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異世界に転生したんだけど俺、天才って勘違いされてない? <旧題  転生したんだけど俺なんか勘違いされてない?> 作者:にゅん

学院編 1年度 夏期休暇~異世界編~

38/77

政治工作班、交渉準備せよ!

 隔日更新に間に合いました! 次も頑張りたいです(`・ω・´)

陸上戦艦の接地圧の計算を間違えていたので、重量の桁を引き上げました。

 
----アドリエンヌ 視点----


 ノアの面々が帰った後、私は『黒金騎士団』の団長であるクロヴィエンスを砦の自室に呼び出した。厳しい表情で部屋に入ってきたクロヴィエンスに、椅子に座るように告げてから質問する。

「ノアの皆さんについて、どう思いますか?」

「出来る事なら、二度と顔を合わせたくないです」

 その言葉に疑問を覚える。普段の彼なら、勇猛果敢な答えが返ってくる筈なのに今日はやけに消極的な感じだ。

「貴方らしくありませんね。どうしたのですか?」

「理由は3つです」

 彼はそう言うと、立ち上がって扉の外に誰も聞いている者が居ないかを確認してから話し出した。

「1つ目、恐らく全員が高い教育を受けています。身なりやマナー、受け答えの仕方、どれを取っても野蛮な小国という感じはしません。間違いなく彼らは大国の人間です。
 そしてあの白い軍服を身に纏っていた王族の少年……、砦に入った時には辺りを珍しそうに見回していました。私は最初『外に出た事が無い王族の坊ちゃんが、物見遊山で使節団に同行している』と考えていましたが───」

「違うのですか?」

 確かに服装から王族だと判断して間違いは無いと思うが、特に脅威を感じる要素は無かった筈だ。鍛えている感じでも無かったし魔力が極めて高いという印象も受けなかった。むしろ自分を守る近衛兵を捨て駒のように私達に接触させて、自らは安全な丘の上に居るような『臆病者』といった印象だった。

「あの少年の視線は警備兵の方を向いていました。最初に警備兵の位置……、次に持っている武器の種類を確認して砦の戦力を測っていました。これは私の勘違いではなく、我々の『鱗型防御陣』を見抜いた事からも極めて高い軍事教育を受けていると推測出来ます」

「陣がバレたのですか!? そんな……どうして」

「分かりません。ですが、村を警備している警備隊の人数まで把握しているようです。王族に同行していた指揮官の口から直接聞きました」

 万が一を想定して砦への帰還コースは村を通らないで外周を通ってきたのに、どうして見破る事が出来たのか? 冷や汗が出る中でクロヴィエンスが更に理由を説明する。

「2つ目ですが、彼らの医療技術です。サンドワームとの戦闘で白金騎士団の騎士3名が足を切断しました。運ばれて来た時点で止血されていたので、砦に派遣されている神官はそのままベッドに寝かせていたそうです。
 ですが到着したノアの医療部隊は、騎士を一目見て『千切れた足はどこだ?』と冗談のような事を言ってきました。回収していた足を渡された医療部隊は、その場で透明なテントのようなモノを張って騎士を薬品で眠らせた後……小型のナイフで騎士の足を切り開いたそうです」

 その光景を想像して血の気が引くのを感じながら憤慨する。勇敢に戦って傷ついた騎士を更に辱めるなんていう行為は、野蛮な国以下の所業ではないか! 私がそう怒鳴るとクロヴィエンスは手で制してから話を続ける。

「ここからが本題です。足を切り開いた後、彼らは時間を掛けながら千切れた足を騎士に縫い付けました。居合わせた騎士が『そんな事をしてどうなる』と質問したそうですが、それを無視して医療部隊は作業を続けました。
 作業が終わった時には縫い付けた足には血の気が戻り、僅かながら指先が動いたそうです。また、彼らは撤収の時に『今まで通りでは無いが、訓練すれば再び自分の足で立って歩ける』と騎士が目が覚めたら伝えろと言っていたそうです」

 千切れた足を再生させるなんて、伝説の大魔法でも難しい筈だ。まさか彼らは『死者の蘇生』も出来るのでは無いか? 冗談半分でクロヴィエンスに聞いてみる。

「姫様と同じように冗談で私の部下が質問しました。彼らは笑顔で『心臓が止まって5分くらいならAEDでどうにかなるかも』と曖昧な返事を返したそうですが、私としては『可能だが軍事機密に該当する』ので言葉を濁らせたと推測しています」

「眩暈がしてきました……」

 クロヴィエンスは『私もです』なんて言っているが、事実だとすればとんでもない国と交渉しなければならない事になる。間違いなく不平等な条件を押し付けてくる事が予測できるが、その時に王国の一部の馬鹿貴族達は納得してくれるだろうか。もし無理だった場合……、最悪戦争になるが果たして王国は勝てるのか。

「ノアに勝てますか?」

 私の質問にクロヴィエンスが唇を噛み締めてから答える。

「それが3つ目の理由です。医療部隊は突然砦の前に現れました、この事からノアは自由に戦力を展開出来ると推測出来ます。そして最大の問題点が……魔王軍の転移陣と違ってノアの転移は我々に感知出来ません。
 まして転移距離も不明です。最悪、王都の中心に転移する事も可能かもしれません。戦争になれば王国の勝利は絶望的です」

 もはや笑えてくる。たとえ一兵だけでも王都に侵入を許せば、ノアの兵士はA級の魔物を討伐出来るので甚大な被害が予想できる。次に使節団が訪れるまで30日───、陛下や姉様達と相談して有効な手段を打って置かねばならない。




----荒川功樹 視点----

 ノア島に到着してからそのままゲートを潜って地球側に転移する。なんかゼリーみたいな感触を味わった後、視界が明けると数時間前に皆で集まった空間が目の前に広がっていた。俺はスーツを解除してから走って母さんが居る研究室に向かう。

「母さん! 母さん! ちょい開けて」

 俺が研究室をノックすると、眠そうな顔した母さんが部屋から出てきた。

「こうちゃん、どうしたの?」

「あのさ、向こうの世界で王国側と会談が決まったんだよ。それで30日後だから、30時間後で」

 慌てている為にきちんとした説明が出来ないが、必死に内容を伝えようとしていると母さんが顎に指をあてがいながら口を開いた。

「ふん、ふんふん。なるほどね、異世界の国と接触に成功して会談の日取りが決まったのね。それで30日後に会談をする事になったけど、こちらの世界での時間が30時間後だから慌てて戻ったという事よね?」

 さすが天才は違う! 要領の掴めない俺の説明から良く分かったな。俺が感心しながら『そうそう!』と言っていると母さんは首を傾げながら質問してくる。

「でも、何でそんなに急いで帰ってきたの? 異世界で急いでも別に意味は無いわよ。そっちで1時間短縮してもコッチじゃ数分よ」

「と、父さんが急げって言ったからだよ!」

 言われてみればそうだ、俺が全力で帰ってきても大した意味は無かったのだ。ただ素直に認めるのは恥ずかしいのでマッチョの責任にしておく。

「あぁ、お父さんが言ったのね。残念だわ……いくら脳筋だといっても『算数』くらいは理解してると思っていたのに」

 俺も理解してなかったけどな! それよりも会談の事だ。取り合えず先遣隊の俺達は王国との接触に成功したが、誰がその会談に参加するか決まっていない。引き続きマッチョ達に任せても良いが、武闘派の特殊部隊の面々に任せると碌な事にならない気がする。
 母さんにその事を指摘すると、父さんをお仕置きする時のような笑顔を浮かべた。

「勿論、交渉はお母さん達がするわよ。正確にはお母さん、クレアさん、エリスさんの3人ね」

 マズイ予感がするぞ。最近仲良くなったコートさん曰く、箱根基地で怒らせてはいけない『魔女3人』が全員参加するのか。クレアさんとエリスさんは知らないが、確かに母さんを怒らせると大変な事になる。
 俺は怒らせた事は無いがマッチョは前に母さんからのお仕置きを受けて、部屋の隅でボロ雑巾のように転がって居たのを覚えている。当時3歳か4歳だった俺はあの時に『絶対に母さんを怒らせない』と心に決めた。

「こうちゃんも参加する?」

「いや! 僕はノア島で待ってるよ、鳥見たいし」

 本気で討論する母さんの姿を俺は見たくない───、たぶん当時のトラウマが蘇って吐く。どうせ異世界には連れて行かれると思うからノア島で珍しい動物の見物でもしていよう。そんな事を考えていると母さんが俺に質問してきた。

「言葉とかはどうだった? ちゃんと通じたのかしら」

「翻訳魔法ってヤツを使ってたよ。不自由はしなかった」

「魔法ねぇ……、でも実際の言語が分からなければ翻訳魔法が本当に正しいのか検証出来ないわね。私が習得しても良いけど時間が───」

 翻訳魔法の話をしたところ、母さんは1人でブツブツ言いながら黙ってしまった。どうやら、実際に異世界人が喋っている内容と翻訳魔法で変換した内容が同じなのかを検証したいようだ。しかも自分で習得するとか、さらりと凄い事を言っているが時間的に厳しいのだろう、それ以外で方法が無いものか考えている。母さん以外にそんな事を出来る人なんて居るわけ……居るわ。
 言語に関しては一流の金髪お姉様、ロベルタ先生が存在している。相川さんが以前、『言語の習得の早さでロベルタ先生に敵う人なんか存在しない』と言っていたので、試しにロシア語を教えてみたら20分でマスターした化け物だ。それなのに教える教科は基礎教養の『音楽』という謎の先生だ。俺はその事を母さんに教える。

「その先生は優秀なの?」

「うん。化け物クラス」

 俺の言葉に納得した様子で『協力を仰いでみる』と言ってきた。珍しく自分の意見が役に立ったので、気分を良くしていると基地全体にクレアさんの声で放送が流れてくる。

『お知らせします。荒川女史、至急……大至急で第5階層ゲート前までお越し下さい。異世界から帰還して来る脳筋共でゲートが故障しそうです』

 間違いない、マッチョ達も一斉にノア島から帰還を始めたのだ。しかもコッチとのタイムラグを考えてないから、出現する速度とゲート前から退去する速度が噛み合わずに大混雑を引き起こしているようだ。
 母さんはこめかみに血管が浮きそうな表情をしながら俺に、『暫く部屋でゆっくりしていてね』と言いながら退出しようとしたので、慌てて頼み事をする。

「待って! 異世界でサンドワームと戦闘になったんだけど。ワームが大きくてチョットだけ怖かったから、スーツ以外の身を守るモノを持って行きたい」

「あれ程注意したのに、お父さんは功樹がいる状況で戦闘をしたのね。後でこってり絞り上げるとして……何を持って行きたいの?」

 砦の周りは草原だったよな、多分王国の殆どは似たような環境だと思う。だったらアレだな! 前に母さんに頼んで実用化してもらった漢のロマン兵器にしよう、アレならデカイし装甲も厚いし強いから安全だ。

「アレが良い、前に実用化してもらった戦車を持って行きたい!」

「戦車なら持ち込んでいるじゃない……って、まさかアレ!? 本気で言ってるの? まぁ、こうちゃんが必要だって言うのなら───。分かったわ、準備するけど完成しているのは2番艦迄よ」

 その言葉に頷くと、母さんは多少呆れた表情を見せながらゲートへと向かっていった。取り合えずアレに乗っていれば安全だから強制的に母さんも乗せるつもりだ。俺はまだ実物を見た事がないアレを想像しながら食事を取るために居住区の方に歩き始めた。




---荒川美紀 視点----


 ゲートに行く前に建設部から『ブルドーザー』を借りてエレベーターで第5階層まで降りる。扉が開くと前方のゲート前に数十機のパワースーツが団子状態で固まっているのが視界に入ったので、私は右足に全力で力を込めてアクセルを吹かせる。
 そのままブルドーザーのバスケットを地面に下ろして、パワースーツの集団に突っ込むと一気に壁まで寄せる。衝撃でスーツの中がどうなったかは知らないが死ぬことは無いから大丈夫の筈、今はゲートの方が脳筋達より大切なのだ。

「適切な処置だと思います。後始末は最後に来ると思うエリスに任せましょう、脳筋達の手綱を握るのが彼女の任務です」

 私がブルドーザーから降りると、クレアさんが笑顔で近寄ってくる。その言葉に苦笑してから表情を引き締めて指示を出す。

「クレアさん、計画をフェイズ2に移行します。ノア所有の全基地に『使い捨てゲートで異世界に突入せよ』と伝えてください。特にロシアの基地には食料・簡易兵舎が大量に準備してあります、必ず異世界に送るように伝えてください」

「転移させる人員・兵力・物資の規模と内容は?」

 私の言い方が悪かったのだろうか? クレアさんは少し不機嫌そうに質問してくる。恐らく……『それでは分からないので正確に内容を教えて下さい』と言いたいのだろう、だがそういう意味で言った訳じゃない。

「全部です───、78時間以内に箱根基地以外は全て閉鎖します。各基地は突入後、証拠隠滅を図ってからゲート操作員を箱根基地に向かわせるよう手配してください。各国の情報機関に目を付けられて脱出が不可能な場合は救出に向かいます。
 大型の兵器、『トルストイ』や『航宙駆逐艦』は向こうの準備が出来次第、転移してください。こちらの時間で12時間以内に転移可能と予測していますので各乗組員にも連絡して下さい」

「向こうの状況が良く分かっていないのですが?」

 それは心配ない。偵察班が異世界の国家と接触したという事は、転移先の島が安全だから出来たのだ。島の大きさも功樹がアレを持っていくと言い出すのだから十分な広さがあるのだろう。
 後は地球との時間差を利用して、物資を送っている最中に向こうで基地を建設してしまえば良いだけだ。時間が掛かる場合を予想して簡易の居住施設も用意してあるから問題はない。
 私が説明すると、クレアさんは納得して各基地に指示を送り始めた。その最中に端末を操作したまま質問してくる。

「功樹君が持っていくと言い張る『アレ』とはなんですか?」

 彼女にも見せたほうが良いだろう、なんと言ってもアレの2番艦には彼女の名前が付いている。私はそう判断してクレアさんに一緒に付いて来るように伝えてから、特殊技術区域に向かうエレベーターに乗った。




 普段は特別許可を得ている技術職員しか乗れないエレベーターに乗っていると、クレアさんは落ち着き無くソワソワしている。彼女にとっては初めて訪れる区域だから緊張しているのだろう、私はなるべく優しい声で話しかける。

「緊張するかしら?」

「はい、この区域は隊長直属の班が警備しているので私は訪れた事がありません。部隊内でも守秘義務があるので情報が入ることも無いですから余計に緊張します」

 どうやら修一さんは、副官である彼女にすらこの区域の説明をしていなかったようだ。事故の危険性からかなり離れた場所に設置してある区域なので到着までまだ時間が掛かる、私はこの先で建造されているアレの説明を彼女にする事にした。

「前に功樹に自由に兵器を構想できる『クリエーション・プログラム』を渡したの。それから暫くして『出来た!』って言いながら私の所に持って来たクリエーションファイルを見て驚愕したわ」

「何を設計したのですか?」

「重量約3万5000トン・全長290メートル・全幅50メートル・高さ30メートルの『超大型戦車』よ」

「はぁ!? そんな戦車走れる訳ないじゃないですか。地面に沈みますよ」

 私も最初はそう考えた。いくら功樹でも実現不可能だと笑っていたのだが、あの子は真剣な表情でプランを話し始めた。前に功樹が訪れた事のある、私の職場の1つだった『次世代科学研究所』の『新金属開発部』では新しい軽量金属の開発をしていた。働いて居た私ですら存在を忘れていた程の研究者が13名しか居ない小さなその部署は、新金属の開発まで後10年は掛かるという微妙な成果しか出していなかった。

 しかし功樹はその部署を強烈にバックアップする事を私に提案してきた。正直、無駄と思いつつも功樹が珍しく我侭を言ってきた事が嬉しくなり、正規の経費が増される見込みが無いその部署に私の個人的な資産から研究費を支払った。年間経費の20倍以上の研究費を得てヤル気を出した彼らは1週間後───、あっさりと新金属の開発に成功した。どうやら、彼らは馬鹿にされて経費も碌に貰えない為に実験が出来ていなかっただけで、既に完成まで後一歩まで来ていたのだった。

 功樹は僅かな時間と説明でソレを見抜き、開発部を後押しして自分が求める軽量金属を手に入れた。ちなみに……彼らもノアに移籍してきたが、技術職員としては異例の『功樹の為』にノアに加入した。本人達はお礼がしたいと話していたが、全ては功樹の人徳だろう。ここまで話すと、クレアさんは驚愕の表情で聞いてくる。

「では、完成したのですか?」

「えぇ、新金属のおかげで当初より強化された形で建造したわ」

 エレベーターが区域に到着して扉が開く。大型のドックに鎮座している巨大な物体を見たクレアさんが隣で息を呑んでいるのが分かった。

「目の前にあるのが功樹が発案した超大型多砲塔戦車───。『アリス型陸上戦艦』の1番艦、アリスよ」

 アリス型陸上戦艦……功樹と話を詰めている最中も、本気で何をするつもりなのかと問い詰めたくなる代物だった。重量約7500トン・全長311メートル・全幅55メートル・高さ28メートルでシュノーケルにより半潜行可能。26センチ3連装砲を2門搭載して、後部にはミサイルの垂直発射システム『VLS』を40機装備している。
 他に対人・対空用の4連装20ミリ機関砲をハリネズミのように配置して、通常の乗組員の他に30機のパワースーツを搭載できる。試しに性能を試算したところ、端末上では陸上自衛軍の1個師団を楽に撃破できると結果が出たのでそれ以上考えるのを止めた。

「クレアさん、驚いているところ悪いけど……2番艦の名前は『クレア』よ? 功樹はどうやら知り合いの女性から名前をつけているようなの。確か『船には女性の名前を付けると縁起が良い』とか言っていたわね」

「わ、私のですか!? 何でまた」

 それは本人に聞いて欲しい。そもそもだ、アリスちゃんの名前を1番艦に付けるのは納得しても良いが、普通2番艦は私の名前にする所ではないか!? 
 このままでは3番艦はエリスとかロベルタとかその辺に……。忘れていた、功樹から学院にいるロベルタという名前の教師に協力を仰いだらどうだ? とアドバイスを貰っていた。その事を思い出して、クレアさんに相談すると微妙な表情をしながら聞き返してきた。

「学院のロベルタ? ロベルタ・スカーレットの事ですか?」

「多分そうだけど、知っているの?」

 私が聞くと、『知っています』と苦虫を噛み潰した表情をする。なにかあったのだろうか? 例え過去に2人の間に何かあったとしても、今は協力を要請して欲しい。そう伝えるとクレアさんは頷いてから質問してくる。

「協力はして貰えると思います。ですが……少々、お金が掛かりますが宜しいですか?」

「構いません、必要経費だと思って割り切ります」

 クレアさんは私の返事を聞いてから自分の端末で通信を始める。お金が掛かると言うのは、対価として金銭を要求して来るというのだろうか? 
 それはそれで構わないが支払う金額に見合った仕事をしてくれるのかが問題だ。様子を窺っていると通信がつながったらしく話し始めた。

「ロビィー? クレアだけど。寝てたの? もうお昼よ、起きなさい」

 ロベルタさんは寝ていたようだ。夏季休暇中とはいえ、平日のこの時間に教師が寝ているなんて少々不安になる。

「お仕事を手伝って欲しいの。待って! 切らないで、前に言っていたフランスの菓子工房のケーキでどう? ホールで渡すわよ。……分かったわワインも付ける。え? 分かったわよ、お肉も付けるわ。今から迎えを向かわせるから準備して頂戴」

 どうやらお金ではなく、食べ物を要求してくる人のようだ。それくらいなら可愛らしいモノではないか? 私は通信を終えたクレアさんに笑顔でそう告げると、彼女は嫌そうな顔して答えてくる。

「ロビィーは食べます、それはもう食べます。1食で5人前とかは当たり前に食べるのですよ? それなのに『太らない』なんて女の敵です!」

 ロベルタさんが箱根基地に着いたら、時間の許す限り徹底的に精密検査しよう。私はそう心に決意してから残っている雑務を片付ける為にクレアさんと一緒に部屋に戻った。





----アドリエンヌ 視点----

 ノアの面々が帰ってから王国では連日、陛下立会いで王室会議が開かれていた。まず問題になったのは『不利な条件』を突きつけられた場合に拒否するか、妥協点を模索するかだった。私がノアの武力を説明しても有力貴族達は『A級指定を簡単に討伐できる筈がない!』と拒否をすると言って話を聞かない。
 更に一部の過激な貴族達は『聞いた事も無い国だから小国に決まっておるわ。多少こちらの武力を見せれば直ぐに引き下がる』などと馬鹿としか言いようの無い発言までしてくる始末だった。そんな中で、カシス姉様の1言が王国の方針を決定付ける事になった。

「確かにA級の魔物を簡単に討伐するとは考えられません。ですが、妹が世迷言を話すとも考えられません。どうでしょうか? ここは1つ皆さんの意見を取り入れて、現在王国が1度に動かす事が出来る全兵力を『儀礼装備』で砦に集結させましょう。
 これならばノアには『最高のお持て成し』として言い訳できますし、それなりの数を見せれば本当に小国だった場合に相手は怖気づく筈です」

 明らかにその場凌ぎの対応だがそれしか方法がないのも事実だ。その後、魔王軍の襲来に備える為に最低限の兵力を残して各地から抽出した『8千名』を砦に集結させる事になった。そして今、砦の最上階から広場を見下ろしている私の目には、各地から集められた最後の騎士団が砦に入ってきた所だった。

 最強の黒金騎士団を筆頭に、白金騎士団・聖ローズ騎士団・大鷲騎士団などの王国を代表する騎士団が整列してノアの到着を待っているが、私の不安が消える事は無い。沈んだ気持ちでそんな事を考えていると、前に見たスーツと言う名前の甲冑が砦の前に現れたのが見えたので急いで広場に向かう。既に翻訳魔法は準備してあったので直ぐに使用すると使者は話し始めた。

「お久しぶりです殿下。こちらの使節団の数をお教えしたいのですが、宜しいですか?」

「貴様! 無礼だろう! 膝をつけろ」

 私はいきなり高圧的な態度を取る大鷲騎士団の騎士を睨んで止める。頼むから問題を起こさないで欲しい……、胃の辺りが引きつる感覚を必死に堪えながらノアの使者に人数を問いかける。

「はい、先遣隊として2万3千名がこちらに向かっています。半日遅れで更に3万2千名が本隊として到着します、我々の人員は5万5千名となりますので宜しくお願い致します」

 気が遠くなって倒れ込みそうになるのをなんとか踏み止まる。明らかに平和外交の数では無い! 隣で息巻いて居た騎士も青くなっているのが分かる。通常、国の戦力と言っても治安維持や国境警備などがあるので、1度に投入できる数は全体の半分から8割程度だ。ノア側で計算すると最大で10万近い戦力を保有している事になる。
 無理だ……王国が勝てる訳が無い。私は近い内に王国が消滅する予感を感じながら、使者に向かって愛想笑いをするしか無かった。
 キリが良かったので今日はココで終了です。本格的な交渉の話は次回に持ち越しです。ゲートで詰まるシーンは、『L+F様』からアイデアを頂きました!

漢のロマン兵器『陸上戦艦』の登場です、いいですよねデカイ戦車って。活躍の予定も勿論ありますよ! 金属開発部の人達は『職場見学』のお話で登場しています、確認してみてください! 食堂で目を輝かせている人達です。
+注意+
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