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異世界に転生したんだけど俺、天才って勘違いされてない? <旧題  転生したんだけど俺なんか勘違いされてない?> 作者:にゅん

学院編 1年度 夏期休暇~異世界編~

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北大陸

27日に挿絵を更新しております。まだご覧になっていない方はぜひどうぞ!
----荒川美紀 視点----

「えー、ですからキャプス王国に対するノアの戦略としては───」

 報告会が終了して戦略会議が開かれている中、軍事部の説明を聞いているとクレアさんが足早に私に近づいてきて小声で話し掛けてくる。

「失礼します。御子息にノア島からの外出許可を出されましたか?」

「いいえ、そんな許可は出してないわよ」

 クレアさんは何を言っているのだろう? 確認するまでも無く私が功樹に対して外出許可なんて出す訳が無い。そんな事を考えながら彼女の方を見つめていると、耳元の通信機で連絡を交わす度にクレアさんの顔色が変わっていくのが分かった。その顔色を見て私は何か嫌な予感を感じる。

「御子息は現在、女史から外出許可を貰ったと周囲に説明して『スーツ発着場』にて待機しています。管制センターの方に女史名義で緊急停止命令を出しますが、宜しいですね?」

「え、えぇ。お願い」

 あの子は何を考えて『嘘』を吐いてまでノア島の外に出ようとしているのかしら? 特にノア島で不自由な思いをさせた訳でも無いし、本当は反対だった射撃訓練も渋々許可した。
 今まで私の言う事を聞かなかった事など無かったのにどうして突然……。功樹の行為についての原因を必死に考えていると、クレアさんは悲鳴を上げるかのような声色で報告してくる。

「緊急事態発生! 功樹君は管制官の指示を無視、無許可でスラスターに点火して離陸しました。現在、王国方面では無く別大陸に向かって進路を取っています!」

「直ぐに通信を送ってノア島に引き返すように命令して! 無理ならこちらからのリモートコントロールで強制的に着陸させなさい!」

「不可能です! 功樹君はスーツ側から一切の通信を切断しているので現在有効な連絡手段を持ちません。 リモートコントロールも電子戦を考慮して第8世代機には搭載していません、完全なスタンドアローン方式です」

 なんて事! 息子を守るために搭載していた技術が完全に裏目に出た事に私は爪を噛みながら考えを巡らせる。幸いスーツに搭載している位置情報を知らせる装置を遮断していないという事は、最悪の事態である『反乱』を起こした訳ではないと考えられる。
 反乱で無いとするならば、『何処に向かって何をするつもりなのか?』が問題だ。ここに居ては何も解決できないと判断して、私は会議の一時中断を宣言する。

「戦略会議は中断します。息子が無許可でノア島から離れました、軍事部・技術部及び通信担当の全職員は全力で功樹の追跡を開始して下さい」

 私の一言で一斉に自分の部署に向かって走り出す職員の姿に満足して、私自身は地下に設置してある指令センターへと向かって走り出した。



 指令センターに来ると衛星で功樹の追跡を行っている職員が私の姿を見つけて現状を報告してくる。

「功樹君は現在、高度1万8千メートルを巡航速度で飛行中です。何度か進路を変更しましたが今のところは北にある大陸に向かって飛行しています」

「では人口密集地域に向かっている訳ではないのね?」

 私の質問に職員が『はい』と返事を返してくる。良かった……取り合えず何かの拍子に功樹が人間達を虐殺するという事態はなんとか避けられそうだ。北の大陸には何があるのだろうか? 功樹の求める何かがあるのか、それとも私達に真の目的を悟らせない為の欺瞞行動なのか判断がつかない。衛星からの情報を解析している職員に北大陸に何があるのかを質問してみる。

「北側の大陸はほぼ全てが高濃度の魔力地域です。特に功樹君が興味を示すような場所は無い筈ですが……」

 やはり欺瞞行動なのか? 全く目的の分からない息子の行動に頭を悩ませていると、修一さんが険しい表情をして資料を印刷した紙を私に見せながら話しかけてくる。

「功樹が持ち出した個人武装とスーツに搭載した兵器の目録だ。あの馬鹿、とんでもねぇモンを持っていきやがった」

 渡された目録を読んで私は息が詰まりそうになった。功樹自身が装備しているのは、ショットガン1丁に弾薬が50発だけの軽装備だが問題はスーツの方だ。試作型180ミリ電磁投射砲とパイルバンカーは基本装備なので持って行った理由は納得できるが、背面部に装着したミサイル発射装置に積まれているミサイルの弾頭がとんでもない代物だった。

「あの子……、『虚数兵器』を持っていったの?」

 私が漏らした言葉に指令センターのざわめきが一瞬で静まり返る。月面遺跡で出会ったアダム人のイヴですら最終兵器と位置づけていた虚数兵器を持っていくなんて本当にどうかしている。遺跡から回収した資料と功樹の説明から、試しに1発だけ試作した虚数爆弾を目敏く見つけて持っていくなんて管理を怠った私のミスだ。
 理論上、あの兵器を炸裂させれば小型のブラックホールが周囲2000キロを完全に消滅させる能力が発揮される。まさか試し撃ちでもするつもりで何も無い北側大陸に向かったのだろうか?

「美紀どうする? 功樹なら簡単に振り切るかも知れんが、俺の部下に指示して追いかける事も可能だ」

 修一さんの言葉にそれも良いかも知れないと考えるが、その行為に功樹が光学迷彩の起動とスーツの位置情報を切断して対抗した場合、完全に追跡が不可能になるので今はまだその手段は採用するべきではない。だが……、これといった有効な手段も浮かばないまま時間を消費していると功樹を追跡していた職員が事態の急変を告げてきた。

「功樹君がスーツの高度を下げています! 現在地は北大陸の内陸300キロ地点、高度は8000メートル。更に降下中、4000・3500、2000……えっ!? 高度1200メートル付近で衛星から消失しました!」

「光学迷彩を起動したの? まさか墜落した訳ではないでしょうね!?」

「不明! ですが光学迷彩の使用は確認していません。同じく墜落の可能性も考えられません、スーツの位置情報は正常に動いています。消失した原因は解析中」

 私は原因の解析が早く終わることを願いながら、スクリーンに映る功樹のスーツの位置情報と生体反応を見守る事しか出来なかった。





----荒川功樹 視点----

 コンが示す方向に飛行していると途中で海を泳いでいる巨大なタコみたいな生き物を見つけたのでカメラをズームさせる。ゆったりと海上を進む姿に興奮しながら眺めていると、更に巨大なクジラのような生き物がタコを捕食しようと襲い掛かったのが見えた。

「すげぇな! おいコン見てみろよ、タコとクジラが戦ってるぞ」

「コン、コーン」

 コンも興奮して先程から尻尾を激しくパタパタさせている。もっと高度を下げて近くで観察したいが、高度を下げると空気抵抗で燃料が余分に消費されるので今回は諦める。
 やがてクジラ達が見えなくなると通信装置が点滅を始めたのが分かった、多分ノア島にいる母さんが通信を送ってきているのだと思う。今通信を返すと確実に帰って来いと言われる筈なので気付かなかった事にして、膝の上でチューブから水を飲んでいるコンに問いかける。

「コン、もう直ぐ北の大陸に侵入するけど方向は大丈夫だよな? どの辺から強い魔力を感じるんだ?」

「コン!」

 コンは尻尾を器用に使ってペシッとレーダーに映る1点を指す。ふむ、内陸部の300キロ地点か……ギリギリ行って帰ってこれる距離だな。ただ王都でオリハルコンを鍛冶屋に引き渡すと、王都からの帰りは飛行じゃなくて通常の歩き移動になる。しかも途中のノアの前哨基地で燃料の補給が必要になるが、まぁ良いか! オリハルコンさえ手に入れば怒られて地球での謹慎処分を食らったとしてもコートさんとかに取りに行ってもらえるから大丈夫だ。

「よし、目標上空で高度を下げるぞ。もう少し経ったら武器の安全装置を解除するから、お前は僕にしがみ付いておけ」

 俺の言葉で強化外骨格の首元にしがみ付くコンを撫でてから徐々に高度を下げ始める。高度8000メートルで武器の安全装置を解除して不意の戦闘に備えつつ、更に高度を下げていると妙な感覚を感じた。

「なぁ、今なんか変じゃなかったか?」

「コン……」

 どうやらコンも同じ感覚を感じたようで気持ち悪そうにしている、高度計で現在の高度を確認すると1000メートルと表示されていた。という事は1200付近で何かを感じた計算になるが、気のせいだったのか? 再上昇して確認したいが燃料の残量が気になる……。幸い体やスーツに問題は無いのでそのまま高度を下げ続け、高度200メートル付近で目標に向かってゆっくり飛行していると正面に庭園のようなモノが見えた。コンがその方向を尻尾で示しながら激しく鳴いているので、その庭園が目的地で間違いないだろう。

「分かった、分かった。あそこに行くから静かにしろ! 耳元で鳴かれるとうるさい」

 しょんぼりしたコンを無視してスーツを庭園に着陸させる。エンジンを切って周囲を窺うが問題は無いようだ───、シートの横に置いてあるショットガンに弾を込めながら降りる準備をしていると、コンは口に紙を咥えて見せてくる。

『絶対に強化外骨格を脱がないで下さいね。それと銃は安全装置を解除して常に発砲できる状態にしておいて、撃つ時は訓練で教えられたように落ち着いて胴体を狙って撃って下さい。ご主人様は射撃の才能が皆無なのですから頭なんて狙っても当たりません』

 うるせぇ、人が気にしてる事をさらっと書いてるんじゃねぇよ。最初はマッチョにライフルの射撃を教えてもらっていたのだが、壊滅的に才能が無くて結局は取り合えず撃ったら当たるショットガンを使うように勧められたのだ。コンの野郎その場に居なかった癖になんで知ってやがる。
 俺は黙って頷いた後、弾を込め終わったショットガンの薬室に初弾を装填してからスーツのコックピットを開いた。

「この辺の石ならオリハルコンに変換できるか?」

「コン……、コン! コンコン!」

 外に出てコンにどの石なら良いかを質問するが、どうやら俺が持っている石では無理らしく向こうに転がっている石を尻尾で指したので移動しながら他にも見た事が無い石も適当に回収しておく。

[こんな所で何をしておるのじゃ?]

 指示された石を回収していると、突然後ろから声が聞こえてきて驚きながら振り返り銃を構える。声のした方を確認すると額から2本の角が生えた美人なお姉さんが遠巻きに俺を観察しながら近づいてくるところだった。
 ちゃんとした服を着ているし警戒した様子を見せているから、多分知性はあると思う。俺は一旦、銃を降ろして外骨格に付いている翻訳機を作動させて話し掛けてみる。

「こんにちは」

[ほう、エルフ語を話すのか。お前はエルフなのか?]

 ヤバイ……お姉さんが何を喋っているのか全く理解できない、というかちょっと怖いので銃を構え直す。お姉さんがまだ俺に近づいて来るなら警告射撃してから全力で逃げよう! 心の中で逃げ出すタイミングを図っていると、それまで石を齧って強度を測っていたコンが久しぶりの咆哮を上げた。

「グラァァアァァ! グルルゥ……グラァァ!」

「わ、分かった。そなたの言うとおりに翻訳魔法を使えば良いのであろう!? だからその様に吼えるでない」

 急にお姉さんが俺にも分かる言葉を話し始めた。翻訳魔法がどうたら言っていたのでアディーさんと同じ魔法を使ったのだろう。取り合えず話し合いが出来る事に安堵してお姉さんは誰なのかを質問してみる事にする。

「妾か? 妾は───」

「グラァァア! ガルゥ」

「ヒィッ!? 分かったこれ以上近づかないのじゃ! おい! エルフの少年、そのホワイトドラゴンをどうにかしてたもれ。妾の事を『食い殺す』と騒いでおるのじゃ」

 お願いされたので俺は隣で威嚇しまくっているコンを掴み上げてスーツのコックピットに向かって放り投げる。放物線を描いてコックピットに吸い込まれたコンを確認してから改めて質問してみる。

「申し訳ありませんでした、改めてお姉さんは誰ですか?」

「妾はヴィクトリア、誇り高きロア族最後の生き残りじゃ」

 ロア……ロアって確か上位精霊だったような気がする。という事は目の前にいるお姉さん───ヴィクトリアさんは相当凄い人なんじゃないのか? エルフ族とは違って本当に異世界っぽい種族の人に知り合えた事に感動していると、ヴィクトリアさんは俺を指差して質問してくる。

「ところで、お主はどうやって妾の庭園に入り込んだのじゃ? いやそれよりも何故エルフのお前が平然とこの大陸で生きておるのじゃ、普通ならこの大陸の魔力に当てられて死んでいる筈」

 どこから説明しようか? そもそもヴィクトリアさんは俺の事をエルフだと勘違いしてるっぽいし説明が大変だな。俺が頭を悩ませていると、コックピットから顔を出したコンが先程とは違って少し音量を抑えて吠え出した。

「グラァ、グルルルゥ…」

「む? ふむ、そなたの言う通りじゃ。確かにここでは客人を持て成すのに相応しくない、城に案内しよう」

 ヴィクトリアさんはコンと普通に会話できる様子で、コンから何かを言われたらしく付いて来るように伝えてから背中を見せて歩き始めた。俺はコンを抱きかかえながら一体何を言ったのかを聞いてみると、コンは紙に文字を書いて俺に見せてくる。

『ワタシの言葉を理解しているようなのでお茶の準備を要求しました。エルフにも飲める種類を要求したのでご主人様も飲めますよ』

 なに勝手にそんな事をしてるんだよ!? せっかく良い感じに遭遇できたのに相手を怒らせたら元も子もねぇぞ。俺はコンに変な要求をしないよう釘を刺してからヴィクトリアさんの後ろを追いかけ始めた。



 城の中に入ると大聖堂のような空間が広がっていた。天井には絵が描かれたステンドグラスが嵌められて、城の内部へと入るにつれて物語が進んでいく仕掛けだった。それを眺めながらヴィクトリアさんの後ろを付いていくと庭園が見えるテラスに案内された。

「座るがよい。今メイドに茶を持ってこさせる」

 そのまま待っていると体の周りが冷気で覆われたメイドさんがお茶を運んできた。なんだろう? この人は氷霊族かそれに近い種族なのか? 無言でお茶を淹れて去っていくメイドさんを眺めているとヴィクトリアさんが質問を再開した。

「それで先程の続きだが、お主はどうやって庭園に入り込んだのじゃ?」

「えっと空を飛んで来ました。いや! そんな微妙な表情をするのを止めてください! 全部説明しますから。そもそも僕はエルフではありません、僕達は───」

 ラズベリーに似た味のするお茶を飲みながら、俺はヴィクトリアさんに庭園に来た過程を説明する。元々はこの世界の住人では無い事、元の世界で居場所が失われつつ在ったから異世界に転移してきた事、メルカヴァ王国と国交を結んだ事、オリハルコン欲しさにノア島から脱走した事、途中で話がそれて地球の話もした。
 時折、2重に言語を翻訳しているせいかニュアンスの違いに戸惑いながらもそれら全てを話すと、ヴィクトリアさんは笑いながら時には怒りながら俺の話を聞いてくれた。

「ふむ、真に面白い話じゃ。ならばお主達のような異世界人は魔物に対して偏見がないのか?」

「僕個人としては、言葉を交わせなくても何らかの方法で意思の疎通が可能で敵対する行動をとらないのであれば、どのような種族も受け入れます」

 真剣な表情で質問してきたヴィクトリアさんに俺も自分の価値観を伝える。話し合いが出来るのなら大抵の場合はどうにかなるもんだ、さすがに全く意思の疎通が取れない生き物は御免こうむるがな。俺の言葉を聞いてからヴィクトリアさんはパンパンと手を鳴らすと廊下で控えているであろうメイドさんに指示を出す。

「イリヤとグレナラ、それとアカトルを呼んで参れ」

 誰か部下の人を呼びつけたようだ、話の流れ的に本当に俺が魔物に対して『偏見』を持っていないかを確認するつもりだと思う。つまり人間型じゃない魔物に会える大チャンスなのだ! 興奮で手が震えそうになるが必死にお茶を飲みながらそれを隠す。
 チラチラと部屋の入り口を見ながら到着を待っているとノックの音と共に、下半身がクモの女性・二足歩行する牛さん・完全に見た目がカマキリの3人が入室してきて俺に挨拶する。

「この者達を見てどう思う?」

「イリヤさんはアルケニー族ですよね、やっぱり天井とかも歩けるんですか!? グレナラさんは力が強そうで迫力があります。アカトルさんの種族は分かりませんがカマが凄く格好いいです、それ触らせてください!」

 俺が1人で盛り上がって3人に詰め寄ると、イリヤさんとグレナラさんが驚いた表情で俺を見つめてくる。アカトルさんの表情だけは虫なので分からないが───、怖ず怖ずと俺に自分のカマを差し出してくれたので嫌がってはいないと思う。
 カマを堪能した後で、今度はイリヤさんに許可を貰ってからクモの足を触らせて貰う。感触がフワフワしてとても気持ち良かったので更にテンションを上げて興奮していると、呆れたようなヴィクトリアさんの声が聞こえて我に返る。

「もう良い、お主が一切の偏見が無いのは分かったのじゃ」

「も、申し訳ないです。つい我を忘れてしまいました」

 ヴィクトリアさんは俺の謝罪に笑って頷いてから目を瞑って何かを考え始めたようで、暫くそのまま固まってからゆっくりと口を開いて言葉を漏らした。

「最後の質問じゃ、異世界人はお主だけではなく他の人間も妾達を受け入れてくれるかの?」

「はい、大丈夫だと思います。少なくとも僕達のリーダーの母さんはきっと笑顔で受け入れますよ」

 俺の言葉に腕を組みながら大きく頷いたヴィクトリアさんは、俺の目を見つめて予想の遥か上をぶっ飛んだ答えを返してきた。

「『魔王』ヴィクトリアの名の下に宣言する! 我々、ウルスナ帝国は異世界人と国交を結ぶ」

 俺はヴィクトリアさんが魔王本人だった事よりも勝手に魔王領に侵入した事について、ノアの『魔王』である母さんに叱られる想像をめぐらせて……恐怖で泣きそうになった。




----荒川美紀 視点----

 功樹のスーツが消えて3時間、スーツは2時間40分前から移動せずに静止している。もうこれ以上は待っていられない、私は最終判断を下して修一さんにノアの指令として命令する。

「既に技術部が手に負える状況では無くなりました。現時刻で全指揮権を軍事部に委譲、今後はすべて軍事部の判断に任せます」

「了解した、必ず無事に回収して───」

「功樹君が通信を送ってきました! これは……レベルAの緊急通信です」

 通信を担当している職員の言葉に胸が張り裂けそうになりながら、私はマイクを掴んで功樹に怒鳴りかける。

「こうちゃん! 一体なにしてるの!? 今何処にいるのよ」

 画面に映る功樹はシドロモドロになりながら泣きそうな表情をしている。そんなに怖い目にあったのだろうか? だから私は功樹を外に出したくなかったのに……まったく多少は懲りた事を願う。おびえている功樹を慰めるように優しい声でもう一度質問すると、息子はやっと現状を語りだした。

「怒らないでね、今僕は北大陸にいるんだ」

「知っているわ。大丈夫よ直ぐに迎えを向かわせるから」

 私が目で大至急功樹を迎えに行くように修一さんに指示を出すと功樹は何かを口ごもるような感じで私の顔色を窺っている。取り合えず後から今回の件については叱る事にするが、今は功樹が無事で居てくれた事に感謝して『他になにかあるの?』と聞いてみる。

「絶対に怒らないでね。北大陸でウルスナ帝国の皇帝と接触……ノアの代表として『魔王ヴィクトリア』さんと会談。結果、ウルスナ帝国はノアと国交を結ぶ事を受諾したよ」

 眩暈がして倒れそうになったのを修一さんが支えてくれる。息子は今なんて言ったのだ? 魔王? 国交? つまり単独で魔王領に侵入して魔王本人と交渉してきたのか。私は眩暈がするほど驚いたが、クレアさんや他の職員は『普通は無理ですけど、御子息なら可能ですもんね』と死んだ魚のような目で囁きあっている。

「もういいわ、こうちゃん。貴方の行動力は評価するけどウルスナ帝国は何処にあるの? 衛星に映っていないから地下だとは思うけど」

「それなんだけどさ、今そっちで僕の場所を観測してる? してるなら衛星のカメラをズームアウトして周囲300キロが映るように調整して欲しい」

 衛星を動かしている職員に指示に従うように命令すると、直ぐにカメラは功樹の居る周囲300キロを映像の範囲に捉えた。それを確認してから調整が終わった事を功樹に報告する。

「準備できた? あ、じゃあヴィクトリアさんお願いします」

 画面の向こうで功樹が魔王に何事か頼んだ瞬間、指令センターに詰めていた全員がどよめきを上げた。衛星からの映像では煤けたような山脈と細い川しか映っていなかった北大陸の一部がノイズと共に滲み始めて山脈と川が消失する。そして徐々に姿を現したのは、巨城と緑豊かな国土を持つ広大なウルスナ帝国の真の姿だった。

「まさか───、電子妨害? この規模の電子妨害なんて地球でも不可能よ!?」

「いや違うらしいよ。ウルスナ帝国の魔術士達が数千人単位で掛けた『超広域・認識阻害魔法』だってさ。なんか本当は戦争なんてしたくないから魔法で自分達の居場所を秘密にしてたんだって、凄いよね」

 凄いなんていうレベルの話ではない、つまり私達が使用する最新鋭の観測機材が『魔法』に敗れたのだ。地下要塞の詳細なデータまで解析できるような新型観測衛星から帝国領を完全に隠匿した技術力は、私達がこれまで考えていた魔法という現象を根底から見直さなければならない必要性を植えつけるのに十分だった。帝国の魔法技術に冷や汗を流している私に、功樹はトドメの一撃を放ってきた。

「でさ、ヴィクトリアさんがノア島に行きたいって言ってるから……迎えにきて?」

 私は半日を費やして会議を行い魔王側との交渉の方法を考えたのに、それをたった一言でぶち壊した功樹に見当違いな怒りを感じながら魔王を迎える準備を始めた。
 主人公単独での魔王との交渉? でした。ヴィクトリアさんの視点は次話で挿入されます。また異世界編はもう暫く続きますが、次話で再び急速に話が進みますのでご期待下さい。

 次話をさらっと掻い摘んで予告すると、主人公とヴィクトリアさんとの会話で生じた『ニュアンスの違い』が原因で大変な事になります。

 ちなみにコンがヴィクトリアさんと話していた詳しい内容は秘密です。後日出てきます。
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