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異世界に転生したんだけど俺、天才って勘違いされてない? <旧題  転生したんだけど俺なんか勘違いされてない?> 作者:にゅん

学院編 1年度 夏期休暇~異世界編~

36/77

強行偵察班、前進せよ!

 長いので一旦分けます。
----荒川修一 視点----


 黒いゲートを潜った瞬間、何とも表現できない感覚を感じた。あえて例えるなら『どろりとした水』に潜った感触とでも言うべきだろうか? アマゾンの奥地で掃討作戦を行った時に、腐って濁りきった水に浸かった事があるがそれに似ている。
 だがソレも一瞬で、直ぐに視界が開けて目の前に草原が飛び込んできた。どうやらここは、尾崎が説明していたように周囲が切立った崖に囲まれた絶海の孤島で間違いないようだ。

「鳥のような生物の生息地になっているのか」

 スーツのカメラ越しに見える草原には、大型の鳥が羽を休めてる姿がチラホラ窺える。同時に十分な酸素濃度と毒性の物質が充満していないかを確認した後、スーツのコックピットを開放して外の空気を吸ってみる。

「旨い……、それに澄んでいる」

 俺はそのまま胸ポケットに入れてある煙草を取り出して火をつける。紫煙を吐き出しながらそのまま部下の到着を待っていると、後ろの空間が歪みだして滲んだ影がゆっくりと出現する。事前説明の通りで地球上とタイムラグが生じているのか、『ぬるぅ』っとした感じで歪んだ空間からスーツが出てくるのを眺めるのは気持ちの良いものではない。
 しかし……、俺の直ぐ後に飛び込んだ筈の部下が出現するのにこれ程の時間が掛かるのであれば、最後尾の功樹がこの世界に転移して来るのは明日になるな。既に3本目の煙草を吸い終えているのにも関わらず、未だ上半身しか転移していない部下を眺めながら、俺は改めて『異世界の壁』というものを認識した。




「ゲート突入開始から3時間で、転移してきた人数は20名ですか……」

 俺の直ぐ後に来たルイスがスーツを解除して草原に座り込みながらボヤいている。転移前に功樹が、『時間が掛かるなら、2陣で物資とか送ったほうがいいよ』とアドバイスをくれなかったら丸一日無駄にする所だったな。そんな事を考えていると、トラックとその上に掴まっているスーツが転移を開始したのが分かった。

「ルイス、あのトラックは何を積んでいる?」

「確か『基地設営物資』ですね」

 よし、なら早速だが前哨基地の設営を開始するか。俺は辺り一帯に散らばって『焼き鳥にしようぜ!』と馬鹿丸出しで鳥を追いかけている部下を集めて、基地の設営準備に取り掛かる命令を下す。良く訓練された兵士達だけあって、直ぐにスーツを再装着して測量を開始する部下を眺めながら、腕の端末で基地の配置を考える。
 鳥を追いかけながらも島の周囲を探っていた部下達からの報告で、この島は周囲約40キロの楕円形をしている事が判明している。殆どは草原で南側に僅かに背の低い森林地帯があるだけに過ぎない。島自体を天然要塞と仮定して、策敵の問題から中央に基地を築いたほうがいいと判断した。

「ルイス、島の中央部に前哨基地を築くぞ。内容は縦横600メートルの正方形だ。周囲は強化防壁で囲んで、対空陣地は基地の中央に設置しろ。持ち込んだゲートは北側に配置しておけ」

「監視はどうしますか?」

「2人1組で島の東西南北に向かわせろ、装備は狙撃用のライフルと投光機で良い。無許可の発砲は絶対にさせるなよ? なにか発見したら撤収するよう伝えろ」

 俺の指示を端末で送信したルイスと共に、やっと転移が完了したトラックから物資を下ろす作業を手伝う。基地を設営した後は衛星の打ち上げと偵察用の航空機の組み立てをして、戦車の配置も考えないといけないな。
 これからやる作業を考えながら荷物を降ろしていると、やけに人数が増えて居る事に気付いた。疑問に思っているとルイスが声を掛けてくる。

「御子息が、『バラバラに行くと時間の無駄になるから、トラックに掴まってゲートに突入して下さい』と向こうで指示を出したそうです」

 なるほど、ある程度こちらの安全が保障されている状態ならそれも良い。最初から俺が指示すべき内容だったな……功樹に感謝しなければ。次々に転移してくる部下のおかげで作業が早く進み基地の防御壁は既に完成している。
 観測衛星の方も既に説明書通りにコートが組み立てて、打ち上げ準備に取り掛かっていると報告が入った。だが全てが順調に行き過ぎている、これまで経験上でこういう時は何か非常に面倒な事になる筈だ。そんな事を考えていると案の定───、監視班からの緊急連絡が送られて来た。

「こちら東側監視班。方位0-9-3より大型の飛翔生物が接近中です。高度80・距離2500、低速」

「監視班、その生物に知性はありそうか?」

「不明。ですが、『腐った肉の怪鳥』みたいな生物に知性があるとは思えません」

 監視班の報告にルイスが『知性があるか』の確認をしたが、『恐らく無い』との返答がきた。どうするか? 低速とはいえ10分程でこの島の上空に達するだろう、あまり時間はない。俺はその生物がこちらに気付いているのか確認する。

「気付いているようです」

 気付いているとなると接触は避けられないな。取り合えず投光機で発光信号を送って様子を見るか? いや、それだけだと完全に部下が接触する恐れがあるな……距離900で警告射撃をさせるか。俺は通信を送る前にルイスに意見を聞いて賛同を得てから部下に決定を伝える。

「発光信号を送れ。それでも接近を続けるのであれば、距離900で目標直下の海面に警告弾2連射。さらに接近を続けた場合……距離300で撃墜を許可する」

「了解」

 その通信の後、部下を集中させる為に一旦通信を送るのを止める。俺達の話を聞きつけたのか部下達が集まってきて固唾を飲んで状況を見守っているのが分かる。それもそうだろう、部隊の仲間が異世界で初めての『戦闘行為』を行っているのだ。俺は作業を止めている連中を叱るつもりは無い。そして再び通信が入る。

「目標撃墜」

「了解した。交代の人員を送るから帰還しろ」

 どうやら、異世界の生物とのファーストコンタクトは残念な結果に終わったようだ。俺は帰還してくる部下から戦闘報告を聞く為に設置されたばかりの指揮所へと足を向けた。




「では、お前が使った80ミリ対物ライフルは効果があったんだな?」

「はい、十分すぎる威力でした。恐らく歩兵が携帯する20ミリでも撃墜は可能だと思います」

 コイツからの説明通り、スーツから回収した映像には一撃で海面へと落下していく怪鳥が映し出されていた。生物の基本的な構造は地球と大して変わらない様子で、頭部に銃弾が命中した怪鳥はそれだけで戦闘能力を失ったと判断して間違いは無い。
 だが、前に功樹が別の異世界に転移した時の映像を美紀が解析した時に、『魔法障壁』と呼ばれる防弾壁のようなモノをその世界の生物は使用していたと報告がきている。このG-88では障壁は存在しないのだろうか?

「銃撃した時に、何かに阻害されたという事はなかったか?」

「阻害ですか? 仰る意味が分かりませんが……そうですね、目標に着弾するまでに一瞬ラグがあったような気がします。何かを貫通したような感じでした」

 やはりこの世界でも『なんらかの障壁』は展開していると考えたほうが良いな。美紀曰く、『魔法といっても恐らくはエネルギーの塊だから、それを超えるエネルギーを衝突させれば無効化できる筈』と言っていた。今回の場合は怪鳥が展開していた障壁エネルギーよりも、ライフル弾のエネルギーの方が勝っていたのだろう。
 俺はそう結論を出して部下を下がらせる。問題は歩兵が携帯する一般的な口径である5.56ミリが通用するかどうかだな……、まさか試験名目で原生生物を撃つ訳にもいかないので今回は保留だな。

「隊長、観測衛星を打ち上げます。それと持ち込んだVSTOL機の組み立てが完了したので、テスト飛行に入ります」

「おう。観測機はテスト飛行が完了次第、情報収集行動に入らせろ。パイロットには負担をかけさせるが宜しく頼む」

 部屋に入ってきたルイスに指示を出してから煙草に火をつけて紫煙を吸い込む。最近、本数が増えてきたのを自分でも理解しているが中々止められない。後は、基地と兵舎の設営は済んだから情報収集を待つだけか? 次に何をやればいいのか優先順位が分からない。
 こんな事ならエリスのゲート突入を早くすればよかった。そんな後悔をしているとノックと共に待ち望んでいたエリスが入室して来た。

「エリス・ドーントレス、着任致しました」

「待ってたぞ! とりあえず一通り終わらせたが、後は何をすればいいと思う?」

 俺が声をかけると、エリスはメガネを指で押し上げてから酷く不機嫌そうな顔をして言葉を続ける。

「一通り? 私がこの部屋に来るまでに確認した内容では、基地の設営しか終わっていないようにお見受けしました。 勤務時間の作成は? 兵舎の割り振りは? 食事やPXの使用時間は? レクリエーション施設……特にシャワールームの設置は? 随分と灰皿に煙草の吸殻が溜まっているようですが、一体何をやっていたのですか?」

 忘れていた───、エリスとクレアの一番の違いは『毒舌を吐く』かどうかだった。クレアは思っていても口に出さないが、エリスはハッキリと口に出す。しかもそれが言い逃れが出来ない程正しい内容の為に、言われている人間はひたすら心が折れる音を聞きながら我慢するしかないのだ。

「悪い、施設の運営についてはお前に全て任せる」

「その方が宜しいかと、隊長は戦闘面で能力を発揮して下さい。手始めに馬鹿AとBが捕まえた鳥を解放しますが宜しいですね? 本人達は『焼き鳥にする』と騒いでいますが、私は食べたくありません」

 それは俺も食べたくないので許可を出す。エリスは更に文句を言いながら高速で端末を操作して部下達に指示を送り始めた。こういった施設の運用をさせたらエリスはクレアより有能な一面を見せる、ただ非常に規則が厳しくなるのは仕方がないと割り切るしかない。
 何故か隊長である筈の俺の端末にも、エリスから作業を指示するメールが送信されてきたので黙って重い腰を上げた。




 一旦休憩して、早速エリスが設けた食事時間で夕食を取っていると端末に『至急、指揮所に御越しください』と通信が入ったので皿を持ったまま指揮所に向かう。中に入るとフライト装備を脱いでいない部下が敬礼して待っていたので俺も答礼する。

「隊長、マナーが悪いです。20秒待つのでその夕食を全部食べて下さい」

 眉間に皺を寄せたエリスをこれ以上怒らせないために、俺は全力で飯を食らう。その最中に20秒たったらしくエリスが説明を開始する。

「観測機のパイロットが情報収集から帰還しました。解析したデータと本人からの証言で、半径400キロ以内に人工の建物・都市は確認出来ませんでした。最初の人工物は520キロ南の『灯台』と思われる建物です、この件から少なくともこの世界の生物の一部は航海をする能力があると推測されます。それを基準に相応の科学技術を持っていると考えて問題ありません」

 つまり地球上でいう『原始人』では無いという訳だな? やっと食事を終えた俺が質問すると、その場にいる全員が頷く。そして今度はコートが移動式スクリーンを持ってきて詳しい説明を開始する。

「これは打ち上げた観測衛星からの映像です。現在、衛星はこの基地のほぼ直上で静止しています。送られてきた映像を解析した結果ですが、この世界はきちんと宇宙があり……恐らく地球上の物理法則に準拠しています。決して大地を持ち上げている亀などは存在していません」

 なるほど、神話のように世界の端から海の水が奈落の底に落ちているなんていう面白世界ではないのか。しかし随分と地球の大陸図と違うな……、見た感じだと8つくらいの大陸が点在している感じだな。どこが俺達のいる地点になるんだ? コートに説明を促す。

「私達のいる地点はココ、中央に映っている大陸の左上にある島です。便宜上『ノア島』と名づけました。衛星からの映像ではノア島から南に920キロの地点に大規模な都市が確認できます、その周りに点在している都市の規模から考えて恐らく首都ではないでしょうか?」

 国家首都から1000キロ程度しか離れていないのに、スクランブルで飛んでくる航空機等が存在しないと言う事は文明レベルはかなり低いようだな。もっと詳しい情報が欲しい……俺はエリスに何かないかと尋ねると、『副隊長が画像を解析中です』と返答してきた。
 取り合えずルイス待ちか、フライトスーツを着たままだった部下に食事を取らせに行かせてから、俺は腕を組みながらルイスの到着を待つ。1時間ほど待っていると廊下を走る音が聞こえてルイスが部屋に飛び込んできた。

「申し訳ありません、衛星の調整に手間取っていました、先ほど衛星から動画通信が可能になりましたのでご覧下さい」

 ルイスがスクリーンに映した映像を全員が覗き込み、驚く。

「これは……、馬車か?」

「はい、馬ではなくアルマジロのような生物が曳いていますが馬車だと思います。それに明かりは電気ではなく松明です、一部は謎の発光球ですがこれは女史が説明していたように『魔法』だと推測しています。それともう1つ、解析結果では───この星は地球の約4.5倍の大きさです」

 よし纏めよう……この世界、G-88は地球がある世界と似たような環境だ。ただし、地球の約4.5倍の大きさを誇るのに重力は何故かほぼ同じ数値を示している。また、生息する生物は地球とは違って文明レベルも中世レベルだ。一応は持ち込んだ兵器で原生生物の撃破は可能で、一番近い人工物は520キロ南。
 俺は眉間を押さえながら考える、どうしろと言うんだよ!? 美紀は笑顔で『柔軟な対応をお願い』なんて言ってきたが、こんな事は想定していなかった。
 文明があったとしても精々が19世紀レベルだと考えていたから向こうからのアクションを期待していたのだ。俺は意見を求める為に部下に『今後どうすれば良いか』と質問する。

「御子息の到着後、確認できた国家と接触を図ってみてはどうでしょうか? もし武力で対抗された場合も撤退すれば良いだけだと思います」

「私もエリスの意見に賛成です。最悪の事態を想定して『重力崩壊弾』を装備させた航空機を直援として上空待機させましょう。御子息は万が一の場合、我々を捨てて高速離脱して頂ければ安全かと思います」

 やはりそうなるか。俺は翌朝到着する予定の功樹が来る前に、国家との接触を図る為の詳細な手順を部下達と考え始めた。





 翌朝、俺は3時間しか眠っていないせいで多少ぼうっとしながら功樹の到着を待っていた。しかし、地球の1時間がこちらの1日というのは本当だったのだな。先ほど到着した最後の部下が、完成していた基地を見てかなり驚いていた。
 やつの体感時間では俺がゲートに突入してから50分しか経っていなかったそうだ。部下の言葉を思い出していると目の前の空間が歪みだして、功樹が装着した第8世代機が『ぬるぅ』っと……してないぞ!? 出現がやけに早い。物凄い勢いで転移してくる功樹を見て、ある考えが浮かび部下に警告する。

「ゲート前から退避! 間に合わない者は対ブラスト姿勢を取れ! 功樹のヤツ音速でゲートに突入しやがった」

 俺の警告から数秒後、転移を終えた功樹はドンッという衝撃波と共に急加速しながら空へ舞い上がっていった。その姿を視界の端に捉えながら、俺は手元の端末で功樹に怒鳴りながら通信を送る。

「馬鹿野郎! 音速でゲートに突入するやつがいるか!? 下手をしたら死人がでるぞ」

「ごめんなさい……、でも母さんからの指示だったんだよ。書類を早く渡すようにって」

 だからと言って、こちら側の状況を確認しない行為は許せる事ではない。後でキチンと叱る事にして『書類』とやらを見る事にするか。着陸した功樹に盛大に拳骨をぶつけてから、渡された書類を眺める。そこには、

『そろそろ本格的な調査に入る頃だと思います。調査の結果、なんらかの交渉が必要な場合は一度撤退して連絡を下さい。間違っても勝手に交渉して条約などを締結しないで下さいね。
 追伸───、勝手に未知の文明を武力制圧したら離婚します』

と書いてあった。俺はそこまで脳筋じゃないぞ!? それより離婚とかしたら功樹の親権はどうなるんだ? そんな事を考えていると横で書類を覗き込んできた功樹が口を開いた。

「離婚したら僕、母さんの方に行くからね」

 功樹の言葉を聞いた部下達がクスクス笑っているのが聞こえて、エリスにいたっては『妥当な判断です』と言って功樹の頭を撫でている。その光景に多少憮然としながら俺は功樹にこれからの予定を伝える。

「これから衛星で確認した人工物がある辺りに偵察に出掛ける。出来るのであれば国家と接触を図るぞ、連れて行く人数は30名で全員武装する。移動中は輪陣形を取るからお前はその中心にいろ、軍人ではないお前にこう言うのも気が引けるんだが……何かあった場合は1人で高速離脱しろ。これは命令だ」

「はい」

 俺が説明する間も、チラチラと鳥の方を眺めている功樹に苦笑しながら『準備が出来るまで好きにしてて良いぞ』と伝えると笑顔で走り去っていった。護衛にコートをつけるように手配してから、出撃の準備を整えるために兵舎の方へと向かう事にした。
 2時間後……兵員輸送用の大型VSTOL機の前に整列した部下を眺めながら、俺はもう一度手順を説明する。

「これから我々は520キロ南方の大陸へと向かう。大陸沿岸部にある国家との接触を図るのが主目的だ! だが、不可能な場合はある程度情報を集めた時点で撤収する事になる。まず上陸手順だが、輸送機で沿岸部まで近づいた後で上空から降下する。着陸した時点で光学迷彩を使用して姿を隠すぞ。
 その後はスーツの巡航速度で第一目標である『砦』へと向かう。衛星からの情報ではこの砦は、検問所を兼ねている様子なのでここで交渉して政府関係者との接触を図る」

 部下達が与えられた情報を消化出来るように時間を与えてから、次の説明を行う。

「次に戦闘規則だ。基本的に自衛以外の発砲は認めない、化学兵器の使用も認めないからそのつもりでいろ。ジョナサン! お前のスーツに装備してある催涙ガスの発射装置は外していけよ。移動中の陣形は輪陣形だ、中心部には功樹を配置するから全力で守れ! その他は基本的に各自の裁量に任せる。
 グダグダと説明したが───、お前らが必要だと思ったら撃て。ヤバイと思ったら逃げろ。全責任は俺が取る」

「隊長、それじゃいつもの通りじゃないですか」

「お前らに、戦術行動半径や具体的な戦術を説明した所で無駄だろうが! それは最初の頃に諦めた」

 大体、野生の勘でスナイパーからの銃弾を回避するようなヤツラに説明しても碌な事にならん。個人の自由裁量で動かしたほうが最善の結果を生み出す。俺は今までのように、そう決断すると全員に輸送機への搭乗を命じた。




輸送機に搭乗してから暫くして、パイロットから兵員室に通信が入った。

「ご搭乗の皆様、当機は間もなく降下地点に到着致します。降下の際はお忘れ物が御座いませんようお願い致します、なおコート様は昨日のポーカーの負け分を早く支払って頂けると助かります」

 裏声で客室乗務員のフリをしながら通信をしてくるパイロットの声を聞きながら、眉間を押さえつつ部下の指示を出す。

「ランプがグリーンになったら、前列から飛び降りろ! もたもたするなよ、功樹に格好良い所を見せてやれ」

「じゃ、俺はローリングしながらカッコいい降下をしま……ぬぁ!」

 馬鹿な事を発言した部下を降下口から蹴落として、俺も降下準備を始める。功樹には一番最後に普通に飛行しながら付いて来るように説明してあるので特に問題ない。部下達が全員降下したのを確認してから俺も地上に向かって飛び降りる。降下の最中に俺の速度に合わせて功樹が周囲を飛びながら通信を送ってきた。

「父さんの部隊は面白い人達ばっかりだね」

「功樹、頼むからあんな馬鹿になるなよ? それだけが心配だ」

 部下達が集まっている浜辺を見ながら俺はそう答えた。功樹と共に浜辺に着陸すると、部下が走り寄ってきて報告をしてくる。

「偵察隊が5キロ南に前進して、安全の確認を行っています」

 俺が指示を出す前に、既に自分達で最良と思われる行動をしているようだ。やはり個人の判断に任せて良かったな。俺は空いた時間を利用して、回収ポイントの設置と上空で待機している直援機との通信を確立して置くことにした。
 功樹の方を見ると近くにいたウサギのような生物を追いかけてどこかに行きそうだったので、コートとジョナサンを監視に向かわせる事にする。それらの作業を終わらせると偵察隊から通信が入った。

「こちら偵察隊、12キロ南で戦闘をしている集団を発見しました。現在監視中」

 いきなり面倒な場面に出くわしたな。野盗の類か? 中世レベルのこの世界ならそれもありそうだ、俺は部下に『詳しい現状を知らせよ』と通信を送る。

「金を持ってそうなお姫さんが居る馬車を守るように、護衛だと思われる騎士の格好をした100名位が馬鹿みたいに大きなミミズと戦っています」

 アバウトな表現だが実に分かりやすかった。要は、貴族か王族だと思われる人間が化け物に襲われているという事か。俺達が救出した場合は『国家と接触を図る』という目標の足掛かりになるかもしれん。
 俺は全員で様子を見に行くから偵察隊にその場で待機するように伝えた後、浜辺にいる部下に指示を出す。

「偵察隊が貴族か王族だと思われる人間が襲われているのを発見した。可能であれば我々が救出するぞ! 光学迷彩を発動後、移動を開始する」

 功樹を中心とした輪陣形で移動しつつ偵察隊が待機している場所まで行くと、前方で戦闘を行っている様子が見て取れた。デカミミズは3匹程で、騎士団と思われる集団には相応の被害が出ているようだ。観察を続けていると功樹が口を開いた。

「おー、エルフだ! 敵はお約束の『サンドワーム』っていうヤツかな?」

「お前、アレが何なのか分かるのか!?」

 功樹の発言に部下達も衝撃を受けたようで、『エルフってなんだ?』とか『ワームってあの化け物の名前か?』等と言っている。なんで功樹は異世界の生物の事を知っているんだ? 
 まぁそれは後で問い詰めるとして、今俺達が持っている火力で撃破出来るのかが問題だ。その点も功樹に聞いてみる。

「エルフっていうのは、あの襲われている人達のような『耳長族』の通称だよ。あのミミズはサンドワームとかその辺の生き物だと思うけど、耐久性が高いだけでライフルでどうにかなると思う。後、間違いなく知性は無いと思うよ」

 確かにミミズは知性があるような動き方をしていない、どちらかと言うと昆虫のような戦い方をしているのが窺える。それにしても───、功樹は『戦闘』が行われてる中で襲われている人間の耳を冷静に観察していたのか。 アリスちゃんを救出した時と今回で2回しか戦場を経験していないのに、その落ち着きぶりには脱帽する。息子の凄さと、冷静になりきれなかった自分の未熟さを痛感しながらも俺は部下に指示を送る。

「第1分隊、ライフルでワームを狙え! 活動を止めるまでブチ込んで構わないぞ。第2・第3分隊は全周防御だ。撃て!」

 俺の命令と共に、第1分隊所属のスーツ10機が装備しているライフルを撃ち始めた……。





----アドリエンヌ 視点----


 重要な港街である『フロン』を視察した帰り道、私達はジャイアント・サンドワームに遭遇した。A級指定を受けている災害級のサンドワームに対抗するのは、護衛を兼ねている白金騎士団の120名のみ。いくら精鋭と言われている白金騎士団でもそれだけの人数では対抗出来る筈も無く、遭遇当初から絶望的な戦いを演じていた。

「姫様! どうか私達を置いてお逃げください! この場はもう持ちません」

「なりません、貴方達は補助魔法を使えないではありませんか。私がこの場を離れたら魔法の効果が切れて戦闘どころでは無くなります」

 私が騎士団を見捨てて逃げれば、現在使っている『体力と魔力』を底上げする補助魔法の効果が切れてしまう。そんな事になれば後は一方的に蹂躙されるだけだ……、1国の姫として臣民を見捨てる事など出来る筈が無い。
 しかし、だからと言ってこの状況を打開する事も出来ずにまた1人、私を守るために騎士が力尽きるのを眺める事しか出来なかった。
 その時、サンドワームの横腹に大きな穴が開いたのが見えた。そして遠くから聞こえてくる、ドンッ・ドンッという連続した雷鳴のような音が鳴り響いているのに気が付いた。

「サンドワームに穴を開けるなんて……、SSSランクの冒険者でも無理な筈。一体どういう事?」

「分かりません、ですが魔族なら可能かもしれません。私の後ろにお隠れください」

 魔族ならそもそも人間を助けるなんて事はしない、騎士団も混乱している様子で動きを止めている。そして、あれ程私達を苦しめたサンドワーム達は呆気無く力尽きてその身を地面に横たえた。
 まさか───、御伽噺の伝説の勇者でも現れて私達を救ってくれたとでも言うのだろうか? 呆然とそんな事を考えていると騎士団の1人が声を張り上げた。

「丘の上に何かいます!」

 騎士が指差した方を見ると、空間から突然姿を現す見た事がない生物が目に映った。その数は段々と増え続け、最後に30匹目の一際大きな生物が現れた所で止まった。様子を窺っていると、その中の1匹がこちらに向かってゆっくりと歩いてくるのが分かった。直ぐに騎士団は私の盾になるように陣形を組直すが、動ける人数は50名も居ない。
 サンドワームを討伐した生物なら腕の一振りで消し飛ばす事が出来るだろう。出現した集団と私達との距離の中間地点で一旦その生物は止まると、手に持っていた武器のようなモノを地面に置いてその場でクルリと回転して背中を見せてから、今度は両手を高く上げて歩いてくる。兵士が降伏する時に行う手順だ、私達を攻撃する意思は無いと言っているのだろう。

「皆さん、絶対にあの生物を攻撃しないで下さい。どうやら意思の疎通を図るつもりのようです」

 私がそう伝えると、騎士団の面々は武器を仕舞う事まではしなかったが幾分警戒は解いてくれたようだ。その姿に心底ホッとする、もし戦闘になれば一瞬で蹂躙されるのが目に見えているので私への忠誠心の厚い騎士達には感謝だ。
 生物はこちらがもどかしくなる程ゆっくりと歩いて、私達の手前20メルの所で止まった。そして胴体の所を指差してから膝を付くと……指差した所が上に向かって開いたのが見えた。その中から顔中傷だらけの男性が降りてきて私達の方に歩いてくる、どうやらアレは騎士が着ている甲冑のようなモノなのだろう。そう判断していると、男性が声を出した。

[言葉は、わかるか?]

 何を言っているのか分からないので、私は騎士団を押しのけて前に出た後で身振りで『攻撃しない』と伝えてから、相手に見えるように慎重に『翻訳魔法』を使用する。それからゆっくりと言葉を話す。

「理解できますか?」

「あぁ、出来る」

 良かった、翻訳魔法は成功したようだ。しかも顔は恐ろしいが理性的な対話は出来るようだ、私はまず助けてもらったお礼を述べる事にする。

「今回は危ないところを助けて頂き、ありがとう御座いました」

「気にしなくて良い、それよりお嬢さんは身分が高い人物だと判断したが……違うか?」

 どういう事だろう? もしかして褒賞目当てに助けたのだろうか。それならそれで構わない、もちろん最初から今回の対価に関しては支払うつもりで居たのだが、こうもハッキリと金銭を要求するような人物を好きになれない。私は多少の嫌味と皮肉をこめて男性に返答する。

「その通りです、私は『神聖メルカヴァ王国』の第4王女でアドリエンヌと申します」

 あえて王女と名乗る事で、男性が萎縮して態度を改めるのではないか? と助けて貰った恩も忘れて発言してみたが、その浅はかな考えに自己嫌悪に陥る。
 目の前の男性は自分の能力に対する正当な対価を求めているのに、私は何て事をしたのだろう……いまさら謝る事も出来ずに男性の出方を窺っていると、私の予測した答えとは遥かに違う内容が返ってきた。

「そうか丁度良かった。我々は『ノア』、貴国との国交を樹立したい」

 一体どうすれば良いのだろうか? 男性から提案された内容を噛み締めながら、私は頭を抱えそうになるのを必死に堪えるしかなかった。
最近は隔日更新を目標にしているのですが、中々達成できません(´・ω・`)
+注意+
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