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異世界に転生したんだけど俺、天才って勘違いされてない? <旧題  転生したんだけど俺なんか勘違いされてない?> 作者:にゅん

学院編 1年度 夏期休暇~異世界編~

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強行偵察班、出撃せよ!

マッチョが輝く異世界編、1話目です。大切な事を書き忘れていました、『Team.Muscle of Noa』(ノアの脳筋達)の名前は『pai様』に名づけていただきました!
----荒川修一 視点----


 建設途中の箱根基地の内部を美紀の部屋を目指して歩く。ほぼ完成した第1階層を大型エレベータで降り、集積場と兵器保管区域のある第2階層も同じように通り過ぎる。第3階層で限られた人間しか許可されていないエレベーターに乗り継ぎ、第4階層まで来るとやっと美紀が居る区画まで来れた。

「お疲れ様です」

「おう」

 第4階層からは俺の部下達が警備についている。制服も最近まで着慣れていた国連軍の物ではなくノアから支給されたPMC部門専用の制服を身に着けていて、その制服の胸には『T.M.N』と書かれている羽を模した部隊章が輝いているのが見て取れる。
 部下達には格好が良いと好評だが、美紀が考案した本来の部隊名『Team.Muscle of Noa』(ノアの脳筋達)の意味を教えるのは反乱が起きそうなので怖くて出来ない。取り合えず部下達にTMNの意味は、クレアが頭を悩ませて作り出した『Team.Mercenary of Noa』と教えてある。『ノアの傭兵部隊』とは中々良いセンスだと思う。

「美紀入るぞ」

 インターホンを押しても反応が無いので勝手に部屋に入室すると、難しい顔で設置型の端末を操作している美紀が居た。こういう時には功樹以外が声を掛けても無駄なので、大人しく置いてあるソファーに座りこみ煙草に火をつけて気付くまで待つ。

「あら、来てたの?」

「おう、30分くらい前からいたぞ。所で聞きたい事があるんだが良いか?」

 やっとこちらに気付いた美紀に、俺は煙草を消しつつ数日前にアフリカで見たモノの事を聞く。

「俺が国連を辞める前に原潜の『トルストイ』が南極沖を航行中に行方不明になったんだ。上層部は捜索隊を出したが何も見つける事が出来ずに、結局は不慮の事故で沈没したと結論された。
 だが……この前、物資を購入する為にアフリカのノアが所有している軍港に行った時に『UN』ではなくて『Noa』とペイントされたトルストイの同型艦を見たんだがアレはどういう事だ?」

「あぁ、アレはトルストイよ。なんでも功樹がアリスちゃんを救出した時に協力関係にあった船らしくてね、私がノアを立ち上げた時に亡命を申請してきたから受け入れたわ」

 なんで、企業に国連の船が亡命を申請してくるんだよ!? しかもあの型は最新鋭艦だぞ、そんなもんホイホイ受け入れるなよ。俺は眉間を押さえながら新たな煙草に火をつける。
 という事は、現在『謎の墜落事故』と公表されている新型機の事故も美紀が関係してるのか? 俺は否定して欲しいと願いながら聞いてみる。

「降下強襲部隊を載せた航空機の事? あれもウチに亡命して来たわよ。大変だったんだからね! 無人の同型機を急遽作成して墜落したように偽装工作するの」

「いや、おかしいだろ! アイツ等はエリートだぞ。俺達のような名無しのゴースト部隊と違って表でちゃんとした評価が貰えるのに、なんでわざわざ死んだフリまでしてココに来るんだよ」

 俺が怒鳴りながら突っ込むと、美紀は優しい顔しながら遠くを見つめるような視線で理由を話す。

「全部、功樹が原因ね。トルストイの乗組員も強襲部隊の隊員達も、アリスちゃんを救出しに行った功樹に命を助けて貰ったそうよ。少しでもその恩を返したいって理由だけで、今の生活を全て捨てて私達に賛同したんですって。
 他にも国連宇宙軍の駆逐艦1隻が信吾君を守る為に亡命してきたわ、例のチャバネ君のお礼がしたいって」

「……こういう事を言うのも何だが、信頼できるのか?」

「大丈夫。あまり使用したくなかったけど、イヴちゃんから貰った表層意識を読める装置を使って判定してあるから心配はいらないわ」

 なら大丈夫か。しかし功樹は凄いな、ほんの少し関わっただけの人間を簡単に味方に付けるなんて『カリスマ』っていうのはこういう事をいうのだろうか? 美紀も同じ気持ちなのだろう、コーヒーを飲みながら『あの子も大人になったのね』なんて言っている。
 俺も美紀もあまり普通の人間とは言えない、そんな中でも功樹はしっかりと立派な人間に育ってくれたようだ。だからこそ、その平穏を壊すような奴らは許す訳にいかない。そんな事を考えていると美紀が思い出したように話を続ける。

「そうだ、忘れていたけど修一さんを呼んだのには理由があるの。新たな亡命者と元々私達に賛同してくれた人数を含めると10万名を超える数になるのよ。今は各地に建設してある基地と箱根基地で分散して収容してるけど、遠からず限界になるわ」

 それはそうだろう、食料等は問題ないが住む場所は限られている。いつまでも狭い部屋に押し込んでおくわけにも行かないし、特に世間では死んだ事になっている人間には窮屈な思いをさせているだろうな。

「そこで、私達技術部が24時間体制で次元観測機を使用して発見した世界の偵察に行って欲しいの。装備や戦闘規則については修一さん達の軍事部に一任するから、柔軟な対応をして頂戴」

「了解した、詳しい説明は技術部で聞けば良いのか?」

「えぇ、その通りよ」

 俺は、久しぶりの任務の高揚感を感じながら、美紀の部屋を退出しようとして足を止める。様々な所から亡命申請や協力者が来るのは良い。だが、情報規制はどうなっているんだ? 俺達が異世界に移住しようとしているのは遠からずバレるのは構わない。
 バレた所でそれを国家が民間人に話しても信用される筈はない。逆にそんな与太話をした政府は信用を失い失墜するだろう、だが公式な政府機関にバレた時に移住先の世界が判明するのは元も子も無くなる。俺はその辺りの事を美紀に質問する。

「大丈夫よ、異世界への移住の話は正式にノアに所属してからではないと話して無い。それに装備を買う理由も技術転用目的と説明しているし、量についてはPMC部門で使用するからって公式には説明してあるわ。この辺は私が今まで一切私的な軍事利用をしなかったのが効いてるわね、結構信用あるのよ私? 
 肝心な情報規制等については、広報部のクレアさんがやってくれているわ。彼女は情報操作についての天才ね……こちらが望む情報のみを与えて不必要な情報は決して流出させ無いなんて、本当に味方で良かったわ」

 クレアの事は有能な秘書官程度にしか考えた事が無かったがアイツは意外と凄い人間だったのか。それ以上にあの美紀がべた褒めする程だから、かなりの才能なのだろう。俺はその答えに納得して技術部へと向かう事にした。




 美紀からの説明では、異世界の強行偵察をして欲しいとの事だったのでルイスが所属しているB班を連れて技術部に来ていた。

「ようこそ軍事部の皆さん、主任研究員の尾崎です。まずは私達が発見した世界の説明をしたいと思います、こちらを御覧下さい」

 尾崎と名乗った技術者が大型スクリーンに何枚かの写真とナニカの数値が書かれたグラフを表示させた。それをポインターで示しながら説明を開始する。

「この写真は、先に送り込んだ偵察機が撮影した写真です。御覧のように地球環境に酷似した植物が見て取れます、採取したデータでは空気中にある物質も地球とほぼ同じという観測結果が出ています。
 この2つのデータから人間が生息可能の判断したのですが、詳しい調査をしなければ断言できません。本当は私達のような技術者が行くべきなのですが、なにぶんどのような危険があるか分からないので、戦闘のプロである皆様に現地調査をお願いしたいと思います」

 ふむ……俺達が行くのは構わないが、最初から大型の偵察機で隅々まで調べる事も出来るのではないか? そんな質問をぶつけてみる。

「仰る通り、偵察機を使用する事も考えましたが発見した異世界───我々は『G-88』と呼称していますが、G-88では地球上と時間の流れが違います。こちらでの1時間が向こうでは約1日となります、ですので無人偵察機では柔軟性に欠けると判断いたしました」

 なるほど。墜落でもした場合に回収用の偵察機を準備している最中に向こうでは1日以上経つのか。その時間でG-88の原生生物に我々の痕跡が発見される可能性が在る為に使用しないというわけだ。
 だが有益でもあるな、もし向こうに設備を送った場合コチラ側が新しい設備を準備している間に向こうでは組み立てが完了している計算になる。その点で言えばかなり便利だ。

「お願いしたいのは数日間の偵察任務と観測衛星の打ち上げです。こちらの時間では半日にも満たない時間ですが、出来る限りの協力は致します。既に皆さんの出現ポイントは周囲には何もないと確認している無人島に設定してあるので、大量の物資も持っていく事は可能です」

「分かった。少し部下と相談させてくれ、持って行く物資の内容を決める」

 尾崎は『はい。纏まったら内線で呼んで下さい』と言ってから会釈して退出していった。ここが国連であれば、俺達を『戦争屋』と蔑む研究者に馬鹿にされながら持っていく物資まで決められる所だが尾崎は全て俺達に一任してくれた。その信頼に応える為にも必ず成功させたい。

「よーし、お前ら! 頭の良い学者先生に俺達の凄い所を見せ付けるぞ。食料以外には何を持って行くべきだと思う? 遠慮はするなよ」

 俺の掛け声を聞いた部下達は、それまでお行儀良く座って居た姿勢を崩してそれぞれの楽な座り方に直してから意見を交換しあう。

「武器と弾薬は決定だな、後は医薬品も持って行きたい」

「異世界だろ、なにがあるか分からんから大型の兵器も持って行きたい所だな。戦車と航空機は無理か?」

「なぁ、無人島って言ってたよな? だったら簡易の前哨基地を作った方が早くねーか?」

 あーでもない、こーでもないと話し合う部下を見ながら思う。こういう場面のコイツ等は階級など気にしないで純粋な意見を交換しあう。それが隊員間の結束を高めると同時に意識の共有化に繋がって、結果的には生存率の向上になるのだろう。暫く好きにさせておくと、意見を纏めたルイスが俺の所へ報告に来た。

「こちらが皆の意見を纏めた書類です。手書きですがご確認下さい」

「おう」

 俺はルイスに渡された書類に目を通す───。『人数分の戦闘用パワースーツ』……妥当な所だな、地球上でもっとも有効な個人用装甲だし必要だ。『武器・弾薬・医薬品をいっぱい』……いっぱいってなんだよ! これを提案したのはコートだな。アイツは変な所でアバウトだから仕方ないか、後で正確な数値に直さないと。『戦車・航空機を許可される数、設置型のミサイル発射装置と対空砲』……むぅ、これは尾崎に相談だな。
 『簡易基地設営用の物資』……防御面や今後の活動を含めて必要だな、多少無理にでも用意させるか。『痕跡消去用の大規模兵器』……確かに、条件に合わない場合に撤収する時には痕跡を消す必要があるが、さすがに短絡的だろう。これも尾崎と相談だな。
 『御子息』……こらぁ!! 俺の息子は物資じゃねーぞ!? なんで最後にちゃっかり功樹が必要みたいな事を書いてやがる!

「おいルイス! 冗談でも息子を物資扱いするのを止めろ。俺は笑って済ませるが、美紀だったらマジでキレるぞ?」

「書き方が悪かったですが、冗談ではありません。本気で御子息が必要だと考えました」

 は? なぜ必要なんだ、俺はできる事なら功樹を連れて行くのは止めたい。危険という事もあるが、武装した軍人なんて教育に悪すぎるだろう。俺がルイスにそう伝えるが、真剣な表情で言い返してくる。

「いえ、御子息は月面遺跡を作った未知の種族の言語すら理解したと聞きました。その高度な知識はきっと異世界でも役に立つと思います。どうかお願いできませんか?」

「本人が承諾したらな。それと功樹の安全を第一に考えるなら許可する」

 渋々許可すると、ルイスは『いざという時は盾になります』と言っていたので身の安全は大丈夫だと思う。後は本人の許可次第か……、取り合えずそれは置いて尾崎を呼び出して持って行く物資の許可を頼む事にした。
 少ししてから再び部屋に訪れた尾崎に、手書きの書類を見せると『分かりました、全て用意します』と簡単に言い切った。その言葉に俺だけではなく、その場に居た全員が驚く。尾崎は『どうかしましたか?』なんて聞いてくるが、俺はどうしてそんな簡単に許可を出したのかを逆に質問する事にした。

「皆さんは今でこそノア所属の傭兵ですが、つい最近までは国連所属の正規兵の方達でした。そんな方達が無闇な戦闘行為や原生生物の殺戮に走るとは思えませんから、ここに書かれている物資は『本当に必要』と判断しただけですよ」

 笑いながらそう言って来る尾崎に俺達は押し黙る。確かに俺達は平和の為に戦ってきた。だがそれでも『人殺し』と蔑まれる事は少なくなかったのだ、そんな俺達を尾崎は無条件で信用して物資を渡してくれると約束してくれた。
 恐らく……俺達は褒められているのだろう、顔がニヤけるのを堪えながら、尾崎に向かって全員で敬礼して返答する。

「ノア所属、傭兵隊『T.M.N』は全力で任務を達成する事を約束する!」

 こんな熱い想いを胸に敬礼をしたのは国連に入隊した時以来だな───。そんな事を考えながら俺は同行を求める為に、功樹の部屋へと向かう事にした。




「功樹、入るぞ?」

「いいよー」

 部屋に入ると、功樹は1人で動物のドキュメンタリー番組を見ていたようだった。今日は彼女も友達も来ていないのか? 俺はいつも一緒に居るメンバーが居ないのを不思議に思い質問する。

「アリス達は護衛付きで一旦家に帰ったよ、生活の拠点をココに移す為の引越しの準備だってさ。コンは学院長の所に居ると思う、最近は僕の所より学院長の所がお気に入りみたいだね」

 なるほど引越しの準備か、なら2~3日は帰って来ないから丁度いいな。それにコンとかいうあのドラゴンもいつの間にか箱根基地の入り口に帰ってくるから心配いらない。功樹の隣にどっかりと座り、どうやって異世界へ同行して貰うのを切り出すか考えていると功樹がテレビから目を逸らさずに口を開いた。

「父さんが僕の所に来るなんて珍しいね、なんか頼みでもあるの?」

「お、おう。部下達と一緒に異世界の偵察へ行く事になったんだ、それでお前にも来て欲しいんだよ。勿論安全は保障する」

 息子の勘の良さに一瞬ドキリとしながら、お願いをしてみると少し考えた後に『不思議な生き物とかいるかな?』と聞いてきた。そういえばコイツは昔から自然の生き物が好きだったな。俺は仕事で一緒に行ってやれなかったが、まだ幼かった頃に美紀がテレビで見せたら喜んだから、という理由で動物園に連れて行ってやったら大人しい功樹が異常に喜んで大変だったと言っていた。
 確か『ニホンオオカミ』の檻の前から動こうとしなかったらしい。その後、美紀が当時の功樹と同じ大きさ位の良く出来た……もはや剥製レベルのニホンオオカミの縫いぐるみを買ってやると、大事そうに抱きしめていたと笑いながら通信してきたのを覚えている。

「異世界だし居るんじゃないか?」

 俺がそう言うと功樹は『なら行く』と快諾してくれたので、ルイスに許可が出たことを端末で知らせる。そして功樹に準備があるから今すぐ兵器保管区域に行くぞと伝えると、立ち上がって苦笑しながら俺に文句を言ってきた。

「父さん、もうチョット計画性を持とうよ。僕がこれから用事とかあったらどうしたのさ」

 すまない息子よ……、それは母さんからも常に言われているんだ。俺は『今後は気をつける』といつものように答えながら功樹の腕を引っ張って保管区域へ向かった。




 兵器保管区域に来ると、入り口前のゲートで今回異世界に行く部下達が集まっているのが分かった。遠目でも分かる程とんでもない悪人面した集団がガラ悪そうに待っている姿は異常な光景だ、さすがに功樹が萎縮するのではないかと心配だったがそうでもないようだ。
 挙句、一番の悪人面をしているコートを見て『猫の人だ』と笑っている。どうやらヤツが野良猫を保護しているのを知っているようで笑顔でコートと話している。功樹が人を見た目で判断しないような人間で良かった、俺は息子の姿を眺めながら心の底からそう思った。

「お前ら、今から持っていく武器とパワースーツを選ぶぞ! だがココに置いてある『第8世代機』は功樹が装着するからソレ以外で選べよ」

 部下達に告げると、なぜか功樹が驚いた表情で声を掛けてくる。

「父さんって本当に特殊部隊の隊長だったんだ。母さんから聞いたけど、僕はただのマッチョだと思ってた」

「功樹君、隊長は本当に凄い人なのよ? もっと尊敬してあげてね」

 功樹の言葉に笑いながらエリスが突っ込みを入れる。そういばクレアが居ないので今回の偵察隊の情報管理はエリスが行う事になっているのだったな、彼女は準戦闘員の扱いで一応は武装する事になる。どうやら自分の武装を選ぶ為にここまで来たようだ。
 功樹に『お前が懐いているクレアの双子の姉だ』と紹介しようとした所で、エリスを見つめていた功樹の言葉に驚く。

「クレアさんのお姉さんですか?」

「おい! 功樹、お前クレアとエリスの見分けがつくのか?」

 まさか俺や普段一緒に居る隊員達ですら、中々見分けがつかないのに功樹は一発で分かったのか? 固唾を飲んで功樹の発言を待っていると、凄まじい程の『的確』な表現方法で2人を表した答えが返ってきた。

「はい。キリッとした綺麗系な美人さんがクレアさんで、ふにゃっとした可愛い系の美人さんがエリスさんですね」

「隊長! 私の異世界での部屋は功樹君と一緒でいいです」

 駄目だ、それは絶対に許さん。間違いなく良からぬ事をする確信がある。それにしても功樹の表現の仕方は分かりやすいな、可愛い系な美人と思いながらエリスを見ると本当にそう見えるから不思議だ。部下達も『すげぇ! 本当に見分けがつく』と盛り上がっている。
 さて、いつまでもこうしては居られない。さっさと武器を選んで異世界に行く準備を整えなければ……。

「お前ら! 今からゲートを開けるが走らず慌てずに武器を選べよ。お行儀良くするんだ、分かったな?」

 先に注意しておかないと、間違いなく玩具屋に来た子供のように走り回るのが目に見えているので釘を刺しておく。キチンと整列したのを確認してからゲートを開いたが、開いた瞬間に馬鹿共は全力で走り去っていった。

「すげぇよ! ここにあるスーツは先行量産型の第6世代機だぞ!」

「おい、テメェその火炎放射機は俺が先に目を付けたんだ! 触るんじゃねーよ!」

「80ミリの対物ライフルは何処だよ? あれ持っていきたい」

 俺は溜息と共に眉間を押さえる、こうなってはもう俺の話は聞かない。諦めの心境で隣に居る功樹にも武器を選ぶように促すと、首を傾げながら質問してきた。

「僕、訓練してないし撃った事ないよ?」

「大丈夫だ。お前のスーツの操縦モジュールに射撃管制システムを突っ込んでおいたから、表示されるレティクルに合わせて撃てば当たる。個人用の小火器は持たせないけどな」

 そう教えると、功樹も凄まじい勢いで走りながら部下達の仲間に加わった。そうか、アイツも武器を選ばせるとテンションが上がるタイプの人間なのか。煙草を吸いたい欲求に駆られるが、火気厳禁の場所なので自重して俺も武器を選ぶ事にする。
 取り合えず20ミリのライフルと榴弾発射装置に防御用の盾にするか。デカ物系は派手好きの部下達が大量に持ってくだろうから、堅実な小型の装備で揃える事にする。武器を眺めながら用途を考えていると功樹が声を掛けてきた。

「父さん、僕はコレとアレがいい」

「んー? どれだ……って、お前これが何か分かって……。お前なら理解してるか」

 ニコニコ顔の功樹が選んだのは、『試作型180ミリ電磁投射砲』と『火薬式パイルバンカー』だった。電磁投射砲はスーツが膝立ちになる制限があるが180ミリの弾丸を秒速6.9キロで発射する化け物兵器だ、こんなモノをブチ込んだら大抵の目標は消滅する。
 パイルバンカーの方は超近距離戦闘で絶大な威力を誇る。俺は使ったことが無いが厚さ3メートルの強化金属を簡単に貫通する筈だ。これらの装備を功樹専用の第8世代機に搭載したら───、これ以上は考えるのを止めよう。精神衛生上よろしくない。

「頼むから撃つ時は声を掛けてくれ、無闇に打ち込むなよ?」

「分かってるよ」

 本当に分かっているのか不安だが、功樹が選んだのだから仕方ない。見渡すと部下達も選定を終えたようで自分の装着するスーツに取り付けているのが見える。2人程、顔に痣を作っているのが居るが火炎放射機を取り合ったのだと思うが深くは気にしない。
 後は必要な車両を用意してから最下層である第5階層に設置してある『ゲート』に向かうだけだな。俺はエリスに頼んで物資搬入用の大型エレベータの使用を予約して貰う事にした。



 全ての準備を整えてゲートの前に整列する。俺の後ろには真っ黒い空間が広がっていて、そこを抜ければ異世界に辿り着く事が出来る。さすがの部下達も初めて見る異様な物体に若干であるが恐れを抱いているようなので、エリスが士気を上げる為に軽く演説するように促してくる。
 まぁ、これも一種の儀式みたいなもんだと割り切って、部下達を勇気付ける為に精一杯の演説を始める。

「諸君、これから我々は未知の異世界へと出撃する。そこにどのような困難や敵が待ち受けているのか、私は語る言葉を持たない。だが! 数々の困難な任務を達成してきた我々に不可能な事など無い! 隣に居る戦友を信じろ、我々を支援する仲間を信じろ。そうすれば必ず生きて帰って来れる。我々は家族を見捨てない! 我々は家族を裏切らない! いいか? 全員で帰るぞ。強行偵察班、出撃!」

「了解!」

 勇敢さを取り戻した屈強な部下達の顔を眺めてから、俺は一番最初にゲートを潜った───。



 2102年8月1日午前10時30分、ノア所属の傭兵部隊である『T.M.N』の強行偵察班93名が、地球側呼称G-88に出撃する。持ち込んだ兵器は、パワースーツ93機・戦車3両・航空機4機・対空砲3機・巡航ミサイル30発・重力崩壊弾2発・前哨基地設営物資・特殊車両12両の重装備である。






 おまけ……『コンの冒険』

「コンちゃん、帰るの?」

「コン!」

 学院長である山本香の膝の上から降りたコンは、出口に向かってトコトコと歩き出す。そして慣れた様子でドアノブにジャンプして扉を開けると、一旦廊下に出てから同じようにジャンプして扉を閉める。扉の向こうから

「またおいでー」

と言っている学院長の言葉に反応するかのように、尻尾をフリフリさせながら正門へと向かった。正門の前に来ると近くにある自動販売機の上に座って、じっと道路を走る車を眺める。
 20分程待っていると目の前に大型トラックが止まり中から中年の運転手が顔出して、コンに声を掛ける。

「よぉ、トカゲっこ! 今日も乗ってくか?」

「コーン、コン」

 その言葉に返事をするように鳴いたコンは、運転手が開けた助手席のドアからトラックに飛び乗り箱根を目指す。

「漢なら~♪ 酒を飲んで~♪」

「コン♪」

 運転手が歌う演歌に併せながらコンも自慢の鳴き声を披露しつつ、数時間後……箱根付近まで近づいたトラックは一旦停車してコンを降ろす。

「ここまでだ、後は自分でなんとかしな」

「コン!」

 この前、学院長に作って貰った首から提げているコミュニケーション用のカードの中から『ありがとう』と書かれているカードを咥えて運転手に見せた後で、コンはトラックから降りる。
 そのままトコトコと15分程歩いて、郵便局の前まで来ると止まっている配送用バイクの座席の上に座ってじっと待つ。やがて出てきた郵便局員がコンに気付いて声を掛ける。

「あ、トカゲ君か。今日も乗っていくかい?」

「コン」

 郵便局員が差し出した鞄に入り込み、顔だけを外にだして一緒に配達コースへと出かける。4件程一緒に回ったところで峠のカーブで鳴き声を上げて降ろして貰う。

「じゃあまたね!」

 カードを見せる間もなく走り去っていく郵便局員を眺めながら、若干しょんぼりしたコンはいつものように近くにある岩によじ登り、ここでもじっと待つ。
 多少時間にバラつきがあるが、今日は意外と早く訪れた『Noa』とペイントされたトラックが峠を上がってくるのに気付いたコンは、カーブで速度を落としたトラックの荷台にタイミング良くジャンプして飛び乗る。

「コン、コーン」

 そのまま箱根基地に到着したトラックが入り口前で検問を受けている最中に飛び降りて、一般隊員が出入りする入り口の前までトコトコ歩く。入り口でインターフォンに向かって体当たりを数回繰り返すと、

「コン君、お帰り」

と言いながら警備の隊員が中に入れてくれるので、そのまま中に入る。中に入った後は適当な人間を見つけて鳴き声を上げると、飼い主である『荒川功樹』の部屋の前まで連れて行ってくれるので比較的早く移動できる。
 そして主人の部屋の前まで来ると後は勝手に部屋に入り、ベッドの隣に置いてある自分用の寝床で丸くなり眠る。



 これがコンが毎日行なっている冒険の1つである。
次から主人公視点もあります、早速の勘違いもあります。あとオマケでコンが普段どんな生活をしているのかを書いてみました。

ニホンオオカミの所は、この小説を最初から読んでいる読者様はニヤリとすると思います。
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