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本好きの下剋上 ~司書になるためには手段を選んでいられません~ 作者:香月 美夜

第二部 神殿の巫女見習い

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インク作りの下準備

 インク作りの決心をしたが、すぐさまインクが作れるわけではない。まずは、ジークの木工工房へ行って、親方に別の木工工房を紹介してもらわなければならない。
 木工工房に着くと、前にいた補佐がカウンターのところで細かい仕事をしていた。顔を上げて、ハッとしたように愛想の良い笑顔を向けてくる。

「やぁ、ベンノさん、ジークの弟さん」
「親方を呼んでくれ」

 ベンノの言葉に、補佐は即座に身を翻して奥へ入っていく。「親方!」と叫ぶ声が小さく聞こえた後、右の二の腕が太い、髭もじゃの親方が服についた木くずを払いながら、のっそりと出てきた。

「やぁ、ベンノさん。悪いが、まだ腰壁は全部仕上がってなくてな」
「あぁ、今日は別の木工工房を紹介して欲しくてな」
「……どういう意味だ?」

 カッとしたように親方が目を険しくさせる。ベンノはその様子を見ながら軽く肩を竦めた。

「別に契約を打ち切るという意味じゃない。ウチの注文の納期が遅れているんだ。これ以上、他の仕事は受けられないだろう? 繋がりがあって、ここから仕事を回せるような木工工房はないか? コイツの仕事を注文したい」

 ベンノがそう言いながら、ぐいっとわたしを前に押し出すと、親方はホッとしたように表情を緩めた。そして、わたしを上から下までじろじろと見ながら、もじゃもじゃの髭を撫でる。

「ふん。じゃあ、インゴのところに回してやるか。行くぞ」

 親方がそう言って、インゴという人の工房へと連れて行ってくれることになった。わざわざ親方が一緒に行くのは、直々に紹介することで、本来はどこの客なのかしっかりと知らしめるためらしい。工房間の力関係にも色々あるようだ。
 インゴは最近独立したばかりのまだ若い親方らしい。若いとは言っても、ベンノより少し年上のようだけれど、親方と呼ばれる人が大体40歳以上の風貌の人が多いことを考えると、30代ならかなり若い部類に入るだろう。

「今回はウチで引き受けられないからな。インゴ、どうだ?」
「そういえば、そっちはでかい仕事が入っていたもんな。こっちでも一枚噛ませてくれるのか?」
「別件に決まってるだろ? お前の客はこのちっこい嬢ちゃんだ。あとはよろしくな」

 そう言って、ジークのところの親方が帰っていく。インゴと呼ばれていた親方はわたしを見下ろして、あからさまにガッカリした顔をした。ちょっとだけムッとしたけれど、わたしは洗礼式も終えていないように見える子供なので、仕方ない。

「冬の手仕事のために、板を準備したいのです。ですから、納期だけは絶対に守ってください」

 わたしは板のサイズを指定して、注文する。
 今年、孤児院で冬の手仕事にするのは、リバーシとトランプ作りである。リバーシの台は厚めの板に、作ったインクで上に線を引いてマス目を書けばいいし、石は板を小さく切って片方だけにインクを塗ればいい。マス目に収まる大きさなら別に丸でなくてもゲームに支障がないところが嬉しい。

 ついでに、チェスの駒を作れば、同じ板で一緒に遊べると思う。ただし、チェスの駒は造形が複雑なので却下だ。孤児院で行う予定の「初めての木工教室」にはレベルが高すぎる。将棋の駒で代用だ。板に名前を書けばいいのだから、作るのが簡単でいい。
 将棋とチェスは違う? そんなことを知っている人はいないから、駒の動きだって、名前だって、適当に決めればいい。そう、わたしがルールだ。

 トランプは紙で作ることも考えたけれど、コストは紙より板の方が安い。そして、マイン工房で作られているのは和紙なので、ちょっと改造するなり加工しないとトランプには向かないと思う。薄い板で作れば、子供達が少々乱暴に扱っても大丈夫だろう。
 色やマークについてはそのままでもいいかもしれないが、J、Q、Kの扱いをどうするべきか考えたほうがいいかもしれない。絵を描くのは大変すぎる。

「それにしても、こんなに大量の板、一体何に使うんだ?」

 ギルドカードを合わせてインゴに前金を払う。工房長のギルドカードを持ち、さっさと金が払えたことから信用度が上がったようで、インゴが少し砕けた態度になった。

「だから、冬の手仕事ですけど? 詳しい内容は秘密です。できてからのお楽しみ。よく売れたら、来年もお願いしますね」
「……来年もって、あっちが専属じゃないのか?」

 インゴは親方が去って行った方をくいっと親指で示した。

「ベンノさんの専属はあちらの工房ですけれど、わたしはまだはっきりと決めてないので。仕事の品質と納期の信用を見てから判断するつもりです」
「へぇ、そっか……」
「では、納品はギルベルタ商会によろしくお願いしますね」
「あぁ、こちらこそ、今後ともよろしく」

 板の注文を終えたわたしはベンノに抱きかかえられたまま、店へと戻った。
 店に戻ると、奥の部屋のテーブルに座らされる。正面にベンノとルッツで、早速今後の予定についての質問責めを受けることになった。

「さぁ、洗いざらい吐け」

 ドンとテーブルを叩きながら、じろりとわたしを睨むベンノを見て、まるで刑事ドラマの取り調べのようだと思った。

「何をですか? わたし、何も悪いことしてません。冤罪です。無実です」
「何を言っているんだ、阿呆。喋るのは、これからお前がしでかすことについて、全部に決まっているだろう? あの板は何に使う? インクはどうするんだ? どう作る? 何がいる? 全部吐け」

 ベンノの勢いを宥めるようにルッツが横から身を乗り出した。困ったように眉を寄せて、意見を挟んでくる。

「マイン工房の紙作りとの兼ね合いもあるからな。予定が立たないのは困るんだよ。今回作るものに、森に取りに行くような物は必要ないのか?」
「えーと……ちょっと待って。頭の中を整理したい」

 書字板を取り出して、作るものとそれに必要な物を書き出していく。玩具作りには板とインク。インクを作るには……、と書くことで、頭の中が整理されていくのがわかる。
 わたしが頭を整理しているうちに、ベンノやルッツもメモの準備をしていたようで、木札やインクが準備されていた。

「冬の手仕事で作るのは、『リバーシ』、『将棋の駒』、『トランプ』を予定しています。これを作るのに必要な物が、板とインクですね」

 わたしの言葉にベンノが訝むように眉を寄せて、首を傾げる。

「……今並べた物は一体何だ?」
「カルタと同じような玩具ですよ。あ、でも、カルタと違って、大人も遊べますね」
「ほぉ?」
「来年の冬の暇潰し用に最適だと思います」

 吹雪になると家の中に閉じ込められている間の暇潰しになるはずだ。手仕事ばかりでは飽きてくる。貧民は手仕事で小銭を稼ごうとするけれど、富豪は一体何をして過ごしているのだろうか。

「何を作るにしても、インクが必須なので、なるべく早くインクを作りたいと思っています」
「お前はインク工房で別のインクを作ると言っていたな?」
「はい。工房で作られているインクと全く違う製法で作るインクなら、勝手に作ることに許可もいらないし、文句も言われませんよね?」

 製法が秘密にされていたり、協会から許可を得た工房で作られたりしている物は下手したら契約魔術に引っ掛かる恐れもある。勝手に作ると何かに違反していて、罰則が付けられることもある。

「まぁ、確かに製法が知られていない、ここでは新しい物なら、契約魔術に引っ掛かるはずもないし、誰かの許可が必要になるわけでもないからな。ちょっとした文句は言われるだろうが、鼻で笑ってやればいい。ただ、お前がインク工房の親方に余計な事を言ったせいで、探りや情報収集がこっちに来るのがな……」
「あれ? わたし、余計な事なんて言いましたっけ?」

 必要最小限のことしか言っていないつもりなのだが、おかしい。首を傾げるわたしにベンノはぎりっとまなじりを釣り上げた。

「今作っているインクの製法を知っているばかりか、他にもインクがあって、その製法を知っているなんて、余計な事じゃなかったら何だ!?」
「えー? でも、今のインクの製法はインクの種類を特定するためだったし、新しいインクの情報だって、心の準備のためじゃないですか。わたしとしては、試作品ができたらインク協会に製法を売って、量産してもらった方が良いと思ってるから、それほど余計な事じゃないですよ」

 ベンノはぐぐっと眉を寄せて、こめかみを押さえる。理解できないと言うように何度か頭を振った後、じろりとわたしを睨んだ。

「ちょっと待て。インク協会に製法を売るだと?」
「そうです。だって、ベンノさんは植物紙協会を作る時、既得権益とぶつかって、かなり大変だったじゃないですか。今だって手伝わされてるオットーさんは兵士と兼業で苦労してるでしょ? 手を広げすぎて、従業員の人数が追いついていないでしょ? インクまで製法で分けて新しい協会作るなんて無理ですって。やりたい人がいるなら、丸投げしましょうよ」

 植物紙協会はわたしが知らないうちに作られていたものだし、まだ何とか人手は足りて回っているようだから、諦めもつく。
 けれど、余所の街にも植物紙の協会を作り、工房を作ることにベンノが親戚を回って大変なことになっていることをルッツから聞いている。イルゼに対抗するために始めたイタリアンレストランだって、専門外の事業に首を突っ込んだので、なかなか大変だとマルクが零していた。この上に新しいインク協会は無謀だと思う。

「……お前の意見を聞いていると時々頭が痛くなる。利益を何だと思っているんだ?」
「だって、わたしは商人じゃなくて、巫女見習いですよ? マイン工房でちょっと作る分に目くじら立てないなら、製法なんてどんどん広げて、色々なところで作ってもらって単価を下げた方が良いですって」

 わたしとベンノの会話を聞いていたルッツが、ゆっくりと溜息を吐いた。そして、道を逸れていた話を本筋に戻してくれる。

「マインも旦那様も、インクに関する商売についての話はインクが完成してからでいいんじゃないか? インクを作るためには何を準備するんだ?」
「えーと、インクになりそうな物で思いつくのって、『墨』、『油性絵具』、『グーテンベルクインク』、『クレヨン』かな? だけど、その中でも『クレヨン』だけは版画のインクに向かないから、ひとまず後回しにするでしょ」
「相変わらず、マインの説明はわけがわかんねぇな。それで、オレは何を準備すればいいんだ?」

 わたしは書字板に視線を落とす。

「色を作るための材料を顔料って言うんだけど、黒を作るために一番簡単に手に入る顔料は(すす)なの。煤を原料にすれば、どのインクでも黒になるから、まずは煤集めだね」

 墨を作るには煤と(にかわ)と香料を混ぜて練る。油性絵具なら煤と乾性油を練り合わせる。わたしが便宜上「グーテンベルクインク」と呼んでいる、粘度の高い初期の印刷インクなら、煮詰めた亜麻仁(あまに)油と煤でできる。

「わたしが知っている『墨』は菜種油やゴマ油の油煙や松煙から採取した煤で作るんだけど、試作品のために選り好みはしていられないでしょ? とりあえず、それぞれの家の竈や煙突を掃除して集めればいいんじゃないかな?……って、去年もやったよね、これ」

 煤鉛筆を作るために、雑巾服を着せられて、母に掃除させられた記憶が蘇る。結局煤の量を集めるためにルッツも自分の家の掃除をしてくれたはずだ。

「あぁ、やったな。でも、母さん達も喜ぶし、材料も集まるからいいんじゃねぇ?」
「だったら、ウチの煤もやるから、掃除に来い」

 ベンノがちゃっかり便乗する。冬になる前に煙突や竈の掃除はしなければならないことだ。それで材料が集まるなら、いいだろう。

「ベンノさんは煙突掃除代でもくれるんですか?」
「あぁ、手間なしで煤を増量してやろう」

 何を企んでいるのか、ベンノがニヤリと笑った。よくわからないが、材料が増えるならいいだろう。

「煤が集まったら、どうするんだ? 他には何がいる?」

 煤集め、とルッツが自分の書字板に書きこんで、わたしを見る。わたしは自分の書字板を見下ろして、墨に必要な物が煤と(にかわ)であることを確認する。

「次は膠かな? 膠は、牛とか、豚とかの動物の皮や骨髄から採れる強力な糊で、『墨』を作るために煤を練るのにも使うし、本を作った時に背表紙を固めるのにも使うの」
「へぇ、動物の皮や骨髄か……。もうじき冬支度の季節になるし、孤児院でも豚肉加工をすれば、集められるんじゃないか?」
「うっ……。うん」

 農村で豚がざくっとやられて、吊るされたところを思い出して、一瞬怯んだ。今ならばさすがに慣れてきたので、気を失うことも泣くこともなく耐えられると思うけれど、力がなくて、肉の解体に向かないわたしは、なかなか耐性がつかないのだ。

「孤児院で豚肉加工? 今までしたことはあるのか?」

 ベンノが首を傾げる。わたしも考えてみるが、食べる物は常に神からの恵みで、カルフェ芋でさえ、見たことがなかった孤児院の子達に豚肉加工の経験があるはずがない。

「絶対にないと思います」
「だったら、ウチでも冬支度はするから、孤児院の分も合わせて注文するか?」
「助かります! よろしくお願いします」

 毎年熱を出して倒れていて、ご近所の豚肉加工にも参加したことがないわたしには肉屋にも伝手がないし、燻製小屋を押さえることもできやしない。ベンノの言葉にわたしは手を合わせてお願いする。

「その皮や骨があれば、ニカワはできるのか?」
「何となく作り方は知ってるけど、さすがに『膠』は作ったことがないんだよね。でも、使い道が広いから、何が何でも成功させたいの」

 膠は、動物の皮や骨等を石灰水に浸けることによって、毛などの不要なものを取り除き、煮て濃縮させ、固めて乾燥させたものである。骨よりも皮から採ったものの方が耐水性はあるらしい。
 できれば皮から取りたいが、最優先にするべきは完成だ。

 膠の主成分はコラーゲン、蛋白質の一種なので、素人が手作りした墨はあんまり放置すると腐る。 夏場の温度や湿気が高いところでは腐りやすいし、温度が低すぎると固まるので、意外と使うのが難しい。

「それで、『膠』を作るのに『石灰』が必要なんだよね」
「何だ、それ?」
「ほら、家を作る時に使うでしょ? あの、壁の白いの……」
「あぁ、石灰か」

 ルッツの口から、ここでの石灰の言い方が出てきた。
 石灰はモルタルにも使われるので、建築関係の仕事をしているルッツの父ならば、購入先を知っているはずだ。

「だからね、ルッツ。ディードおじさんに購入先を聞いてみてくれる?」
「わかった。……石灰っと。これは紙の時の灰みたいに、ちょっと購入するんでいいんだよな?」
「うん」

 初めて紙を作った時と違って、ルッツは字が書けるようになったし、両親から商人になるのを一応認められたし、材料はお金で揃うようになった。自由になるお金もなくて、親に了解を得て使える素材もほとんどなくて、空回りしていた時と比べると、一年と少しでずいぶんと自分達を取り巻く状況が変わった。
 そんなことをしみじみ思っていると、カリカリと書きこんでいたルッツが、顔を上げてわたしを見た。

「他に必要な物はないのか?」
「えーと、『墨』だけなら、煤と『膠』で大丈夫。『油性絵具』には『亜麻仁(あまに)油』も必要なんだけど、これはベンノさんの方が知ってるかも?」

 わたしがベンノに視線を向けると、ルッツも一緒に視線を向けた。ベンノは頭をガシガシと掻きながら考えていたが、ゆっくりと首を振った。

「……聞いたことがないぞ? どんなもんだ?」
「お店で扱っている布にリネンがありますし、麻の糸だって売られているでしょう? だから、麻の種を絞ってできる『亜麻仁油』もどこかで売られていると思うんですよ」
「あぁ、亜麻仁油か。それなら、わかるが……油はそんなに安くないぞ?」

 ベンノの言葉にわたしは曖昧な笑みを見せて答える。安くなくても、買うしかないのだ。

「買うしかないですよ。麻の種を取るために栽培から始めるわけにもいきませんし、種を買っても圧搾機がないですから。機械を買ってまで自分達で圧搾するよりは購入した方がいいと思うんです。種の値段と圧搾機の値段を比較して、来年はどうするか要検討ってところですね」
「なるほど」

 他にも思い当たる乾性油はあるけれど、紅花油や向日葵油よりは布を作るために作られている亜麻仁油の方が入手は楽だと思う。紅花も向日葵もこの辺りで見たことがないのだから。

「これだけの原料が集まれば、一番シンプルで簡単なインクは作れます。あとは器材ですね。大理石などの固い台の上で、練り棒(すり棒)を使って練り合わせるのが最良の方法なんです」
「紙を作ったときみたいに変な道具がいるのか?」

 ベンノの質問にわたしは首を振る。

「いえ、必要な道具類はそれほど多くないですね。練り板、練り棒、保管用の密閉容器、パテヘラなどがあれば始められます。道具は多分絵を描く工房に尋ねれば、わかるんじゃないかな? 母さんも染色工房に勤めてるし、聞いてみようかな?」
「……わかった。では、各自材料を準備して、マイン工房に運びこむように」

 ベンノがそう締めくくり、わたし達は解散した。



 煤集めは母もカルラおばさんも喜ぶので一石二鳥だが、わたしが頑張った後に熱を出して倒れるのも、当たり前の流れになっている。わたしが自宅の煤集めをして、熱で倒れている間に、ルッツがマイン工房やベンノの家の掃除をして、煤をかき集めてくれた。

「旦那様が言った通り、手間なしで煤が倍になったぜ」

 見舞いに来たルッツがそう報告してくれた。
 なんとベンノがコリンナに、ルッツが煤集めのために竈や煙突掃除をしたことを色々盛って話したところ、オットーを使って自分の家の煤を集めて、ルッツにくれたらしい。

「オットーさんって、ホント恋の奴隷だよね。コリンナさんには絶対に逆らえなそう」
「あとは、灰色神官達がすげぇ頑張ってくれたんだ」
「え?」

 煤をかき集めるルッツの話を聞いた灰色神官達が、どうせ冬の前には掃除をしなければならないということで、青色神官の暖炉や各厨房の窯や煙突の掃除をして煤をかき集めてくれたらしい。
 わたしの部屋の竈や暖炉の掃除をしてくれたのはギルだと言っていた。

「お陰でマイン工房にはもう結構大量に煤が集まったぜ」
「……ホントに?」
「旦那が亜麻仁油を買ってたし、オレも父さんに頼んで石灰を買っておいた。道具も絵の工房に聞いて、道具を扱っている工房に注文したからそのうち届く」

 わたしが熱を出して倒れている間に、工房には材料や道具がどんどん集まっているらしい。人海戦術ってすごい。

「だったら、冬支度はもうちょっと先だから、膠は後回しにして、油で作れるインクを作ってみようね。それで、版画を作って刷るの。あ、あ、版画用の板も注文しなきゃ。でも、インクも試作品だし、ハンコの方が良いかな? ルッツ、どう思う?」
「……マイン、あんまり興奮するな。まずは、熱を下げなきゃ何もできないだろ?」
「ぅぐ……」

 熱が下がったら、油性絵具から作ってみよう。
 マインが寝込んでいる間に準備は着々と進んでいました。

 次回は、インク作りです。
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