテ。驚いただけです。魔術具だと思わなかったもので」

 あの手紙が魔術具というのはわかった。返信用の手紙に魔力を込めれば、差出人のところに戻るようになっているならば、差出人の名前も宛先も必要ない。

「神官長が儀式を終えたら、知らせてちょうだい。お話しておかなければなりませんから」

 去年と違って、奉納式は楽に終わります。
 領主母、ビンデバルト伯爵、ご協力ありがとうございました。

 次回は、冬の素材収集です。
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