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異世界に転生したんだけど俺、天才って勘違いされてない? <旧題  転生したんだけど俺なんか勘違いされてない?> 作者:にゅん

学院編 1年度 夏期休暇~新世界編~

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時代の分岐点

 3章のプロローグ兼、世界情勢の説明回です。ちょっとぐだっとしていますが、お許しください。
----荒川功樹 視点----


 異世界から帰ってきて3日程……、暇を持て余しながら部屋で撮り貯めたドキュメンタリーを見ていると、隣で丸くなっていたコンがのっそりと顔を上げた。

「どうした?」

 声を掛けながらコンが見つめている部屋の扉の方を眺めると、インターホンの音と共に信吾の声が聞こえてきた。

「功樹、居る?」

「いるよー、勝手に入ってきてくれ」

 俺が返事をすると信吾は扉の外でガサゴソと何かをやっていたが、やがて足で扉を開けて部屋の中に入ってきた。信吾の両手はPXで買ってきたお菓子が大量に入っている袋で塞がれている。

「そのお菓子どうしたの? というか今日は相川さんと一緒じゃないのか」

「恵美ちゃんはアリスちゃんと一緒に宇宙開発団の研究施設に行ってるよ。なんか論文がなんとかって言ってた」

 座りながら相川さんと一緒じゃない理由を説明してくる信吾は、早速お菓子欲しさに寄ってきたコンにチョコレートの袋を破いて渡している。なるほどな、信吾のヤツも1人だと暇すぎて俺の所に来たのか。

「つまり、信吾は大好きな相川さんに置いていかれたから僕の所に来たって訳だね。むしろそんなに暇なら異世界にしばらく行ってくればいいじゃん」

「フヒ! そ、そんな事ないよ。というか功樹だってアリスちゃんがいないから部屋に引き篭もってるじゃん。それにボクは異世界なんか行きたくないよ、ネットが繋がらないなんて苦痛すぎて死ぬ」

 そんなくだらない理由で死ぬなよ信吾……、目の前でお菓子をモリモリと食べている親友を眺めながら内心で溜息を吐く。しかし、改めて今の現状を考えると本当に暇だ。
 転生前の記憶では暇つぶしのアイテムとして、家庭用ゲーム機やアニメ、漫画や映画等のひたすら時間を消費できるモノが沢山あった筈だ。自分の事に関する記憶がすっぽりと抜けて落ちている俺も、恐らくは暇な時間は友達とこれらのアイテムを使って遊んでいたのだと思う。

「でも、この世界には無いんだよな」

「フヒ? なんか言った?」

「いや、なんでもない」

 俺の独り言に信吾が反応するが適当に誤魔化す……。目の前の親友に『信吾、僕は一回死んで転生してるんだけど』なんて言ったら間違いなく頭がおかしいヤツだと思われるだろう。そもそもこの世界で『サブカルチャー』や『メディア文化』と呼ばれる『オタク系』のアレは全く広まっていない、むしろ存在していない。
 それを知った切っ掛けはまだ俺が小さかった頃にテレビで教育番組以外のアニメが殆ど流れていない事に気付いた事だ。その時には既にテレビ放送は衛星ネット放送に切り替えられていたので、各家庭が自分の観たい放送を選んで受信するというシステムだった。
 俺は母さんの教育方針かなんかでアニメを受信していないと思っていたのだが、ある日テーブルの上に置いてあるリモコンを手に取り一体何件の番組を登録しているのか調べてみた。その結果分かったのは600近くあるネット放送の内、10数件のアダルト番組以外『全て』登録してあるという驚愕の事実だった。

 なぜそんな膨大な数の番組を登録していたのかは疑問だがそれ以上に俺には気になる事があった。600近くあるネット放送なのに音楽、映画、ドラマのカテゴリに登録されている番組が物凄く少なかったのだ。そしてその僅かな放送も24時間ではなく深夜2時以降から翌朝の7時まで配信を停止していた。 この事実を知った時、さすがの俺もこの世界の異常さに気付いて母さんに自分が知っている限りの著名な作曲家、演奏家、映画監督、漫画家の名前をだして知っているか確認を取った。
 母さんは俺の必死な形相にかなり驚いていたようだが───、やがて困った顔をしながらこう言ったのだ。

『ごめんね。その人達のことは知らないわ、有名な人なの?』

 母さんは教科書に載っているような人物を知らないと言った。常人の百倍は記憶力が良い筈の母さんが知らないとなればその人物は恐らく存在していなかったのだろう。ではなぜそんな事になったのか……、俺は自分なりに考えて1つの仮説を組み立ててみた。

 重要なピースは3つある。まず1つ目、この世界では1935年に始まった第二次世界大戦だ……史実なら泥沼化して勝利者がよくわからなくなる筈の戦争が1年半で終結した事が大きいと思う。
 本当なら戦後に映画やミュージカルなどの文化が猛烈な速度で発達していくのだが、幸運にも短期間で悲惨な戦争を回避した当時の人々はそれらに頼る事なく自分達の力で『明日への希望』を見れるようになり文化が発達しなかった。

 2つ目は欧州の悲劇が原因だろう、世界人口の約半分を死に至らしめたこの病気のせいで後に大成する筈だった数多くの人々やその先祖を永遠に葬り去った。実際に欧州の悲劇に前後してベストセラー作家になるはずの有名なある人は、志半ばで命を落としている事が確認できた。そして3つ目、これが一番大きな理由だと思う……。
 科学技術やそれに付随する技術の発展スピードが異常なほど速かったのだ。撮影技術を例にすると画期的な手法や機材が開発されてもたった1年やそこら、早ければ半年も経たずに新しい技術が開発されるとなればわざわざ機材を入れ替えてまで映画を撮影するだろうか? 普通はしない筈だ。そして猛烈な速度で技術が入れ替わる内によほどの物好き以外はメディア文化に関わらなくなっていった。

 だが、もしかして『今』ならメディア文化を急速に発達できるのではないだろうか? 理由は2つ───、1つ目は2091年に流星の如く突然登場して技術革新を起こし続けている稀代の天才であり俺の母親、『荒川美紀』が存在しているからだ。母さんのおかげで地球の技術は100年近く吹っ飛んで進んだ。いくら母さんでも今後は緩やかにしか技術を進めることは出来ない、…………筈だと思う。
 それなら新しいゲーム機や特殊撮影技術を駆使した映像作品、アニメを作り上げても一定の期間はある程度のクオリティーを持った作品を楽しめると思う。そして今ならできると判断した2つ目の理由は俺の存在だ。
 転生前の日本は世界に誇るサブカルチャー文化を創り上げていたのだ! その世界から転生したきた俺と恐らくそういうのが好きそうな信吾と、天才技術屋の母さんが居ればこの世界をサブカルチャー文化で埋めつくす事ぐらい簡単に出来るはずだ。

「なぁ、信吾。オペラとかって観た事ある?」

「ん? あー、あるけどあんまり面白くなかったかな」

「じゃあさ、オペラのセリフを日本語にして音楽も難しいクラシックじゃなくて、もっと明るい感じだったら観る?」

「えっと、演劇とは違うんだよね? 功樹が言っている内容とボクの想像が合ってるなら多分観ると思う」

 なるほど、ミュージカル的なヤツは興味を示してくれるのか。ふむ……、ってことはオペラみたいな喜歌劇じゃなくて少女歌劇とかの方がウケが良いのか? まぁこの辺の匙加減は後で他の人間にも聞いてみないといけないかな。

「この前さ、ヨアヒムさんの話をしたじゃん。その話を映像とか端末をつかって自分でも追体験できるとしたらやってみたい?」

「フヒ! それはやってみたい!」

 ほうほう、RPGっていうかVR技術を応用した完全なロールプレイングでも楽しんでくれそうだな。むしろ今の技術レベルだとVR機器を小型化して使用したほうが効率がいい気がするな、アレを上手く使えばファンタジーやアクションも楽しめるし、なにより表現が難しい『心霊的なホラーゲーム』も楽しめる。
 制作時間とかはノア島で専用の部署を設けて研究すれば大幅に時間が短縮できるし、技術も母さん率いる技術者集団がいるからどうにかなる。機器の安全性や精神に与える影響の加減は多少の外部刺激ではビクともしない鉄の心を持っているマッチョが担当でいいだろう。

「よし、じゃ最後の質問ね。デフォルメされた可愛い女の子が魔法とか使って悪の組織をやっつけたり、格好いい軍人達がテロを未然に防ぐ為に活躍するような『アニメ』があったらみる?」

「うん! 絶対観ると思う。なんかいいよねそういうのは夢があるよ」

 そうなんだよ信吾、夢があるよな。自分では出来ない事や男なら一度くらい想像したことがある『ヒーロー』になる夢を叶えてくれるのがサブカルチャー文化なんだよ。確かに現状この世界は大きな戦争も不治の病もなくなってとても幸せな世界だと思う、だからこそ俺は非日常的な夢が見たい。 技術も人材も確保できる……、他に足りないのは資金くらいだ。そしてどうせ新しい事を始めるならスポンサーに文句を言われないように自分の持っている資金を使って最初の一歩を踏み出したい。
 現在の俺が自由に使える資金は約4億ドル、これは欧州の悲劇の治療薬を開発した時に報奨金として貰った5億ドルを元手に信吾と一緒に温泉を掘った時に使った残りだ。ここからアリスの誕生日プレゼント用に手配してあるアレの購入費用を引くと残りは1億5千万と少し、最初期の資金としては十分かもしれないが欲を言えばもう少しだけ欲しい。
 ここは一緒に歩んでくれる同士を集めるべきだ、そう考えて俺はすでに4袋目のチョコ菓子を食べている信吾に真剣な表情で質問する。

「信吾、報奨金の残りっていくらある?」

「たしか3億ドルとちょっとだった筈だよ。あっ、無駄使いじゃないよ! 功樹の研究棟に貰えたボクの新しい研究部屋に新型の機材を自費で導入したんだ。まだ世界でも3台しかなくてかなりお金が掛かった」

「そっか僕は4億あるけど、アリスの誕生日プレゼントに使うから実質使えるのは1億5千万ドルちょいだね」

「フ、フヒッ!? え……ちょっと待ってよ! 日本円で246億円近くするプレゼントって一体何!?」

「それは秘密。でもそっか、3億あるのか」

 ということは信吾から1億出してもらって俺の残りと合わせると約250億円、これだけあればノアの技術者を俺が個人的な用件で雇ってその他の諸経費も払える筈だ。やはり実行に移すのは今しかない! そしてきっと信吾なら俺の馬鹿みたいな夢に向かって一緒に歩んでくれる。そう思い俺は信吾に問いかける。

「信吾、僕と一緒に新しい時代───。新しい文化を創ってみないか?」

「へ……、え、功樹は何を言ってるの?」

 俺の言葉に信吾は口をぽかんと開けて固まっている。その完全に予想通りの行動に俺はニヤリと笑いながら、これから信吾にする長い説明に備えてテーブルの上に置いてある炭酸飲料の蓋を開けた───。






 2102年8月12日、世界中の政府や一部の科学者・軍人達から『史上最高の天才』『悪魔の子』『知識の化け物』と呼ばれる荒川功樹が、初めて自らの意思で明確な表舞台に上がる決心をする。
 後に巨大複合企業ノアの総売り上げの実に40パーセントを占める事になる『特殊メディアエンターテイメント部門』の創設者となる彼が『新時代の父』『メディアの麒麟児』そして……、「アニメ界の巨匠」と呼ばれるようになるとはまだこの時は誰も予想できていなかった。
短いですが、キリがいいので今回はここまでです。次回からは本格的にサブカルチャー創りが始まります。まさかのアノ人が大活躍するのでご期待ください。 
 12/16日 活動報告を更新しました、宜しければご覧下さい。
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