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異世界に転生したんだけど俺、天才って勘違いされてない? <旧題  転生したんだけど俺なんか勘違いされてない?> 作者:にゅん

学院編 1年度 夏期休暇~新世界編~

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決断

 もうしわけないです! 後一回だけ続きます。色々と修正している内に文字数が膨れ上がったのは内緒。 (´・ω・`)

 感想欄でご指摘があった箇所を修正しましたが物語に差異はありません。一部順序を変更しました。
----荒川功樹 視点----

 カチャカチャとナイフが食器を擦る音が部屋の中に響き渡る。俺が無償放送権を提示した後、中佐とユーリさんは『上と相談してきます』と言って慌てて部屋から出て行った。恐らくは予想していなかった内容の為に与えられている権限では対処できなかったのだろう。二人が出て行っても腹が膨れなかった俺はそのまま食事を続けていたのだが、アントンさんがずっと無言なのでなんとも息苦しい。なんか怒っているのか? そんな予想をしながら話しかける。

「美味しいですねアントンさん。出来れば水じゃなくて冷えた緑茶が欲しいところですけど」

「……俺には功樹君が羨ましいよ。この状況でなんでそんなにリラックスできるんだい? それにあんまり無茶するのは止めてくれ、キミにもしもの事があったら美紀さんになんて言えば良いのか」

 まださっきの毒見なしで飯を食った事を怒っているのか。それについては説明した筈なんだがどんだけ心配性なんだよ。それよりアントンさんには聞きたい事があるんだ。俺は彼に見えるように個人端末を指でトントンと示しながらチャット画面を開いて登録済みのアドレスから招待を送る。

『盗聴の可能性があるのでこちらで失礼します。プログラム自体もノアの技術部が作ったので安全ですが、カメラの心配もあるので画面にはスクランブルをかけて下さい』

『一体どうしたんだい?』

『さっきのメイドの格好をした女性は味方ですか?』

 意図に気付いたアントンさんがチャットルームに入った事を確認した俺はずっと気になっていた事を質問する。返答によっては中佐が帰ってきた後の交渉に大きな変更を加える事になるが、それはしょうがない事だろう。アントンさんは俺が書いた文章を見た途端ほんの僅かだが眉を顰めて簡潔に答えてくる。

『あれに気付いたのか。その通りだよ、コード名はサーシャだ』

『もう一つ。文字を書いたナイフを運んできたボーイは?』

『分からない。むしろそんな事があったのを今知ったよ』

 ふむ、廊下ですれ違った美人のメイドさんは味方の工作員で良いのか。となればあのボーイも恐らく『チェルノボグ』の一員で間違いないだろうが、なぜ俺に亡命の助力を求めてきたのが疑問になる。アントンさんにも何か彼等が亡命を希望する心あたりが無いか聞いてみるか。

『ボーイの彼は18名の亡命を希望してきました。サーシャさんも恐らくはその為に接触してきたのだと思いますがなにか心あたりはありますか? どんな些細な事でも構いません』

『チェルノボグを抜けてから3年になる俺には何も思い浮かばないよ。美紀さんやクレアのような諜報部なら何か掴んでいる可能性もあると思うが』

 やはり母さん関係じゃないと情報を掴んでいないか。問い合わせをしてもいいが……、間違いなく勝手にロシアまで来た事に対してブチ切れてる筈だ。それにクレアさんにしても仕事をほっぽりだした俺に対して怒り狂ってると思う。あの眼鏡が良く似合う綺麗な顔で無表情のまま『死にますか?』なんて言われたら漏らす自信がある。
 怖い魔女達の怒りを受けたくないから出来れば頼りたくない。でも頼らなければ先に進めないというジレンマが内心で渦巻くが、ここでウジウジしていると脳筋マッチョにまで『男が悩むな!! 行動しろ!!』とブチ切れられる事になるな。

「仕方がありません。母さんに直接連絡をして情報の提供を受けましょう」

 俺が苦渋の決断をすると意外そうな顔をしているアントンさんと目が合った。そんな表情をするのも中佐達が出て行ってから端末の左上に表示されている接続状況を示すアイコンが消えたからだろう。
 俺達を孤立させて余計な情報を仕入れさせない為なのかそれとも単純にこれが外交的には普通の事なのか分からないがどちらにせよ無駄な事だ。

「功樹君、その……気付いて無いかもしれないが先程から外部と連絡が取れないんだ。電子妨害を受けている可能性がある」

「なんら問題ありません、僕の端末はルイン社製の次世代型量子端末です。しかも母さんの魔改造を受けたものですよ? この程度の電子妨害なんて論外です───、だよね母さん?」

 アントンさんの疑問に答えながら端末に付いているカメラに向かって話しかける。予想が正しければ母さんは俺がロシアに向かったという話をクレアさんから聞いた段階でノア島から帰還している筈だ。その後は音声通信用のマイクから外部の音を拾ってこちらの様子を逐一掴んでいると思う。

『いつから気付いてたの? それと盗聴装置についてはこの端末から電子対抗措置をしたから心配ないわよ』

 よっしゃ!! やっぱりこっちの様子を窺っていたか。母さんが返答してきたのと同時に端末のコントロールが向こう側に奪われて画面上にノアの大魔王・荒川美紀の姿が表示された。そして、その表情も予想通りに般若の形相をしているがコレは当たってほしくなかった。

「過保護な母さんがロシアに着いても連絡をしてこなかったからだよ。ところで……クレアさんは?」

『1時間前にノア所有の大型輸送機で貴方を迎えに行ったわ。空中給油機も連れて行ったから連絡があるまで領空外で待機しているそうよ。───、引きつった顔をしてるけど逃げない方が身のためよ? 彼女、猛獣捕獲用の麻酔銃を持ち出してるわ』

 俺の表情の変化を汲み取った母さんが忠告をしてくるがそんな事を言うくらいならクレアさんを止めてくれよ。マッチョじゃあるまいし麻酔弾なんて撃たれたら死ぬぞ!? 最悪、アントンさんに盾になって貰おう。とりあえず今は予定通りにロシアの内部状況について何か掴んでないか質問するか。

「さすがに逃げないよ。それよりもさ、話を聞いてたと思うけどそっちでロシア国内の状況について何か掴んでない?」

『残念ながら何も掴んでない。最近は大人しかったのもあるけど諜報部は合衆国とEU連合の方に注目してたのよ』

 マジかよ、完全にアテが外れたぞ。だが間違いなく何かは起きているんだ、それのヒントさえ分かればどうにかなりそうなもんなんだが……。

『それで、どうするの?』

「うん?」

『お母さんは、功樹が何を考えてロシアまで行ってそんな交渉をしているのか理解できない。でも、貴方の事だから何かしらの理由があるんでしょう? それを教えてくれればお母さんが交渉を代わる事もできるわ』

 悪いけどそんな大層な理由は無いぞ? 単にアントンさんに頼られて嬉しかったのとロシア国内で上手いことアニメ関連のグッズを売りさばく販路を作ろうとしただけだ。突然面倒な事態に巻き込まれたが、それでもこの交渉を始めたのは俺なんだから最後まで責任もつ必要がある。

「必要ない。それに僕にもチョットした目的があるから今回は最後まで自分で責任をもつ。母さんには亡命希望者の受け入れと最悪の場合を想定した脱出手段の手配を頼みたいかな」

『はぁ……、なんだか最近急に大人になったわね。分かったわ、その辺の手続きは任せて頂戴。でも貴方の事を心配している沢山の人がいる事は忘れないでね? 無理だと思った時に他人を頼るのは恥ずかしい事じゃないわ』

「分かった。覚えとく」

 返事をするのと同時に少しだけ寂しそうな顔した母さんの姿が消えて端末のコントロールが戻ってくる。さすがに親離れをしてもいい時期だろ? そんな顔するなよ。そのかわりに帰ったらなにか親孝行的な事をするから今回は許してくれ。内心でそんな事を考えながら、俺はもう一度今までの状況を頭の中で整理する事にした───。




----ヤコフ・タルコフスキー 視点----


 食事を取っているアラカワを部屋に残したまま一階下のスイートに引き返した私は、テーブルを挟んで向かい側に座るユーリ・パムフィロワ『対外諜報局・長官』の顔色を窺う。長官は先程からずっと無言で青い顔しながら繰り返しボトルの水を口に運んでいる。さすがにこれ以上黙っている訳にもいかずに話しかける。

「長官、どういたしましょうか?」

 声をかけるのと同時に長官は水を飲むの止めてスーツの内ポケットからシガーケースを取り出すとこちらに差し出してくる。礼を言ってから高級な葉巻を一本抜き取り、火をつけると長官はやっと重苦しい口を開いた。

「……化け物だな」

 『誰が』なんて事は聞かなくても理解できる、今頃は上の部屋で用意した食事を楽しんでいるアラカワ・コウキの事だ。技術学院に入学したばかりの子供は我国における最高レベルの機密を知っているどころか我々が存在すら知らなかったダイヤモンド鉱山の正確な位置まで知っていた。
 もはや、私の中には恐怖という感情しか浮かんでこないが長官も一緒なのだろうか?

「ポロニウムについて何故知られたか理由がわかるか?」

「わかりません、あの資料は漏洩防止の為に紙媒体で保存してあります。地下金庫に侵入しない限りはアラカワが知る方法は無い筈です」

「だが、知っていた……」

 『誰も知らない筈の事を知っている』、その事が私と長官の動きを封じて不覚にもあんな年端もいかない子供に手玉に取られている。楽観視していた訳ではないがそれでも心のどこかに『所詮は子供だ』という考えがあった事は否定できない。それが今更になって猛烈な後悔と共に襲ってくる。

「恐らく、アラカワは例の件を掴んでいるのではないか?」

「まさか、アレを知ったのは我々ですら今日の朝ですよ!? それをアラカワが知っている筈……」

 そこまで言って私の言葉は尻すぼみになってしまった。あの化け物ならそれを知っていても平然と『知らないふり』をして交渉を仕掛けてくるだろう。冷静になって考えると最初から異常だったのだ、アントン少尉補の元上官の為にダイヤモンド鉱山の場所やノアの放送権を無償で提供してくるなどあまりにもこちらに有利すぎる。
 彼は最初から全てを知っていて我々が正直に話す事を待っていたのではないか? 最新の情報ではアラカワ・コウキの精神状態は倫理教育により著しく改善されたと報告されている。

「それならば、先程の交渉は『知っている事を教えれば危害を加えない』という彼なりの『警告』でしょうか?」

「だろうな、前にアリス・アルフォードという少女が誘拐された時もアラカワは独自のネットワークから彼女の秘密を僅かながら掴んでいた。それは救出会議の時に国連の中佐が分析していたのだが、恐らくその僅かな情報から我々が関わっていた証拠を見つけ出したのだ」

「それが事実なら大変な事になりますよ? 彼はアリス・アルフォードの為に単独でテログループを壊滅させようとした人間です。いくら倫理感が改善されたといえ、今はノアという強大な軍事力すら手に入れています。皆殺しにされますよ……」

 それに敵はアラカワだけではない、もし例の件が明るみにでれば世界中からロシア連邦は批判される事になる。そうなれば大国としての発言力を失うばかりかアラカワ・ファミリーが圧力をかければ国連から除名される危険性すらあるのだ。いやそれどころか今は大人しくしている連邦構成国も息を吹き返して重大な混乱が発生するだろう。そしてその混乱が行き着く先は───。

「第三次世界大戦……」

「キミも私と同じ考えに到ったようだな。どうだ? 私が冷や汗を流しながら水を飲んでいた理由が理解できただろう」

「ですが、本当にそんな事が起きるでしょうか? たった一人の少女の為に人類存亡の危機を引き起こすなんて」

「なにも最悪の事態を引き起こす必要はないのだ、我国だけを悪者にすれば良いのだよ。アリス・アルフォードの情報を公開した後でアラカワが会見を開いてこう言えば良い『それでも僕は彼女を愛している』とな。それだけでアラカワは弱き少女を守る騎士になり、我々は悪の帝国となる。最近のあまりにも目立ちすぎるメディア掌握はそれを見越した事だったのではないか?」

 確かにそう考れば全て辻褄が合う。ノアが放送しているCMは社会現象を巻き起こすようなインパクトがあるのだ。そのノアが我国を批判するテレビ番組を作りアラカワの言い分を擁護する内容を放送すれば、あっという間に世界中はノアの味方になる事だろう。
 あぁ……、やはりあの子供は化け物だ。一体どこまでの未来を予想して、どれだけ極小の可能性を考えて行動しているのだろうか。

「良いかね、我々はアラカワ・コウキに『アリス計画』について知っている情報を全て提供する。そしてなんとしても例のカルト宗教『新世界』とは一切関わりが無いことを証明しなければならん。キミは大至急本部に戻って該当する資料をかき集めてくるんだ」

「直ぐに取り掛かります!」

 長官に敬礼してから部屋を飛び出してエレベーターに向かう。アラカワが待つ事に痺れを切らして行動を起こす前に戻ってこなければならない。そういえば彼は非常に動物が好きだったと記憶している。確か日本語だとロシアデスマンという我国が誇る希少動物、『ヴィーフホリィ』の飼育情報を纏めた映像を取り寄せよう。それさえ見せていれば2、3時間はどうにかなると思う。
 そう考えて腰につけている大型の個人端末で部下に映像を取り行くように指示を出しながら、中々上がってこないエレベーターを早く呼び寄せたいが為にボタンを繰り返し押し込んだ───。
 さてさて、盛り上がってきたところですがでキリが良いので今回は終了です。次回も頑張りますのでご期待下さい!!
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