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本好きの下剋上 ~司書になるためには手段を選んでいられません~ 作者:香月 美夜

第二部 神殿の巫女見習い

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これからのわたし

 騎士達が神殿長とその側仕えを捕縛し、連れ出しているため、バタバタとしている。自分にできることがないかと、ぐるりと周囲を見回すと、ぐったりとしたままのディルクが目に入った。

「あの、わたくし、ディルクも心配ですし、デリアを孤児院へ連れて行き、ヴィルマに事情を説明してまいりますね」
「そんなことはどうでも良い。他に任せろ」

 腕を組んで、仁王立ちしているジルヴェスターがわたしを見下ろして、即座に却下した。

「一番重要なお前の扱いについての話が、全く終わっていない。フェルディナンド、部屋を貸せ」
「かしこまりました。準備してまいりますので、このままお待ちください」

 神官長はくるりと踵を返して、領主であるジルヴェスターを迎え入れる準備をするために自室へと戻っていく。
 デリアはディルクを抱いて、「マイン様、ありがとうございました。一人でも大丈夫。孤児院へ行きます」と小さく呟き、孤児院へと向かっていった。
 わたしが小さくなるデリアの背中を見送っていると、ジルヴェスターの声が背後で聞こえた。

「お前がマインの父親か?」
「はい。ギュンターと申します」

 バッと振り返れば、跪いたままの父を、ジルヴェスターは何を考えているのかよくわからない、感情を見せない顔でじっと見下ろしていた。

「家族を呼んで来い。縁組の書類を作るだけなら、其方だけで事足りるが、最後に別れくらいはさせてやろう」
「……恐れ入ります」

 拳をきつく握った父がゆらりと立ち上がった。父もまた、身分差に何も言えない現状の中、自分の内に渦巻く感情を押さえこんでいるようで、感情を見せない顔をしている。

「お待ちください。門まで案内させます」

 フランが顔を上げて、父と一緒に立ち上がった。痛みに顔を引きつらせた後、フランは灰色神官を呼んで父を案内するように命じた。後で家族と共に戻って来るので、門で誰かを待機させておくように手配するのも忘れない。

「あぁ、準備ができたようだな。行くぞ、マイン」
「はい」

 神官長の側仕えが案内のために部屋から出てきたのを見て、ジルヴェスターがスタスタと歩き始めた。その一歩後ろには騎士団への指示を終えたカルステッドが続く。
 わたしがカルステッドについていこうとすると、フランがわずかによろけながらわたしの一歩前に出ようとした。

「フラン、辛いなら無理しなくても、部屋に戻ってもいいのですけれど……」
「いいえ、私はマイン様の筆頭側仕えです。このような重要な話し合いに主一人で向かわせるわけにはまいりません」

 フランの強い決意が秘められた目に、わたしはそれ以上言うことができず、同行を許すしかなかった。痛みを堪えるような顔で、フランが歩いていく。

 神官長の部屋へ移動すると、客人を迎えるための準備がされていて、わたしはテーブルの方へと案内された。わたしは案内された席に着いたけれど、ジルヴェスターとカルステッドは神官長の執務机の方へと向かい、何やら話し始める。

「大変でございましたね、マイン様」

 アルノーがお茶のセットを準備したワゴンを押してやってくる。フランはいつものように手伝おうと手を伸ばした瞬間、うっと痛みに呻いた。

「フランは部屋に戻った方が良いのではないですか? ずいぶんと苦しそうですし、他にも側仕えはいるでしょう?」

 こっそりと囁くような声でアルノーがフランをたしなめるのが聞こえた。側仕えの会話に入っていくようなことはしてはならないけれど、わたしもフランの怪我の具合が心配なので、アルノーの意見に全面賛成したい。

「いいえ、戻りません。私がマイン様に同行をお願いしたのです」
「……フランは本当に融通が利きませんね」

 いいね、アルノー。もっと言ってやってと、わたしは心の中でアルノーを応援する。フランがあまりにも生真面目で頑固で職務一筋だから、同行を許したけれど、わたしとしては部屋で休んでほしいのだ。

「アルノーに言われたくはありません。神官長が不在ではなく、部屋に籠っていると教えてくれてもよかったではないですか。融通が利かないのはアルノーです」

 フランがむっすりとした言い方でアルノーに不満を零した。フランの言う通り、アルノーも融通が利かないところがある。神官長の側仕えに融通が利かないのは、もしかすると神官長がそうだから、だろうか。ひっそりと交わされる会話を聞きながら、わたしは小さく笑いを漏らした。

「お茶を入れたら、もう良い。下がれ」

 人払いし、側仕え全員を神官長が部屋の外へ出した。部屋に残されたのは、神官長とジルヴェスターとカルステッドとわたしの四人だけだ。あとでわたしの家族が来ることになっているけれど、今は内輪の集まりのようで、側仕えがいなくなると、ジルヴェスターの領主の仮面が外れた。

「はぁ、疲れた……。身内を裁くのは、もう嫌だ」
「これで少しは色々なところがマシになれば良い。まだ正念場は残っている。背筋を伸ばせ」

 項垂れるジルヴェスターの肩をカルステッドが軽く叩いた。ジルヴェスターは口をへの字に曲げて、わたしを軽く睨んだ。

「マイン相手に仰々しい態度を作っても意味がないだろう? 祈念式で散々やっているのだからな」
「養父となるなら、初めくらいシャキッとしろ」

 ジルヴェスターを叱りつけられるカルステッドが養父になってくれた方がよほど頼りになりそうだ。そんなことを改めて思いながら、わたしは二人のやり取りを見つめる。

「神殿長が叔父さんで、親しく見えていた神官長が異母弟ならば、カルステッド様も血縁関係がおありなのですか?」

 神官長と一緒に領主の頭を叩けるくらいだ。多分、血縁関係があるのだと思う。

「あぁ、カルステッドは父方の従兄だ。父の兄の息子になる」
「父の兄? 跡取りはどうやって決めるんですか?」

 どうやら長男が相続するわけではないらしい。ここは末子相続なのだろうか。目を瞬くわたしに、ジルヴェスターの方がきょとんとした顔になった。

「魔力量に決まっているだろう? 領地を担えるだけの魔力量を持っていることが一番重要で、基本的には実家の後ろ盾がしっかりしている正妻の子から選ばれる」
「領地を担うにも魔力が必要なんですね」
「……お前は私達とも普通に話ができるから忘れてしまうが、本当に基本的なところが足りないのだな」

 貴族の常識については、この町で生まれ育った大人だって知らないことだ。当たり前に知っていることを求められても困る。

「マイン、少し真面目な話をする」
「はい」
「私が渡した契約のネックレスに血判を押したことにより、一応養子縁組は成立しているが、今後のために色々と小細工をさせてもらう」

 まず、わたしはカルステッドの娘となり、ジルヴェスターと養子縁組するらしい。戸籍ロンダリングのようだ。

「一度カルステッド様の娘となることに何か意味があるのですか?」
「大有りだ。元平民の養女と元上級貴族の養女では全く違う」
「それはそうでしょうけれど、騎士団には顔を知られているので、意味がないですよ?」

 顔を見れば一発で、平民の青色巫女見習いと領主の養女が結びつくはずだ。カルステッドの娘だなんて、一体どこから出てきたの、という感じで受け取られるに違いない。

「騎士団だけならばカルステッドとフェルディナンドで何とかなる。カルステッドの愛娘という設定になるからな」
「え? 設定にするって、さすがにバレるでしょう? おかしいでしょう?」

 トロンべ討伐の時に顔を合わせた騎士が20名ほどいるので、わたしの身の上をカルステッドの娘だと今更偽ったところで無駄だと思う。

「いや、人の記憶を書き換えるのは意外と容易い。お前はカルステッドが溺愛していた今は亡き第三夫人の娘だ」

 ジルヴェスターが首を振って、はっきりと言い切った。

「第三夫人の娘、ですか?」
「そうだ。カルステッドの第三夫人は、身分が中流貴族出身でそれほど高くなかったが、魔力が豊富だった。それが面白くなかった上流貴族の正妻達にいびられていた」

 なんだか昼ドラのような話になってきたけれど、どこまで真面目に聞いていればいいのだろうか。

「第三夫人はお前を生んでしばらくすると亡くなり、生まれたお前に母と同じ思いはさせない、とカルステッドは人目に触れぬよう神殿で育てた。余所に知られることがないように、身分を隠していたら、勝手に叔父上が勘違いして、平民だと言いふらしたのだ。ずいぶんと多くの者が騙され、その嘘により処分される騎士まで出てしまった。叔父上は本当に罪深い方だ」

 神殿長、とばっちりで罪状が増えてるし!

 まさかの展開にわたしは口をポカンと開けて、ジルヴェスターを見た後、呆れたような顔をしている神官長とカルステッドに視線を向けた。

「トロンべ討伐の時に初対面の挨拶をしましたけれど、それは?」
「公私を分けるのは当然だろう? 存在を隠している娘と職務中に親子の触れ合いなど、騎士団長がするわけない。初対面に見えて当然だ、と言い張れば良い」

 ジルヴェスターはその設定で押し通すらしい。

「そんな適当な設定が貴族社会に通用するのですか?」
「マイン、覚えていないのかもしれぬが、クリスティーネはそのような身の上だったぞ」

 神官長の冷静な言葉に、わたしはハッとした。ヴィルマやロジーナの前の主であり、芸術巫女という部分だけが、わたしにとって印象が強かったけれど、クリスティーネは正妻に疎んじられ、神殿で育てられた巫女だった。貴族として引き取れるように父親が生活には金をかけ、教師を派遣していたと聞いたような気がする。

「確かに実在するので、説得力はありますね。でも、カルステッド様は本当にそのような設定で、わたくしを娘としても良いのですか?」
「……構わぬ。ローゼマリーとの娘がいればよいと思ったことはあるからな」

 なんと、正妻にいびられて亡くなった第三夫人は実在するらしい。わたし、貴族なった途端、いびられるんじゃないだろうか。

「うぅ、カルステッド様がいいなら、わたくしは構いませんけれど、急にこんな子供が出てくるって、おかしいじゃないですか。子供が生まれた時にお祝いはしないのですか?」

 カミルが生まれた時は、ご近所にすぐさま顔を見せて披露する宴会があった。多くの人々に知らせて、記憶しておいてもらわなければならない、と両親も言っていたけれど、貴族は違うのだろうか。
 わたしの質問に答えてくれたのはカルステッドだった。顎に手を当てて、色々の状況を思い出すように目を細める。

「正妻の子供ならば生まれた時に祝いをするが、第二夫人や第三夫人の子になると、生まれた知らせをわざわざしないことも珍しくはない。貴族社会にその家の子供としてお披露目されるのは洗礼式の時だ。それまでは、子供がどれだけいるのか、よほど仲の良い友人でもなければ、知られることは少ないと思う」
「そうなんですか」

 ほぅほぅと納得していると、神官長がうっすらと笑って付け加える。

「その家にふさわしい魔力がなければ、洗礼式前に格下の家に養子に出されたり、神殿に預けられたりするからな。高位の貴族になるほど不用意に生まれたことを知らせることはない」

 怖いっ! 貴族社会、マジ怖い!

 下町と違って、魔力があることを前提にしている場所なので、全くわたしの常識は通用しなさそうだ。神殿に入った時もかなりギャップを感じたが、貴族はさらに大変に違いない。

「そういうわけで、貴族として育てるならば、どうしても人目に触れさせなければならないのが洗礼式となる。カルステッドは洗礼式を機に、母に似て魔力が高く生まれた娘を領主と養子縁組させることを決意する。そうして、正妻達から引き離し、確かな身分を与えることで愛娘の身を守ることにした……という筋書きだ。わかったか?」

 わたしは大体のお話の流れを思い返しながら、コクリと頷いた。

「貴族社会の『昼ドラ』って感じで、本にしてもいいですか?」
「お前の自伝を書くことになれば、記してもいい」
「……心から遠慮いたします」

 わたしは本を読むのが好きなだけの極々虚弱な女の子だ。自伝なんて書くことはない。即座に辞退すると、せっかく私が考えたのだから世の中に広めてもいいぞ、とジルヴェスターが得意そうに唇の端を上げた。

「よって、お前の洗礼式をこの夏に執り行う。洗礼式はカルステッドの館で行い、それと同時に私との養子縁組を発表する。カルステッド、いつにする?」
「星結びの儀が行われる直前くらいでよいのではないか? 式の手配をする時間が必要だ」

 衣装や料理、招待状の準備も必要になるとカルステッドが言えば、神官長は少し眉を寄せた。

「直前よりはもう少し早い方が良いと思う。マインの虚弱さならば、いつ倒れるかわからない。様子を見られるだけの余裕が必要だ」
「ならば、その辺りで招待客は盛大に集めろ。私との養子縁組の披露もするのだ。多くに知らせた方が良かろう」
「洗礼式までに礼儀作法と挨拶の教師を付けた方が良い。側仕えの指導で基本的な動きはできるが、きちんと教師を付けたことがないからな」

 三人が呆然としているわたしを放置して、どんどんと予定を決めていく。

「あの、わたくし、もう洗礼式は一年前に終わりましたけど……。この年で年齢詐称するのですか?」

 洗礼式を行うのは7歳だ。もう一度洗礼式をして、7歳をやり直しって、留年っぽくてちょっと嫌だ。わたしがむぅっと唇を尖らせると、ジルヴェスターが深緑の目でぎろりとわたしを睨んだ。

「一歳くらいの違いをガタガタ言うな。貴族社会にすんなり受け入れられるためだ。お前の外見だけを考えれば、もう一年誤魔化しても、ちょっと体が大きめくらいで特に問題ないだろう」
「もう一年って、ひどいですよ。……ちゃんと大きくなっているのに」

 貴族社会に受け入れられるためには仕方がないこととはいえ、わたし、7歳をやり直すことが決定しました。

「それで、お前の洗礼式後の生活だが、領主の養女として貴族の行事に参加しながら、行事がない時は神殿で過ごすことになる。フェルディナンドと同じだ」
「え!?」

 何やら忙しそうな生活になりそうで、わたしはひくっと頬を引きつらせた。

「魔力的な問題として、お前を完全に神殿から退けるのはフェルディナンドに負担がかかりすぎる。それに、工房の問題もある。これから、この領地の事業として本の生産をするつもりだが、実際に作るのは下町の人間だ。今まで通りの繋がりがあった方が、私がやりやすい」

 ギルベルタ商会にはすでに話を通してある、とジルヴェスターが色々と企んでいる顔でニヤリと笑った。
 一体いつの間に!? と思ったけれど、ジルヴェスターが工房見学に来た時にベンノを引き連れて行ったことを思い出した。疲れ切ったサラリーマンのようだったベンノの姿を思い出して、わたしは心の中で「頑張れ」と応援しておく。

「えーと、つまり、領主の養女と青色巫女見習いと工房長の三役をこなせと言うことですか?」

 なかなかハードだ、と指を折りながら自分の肩書を数えていると、ジルヴェスターがふるりと首を振って否定する。

「少し違うな。青色巫女見習いではなく、神殿長だ」
「はい?」

 こてっと首を傾げてジルヴェスターを見つめる。聞き間違いだろうか。聞き間違いだろう。聞き間違いに違いない。目を瞬きながら現実逃避していると、ジルヴェスターがそっと息を吐いた。

「不正放題で処刑される神殿長の後釜に座りたがる者はいない。言動に向けられる目は厳しくなり、不正は許されず、全くうまみのない役職となるからな。おまけに、下につくのが、領主の異母弟と養女だ。神経をすり減らすとわかっていて、誰がやりたがる?」
「え? え? でも、この場合、神官長が神殿長になるのではないですか?」

 わたしより適任がいるよ、と視線を神官長の方へと向けてみたが、ジルヴェスターは肩を竦めただけだった。

「対外的には領主の養女と領主の異母弟、どちらも大して変わらぬが、役職についてくる実務を考えると全く違う。フェルディナンドは実務をし、神官を束ねる神官長を務めた方が良い。お前には無理だ」

 神官長の仕事は確かに多岐に渡っている。神官長が神殿長となって、身分的にわたしが神官長となった時に、仕事ができるかと問われれば、否だ。けれど、神殿長は神殿の最高責任者だ。わたしに務まるわけがない。

「神殿長も無理です。わたくし、洗礼式を終えたばかりの子供ですよ」
「あの叔父上にできたんだ。問題ない。どーんと座っていればいいだけの役職だ。むしろ、何もしない分、余計なことばかりしてきた叔父上より優秀な神殿長になれるぞ」

 前任者が無能だと楽でいいな、とジルヴェスターは言うけれど、そんな問題ではないと思う。

「確かに、ずいぶんとやりやすくなりそうだ。マインは神殿長として、そこにいれば良い。面倒事は基本的に引き受けよう。マインは素直に手伝ってくれる分、仕事を押し付けていなくなる誰かの手伝いをするより気が楽だ」
「神官長、ありがとうございます」

 神官長の優しさにわたしが感動していると、ジルヴェスターがフンと鼻を鳴らして、「今まで通りフェルディナンドにこき使われろ」と呟いた。

「神殿長を引き受ける褒美として、今の部屋は引き続き使っても良いし、そこで下町の人間と会う分には目を瞑ってやろう」
「ジルヴェスター様、大好きです」

 わたしが目を輝かせて、ぎゅっと胸の前で指を組み合わせると、カルステッドがジルヴェスターの頭を軽く小突いた。

「いい感じに理由付けがなされているが、神殿を自分が下町をうろうろするための拠点にするつもりだ。騙されるな」
「うぇっ!?」
「カルステッド、人聞きが悪いことを言うな。従兄の愛娘を養女として預かるんだ。様子を見に行くのは当然だろう?」

 真面目くさった表情をしているが、「狩りに行きたい」と顔に書いてある気がする。下町に遊びに行く気満々だ。

「ジルヴェスター、マインを下町の人間と接触させるのか? せっかくカルステッドの娘とするのに、それは危険すぎると思うが……」
「本作りをここの産業として育てていくならば、ギルベルタ商会との繋がりは必須だ。あの店を潰して、一から新しい店を作る方が大変だろう?」

 目を細めて危険性を示唆する神官長に、ジルヴェスターが軽く肩を竦めながら、恐ろしいことを言った。

「あそこの店主は呑み込みが良かった。そして、隠匿することを知っている。マインの素性を知っている者は驚くほど少ない。ほとんどがギルベルタ商会の関係者だ。それ以外はベンノの娘だと思っている者やどこかの富豪の娘だと思っている者ばかりだと言っていた。実は貴族でした、と言い張れば問題ない」

 領主主導で本を産業にすると言っても、実際に本作りをしていくのはわたしを中心としたグーテンベルクになる。下町の職人全員を貴族街に呼びつけるより、下町の人間が出入りできる場所を残しておいた方が都合は良いらしい。

「今までの部屋で下町の人間と会うのは良い。ただし、今の家族と、家族として会うことは禁じる。お前はカルステッドの娘から領主の養女になるのだ。今の家族とは新しい関係を築いてもらう。それができないならば、家族の立ち入りは許さない」

 自分の部屋ならば会っても良いと言われて、弾んだ心がすぅっと冷めていく。顔が見られるだけマシなのか、顔が見られる分、余計に辛くなるのか、今のわたしにはわからない。

「兵士の父親に下町を移動するの時の護衛を任せるとか、姉には紙作りに参加してもらうとか、そういう仕事上で接する程度なら問題ない。だが、お互いに家族とは呼ばないことを契約魔術で誓ってもらう」

 ジルヴェスターの厳しい瞳に見据えられ、わたしは心臓が嫌な音を立てるのを聞いていた。
 これからに向けて、色々と小細工が必須です。
 カルステッドの娘として、養子縁組することになりました。

 次回は、決別です。
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