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本好きの下剋上 ~司書になるためには手段を選んでいられません~ 作者:香月 美夜

第二部 神殿の巫女見習い

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豚肉加工のお留守番

 服を買いに行った次の日から、ベンノに注文した物を神殿に運び込む仕事がマイン工房の子供達に加わった。厚めの服に変わった子供達が、新しく購入した荷車に荷物を積んで、ギルベルタ商会と孤児院の間を行き来している。
 半分くらいはわたしの部屋の分だが、孤児院で使う物もある。それから、豚肉加工の日に使うための道具がどんどん運び込まれてくるようになった。

「マイン、どこに置くんだ?」
「フランとヴィルマに頼んで、見習い達に孤児院の地下室を掃除してもらっているから、そこへ入れて」
「地下室?……あれ、こじ開けたのか?」

 ルッツが目を瞬きながら、呆然とした様子で呟いた。
 孤児院には地下室に通じる扉が床にあったのだが、入れないように板を打ち付けて封鎖されていた。孤児院を一斉清掃した時に、地下室の存在には気付いたけれど、わざわざ打ち付けられた板をこじ開けようとは思わなかった。

 けれど、収納スペースが必要になれば話は別だ。冬の手仕事に使うために購入した工具類が届いたので、早速こじ開けてみた。
 何かヤバい物でも出てくるか、と緊張していたけれど、使われていなかっただけで、特に何も出てこなかったことには、正直ホッとした。

「荷物はここで開けて、マイン様の部屋に運ぶ分はギルに渡してください。それから、女子棟の地下には薪と食料を、男子棟の地下には薪と道具の数々を置いていくようにしてください」

 フランが荷台に届いた荷物を検品しながら、どこに運ぶ物か割り振っていく。
 この荷物の割り振りは、女子棟の地階でスープを作り、男子棟の地階がマイン工房になっているためだ。

 食料に関しては女子棟を管理するヴィルマが合わせて管理することになった。勝手に使えないように食糧庫には鍵も取り付けた。これは冬の貴重な食料になるので、途中でなくなると全員が困ることになるという判断からだ。

 灰色神官や巫女がそれぞれの地下室へと運んで行き、子供達もきゃあきゃあと楽しそうな声を上げながら、荷物運びを手伝っている。
 その様子を見ていたルッツが、ふとわたしに視線を向けた。

「ウチの家族も手伝うってさ」
「え?」
「孤児院の豚肉加工だよ。あんまりはっきりとは言わなかったんだけど、なんか父さんが神官長には恩を感じているみたいでさ」

 ルッツは小さく笑いながらそう言う。頑固で職人気質で無口なディードおじさんは神官長が話し合いの場を設けてくれたことに感謝しているらしい。

「でも、ほら、神官長はお貴族様だから、直接お礼のしようもないだろ? だから、代わりに孤児院の手伝いをしてやるって、感じのことを言ってたんだ。で、家族全員が動員されることになった」
「家族全員……。おじさん、相変わらず暴走してない?」

 ルッツの家族は四人兄弟で男ばかりなので、こういう作業の時に増えてくれるのは非常に助かるけれど、本当に家族が納得済みなのかが、非常に気になるところだ。

「大丈夫だって。しょうがねぇな、って、兄貴達も諦め顔だったけど、母さんが乗り気だからな」
「そっか。ルッツの家族が手伝ってくれるなら、何とかなりそうだね。豚肉加工、楽しみになってきた」

 うふふん、とわたしが笑うと、ルッツは目を細めて、浮かれるわたしを見た後、呆れたように溜息を吐いた。

「マインは留守番に決まってるだろ?」
「え?」

 浮かれたところに水を差されて、わたしは何度か目を瞬く。

「当たり前じゃないか。毎年、この時期には熱出すし、前は荷台の中で熱出して一人倒れてて門まで運ばれたんだろ? 今回みたいに初心者ばかり引き連れていく中で連れていけるわけないじゃん」
「そ、それは、そうだけど……。母さんが妊娠中だし、来年にはお姉ちゃんになるし、わたしも今年こそ参加してお仕事を覚えようと思ってるのに」

 やっと解体作業を見ても泣かずに内臓を抉りだせるようになったのに、豚肉解体に行けないなんて。
 今年はご近所さんの豚肉解体にちゃんと参加してお手伝いするためにも、孤児院の豚肉解体で予行演習しようと思っていたのに。

「ダメだ。孤児院のヤツらを連れていくなら、どうせマインは働けないんだからさ。外で一日ぼーっと作業を見てたら、熱を出すに決まってる。そうしたら、(にかわ)だっけ? 後の作業ができなくなるぞ」

 わたしが行ってはいけない理由を次々と並べられてしまった。困ったことに反論できない。

「マインは留守番。その間に金策で頭使えよ。えーと、何だっけ? マインが前に言っていた適材適所ってヤツだ」
「おぉぅ……」



 豚肉加工の日の朝、ウチの家族とルッツの家族が集まって井戸の広場で段取りを打ち合わせた結果、わたしは父とトゥーリと一緒に孤児院へ向かうことになった。わたしは孤児院で留守番、父とトゥーリは孤児院から荷物運びと子供達の引率をするためだ。
 ルッツはギルベルタ商会の見習いとして肉屋へ向かってから、職人と一緒に農村へ向かい、ルッツの家族と母は先に農村へ向かって、燻製小屋の準備や水汲みなどをすることになった。

「では、本日はこのような組み分けで、仕事に取り掛かります。豚肉加工班は荷車を押して、留守番班は神殿の清めと孤児院の清め、それから、夕飯にするスープの準備をお願いします」

 フランによって子供達は二つに分けられた。力仕事に向いた灰色神官は監督役を除いて全員豚肉加工班に組み込まれている。

「父さん、皮だけは持って帰ってきてね。(にかわ)作りに使うから。骨とか内臓は残らなかったら諦めるけど、皮だけはお願い。死守して」

 父に皮を持って帰って来てくれるように念を押すと、父はわたしの頭を軽く叩きながら笑った。

「わかった、わかった。マインは部屋でおとなしくしているんだぞ。熱を出さないように気を付けてくれ。この後の作業が大事だってルッツが言っていただろ?」
「うん」

 父への念押しを終えると、わたしは子供達と一緒に荷物を荷台に運びこんでいるトゥーリのところへ向かった。

「トゥーリ、デリアをお願いね」
「わかってるよ。一緒に頑張ろうね」

 トゥーリがデリアの方を向いてニッコリと笑うと、デリアはくっと眉を上げてわたしを睨んだ。

「マイン様、どうしてあたしが行かなければなりませんの。もー!」
「デリアには神殿以外の世界も見てほしいから」

 わたしの側仕えはロジーナとヴィルマが留守番で、彼女達以外は豚肉加工に向かうことになっている。デリアは嫌がったけれど、今回は半強制的に豚肉加工である。孤児院に行くのではないし、孤児院以外のところで他の子供達と交流を持てばいいと思う。
 孤児院の子供達とはほとんど交流がないようだが、トゥーリとは買い物で気が合っていたようだし、ギルやフランもいるので、一人ぼっちになることはないだろう。

「マインは残って何をするの?」
「新しい絵本作りだよ。ロジーナとヴィルマも一緒。二人とも字が綺麗だし、絵を描いてもらわなきゃいけないから」

 ロジーナはわたしのフェシュピールの先生であると同時に、字の美しさには定評がある。次の絵本を作るのを手伝ってもらうことになっている。
 ヴィルマは男の側仕えを全員外に出すので、今日はわたしの部屋で一緒に絵本作りをする予定だ。ついでに、料理上手な女の子を二人、連れてきてもらって、厨房で冬に向けて特訓させることになっている。

「頑張って作ってね」
「うん、皆をよろしくね」

 わたしはロジーナと一緒に皆を見送って、部屋に戻った。フェシュピールの練習をしていると、ヴィルマが女の子を二人連れて、部屋へやってきた。

「おいしい料理が作れるようにしっかり練習してくださいね」
「はい!」

 緊張している二人を激励し、ロジーナに厨房へと連れて行ってもらう。

「助かりますわ、マイン様」
「ヴィルマ?」
「収穫祭の間は青色神官が基本的に出払っているため、神の恵みが非常に雑な物になるのです。料理人を連れていく神官もいれば、主が食べないとわかっているので手を抜く料理人もいます。自分達でスープが作れなければ、十日ほどの期間がとても苦しい時間となったでしょう」

 ヴィルマの言葉にぞっとした。
 青色神官が減っている現在、収穫祭の間ずっと神殿に残っている青色神官はわたしだけだ。遠くの農村、近くの農村、それぞれ差はあっても、どこかの農村に派遣されている。青色神官が全員料理人を連れていってしまえば、神の恵みがなくなってしまうことになる。

「昔は青色神官の人数が多かったので、半数ほどが出かけたところでもう半分の神の恵みがございましたし、他の青色神官の手前、主に恥をかかせるわけにはいかないと料理人が手抜きをすることなど考えられませんでした。けれど、今は……」

 眉を寄せて息を吐いたヴィルマが一度目を伏せる。ゆっくりと開いた茶色の目に穏やかな笑みが戻って、わたしを見つめてきた。

「マイン様のお陰で私達は自分で作ることができます。幼い子供達が飢えることなく過ごせているのです。孤児院のための冬支度も私は本当に感謝しています。ですから、私にできることは何でもおっしゃってくださいませ」

 そう言ったヴィルマは二階に上がると、早速絵を描くための道具をテーブルに広げ始めた。

「こちらが次のお話ですか?」
「えぇ、シンデレラというお話です」

 ヴィルマが話に目を通し始めたので、わたしは再度フェシュピールを構えて練習を始める。神官長から与えられた第三課題と自由曲だ。
 今回の自由曲は季節に合わせて「こぎつね」である。この付近にいる動物の名前を当てはめたので、子狐ではなく子兎になっているが、気にしない。

「懐かしい音色でございますね」
「ヴィルマもフェシュピールを弾けるのですか?」
「嗜み程度でございます。ロジーナのフェシュピールを聴いているマイン様にとってはお耳汚しにしかなりませんわ」

 ヴィルマはくすくすと笑いながらそう言ったけれど、初心者のわたしより上手に決まっている。

「ロジーナは上手すぎて、嗜みというのがどの程度なのかわかりませんの。ヴィルマのフェシュピールも聴かせてちょうだい」
「本当に嗜み程度ですよ?」

 それでも、やはり楽器に触るのは久し振りで嬉しいようで、どこかうっとりとしたような表情で、ヴィルマは大きいほうのフェシュピールを手に取った。
 ピィンと弾かれた弦から流れてくる音は、ヴィルマの性格をよく表しているようで、柔らかくて、ゆったりとしていて、とても心地良い音だった。そこにヴィルマの子守唄のような優しい声が合わさると、冗談抜きで眠ってしまいそうだ。

「ヴィルマの音は相変わらずとても柔らかいわね」
「ロジーナのように技術がないから、ゆっくりした曲ばかり選んでしまうからではないかしら?」

 楽しげに語らう二人を見ながら、わたしは嗜みに求められているレベルの高さに愕然としてしまう。貴族の子供はかなり芸達者なようだ。

「……これが嗜みレベルですか? ということは、ロジーナも絵が上手いということでしょうか?」
「嗜み程度ならば、身に付けさせられましたから」

 ヴィルマの音楽の嗜みレベルを考えれば、ロジーナの絵画レベルも何となく察せられる。それだけの教育を側仕えに与えられたクリスティーネ様は、本当に規格外の巫女見習いだったようだ。

 3の鐘が鳴ってフェシュピールの練習を終えると、次はシンデレラの絵本作りである。お話を読んだヴィルマとどのような挿絵を入れるか話し合う。

「シンデレラの美しさを出すのが難しいですわね。肌の色も変えられませんし……」
「継母や義姉の体型に差を出す、というのではいかがでしょう?」
「中流貴族の後添えになることができる貴婦人ならば、美しいと思いますけれど?」

 美しいシンデレラと対比するための継母や義姉に対して、そんな現実を突きつけられると困る。わたしが、うーん、と悩んでいると、やり取りをじっと見ていたロジーナが軽く首を傾げた。

「マイン様、すでに内容が決まっている子供用の聖典を作り直した方がよろしいのではないかしら?」
「ロジーナ?」
「マイン様に貴族のお話を書くのは早いと思われます。もう少し、せめて、神殿での内情に通じてからにされた方が良いのではありませんか?」

 神官長にも言われたが、ロジーナにまで貴族社会を知らなすぎると指摘されてしまった。

「わたくしとしては、普通の物語が受け入れられるかどうか知るためにもシンデレラを作りたかったのですけれど……」
「マイン様、それは普通の物語を作れる方がおっしゃることですわ」

 ロジーナはゆっくりと溜息を吐きながら、首を横に振った。「ロジーナ、言いすぎですわよ」とヴィルマが横から抑えるように、と声を出す。つまり、ヴィルマもシンデレラが普通のお話ではないと思っているということだ。

「……シンデレラは普通の物語ではない?」
「普通の物語は建国物語であるとか、神々のお話であるとか、騎士のお話でございます。シンデレラのようなお話は伺ったことがございません」

 クリスティーネ様に仕えていた時に聞かされた物語は基本的に芸術の元になっていたらしい。物語を題材にした絵や音楽、詩もあると言う。ならば、それを研究しなければ、貴族階級に受け入れられる絵本にはならないだろう。

「子供用聖典とシンデレラ、どちらが貴族階級に受け入れられますか?」
「間違いなく子供用聖典でしょう。教養にも必須の知識ですし、とてもわかりやすくまとめられていますもの」

 そこまではっきりと言われると、シンデレラをすっぱりと諦める決心がついた。受け入れられないとわかりきっている絵本を作るよりは、確実に売れる物を作った方が良い。

「では、シンデレラは諦めて、今回は子供用聖典を作り直しましょう。……ロジーナ、また今度、その普通のお話を聞かせてもらっていいかしら? 次はそれを絵本にいたします」
「教養には必要な知識ですもの。いつでもお教えいたしますわ」

 子供用聖典を一つ解いてバラバラにすると、半分で切って、字と絵のページを分ける。シンデレラの版紙を作るはずだった厚紙の上に絵を重ねて、黒い部分を切り取っていく。そうすれば、前回と全く同じ絵ができるはずだ。

「マイン様は前回と同じように、字のページを切ってくださいませ」

 ニコリと笑ったロジーナに仕事を割り振られて、わたしはコクリと頷いた。わたしはどうやら二人に比べてとても不器用らしい。繊細な絵を切る仕事には向いていいないと早々に結論を出されてしまった。

 ……わたしが切るより、ロジーナの方が器用で綺麗に切り抜くんだもん。

 工房に置いてあるルッツのカッターを持ってきたロジーナとヴィルマがせっせと絵を切り取っていく。わたしは字の方を担当して、ちまちまと切っていった。



 6の鐘が鳴る前に孤児院に届ける夕食が仕上がり、初めて助手をした女の子達は疲れ切った表情で厨房から出てきた。フランが戻ってきたら届けると話をして、ロジーナに料理人も解散させてもらう。

「遅いですわね」
「豚肉加工は時間がかかりますもの。6の鐘の閉門ギリギリまで作業しているはずですわ」

 わたしはそう言いながら、窓の外を見遣った。日が落ちようとしていて少しずつ薄暗くなってきている。ご近所で豚肉加工をするのはもう少し寒くなってからだから、家族が戻ってくるのは完全に日が落ちた後だった。

「ただ今戻りましたわ!」

 デリアが息を大きく弾ませながら、戻ってきた。外は寒くなってきているのか頬がリンゴのようになっている。

「おかえりなさい、デリア。たくさんできたかしら?」
「えぇ、あれだけあれば、冬の間も大丈夫ですわよ」

 心配していたデリアが上機嫌で帰ってきたことに、ホッと安堵の息を吐いた。
 デリアが先に戻ってきたのはわたしを着替えさせるためで、他の人は地下室に加工された豚肉の数々をどんどん運びこんでいる最中らしい。

「それで、こんな大きな肉が吊り下げられて、燻されていましたの。煙で腐りにくくなるなんて不思議ですわね。それから……」

 デリアはわたしを着替えさせながら、どんな風に腸詰が作られていったのか、肉屋の鮮やかな捌き方などを興奮気味に一生懸命話してくれる。
 どうやら外に出てみんなで行う豚肉加工は、デリアにとって良い刺激になったようだ。この調子で孤児院の子供たちと交流が持てるようになってくれればいいと思う。

「マイン様、ルッツが豚の皮についてお話が聞きたいと言っています。着替えが終わったら工房に足を運んで頂いてよろしいですか?」

 階下からフランの声が聞こえてきた。すでに着替えが終わっていたわたしは階段を下りていく。

「ギル、マイン様を案内してくれ」
「わかった」

 工房に向かう途中、荷車から皆が女子棟の地下室に食料を運びこんでいるのが見えた。父やトゥーリの姿も見える。そちらに向かいたい衝動を押さえながら、わたしは工房へと足を運んだ。

「マイン、この豚の皮、どうしておけばいい?」

 わたしの姿を見つけるなり、丸められた皮を指差して、ルッツがそう言った。わたしは工房の中をぐるりと見回して、一つの鍋を指差す。

「ひとまず、あの鍋にでも入れておく?」
「下準備は良いのか?」
「石灰水に付けて、毛を取り除くつもりだけれど、どのくらい漬けておけばいいかわからないから、様子を見ながらした方が良いと思う。今日はもう遅いでしょ?」

 ルッツは「無駄になったら怖いもんな」と言いながら、書字板を取り出した。鉄筆を持ったルッツがちらりとわたしを見る。それを合図にわたしは(にかわ)作り方を説明していく。

「まず、脱毛のために石灰液に浸したら、なめし皮用に表皮と内皮とに剥離するの。これはルッツもできるよね?」
「あんまり上手じゃないけどな」

 ルッツは肩を竦めてそう言うと、視線で先を促す。

「内皮が膠の原料になるの。表皮は膠には使わないから、なめして本の表紙にすればいいと思うんだけど、どう?」
「皮をなめすのは誰がやるんだよ?」

 じろりとルッツに睨まれて、わたしは首を傾げた。

「……えーと、皮細工の工房に頼む?」
「金があったらな」
「うぐぅ……」

 痛いところを突かれたので、わたしは視線を逸らして、説明を続けることにした。

「それで、内皮をさらに石灰液に漬けて、膨れて柔らかくなるまで放置して、原料中の『蛋白質』や『脂肪』なんかの除去……勝手になるから、放っておいてくれていいよ。その後は、石灰をきれいにするために皮を洗って、熱いお湯で、小さい火で鐘2つ分くらい煮るの」
「鐘2つ分か。結構長いな」

 ルッツがそう言いながら、書字板に鉄筆を走らせていく。

「ここからが難しいんだけど、お茶を呑む時くらいの温度で静かに置いておくと、不純物は沈んだり、浮いたりして、真ん中が透明になるんだよね。この真ん中の透明なところを使うんだけど」

 わたしが言葉を止めると、ルッツが書字板から顔を上げて首を傾げた。

「……どうやって真ん中だけ使うんだよ?」
「まだやったことないから、試行錯誤で?」
「マジかよ。じゃあ、小さめの鍋に分けてやった方が良さそうだな」

 そっと上の不純物を取り除けば良いことはわかるが、どうやって取り除けばいいのか、どこまで取り除けばいいのかは、やってみなければわからない。

「それで、(にかわ)液を木箱に注いで、冬の寒い北風が入る窓際に置いて冷却凝固させればできあがり」
「ふーん、漬けたり、煮たりしている時間が長いから、蝋燭(ろうそく)も一緒に作れそうだな」

 ルッツは書字板を見返してそう結論付けた。

「じゃあ、明日は膠作りと同時に蝋燭作りもするんだ。臭い仕事、一気に片付けるぞ」
「はーい!」

 初めての膠作りにわくわくしながら、わたしは大きく手を上げた。
 シンデレラは神官長だけではなく、ロジーナにも受け入れられませんでした。
 ルッツに話した時は普通に受け入れられたので、庶民の識字率が上がるまではお蔵入りです。

 次回は、孤児院の冬支度で、膠、蝋燭、保存食、色々作ります。
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