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異世界に転生したんだけど俺、天才って勘違いされてない? <旧題  転生したんだけど俺なんか勘違いされてない?> 作者:にゅん

学院編 1年度 夏期休暇~異世界編~

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ウルスナ戦線

 文字数の件ですが沢山のコメントを頂きありがとうございました。ご意見を考慮して、やはり一番纏めやすい8千~1万5千文字程度で投稿を続けようと思います。
----荒川修一 視点----

「隊長、マズイです。左翼のアルケニーの姉さん達が突破されました」

「機銃で支援してやれ! 攻勢を掛けてるのは敵の地竜部隊だろ? ゴム弾じゃなくて軟鉄弾を使って構わんぞ、取り合えず死ななければどうでもいい」

 昼前から始まったウルスナ帝国対ラーギレ公国の戦闘は当初ウルスナ有利の戦況で推移していた。しかし偵察部隊を越境して攻撃した際にウルスナ本隊が敵の主力部隊に捕捉され、高台からの攻撃を受けた為に壊滅状態に陥ってしまった。
 俺達のパワースーツ隊がギリギリの所で本隊の救援に成功したまでは良かったが、まともに態勢を立て直す時間が無くそのままズルズルと遅延防御を続けながら撤退するしか方法がなかった。

「隊長……、このままでは埒が明きません。一度完全に撤退して再編成をしたほうが宜しいかと思います」

 副官のルイスが土で汚れた顔を顰めさせながら具申してくるが、生憎そんな余裕は今の俺達にない。

「ノア組はそれで良いかも知れんがウルスナのやつらはどうする? 俺達の撤退速度に付いてこれると思わんし左翼が突破された今の状況で完全撤退を開始したら総崩れに───邪魔だ!」

 ルイスを殴るように突き飛ばして目前に迫っていた公国軍の兵士をライフルの1連射で無力化させる。ゴムスタン弾の連射を浴びた兵士は、弾が当たった衝撃と弾頭がつぶれた際に発生する高圧電流で気絶するので当分は起き上がる心配はない。
 起き上がった所で至近距離からの連射を食らったのだから何処かしらの骨が折れているので戦闘行動は不可能だと思うが、殺されないだけマシだと思ってもらおう。

「ルイス、この防衛ラインを放棄する。工兵隊のムカデ族が作った第3ラインの塹壕までゆっくり撤退するぞ、ここにはクレイモアを仕掛けて少しでも敵の進軍を食い止める。それと……そこに転がってる公国軍兵士の体にピンを抜いて閃光手榴弾を挟めとけ! 汚ねぇが有効なトラップだ」

「了解」

 作業を開始したルイスを見てから俺は上空を飛んでいる駆逐艦オルトーに通信して現在の状況を確認する。

「オルトー聞こえるか? 右翼は第3ラインまで撤退する。ウルスナのやつらはどうしている」

『現在、帝国軍は左翼が突破された為に組織的な防御戦闘は行われていません。我々が支援砲撃を続けていますが左翼が完全に崩壊するのは時間の問題かと思われます』

 クソッが! まともに戦闘を続けているのは俺達しかいないのかよ。オルトーからのナパーム弾で敵の前列を焼き払ってしまえばウルスナが撤退する時間も稼げるんだが……、殺さない戦闘がこんなに難しいと思っていなかった。俺は口に咥えた煙草に功樹から誕生日プレゼントで貰ったライターで火をつけて深く吸い込んでから決断する。

「オルトー、全責任は俺が取る。左翼と中央の陣地に催涙弾を投下しろ、どうせ組織立った防衛はしていないんだ味方ごと敵の進撃を止める」

『了解……弾種交換まで30秒』

 オルトーとの通信を切ってから、今度は戦場に散らばっている部下との回線を開いてマイクに向かって怒鳴りつける。

「全員、強化外骨格のバイザーを下ろせ! オルトーから催涙弾の無差別爆撃がくるぞ」

 部下達からの返事を聞きながら俺も外骨格のバイザーを下ろして催涙弾の着弾に備えて地面に伏せる、上空を見るとオルトーが旋回しながら主砲をこちらに向けて狙いを定めているのが見えた。次の瞬間オルトーの主砲が発射炎に包まれると催涙弾が着弾する炸裂音と共に戦場が白い煙に覆われた。





「食事中に失礼します。負傷者の確認が終わりました」

「おう」

 オルトーから催涙弾の航空支援を受けた後、混乱している両軍を尻目に俺達はひたすらウルスナのやつらをピストン輸送して後方に下げて部隊の再編成を行った。公国軍も催涙弾の威力に困惑したのか、一時的に戦場から撤退したので偶然にも夕方からは停戦状態になっていた。
 その停戦状態を有効に使って俺達は休息と負傷者の確認に充てていたのだが、どうやら全体の確認が終わったようだ。俺はルイスから渡された端末に表示されている情報を確認する。

「ウルスナのやつらは半数以上が戦闘不能か……。死者が出なかっただけマシだな」

 画面にはウルスナ帝国軍15万のうち8万名以上が重傷と表示されていた。軽傷者も含めると10万を超える数になる……、ウルスナ帝国軍は既に全滅したと判断して過言ではない。残り4万少しと俺達ノアの援軍500名で20万以上いる公国軍を撃破して突破するのは絶望的な状況だ。

「なにか良い知らせはないのか?」

 端末を返しながら質問すると、ルイスは煙草に火をつけながら答えてる。

「御子息の艦隊がアスティを5分で無血占領しました。後は美紀さんの部隊がリンクドブル帝国軍を撃破、進撃中です」

 戦いに関しては素人の筈である功樹と美紀が順調でプロの俺達が足止めを食らってるわけか……皮肉にも程があるだろ。俺は食い終えた冷たいビーフシチューの缶詰を放り投げてから疲れた顔で飯を食っている部下共に質問する。

「もう直ぐ日が暮れるが何か名案はないか? 4万ちょいで20万の敵を撃破して進撃できるような案を捻りだせ」

「核兵器でぶっ飛ばしちゃえば良いんすよ。条約が無いこの世界でなら美紀さんに頼んでサクッと作ってもらって、ぴゅーって飛ばして解決です」

 ジョナサンの冗談に笑いながら皆が賛成する。俺も一頻り笑ってから質問の内容を訂正してもう一度、馬鹿共に質問する。

「分かった分かった。内容を変えるぞ、4万ちょいで20万の敵を『殺さずに』撃破して進撃できるような魔法の案だ」

 俺が訂正して質問すると、それまで笑っていた部下達は押し黙って食い物を食べる咀嚼音だけがテント内に鳴り響く。マズイな……こいつらに笑顔が無くなるというのは士気が相当下がっている証拠だ。
 過去にアフガンで戦った時にも、こんな状況に陥ったせいで小さなミスが連発して部隊が壊滅寸前まで陥った。こいつらの士気を上げるような良い方法を考えていると、突然テントの入り口が捲られて美人の集団が入ってきた。

「はーい! フェアリー族の輜重隊ですよ。私達は弱くて戦争には参加できませんが、暖かいご飯は任せてくださいね! スープはいかがですか?」

「うおぉぉぉぉ!!」

 無言で俯きながら飯を食っていた馬鹿達がフェアリー族を見た瞬間に無駄に元気になって、暖かい食い物を貰う為に皿やカップを取り出して並んでいる。忘れていた───、こいつらは基本的に単純なのだ。美人に応援されればそれだけで敵陣に突っ込むようなやつらだ。
 俺は先程まで真剣に士気の上げ方を考えていたのが馬鹿らしくなって煙草に火をつけながらアホ共を眺めていると、テントの入り口からコートが顔を覗かせたのが分かった。コートは中を見渡して満足そうに頷いてから顔を引っ込めて去っていこうとしたので慌てて呼び止める。

「コート待て、もしかしてフェアリー族を呼んだのはお前か?」

「はい。フェアリー族だけじゃなくてウルスナ軍の美人種族にお願いして各部隊のテントを回って貰っています。士気が下がってますからね、ここら辺で美人な姉さん達に活を入れてもらいましょう。ちなみにヴィクトリア陛下からは『お触り禁止』と言われていますので守らせて下さいよ」

 コートはそう言ってから『他のテントの様子も見てきます』と歩き去っていった。本来ならそういう所に気を回すのは俺の役目なんだが、クレアが居ないと中々上手くいかないな。功樹ならそこら辺も上手に指揮して……いや、そもそもあいつなら最初から負け戦になるような事にはならんか。
 そんな事を考えながらテント内に戻ると、先程までとは打って変わってヤル気を出した部下達が意見交換をしていた。

「俺達が前面に展開して敵を攻撃している間に、ウルスナ軍に側面から敵本隊を攻撃してもらうのはどうだ?」

「無理だ。公国のやつら俺達が『殺さない』って事を理解してやがる、人海戦術をくらって押しつぶされるのオチだぞ」

「なら夜襲はどうだ? 日が暮れた後なら俺達の近代装備の方が上だ。少数で敵本陣を落とせば後はどうにでもなる」

 ふむ……夜襲か。暗視装置を使用して敵を迂回しながら本陣に侵入すれば勝ち目はある、だがその為には機動力が足りんな。スーツを使えば音で敵にバレるからウルスナのやつらにも協力して貰わなければならない。俺は夜襲を提案した部下と細部をつめながら、ヴィクトリア陛下に貰ったウルスナ軍の種族構成表を懐から取り出した。





----セイレーン艦内 クレア 視点----

 戦闘が終了したセイレーンのCICでは最低限の明かりの中で当直の要員だけが警戒任務をこなしている。チラリと確認した手首に付けている時計で時刻は19時を指していた。既に日が暮れている中、私の所属している北方方面軍も美紀さんが指揮している王国救援軍も大規模な戦闘はすでに終結している。
 そんな中でウルスナ帝国に派遣されている特殊パワースーツ旅団───、私が本来所属している部隊だけは未だに公国軍と戦闘を続けていて劣勢の立場におかれている。

「司令部、聞こえますか? ゴースト隊の戦況はどうなっていますか」

『現在、戦闘は一時的に停止しています。最新の報告ではウルスナ軍は全滅、ゴースト隊だけで公国軍の撃破を試みると連絡が入っています』

 その情報に胸が締め付けられる。部隊の仲間達は無事に公国軍を突破できるだろうか? それ以前に私もエリスも居ない状況で情報管理や部隊の士気の維持などをちゃんとできているのだろうか。そんな心配をしながらウルスナ戦線の無線通信を勝手に拾って聞いているのだが、ここ2時間程は全く無線通信を行っていない。
 恐らく休息や部隊の再編をしているのだと思うが……、いつも一緒に戦ってきた仲間達が離れた場所で戦っているというのは寂しさを感じる。決して今のセイレーンに配属されている状況が不満という訳ではないが、溜息がもれてしまうのは多めに見て欲しい。

「コン!」

「えっ!?」

 自分の端末で司令部から送られてくるウルスナ戦線の情報を整理していると突然背後でコンちゃんが声を上げたので驚いて振り返る。コンちゃんは私が振り向いたのを確認すると、首から提げたコミュニケーション用のカードに文字を書いて見せてくる。

『お父様達が心配ですか?』

「えぇ、部隊の仲間達が遠く離れた場所で戦っていると思うと心配になるわ」

 私の返事にコンちゃんは可愛らしい尻尾を揺らしながら暫く考えた後、再び文字を書いて見せてくる。

『考えがあります。前にお母様が作ってくれたワタシ用の移動装置がありますよね、アレを使ってワタシをウルスナ戦線に送って貰えませんか?』

 一体どうするつもりなのだろうか? 正直な所、コンちゃんが救援に行ったとしても戦局が変わるとは思えない。だが私の心の何処かでこの子ならどうにかしてくれるのではないかという期待も湧き上がる。私はコンちゃんの顔を見つめた後で私に与えられている権限でコンちゃん専用の移動装置を使用する事を決断する。

「移動装置を準備するように端末から命令を出したわ。部隊の皆を助けてくれるわよね?」

 コンちゃんは小さな体で精一杯胸を張ってから紙を口に咥えて私に抱きついてくる。渡された紙には微笑ましい内容が書かれていた。

『任せてください! ご主人様にワタシの凄い所を見せ付けるのです。いつもはご主人様ばっかり凄いと言われますが、ワタシだって凄いドラゴンなんです!』

 私は小さな体でも必死に頑張ろうとしているコンちゃんの頭を優しく撫でながら、移動装置が準備してあるセイレーンの艦尾に向かって歩き始めた。




「コンちゃんどう? ちゃんと酸素は出てると思うけど、苦しくない?」

「コン!」

 コンちゃんを移動装置の中に入れて顔に専用のヘルメットを装着してあげてからきちんと呼吸が出来るかどうかを確認する、ゆらゆらと尻尾を揺らしながら返事をしたコンちゃんの感じでは特に問題はないようだ。

 移動装置といっても装置の仕組み自体は巡航ミサイルと大して変わらない、ただ単に弾頭部に酸素ボンベが詰まれていて中央部にコンちゃんが乗り込むスペースがあるだけだ。着陸という概念も無くて目標上空100メートルで解放装置によりミサイル本体が分解したのち、コンちゃんは地面に向かってパラシュートも付けずに落下する。
 これはコンちゃん自身が『1000メートル位からなら、少し痛いですが地面に落ちても平気です』と装置自体を極度に簡素化するように要望を出した為に採用された方式だ。

「コンちゃん、これを隊長に渡してくれる? 私が考えた部隊の再配置表なんだけど役に立つと思うわ」

「コン、コーン」

 私が渡した紙を大事そうにギュッと胸に抱きしめたコンちゃんを撫でてから蓋を閉めてボルトを固定する。少し離れた場所にある発射装置を操作しながら、耳元に装着したイヤホンマイクでミサイルの中に居るコンちゃんが発射の衝撃を予測できるようにカウントダウンを開始する。

「発射5秒前、4、3、2、1、発射!」

 人間なら到底耐えられない最高速度マッハ12まで数秒で加速した移動装置は直ぐに私の視界から消えて水平線の彼方へと飛んで行った。手元の端末でミサイルが順調に飛行しているのを確認してからウルスナ戦線で戦っている隊長に通信を送る。

「隊長、聞こえますか? クレアです。現在コンちゃんが援軍としてそちらに向かっています、部隊の再配置表も渡したので役立て下さい」

 隊長と通信をしながら、私はミサイルに乗ったあの小さな可愛いドラゴンが部隊の仲間達を救ってくれるように夜空に浮かんでいる『3つの月』に願った───。




----荒川修一 視点----

「アント族とアルケニー族を貸して欲しいとな?」

「はい。夜襲作戦を成功させるにはどうしてもその2種族の協力が欠かせません」

 俺達は夜襲作戦の細部を詰めた後で、協力を要請する為にヴィクトリア陛下がいるウルスナ軍の本陣テントに来ていた。突然の訪問にテントの警備を担当していたケンタウロスの兵士は驚きながらも直ぐにテント内へ案内してくれたので、無駄な時間の消費をすることなく作戦会議を行う事ができた。

「構わないが、一体なんの役目で使うのじゃ? ノアの方が装備も兵の錬度も妾達より遥かに上だろう」

「いいえ、私達には無い特殊な技能が皆さんにはあります。まずアント族には我々を背中に乗せて敵陣まで運んでもらいたいのですが、アント族の中でも噛む力が強くて体の装甲が厚い種族はいませんか?」

「ふむ、ファイヤーデスアントの事かの。数は少ないがこの戦場にもきているぞ」

 やはりいたか……恐らくファイヤーデスアントは功樹から教えて貰った地球上にも存在している『ディノポネラ』という蟻が亜人化した種族の筈だ、人間ですら痛みで昏倒させる程の力をもった蟻が大型化した場合の攻撃力は戦車にも匹敵すると思う。

「では次にアルケニー族ですがアルケニー族の中で強靭な糸を紡ぐ種族はありませんか? 敵を糸で絡めて無力化するのに協力をお願いしたいのです。私達の想像通りなら体は黄色と黒の斑模様をしていると思うのですが……」

「それならば、クイーンアルケニーじゃな。2人しか戦場にきてないが良いかの?」

「問題ありません」

 よし! ちゃんと『大女郎蜘蛛』も亜人化しているようだ。地球では鳥すら糸で絡めて捕食するような大きな巣を作るような種族だ、敵の1個小隊くらいなら楽に無力化してくれるだろう。俺は2時間後に作戦を開始する事をヴィクトリア陛下に教えて、ノアがテントを張っている付近にアント族とアルケニー族を集結させて貰えるようにお願いしてからウルスナ軍の本陣テントを出る。
 部下を集めて作戦の細かい内容を説明しようと腕の端末を操作した時、久しぶりにクレアから通信が入ってきた。

『隊長、聞こえますか? クレアです。現在コンちゃんが援軍としてそちらに向かっています、部隊の再配置表も渡したので役立て下さい』

 待て、今クレアはなんて言った? なんでコンが来るんだよ!

「クレア、どうやってコンがここに来るんだ? その前にあいつは賢いが石を金属に変える魔法しか使えないだろうが。役に立たないだろ」

『コンちゃんは、考えがあるから任せろと私に伝えてきたので移動用のミサイルでセイレーンから射出しました。それに功樹君のペットですよ? あの子ならどうにかしてくれると思います』

 むっ……そう言われると返す言葉が浮かばない。あの功樹が大切に育てているのだから、金属の精製以外にも何か特別な技能があるのかも知れん。現状としてはそれこそ猫の手も借りたいくらいに人手が足りないので歓迎はするが、まさか小さなドラゴンにすら心配される羽目になるとはプロとしての自信を無くすな。

『あと数分でそちらの上空にミサイルが到達します。コンちゃんは上空から直接地上に降下しますので回収をお願いしますね』

「了解した」

 クレアから端末に送られてきたミサイルの到達予定ポイントを確認して、俺は暇を持て余して帝国軍の兵士をナンパしている最近見かけていなかった馬鹿AとBをつれてコンの回収に向かった。





 到達予定ポイントで待っていると西の方角から火の玉がこちらに向かって飛んできたのが分かった。アレがコンの乗っているミサイルで間違いないだろう、暗視ゴーグルを作動させて上空を眺めていると丁度俺の真上でミサイルが分解して中からコンが飛び出てきた。

「おーらい……おーらい。もうちょい前か?」

 独り言を呟きながら野球のフライをキャッチする要領でコンを掴もうと試みる。暗視ゴーグル越しに見えるコンは俺の姿を確認したらしく、背中に生えている小さな羽で上手く風を切りながら俺に向かって一直線に飛んでくる。腕の中に丸まりながらポスンッと落ちてきたコンは辺りをキョロキョロと見渡した後で鳴き声を上げた。

「コン!」

 まるで『久しぶり!』と言わんばかりのその声に思わず笑みがこぼれる。コンはミサイルの中で書いていたと思われる紙を俺に渡してから地面に飛び降りてジッと空を眺めだしたので、俺はその姿に疑問を浮かべながらも書かれた内容を読んでみる。

『援軍に来ました。ワタシに考えがあるので任せて貰えませんか? それとこの紙の裏側にクレアさんが考えた部隊の再配置表が書いてあります』

 コンの考えか、まぁ何かさせたとしても最悪の状態である今より悪い状況に陥る事はないだろう。そう判断して相変わらず空を眺めているコンに向かって『任せる』と言うとコンは尻尾を揺らして返事をしてきた。
 その場に座ってクレアが考えた再配置表を暫く眺めているとコンは突然大きな声で空に向かって咆哮を上げた。

「グラァァァァァアアアアアアアア!!!」

 その声に驚いて立ち上がると、コンは満足げに尻尾を揺らしながら俺の方に向かってトコトコと歩いて近寄ってきてから首からカードを出して咥えて見せる。

『だっこして下さい』

 カードに書かれていた通りに抱きしめてやると北側の空を見つめたまま動かなくなってしまった、俺もコンと同じように北の空を眺めるがそこには星が瞬いているだけで何も無い。そのまま1分が過ぎても空に何も変化は無い、5分が過ぎても変化は起きない……。10分が経過した辺りで腕の中のコンに話し掛けようとして俺は空に起きた変化に言葉を失った。ウルスナのやつらが使用する『魔法陣』に良く似たナニカが北の空に出現したのだ。

「隊長……あれなんですか?」

 馬鹿Aが質問してくるがそんな事を俺に訊かれても分かる訳ないだろうが! 腕の中のコンは嬉しそうに尻尾を激しく揺らしている。一体あれは何が起きているんだ? そんな事を考えていると魔法陣はどんどん数を増やして北の空を埋め尽くした。

「魔法陣の中から何か出てきます。ドラゴン? 隊長、魔法陣からドラゴンが出現しています。マジかよ!? あれから全部ドラゴンが出てくんのか」

 馬鹿Bが喚いているがそんな事がありえるのか? 既に視界に映る魔法陣の数は数百を越えている。その中、一番大きな魔法陣から出現した黒いドラゴンがゆったりと空を飛びながら俺達の所まで飛んできて目の前に着陸した。黒いドラゴンは地面に頭を下げて、まるで服従するかのような姿勢を見せてから腕の中にいるコンに向かって話し掛けける。

「お目通りが叶い光栄です。エンシェントドラゴン様のご命令に従い、我らドラゴン族は1頭残らずこの地に参上致しました」

「コン! コーン、コンコン。コン?」

「ハッ! 勿体無きお言葉でございます。畏まりました、それでは同盟軍とやらに我らの力を貸せば宜しいのですね」

 コンと話していた黒いドラゴンは首を上げると今度は俺の顔を見つめながら話し掛けてきた。

「人間よ、コン様の願いにより我らドラゴン族は貴様達に助力する。なにをすれば良いのだ」

 目の前のドラゴンが俺に話し掛けている間も空からは無数のドラゴンたちが俺達の付近に着地しているの分かった。そんな異常な展開についていけない俺が固まっていると、コンが新たに書いた紙を器用に尻尾で摘んで見せてくる。

『さぁ、反撃の時間ですよ!』

 その紙をみてハッと我に返る。段々とやる事の規模の大きさが功樹に似てきたコンを優しくなでてから、俺は無線で部下に夜襲作戦の開始時間を繰り上げる事を知らせた。





----ラーギレ公国軍兵士 視点----

 飯を食っていると急にテントの周りが騒がしくなった事に気付いて、近くを走っていた弓兵隊のヤツに何があったのかを問いかける。

「おいどうしたんだよ? なんでそんな慌ててるだ」

「馬鹿! お前、北の空を見てなかったのか? ドラゴンの大軍が転移してきたんだよ」

 ドラゴンだと? あのトカゲ共は北大陸とかの人間が入れないような魔力が強い場所に生息している筈だ。こんな所に転移してくる訳がないだろう、恐らく亜竜種の飛竜が転移してきたのをドラゴンと見間違えただけだ。
 そんな間抜けな弓兵隊のヤツを鼻で笑ってから夕飯の続きを食べようとテントに戻りかけた時、空から『ドラゴン』が降ってきた。

「グゥルゥルル」

 目の前のドラゴンは俺を見ながら威嚇するように喉を鳴らしてから尻尾を地面に叩き付けた。そのたった一振りで地面が陥没して脱いで置いてあった俺の甲冑がひしゃげて足元に転がってくる。

「うああぁぁっぁぁぁ」

 このままでは殺される! 身の危険を感じて全力で走りながら主力の騎士団がテントを張っている方向に向かって走り出す。大丈夫だ……イルド将軍が率いている重装騎士団ならあんなドラゴンくらい簡単に討伐してくれる。必死に走りながら重装騎士団の野営地の柵を乗り越えて中に入ると、倒れている騎士団の中央に『絶望』が君臨していた。

「貴様も我に挑むつもりか? 殺さないように手加減するのは中々億劫だな」

「そんな……、なんでマーベラスがこんな所に」

 ブラックドラゴンなんてこの世に1体しか存在していない。全てのドラゴンの頂点に君臨する『黒の覇王マーベラス』、トリプルS指定のドラゴンだ。かつて勇者ですら討伐が出来なかったそのドラゴンが俺の目に前にいる───、股間が生温かくなるの感じながら呆然としていると今度は目の前に白いドラゴンが降ってきた。

「アナタ、向こうにいる人間達の制圧が終わりましてよ。コン様から『良くやった』とお褒めの言葉をかけて頂けたわ。ところでその漏らしている汚い人間はなに?」

「知らん。我に挑む勇敢な人間かと思ったのだが、ひと睨みしただけで漏らしおった。そこで気を失っている騎士の方がよっぽど猛々しかったな」

 マーベラスの事をアナタと呼ぶ白いドラゴンはヤツのつがいである『白の女王リリン』で間違いない。ダブルS指定のドラゴンで、彼女の怒りを買って滅ぼされた国は文献に山ほど書かれている。
 終わりだ……公国はもうお仕舞いだ、こんな化け物達が敵対した時点で生き延びる策は無い。圧倒的なまでの力の差を感じながら死を覚悟しているとマーベラスがゴミを見るような視線で話し掛けてきた。

「人間、見逃してやるから貴様の国に帰って報告しろ。『我らドラゴン族は同盟側に助力する』とな。早くいけ! グズグズしていると食い殺すぞ」

「ひぃぃ!?」

 マーベラスに急かされるように走り出した俺は、途中で同じように漏らして腰を抜かしていた弓兵隊のヤツを拾ってから、逃げ惑っている馬を捕まえて防衛隊が駐屯している前線の砦を目指して全力で逃げ出した。






 深夜、『連合軍敗走』の情報を聞いて絶望感を感じていたリンクドブル帝国・ラーギレ公国の首脳達は、ラーギレ軍の兵士2人が知らせてきた情報を耳にして大混乱に陥った。
 翌朝になって『黒の覇王マーベラス』『白の女王リリン』を筆頭にドラゴン族が正式に連合軍と敵対すると表明したという情報は、城勤めの兵士達の口から城下の一般市民へと伝わる事になり両国は市民達の早期停戦を求める声を無視できない状況まで追い込まれていた。

 そんな中、徹底抗戦を主張するキャプス王国とリクル教国の2カ国が遂に同盟軍打倒に向けて動き始める───。
 今回はウルスナ戦線の戦況でした。コンの一声でドラゴン族が味方に付きました! 

 『ディノポネラ』と『大女郎蜘蛛』の凄さはデルタ様に教えて頂きました、昆虫って意外と凄い生き物なんですね。

活動報告を更新しましたのでご覧下さい。頂いた質問の内容……、今回は更新等に関する質問に回答しております。
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