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異世界に転生したんだけど俺、天才って勘違いされてない? <旧題  転生したんだけど俺なんか勘違いされてない?> 作者:にゅん

学院編 1年度 夏期休暇~異世界編~

30/77

月面基地

夏休みのお話の1話目です。
「皆、忘れ物は無い?」

 母さんの質問にいつものメンバー全員が返事をする。忘れ物とかはどうでも良いから、早くこのクソ暑い服を脱ぎたい。俺もコンと一緒に残れば良かったか? と軽く後悔をしている中、母さんの声が一際大きく響く。

「よし。じゃあ月面に向けて出発よ! シャトルに乗り込んで」

 まるでコンビニに行くような軽い口調で、母さんが『月面探査シャトル』の入り口を開けて手招きしている。それを横目で眺めつつ俺は何故、宇宙服を着込んでこのシャトルに乗り込む羽目になったのかを思い出していた。




----荒川功樹 視点----


 女性陣が風呂から上がってきた後、俺と信吾で玄関前にバーベキューのセットを設置して肉を焼く準備をしていた。野菜と肉を串に刺しているとアリスと相川さんが、スエットに着替えて玄関から出てきた。

「功樹君、お腹すいた」

 アリスの言葉に苦笑を浮かべつつ、信吾と手分けして肉を焼いていると相川さんが『夏休みの予定』について聞いてきた。

「ねぇ、荒川君とシン君は夏休みどうするの?」

 そんな真顔で聞かれても決めていないので返答に困る。夏休みか……別にやる事もないし、家でゴロゴロしてるのではないだろうか? そんな事を相川さんに言うと、生ゴミを見るような目で溜息をつかれてしまった。
 いや、だってそんなもんだろ!? 学生の夏休みなんて朝方に寝て夕方に起きるって相場が決まっているだろ! 俺が信吾に同意を求めると、

「功樹、さすがにそれは無いと思う」

と呆れた感じで溜息をつかれた。アリスにも聞きたいところだが、間違いなく同じような意見が返ってくると思うので自重する。味方が居ない事に泣きそうになりながら肉を焼いていると信吾が思い出したように言って来た。

「そういえば、夏休み中に月面で『国際調査ステーション』が建設されるみたいだね。学院も協力しているって聞いたよ」

 ほう、そんな事をやる予定なのか。串から野菜を外して肉だけを食いながら聞いていると、相川さんが話を引き次ぐ。

「確か、建設と調査の責任者は荒川君のお母さんじゃなかった? 凄いよね」

 悪いが俺は知らんぞ。そもそも母さんが普段やっている事の範囲が広すぎて今何をやっているのか把握しきれていない。家に帰ったら聞いてみようか? そんな事を考えていると腕に付けている端末からメールの着信音が鳴り響く……。


『こうちゃん、忘れていたけど来週からお母さんは『国際調査ステーション』を建設する為に月面に行きます。アリスちゃん達も連れて行きたいと思うので、来週から2週間の予定を聞いて置いてください』


 文面を確認した時に、本気で盗聴器か監視カメラの存在を疑った俺は悪くないと思う。あまりにジャストタイミングのメールを皆に見せると、全員大賛成をして参加が決まった。俺は何かまた面倒な事が起きそうな予感を感じながら、黙々と肉を食い続けていた。





 その後、慌しく準備を行い今に至る。シャトルのシートに座りながら生命維持装置付きの宇宙服の冷却装置を調節して内部温度を下げる。そこで前にロケットで宇宙まで飛ばされた時に、とんでもなく揺れたりした記憶が蘇り今回はどうなのかを母さんに質問する。

「アレは弾道ミサイルで、そもそも人が乗ることを考慮している物じゃないから揺れたのよ。今回は飛行機みたいに、滑走路から離陸してゆったりと成層圏まで飛行した後にブースターで大気圏を離脱。
 それから軌道上で待っている作業船から再加速用の大型ブースターと燃料を貰ってから、一気に時速12万キロまで加速して月面を目指すのよ」

 通路を挟んで座っている宇宙専門の相川さんが、『第三宇宙速度を突破するの!?』なんて言いながら驚いているのが分かるが、その辺が良くわからない俺はなんとなく凄い程度にしか思えない。ただ月まで40万キロくらいだった筈だから4時間位で着くのか……。
 母さんの事だから『空間をワープして行くわよ』なんて言い出すかと思って少しヒヤヒヤしていたのは内緒だ。

『まもなく離陸いたします。安全の為にシートに着席してベルトをご使用下さい』

 アリスから貰ったビスケットを食べているとアナウンスが流れた。指示通りにベルトを締めて大人しく座っていると、この世界に転生する前の世界では『月の裏側』には『宇宙人の秘密基地』が存在している、なんていう噂話があった事を思いだして母さんに聞いてみる。

「うん? 月の裏側? ナニカの遺跡はあるわよ。生命体は既に居ないけどね」

 あるのかよ!? しかも普通に言って良いのか? そういうのはトップシークレットとかで民間人には秘密だろ……。

「こうちゃん、今ココに居る時点で『民間人』では無いわよ?」

「功樹君、シャトルに乗る前に『機密保護書類』にサインしなかったの?」

 アリスが何を今更というような顔で俺に話し掛けてくるが、そんな書類にサインした覚えは無い。まぁ間違いなく裏で母さんが俺の分まで書類を書いて提出したのだと思うがな。微かな振動と共に乗っているシャトルが離陸を開始したのが分かった。大気圏離脱用のシャトルだけあって、窓が無いので外の様子が分からない。

「功樹、暇だから端末でゲームしよう」

 信吾が自分の個人端末から、トランプゲームの参加申請を送ってきたので許可をする。暇になったら取り合えずトランプで時間を潰すのは、世界が変わっても同じなのだなと思い多少感動しつつ、自分の端末を操作すると気になる事があった。

「なぁ、1人多くないか?」

 ゲーム画面のロビーに表示されているのは、俺・アリス・信吾・相川さんの4人の他に5人目の『みーちゃん』が表示されていた。だれだよ? 『みーちゃん』って。

「お母さんよ!」

 母さんが自信満々に幾分腹が立つ表情で宣言してくるのを聞き流して、俺は全員に『みーちゃん』に対するキック投票を提案する。端末の上部に俺の提案が表示されるが、賛成1反対3で否決された。俺以外の全員が母さんを歓迎している感じなのかよ……、
 いい年して子供たちのゲームに参加してくるなよ!! しかも、階段縛り等が無い単純な大富豪をプレイしているのだが、母さんが強すぎる。6回やって6回とも大富豪なんてありえないだろ! なんでそんな強いんだよ。

「荒川さん、なんでそんなに強いんですか?」

 相川さんも疑問に思ったらしく、恐る恐る母さんに質問している。

「恵美ちゃん、そんな畏まらなくてもいいわよ。美紀さんって呼んでね! 強いっていうより単純に私が『場に出されているカードを暗記』しているだけよ。皆の手元に今どのカードがあるか分かっているから、その場でもっとも効率が良いカードを手元から出しているの」

 たかがゲームで天才的な頭脳を消費すんなよ!!! もっと違う所で使えよ!? というかそんな事が出来るんならトランプゲームで勝てねぇよ! 皆もその事を察したらしく、絶望的な表情を浮かべる。

『5分後に、作業船とドッキングします』

 丁度良いタイミングでアナウンスが入る。このまま一方的なゲーム展開にならずに済んで良かった……、そんな事を考えながら再びベルトを締めてシートに座りなおした。



 作業船とドッキングした軽い衝撃を感じてから20分ぐらい立った後、客室に年配の男性が入ってきた。

「皆さん初めまして、このシャトルの機長を務めているダニエル・ウェアです」

 どうやら、機長さんのようだ。前に見た国連軍の制服を着こなしていて、昔見た戦争映画に出てくる『空軍士官』という感じだ。俺も将来はこんな感じの格好いい人になりたい……、そんな事を考えているとダニエルさんの説明が続く。

「皆様のような著名な方にお会いし、私が月面へとご案内出来る事を大変な名誉に思っています。また、完璧な安全規定に基づき安心した宇宙の旅をお約束します。
 ですが、この先の飛行は超高速となりますので、それぞれの生命維持装置を起動してヘルメットを装着して頂きます」

 あー、はいはい。要は『この先は、何があるか分からんから宇宙服を着て大人しく座ってろ』って事だろ? この人も大変だな……、母さんを乗せると一々出向いて説明しないといけないのか。俺は機長の『胃』を心配しながら黙って説明を聞き続ける事にした。




----月面調査シャトル機長 ダニエル・ウェア 視点----


 俺はいつもの通りに、今日のフライトのブリーフィングを行う為に会議室に来ていた。部屋に入ると本来居るはずのフライト管理官の他に、『少将』の階級章をつけた女性が居る事に気付いて敬礼する。なんで将官がブリーフィングに参加しているのだ? そんな疑問が浮かぶが、こちらから質問するわけにもいかないので黙っていると少将が口を開いた。

「ウェア中佐、着席してよろしい」

 指示に従いパイプ椅子に腰を下ろす。いつもなら直ぐにもらえるはずのフライトデータを渡されるのを待っていると、少将がスクリーンに映像を写しながら説明を始めた。

「中佐、今日貴官が月面に運ぶ人員は『普通』の人員ではない。まずはコレを見てくれ」

 スクリーンに映し出される映像を見て、顎が外れそうになるまで口が開いたのが自分でも分かった。搭乗予定リストに載っている『アラカワミキ』は理解できる、彼女は月面基地の建設と月面調査のリーダーだ。いずれ月面まで運ぶ予定だったので、そこまでの驚きはないが、残りの4名が重要だ。
 『サイトウシンゴ』……彼は数ヶ月前に地球に衝突しそうになった小惑星の軌道を自身の開発した、『自立起動型AIロボット』で小惑星のコースを変更して衝突を回避させる事に成功した人物だ。我々『国連宇宙軍』でも彼の事を英雄視する人間は多い。勿論私もその中の1人だ。
 『アリス・アルフォード』……人類最大の敵と言われた『欧州の悲劇ウイルス』に効果がある薬の開発に成功した少女で、彼女の事を崇拝する医者も多い。WHOが主任研究員待遇で招致したが断られたという噂を聞いた。
 『アイカワメグミ』……目立った功績は無いが、宇宙開発に関する論文を幾つも発表していて、その堅実ながら独創性に富んだ内容は高評価を得ている。私も彼女の論文をいくつか読んだ事があるが、次世代の宇宙開発を率いる才能を感じた。


そして、最後に表示されている……問題の『アラカワコウキ』。


 個人で『第8世代のパワースーツ』の開発に成功。客船の救出や、噂では弾道ミサイルに観測用の飛行機を衝突させてミサイルの直撃を食い止めたという話まで聞いた事がある。そして先月は、攫われた恋人の救出の為に単独で大気圏外から地球に再突入して、敵が待ち構えている島へと強行突入、本隊が到着するまで囮役に徹して持ち堪えた。
 挙句に非戦闘員でありながら、国連でも精鋭と言われている降下部隊を単独で『援護』して敵の対空陣地を全て潰した後に、何事も無かったかのように恋人を自力で救出して島から撤収している。
 他にも、私には情報を閲覧する資格は無いが『何かある』ようで、世界各国が彼に対して異常なまでに神経質になって接している。

 もう辞表を出して家に帰りたいのだが……、駄目だろうか? 下手をすれば国家元首より重要な人間を運ぶなんていう任務は俺には重すぎる。こんな大物達を5人も乗せて飛行するとして、大気圏外は良いが地球上ではどういう警備をするのだ? 質問を許可されたので俺はその辺りの事を聞いてみる。

「警備に関しては問題は無い。幸いシャトルには窓が無いので、飛行を開始したら国連所属の航空機が全力で警備任務に就く事になる。成層圏に達するまで常に40機以上がシャトルの周りを固める事になり、攻撃を受けた場合は盾になる。地上では通常の警備部隊は今日は外されて別の部隊が警備に就く」

「シャトルの発着場の警備隊は、専門の訓練を受けた特殊部隊が受け持っていたと記憶しています。彼らを外して大丈夫なのですか?」

 いくら警備の為とはいえ、専門ではないレンジャーなんぞが送られて来た所で役に立たない。そう言外に匂わせて発言すると、少将はニヤリと笑いながら答えた。

「警備に就くのは、国連軍特殊作戦群所属の部隊だ。その部隊の正式名については私は『情報開示』を受けていないし、知る権利もない」

 なるほど、二ヤつく理由も分かる。少将クラスでさえ知らない部隊なんて1つしかない……、1部隊で国家を陥落させたと噂のある例の『ゴースト部隊』だろう。噂だけしか聞いた事が無かったので、広報部がでっち上げた戦意向上用の与太話だと思っていたが本当に実在したようだな。

「中佐、今日のフライトでの貴官の任務だが、この5人のVIPを安全に素早く月面に届ける事が任務となる。また、『アラカワコウキ』氏に対しては格別の配慮をするように上層部から通達が来ている」

 軍用機に乗せるのに『格別の配慮』なんてどうすれば良いのだ? 美人の客室乗務員が搭乗しているわけでも無く、飲み物や贅を凝らした機内食が出る事も無い。本当にどうすれば良いのか教えてくれ!!

「『配慮』の方法については、中佐自身が考えて実行するように。では中佐、任務の成功を祈っている」

 俺の質問を適当に流して、少将は足早に退出していった。これは、問題があれば全部俺に押し付けるつもりだ。出発の前に妻に電話しておこう……、俺が帰ってこれなくても、来月生まれてくる子供と一緒に幸せな人生を送るように伝えなければ。



 軌道上で追加のブースターを取り付ける作業船とドッキングした後、俺は作業を見守る事無く客室へと向かった。少将が退出した後に必死になって『配慮』の方法を考えていたが、結局はアナウンスで済ませる内容を直接出向いて説明する事ぐらいしか浮かばなかった。備え付けの洗面所で制服の皺を整えて、帽子をかぶり直してから客室の扉を開ける。

「皆さん初めまして、このシャトルの機長を務めているダニエル・ウェアです」

 挨拶をすると、全員が俺に注目してしているのが分かる。アラカワ女史……頼むからその値踏みするような視線を送るのは止めてくれ。胃が痛むのを感じながら、本命であるコウキ氏の方を横目で見ると好感を抱いているような目で見られているのが分かった。良し! どうやら成功のようだ。そのまま話を続ける。

「皆様のような著名な方にお会いし、私が月面へとご案内出来る事を大変な名誉に思っています。また、完璧な安全規定に基づき安心した宇宙の旅をお約束します。ですが、この先の飛行は超高速となりますので、それぞれの生命維持装置を起動してヘルメットを装着して頂きます」

 加速の時に隔壁に頭でもぶつけられたら、俺の首が飛ぶ。良くて降格、悪ければ僻地への左遷か軍法会議の末に……。いや、止めよう。悪い事を考えると気分が重くなる、今はこのフライトの事だけを考えなければ。俺は取り合えず説明を続ける。

「ここまでは重力発生装置を使用していたので、地球上を同じ重力をシャトル内で再現していましたが月面に向けて加速する際は装置を切ります。ですので、飲食物等は今の内に座席に付いている専用の入れ物に仕舞って下さい。
 また緊急事態が発生した場合は、客室部分のモジュールを分離して皆様の安全を第一に優先致します。その場合は地球から救難船が緊急出動する予定で、3時間以内には救助されるのでご心配なされないようにお願い致します」

 説明の間もチラチラとコウキ氏の方を窺うが、彼は指示通りにベルトを締めてクッキーや飲み物を所定の場所に仕舞い、生命維持装置の点検をしていた。国連や各国から特別扱いを受けているので、どんな我侭を言われるか内心焦っていたが素直で良い少年ではないか。
 表情も優しそうで、決して単独で武装勢力に突っ込むような人間に見えない。俺は安心して説明を終えて、操縦室に戻ることにした。

「中佐、ご苦労様です」

 副機長を務めている大尉が労いの言葉を掛けてくる。俺は適当に返事をしながら機器のチェックを行っていたのだが、大尉が質問をしてきた。

「コウキ君は、どんな人でしたか?」

 変な事を聞くヤツだな。自分が受けた印象をそのまま教えてやると、妙な顔をしながら俺の話を聞いていた。気になり何故そんな顔をしているのか聞いてみるが、口ごもって答えようとしない。更に俺が問い詰めると、『私も信じてはいないですが……』と前置きしてから話始めた。

「私の友人に海軍の人間がいるんですがね、ソイツが日本の海上自衛軍のヤツと友人なんですよ。それでその自衛軍から聞いた話らしいんですが、コウキ君は子供の頃に自分で作った『巡航ミサイル』を発射した事があるそうです。それも2回も。2回目は迎撃が間に合わずに、大変な事態になったそうですがミサイル本体は自爆したそうですよ」

 まさか……。あの子はそんな事をするような子では無いだろう。噂話にすぎないと俺が笑っていたが、大尉の話の続きを聞いて固まる。

「何年か前にもロケットを打ち上げて宇宙軍が追跡したらしいですけど、目標をロストしたとか。その頃は私は宇宙軍に所属していませんでしたけど、中佐ならご存知では?」

 確かにまだ少佐だった頃に、宇宙軍の全部署に緊急出動要請がかかったことがある。てっきり何処かの国が事前通告無しに衛星でも打ち上げたとばかり思っていたが、アレはそういう事だったのか? 
 大尉には『さぁ、分からんな』と答えたが、自分の手が震えるのは隠す事が出来ない。俺はやはりとんでもない客を運んでいるようだ。

『追加ブースターの点検と装着が終了しました。発進可能です』

 作業船からの連絡が入り、加速の準備を整えて客室へとアナウンスをする。横で大尉がブースターの点火ボタンを押そうとしているのが見えたので、慌ててその手を掴み手順の変更を伝える。

「大尉、まず最初にシャトル本体のエンジンを最大出力にする。ブースターの点火はそれからで良い、徐々に加速させるぞ。今回は急加速は使わないで客の安全を第一に考える」

「……そういう事ですか」

「そうだ」

 俺が何を言いたいのか察した大尉が、黙って俺の指示に従う。大尉の手も震え始めるが俺はそれを笑う事は出来ない、間違いなく乗客の内1人でも怪我をさせる事になったりした場合『殺される』。誰に? とはあえて考えないようにしながら、シャトルを徐々に加速させブースターを起動した。
 一気に体にGがかかるが、宇宙服の機能が働いて体にかかる負担は少ない。さらにいつもの、零からの急加速ではないので余計な負担は少なくて済む、客室の方も問題があった場合に押される事になっている、異常を知らせるボタンが押されていないので問題は無いのだろう。後はこのまま何事も無く無事に着く事を願うだけだ。



『こちらは月面基地管制塔です。貴機を確認しました、誘導電波に従い着陸して下さい。現在、外温度はマイナス170℃で快晴です』

 4時間程飛行した後、月面基地から通信が入った。女性の管制官が地球上を飛行する通常の旅客機に対するように『気温と天候』を知らせる冗談を言っているが、生憎コッチにそんな余裕はない。俺達は慎重にシャトルを着陸させる事に全神経を捧げているのだ! 頼むからその集中を乱すような発言は止めてくれ!!

「大尉、車輪を降ろせ」

「了解」

 いつも以上にそっとシャトルを着陸させて、エンジンを止める。後は、月面基地の要員が移動用の車両を持ってきてシャトルの出入り口にドッキングさせるだけだ。俺達の仕事はここで終了となる。俺は安堵の溜息をつきながら、隣に座っている大尉に基地のPXで酒を奢ってやると話かけると、ヤツは泣きそうな顔で伝えてきた。

「中佐……、帰りも我々です」

 基地に入ったら、辞表を書こう……。俺はそう決めた。




----荒川功樹 視点----

 シャトルが着陸した後、移動用の車両に乗り月面基地の内部へと運ばれてきた。目に入ったのは、建設途中の基地とは思え無い程の広さを持つメインホールだった。俺が驚きながら辺りを見回していると、母さんが手を叩いて皆の注目を集める。

「はーい、じゃあ今から配るカードの説明をするわよ。このカードは基地内のセキュリティーカードの役目をしていて、コレが無ければ何処にも行けません。なるべく寝る時も首から提げておいてね。
 それと貴方達4人は全員最高クラスのセキュリティーカードを渡される事になるから、事実上は基地内の何処へでも立ち入る事が出来るようになるわ。でも、危険な場所に無断で立ち入ったり、基地外部……つまり月面に勝手に出たりはしないで頂戴。皆の事を信用してこのレベルの許可証を渡しているのだから、ちゃんと守ってね」

 このメンバーの中にそんな馬鹿な事をするヤツなんか居ないだろ。恐らく全員が『ここに行きたい、あそこに行きたい』と基地で働いている人に言ってから行くと思う。

「皆が2週間寝泊りする場所だけど、警備の関係上で全員同じ区画の個室を使用してもらうわ。特に不自由はないと思うけど、水に関しては持ち込んだ量と循環器の性能を考えてなるべく節水を心がけてね。
 一番大事なのが、午前7時と午後7時に必ず点呼をとるからそれまでには食堂に集まっていて頂戴。後は、そうね……疑問があったらその時に質問してね」

 最後だけ投げやりだな! まぁ今ここで全部の疑問に答える必要もないか。落ち着いたら浮かんでくる疑問も在ると思うし、俺達は母さんの案内で各自に当てられた部屋へと向かう事にした。
 部屋に荷物を置いた後で食堂に場所を移してこれからの予定を決める。相川さんは月面調査班に同行するだろうし、信吾は新型の作業機械を見に行くだろう。アリスは多分、宇宙空間での細菌やウイルスの研究をしている別の研究施設の方に行くと思う。

「功樹君は、何処に行くか予定を決めているの?」

アリスが俺の予定を聞いてきた。そんなモン決まっている……アソコに行くしかないだろうが!!!

「裏側にある遺跡を見に行こうと思う」

 そう言うと、全員からやっぱりというような表情をされた。だってロマンだろ!? 未知の知的生命体が残した遺産を自分の目で見れるなんて、二度と無いと思う。俺は多少母さんに無理を言ってでも連れて行って貰うつもりでいる。

「フヒ、じゃあ明日から2、3日は皆別行動だね」

 最後に信吾がそういって締め括り、今日は解散となった。



 翌日、朝の点呼が終わった後に俺は母さんに『遺跡』に行きたいと相談する。渋られるかと思っていたが、意外とあっさり許可が出たので驚いていると母さんが笑いながら教えてくれた。

「こうちゃんは、絶対に遺跡に行きたいと言い出すと思っていたもの。もう準備もしてあるわよ」

 さすが母さんだな、息子の言い出すことを予測して準備も整えてあるのか。俺はニコニコしながら『ありがとう』と礼を言うが、母さんは真顔で俺に説明してきた。

「実はね、遺跡の調査は殆ど終わっていないのよ。取り合えず『人類に害は無い』程度しか分からなかったの、実際に宇宙人が居たわけでもないし、そもそも中に入る事も出来なかったわ。入り口と思わしき場所には『文字』のような物が書いてあったけど、研究も進んでないし、爆破して中に入ろうともしたけど傷1つ付かなかったの。こうちゃんが、実際に現場で何か分かれば教えて頂戴」

 天才の母さんが見て分からないのであれば、俺が見ても分からんだろ。だが、多少でも俺が役に立てれば良いと思い、母さんに『まかせてくれ』と返しておいた。


 指示された通りに強化骨格装備に着替えてロビーで待っていると、同じ装備に着替えた母さんと後ろから明らかに軍人と思われる厳ついオッサンが一緒に来たのが分かった。そのオッサンは俺を見るなり、

「C'est agréable de vous rencontrer」

と話しかけてきた。何を言っているのか全く分からんが、ニュアンス的にフランス語だと思う。俺が固まっていると、オッサンが気付いたように首元のスイッチを指で押す仕草をしている。なんだ? 俺が自分の外骨格の首元を手で探ると同じ場所にスイッチを見つけたので押してみる。

「自動翻訳機は機能しているかな? 俺の言葉が分かるかい」

お! おおお!? オッサンが喋るのと少し遅れて耳元に合成音声が聞える。どうやら外骨格に内臓しているマイクが拾った音声を、機械が自動的に翻訳して再生しているようだ。

「聞えます! ちょっと驚きました」

「ハハハッ、初めてこの機能を使う人間は驚くだろうね。この機能はキミのお母さんが開発したんだよ?」

 マジかよ!? 母さん凄いな。母さんの方を見ると、いつも通りに優しく微笑みながら俺の方を見ている母さんと目が合う。なんとなく恥ずかしくなって目を逸らすと、オッサンが話を続ける。

「月面遺跡に行きたいんだってね。俺が案内するから、ゆっくりと見物してくれ!」

 そう言って握手をしてくる、微妙にテンションが高いオッサンに苦笑しながら、俺はまだ見ぬ遺跡に対して思いを馳せた……。
風邪のせいで更新が止まっていましたが、また今まで通りに更新を行っていきます。活動報告を更新しました、御覧下さい。
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