「はぁ。」
今年もあの憂鬱な日がやってくる。あたしのため息が増える日が近づいてくる。それも、あと4日。
今日は、日曜日。ただ今、親友の泉 ゆりと、買い物中。
「はぁ。」
今日何度目かのため息がでる。数えてないし、つきすぎて何回目なのかわからない。
「和葉、なんやの?ため息ばっかりついて。今日の買い物楽しくないん?」
ゆりは、和葉のため息に、今日は乗り気ではなかったのかと不安になる。
「あ、そんなんとちゃうよ。ごめんな。」
「じゃあ、なんのため息なん?」
「・・・・・・。」
和葉は、答えない。二人は、次の店へと歩き出す。ゆりが、通りに並ぶ店を見ると、目に入ってくる色は赤、ピンクのオンパレード。
「はっは〜ん。そういえば、あれやね。もうすぐバレンタインやん。」
和葉の肩が一瞬ピクッと反応する。ゆりは、やっと和葉のため息の理由に気づいた。
「和葉、今年もあげるんやろ?」
「うん。」
「でも、どうせ義理やろ?今年は、もう高校最後の冬やし、勇気出してみればええのに。」
「なっ///!!!そ、そんなん無理やって・・・。」
和葉は俯いてしまう。
「頑張って、今年は本命としてわたしてみたらどないやの?」
「そやから、無理やって。あの鈍感男には気づいてもらえへんよ。」
「そら、そうやわ。そやから、ちゃんと気持ち伝えなあかんよ。」
考えているのか、ゆりの意見に乗るのか、和葉はまた黙ったまま。
「4月からは、大学やし。いい機会とちゃう?服部君、大学入ったら、さらにもてるんやろな〜。なぁ、和葉?」
「ゆり、意地悪や。」
ゆりを恨めしそうに軽く睨む。
「あたしも協力するし、な?今年こそは、告白しようや。」
「・・・・うん・・・今年は頑張ってみようかなぁ。」
「なら、さっそくチョコレート作りの本、探しに行こか。」
大型デパートの8階にある、本屋で本を買い、そろそろ夕御飯を作らないとと、二人は解散することに。
「かずは〜、火曜日までにどれ作るか、考えときや〜!!」
ゆりは、笑顔でそう叫び、手を振って帰っていった。
和葉も手を振る。
「はぁ。」
今日、何回目?
今日は早く帰宅できた父と夕飯をとり、片付けも終わり、和葉は自分の部屋へと向かう。机の上には、今日買った本がまだ袋の中。
「勢いで言ってしもうたけど、どうしよ・・。」
とりあえずパラパラとページをめくってみる。トリュフ、チョコレートケーキ、・・・いろいろあるので迷ってしまう。
「気持ちも伝えんといけんしなぁ。」
今から、14日のことを考えてしまい、心臓が速くなってしまう。
「はぁ、・・・これで『ただの幼馴染』は終わりやなぁ。・・・平次、驚くやろなぁ。」
「返事・・・こわいなぁ。」
和葉は、いつからっだったかわからないくらい幼い頃から平次への想いには自覚している。 しかし、平次は和葉のことをどう思っているかは、さっぱりわからない。口は悪いが、ふとした時に見せる優しさは感じている。『西の名探偵』であり、剣道有段者、いつ勉強しているのかと思うがいつもテストはトップに入る。きりっとした眉に、色黒だが、整った顔。これでもてないわけがない。バレンタインに限らず、いつでも告白されまくり。なのに、一度も彼女を作ったことがない。和葉はそれが、不思議だった。あんなにたくさんの女の子に告白されているのだ。中には、美人もいる。さまざまなタイプの女の子から、愛の告白をされ、どうして誰にもOKしないのだろうか。平次の好きな女の子のタイプは聞いたことがないが、あれだけの人数に告白され、平次の好きになる女の子はいなかっただけなのだろうか。
ならば、自分もだめなのではないかもしれない。いつも、一緒にいるのは、幼馴染だから。そう平次に言われたら、どうしたらいいのだろうか。もう今までのようにはいかないだろ。そんな思いが、今まで和葉を留めていた。でも、ずっと、このままは嫌だ。でも、平次の答えが怖い。だが、今年は覚悟を決めた。やるしかない。自分の気持ちをこれ以上隠せない。
そして、13日。
「おはよう、和葉!」
「おはよう、ゆり。」
「和葉、決めた?」
ゆりは、周りに漏れないよう和葉の耳元でしゃべる。
「うん。一応な。」
「どれどれ?なんにしたん?」
「昼ごはんのときに、見せるわ。」
「わかった。あとは、材料の買出しと。愛の言葉やね?」
「もう///ゆり!!!やめてや///」
リボンと同じ色の和葉。ゆりは、そんな和葉をかわいいなぁと思う。どうか、このかわいい友人の恋がうまくいきますようにと願った。
「あ〜。いよいよ明日やなぁ。」
「そうやった。明日は世の中の男はドッキドキやで。」
「なんや?明日はなんかあったか?」
一人、話についていけない男が一人。校内一のモテ男。服部平次。
「服部、お前ばっかり、せこいわ!!ずるいわ〜!!!」
「ほんまずるいで!一人でええから、俺らにもわけろや!!」
「なんやお前。なんで俺がずるいんや。」
友人たちに、ずるいずるいと言われ、さすがに腹がたってくる。
「そやから、なんで俺がずるいっちゅうんや!!!」
「明日は、お前がほとんどの女子を独り占めするんやないか!!あ〜なんでこんな色黒男がいいんや。」
「おい、お前殴るで?」
本当に殴りそうな平次を慌てて周りにいた友人が止める。
「服部、明日はなんの日か気づいてないんか?」
「明日は、水曜日やろ。」
「「「「はぁ〜〜。」」」」
友人たちは揃ってため息をつく。
「こんなやつやのに、なんでモテるんやろな。」
「女の子から甘い匂いがしてんのも、どうせ気づいてないんやろな。」
「そ・や・か・ら、一体明日がなっやっちゅうねん!!!!」
もう、これ以上言ってもこの鈍感男は気づかないだろうと、友人たちは呆れ顔で目を合わす。
「明日は、一年に一度の愛の日、バレンタインやないか!!」
「あぁ、あの甘ったるいチョコはもうこりごりやわ。」
「おまえ〜、なに贅沢な悩み、堂々と自慢してんねん!!」
「そうやで〜、女の子が勇気だして、告白してるんやで。」
「そんなん、おれにどうせえっちゅうんや。」
「それで、今年ももらうんやろ?あの子から。」
「は?」
「遠山や、遠山に決まっとるやろ。」
「お前はええよなぁ、あんなかわいい幼馴染がいてるんやからなぁ。俺も遠山の幼馴染になりたいわ〜。」
「俺も俺も。遠山がおるんなら、ほかの子にもてんでもええわ。」
「うらやましいのぉ〜、服部。」
「アホ。あんなじゃじゃ馬のどこがかわいいんじゃ!!」
(((( はいはい、ごちそうさま。))))
友人一同、心の声。
(いいかげん、遠山のこと好きやって認ろっちゅうんや!!)
(どうせ、自分の気持ちにも気づいてへんのやろ。気の毒に、遠山)
(いっつも、あんなかわええ幼馴染がそばにいるから、ほかの女子なんて目に入ってないやろな)
(ほんまは、遠山からのチョコだけは楽しみなくせに)
隣りで、一人窓の外を見る平次をよそに、友人たちは内緒話。
放課後、平次より先に部活が終わり、和葉は教室で平次を待っていた。
「おお、待たせたな。」
「平次、お疲れさん。」
「ほな、帰るか。」
「うん。」
和葉は、鞄を持ち平次に駆け寄る。
フワッ。
平次の鼻を甘い匂いが掠めた。
「和葉、お前なんや甘ったるい匂いするなぁ。」
平次は和葉に顔を寄せ、和葉の肩のあたりで匂いを嗅ぐ。
「なっ!!ちょ・・平次///」
「なんの匂いや?」
「もう///別になんでもないって。」
「ふ〜ん。」
なぜか真っ赤な顔をした顔の和葉が気になったが、平次は教室を出る。和葉もそのあとを小走りで追い、平次の横へ並ぶ。
(そういや、今日あいつらが言よったな。最近、女から甘い匂いがするて。明日はバレンタインやな。そうや!!チョコの匂いや!!!和葉からもチョコの匂いすんなぁ。コイツ、毎年ご丁寧に手作りやったな。ま、今年も義理やてくれるんやろうけど。)
「平次。」
ボーっと、今日の友人の話を思い出していた平次は、急に話しかけられ、思い切り顔を和葉に向ける。
「あん?」
「平次、・・・明日はあれやな。」
「なんや?」
「やから、明日はあの日やなって・・・」
「あぁ、バレンタインか。めんどくさいわ。甘ったるいチョコ、あんなぎょうさん食えへんわ。」
「めんどくさいやて!!!」
平次は、突然怒り出した和葉に驚く。
「女の子が勇気出して、告白する日なんやで!!なのに、平次、めんどくさいってなんやの!!!」
「うるさいのぉ、めんどくさいもんはめんどくさいんじゃ!!!」
「・・・・どうせ、平次には・・女の子がどれだけ勇気出してんのか・・わからんのやろな・・。」
「なんで、お前がそんな落ち込むねん。」
「そんなんあたしの勝手やろ。」
「お前、誰かにチョコ渡して、好きやって告白でもするつもりなんか?」
「なっ・・・。」
「やめとけ。和葉なんぞに告白される男が気の毒すぎるわ。」
和葉は、平次の言葉に足が止まる。
「・・・・おい、和葉。なに止まってんのや。はよ、帰るで。」
「・・・・・平次の。」
「あ?」
「・・・・・平次のアホ――!!!!!!」
和葉はその場から走って帰って行った。
「なんなんや、あいつ。なんで俺がアホなんや。」
「・・・・ほんまに誰かに告白する気なんか?」
平次は、自分の機嫌が急速に下がっていくのに気がついて、なんで俺が落ちこまなあかんねん。とブツブツ言いながら、歩き出した。
和葉は、家には帰らず近所の公園にいた。ポツポツと雨が降り出すのにも気づかず、ベンチに一人涙を流す。
「・・・へいじの・・・あほ・・。」
平次は、明日がそんなに面倒くさいのだろうか。自分もほかの女の子みたいに、めんどくさいと思われるのだろうか。平次が甘いものが嫌いなのを知っているから、ゆりと相談し、ビターチョコで作ろうと決めた。毎年、義理チョコだと渡し続けているが、ほんとはそれも面倒くさいと思われていたのかもしれない。いよいよ明日という日に、和葉は渡すべきか迷ってしまった。
「・・はっくしゅ!!!」
小雨はいつのまにか大きな雨粒となっていた。
「さぶっ。」
和葉は、これ以上濡れないよう、急いで家へと向かった。
今日は、父は帰ってこれないと言っていた。急いで、風呂に湯を溜める。
冷え切った体に、熱いお湯が染み込む。
「はぁ〜。どないしよ。」
寝る前にチョコを作って寝ようと思っていた。だけど、今は平次へ本命チョコを作るかどうか迷っていた。今年も義理チョコだとごまかすべきか。それとも、玉砕覚悟で渡すべきか。
ため息をついて、湯から上がり、ノロノロと着替える。部屋に戻り携帯を見ると、メールが一件届いていた。
「あ、ゆりからや。」
和葉!いよいよ明日やね。もうチョコは作った?
服部君への気持ちをたっぷり込めて、作りや!!
和葉、がんばれ!!!!あたしも和葉の告白が成功するよう、
祈ってるからね。オヤスミ☆
ゆり
「ゆり・・・。」
ここ三日、いろいろと自分の相談に乗ってくれ、材料など買出しにも付き合ってくれた。自分のことのようにいつも心配してくれる親友の言葉が心に染み渡る。
「よし!!!作ろ!!!!」
和葉は、気合いを入れなおし、チョコを作り始めた。お父ちゃんの、平次のオッチャンの、オバチャンにもいつもの感謝の気持ちを込めて、それに大滝はん。そして、平次の分。
平次以外のチョコが完成した。あとは、平次に渡すチョコのみ。
ゆりと本を見ながら、何を作る考えた時、和葉は決めた。シンプルでもいい、平次に伝えたい想いをチョコに乗せよう。
和葉は、一文字、一文字、平次への想いを込め、ゆっくりと書き始めた。
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