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異世界に転生したんだけど俺、天才って勘違いされてない? <旧題  転生したんだけど俺なんか勘違いされてない?> 作者:にゅん

学院編 1年度 夏期休暇~異世界編~

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未来の為に

 お待たせしました! それでは最新話をお楽しみくださいヾ(・ω・*)
----荒川修一 視点----

会議室に入り自分の席に座ると、机の上に『禁煙』と書かれているカードが置かれているのが目に留まった。どうやら美紀から指示が出たらしいが、そんなに功樹に近づくなと言われたのが嫌だったのか? 
まぁ、なんにせよ禁煙と書かれているからには煙草を吸うわけにも行かず、ポケットからニコチンを含んだガムを取り出して口に放り込んだ。

「隊長、私達の出番はありますかね?」

隣に座っているルイスが質問してくるがそんな事を俺が知っている訳がないだろ。

「知らん。ただ、いつでも出れるように直属隊には即応体勢を取らせておけ」

「了解」

 俺の指示にルイスは個人端末を取り出して部下へと指示を送り始めた。それを横目に見ながら手持ち無沙汰に辺りを見渡すと、スクリーンの横で美紀と功樹が相談をしているのが見えた。功樹が何かを問いかける度に、美紀は年齢を感じさせない綺麗な顔を歪ませて必死に端末を操作している。
 さらにその奥ではクレアとエリスが大量のディスプレイをセッティングしているのが見えた。恐らくアレはノア島にいる他の部署の担当者が映像通信で参加する為の物だろう。

「コン!」

 突然聞こえた鳴声に驚いて下を見ると、足元でコンが俺を見上げているの気付いた。

「どうした? あぁ、抱っこか?」

 俺の問いかけにコンはコクコクと頷いて小さな両手を伸ばしてくる。そんな姿に苦笑しながらコンを抱き寄せると、器用に手から抜け出して俺の頭の上に上りやがった。しかも振り落とされないようにしっかりと両手で体を固定している。
 もしかして、コンのヤツは自分の場所から功樹の姿が良く見えないから俺の所に来たのか? 気づかないほうが良い事に気付いてしまった俺は、多少悲しい気持ちになりながら2個目のニコチンガムを口に含んでから目を閉じて時間を潰す事にした。

「機材のセッティングの為、時間が過ぎてしまいましたが只今より『対グール戦略会議』を行います。皆様、ご着席願います」

 クレアの声が聞こえて目を開けると、既に会議室の照明が落とされて功樹が壇上の横で待機している。どうやら本格的に会議が始まるようだ、姿勢を正して椅子に座り直すか。

「それでは、皆様の端末に配布されているグールの資料を作成した荒川功樹特務少将から、今後の方針について説明があります」

 進行役のクレアから引き継いで壇上に上がってきた功樹は、すこし緊張した様子で出席者を見渡してから口を開いた。

「荒川功樹です。まず最初に10月5日の開戦から、今朝の帝都攻略戦まで皆さん本当にお疲れ様でした。重傷者、軽傷者は多数いますが未だ同盟軍に死亡者は出ていません。これは皆さんの錬度の高さもありますが、各種族が一致団結して行動に臨んだ結果だと思います。今後もより一層の団結を期待しています」

 一旦言葉を区切った功樹は机の上に置いてあるグラスから水を一口飲んでから話を続ける。

「僕達、多種族同盟軍はここまで快進撃を続けてきました。恐らくこのまま進軍を続ければ人族連合の主要国・衛星国を陥落させ、この大陸のほぼ半分を同盟の支配下に置けるでしょう。
 そんな中、昨夜僕達が帝都攻略作戦を開始した時刻に連合軍は対同盟軍の切り札として『生体兵器グール』の実戦投入を開始しました。
 現在、グールは僕の予想通り暴走を開始して『リクル教国』の辺境地域と『キャプス王国』の王都にて甚大な被害を出しています」

 功樹の言う通り、情報部が送ってきた映像を見る限り連合軍はグールを制御下に置いていると考えられない。アレではまるで肉を食らうイナゴの群れだ……。

「ノアは近代兵器を有しており、グールを駆逐しながら進撃する事も不可能ではありません。グールによって崩壊した都市は連合の駐屯軍を排除して占領するよりずっと容易く占領できるでしょう。なぜなら、動くモノは全て撃ち殺せば良いからです。
 そして後の歴史家達はこう言うでしょう『この大陸は人間達と引き換えにグールから守られた』と。ですが、それで本当に良いのでしょうか。助ける事が出来るかも知れない人や罪の無い人を犠牲にして自分達が繁栄する。まるで今の連合ではないですか? 
 僕は嫌です、連合と同じになるのは。この様な時だからこそ、同盟は連合とは違うという事を証明しましょう。皆でグールの脅威に立ち向かいましょう! 種族の枠を超え手を取り合いましょう! 
 僕は───、大規模避難作戦『オペレーション・フューチャー』の実施を提言します」

 壇上で功樹が言い終わった瞬間、端末からメールの着信を知らせる振動が伝わってきた。周りを見渡すと俺だけではなく会議室に居る全員がメールを着信したようだ、一部の人間は音を消していなかったのか着信音を響かせている。
 端末を操作してメールを開くと、『オペレーション・フューチャー』の作戦概要が書かれたファイルが添付されていたので目を通してみる。だが、最初の一行を読んだところで思わず声が出た。

「馬鹿な……、1000万人規模の避難計画だと!? それもたった24時間で行うなんて不可能だ!」

 隣に座っているルイスも驚いて固まっている。一体何を考えているんだ? 会議室の中がざわつく中、いち早く気を取り直したクレアが周囲を落ちつかせようと声を大きくした。

「静粛に! 静粛に願います。少将、お話の続きをお願いします」

クレアの声に再び全員が功樹に注目して壇上を見つめる。

「この作戦は大きく3段階に分けられています。まず1段階目、グールの被害が予測される地域から民間人を避難させます。衛星と諜報部からの情報では該当地域に居住している民間人は600万人から1000万人と予想されます。この民間人を同盟の総力を上げて安全地帯に移送。50パーセントの移送が終了し次第、作戦は2段階目に入ります。
 2段階目ではリクル教国、キャプス王国、ラーギレ公国の政府首脳陣を拘束します。拘束した首脳陣は停戦後に今回の戦争に参加していない国で裁判にかけますので決して殺さずに連れてきて下さい。
 この時点で予想では90パーセントの民間人が避難に成功している筈ですが、避難の成功に関わらず拘束部隊の帰還を確認後に第3段階へと移行します。
 3段階目では『虚数兵器』を使用してグール発生地域を含め、約2000キロを完全に消滅させます。作戦所要時間は24時間……、この24時間で世界を変えます。何か質問はありますか?」

 『質問はありますか?』なんてレベルじゃねぇぞ! 一体、何から聞けばいいんだ。自分の中で情報を整理する為にさらに資料を読み進める。だが、読めば読むほど作戦内容に不満が湧いてくる。
 避難民に使用する食料・医薬品・居住施設はノアの備蓄物資から放出、避難場所はメルカヴァ王国領内、治安維持はウルスナ帝国の常備軍。あまりにもふざけた内容だ、これではまるで───。

「コウキ様! これではまるで私達同盟が負けたような内容ではありませんか!?」

 内心で俺が思っていたことをカシス王女が代弁する。王女は怒りで肩を震わせながら功樹を睨みつけているが、当の本人は怒っている時の美紀を彷彿とさせる薄ら笑いを浮かべながら言い返した。

「不満ですか?」

「不満も何も、この内容を公表すれば民が暴動を起こします!」

「ならそれを抑えてください。カシス王女、貴女は王族ですよね? 自分に課せられた責務を完遂して下さい」

「……くっ!」

 何も言い返せなくなった王女は唇を噛み締めながら再び椅子に座った。不味いぞ、確かに功樹の言っている事は正しい事で同盟の理想そのものだ。息子がそんな風に成長してくれた事は父親としても嬉しい、こんな状況じゃなければ抱きしめて頭を撫でてやりたい所だ。
 だが、もう少し周りの人間の感情を考えろ。そんな高圧的な態度じゃ誰も付いてこないぞ。頭の良いお前なら分かるだろ? それに何故、美紀も功樹を止めないんだ。そんな美紀の様子に疑問を抱いていると今度はヴィクトリア陛下が口を開いた。

「だが、これでは余りにも酷いのじゃ。もう少し連合に妾たちを踏みにじった懲罰を与えられないのか?」

「懲罰ですか……、そんな事をして何になるんですか。それじゃ今までの繰り返しですよ? 確かに懲罰を与えれば戦後暫くは平和かもしれませんが、また必ず同じ事が起きます。その時に戦うのは僕達の子供や孫の世代です。 ヴィクトリアさんは自分の子供にそんな事をさせたいですか? 次の世代までこんな愚かな争いを受け継がせますか」

「いや、妾はそんなつもりで言った訳では」

「ヴィクトリアさん、さっき僕は『虚数兵器』を使うと言いましたがそのミサイルは特殊な発射装置を使用します。この世界でその発射装置を装備しているのは僕の『サタナキア』だけなんですよ」

「お主、それはつまり」

「もし連合に所属している民間人が避難に応じなかったり、タイムリミットが過ぎても避難が間に合わなかった場合は同盟を守る為に兵器を起動させます……。ヴィクトリアさん、貴女も覚悟を決めてください」

 功樹の言葉に俺は思わず両手で顔を覆った。そうか、だから美紀は功樹を止めなかったのか。美紀だけじゃない、この場にいる誰も息子を止める事は出来ない。コイツは1000万人を殺す覚悟でこの作戦に臨んでいる───。





----荒川功樹 視点----

「もし連合に所属している民間人が避難に応じなかったり、タイムリミットが過ぎても避難が間に合わなかった場合は同盟を守る為に兵器を起動させます……。ヴィクトリアさん、貴女も覚悟を決めてください」

 そう言うと、ヴィクトリアさんは固まって口をパクパクさせている。またいつものように俺が甘い事を言うと思ったんだろうな。1000万人を殺す事になるかもしれない恐怖で手の平がじっとりと湿っているし、さっきから足の震えも止まらない。
 だが、俺はもうこの戦争から目をそらさない。ふと、マッチョの頭の上に座っているコンを見つめるとしっかりと俺の事を見つめ返してくれた。大丈夫だコン……、お前に言われた通り俺はもう自分の責務と義務から逃げたりはしない。この作戦を手伝ってくれるのなら一番辛い役目は俺が引き受ける。

「分かった、妾達ウルスナ帝国はお主に協力する。もし配下の者達が暴走しようとしても抑えてみせる」

 ヴィクトリアさんは一言そう告げると、椅子に座って隣に控えているメイドさんに言葉を交わしている。ノアの最終決定権は母さんが握っているしマーベラスさん達はコンに対応を任せるとして、問題はカシス王女率いるメルカヴァ王国だな。
 どうにか協力してもらいたいが無理か? 困った俺は母さんに目で『助けて』と合図する。すると今まで無言だった母さんが立ち上がりカシス王女に話しかけた。

「カシス王女、たしかにこの内容では王国に一番負担が掛かっています。場所を提供するという事は治安や物流に直結しますので王女の心配はもっともです。ですがメリットを考えてください。
 もしこの作戦が成功すれば、王国は弱小国ながらこの大陸で強力な政治的発言力を持つ事が出来ます。どのような形であれ、大陸の危機を救ったわけですからね。
 そして私達ノアはこの危機に対し率先して場所を提供してくれ、共に歩んでくれた王国の英断を忘れるような事はありません」

 さすがにノアの3大魔女の筆頭だけあっておだて方が上手い。もちろん母さんの事だから有限実行だと思うが、この場でそんな発言をして大丈夫なのか? まぁ、大丈夫なようにするんだろうな母さんの事だし。

「それは、本当ですね?」

「はい。同盟の理念に反しない限り、ノアは常に王国の隣を歩きます」

「分かりました。メルカヴァ王国もノアに協力致します」

 母さんが俺の方に向かって頷くの確認してから、改めて前を向いて特務少将として『命令』を下す。

「作戦開始時刻は11時間後です、指示情報は常に更新されるので確認を怠らないようして下さい。それでは解散」

 立ち上がって部屋から退出していく人の後ろ姿を見ながら一息ついていると、マッチョがコンを頭に乗せたまま俺の方に向かって歩いてきた。そしてそのまま無言で俺の頭を撫でまわす。

「父さん……、痛い。というか何?」

「いや、お前も立派な男になったと思ってな。覚悟を決めたんだろ?」

 珍しく面と向かって褒めてくるマッチョの言葉に恥ずかしくなりながら無言で頷くと、コンが肩の上に飛んできていつものように抱きついた。そんな俺達の姿をみてニヤリと笑ったマッチョは、ポケットからガムを取り出して口にいれてから言った。

「俺達は装備の確認と出撃準備に入る。次に会うのは作戦終了後だと思うが、第2段階は任せておけ。絶対に成功させるからな」

「うん、お願い。父さん達がミスったらこの作戦は失敗する。なにがなんでも連れてきて」

 俺の言葉にマッチョは『おう』と一言だけ返して、コートさんを連れて会議室から出て行った。後はサタナキアにミサイルを積んで待機するだけだが、本体をノア島まで取りに行かないといけないな。点検と燃料の補給は終わっているのか母さんに聞いてみるか。

「母さん、僕のスーツは直ぐに出れるの? ノア島までミサイルを取り行こうと思うけど」

 クレアさんと話込んでいた母さんは俺の声に振り返ると、端末を操作して何かを確認してから答えてくる。

「えぇ、直ぐに出れるわよ。スラスターと操縦ユニットの積み込みも終わったからいつでも飛べるわ」

 積み込み? なんかバラして点検でもしたのか。いや、この作戦で俺のスーツは重要だからな念入りな点検もするか……。

「じゃあ、ノア島に行ってくる。向こうでミサイルを積んだらまた帰ってくるね」

 俺はそう母さんに言ってから、格納庫に向かって歩きだした。





 陸上戦艦アリスから飛び立って1時間20分、そろそろ日が沈もうとしている。そういえば、昨日の夜にリリンさん達と一緒に帝都を攻略してから一睡もしていなかったからノア島に着いたら少し仮眠するか……。
 そんな事を考えながら右手で眠たい目を擦っていると、肩に座っているコンがモニターを尻尾で示しながら激しく鳴き声を上げた。

「コン! コンコンコン」

「どうした? なんか見つけたのか」

 一旦スーツをホバリングさせて停止させコンが示した方向をメインカメラでズームする。人のような姿がモニターに映っているが、辺りが暗くなっている為に良く見えない。手元のパネルでカメラを暗視モードに切り替える。

「人みたいだな。その後ろにいるのは……、マズイ!! グールだ! もうこんな所にまで来ているのか」

拡大された映像には子供を抱えた男性が必死にグールから逃げている姿がはっきりと映っている。俺は直ぐに装備している武器の安全装置を解除してグールを狙撃しようとするが、それよりも早くコンが文字を浮かべる。

『ご主人様、あの人達こっちに向かってきますけど前方にもグールが居ます!』

 クソッ! これ以上こっちにきたら前方のグールに気付かれるぞ。どうすれば良い? 今すぐ撃つか? いや駄目だ、グールを貫通した弾があの人達に被害を出すかもしれん。なにか警告を出せれば一番良いんだが……。
 そうか! 咆哮装置があった。一度だけ不可抗力で使用したまま忘れていた装置を思い出した俺は、殴りつけるように装置のボタンを押してライフルを空に向かって撃ちまくる。

「グギャアアヤァァァ!」

 完全に音の狂ったバイオリンの様な咆哮が夕闇の中を響き渡る。さらにライフルが発砲する時に生じるマズルフラッシュが向こうから見ても俺の姿を映し出してくれるだろう。こっちに来るなよ! こっちには怖いサタナキアが居るぞ向こうに行け。
 祈るような気持ちでモニターを見ていると、どうやら後ろのグール以上の『化け物』が自分達の前方にいると判断したらしく進行方向を変えてくれた。

「良かった。これで安心して撃てる」

 溜息を吐きながら着陸してライフルを構える。慣れない手つきで射撃システムを起動してグールをレティクルに捉え引き金を引こうとした瞬間……、俺は違和感を感じてトリガーから指を離した。

『どうかしましたか?』

 コンの問いかけの文字も無視して俺は頭をフル回転させて考える。なんで目の前のグールは『止まって』いるんだ? さっきまで全速力で人間を追いかけていたのになぜ急に動きを止めるんだ。考えろ、止まるまでに何があった。

「………、咆哮をあげて銃を撃った」

 銃の光に反応するなら魔法の爆発でなんらかのリアクションを起こす筈だ。光ではないとすれば、原因は咆哮装置を使った時に発生するサタナキアの鳴声だ。もしそうならグールをコントロール出来るんじゃないか?

「おいコン! 僕の個人端末を使って諜報部のデータバンクにアクセスしろ。そこからグールの『声』が入っている映像を探してその声を抽出してくれ」

「コーン!」

 コンは指示に従って尻尾を使って端末の操作を始めた。その姿を横目で見ながら俺はサタナキアの情報システムから咆哮装置に使われている音を取り出す。もし偶然に偶然が重なって、さらにそのまた偶然が重なってくれればサタナキアの咆哮とグールの声は───。

『ご主人様! 終わりました。これが声のデータです』

 コンから渡されたデータをスーツにメイン端末に読み込ませて、サタナキアとグールの声を波長データにして表示させる。よっし! 思った通り二つのグラフはほぼ一致している。
 しかもコンのヤツは、短時間の間にグールが他の生き物を見つけたときに発する声等も種類に分けて抽出してくれている。さすがエンシェントドラゴンだけあって有能だ。

「コン、よくやった。お前のおかげで作業が短時間で済みそうだよ」

 コンの頭を撫でて映像から予想できる、『集合・前進・後退・散開』などの基本的な鳴声を咆哮装置に新しくプログラムして入力する。信吾から簡単なプログラム技術を習っておいて本当に良かった!
 箱根基地帰ったら好きなだけ食い物を奢ってやろう。頭の片隅でそんな事を考えながら、必死にプログラムを完成させインストールする。

「よし、実験するぞ。まずは後退して前進、その後停止」

 装置のスイッチを入れ鳴声をあげるとグールは想像通り俺の指示に従って動いた。よし後はもっと細かい指示を出せるように解析するだけだが……、その前に母さんに連絡しなければ。
 俺はモニター横についている端末を操作してアリスのCICに通信を送る。

「アリス、聞こえますか? こちらコールサイン・ゴエティア、荒川功樹です。サタナキアから通信を送っています。申し訳ありませんが荒川美紀の個人端末に中継をお願いします」

『了解、しばらくお待ちください』

 アリスの通信担当から返信を受けて暫く待っていると、やや雑音が混じった母さんの声が聞こえてきた。

『お母さんよ、どうしたの?』

「えっとね、グールを制御できるようになった」

『………………、あ、そう。ごめんね、ちょっと待ってもらえるかしら?』

「うん」

 俺が返事をすると母さんは保留にするのを忘れてどこかに走っていく。パタパタと廊下を走る音を聞いていると、やがてバンッと扉を開ける大きな音が聞こえて母さんが誰かと話している声が聞こえてくる。

『息子がグールを制御できるようになりました』

『ハァ!?』

『事実関係を確認しますので、5分で偵察衛星の用意をして下さい』

『えぇ!?』

 母さん5分は無茶だよ、せめてもうちょっと時間に余裕を持たせよう。きっと会話の相手は技術部の人達なんだろうな。また母さんの無茶振りに付き合わされているのか……、今度なにか差し入れでもしよう。
 今頃泣きそうな顔をしながら衛星の角度を変えている筈のクルー達の姿を思い浮かべながら待機していると、母さんからの指示が聞こえてきた。

『聞こえる? 衛星からの映像で今こうちゃんを見てるわよ。取り敢えず、グールを一旦下げてからもう一度近くに呼び寄せてみて』

 指示通りにグールを動かすと母さんは何かを考えている様子で暫く黙っていたが、やがて大きな溜息を吐くと質問をしてきた。

『制御できる数に限界はあるの? それと、こうちゃんに危険はないの?』

「数に限界はないと思う。多分、一番鳴声が大きいサタナキアの事を群れのリーダーだと判断してるぽいから鳴声が届く限り制御できる。危険も無いよ、グールにパワースーツの装甲は破れない」

『……、分かったわ。ノアの最高責任者として命令します。オペレーション・フューチャーの作戦内容を変更、荒川功樹特務少将は専用スーツ・サタナキアを使用してこの大陸に存在する全グールを制御下に置きなさい。移動ルートや燃料と食料の補給場所はこちらで指示します』

「了解」

 俺が返事をすると母さんは『よろしくね』と言って通信を切った。ただでさえ滅茶苦茶な時間割り振りをしている作戦を修正するのだから、これからアリスは戦場さながらの忙しさになるだろう。
 コンを抱き寄せて混乱に陥っているアリスのCICを思い浮かべていると、モニターに衛星からデータが送られてきているとの情報が通知された。パネルを操作して情報を表示されると、サタナキアの移動ルートが表示された。

「まずは西の街向かって前進か。よし! コンいくぞ」

「コーン」

 元気の良いコンの返事に笑みを浮かべながら、俺は西に向かってサタナキアを歩かせた───。







 ピピピッと電子音が鳴り響き目が覚めると、薄暗いサタナキアのコックピットが視界に映りこんできて軽く驚く。そういえば5箇所目の補給所で仮眠を取っていたんだったな、目線を落とすと膝の上でコンも丸くなって眠っている。

「腹減った……、なんか食うか。おいコン起きろ飯食うぞ」

 丸まっているコンを起こすと大きな欠伸をしてから文字を浮かべる。

『ワタシは、グリーンピースの缶詰が良いです』

 うわぁ、また変な所をチョイスしてきたな。2箇所目の補給所で輸送機から投下された食料袋を漁って、コンが所望する缶詰と自分用の炊き込みご飯の缶詰を取り出して蓋を開けてからコンに渡す。
 ガツガツと首を缶に突っ込んでいるコンを見ながら自分もフォークを使って飯を食べる。案の定、冷たい。

「温かい飯が食いたい」

『お母様のシチューが食べたいですね』

 俺の独り言にコンはこっちを振り向かずに文字を浮かべる。シチューもいいけど母さんのカレーも美味しいんだよな。そんな事を考えながらデザートのチョコバー食べようとすると、自分の分を食べ終えたコンがジャンプして俺の手からチョコバーを奪い取った。

「おいコラ、それ僕のだぞ。レディーが人の食い物を取るな」

 膝上の自称リトルレディーは俺の言葉を無視して小さな両手でチョコを握って齧りついている。しょうがねぇな、一本しかないチョコだけどコイツにやるか。目を細めて美味しそうに食べているコンから奪い返す気にもなれず、諦めてストロー付きのパックから水を飲む。

「お前も飲むか? というかストロー使えたっけ」

 問いかけにコクコクと頷いたコンは器用にストローに口をつけて水を飲むが、口の周りや手の平がチョコで汚れている。まったく世話が焼けるヤツだな……、俺はさっきの袋からウェットティッシュを取り出してコンの口と手を拭いてやる事にした。

「ほら、拭いてやるから動くな。女の子なんだろ? 身だしなみに気をつけろ」

「グルゥ……」

 威嚇する時の『グルゥ』ではなく、猫が甘える時に喉をならすのとよく似た唸り声をあげながらコンは気持ちよさそうにしている。そういえばこの作業はコンに激甘なアリスがよくしていたな。
 笑いながらコンの口もとを拭いてやるアリスの姿を思い出しながら、そろそろサタナキアのメインモニターで外を見る覚悟を決める。

「よし、現実を見るか。メインモニターを起動させるぞ」

 外の光景をなるべく想像しないようにしながらモニターを起動させると、極限までカメラの画質を上げたノアの開発部を全力で殴りに行きたくなる光景が映し出された。
 俺を取り囲む無数のグール達……、仮眠を取る前は夜間だったのでここまで綺麗に映らなかったが、日が昇っている今は周囲で停止しているグール達がはっきりと見える。

「……、これ何体いるんだよ」

『リンクした衛星を使用して数えましたが、約3万です』

 そんなにいるのかよ! まぁ後は無人地帯まで移動して虚数兵器を起動するだけだからこれ以上増える事はないだろう。仮眠する前の補給で投下されたミサイルは既にサタナキアのミサイル発射装置に装填されているから、指示通りに北上を開始するか。

「コン、最後のポイントに向かうぞ」

 コンに告げてから『前進』の鳴声を響かせて北に進路を向け2時間程移動していると、端末を操作していたコンが上機嫌に尻尾を揺らしながら文字を浮かべる。

『お父様の部隊が帰還しました! 首脳陣の拘束に成功したそうです。作戦はほぼ成功ですねご主人様!』

「そうか父さん達やってくれたんだな。良かった、これでこの戦争も終わる。沢山の人が傷ついて沢山の不幸が起きたけど、もうこれからは───」

 話をしている最中にモニターに映った『謎の軍勢』が目にとまり俺は思わず喋るのを止めた。白地に天秤と狼のマークが書かれた旗と、無地の赤い旗を掲げた軍勢が俺の正面に展開している。
 アレは一体なんだ? 疑問に思いアリスのCICに通信を送る。

「アリス聞こえますか? そちらでも確認できると思いますが僕の正面に軍勢が展開しています。アレはなんですか」

『現在、詳細を確認中です。しばらくお待ち下さい』

 アリスからの返答はクレアさんが担当してくれているようだ。アリスから飛び立つ前に怒鳴った事を謝罪して、これからも専属の副官で居て欲しいと頼んだら笑顔で許してくれた。今回もきちんとその約束を実行してくれているのだろう。

『確認が取れました、あの軍勢はコネット連邦国の正規軍です。赤い旗は警告旗で《近づけば攻撃する》という意味なのでそれ以上近づかずにルートを変更して下さい。ちょうど今閣下が居る地点は、リクル教国とコネット連邦国との国境ラインです』

「クレアさん、連邦は今回のグール被害に対して何か声明を出していますか? それと、軍勢が展開している場所は国境ラインのどちら側に近いのですか」

『いえ、声明や援助を申し出ている国のリストにコネット連邦国の名はありません。展開している場所に関しては厳密に言えばリクル教国領です』

 ふむ……、この大陸の危機に声明も援助の申し出もしないで高みの見物をしてたわけか。まぁそれは良い、援助が出来ない国力なのかもしれないし国内の問題があったのかもしれない。
 だが最後の最後になって隣国に越境した挙句、『近づいたら』攻撃するだと? 随分と余裕でふざけた態度だな。関わりたくないなら大人しく自分の国に引っ込んでろよクズが! 俺は怒りを堪えながらクレアさんに返答する。

「ルートの変更はしません。このまま前進して予定の場所で進路を変えます」

『閣下!? そんな事をしては……。いえ、分かりました。ですが最悪の場合は最初の一発を向こう側に撃たせて下さい。間違ってもこちら側からは攻撃しないようにお願いします』

「了解」

 俺の意を酌んでくれたのだろう、クレアさんは絶対にこちらから攻撃をしないようにとだけ告げて通信を切ってくれた。もちろん攻撃をするつもりはないが、連邦に自分達の行為がどんな事態を招く可能性があるのかを教えてやる必要がある。
 俺は連邦の前までサタナキアを進め500メートル手前で停止してやった。直ぐ後ろにはここまで引き連れてきたグール達3万が静かに佇んでいる。お互いに睨み合ったままゆっくりと時間が経過するが、20分ほど経ってから赤い旗が下げられた。

「そうだ、その判断で正しい。さっさと自分の国に帰れ」

 吐き捨てるように呟くと、コンが心配そうな顔をしながら腕に抱きついてきた。大丈夫だ、これ以上は何もしない……。そう伝わるように優しく微笑みかけてから『前進』の鳴声をあげてミサイルの起動予定地点へと急ぐことにした。





 起動予定ポイントに到着した俺達は、協力しながら最後の作業を進めていた。グールは密集しているから爆発の範囲は最小限で大丈夫だな。ミサイルの弾頭に直結させたコードを巻き取りながら自分の作業を終えた俺はコンに向かって話かける。

「コン! 僕の方は終わったぞ、爆発半径は最小の約3キロで起動まで120秒だ。離脱用のブースターの設定は終わったか?」

『終わりました。いつでも離脱できます』

 コンが浮かべている文字に満足して改めてグール達を見渡す。このグール達はこの戦争の犠牲になった被害者だ……。
 俺は絶対にこの光景を忘れない、二度とこんな悲劇が起きないように必ずこの事は後世に語り継がせる。皆が笑って暮らせる『未来の為に』。

「コン……、離脱するぞ」

 体をベルトで固定してブースターを点火させると、サタナキアが急加速しながら離脱を開始する。音速を突破する際の凄まじい衝撃とGに耐えて後部カメラからの映像を眺めていると、ミサイルの弾頭が起爆して黒い光の球が生まれたのが見えた。
 恐らくアレが母さんの言ってた小型ブラックホールだろう。周囲を飲み込みながら次第に大きくなるそれを眺めながら、俺はそっと目を閉じグール達の冥福を祈った───。






----荒川美紀 視点----

 功樹がグールを率いて起動ポイントまで移動している様子を衛星から眺めている。あの子は今どんな気持ちなのだろうか? 偶然とはいえ大量のグールを制御下に置いている功樹はこの戦争の悲惨さを肌で感じている筈だ。
 そんな功樹の心の心配をしていると、作戦から帰ってきたばかりの修一さんが話かけてきた。

「それにしても、凄い光景だな。功樹が使っているパワースーツの見た目も手伝って、こうなんと言うかアレだよな」

 言葉を濁しているが、確かにこの光景は控えめに言っても『悪魔が配下を率いて進軍している図』にしか見えない。他のメンバーも同じ気持ちなのだろう……、全員が苦笑いをしながらスクリーンを見つめている。

「そうね私も修一さんの考えているのと同じ内容が頭に浮かんでいる。でも、そんなことより偶然とはいえあの子がグールを間近で見ている事のほうが心配よ。悪影響を残さなければいいけど」

「美紀、お前は本当にアイツが『偶然』グールを制御できたと思ってるのか?」

「どういう意味?」

 修一さんが何を言っているのか理解できない。偶然以外に制御できるのだったら功樹は最初からそういってる筈だ。あの子は無闇に犠牲がでるのを黙って眺めているような子じゃない!
 掴みかかる勢いで修一さんにそう怒鳴るが真剣な表情で反論された。

「グールの生体や弱点を知っているのにあいつがなにも対策をしてなかったと本気で信じるのか? そもそも何故、功樹はこの戦争が始まる前に咆哮装置の取り付けをお前に急がした? 今のこの状況を想定してたんじゃないのか」

「そんな……嘘よ。そんな事ありえないわ」

「会議室で話をしていた時に功樹は震えていた。その時は1000万を犠牲にするのが怖いのだと思ったが、本当は怒っていたんじゃないか? 
 いつまでも先に進もうとしない俺達やこの世界に対してな。もしあの場で先に進もうとしなければ……、自分達だけの繁栄を望もうとしたならアイツはグールを使ってこの世界を滅ぼすつもりだったんだろうな」

 ありえない、そんな馬鹿な事は絶対にありえない。だが、他の誰でもない功樹なら可能なのかも知れない。だとすれば一体いつから準備を始めたの? 戦争が始まる前やこの世界に初めて訪れた時? それとも月面遺跡を開放した時? まさか、あの子には本当に未来が見えているとでもいうのだろうか。

「分からない。あの子の目には一体なにが映っているの?」

「さぁな、俺には分からんよ。だが、どんな景色を見ていようと俺達の大切な息子に変わりはないだろ?」

「えぇ、そうね」

 その通りだ、たとえ他人からどんなに恐れられようが功樹は私達の大切な息子だ。だれもあの子を理解できなくても私達だけは理解してみせる。
 内心で改めて決意を固めていると、クレアさんが端末を操作しながら私に報告をしてきた。

「連合からメルカヴァ王国を介して降伏したいとの打診がありました」

「降伏する条件は?」

「ありません、無条件降伏です」

「分かりました、受け入れてください」

 私の指示を受けてクレアさんが端末を操作して各所に指示を飛ばしている。どうやらやっとこの戦争も終わりのようね、最近の忙しさのせいで一気に老け込んだような気がする。
 ふと、スクリーンに目を戻すと虚数兵器が起爆してブラックホールが生まれているところだった。どうやら理論通りにきちんと作動したようで功樹も無事に危険域から離脱している。
 そうだ! 気分転換にあの子の好きなシチューを作ろう、疲れて帰ってくるからきっと喜んでくれる筈だ。私は『仕事があります』と必死に制止してくる政治部のクルー達を全て無視してアリスの厨房に向かう事にする。ワーカーホリックと呼ばれる私だって、たまには息抜きしないと倒れてしまうから───。
 今回のお話で異世界戦争編は終了となります。次のお話でエピローグと終戦後に今回の戦争に関わった異世界の人達がどのようになったのかを軽く紹介する短編を掲載して新章に突入します。

12月1日、活動報告を更新しました。詳しくはそちらをご覧下さい。
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