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異世界に転生したんだけど俺、天才って勘違いされてない? <旧題  転生したんだけど俺なんか勘違いされてない?> 作者:にゅん

学院編 1年度 夏期休暇~新世界編~

55/77

放送前日とスキンヘッドさんのお願い

 最近、主人公ツエーになってません? という事だったので二部構成で基本に戻りたいと思います!!

 それと、やっとこさリアルデスマーチが終了しそうです。これが終わったら俺、小説書いてゲームするんだ……。
---荒川功樹 視点----

 箱根基地の地下3階に設けられた『特殊メディアエンターテイメント部門』の専用スペースにある部長専用の執務机に座りながら俺は頭を抱えてた。
 ふと目線を上げると、パーテーションで仕切られている各担当ごとに打ち合わせをしたりとそれぞれが忙しそうに動き回っている。

「なんでこうなった……」

 ぼそっと独り言を呟きながら冷めたコーヒーを飲んでいると、ここでも俺の専属の副官として任命されたクレアさんが大量の電子メモリーを俺の前に運んでくる。

「部長、ノア島から届いた明日から放送予定のアニメーションの最終確認と同時に放送するCMの確認をお願いします。一応ですが現在ノア島に行っている副部長の信吾君とスキンヘッドの方にも同じものを渡してあります」

 ニコニコしながら報告してくるクレアさんにお礼を言うが、むしろアンタこんな所で俺の仕事を手伝って大丈夫なのかよ!? クレアさんはノアのPMC部門に登録されている職員だろ? 畑違いもいいところじゃないか。
 まぁ、居なかったらただでさえ忙しいのに更に各部署との調整が入ってきて俺が死ぬけどな。スキンヘッドさんと描いた絵が売れたのを確認して『イケる』と判断した俺が提出した文化創造案を即決で採用してくれた母さんは直ぐに必要な人員と機材を率いてノア島に直行、地球時間で換算するとたった2日で化粧品のCMを作ってあっという間に衛星ネットで放送を開始した。 

 放映権を取得する関係で実際の放送は19時からとなったのが、全5種類のCMを権利を取得した各番組の合間に繰り返し放送した結果……翌日になって世界中の化粧品売り場からノア製品が消えた。
 それに気を良くしたのか、母さんはノア島に特メ専用の施設を建設して映像の撮影と制作を急ピッチで進め、最初にCMを放送してからなんと5日で衛星ネット放送452番───『通称ノアチャンネル』でのアニメ放送が明日から始まる事になった。もうなんかクレアさんを含めてノアの全職員が優秀すぎて怖い。

「あの絵を描いた日からまだ1週間ですけど、よく間に合いましたね?」

「はい、今回は新部署の設立という事だったのでノアの全職員が持てる力をもってバックアップしたので実現しました。ですので毎回ここまでのスピードで制作はできないので念頭にいれておいてください。それと明日放送の『魔法少女アリス』ですが予定通りにアリスちゃんが主人公役、相川さんがライバル役の声を担当しています。ちなみにお2人はまだ最終話の収録が終わっていないので、その後の観光も含めてこちらに帰ってくるのは2日後を予定しています」

「そうですか」

 ふむ、まぁさすがに1週間で新事業を始めるのは無理があったか、これからは最低でも2週間は制作期間として予定しておこう。それよりもアリス達は結構ノリノリでアニメの制作を手伝ってくれているがバイト代は出てるのか? 母さんの事だからその辺は抜かりは無いと思うが後から確認のメールを入れておこう。えっと後はマッチョ達に頼んであるVR装置を使ったゲームと映像の方だがアレはどうなっているんだ。

「クレアさん、父さん達に頼んであるVRの方ですが何か進展はありますか?」

「はい、まず最初に部長が想定していた成人向けのコンテンツですが男性用・女性用共に別の部署が開発を引き継ぎますのでご了承下さい。これは美紀さんからの通達事項です」

「あー、それは想定内です。むしろ僕に内容指導を頼まれても困りますよ。それよりホラーゲームの方はどうですか? 自信があったのですが……」

「…………βテストに参加していたノア所属のPMC隊員46名の内15名が一過性の意識消失発作を起こしました。内3名が軽度の暗所恐怖症を発症しています」

「意識障害? なにか技術的な問題点でもありましたか。β用の装置は母さんが安全基準に気をつけて採用した筈ですが」

「失礼しました……私の言い方が悪かったようですね。46名の内15名があまりの恐怖に失神しました。内3名が夜間にトイレに行くのを怖がっています」

 はぁ!? 元国連軍の屈強な特殊部隊員がビビッて気絶って冗談だろ。確かにテレビ画面と違ってVRは自分がその場にいる感覚を脳に直接送り込む装置だが……、それにしたって夜に便所にいけなくなるって子供かよ。β用に設定したフィールドは山奥の超大型廃病院からの脱出だがそれなりの謎解き要素もあって楽しめる筈なのになんで気絶したんだよ。せっかく俺が1晩寝ずに考えた仕掛けとか驚きポイントとかが無駄になったのか。

「じゃゲームクリア……、謎を解いて脱出できた人はでなかったんですか?」

「脱出者は私だけです。失礼ながらハッキリ言いますが、アレはないですよ! 序盤はまだ良いですが、中盤の西病棟で遭遇する足が折れた看護師は卑怯です!! 無言のまま高速で車椅子を押しながら迫ってくるあのポイントでほぼ全員が脱落しました。それに鍵を取りに行く地下室では廊下の照明が点滅するのと同時に、段々と医者の幽霊が近づいて来るランダムイベントを止めて下さい! それと最後のカルテを正しい位置に戻すイベントですがあんなの分かるわけないじゃないですか、一体何度やり直したことか」

「いや、なんだかんだ言いながら最後までプレイしたって事は楽しんでるじゃないですか。分かりました、難易度の変更と描写の軽減に踏まえて救済措置の実装を検討しておきます」

 クレアさんが随分と楽しんでくれてるようで何よりだな。しかし、やっぱりと言うべきなのかあの難易度はゲームを経験した事のないこの世界の人達には難しすぎたようだな。リアルさを追求したかったからセーブポイントとかは特に設けなかったけど低難易度の方ではセーブと敵の出現位置を調整しておくか。他に確認しないといけないのは────。

「ってうるさいな。なんだよ?」

 思わず声をだしながら先程から着信音を響かせる個人端末を操作してメール画面を開く。画面には『スキンヘッドさん』と表示されていたので、ノア島から帰ってきた報告かと思いながらメールを開くとただ一言だけ『助けて欲しい』と書かれていた。全く以て意味が分からんが、いつも冷静沈着……ではないがそれなりに落ち着いてマッチョよりは頼りがいのあるスキンヘッドさんが俺に助けを求めるなんて普通の事態ではない。
 一体なにがあった? 内心でそう考えながらも取り敢えず返信を送ってからクレアさんに声を掛ける。

「クレアさん、スキンヘッドさんが帰ってきたようなので新しいアニメに使う原画の打ち合わせをしてきます。なにかあれば端末の方に連絡を下さい」

「わかりました」

 わざわざ俺に向かって礼してから下がっていくクレアさんの後ろ姿を眺めながら、俺はスキンヘッドさんと待ち合わせをしている倉庫に向かう為に半日ぶりに席を立った───。




----スキンヘッド視点-----

『20分後に倉庫室H-52に来てください』

 俺はそう表示されたままの端末を見つめながら功樹君がこの部屋に来るのをじっと待っていた。『彼ならきっとどうにかしてくれる』という気持ちと『巻き込むべきではない』という相反する二つの気持ちが心のなかに渦巻いている。だが今の無力な俺には彼を頼るしか方法はない……。薄暗い倉庫の中で爪を咬みながらそう考えていると、小走りで部屋に近づいて来る足音が聞こえるのと同時に功樹君が部屋に入ってきた。

「お待たせしました。一体どうしたんですか?」

「あ、あぁ……。いやその」

 功樹君は機嫌が良い時の美紀さんに良く似た優しい笑顔をしながら問いかけてくる。その表情に安心感と共に自分の不甲斐なさを感じた俺は思わず俯きながら言葉を濁らせてしまった。そんな俺を気遣うように功樹君は再度優しい声で問いかけてくる。

「そんな様子のスキンヘッドさんは珍しいですね。どうしたんですか?」

「……力を貸して欲しいんだ」

「良いですよ、僕に出来る事ならいくらでも力になります。詳しく教えてください」

「祖国にいる俺の元上官が捕まったんだ。どうにか昔の仲間に連絡を取って詳しい話を聞いたんだが、どうやら機密情報を他国に売り渡したという容疑らしい。だがあの人は絶対にそんな事はしない!! 冤罪に違いないか、もしくは──」

「もしくは?」

「誰かに嵌められたとしか考えられない」

 俺が喋り終わると功樹君は首を傾げながら何かを考えているようだ。目を細めながら思案する姿はいつも一緒にいるコン君がよくする仕草だがどうやらコン君は自分の飼い主の癖が移ったようだな。そんな取り留めの無い事を考えながら内心の不安を消そうとしていると功樹君が口を開いた。

「スキンヘッドさんの前の仕事はロシア外務省所属の秘密工作員だと判断していますが間違いはありますか?」

「間違いない。俺は対外工作専門の戦闘員だった」

「もう一つ、母さんでもなく父さんでもなく僕に助けを求めた理由は、あまりこの事を大きくしたくないという事で良いですか?」

「あぁ、美紀さんや修一さんなら必ず助けてくれると思うが、かなり政治的な圧力を掛けて大事になるか大規模な救出作戦になってしまう筈だ。もしそうなったら他国に潜んでいる他の工作員にも迷惑が掛かるかもしれない。横の繋がりが希薄な仕事だがそれでも只でさえ危険な状況なのにこの事を知らせてくれた元の仲間達に必要以上の迷惑は掛けたくないんだ」

 俺の考えが自分勝手なのは重々承知しているがそれでも俺はあの人を助け出したい。祈るような気持ちで功樹君を見つめていると彼は再び首を傾げながら暫く考えている様子だったが、急に何かを思いついたらしく自分の腕につけている端末の操作を始めた。猛烈な速さで画面を操作していたがどうやら終わったらしくニヤリと笑いながら顔を上げた。

「スキンヘッドさん、2時間後に学院都市にある空港からロシアに向かいます。明日の朝には帰ってくるので着替えは必要ありませんから直ぐに空港に向かいましょう」

 いやいや!! ちょっと待ってくれ! そんな『ちょっとそこまで買い物に行きましょう』とでもいうような雰囲気で言われても突然すぎてついていけない。それよりも突然ロシアにいった所で何ができるんだ? それに功樹君を身の安全も保障できない所に連れて行くわけにもいかない。
 俺はただ、功樹君がアリスちゃんの身元を知った時に使った情報網や付随する組織の力を借りたいだけで何も彼自身が動く必要はないのだ。俺は慌てながらその事を功樹君に伝えるが、彼は修一さんが戦場や訓練で指示を出す時にするような安心できる笑顔を見せながら説明してくる。

「スキンヘッドさんがいう情報網については何か勘違いがあるようですが大丈夫です。前にアリスが攫われた時にクレアさんが言っていました。僕に対して……、正確には欧州の悲劇に効き目のある薬品を開発した研究者である僕に対して他国は特別扱いをする『義務』があります。ですのでロシアに入国してもいきなり身柄を拘束されるようにはならないと思いますし、その『護衛』であるスキンヘッドさんも拘束されるような事にはならない筈です」

「しかし、だからと言って……」

「まぁ、あまり使いたくない特権ですが今回ばかりは有効に使いましょう。それに人をモノ扱いするようで言い難いですが、交換条件として上官の人と引き換えにロシア国内におけるノアチャンネルの無料放送権を提示します」

「なにを言っているんだ!? アレは莫大な利益が出るんだよ? それを無料で提供するなんて」

 この前から放送している化粧品CMの成果を功樹君が知らないはずも無いだろうに、彼はそれを無料で提供する事を交換条件にするつもりでいるようだ。一体彼は何を考えているんだ? 確かに特殊メディア部門の責任者は功樹君だが、このレベルの内容を美紀さんに確認を取らないで決めていい筈はない。

「相手もそう考えてくれると良いんですがね。スキンヘッドさん、CMは『副次効果』に過ぎないんですよ。あくまで本命は放送予定のアニメとそれに関わる展開商品なんです。向こうがそれに気付く時にはもう手遅れですけどね」

「功樹君、それは一体どういう意味だい?」

「教えても良いですけど、今はまだこの世界の誰にも理解できませんよ。それよりもです!! 僕はなにがなんでも明日の夕方までにはここに帰ってきて、『魔法少女アリス』を観ないといけないので早く行きましょう」

 功樹君は俺を急かしながら倉庫の入り口で手招きしているが、今彼が言った『今はまだこの世界の誰にも理解できない』とはどういった意味なんだろうか? まるで自分がこの世界の人間では無いような口ぶりだったが……気のせいか。
 いや、そんな事よりも俺とあの人の事を助けてくれるのなら相応の礼儀を示さなければならないな。そう考え、俺は功樹君の目を見据えながら口を開いた。

「アントンだよ」

「はい?」

「前に俺の名前を聞いただろ? 俺の本名はアントン・ボルトキエヴィッチ。元外務省諜報局対外特殊工作部隊『チェルノボグ』所属だった」

 チェルノボグ……『死神』の名前を聞いてどんな反応をされるかと内心で不安だったが、功樹君は『アントンさんですね』といつもと変わらない表情をしてくれた。よかった、きっと彼とならこの先も上手くやっていける。俺はいくらかの安堵を感じながら功樹君と一緒に空港へと向かう事にした───。
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