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異世界に転生したんだけど俺、天才って勘違いされてない? <旧題  転生したんだけど俺なんか勘違いされてない?> 作者:にゅん

学院編 1年度 夏期休暇~新世界編~

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反攻前夜

ヾ(´_`○)ノ最近、手直しするたびにズルズルと長くなっていく病が再発しております。
----荒川美紀 視点----

 箱根基地の中央司令部では撃墜されたXC-03型輸送機に搭乗していたクレア・ドーントレス中佐以下25名の捜索を行う班と、ロシア国内で消息を絶った功樹の捜索を行う班が慌しく動き回っている。ロシア側が会合場所に選んだホテルがテロ組織『新世界』の襲撃を受けてから18時間……、護衛として功樹と共に行動していたアントン・ボルトキエヴィッチ少尉の消息も功樹本人の行方も掴めていない。
 恐らく少尉の事だから功樹だけをどうにかホテルから逃がした後で、フィンランド国境に向かうように指示したとは思うがノアのセーフハウスは勿論、フィンランド国内に功樹が入った形跡はない。

「八方塞がりね……」

 司令席に座りながら思わず独り言を口にする。もし仮に功樹が新世界に拘束されたとしたらなんらかの声明が新世界側からノアに向けて送られてくる筈だ。それが18時間経った今現在になっても無いという事は、功樹は身を隠す事に成功しているか……或いは既に死亡している事になる───。一向に進展しない状況に内心でそんな最悪の状態を予想しているといつの間にか隣に来ていた修一さんが話し掛けてきた。

「美紀、リエービジホテルを包囲しているロシア軍部隊からの連絡で敵が使用している兵器が分かったぞ」

「詳しく教えて頂戴。こちらの部隊を派遣するにも相手の装備が分からなければ手が打て無いわ」

「第6世代だと思われる未知の新型パワースーツと光学迷彩搭載型の強化外骨格を使用している重装歩兵、それにウチのと良く似ている強襲型VSTOL機も確認されている。さらにな、指向性EMP装置を持っている可能性がある」

「冗談でしょ!?」

 さすがの私でも思わず自分の夫の言葉を疑う。未知のパワースーツという事は独自開発したものを使用しているのだ、しかも兵員に行き渡らせるだけの量産性も兼ね備えているなんてあり得ない。それに指向性EMP装置なんてノアでも未だに試作段階で実戦投入なんて出来ていない。もし修一さんの報告が全て真実ならば新世界はノアと同等の技術力と資金力を持っていることになる。

「かなりマズイわね。サンドラ・ツェレンスカヤ博士について分かった事は?」

「あぁ、それも内務省からデータが送られてきている。驚くなよ? 普段なら絶対に出てくる筈のない公安部の極秘資料だ、やつら相当焦っているようだな。どうにかして俺達の機嫌をとりたいとみえる」

 皮肉たっぷりにロシア政府の手際の悪さを罵りながら修一さんが渡してきた資料を受け取って目を通すと、そこには会合の最中に功樹が口に出した『母と同レベルの天才』という言葉の意味がやっと理解できた。
 私より2歳年上の2060年3月15日生まれ。12歳でモスクワ大学を主席で卒業、機械工学・ロボット工学・人工生命学・量子物理学の博士号を取得。独自理論である生命の生まれ変わり……、『魂の転生論』を発表し学会を追放され全ての登録を抹消されるも2088年に極秘計画である『アリス計画』の責任者に就任、以降は裏側の世界で働くようになる。それに一緒に送られてきた資料だが───。

「この資料に添付されている数式って新量子の証明数式みたいね、功樹のアプローチの方法と少しだけ違うけど恐らく遠回りしてるだけで同じ答えにたどり着く筈だわ。こっちの書き掛けのは人工筋肉を使った新型パワースーツの設計案と新型動力炉。修一さん……、信じられる? これ私達が今研究している0式スーツと基本的な考え方が一緒よ」

「……嘘だろ? って事はまさか」

「えぇ、『母と同レベルの天才』? そんなの笑い話にもならないわよ。ツェレンスカヤ博士は間違いなく───、功樹と同レベルの本物の『天才』よ」

 まさか同じ時代に歴史を動かす事が出来るような天才が二人も存在するなんてなんの冗談だろう。もし彼女の……、ツェレンスカヤ博士の周りに彼女を理解できるレベルの人間がいたらこの世界は変わっていたのではないだろうか? 
 誰にも認められないまま狂人扱いで学会を追われ、その復讐の為なのか新世界などいうテログループを創り上げた天才。もし歯車の一つが違っていたら、今の彼女の姿はそのまま功樹の未来になっていたのかもしれない。

「美紀さん、ロシアのシュムスキー大統領からのホットラインです」

 思考の渦に沈んでいると副官のエリスさんが硬い表情をしながら報告してくる。彼女も妹のクレアさんの安否が不明で精神的に辛い筈だが、自室で休むように言っても妹の無事を信じながら自分の職務を遂行すると言ってこの場に留まっている。

「こちらの画面に表示して下さい」

 私の返事と共に机に設置してある端末に顔色の悪い初老の男性が映る。最近は国連に呼ばれる事も少なくなり直接会話する機会もなくなっていたが端末に映っているのはシュムスキー大統領本人で間違いない。

『お久しぶりです、女史』

「お久しぶりです、大統領閣下」

 この18時間は彼にとって地獄の炎に焼かれるような時間だった筈だ。各国から止む事の無い功樹の安否確認、アラカワ条約違反の査察受け入れ要請、自国の首都で未だ続いているテロ行為、どれをとっても彼の政治生命はここでお仕舞いだ。この事件の終結後、辞職を願い出る事になるだろう。

『この度は我国を観光中に御子息がテロ事件に巻き込まれ非常に心苦しく思っております。現在我々はホテルを完全に包囲下に置いており、テログループの制圧と人質の安全を第一に考えて行動しております。また、国内にあるテログループの拠点掃討作戦も並行して行っており───』

「御託は結構です。我々が要求するのは、目に見える形での功樹の安否確認とクレア・ドーントレス中佐以下の輸送機搭乗員の行方です。既にアラカワ条約に基づきEU連合・合衆国海兵隊及び太平洋間艦隊・国連常備軍第6師団がデフコン2を発令しています。アラカワ条約下での軍事行動は私に最終意思決権があるのはご存知かと思いますが、貴国が誠意を見せない限り私は苦渋の決断をしなければなりません」

『……女史、いやアラカワさん、これ以上はもうどうにも出来ません。輸送機が撃墜された場所には海軍を向かわせているので後数時間もすれば確実になんらかの情報をお伝えする事ができます。ですが、御子息の行方については知る手立てが何もないのです。本当にそちらに何も連絡がないのですか?』

「ありません。大統領閣下は手立ては無いと言いましたが、街中の監視カメラの映像も全て調べたのですか?」

『もちろんです。彼の足取りはホテルからパワースーツで河に飛び込みそこから150メートル離れた路地に入るところで完全に途切れています』

 そんな馬鹿な事はあり得ない。あの子は確かに頭が良いが決して訓練を受けた軍人のように敵中を突破出来る様な人間ではないし、ましてや歴戦の諜報部員のように己の痕跡を完全に消し去るような事は出来ない筈だ。唯一の生命線といえる個人端末も使用できない今はただの無力な15歳の子供だ。一体どういうことなの?

「お話の最中に失礼します、国連の広域組織犯罪を担当している部署から連絡が来ています。緊急との事です」

「直ぐに出ます。大統領閣下なにかあれば又ご連絡を下さい、もう暫くは私の方で軍事行動を起こさないよう各国に通達しておきます。私としても救出作戦が大戦の引き金になるのを避けたいですから」

『分かりました。よろしくお願い致します』

 一旦通信が切れて暗くなった端末の画面に今度は国連職員の制服を着た赤髪の女性が映った。非常に緊張している表情をしたその女性は私が映ったの確認したのか、慌てて手に持っていた資料を机に置いて挨拶をしてくる。

『は、初めまして。私は広域犯罪・武器密輸対策班のシュタビンガーと申します』

「初めまして、アラカワです。緊急の要件と伺いましたが?」

『は、はい。私達はここ最近ですね、ロシアのぶ、武器商人ウラジミール・ストリアロフの金の流れを追っていました。そこから彼の顧客情報を集めて証拠として国際裁判所に提出する書類を作る為です。その作業の最中……、あ、1時間程前の事ですが、とんでもない金額の武器取引が行われているのを掴みました。それでその顧客情報をクレジットナンバーから検索したのですがコウキ・アラカワ氏の個人口座だったのです』

「功樹の口座は国際バンクに作られています。あそこから100万ドル以上のクレジットを一度に移す為には専用の機械認証が必要の筈です。誘拐や脅迫に備える為に脈拍や血圧が正常時じゃないと機械側で認証を弾かれる……、少なくとも1時間前までは自分の意思でクレジットを移せるくらいには無事という事ですね?」

『はい。そ、それでこちらの職員がストリアロフの端末にハッキングして入手したコウキ氏の武器購入情報ですが、そちらで必要ならばお送りしますが?』

「直ぐに送って下さい!! それと貴女の名前はシュタビンガーさんでしたね? 後日になりますが正規ルートで国連に私とノア名義で協力に感謝する旨の文章を送っておきます」

『え、あ、ありがとうござます。それでは失礼致します』

 良かった……、本当に良かった。まだ詳しい状況が分からないがとりあえず無事で生きている。どんな手段をとったのか完全に姿を隠す事に成功したようだ、しかし武器商人と接触したというのはどういう事なのかしら? 身を守る為ならば売人程度から現金を使えば幾らでも手に入る筈。
 そんな事を考えているとシュタビンガーさんから送られてきた資料が私の個人端末に転送されてくる。どうやら修一さんにも同じモノが送られているらしく興味津々とばかりに早速確認しているが、みるみる顔色が変わって大声を上げた。

「あの馬鹿やろう!! 市街戦でも始めるつもりなのか!? 美紀やべぇぞ、功樹のヤツが買い取ったのは対EMP用の旧式装備だ。しかも丸々一個小隊分の装備に誘導装置の無い対戦車砲まである。いや待て……、榴弾砲がないのに榴弾を買い取っている? そうかIEDだ! あいつ即席爆弾を使用したゲリラ戦を想定しているぞ」

 修一さんの言葉に驚いて慌てて端末に資料を表示させると、そこにはまさにちょっとした市街戦が行えるだけの装備が書かれていた。ロシア軍が使用していた旧式自動小銃30丁に軽機関銃が5丁、100年以上前に核戦争を想定して製造された兵員輸送車両、半導体の代わりに真空管を使用している攻撃型ヘリコプター、対人・対戦車用地雷、ゲル化ガソリンを使うバックパック式の火炎放射器、榴弾砲用の砲弾、強化外骨格のせいで使われなくなって久しい戦闘用ヘルメット等々。おおよそ近代の軍事関係者なら一笑に付すような骨董品といって良い装備だ。

「修一さん、この資料に載っている装備でパワースーツの撃破は可能なの?」

「不可能だ、だが行動不能にするくらいなら出来る。火炎放射器でエンジンの排熱口を攻撃すれば熱暴走でリミッターが作動するし、対戦車用の地雷を改造して重ねた刺突型の爆雷なら脆い関節部を破壊できる。これは功樹だけの考えじゃねぇな、泥沼の非正規戦闘を経験した事があるヤツじゃないと考え付かんぞ。俺は間違ってもこんな手段を実行してくるような相手とは戦いたくない」

 今のロシアで功樹に味方するような泥沼の非正規戦闘の経験がある一個小隊分の戦力なんて一つしかない───、外務省諜報局対外特殊工作部隊『チェルノボグ』。その中のクレアさんですら存在の真偽を掴めず、アントン少尉も最後まで私達に情報を提供しなかった局地戦最強と呼ばれているチェルノボグ戦闘部隊『スィエールプ』。
 ロシア語で『鎌』を意味するその部隊が味方についているのならこれほど心強い事はない。よし、ならばノアの方針は決まった。恐らく功樹は装備を行き渡らせたスィエールプを主力にしてこちらの救助部隊がくるまでゲリラ戦を行って持ち堪えるつもりだろう。なら大至急あの子の所在場所をクレジットの取引現場から突き止めて───。

「美紀さん!! 功樹君から通信が入っています。通常回線です」

「直ぐに秘匿回線にまわして頂戴!」

「そ、それが必要ないから母に繋げてくれと言ってます」

 一体どいうつもり!? 通常回線なんて使ったら新世界側に今いる場所が露呈するのになんで秘匿回線に回さないの? 焦る気持ちを抑えながら端末に経由された映像を見ると少し疲れたような顔をした功樹が画面に映った。束の間安堵するが、一緒に映っている人物の姿を見て再び緊張する。恐らくメインスクリーンでこの映像を見ている司令部職員全員が同じような気持ちを抱いているだろう。

「功樹! 無事だったのね。それと、その武装した人達は誰? まさか新世界のメンバーではないわよね」 

『あぁ、確かに全員バラクラバを被っているから旧世代のテログループみたいに見えるかもね』

『見えるかもね』じゃなくてそうとしか見えない。全員が古い世代の迷彩服とヘルメットに目出し帽を装着して自動小銃を吊り下げている姿は、資料映像で見たことのある2000年代初期の反政府ゲリラにしか見えない。さしずめ功樹の姿は人質といったところか? 

『この人達はアントンさんの元同僚でチェルノボグ戦闘部隊の人達だよ、まぁ何人かは工作部隊の人もいるけどね。今は僕に協力してくれて、ここ旧モスクワ市街地に陣取っている』

「ちょっと、こうちゃん! この回線は通常回線よ。新世界側に傍受されてる可能性があるのは理解しているでしょ!?」

『別に構わないよ、むしろそれが目的だったりするしね。あ、ユリヤ大尉お願いします』

 功樹は隣にいる女性だと思われる兵士に声をかけてから、自分の画面に地図を表示させその一点を指で示すと、今までの優しくて温厚そうな雰囲気を一変させた。この表情は前にも見たことがある───、確かアリスちゃんが誘拐された時にメガフロートの片隅で作戦の詳しい内容を聞いていた時の顔だ。そう、この子が覚悟を決めたときに見せる表情だ。

『この映像を見ている新世界教主・サンドラ・ツェレンスカヤ博士に告げる。ホテルで俺を取り逃がしたのは随分と痛い失敗だったな? だがお前にチャンスを与えてやる。俺は旧モスクワ市街地にいるぞ、捕まえたいのか殺したいのか知らないが俺をどうこうしたいのならここに来い。

 だが、転生だか魂だかそんなオカルトを信じている馬鹿な研究者に俺の時間を割くのは勿体ないと思う。そこでだ、ここで待ってやる代わりにお前の部下がホテルで拘束しているアントン・ボルトキエヴィッチ、ヤコフ・タルコフスキー、ユーリ・パムフィロワの3名を連れて来い。その3名が既に死んでいるのならこの話は無しだ俺は直ぐにこの場所から離脱する。もし生きているのなら旧市街地のベケト池付近で解放しろ。

 解放した瞬間から俺が離脱するまでの時間がお前に与えられた俺を捕まえる時間だ。返答期限は2時間以内、方法は……どうにかして俺に伝わるように自分で考えろ、馬鹿でもそれくらいはできるだろ? 以上だ』


 尊大な態度で自分の言いたい事だけを言った功樹はまるで用件は済んだとばかりに一方的に通信を切った。実際、本当に用件はそれだけだったのだろう。私は暗くなった画面を見つめながら暫く呆然としていたが、ハッと我に返ると司令部の部下達に指示を出す。あの子のあの態度には絶対に何か裏がある筈だ、とりあえずはノアの総力を挙げて今功樹がいる地点の詳細な場所を割り出して救援部隊を送る算段をしなければ。
 他にもアラカワ条約に加盟している各国とも調整をしないといけないし、ロシア側にも一応今回の声明に対する協力を取り付けないと……。相変わらず無茶ばかりする子だが、きっと今回も最良の結果を掴み取ってくれる事を信じながら、私は作業に埋没していった───。
 きりがいいので今回はここまでです。シュタビンガーさんの出世待ったなしの状況ですね(・ω・`)

 次回は一体どうしてこのような事になっているのか……等々を含めたアリス計画編の山場となっております。ご期待下さい!!

因みに:チェルノボグ=日本語訳・死神
     スィエールプ=日本語訳・鎌
     チェルノボグ戦闘部隊スィエールプ=『死神の鎌』

     なんかカッコいいですよね(`・ω・´)
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