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異世界に転生したんだけど俺、天才って勘違いされてない? <旧題  転生したんだけど俺なんか勘違いされてない?> 作者:にゅん

学院編 1年度 夏期休暇~新世界編~

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信頼と作戦開始

『異世界に転生したんだけど俺、天才って勘違いされてない?』本日発売!

宜しくお願いします(`・ω・´)
----荒川 功樹視点----

 大尉から貰った端末で時間を確認すると21時を表示していた。俺は半地下になっている管理棟にいるので外の様子は分からないが、恐らく外はもう暗くなっている事だろう。新世界に向けて声明を出したのが1時間くらい前の事だったから、もう後1時間もすればなんらかのアクションがあるはずなんだが……。

「眠い」

 思わず独り言を喋りながら目を擦る。よく考えたらアニメの仕事とアントンさんの頼まれ事のせいで2日くらい寝てないことを思い出した。マッチョや大尉みたいなバリバリの軍人は訓練でなれているのかもしれんが、俺みたいな貧弱な一般人には流石にきつい。
 すこし横になろうかと考えていると、扉が歪むのではと不安になるほどの勢いで大尉が部屋に入ってきた。

「どうしました?」

「新世界側から返答が来たぞ! どこでもいいから端末で衛星ネット放送を受信してみろ。ヤツら、ロシア中の放送回線を乗っ取りやがった!!」

マジかよ……、やっぱり天才っていうのはやることが派手だな。テロ組織なんだからもう少し大人しくしたらどうだ? 放送回線を乗っ取るなんて母さんみたいな事をしやがって───。
 完全に眠気のとんだ頭でそんな事を考えながら端末を操作すると、確かに多少荒いが顔を隠した男の映像が全てのチャンネルで流されていた。恐らく録画されていると思われる映像にはサンドラ博士は出てこないようだが、なにか目的があるのかそれともたまたま今回は出てこなかったのかどっちだ?

『繰り返す。我々新世界はアントン・ボルトキエヴィッチ、ヤコフ・タルコフスキー、ユーリ・パムフィロワの3名を30分後にホテルを包囲しているロシア軍に解放する。解放と同時に我々とホテルに残っている同志達は旧モスクワ市街地に向け移動を開始する。我々は協定に基づき行動している、この行動を阻害した場合は即座に無差別攻撃を開始する。繰り返す───』

 なるほどな、アントンさん達をその場で解放して旧市街に着いたら直ぐに攻撃するつもりでいるのか。しかも全ロシアで放送されているのならロシア政府も移動中のヤツらを攻撃できない。自国民と俺を天秤に掛けた場合、どう考えても自国民……それも非戦闘員の一般市民の方が大切だろう。

「大尉、ホテルでの───」

「既にホテル近くに我々の情報提供者を張り付かせている。解放された場合は直ぐに連絡がくるだろう」

「こちらの───」

「我々の配置も既に完了している。お前の想定通り地下鉄と下水道を使った坑道戦術だ。塹壕代わりにもなるから予定されている5時間程度の防御戦闘ならどうにかもつだろう」

 せめて最後まで言わせろよ!? 確かに俺の心配は大尉からしたら想定済みなのかも知れないけど確認って大事だろ。もういいや、俺も武器を調達してせめて自分の身くらい守れるようにしよう。
 どうせ俺たちが陣取っている管理棟を利用した仮司令部が陥落したら負け確定なんだが、そうなった時に自分の頭を吹き飛ばす道具くらい必要だ。そう思って武器を取りに部屋を出ようとすると大尉がやけに冷たい声で話し掛けてきた。

「何処にいくつもりだ?」

「自分の武器を取りにいこうかと。ショットガンしか使えませんが武器を持てない人員よりマシでしょう? それにもしもの時にも必要になります」

「もしも?」

「想定したくはありませんが、ここが陥落した時の話です。皆さんが戦死した後で僕は捕まる気はありませんから自分でケリをつけます」

 俺の言葉に大尉は無言になる。もしかしてこの人は俺が逃げると思っていたのか? というかスィエールプ全員がそう思ってるんじゃないだろうか。だから作戦の詳細も配置も教えなかったとすれば辻褄はあう。
 ふざけんなよ! 確かに祖国に裏切られたのかもしれん、だけど俺は味方だろうが!! 全員で協力しないとこの場を凌げないのが分からないのかよ。よし、文句を言おう。確かに大尉の見た目はちょっとだけ怖いけど、これは言っておかないと後から大変な事になる気がする───。




----ヨシフ 視点----

『何処にいくつもりだ?』

 大尉とアラカワの会話が耳に装着している無線機から聞こえてくる。アラカワの事を信じて居ない俺達の為に、大尉は全ての会話を部隊内通信で聞こえるように手配してくれた。これで彼が本当はどう思っているのかが分かればいいのだが。

『自分の武器を取りにいこうかと。ショットガンしか使えませんが武器を持てない人員よりマシでしょう? それにもしもの時にも必要になります』

『もしも?』

『想定したくはありませんが、ここが陥落した時の話です。皆さんが戦死した後で僕は捕まる気はありませんから自分でケリをつけます』

 自分でケリをつける……、自決するつもりなのか? 大尉も無言になったという事は驚いている様子だ。アラカワは本気で俺達と運命を共にするつもりでいるのか? なぜだ? どうして出会って間もない俺達の為にそんな事ができるのだ!? 理解できん。

『大尉、いい加減にしてください! スィエールプの人達が僕を信用できないのは理解できます。ですが僕は逃げたりしませんから最低限の情報の共有はしてください! もう一度言いますが、皆で協力しないと全滅しますよ』

『いい加減にするのはお前の方だ!! いきなり現れたお前を信用できるわけ無いだろうが! しかもこの場を切り抜けても実際に亡命できるかどうかの保証も無い、計画通りに進むかの保証もない! そんな中で何を信用しろというのだ!』

 アラカワの言葉に大尉が怒鳴りながら返答している。確かにアラカワの言い分は理解できる、しかし彼の行動理由が俺達の理解の範囲を超えているのだ。大尉も2時間前に行ったブリーフィングで同じ事を言っていた。
 そんな事を考えていると何かを蹴り飛ばすような音と共に、今までのような温厚さを残した声ではなく明らかな怒気を含んだアラカワの声が無線機から聞こえてきた。

『保証、保証ってうるせぇんだよ! もういい、嘘は吐かないって約束だったな。なら正直にいうが、俺はノアで種族間の絶滅戦争に参戦した事があるからこれが初陣ってわけじゃない! だからビビッて逃げたりもしない。あんたらを助ける理由も大層な事じゃねぇ、アントンさんに頼られたからそれに応えたいって見栄だけだよ! でもな、あんたらを助けたいっていうのも本当なんだ。だから頼むよ……、俺は母さんと違って馬鹿だから上手く説明できないけど、信じてくれよ……助けたいんだ。このままじゃ本当に全部が無駄になっちまう』

 アラカワの声は最後は涙声になって聞き取れなくなった。そういえば心配されて泣かれた事なんていつぶりだろうか? 俺が軍に入る前に駅まで見送りに来た母親が泣いていたような気がする。あの時、頬にキスをしながら母はなんて言ったかもう覚えていない。ふと隣に目をやると俺の分隊に配属された機銃手のイワンが涙を流していた。

「泣いてるのか?」

「はい、俺は孤児院で育って食う為に軍人になったのです。アラカワの言葉を聞いていたら優しかった孤児院のシスターを思い出しました。シスターも俺が軍に入るときに泣いていました、学校に行かせられなくて申し訳ないって。なんでか分からないですけどアラカワがシスターとかぶっちまって……」

 イワンの肩を叩きながら他の分隊員の顔をみると皆が似たような表情をしていた。もしかしたらアラカワを信用していいのかもしれないな……、彼の為になら俺達は今までのように戦えるのかもしれない。
 大尉に通信を送ろう、他の分隊はどうか知らないが俺の所はアラカワを信用して彼の為に戦おう。そう思いながら送信機のスイッチを押そうとした時、誰かが割り込んできた。

『こちら第2分隊。大尉、我々はアラカワを信じます』

『第3分隊も同じです』

『こちら、前哨狙撃班。俺達も信じます』

 ほかの所も考える事は一緒か、俺はもう一度全員の顔を見渡す。部下たちは疲れているが士気が上がっている特有の顔をしながら頷いてきた。その顔を見ていたらなぜかあの時に母が言っていた事を思い出した。
 『アナタに優しい友達が出来ますように』……父が残した借金を返す為、軍に入った俺に母は泣きながらそう言っていた。あれから何年たったか、俺は今更ながらそんな仲間と出会う事ができたようだ。

「大尉、第1分隊です。我々もアラカワを信じます」

 通信を送った後、いつも通り『了解』を意味する2回のクリック音が無線から聞こえてきた。後は大尉次第だが、そういえば彼は一つ気になることを言っていた。『ノアで絶滅戦争に参加した事がある』との事だったがどういう意味だ? すくなくとも俺が知る限りここ数年は大規模な戦争は起こっていない。とすれば前に資料だけ送られてきた粒子研究中に起きた異世界転移とかいうやつか? だがアレは3日ほどで帰ってきたはずだ。
 一体彼はあの年齢でどんな地獄を経験してきたのか……、冷静に考えると畏怖すら感じる───。懐から出したタバコを咥えながら内心でそんな事を考えていると再び大尉の声が無線から聞こえてきた。

『アラカワ、我々の会話は部隊の全員に聞こえるようになっている。我々はお前の事を信用していなかったが、今の発言で全員がお前を信じるそうだ。スィエールプを代表して改めて謝罪する。申し訳なかった』

『た、大尉!? 頭を上げてください! 僕の方こそ申し訳ありません。熱くなってつい感情的になってしまいました』

 まさか『あの』大尉が頭を下げたのか!? 冗談だろう、なんで俺は司令部配属を申し出なかったんだ! そんな状況をぜひこの目で見たかった。イワンのヤツも泣き顔をしながら『司令部にいれば良かった』とぼやいている。そんな一瞬緩んだ部隊の空気を引き締めるように大尉の怒鳴り声が聞こえてきた。

『総員、傾注!! 我々の作戦目標を変更する。第1目標はアラカワ……、ふむ。アラカワは発音が難しいな。アラカワのコードネームを変更する、新コードは『ヴォルカ』だ』

 ヴォルカ……ロシアを流れる母なる川か。確かにアラカワは皆の母親のような存在だ、もっとも彼に相応しい名前だろう。

『第1目標はヴォルカの戦域からの離脱を優先させる。良いか! なんとしても、たとえ最後の一兵になり自爆してでもヴォルカを日本に送り届けるぞ!! 第2目標……、全員で生きて帰るぞ。ノアに亡命できればなんでも好きな事をさせて貰えるそうだ』

 滅茶苦茶だ、そもそも第1目標と第2目標が矛盾している。だがそれもいいかもしれんな、つまりは死ぬ気でヴォルカを守って全員で離脱するという事だ。まったくもってシンプルで分かりやすい、今までのような上層部の豚共が立てた分かり難くて生還の望みすら満足にない作戦から比べたら何倍もマシだ。

『通信班です。ホテル正面で人質の解放を確認! 3人とも無事な様です』

 ふん、アントンの大馬鹿は無事だったようだ。まったくヴォルカの優しさに感謝する事だ、普通の豚ならお前を見捨てて日本に逃げ帰っていたはずだ。さて、という事はいよいよ生き残りを賭けた戦いが始まるようだな。俺は無線の音量を大きくして通信班のオペレータの声に注意を傾ける。

『ホテルを占拠していた新世界は即時移動を開始。また簡易レーダーにも6機の機影が映っていますが、これは報告にあった輸送用VSTOL機だと思われます。それに、なにっ!? この反応は……、マズイです! 敵は大量のパワースーツですでに旧市街地を包囲しています、数は約───』

 EMP攻撃を想定している無線が途切れたという事は大出力の妨害電波か新兵器を使われたらしい。しかし甘い、甘すぎるな。確かに敵は強大かもしれんがこの程度で俺達が慌てるなんて想定していたら敵は単細胞生物並みの知能しかないだろう。
 むしろ今までの戦場で最後まで無線が使えたことの方が稀だ。いや、そもそもそんな事があったかどうか怪しいな。それよりもだ……、俺は気になっている事を確認する為に暴発を防ぐテープを手榴弾に巻きつけているイワンに声を掛ける。

「イワン、ヴォルカは俺達の正式な部隊名を知ってると思うか?」

「どうでしょうね? 流石に知らないと思いますよ。知っていたらもう少し安心して戦闘を任せてくれるでしょう」

 だろうな、やはりヴォルカは知らないか。俺達の正式な部隊名は『試作型人工強化兵部隊・スィエールプ』、遺伝子改良を行う『強化兵士計画』と人工進化を行う『アリス計画』から生まれた最強の特殊部隊だ。この時代で核戦争すらも想定した部隊は俺達以外には存在しないだろう。
 既に榴弾の着弾が始まり、振動を始める地下鉄の構内で俺はニヤリと笑う。新世界よ、貴様達は無力な虫ケラを捻り潰す気でいるのかもしれんが教えてやろう、貴様たちが一体何を敵に回したのかを────。

 状況説明とか感情の揺れを表現していたら長くなってしまいました。なかなかガバーーっと進まなくて申し訳ないです。次回からは本格的な戦闘です。あ、次回はちゃんと『勘違い』もありますよ!!

活動報告を更新しました! ご覧下さい。 書籍版:202Pの1行目は、じ時系列の入れ替えですから……さっと次ページをめくってください(´・ω・`)
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