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異世界に転生したんだけど俺、天才って勘違いされてない? <旧題  転生したんだけど俺なんか勘違いされてない?> 作者:にゅん

学院編 1年度 夏期休暇~新世界編~

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久しぶりの箱根基地

----功樹 視点----

「はい、これも目を通して頂戴」

 目の前に書類の山がある。俺の個人端末が故障してデータの送受信が行えないからと、母さんがわざわざ書類をプリントして目の前に積み上げていく。別の机ではマッチョも同じように書類を積み上げてこっちを見ながらニヤニヤと笑っているのが見える。あの筋肉達磨め楽しんでいやがる……。

「それと、これが学院都市防衛隊からの苦情よ。あ、大変! 忘れてたけど国土安全省から乗ってきた潜水艦の受け渡し要請がきてるわ」

「あの、母さん……」

「功ちゃんがいなかった期間に止まっていたVR技術部門からの報告も山の様にあるからよろしく。あとは、そうねぇ───」

 やばい、母さんが怒ってる。どうしようもないくらい完全に怒ってる。眼だけが笑っていない母さんの笑顔から目をそらして部屋の隅にいるアリスに視線で助けを求めるが、目があうとプイっと顔をそらされてしまった。抱きかかえられているコンもしっぽで顔を隠している。
 俺の後ろで控えている大尉とアントンさんは直立不動のまま彫像と化しているから助けてを求めても無駄か。

「ごめんなさい……」

 俺の一言で母さんが書類を積む作業を止め、ゆっくりとこちらを振り返った。

「声が小さくて聞こえないわ、なにか言った?」

「勝手な行動をして、ごめんなさい! お願いだから手伝って下さい!」

「手伝って!? 勝手にロシアに行って危険な事をして、お母さんが止めても自分でどうにかするって言ったのに? あまつさえ、他国の旧首都を盛大に爆破した挙句に極秘で保管中だった原潜を徴発して帰ってきたのに?」

「はい……」

「───、よろしい。これに懲りたらもう二度と勝手な行動はしない事。いいわね?」

「はい」

 どうやらやっと許してくれるようだ。母さんは白衣を脱ぐと椅子に座って足を組み俺の後ろにいる大尉を見つめる。そのまま暫くの間黙っていたが、不意に口を開いた。

「ユリヤ大尉、功樹の端末を通してロシア政府との会談の内容を聞いていましたが、ポロニウムの件は本当ですか?」

「私は元ロシア連邦海軍所属、ユリヤ・アルタモノワ大尉。旧認識番号は────」

 大尉、もう海上自衛軍がいないので俺の指揮下にあるふりは結構です、母さんを刺激するのはやめてください。ほら、母さんがまた完全に光を失った目で俺を睨んでるじゃないか……。

「大尉、母さんの質問に答えてもらって結構です。すべて答えてください」

「本当だ、最重要機密だった。実際に使用された事はないが使用する場合の運用は私の部隊に任されていた」

「なるほど……。どうしてそんな機密を功ちゃんは知っていたのかしらね?」

 今度は俺に対する質問、というか詰問だ。どう答えるべきか? いっそのこと大尉に話した事を母さんにも話したほうがいいのかもしれん。だが、ノアにスパイがいた事を考えたらこの部屋を盗聴してる可能性もあるわけだし……。

「噂で聞いた、そういう計画があるって」

「噂ねぇ……。まぁ良いわ、功ちゃんはもう行きなさい。私のお説教は終わったから、次はアリスちゃん達に叱られる番よ」

 その言葉にアリスとコンは嬉しそうな顔をしたが、俺は一瞬だけ心臓が止まりそうになった。これは大尉から聞き出すつもりだ、緊張で口の中が乾き舌が喉に張り付きそうになるが母さんにばれないように席を立つ。部屋をでる時に大尉の顔を見ると相変わらずの無表情だったが、口元が少しだけ笑ったような気がした。あの様子ならたぶん大丈夫だろう、秘密に関わる事はなにも言わないと思う───。


----美紀 視点---

功樹が部屋から出て廊下を歩く音が聞こえなくなってから、私は大尉に改めて話かけた。

「あの子はある程度の未来が見えている節があります。それも確実な一つの未来ではなく、行動によって分岐するような複数の未来を」

「ふむ、それは面白いな」

「えぇ、ですが面白いのはここからです。あの子はどうやら過去も見えている……、いえ知っていると言うほうが正しいかも知れません。まるで似たよう事を経験している───」

 大尉は一瞬だけ動揺したようだ。どうもこの人は功樹の根底に関わる事を知っているようね。

「我々が異世界に本拠地を構えているのは功樹から説明されたと思います。じつはその世界でもあの子は最適解を知っているような行動をしました」

「異世界でも?」

「はい。準備して、行動し、結果を残す。初めのうちは親の贔屓目から本物の天才だと思っていました、ですが今回の件ではっきりと思い知りました。異常なんですよ、どうしてビルから脱出した後であなた方が張り込んでいた方面に逃走したんですか? どうしてポロニウムの噂を知っていたのですか? どうしていつもあの子に都合よく事が進んでいるのですか?」

 私の言葉に大尉は俯いて何かを考えている様子だ。私は功樹の事を心から愛しているし、人としての道を踏みはずさなければどんな事だって手伝うつもりでいる。だが、あの子は私達にはなにも話してはくれない。それがとても悔しいのだ。その事を大尉に伝えると彼女はやっと重い口を開いた。

「私はアラカワとの盟約がある。よって彼から話された内容は伝えることができないが、私はあなたの推測を否定しない」

 否定しないということは、私の考えが当たっているのだろうか? もし仮に似たような世界を経験しているのならそれはどこの世界なのだろう。

「……アラカワは異世界での種族間戦争の目的はなんと言っていた?」

「え? せめて皆が笑って暮らせるようにって言っていたわ」

「もし仮に、仮定の話だがあなたの推測が正しいとしよう。その場合、今のこの世界は『皆が笑って暮らせる世界』か?」

 その言葉にハッとする。それじゃあ功樹は……、別の歴史を歩んだこの世界の未来から来たの? たった一人で過去を変えるために───。 

「アラカワから聞いた事とあなたから聞いた事を踏まえて私なりに考えてみた。果たして我々はアイツが行動を起こさなかった場合に新世界に気付けただろうか? もし気付かなったらどうなっていたか」

「あの子は歴史を修正するつもりなのね。でも、なんども失敗してやり直している……」

 だからこそ想定外の事態が起きない限りあの子は最適な行動を続けられるのだろう。知る筈のないポロニウムは自分の身をもって経験したのではないだろうか。功樹が生まれた時に見せた感情が欠落したような目も今なら納得できる。一体、功樹はどれくらい苦しんだのだろうか? どれくらいの『死』を経験すればあんな目をするのだろう───。
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