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異世界に転生したんだけど俺、天才って勘違いされてない? <旧題  転生したんだけど俺なんか勘違いされてない?> 作者:にゅん

学院編 1年度 夏期休暇~異世界編~

43/77

魔神が孵る日

お待たせしました! 異世界編クライマックスの1話目です。
----荒川美紀 視点----

 功樹の言葉で不毛な戦いを止める事に賛同してくれたヴィクトリアさんと王女達を確認してから、私は同盟軍が行う戦略を説明する。

「先程も触れましたが同盟軍は基本的に防衛戦は行いません。敵が進撃してくるのであれば全力で押し返して追撃します」

 王国は西は海、北はリンクドブル帝国、東はラーギレ公国と逃げ場が無い状態で完全に包囲されている。南側は砂漠地帯が広がっているので軍の展開は事実上不可能だ。本来なら絶望的な立地条件だが、私達とウルスナ帝国が味方についている今の状況であれば逆にかなり有利な立地条件ですらある。私はスクリーンに衛星からの画像を映しながら同盟軍の進撃予定路を説明する。

「こちらをご覧下さい。これはメルカヴァ王国を中心に置いた地図で赤い凸マークが連合軍、青い凸マークが同盟軍です。情報部からの報告では連合軍は北と東から同時に攻勢を掛けてくると推測されています。ですので同盟軍は大きく3つに軍を分けて3正面作戦を展開します」

「ふむ、北と東の2正面作戦ではないのか?」

 スクリーンを見つめていたヴィクトリアさんが不思議そうな顔で質問してくる。この世界の文明レベルでは戦場といえば、騎士団が主戦力を担う『陸上』とドラゴン等を使役した僅かな数のドラゴンライダーが制空権を確保する為に戦う『空』だけだ。だが我々の技術をもってすれば『海』も主戦場となる。

「はい、3正面作戦です。ノアの主力部隊は海上から北側に位置するリンクドブル帝国の攻略を目指します。ですがその為には敵の主力部隊を王国側で食い止めて頂く必要があります」

「私達も出来る限りの力で連合軍を押し返しますが……、なにぶん兵力が」

 カシス王女が俯きながら告げてくる。北側から進撃してくる帝国の予測される兵力は12万……、確かに王国の騎士団だけでは一撃で蹴散らされるだろう。私は事前に修一さんと相談してあった事をカシス王女に伝える。

「ご心配には及びません、王国にはノアが所有するアリス型陸上戦艦を全て貸し出します。そちらの指揮下に入りますので使い潰して頂いて構いません」

「えっ!? ですが、主力兵器を私達に貸してノアの皆さんはどう戦うつもりですか?」

「なにか勘違いされているようですが陸上戦艦は私達の主力を担う兵器ではありません。むしろアレは技術力を誇示する為の宣伝用の兵器です」

 私の言葉に絶句しているカシス王女とアドリエンヌ王女を見て思わず笑いそうになる。自慢の息子である功樹が私達に注文してきた兵器はまだ他にもあるのだ、むしろそれらこそがノアの主力を担う強力な兵器になる。
 固まっている王女達を放って置いて、私はヴィクトリアさんにも大まかな戦略の説明をする。

「ヴィクトリアさん、ウルスナ帝国には東側の戦線を受け持ってもらいます。東側から進撃してくるラーギレ公国の予想兵力は25万です」

「25万か、いくら人間達が相手といってもそれだけの数となれば……ちと厳しいかの。妾達にもノアの力添えを頼みたい」

「分かりました、ウルスナ帝国には『飛行型駆逐艦オルトー』と1個旅団のパワースーツ隊を貸し出します。それらを使って戦線を突破して下さい」

 ヴィクトリアさんはオルトーについて疑問そうな顔をしていたが説明するより実物を見せたほうが早いだろう。元々は『航宙駆逐艦』だったオルトーを重力崩壊弾の技術を応用して大気圏内でも飛行可能にした代物なのだが、完成したオルトーを功樹に見せたらあの子は残念そうな顔をしていた。

『飛行型戦艦じゃないんだ。浮かんでる扶桑とか山城あたりを想像してたんだけど』

と言っていたがそんなサイズを浮かせる事は技術的に不可能だ。そもそも200年以上前の海軍が設計した船を飛ばしたところで何の意味があるのだろうか? そんな事を僅かな間考えたが直ぐに気を取り直して、その場にいる面々の顔を見ながら口を開く。

「非常に難しい戦いになると思いますが成し遂げれば必ずこの世界は変わる筈です。私達の力で未来を掴み取りましょう」

 私の言葉に全員が力強く頷くのを確認してから、3カ国連名で『人族連合』に対する宣戦布告文書のサインを取り交わした───。




----荒川功樹 視点----

 ヴィクトリアさんと王女さん達がそれぞれの国に帰った後、これからどうして良いか分からずに会議室のテーブルに座り続けていた俺に母さんが話し掛けてきた。

「こうちゃんは海から進撃する事になるけど頼みは貴方の装着する第8世代機よ。アリスちゃんを救出した時と同じように無力化ガスを戦場にばら撒いて頂戴」

「いや、それは良いけど……ノア島からだと僕のスーツでも航続距離の限界があるよ?」

 確かに俺のスーツは航続距離3200キロという長大な距離を移動できるが、限界までミサイルを積み込んだら半分程度の距離しか移動できない。母さんはそれをちゃんと理解してるのか?

「大丈夫よ。前に頼まれていたパワースーツ母艦が完成したから自由に移動できるわ」

 おぉ! 本気でアレを作ったのか、飛行戦艦は想像と違ったけど空母の方は想像通りだと良いな。後は俺が気合で作り上げた『咆哮』を上げる装置をスーツに取り付けて貰う予定だったけどもう終わってるのか? 信吾にデータを送ったら大絶賛だったからなるべく早く搭載して欲しい。

「母さん、頼んでおいた咆哮装置の取り付けは済んでる?」

 俺がそう言うと母さんは浮かべていた笑顔を引きつらせながら返答してきた。

「え、えぇ。終わってるけど本当にあの装置を使うの? もう少し別の声の方が良いんじゃないかしら」

 駄目だ! それは絶対に許さん、俺のスーツのモチーフは悪魔サタナキアなんだからアレ以外の声は認めない。あの声を作るのにどれだけ時間かかったと思ってるんだ!? 最高の出来なんだから今更変更する訳がないだろ。

「嫌だ、僕はアレが良いの。それと月面遺跡で見つけてきたデータで作った羽と尻尾もそろそろ開発が終わってると思うけど……」

「それも換装してあるけど、あんな外見で良いの? 後悔しない?」

 俺が大丈夫だと言うと母さんが小声で『育て方を間違えたかしら』なんて漏らしているのが聞こえるが、漢のロマンを理解しない母さんの方に問題があると思う。
 新しくなった俺のスーツは整備を担当している技術部で『改良型第8世代機』と呼ばれているらしい。改良点は3つで、今までの剥き出しだったスラスターを耐久面を考慮して6対の羽を模した装甲で覆う事にしたのが1つ目。バランサーを脚部の錘から腰部に取り付けた長い尻尾に変更した結果、四つんばいで陸上を高速移動可能になったのが2つ目。機体のカラーを黒から白と金色に変更したのが3つ目だ。
 ちなみにその改良に合わせてスーツ名も『サタナキア』と固有名を持たせる事にして、俺のコールサインもOF-7-001から『ゴエティア』に無理やり変更してもらった。

「美紀さん、出撃準備が整いました」

 新しくなった自分のスーツを想像して1人で悦に入っているとクレアさんが母さんに準備が整ったことを報告してきた。さすがに即応隊を準備してあるノアは急な開戦になっても体制を整えるのが早い、感心しているとクレアさんは表情を一切変えずに俺に話しかけてくる。

「功樹君のスーツも積み込みが完了しています。既に美紀さんの名義で北方方面軍の司令官就任の辞令が出ておりますので、なるべく早く集結予定地点に移動して下さい」

 待て、また俺が指揮するのかよ!? だからおかしいだろうが! そいうのはプロの軍人がやれよ、ノアは元国連軍のエリート達が集まってるんだから俺の出番なんてねぇから!

「あの、僕は実戦部隊に編入───」

「じゃあ、こうちゃん宜しく頼むわね! お母さんとお父さんはそれぞれ王国と帝国に協力するノア部隊の指揮をするから戦線を突破した先の合流予定地点で会いましょう。
 それと、サタナキアに付けた羽と尻尾だけどアレは私達の世界でもオーバースペックの代物なの。悪いけど戦争が終了したら全てのデータは破棄して装備品も破壊するわ、賢いこうちゃんなら理解してくれるわね」

 さらりと重要な事を言ってから席を立ってエリスさんと会議室を退出していく母さんの後姿を眺めながら、俺は本気でこの戦争が終わったら地球に帰ろうと決心した。





 3日後、ノア島から北に2600キロの海上まで進出した俺が指揮する北方方面軍は、最後の補給を受けてリンクドブル帝国の領海に侵入する許可が下りるのを待っている所だった。
 前の時のように軍事面が完全に駄目な俺の代わりに隣にいるクレアさんがノア島の指令センターと通信を行ってくれているが許可が下りたのだろう、表情を引き締めて俺に報告してきた。

「指令部より入電、北から進撃してきたリンクドブル帝国に対してメルカヴァ王国軍が国境にて戦闘を開始しました。同時刻、東側より王国領に侵入を図ったラーギレ公国の偵察部隊を発見したウルスナ帝国本隊が総攻撃を開始、現在は越境して追撃しているそうです」

ヴィクトリアさんが随分好戦的だなオイ! ちゃんと足並みを揃えてくれるんだろうか? 少々不安になってきた。

「以上の状況により、司令部は我々のリンクドブル帝国への侵入を許可。『帝国領の港湾都市を陥落させよ』と命令が届いております」

「分かりました、すぐに行動に移して下さい。細かい指示などはクレアさんと艦長さんに一任します。最良と思う判断をして下さい」

 俺の命令に2人が嬉しそうに答礼してくる。まぁそりゃそうだよな、俺みたいな何も知らないような若造が指揮するより自分達が指揮したほうが生存率が跳ね上がる。完全にお飾りなのは理解しているが、そこまで露骨に顔に出されると多少傷つくから止めて欲しい……。
 そんな事を考えながら俺は近くにいた女性の乗組員にコーヒーのお代わりを頼んでから座席に深く腰掛けて目を瞑った。

「方位3-1-1より接近中の飛行体あり! 数……40」

 いじけてコーヒーを飲みながらコンと遊んでいるとレーダーを担当の人が突然声を張り上げて報告してきた。敵の攻撃部隊か? だけど俺達がこの海域にいる事をリンクドブル帝国が知る方法は無い筈だ。どう対応するのか様子を窺っていると艦長が迎撃機を発進させようと指示を出していたが、その指示にクレアさんが待ったをかけた。

「司令部に確認を取りました。接近しているのは援軍として派遣されたウルスナ帝国所属のドラゴンライダー40名、隊長はマンティス族のアカトル子爵です」

 アカトルさん!? あのカマキリの人が援軍できてくれたのか! しかも40人のカマキリがドラゴンに乗って戦うのか、それを想像すると相当格好いいぞ。どうするかな……アカトルさんに会いたいから半分は俺の乗艦している空母に降ろしてもらいたい、ちょっとくらいなら我侭を言っても大丈夫だろ司令官だし。

「艦長さん、20名を本艦に残りを2番艦のマーメイドに降ろしてもらって構いませんか? アカトルさんにお会いしたいです」

「了解しました。誘導官! アカトル子爵を含む20名を本艦に着艦させろ。残りの方々はマーメイドに降ろせ」

 すんなりと着艦許可が出たので司令官の権限の強さを実感したが、それよりも今はアカトルさんだ。クレアさんに甲板でアカトルさんを出迎えたいと相談すると何故か『一緒に行く』と言われたので2人で甲板まで道を移動する。歩いている最中になぜ俺に付いてきたのかを聞いてみる事にした。

「クレアさん、アカトルさんは同盟軍ですよ? 1人で会っても特に危険は無いと思いますが」

「違います。私が心配しているのは閣下の悪い癖です、閣下は亜人族の方に偏見がなくどのような種族の方に対しても公平に接して居られますよね? 私個人としては地中工兵部隊のムカデ族の人は苦手ですが、そのムカデ族と一緒に食事を取る閣下の姿勢はノアの全職員が見習うべきです。ですが」

 『ですが』なんだよ? 俺は最近はそんな問題行動はしてない筈だぞ。ちゃんとオリハルコンもコートさんに預けたじゃないか!

「ですが、閣下は興奮すると亜人族の方と『直接』触れ合いますよね? マンティス族の方は兎も角……アルケニー族のイリヤ様を触れた時にクモ化している足を触ったそうですが、アレは人間に置き換えると『女性の太ももを執拗に弄っている』のと同義だったそうです。
 幸いイリヤ様は閣下に下心が無いことを理解していらっしゃいましたが、最悪『セクハラ』で訴えられます」

 マジかよ、今度イリヤさんに会ったら土下座しよう。というか他の亜人族の女性兵達が俺を避けるようにしていた理由が今更理解できた、間違いなくウルスナ帝国所属の兵士の中では『ノアの特務少将は変態』と囁かれてると思う。そんな思いに打ちひしがれながら甲板に出ると上空にドラゴンライダー達が到着した所だった。

「本当にカマキリがドラゴンに乗っていますね」

 クレアさんが驚いているが俺も異様な光景を見て言葉を失った。普通ドラゴンライダーといえば黒とか白銀の騎士が勇ましくドラゴンに騎乗している姿を想像するが、目の前のドラゴンライダー達は竜の背中に昆虫が乗っているのだ。俺の中のファンタジーのイメージが音を立てて崩壊するが、これはこれで格好いいので良いと思う。
 そのまま眺めているとゆっくりとドラゴンが旋回しながら甲板に着陸してくる、一番最初に降りてきたドラゴンライダーは豪華な剣を腰に差しているので魔王城で会ったアカトルさんで間違いないだろう。俺は久しぶりに再会したアカトルさんの所に駆け寄って話しかける。

「お久しぶりですアカトルさん。相変わらずカマが格好いいですね、また触らせて貰っていいですか?」

 さっきのクレアさんの一言で学習した俺はきちんと相手に許可を貰ってから触る事にした。アカトルさんは俺が傷つかないようにそっとカマを差し出してくれたのでそれを触りつつ、身に纏っている謎の素材で作られた光る胴当てを指で突いているとアカトルさんは話しかけるように口からカチカチ音を出した。

「カチ……、ギチチチ……カチカチ」

「アカトルさん、申し訳ないですがマンティス族の言語が分からないので翻訳魔法を使用して貰っても良いですか?」

 アカトルさんは俺の言葉に反応するように後ろに下がると空中に魔法陣を出現させた。今まで見た事がない本格的な魔法なので何が始まるのかワクワクして見守っていると魔法陣が強い緑色の光を放ってアカトルさんを包み込み、その光景を甲板上に居たノアの人達も驚いた表情で何が起きるのかを眺めているのが分かった。
 だが、光が収まった時に目に入った光景にその場にいた人間はさらに驚かされる事になる。

「これで言葉は伝わると思いますが、いかがですか?」

目の前にいる人間の言葉を話す『女性』は深緑色の綺麗なドレスを着て腰には豪華な剣を差していた。俺は混乱しつつもやっとの思いで口から言葉を出して女性に質問する。

「あ……え、あの……アカトルさんですか?」

「はい、ミンデーネ・アカトルです。あっ、ご挨拶がまだでしたね。ヴィクトリア陛下の命によりウルスナ帝国軍所属・ドラゴンライダー隊40名、少将の援軍として参上しました」

 アカトルって名じゃなくて姓かよ!? いやそれよりもだ、俺は先程アカトルさんの胴当てを触っていたが今は彼女の胸の辺りにそれが付いている。クレアさん風に説明すると『女性の胸を執拗に弄っていた』という訳だ、ならば今俺がするべき行動は一つしかない───。

「アカトルさん、申し訳ありませんでした!」

 俺は彼女の足元で甲板に頭を擦りつけながら土下座して失礼を詫びる事にした。




----アカトル 視点----

「アカトルさん、申し訳ありませんでした!」

 挨拶をした途端に地面に頭を擦りつけながら謝りだしたコウキさんに驚いて固まっていると、彼の隣にいた女性が状況を説明してくれる。

「閣下は知らなかったとはいえ、アカトル様の胸を触ったことに対して謝罪していらっしゃるのです。普段は大変優秀で聡明な方なのですが珍しい種族の方と接すると多少変人になります。
 この様子ですとアカトル様が女性だった事も知らなかったようですね。その点も踏まえて今回はどうかお許し頂けませんか?」

 なるほど、コウキさんは私達が人族の方に触られても特に気にしないのを知らないようですね。少しだけ面白いのでこのまま暫く眺めていたい気持ちもあるのですが……同盟軍の重鎮───、ましてや魔神陛下を地面に転がしておく訳にもいかないので早々に立ち上がってもらいましょうか。

「気にしないで下さい、私達マンティス族は人族の方に触れられても嫌悪感は感じません。ただ他の種族は気にしたりもするので気をつけて下さいね」

 私の言葉に目を潤ませながら立ち上がったコウキさんは尚も頭を下げて謝りながらも質問してきました。

「アカトルさんは女性だったんですね。僕はてっきり男性だと思っていました、帝国軍では女性兵が多いのですか?」

「いいえ、そういう訳ではありませんが昆虫型の種族は基本的にメスの方が強いのです。ですので他の種族は男性の比率が多いですよ」

 私の説明にコウキさんは納得したように頷いていますが、正直私としてはそんな些細な事よりもこの船の方が気になります。陛下に命じられてノアの皆さんの援軍として出立する前に説明がありましたが……、まさか本当にこんな船が海上に浮いているのを上空から見た時は心臓が止まるかと思いました。部下も甲板や壁を触って興味津々といった様子なので質問してみましょうか。

「少将、この船ですが船体は『氷』ですよね?」

「その通りですよ。この船の名前は『氷山型パワースーツ母艦・セイレーン』、向こうに見える形状が少し違う船が『氷山型戦艦空母・マーメイド』です。僕の冗談を真に受けたノアの技術部が作り上げた新造艦ですよ、結構大きいでしょう? 僕達が使用する単位で全長が700メートルあります」

 間違っても『結構大きいでしょう』で済まされる大きさではないですが……、魔神陛下のお言葉なので黙って聞き流す事にしましょう。ふと横を見ると部下が自分のカマで氷の強度を確かめているのを見つけたので慌てて止めに行くと、それを笑いながら見ていたコウキさんが冗談のような事を言ってきました。

「ここは冷えるので中に入りましょう。昼食の時間も近いですし他のマンティス族の人も中で食事をとりませんか?」

「私達のような亜人種と人間族が食事を一緒にとるのですか?」

「はい、ノアにはそんな事を気にする人は居ませんよ? ただ亜人種ではなくて単に昆虫が苦手な人もいるのでそういう人には余り近づかないで下さいね」

 私達は心の片隅でいまだに人間の事を信用していませんでしたが、どうやら異世界人であるノアの人達の事は本当に信頼しても大丈夫なようです。私は感謝を込めてコウキさんに『ご一緒させていただきます』と言ってから、先程注意したにも関わらず氷を削っている部下を張り倒す事にしました。




「え、じゃあ僕は別に変態扱いされてないんですか?」

「はい、皆が少将に近づかないのは貴方が魔神と呼ばれる存在だからです」

 コウキさんと一緒に食後のお茶を飲んでいると『帝国軍の女性兵に嫌われているのではないか?』と相談を受けました、どうやら私やイリヤの体を触った事が原因だと思っているようですがそれは違います。
 『ヴィクトリア陛下より上位である魔神陛下に話し掛けるのは恐れ多い』というのが大半の女性兵の意見だと説明すると、何故か困惑したような顔で否定してきました。

「僕は魔神なんていう存在じゃないですよ。それこそコイツ……、コンの方がその名前に相応しいです。エンシェントドラゴンですしね」

 そう言ってコウキさんはテーブルの上で果物を食べているコン様を掴み上げていますがそういう話ではないのです。私達亜人族には大昔から伝わる御伽噺───、いいえ一つの言い伝えがあります。

『時の狭間より悪魔が現れた時……世界は終焉を迎える。然る後、悪魔は再生を司る魔神へと昇華して世界は生まれ変わる』

この言い伝えは今のノアの皆さんの事ではないでしょうか? その証拠に異世界と私達の世界とでは時間の進みが違うと聞きました。そして何より『悪魔』とはコウキさんが身に纏う甲冑を指しているのだと思います。
 その事を説明しようとした時、先程お名前を教えてもらったクレアさんが部屋に入ってきてコウキさんに話し掛けました。

「閣下、作戦開始時刻まで残り1時間です。準備をお願いします」

「分かりました。えっと、援軍の皆さん全員は無理でしょうけどアカトルさんだけはCICの入室を許可して頂けませんか? わざわざ援軍に来てくれたのですから僕達も誠意を持った対応をした方が良いと思います」

「はい、当然そう仰ると思って艦長から事前に許可を貰っています。アカトルさん以外のマンティス族の方には佐官用の娯楽室の使用許可を貰ってきましたのでそちらでお休み下さい」

 そう言って私を案内してくれるクレアさんの後について移動していると、途中でコウキさんだけが別の通路に向かったので疑問に思った私は質問してみる事にしました。

「少将は別の部屋で観戦するのですか?」

「いいえ、閣下は作戦開始と同時に出撃します。北方方面軍……というよりノアの中で最強のパワースーツを装着する閣下は我々の主力です」

 司令官自らが出撃するなんて異世界の常識が理解できませんが、なんとなく無傷で帰ってきそうな気がするのでなにも言えません。そんな事を考えながら歩いていると頑丈な鉄の扉が付いた部屋の前に着きました。
 扉の両脇には『ライフル』とノア島で教えられた武器を持った兵士が警備していて一目でここが重要な部屋だと理解できます。

「アカトル様、ここがCICと呼ばれる全ての戦闘を管理する部屋です。申し訳ありませんが中に入りましたら決して機材に手を触れないようにお願いします」

「分かりました」

 開けられた扉に入ると明るい青い光で照らされた室内で何人もの人が機敏な動きで作業しているのが見えて私がどこにいれば良いのか分からずに困っていると黒い軍服を着た男性が笑顔で話し掛けてきてくれました。

「セイレーン艦長のカーターです、ウルスナ帝国からの援軍を歓迎します。こちらの席にお座り下さい」

 お礼を言ってから勧められた席に座るとカーターさんは部屋の設備とこれからの予定の説明を分かりやすく説明してくれました。

「あそこで外を映しているのが大型スクリーンといって遠く見る魔法具と同じ働きをします、右側の丸いスクリーンがレーダーで条件次第では水平線の向こうにいる相手も捕捉できる道具ですね。
 他の機材は説明しても理解が追いつかないと思うので割愛して今後の予定についてご説明します。
 この後、45分程で我々はリンクドブル帝国領の湾岸都市を攻撃範囲に収めます。攻撃範囲に入ったと同時に閣下の装着するパワースーツ『サタナキア』が敵の防衛施設と推測される場所に突貫、無力化ガスを散布した後に後続のパワースーツ隊が制圧に向かいます。
 今回は敵国とはいえ民間人が多数居住している都市の攻撃なので艦船の主砲は使用しません」

 カーターさんの説明だとなるべく最小限の被害で都市を制圧するつもりのようですね。どこまでも相手を傷つけないように気をつかうノアの姿勢に感心して座っていると、クレアさんが飲み物を用意して持ってきてくれました。それを飲みながら動き回っている人を眺めて作戦開始時間を待っていると、スクリーンにコウキさんの姿が映りクレアさんと会話を始めました。

『聞こえますか? 準備は終わりましたけど……、なんでこんなカプセルに入る必要があるんですか』

「閣下、それは大気圏降下用の装甲カプセルです。耐熱・対ショックともに最高レベルの防御性能を持っていますから敵陣に突入する時に使用するにはうってつけの装備ですよ。まさか戦場に向かうのに『格好いいから飛びたい』なんて言いませんよね? いくら閣下に天才的な操縦の才能があったとしても危険なので許可できません」

『…………はい』

 随分と長い間を空けてから返事をしましたが少将は空を飛んで行きたかったのでしょうか? さすがになにも考えなしに敵陣上空を飛行するのはドラゴンライダーとして空を駆るのが専門の私も反対です。
 クレアさんが言うように本当に聡明な人なのかとコウキさんの人物像の判断に困っているとカーターさんが大きな声で指示を出し始めました。

「攻撃予定地点まで180秒、サタナキア射出準備!」

『準備完了、射出の衝撃に備えています。カウントどうぞ』

「160、159、158──」

 それまでの優しげな表情を消してコウキさんは真剣な顔をしながら出撃にそなえています、今私に出来る事はコウキさんとその後に続くノアの兵士の皆さんが無事に帰ってくる事を願うだけです。長年一緒に戦ってきた部下が戦場に赴くのを見送るような気持ちで祈っていると、ついにその時がきました。

「5、4、3、2、サタナキア射出!」

 カーターさんが言った瞬間、スクリーンの映像が変わってリンクドブル帝国の湾岸都市が映し出されそこに向かって大きな物体が飛んでいくのが見えました。海岸に落ちた物体を拡大したスクリーンには何かの『卵』のようなモノが映っていますがアレがカプセルと呼ばれるモノなのでしょうか? 
 中にコウキさんが入っている筈ですが何も動きがありません……、部屋にいる人達も慌て始めた時にコウキさんの声が聞こえました。

『あの、カプセルの開閉装置が故障して開かないのですがどうしたら良いですか?』

「強制的に排除して下さい。閣下のサタナキアでなら殴れば壊れます」

 クレアさんが少し疲れたようにコウキさんに返答していますが彼には戦場にいる緊張感がないのでしょうか?どこか暢気な声でコウキさんは『分かりました』と答えた後でガンッ! ガンッ! とカプセル殴っている音が聞こえてその音に合せるようにスクリーンに映る卵が割れ、内部から手が出てきたのが見えました。
 やがて腕……頭……上半身と徐々に卵から悪魔の姿が出てきて最後にズルゥと長い尻尾が付いた下半身が卵から出た時、スクリーンに映る悪魔は押し込まれていた事に対して不満を叫ぶかのような声を上げました。

『グギィィギャアアァァアァ!』

 その完全に音程が狂った声を聞いて私は確信しました。きっとあの咆哮は卵から孵った魔神がこの世の全ての生き物に『世界の終焉』を告げているのに間違いありません───。




----荒川功樹 視点----

 装甲カプセルから出るのに苦戦していると間違って咆哮を発するボタンを押してしまった。ボタンを押した瞬間に調弦をミスったバイオリンみたいな声がサタナキアの外部スピーカーから流れたが予定では格好良く空から降下する時に使用する筈だったので後悔の念しか浮かばない。
 せっかくサタナキア降臨! みたいな感じでやろうと思ったのに台無しじゃないか。不貞腐れながら脱出の衝撃で俺の頭上に乗っているコンに八つ当たりをしようとして尻尾を掴んで膝の上に降ろすと、『コキュゥ……』と可愛らしい声を出して目を回していたのでそっと撫でてやりこれからの予定を考える。
 取り合えず膝の上のコンを揺らさないようにカプセルから脱出した事をクレアさんに知らせるか。

「カプセルからの脱出に成功しました。これより敵施設の制圧に───」

『閣下どうしました? なにか非常事態が発生しましたか!?』

 スピーカーの向こう側でクレアさんがなにか叫んでいるが俺の耳には入らない、通信と同時に外部カメラで海岸の様子を窺ったのだが海岸に着地した俺を包囲しようとしていたと思われる帝国の騎士団が全員地面に倒れているのだ。
 まさか……、脱出の際に騎士団の人を撥ね飛ばしたりしたのか? パワースーツで生身の人間を殴ったら間違いなく死ぬぞ、俺は背中に冷や汗が吹き出るの感じながらスーツを騎士団の人に近づけてそっと生体反応をスキャンする。

「息はしている……。心臓も動いてるみたいだし気絶してるだけか?」

 一安心して周りを見渡すと気絶していない騎士団の人が馬みたいな生き物に跨って逃げ出す所だった。丁度良いからあの騎士になにがあったのか事情を聞くか。いつまで経っても俺の事を攻撃してこないし一体なんだよ? 逃げる騎士を4足歩行を使用しつつ高速で追いかけて右手で掴んで話しかける。

「あの、一体どうなってるのですか? この国は同盟軍と戦争中ですよね何故攻撃してこないのですか」

[離してくれ! 頼む俺には妻も子供もいるんだ! 食わないでくれ]

 しまった、翻訳魔法を使ってないから騎士が何を言っているのかさっぱり分からん。セイレーンにいるアカトルさんなら翻訳してくれそうだな、通信機を使ってCICにいる筈のアカトルさんに話しかけると直ぐに騎士が喋っている内容を教えてくれた。

『少将……その人族の騎士は怯えています。言い難いのですが悪魔が高速で追いかけてきたら誰だって食べられると勘違いしますよ』

 その言葉に慌てて手を離すと騎士は腰が抜けたように這いながら逃げていった。そんなに俺のスーツが怖いのかよ!? 駄目だ……、異世界の人間は誰もロマンを理解していないので戦争が終わったら同盟軍を中心にサタナキアの格好良さを普及しなければ。そんな事を考えていると続けてクレアさんからも通信が入る。

『閣下、砦の正門の開放と白旗を確認しました。都市の継戦能力は損失したものと判断します、後は後続隊に任せてセイレーンに帰還して下さい。お疲れ様でした』

 いや『お疲れ様でした』って俺まだ何もしてねぇから! なんで艦長さんも『さすが閣下ですね』とか感心してるんだよ。激戦の中で後続隊の人に『ここは僕に任せて前進してください』とか格好良く言う練習も鏡の前でしたのに全部無駄になったのかよ! 
 クソッ、もう帰って不貞寝しよう。俺はセイレーンに帰還した後はCICに寄らずに自室に直行することを決めてから膝の上のコンが揺れないように抱きしめてスラスターに点火した。





 この日の夕方……、難攻不落を誇ったリンクドブル帝国の湾岸都市である『アスティ』が僅か数分で陥落したとの情報を入手した帝国首脳部は、当初あまりの馬鹿馬鹿しさにその情報を一切信じていなかった。
 しかし一部の反戦派が独自に調査隊を派遣した所、アスティから撤退してきた防衛駐留部隊の報告で情報が真実だと知らさせる事になる。この時点で有識者達は戦争の行く末に僅かながらの不安を抱く事になるが、深夜になって各方面からの『連合軍敗走』の絶望的な報告を聞く事になるとは未だ想像していなかった。
読者の皆様をお待たせした事に土下座いたします。次回はメルカヴァ戦線・ウルスナ戦線のお話になります。陸上戦艦とかそのへんのイロモノ兵器達が活躍しますよ!

氷山空母は『デルタ様』、亜人族の言い伝えは『サルソン様』、卵の描写は『sky様』よりアイディアを頂きました!

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