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本好きの下剋上 ~司書になるためには手段を選んでいられません~ 作者:香月 美夜

第二部 神殿の巫女見習い

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金属活字の完成

 神官長に職人を部屋に入れても良いかどうか尋ねた後、ベンノには早速靴職人を連れてきてもらえるように依頼した。

「雪解けに祝福を。春の女神が大いなる恵みをもたらしますように」

 そう言って、春を寿ぐ挨拶と共にベンノと靴職人が二人、やってきた。わたしはホールの椅子に座ったまま、職人を迎え入れる。

「水の女神 フリュートレーネとその眷属の祝福がありますように」

 護衛であるダームエルが睨みを利かせる中、ベンノと同年代の靴職人とその助手が手早くわたしの足のサイズを測り、どのようなデザインにするか、何の皮を使った靴にするか、質問する。

「そうですね。祈念式に赴く時の靴が最優先ですもの。馬の皮の深靴が必要ですわね」
「でしたら、白い靴にいたしましょう」
「いけません、デリア。祈念式は農村を歩くことになるのですもの。色は濃い色の方が好ましいですわ」

 わたしが答えるまでもなく、ロジーナとデリアが決めていく。二人の会話を聞きながら、フランが表情を引き締めている。この場にフランがいるのは、わたしが見張りを頼んだからだ。
 わたしの予測は正しく、あれも素敵、これも加えたい、と、どんどん飾りや注文が増えていく。そんな二人を見ていたフランがビシッと一言で切って捨てる。

「デリア、これ以上の飾りは必要ないです。ロジーナ、マイン様はすぐに成長なさるのですから、それほどの数は必要ないでしょう。成長に合わせて、買い直せば良いのです」

 デリアは最初から豪華な物や綺麗で可愛い物が大好きで、買い物となればテンションは上がり続け、止まらない。オーダーメイドともなれば、どんどん豪華な靴になっていくに違いない。
 ロジーナはクリスティーネ様の側仕えだったため、センスは良いし、必要な物は弁えているのだが、必要数の基準がちょっとおかしいところがある。金銭的に不自由がなく、好みと気分に応じて、欲しい物を揃えてきたクリスティーネ様と同じに考えられると、わたしが破産する。

 フランは無駄を嫌う神官長の側仕えだったため、礼儀を弁えた身嗜みの必要最低限をよく知っている。ただ、神官長もフラン自身も男性なので、可愛い物や綺麗な物に対するセンスはロジーナに劣るのだ。
 フランの押さえるラインを把握しつつ、ロジーナやデリアの意見を取り入れて、最終的に注文するのがわたしの仕事だ。

「マイン様、これでよろしくて?」
「えぇ、この三足でお願いするわ」

 結局、農村へと向かうため、しっかりした作りの膝までの馬の皮のロングブーツと柔らかめの豚の皮のショートブーツ。それから、神殿内や貴族街で履くための布製の豪華な靴の三足を注文することになった。
 注文を終え、靴職人が帰り支度を終えると、ベンノはちらりとわたしを見る。

「すまないが、私はマイン様と重要な話がある。フラン、彼らを門まで案内してもらって良いだろうか?」
「では、デリア。靴職人の方々を門まで送ってきなさい。ロジーナはお茶の準備を頼みます」

 ベンノの言葉に頷いたフランが、デリアに靴職人を門まで送るように言いつける。買い物でテンションが上がっていたデリアは機嫌よく職人を連れて部屋を出ていった。

「それで、お話とは?」
「マイン様、先日ヨハンが店に参りました。課題の品が完成したそうです」

 課題の品、というところで、わたしは目を瞬く。秋の終わり、わたしは鍛冶職人のヨハンのパトロンになった。ヨハンがダプラとして一人前と認められるか否か、という大事な課題に金属活字の作成を依頼したのだ。

「え?……あの、ベンノ様。課題の品って……金属活字ですよね? え? すごく早いと思うんですけれど?」

 基本文字35文字には、同じ音で二種類の文字がある。その両方において、母音は50ずつ、子音は20ずつで活字を準備してもらうというのが、ヨハンに出した課題だったが、まさか冬の間に全て終わるとは思っていなかった。

「つきましては、パトロンであるマイン様の評価を頂きたいそうでございます」

 課題が客からの注文品だ。まずは注文した客に見せ、その評価を得なければならないらしい。

「できれば、店に来て頂いた方が良いとは存じますが、マイン様が出られないならば、こちらにヨハンと鍛冶工房の親方をお連れしてよろしいでしょうか?」
「……神官長に相談してみます」
「かしこまりました」

 わたしの部屋に出入りする人間については、神官長とダームエルがとても神経を尖らせている。お伺いを立てなければ、何とも返事ができないのだ。

「ヨハンには雪が解けてからでなければ、マイン様は店に来られない旨、伝えておきましたので、必ず神官長の許可を取った上で、慎重に行動してくださるようお願いいたします」
「はい」

 ベンノからガンガンと釘を刺されてしまった。
 わたしは早速神官長にお伺いを立ててみる。冬籠りの間に溜まっていた大量の仕事を片付けたらしい神官長は、比較的暇なのか、すぐに面会時間が決定した。

「あの、神官長。鍛冶職人のヨハンとその親方をわたくしの部屋に招いても良いですか?」
「……名前が出てくるということは、君の知り合いか?」
「そうです。わたくし、ヨハンのパトロンなので、ヨハンが作った物を評価しなければならないのです」

 ふむ、と神官長がこめかみをトントンと軽く指で叩く。

「マイン、ヨハンという鍛冶職人は、君が青色巫女見習いだということを知っているのか?」
「いえ、特に話していません。ヨハンはわたくしのことをギルベルタ商会のお嬢様だと思っていたくらいですし、多分、ベンノ様も話していないと思われます」
「そうか。ならば、神殿に招くのは止めておきなさい。君が店に行った方が良いだろう」
「何故靴職人は良くて、ヨハンはダメなのですか?」

 わたしが首を傾げると、神官長はそっと息を吐きながら、教えてくれた。

「靴職人はギルベルタ商会の紹介で青色巫女見習いの靴を作るために、巫女見習いの部屋に来た。だが、ヨハンはギルベルタ商会のマインに品物を見せるために神殿へ来ることになる」
「……あ」

 わたしが口元を押さえると、神官長は目をすがめた。

「冬の間、色々なところで情報を集めてみたが、君に関してはベンノがよく情報を抑えているのであろう。ギルベルタ商会と繋がりがある子供と青色巫女見習いである君が同一人物だと知る者は少ないようで、君の素性は意外と知られていないようだった」

 そういえば、ベンノはわたしを表に出さないように考慮していると言っていた。神官長が調べた結果、あまり知られていないと断言するならば、本当にかなり頑張ってくれているのだろう。

「ならば、君が店へと出向いた方がよかろう。君が青色巫女見習いだと下町の人間にあまり広げたくはない」
「わかりました。ギルベルタ商会へいってきます」

 久し振りのお外だ。神殿から出られる解放感にわたしは、自分の顔が緩んでいくのを感じていたが、感情をなるべく出さないように必死で顔を引き締める。しかし、神官長はわたしの努力を「口元だけニヤニヤしていて気味が悪い」と切って捨てた。

「ダームエル、マインの護衛を頼む。マイン、店に向かう時には必ず馬車を使いなさい。決して外をフラフラと出歩かないように。馬車についてはベンノに連絡すれば良い。それから、二人とも外に姿を極力晒さないように気を付けなさい」
「はっ!」
「気を付けます」

 次々と出てくる神官長の注意事項に頷きながら、わたしは、むふっと笑う。

 ……待ってて、わたしの金属活字ちゃん! 今すぐ会いに行くからね!

 もちろん、決意したところで、すぐに会いに行けるわけがない。孤児院で作業しているルッツを呼んで、ベンノへの伝言を頼み、馬車を回してくれるようにお願いしなければならない。
 ベンノが鍛冶工房とも連絡を取ってくれて、会合の日時が決まる。天気が悪くて吹雪くと馬車が出せなくなる可能性もあるので、会合の日が延期になる可能性もある。

「空白や記号に関する金属活字も必要になりますもの。次の注文書も作っておいた方が良さそうね」

 わたしは会合の日まで、せっせと次の注文書を書く。その傍らで、店に向かうための準備も怠らない。

「一応インクと紙、それから、馬連、雑巾は準備しておいた方がいいかしら? どんな風に使うのか、わかった方がいいでしょう。フラン、ギルに頼んで、工房で準備してもらってちょうだい」
「かしこまりました」
「マイン様、一体何をするためにお店に参りますの?」

 わたしがギルベルタ商会へと向かうための準備についてフランと話をしていると、デリアが呆れたような顔でわたしを見る。
デリアから神殿長にどれだけ情報が流れているか、全くわからない。わたしはニコリと笑った。

「商品の評価ですわ」



 護衛であるダームエルとフラン、それから、ルッツに妙な対抗心を持っているギルが今回のお伴だ。ギルベルタ商会に係わる仕事は、工房を預かっている自分の領分だと主張したので、連れていくことにしたのだ。
 店の中で金属活字の使い方を軽く説明するにしても、わたしが動くわけにはいかないので、簡単な印刷の実演をギルが行うことになる。

 ベンノが差し向けてくれた馬車に乗って、ガタガタと揺られながらわたし達はギルベルタ商会へと向かう。神殿の門を出た瞬間、下町に出たことがないダームエルが街に漂う悪臭と汚さに顔を歪めた。

「一体何の臭いだ?」
「……下町の臭いだと思って、慣れるしかないですよ」

 ……あの綺麗な貴族街と丁寧に清められた神殿しか知らなかったら、そういう顔になるよね。わかる、わかる。

 わたしがマインになった当初もきっとこういう顔をして街を歩いたんだろうな、と感慨深くなった。直に慣れて普通に生活できるようになるのだ。人間の慣れというか、耐性はすごいと思う。

「これが神官長からの課題でしょうね。わたくしの護衛をするには下町に行く必要がありますから」
「……なるほど。これは過酷な課題だ」

 ダームエルのみが顔を歪めたまま、馬車はギルベルタ商会へとたどり着いた。馬車を迎えるためにマルクが店の前へと出てくる。

「ようこそおいでくださいました、マイン様。皆様、お揃いでいらっしゃいます」
「こんにちは、マルクさん。案内をお願いいたします」
「巫女見習い、手を」

 当たり前のことのようにダームエルから手を差しのべられて、狼狽した。こういう場合はお嬢様らしくエスコートしてもらわなければならないのだろうが、似非お嬢様であるわたしにはスマートにエスコートしてもらえるだけの経験値が足りない。
 何というか、馬車のステップが小さい上に、わたしにとって段差が大きいのだ。ダームエルの手に気を取られていたら、転げ落ちる危険性がある。

「ダームエル様、マイン様はまだお小さくて、エスコートでは危険なのです」

 わたしがだらだらと冷や汗をかいていると、失礼します、とフランが断りを入れて、抱き下ろしてくれた。

「ほぅ。それはすまなかったな、巫女見習い。周囲には幼い者がいないので、勝手が良くわからないのだ」
「いいえ、わたくしこそ早く成長して、ダームエル様に一人前の淑女として扱って頂けるようにならなくてはなりませんもの」

 淑女への道は険しいので、大きくなっても淑女になれるかどうか、わからないけれど、と心の中で付け加えながら、店に入った。マルクに案内されるまま、わたし達は奥の部屋へと向かう。

「旦那様、マイン様が到着されました」

 奥の部屋では鍛冶工房の親方とヨハン、それから、ベンノとルッツが待っていた。

「お待たせいたしました」

 わたしが入っていくと、ヨハンと親方がぎょっとしたように息を呑んで、目を見開いた。ルッツと一緒に街の中を歩き回っていた時の身軽さと違って、三人もお伴を引きつれているのだから、驚かれても仕方がないと思う。

「マイン様、ようこそおいでくださいました」

 ベンノが挨拶すると、親方とヨハンが慌てたように挨拶する。
 わたしはフランが引いてくれた椅子に座りながら、正面のヨハンに笑顔を向けた。

「ヨハン、ごきげんよう。課題の品ができたと聞いて来たのですけれど」
「これが課題なんだけど……」

 ヨハンはわたしの後ろに立つダームエル達三人を見て、困ったように視線をさまよわせながら、布に包まれた四角の箱を二つ、テーブルの上へと取り出した。カチャカチャと中で金属同士がぶつかり合って音をたてる。
 その音を聞いて、ドクンとわたしの心臓が高鳴った。

「さすがに全部を一つの箱に入れると重すぎるから、二つに分けたんだ」

 金属活字はまず父型を作るところから始まる。父型は硬い金属に文字を浮き彫りにしたものである。この父型を作るのが非常に細かい作業になるのだ。1センチくらいの大きさの金属に字を浮き彫りにしなければならないのだから、細かいヨハンの職人技が必須である。

 父型ができたら、次に、柔らかい金属でできた母型に打ち込む。すると、父型の文字の形に母型の金属が凹む。その後、この母型を鋳型に入れて、そこに合金を流し込む。冷めた後、鋳型から合金を外せば、父型と全く同じ文字の金属活字ができあがるのだ。
 同じ鋳型に合金を流し込んでは冷やして取り出す。これを繰り返すことで、全く同じ大きさの文字のセットができていく。

「予想以上に早くて驚きました。まさかこんなに早くできるなんて……」

 包みをじっと見ているだけで、何とも表現できない胸の高鳴りを感じる。心臓がドキドキ言って、頭がのぼせていくような感覚がして、わたしは胸を押さえながら、ほぅ、と軽く息を吐いた。姿が見えない恋人を探すような気分でわたしは、布の向こうが透けて見えないか、じっと凝視する。
 焦れるわたしの心境には全く気がつかないようで、ヨハンはちょっと照れたように笑いながら、頬をぽりぽりと掻いた。

「……皆が面白がって手伝ってくれたんだ」

 全ての文字に関して、父型と母型を作ったのはヨハンだが、その後の量産するところでは、冬籠りで暇な職人達が面白がって手伝ってくれたと言う。
 親方はニヤニヤ笑いながら、ヨハンの肩をバンバンと叩いた。

「誰が一番綺麗に合金を流しこめるか競ったり、効率の良い作り方を皆で考案したりしながら、ダプラの課題ではあり得ない細かさに大笑いだったさ。さすがヨハンの腕を見込むパトロンだ、鍛冶の神 ヴァルカニフトのお導きだ、ってな」

 ヨハンを笑ってからかいはしているものの、細かさを売りとするヨハンにはきちんと細かい注文をするパトロンがついたことに、親方は鍛冶神のもたらした巡り合わせだ、と感心したそうだ。
 わたしもこの巡り合わせには心の底から感謝する。

「この金属活字ってヤツは、ウチの工房の職人の本気の固まりだ。ヨハン、見せてやれ」
「はい、親方」

 親方に促され、ヨハンは布をざっと取り去っていく。
 A4くらいのサイズの浅い木の箱が二つあり、その中には銀色の輝きがずらりと並んでいた。文字の凸凹が光を照り返し、キラキラと輝いている。
 注文通りに全ての基本文字が揃っている様は、まさに圧巻。

「わぁ……」

 わたしは感動のあまり震える手で、一つの金属活字を取り出した。2.5センチくらいの長さの小さな銀色にはしっかりと文字が刻まれている。小さい割にしっかりと重みのある金属で、わたしはくるりと手の中で回しながら全体を見回す。

 そして、もう一つの金属活字を取り出して、テーブルの上で二つを並べた。目を細めて、その高さに違いがないことを確認する。この高さの違いは印刷に大きく影響するのだ。
 ぐらつきもせずにテーブルの上に立っている活字を見て、わたしは想像以上の出来に相好を崩した。

「どうだ、嬢ちゃん? ご希望通りの品かい?」

 親方の声にハッとして周りを見回せば、ヨハンが固唾を呑んで、わたしの評価を待っていた。
 小さな金属活字がぎっちりと詰まった箱とヨハンを見比べると、わたしは手の中に金属活字を握りしめて、大きく頷いた。

「素晴らしいです! まさにグーテンベルク!」
「は?」
「わたくし、ヨハンにグーテンベルクの称号を捧げます!」
「え?」

 周りがポカーンと目と口を開ける中、ルッツだけが顔色を変えて、わたしの椅子に近付き、わたしの肩を揺さぶった。

「マイン、落ち着け!」

 わたしは座ったまま、ルッツを振り返って見上げる。

「落ち着いていられるわけないでしょ! グーテンベルクだよ!?」
「興奮しすぎだ、バカ!」

 ルッツの慌てたような声が降ってくるが、完成された金属活字を前に落ち着くなんてできるわけがない。無理、無理。

「ルッツ、これで本の歴史が変わるんだよ!? ドキドキするでしょ? わくわくするでしょ? さぁ、もっと感動して! このときめきを共有しようよ!」
「悪い、マイン。全くわからねぇ」

 ルッツはわたしの感動を共有できないらしい。部屋を見回すと、誰もが理解できないような困惑した顔になっている。この感動を誰とも分かち合えないなんて、悲しすぎるではないか。

「だって、印刷時代の幕開けだよ!? 皆、まさに歴史が変わる瞬間に立ち会ってるんだよ!?」

 わたしはガタッと立ち上がって、この金属活字の素晴らしさを力説する。しかし、周囲の反応は芳しくない。

「グーテンベルクだよ!? グーテンベルクの名前もヨハネスで、ヨハンなんだよ。何て素敵な偶然! 奇跡的な出会い! 神に祈りを!」

 わたしがビシッと祈りを捧げると、ルッツが頭を抱えた。

「……あ~、嬢ちゃん。グーテンベルクって何だ?」

 鍛冶工房の親方がギョロリとした目を瞬きながら、不可解そうに眉を寄せる。少しでも共感しようとしてくれる親方の言葉が嬉しくて、わたしはギュッと手を組んで、親方を見つめた。

「本の歴史を一変させるという、神にも等しい業績を残した偉人です。ヨハンはこの街のグーテンベルク!」

 そう主張しているうちに、金属活字だけでは印刷ができないことにわたしは思い至った。印刷するには金属活字だけではなく、紙もインクも印刷機も必要だ。ヨハンだけを褒め称えるのはおかしいから、皆の反応が良くないのかもしれない。

「……あ、そうですよね? 金属活字のヨハンだけじゃなくて、インクを作ってくれる人、印刷機を作ってくれる人、植物紙のベンノさん、それから、本を売るルッツ。誰が欠けてもダメですよね? すみません。全員まとめてグーテンベルクです。皆グーテンベルク仲間ですよ」
「そんな仲間、俺は嫌だぞ」

 仲間に入れてあげたら、即座にベンノから拒否された。

「嫌とは何ですか、ベンノさん! 本を印刷して出版して、世界中に影響を与えるグーテンベルクに対する侮辱ですよ! むしろ、喜びましょう。ときめきましょう。ね?」

 ベンノは呆れたような、諦めたような表情でわたしを見た後、何か言いたそうにルッツに視線を向けた。ルッツは「処置なし」と言わんばかりに首を振って、溜息を吐く。

「金属活字ができたら、次はいよいよ印刷機ですよ! 木工工房に注文ですよ。うわぁ、本当に印刷ができるんだ! すごい、すごい! 英知の女神 メスティオノーラに感謝を!」

 メスティオノーラへの感謝を最後に、わたしの意識は幸せの絶頂で暗転した。
 マイン、金属活字を前に大暴走です。

 次回は、ヨハン視点の閑話です。
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