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異世界に転生したんだけど俺、天才って勘違いされてない? <旧題  転生したんだけど俺なんか勘違いされてない?> 作者:にゅん

学院編 1年度 夏期休暇~異世界編~

44/77

メルカヴァ戦線

 『描写を詳しく書いたほうが良いかも』とコメントで頂いたので頑張ってみたら予想以上に長くなりましたので一旦ここで切らせて下さい。ウルスナ戦線は次回に持ち越しになります。
----荒川美紀 視点----

 国境沿いで小規模な小競り合いが続いている中、アリスに乗艦している私の専属副官として任命されたエリスさんが功樹率いる『北方方面軍』の進軍情報を報告してくる。

「特務少将麾下の北方方面軍・第1強襲旅団はリンクドブル帝国領の湾岸都市『アスティ』を強襲攻撃。占領に成功しました」

「もう終わらせたの!? 随分と早いわね」

 いくら空母と戦艦を有する艦隊を率いて強襲したとしてもさすがに早すぎる。まさか実弾兵器を使用した訳じゃないでしょうね? 一抹の不安を感じながらエリスさんに報告の続きを促すと功樹が天才的な方法を使ってアスティを占領したのが分かった。 

「特務少将閣下はセイレーンから大気圏降下用の特殊カプセルを使用して出撃しました。海岸部へ強行着陸後に咆哮装置を使用したそうですが、この時カプセル内部で咆哮を上げた為に反響した音が指向性を持った音波となり半包囲していた騎士団に直撃。音響手榴弾が直撃したのとほぼ同等の衝撃を受けた帝国騎士団は全員気絶したそうです」

 あの子の事だから狙ってやったのでしょうけど……、反響させる為のスーツの位置と適切な音量を僅かな時間に計算して行動に移すなんて普通は人間に不可能だ。ヴィクトリアさんは功樹の事を魔神と呼んでいたが、母親の私としても最近あの子が人の枠をハミ出そうで怖い。最近『母さん! 見てよ魔法が使えるようになった』とか言われたらどうしようかと悩む事がある。 まぁそうなったら私も魔法を覚えて『息子は私の血を引く人間です』と言い張る事になるとは思うが───、今はそんな些細な事よりメルカヴァ戦線の推移が心配だ。

「エリスさん、前線の状況はどうなっているの? 早々にココを突破しなければ功樹が帝国領で孤立するわ」

「現在、メルカヴァ王国の2個騎士団が前面に展開中です。敵は亜人族の歩兵部隊を最前線に配置して本隊の温存を図っていると思われます」

 膠着状態という訳ね、死傷者は双方に出てはいないが決定打に欠けるので戦局自体も大きく変動しないのが問題になっている。そろそろ全面攻勢に打って出るべきかしら?

「陸上戦艦の弾薬損耗率は?」

「先程の第16次砲撃終了の時点で全艦50パーセントを切っています。一番損耗が激しいのは2番艦クレアで残りは32パーセントです」

 砲撃支援要請が入る度にクレアが支援攻撃を行っていたので仕方が無いとは思うが、遠からず役立たずになるクレアは一旦後方で補給を受けさせるべきだろう。爪を噛みながら決断した私はエリスさんに指示を出す。

「クレアに後方で補給を受けるように命令して頂戴、下がる前にクレアに搭載しているスーツはアリスとミキに分散して再配置させるように各艦の艦長に伝えるのを忘れないでね。それと『パンジャンドラム』を射出するから王国側に警報を出して」

「了解しました」

 私は椅子に座って足を組み直すが大切な事を思い出して通信担当の所に行こうとするエリスさんの後姿を慌てて呼び止める。

「紅茶を貰えないかしら? 砂糖抜きでミルクを少し」

「はい、お待ち下さい」

 笑顔で返してきたエリスさんを見送ってから、私は戦局を打開する為のプランをスクリーンに映る情報を睨みながら考え始めた。




「美紀さん、カシス王女とオーギュスト将軍が戦況の相談をしたいとアリスに乗艦許可を求めています」

「艦長が許可するならCICに案内して頂戴」

 紅茶を飲みながら大体のプランを練っていると王国側から『相談』を持ちかけられた。恐らくは相談ではなくこれ以上の戦線維持は不可能だという悲鳴を上げに来たのだと思うが、どうしても後10分程度は王国騎士団に持ち堪えて貰わなければならない。
 どうやってそれを伝えるかを考えていると、甲冑を身に着けて疲れた表情をしているカシス王女とオーギュスト将軍がCICに入室してきた。

「ミキさん、突然の訪問を謝罪いたします」

「いえ、大丈夫ですよ。それより騎士団が限界なんですね?」

 私の質問にカシス王女が泣きそうな顔で答えてくる。

「はい……。幸いノアの皆さんの尽力のおかげで死者こそ出ていませんが既に4つの騎士団が壊滅、残りの騎士団も敵の攻勢をもう一度防ぐのが精一杯です。黒金騎士団がこの場に居てくれたならもう少し持ち堪えれたのでしょうが……」

「彼らには重要な別の任務が任せられているので仕方が無い事です。それよりも今まで良く持ち堪えてくれました、ノアを代表してお礼を申し上げます」

 私が頭を下げると王女は慌てて『頭を上げて下さい』と叫んでいるが、これから壊滅状態の王国騎士団に『もう少し耐えろ』と言わなければならないのでどうしても誠意を見せる必要がある。私は下げていた頭をあげて王女の目を見つめながら先程考えたプランを話す。

「もう間もなく帝国の攻勢は限界点を迎えます。攻勢から守勢に転じる一瞬の隙を突いて陸上戦艦を敵陣に突入させ一気に敵の本陣を制圧する予定ですが……、その為には後1度だけ王国騎士団の皆さんに敵の猛攻を凌いでもらう必要があります。どうかお願いできませんか?」

「───分かりました。なんとしても持ち堪えるように騎士団に命令します」

 魔法具で騎士団に連絡を取りながら力強く頷いたカシス王女の許可を得られたので、私は指揮下にある全部隊に命令を下す。

「全部隊に通達! 陸上戦艦は敵陣への突入を準備。パワースーツ隊は王国騎士団の撤退支援に向かいなさい」

「2番艦クレアから通信。補給を終えて前線に復帰するとの事です」

 丁度良いタイミングの報告に思わず笑みが零れる、全艦が横1列に並んで帝国軍正面を圧迫すれば必ずどこかに隙間が生まれる。その隙間を目掛けて残ったパンジャンドラムを射出し無力化ガスを散布すれば敵本陣まで進撃ルートが開く筈だ、後はノアの強化外骨格を装備した機動歩兵隊で制圧すればこの戦線は突破できる。そう考えて多少安心しながらスクリーンに映る各部隊の配置図を眺めていると僅かな異変を感じた。

「右翼部隊が押されているわね……、戦車隊が展開している筈だけどなにかあったの?」

「現在情報が錯綜しています。戦車隊に直接連絡を取りますのでお待ち下さい」

 高火力と強固な装甲を有する戦車隊が簡単に撤退するとは考え難い。唯一考えられるのは上空からの対地攻撃だが、事前情報ではこの戦線の帝国軍にドラゴンライダーは配備されていなかった筈だ。援軍で来たとしてもアリスのレーダーで捕捉出来るだろうし一体何が起こっているのかしら?

「戦車隊から緊急通信! 『右翼正面に敵の大型兵器を確認、至急……大至急援軍乞う』以上です」

 大型兵器? 帝国軍にそんな技術力があるとは考えられないが事実として戦車隊は撤退している。取り合えず実際のその大型兵器とやらを見てみないと有効な対策が打てないと判断してスクリーンに右翼方面を映すように指示を出す。

「映像を切り替えます、殿を務めている戦車からの中継映像です。───そんなこれは」

 映像を切り替えたエリスさんがスクリーンに映った巨大な人型のナニカを見て絶句しているのが分かる。私達ノアが使用するパワースーツの5倍以上……、20メートルはありそうな巨人がぎこちない動きでこちらに向かって歩いていた。

「ジャイアントゴーレム!? そんなどうやって人間が動かしているの……まさか!?」

「カシス王女、アレがなんなのか分かるのですか?」

 私がカシス王女に詰め寄って質問すると王女は青い顔をしながら巨人について説明してくれる。

「あ、あれは『ジャイアントゴーレム』といって大昔に使われた攻城用兵器の1つです。ですが起動には莫大な量の魔力を使用するので人間族どころか亜人族でも扱えない代物の筈です」

「しかし現在、起動して我々に向かって来ています。どうやって起動させたか推測できますか? それとアレには人が乗っていますか?」

 カシス王女は眉を寄せて必死に考えていたが暫くして一つの結論に達したらしく、苦虫を噛み潰したような顔で推測した内容を教えてくれた。

「人は乗っていません、ジャイアントゴーレムは自動人形です。起動方法ですが……数百人単位で魔力だけではなく『ソル』───、ノアの皆さんに分かりやすく伝えると生き物が持つ『生命力』も使用して起動させれば動かす事が出来ます」

 その言葉に今すぐ虚数爆弾を使って帝国軍の本陣を消し飛ばしてやりたい気持ちに駆られるが、唇を噛み締めながらその気持ち堪え艦長に怒鳴りながら指示を出す。

「艦長! 実弾の使用を許可します。今すぐあの目障りな巨人を吹き飛ばしなさい」

「お言葉ですが本艦に搭載している弾種では周りにも相応の被害が出ますが、宜しいですか?」

 忘れていた……、無力化ガスの使用を前提にしていた為に陸上戦艦には単純な弾体の質量のみで目標物を撃破する砲弾は積み込んでいない。

「重武装のパワースーツ隊は?」

「先程から王国騎士団の撤退を支援しています。放棄して向かわせる事も可能ですがその場合は騎士団の損害率が許容範囲を上回る可能性があります」

「なんてこと!」

 ガンッと私は履いているヒールのつま先で提督席を蹴り上げる、このままでは右翼部隊が壊滅してしまう。相応の被害を覚悟してでも実弾兵器を使用するべきか? だがその場合は間違いなく死者が発生するので戦術的な勝利を収める事が出来ても戦略的には敗北したのと同義だ。

「美紀さん、右翼部隊の撤退ラインが限界点です。これ以上は」

「ミキさん、早急にジャイアントゴーレムを停止させないと帝国の術者達の命が危険です」

エリスさんとカシス王女が私に決断を促してくる。心の中で『決して戦死者を出さない』という約束を守れなかった事を功樹に謝ってから、主砲による実弾射撃を許可する命令を艦長に下そうと口を開きかけた瞬間……ノイズ交じりの通信がアリスのCICに響き渡った。

『……え…か……ノイズ……ひど……聞こえるか? ノイズが酷い為に全周波数帯で一方通信する。こちらは『地上襲撃機・オーディン』特務少将閣下のご命令で救援に駆けつけた。支援攻撃が必要な部隊は赤外線ストロボで目標を知らせろ、指示があるまでは眼下の巨人を攻撃する』

 どうやらまた功樹に助けられたようね。大空からゆっくりと地上に降下してくるオーディンが映されているスクリーンを眺めながら、つめたくなった紅茶を口に含んだ。




----オーディン機長 マルティン視点----

「少佐、今日も俺達は待機っすか?」

 射撃担当のルーカスが砲弾に跨って煙草を口に咥えながらボヤいている。火気厳禁の場所で煙草吸うとは度胸があるのか単純に馬鹿なのか判断が付かないが、腕の良い射撃手なのでチームから外す気は今の所は起きない。

「あぁ、いつでもスクランブル発進出来るように準備しつつ待機だ。それとソコから降りろ! 間違って誘爆でもしたら宇宙までぶっ飛ぶぞ」

「へーい。まぁぶっ飛んだ所で誰も気にしませんよ? どうせ俺達はいつでも待機の無駄飯食らいですから。地球にいた時も出番なんてありませんでしたが異世界でもやっぱり出番ないっすね。俺もスーツ装着者を目指せば良かったかな」

 ルーカスがヤル気無そうにボヤく気持ちも多少は理解できる。地球では配備する必要が無くなって退役した兵器は数種類存在しているが完全に退役させると問題が生じる兵器も2種類だけある。

 1つは『ミサイル攻撃型原子力潜水艦』でミサイル防衛技術が発達した今では無いよりはあったほうが良いという理由だけで各国に僅かながらも配備されている。

 2つ目は俺達が使用する戦略爆撃機が該当する。核兵器の全面撤廃だけが理由ではなく、その気になればパワースーツが航空機を撃墜できるようになった現代の軍事バランスでは、戦闘機より遅くて被弾面積も大きい爆撃機は無いよりは保有していたほうが良い『かも知れない』という原潜よりも残念な兵器として扱われている。
 そんな中でせっかく空軍に入ったのにも関わらず爆撃機部隊に配属されたルーカスの悲しみは分かるがもう少しヤル気を出して欲しい。

「おいルーカス、ジョンはどうした?」

 いつもならルーカスと一緒に煙草を吸っているジョンが居ない事を疑問に思った俺はヤツの居場所を質問する。

「あー、あいつなら30分くらい前に雑誌もって便所に行きましたよ。リンクの姐さんは向こうで爪のお手入れです」

 まったく、いくら仕事がないといっても自由過ぎるだろうが! 同じような境遇のトルストイの艦長と乗組員は厳しい訓練をこなして今では陸上戦艦を指揮しているんだぞ、お前らはもう少し見習えよ。
 そんな事を考えていると突然機内に設置してあるメインの通信端末が鳴り出し基地外部から通信が入った事を知らせるランプが表示された。どうせいつものように地上部隊の冷やかしだろう……、そう思いながら雑に通信ボタンを押して返答する。

「こちらオーディン機長・マルティン少佐だ。そちらの所属は?」

 この後で相手が続ける筈の『あれ? ピザの宅配業者じゃないの?』というセリフにどう返してやろうかと頭を捻っていると、画面に映る女性は眉を顰めながら返答してきた。

『私は北方方面軍総司令官である荒川功樹閣下の副官でクレア・ドーントレス中佐です。閣下が貴官に直接お話したいと申されましたので通信をしたのですが……随分の横柄な態度ですね』

 冗談だろう? 荒川功樹といえば修一さんの1人息子じゃないか。今頃はノアの主力部隊を指揮してリンクドブル帝国の制圧を行っている筈なのになんで俺みたいな下っ端の佐官に通信を送って来るんだよ!? いや、それよりもまずは謝罪しなければ下手をすれば軍法会議モノだ。

「申し訳ありませんでした! 待機が長引いたので弛んでおりました」

『本来ならば上官に対する口の聞き方を指導する所ですが……まぁ良いでしょう。閣下と通信を代わりますが間違っても失礼の無いようにして下さい』

 そう言ってクレア中佐が画面から出ると今度は優しそうな少年が画面に映った。俺達は修一さんを尊敬してノアに所属したので他の部隊のやつらのように功樹君の顔を見た事が無いが、美紀さんに似ている顔立ちをしているのでこの少年が功樹君で間違い無いだろう。

「オーディン機長のマルティン・アッヘンバッハ少佐であります! 閣下にお会いできて光栄です」

『荒川功樹です。そんなに畏まらなくて結構ですよ、どうぞ楽にして下さい』

『楽にして下さい』と言われたので直立不動の姿勢を取る事にする。後ろでルーカスが『座って足を組んでみて下さい』と小声で言っているので後で絶対に殴り飛ばそうと心の中にメモしておく。

『少佐が指揮するのは新型の地上襲撃機で間違いありませんよね?』

「はい、私の指揮下にあるのは地上襲撃機オーディンです」

 俺の返答に功樹君は満足そうに頷いている。確かオーディンを設計したのは功樹君本人だった筈だが自分の設計した飛行機がどんな人間に使用されているのか確認したかっただけなのか? そんな疑問を浮かべていると画面に映る少年は笑顔を浮かべた表情のままでとんでもない命令を下してきた。

『僕の持っている権限を使用してマルティン少佐に命令します。地上襲撃機オーディンは即時出撃、メルカヴァ王国方面で戦闘中の王国救援部隊を援護して下さい。ウルスナ帝国からの派遣されたドラゴンライダーの情報では王国方面に『大型攻城兵器』の出現が予測されますので、オーディンを以ってそれを撃破するのが作戦目標です』

「なぜそんな大役を私達に……」

 思わず口に出してからハッとする。上官にそれも総司令官に質問するなど今度こそクレア中佐に『指導』を受けてしまうだろう、だが何故俺達にそんな大役を任せるのか理解出来ない。
 功樹君の権限を使えばそれこそノア島に待機しているパワースーツ隊や戦闘機部隊を全力出撃させる事も可能な筈だ。黙って答え待っていると彼はニッコリと笑いながら返答してきた。

『だって格好いいじゃないですか、超大型の地上襲撃機が敵の攻城兵器を蜂の巣にするなんてロマンですよ! それに少佐もそろそろ待機には飽きたでしょう? 僕もこの前まで島に缶詰だったので気持ちを理解できます。憂さ晴らしがてら行って来てください』

 功樹君の言葉に一瞬唖然とするが直ぐに真意を汲み取る事ができた。ロマン云々はただの言い訳でつまりは俺達の事をいつも冷やかしてくる他の部隊を見返すチャンスをくれるという訳だ、それにこの救援作戦を成功させればもう二度と無駄飯ぐらいなどと陰口を叩かれる事もなくなる。
 その事に気付いたルーカスがいち早く機器のチェック始めだして、耳をすませてやり取りを聴いていたジョンとリンクは全員分のフライト装備を取りに格納庫に走っていったのが分かった。部下の行動を横目で確認してから俺はもう一度背筋を伸ばして敬礼しながら功樹君に返答する。

「必ず救援作戦を成功させ、予想される敵の大型攻城兵器を撃破してきます!」

 この返答に満足したのかは分からないが功樹君は2度大きく頷いてから『宜しくお願いします』と下っ端の少佐である俺に頭を下げて通信を切った。そのどこか修一さんと重なるような部下への思いやりに感動しながら久しぶりの実戦に俺は胸を高鳴らせた。




「少佐、もうちょいで戦闘空域に到着しますよ」

「『もうちょい』じゃなくて正確な時間で言え!」

 オペレーターのリンクがいい加減な報告をしてきたのでそれを窘めながら地上部隊と連絡を取ろうとするが先程から上手く通信が繋がらない、どうやら大量の通信を一度に行っているようで情報を処理しきれなくなったメイン端末が一時的にダウンしているようだ。

「正確に言うと後2分くらいですねー、それとノア島の司令部からの連絡で現在地上部隊との通信が一切取れないとの事です。どうします?」

 どうすると俺に聞かれても困る、そもそも精密爆撃が任務ではないので地上部隊から要請が無いとどれを攻撃していいのか俺達には判断できない。連絡が取れるまで上空待機するか? そんな事を考え始めた時、射撃手のルーカスが声を張り上げて報告してくる。

「出現が予測されていた『大型攻城兵器』を視認。なんか面倒なんでもう撃っちゃいましょう。どうせ後からあのデカブツをぶちのめすように指示されるんですから大丈夫っすよ」

「待て! 周りに友軍がいる状態でぶっ放したらさすがにマズイ」

 俺の射撃許可が下りないルーカスはブツブツ文句を言いながらターゲットスコープを覗いてるが今の状況ではなにも出来ない。下手に友軍を巻き込んで射撃すれば俺達を信頼して送り出してくれた功樹君にも迷惑が掛かる。
 なんとかして俺達の意思を地上部隊に知らせる事が出来れば射撃を始められるのだが……そうか! まだ仕官学校に在籍していた頃に教わった内容を使えばいいのだ。

「リンク、この戦域で使われている全周波数帯を掌握しろ。一方通信で構わないから俺達の意思を地上部隊に知らせるぞ」

 リンクは直ぐに空中管制機としての機能も持つオーディンの情報システムを操作して指でサムズアップしてくる。俺はそれを確認してからヘッドセットのマイクに向かって話しかける。

「聞こえるか? こちらはオーディンだ。ノイズが酷い……聞こえるか? ノイズが酷い為に全周波数帯で一方通信する。こちらは『地上襲撃機・オーディン』特務少将閣下のご命令で救援に駆けつけた。支援攻撃が必要な部隊は赤外線ストロボで目標を知らせろ、指示があるまでは眼下の巨人を攻撃する」

 これで良い、後は敵軍の歩兵を巨人の足元から離すだけだ。攻城兵器の撃破には殺傷能力が比較的低い軟鉄弾を使用するがそれでも人間に直撃すれば致命傷を与える事になる。どうやって歩兵を引き離すかが問題になるがそれはもう既に考えてある、俺はニヤつきながら副操縦士のジョンに命令する。

「飛行高度を下げて攻城兵器の周囲すれすれ飛ぶぞ。全長100メートルの巨体を誇るオーディンが地上5メートルを掠め飛んだら帝国人も驚いて逃げ出すだろうよ」

「了解! 腕がなりますねぇ」

 一旦戦域上空で大きく旋回してから機首を下げて地面に向かって突っ込むように加速する。十分な加速を得たところで水平飛行に移り時速1000キロ……マッハ0.8で地上5メートルを飛行すると機体からの衝撃波と轟音に驚いた帝国軍の兵士達が慌てて逃げ出すのを外部カメラで確認できた。
 だがこれだけでは終わらない俺達は戦略爆撃機乗りの中でも『エリート』と呼ばれた人間だ、そしてこの機体は天才の功樹君が設計してノアが開発した『オーディン』だ。

「リンク、ルーカス、ちゃんとベルトは締めているだろうな? 宙返りをするぞ!」

「少佐、前々から思ってましたけど一度ハッキリ言っておきます。アンタ馬鹿じゃないですか!? 爆撃機で曲芸飛行なんて出来る訳がうぉおおお」

 ルーカスの言葉を無視してオーディンの機首を一気に上げる、そのまま直角に上昇してから宙返りをすると逆さまになった地面に戦車隊の姿が見て取れた。俺は口元に伸びているヘッドセットのマイクをオンにしてからオーディンの代表として馬鹿にされ続けた部下達の代わりに戦車隊に向かって怒鳴りつける。

「戦車隊のクソ野郎どもよく見ておけ! お前らが散々馬鹿にしたピザ屋があのデカブツをぶっ飛ばしてやる!」

 通常飛行に戻ったオーディンの機内では曲芸飛行のせいで色々なモノが散らばっているが誰一人してそんな事を気にする人間は居ない、全員が戦車隊が撤退した相手をぶちのめす事に夢中になっている。

「ルーカス、ガトリング砲を使用して敵の攻城兵器を撃破しろ。出し惜しみはするなよ? どうせまた出番は暫く来ないんだから装備してある20門全部つかってバラバラに砕いちまえ」

「了解」

 俺の指示にルーカスがターゲットスコープを覗きながら狙いを定めて射撃準備を始める。このオーディンには120ミリ砲やミサイル発射装置の他に36ミリ口径のガトリング砲が20門装備されている、確かに戦車砲やパワースーツが装備している高威力の重砲と比べて威力は微々たる物だ。
 しかしそれらにはない最大の利点が存在している。戦車砲は自動装填装置を使用しても1分間に6発か早くて8発射撃するので精一杯だが、ガトリング砲では毎分3900発の射撃が可能になる。それが20門……単純計算で毎分78000発の射撃を受けた物体がどうなるか? 戦車砲を跳ね返すような強固な魔法障壁を展開していても同じ箇所に連続して着弾させたらどうなるか? ───結果は直ぐに分かる。

「射撃開始!」

 ガトリング特有のヴァーンという射撃音を残しながら36ミリ弾が攻城兵器に襲い掛かる。最初の3秒は着弾地点に紫色の発光現象を見て取れたが、5秒後にはなんの抵抗もなく着弾して弾丸の雨が人型の肩の部分を抉り取ったのが分かった。

「足だ! 足を狙って動きを止めろ。転ばせてからじっくり料理してやれ」

 俺の指示に射撃を止めずにそのまま足の方に照準を移動させたせいで既に巨人の上半身はズタボロになっている。足が千切れ飛んでうつ伏せに倒れるとここぞとばかりに上空から弾丸が降り注ぎ、巨人の頭部からつま先まで満遍なく射撃して最早原型が分からなくなった時……地上部隊から連絡が入った。

『救援軍司令官の荒川美紀よ。今回は危ないところを助けてくれてありがとう。でもそろそろ射撃を止めてもらえないかしら? 隣にいるカシス王女もアリスのCIC要員も引きつった顔をしているわ。やりすぎるとノアの評判が下がって今後の交渉に支障がでるからその辺で止めて頂戴』

 その言葉に冷静になった俺は未だに射撃を続けているルーカスに射撃を止めるよう命令してから、ノアの司令官でもある美紀さんに返答する。

「了解しました。攻城兵器を撃破しましたが他に支援攻撃は必要でしょうか」

『いいえ必要ないわ。貴方達のおかげで態勢を立て直す時間ができたし何より巨人が倒れた時点で帝国軍は戦意を喪失して撤退を開始しているわ。もう撤収して構わないからノア島に帰還して……、いえその前に燃料に余裕があるなら北方方面軍の上空を飛行して欲しいわね。戦意高揚の為と先程連絡が取れた息子がオーディンを見たがっていたからお願いできないかしら?』

「了解しました! これよりオーディンは北に進路を向けて飛行した後、北方方面軍の上空で展示飛行を行います」

 俺が敬礼したのと同時に画面が切れたのを確認してジョンに北に向かうように指示を出す。確か功樹君はウルスナ帝国から派遣されたのはドラゴンライダーと言っていた筈だ、同じ空を駆る者としてこの機体にどういう反応を示すのか今から楽しみでならない。




----荒川美紀 視点----

 オーディンが北に向かって飛んで行ったの確認して私は内心でほっとした。あんな『足を狙って動きを止めろ。転ばせてからじっくり料理してやれ』なんて野盗みたいなノリでいつまでも敵を攻撃されたら、隣にいるカシス王女や通信を聞いているウルスナ帝国の将兵達に妙な誤解を抱かれてしまう。
 あんなとんでもない飛行機を作り上げたのは功樹なのだからあの子にオーディンの乗組員達の面倒を見てもらおう……そんな責任逃れ的な事を考えているとエリスさんが話し掛けてきた。

「美紀さん、オーディンですが何であんな巨体で空を飛べるんですか? あれ100メートルくらいありましたよね」

「知らないわ、功樹がクリエーション・プログラムで設計した通りにモックアップで試作したら浮いたから技術部に制作を命じたの。ちなみに12発のエンジンの内どれか1つを僅かでも移動させたら飛ばなくなる謎技術の塊なのよ」

私の説明にエリスさんは目を大きく見開いて詰め寄ってくる。

「それは問題じゃないですか? なんで飛べるのかちゃんと功樹君に確認して下さいよ!」

「だってあの子『偶然だって! たまたま飛べただけで僕だって本当にあんなのが浮くなんて思って無かったよ』って言うだけではぐらかして教えてくれないのよ? 反抗期なのかしら」

 母親としての悩みを零すとエリスさんは押し黙ってしまった、きっと息子と上手くいかない行かない私に同情してくれているのだろう……。私はこの戦争が終わったら功樹とちゃんと話し合う事を心に決めてから展開している高速スーツ部隊に敵を追撃させる命令を出した。
 敵の視点はまだ出てきません。出そうとは思ったのですが話の流れ的に後から出したほうが面白くなるのでカットしました。どのように敵視点が登場するのかはご期待下さい!

1話1万文字だと『長すぎるかも』というコメントも頂いたのですが……申し訳ありません、文才の無さが原因でこれ以上短くできません。ご了承下さい。
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