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異世界に転生したんだけど俺、天才って勘違いされてない? <旧題  転生したんだけど俺なんか勘違いされてない?> 作者:にゅん

学院編1年度 前期

28/77

温泉を掘ろう!

「はぁ……」

 アリスと相川さんが用事で先に帰った放課後の研究棟で、信吾が大きな溜息をついた。俺はコンにアイスを食べさせながら横目で信吾に問いかける。

「どうした?」

「恵美ちゃんの誕生日に渡すプレゼントが思いつかないんだよ」

 『もうおしまいだぁ!』というような感じで机に突っ伏しながら俺とコンを見てくる、そんなモン適当に喜びそうなブランド品でも渡せば良いだろ……。
 そう思ったが真剣に悩んでいる信吾に投げやりに答えるわけにもいかずに、俺もそれなりに考える事にする。そもそも誕生日は何時だ? それによって用意するのに掛けれる時間も変わってくる。

「誕生日っていつ?」

「7月20日だよ」

 ふむ……まだ3週間あるのか。何かを買う為に取り寄せるにしても、何かを作るとしても十分に時間はあるな。後は相川さんの趣味とか嗜好だな本人が喜ぶ物が一番良いだろう、俺は信吾に彼女の好きな物や趣味を質問するが呆れた答えが返って来た。

「それがさ、ボクそういうの聞いた事ないから分からないんだよ」

 分からないっておい! 自分の彼女の事にもう少し興味持てよ!? 信吾の肩を掴んで揺らしながら文句を言うと涙目になりながら謝ってくる。

「ごめんって! でもなんか恥ずかしくて聞けなかったんだよ。あ、でも温泉が好きって言ってた」

 ほう、温泉か。温泉なぁ……温泉は俺も好きだ。よし! 決まったぞ、俺は再び信吾の肩を掴んで宣言する。

「温泉を掘ろう!」

「フヒ!?」

 『何言ってるの?』的な目で見つめ返す信吾に俺は説明する。温泉が好きな相川さんの為に、信吾が自分で温泉を掘ってプレゼントすると間違いなく好感度はアップするはずだ。
 それに自分で掘った温泉なら、金を取られる事も無く好きな時に好きなだけ浸かる事が出来て更に他人という邪魔が入ることも無い! まさに完璧なフロンティアの完成だ。そう熱弁すると信吾は具体的な問題点を上げてくる。

「でも、土地はどうするの? それに費用や作業するのにも人手がいるよ?」

 無論その点もちゃんと考えてある。土地なんざ買えば良いのだ! どうやら信吾はまだ自分のキャッシュ情報を確認していないようだが、この前の『欧州の悲劇』の治療薬を開発した報奨金が今日それぞれの口座に振り込まれてた。
 その額はなんと『5億ドル』。俺と信吾の報奨金を合わせればそれこそ城が建設できる。作業も自分達のパワースーツを使えばどうにかなるだろうし、温泉を掘り当てるのに必要な専門知識も当てがある。俺がこう説明すると、

「フヒ、いけそうな気がしてきた」

と信吾も乗り気になっている。よし後は何から手をつけるかだな、俺がこの先の予定を考えていると信吾は不安そうな顔で俺に質問してくる。

「でも良いの? 功樹だって別の事で報奨金を使いたいんじゃない?」

「信吾、こういう時に金使わないでどうするんだよ。そんな事は気にしないで予定を組むぞ」

 俺が笑いながらそう言うと信吾は『ありがとう』と嬉しそうに返してきた。まぁ本当に気にしなくて良いぞ、完成したら俺もアリスも使うだろうしな!



「じゃあ、場所は箱根でいいよな?」

「フヒ、無難な所だね」

 場所を俺の家に移して、これからの細かい予定を組む。場所は箱根で山のど真ん中辺りの土地を購入する事になった、これは周りの景観もそうだが第一に他人という邪魔が入らないようにする為でもある。次に温泉に付随する建物だが外国から丸々移築する事に決めたのだが……ここで問題が発生した。

「バロック様式の古城にしようぜ!」

「フヒ! そんなの趣味悪いよ、ケルン大聖堂みたいなゴシック様式が良いって!」

 俺と信吾の建物に対する価値観が完全に違っていたのだ。どちらも譲らず平行線を辿った為に最終手段として母さんに相談してみる事にしたのだが、ゴミを見るような目でこう言われた。

『あのね、女の子にプレゼントする為に作る温泉よね? なんでそんな吸血鬼とか幽霊がでそうな趣味の悪い建物を選ぶのかしら。そこは華麗なオスマン様式の宮殿で決まりでしょう』

 いやさすがにそれは無いと思う、結局俺と信吾は最終的に前の騒動の時にもお世話になった『ロケットの人』ことクレアさんに判断をお願いすることにした。前に教えてもらったアドレスに3人の意見を書いて送信すると、10分後には返信が届いた。

『すべて却下です、そんな建物を見せたら絶対に引かれるから止めた方が良いと思うわ。もっと優しくて暖かい感じのログハウスにしなさい』

 そんなクレアさんからの鶴の一声で、輸入業者にログハウスを注文することに決まった。後は土地に関してだが、法的な手続きが必要なので建前として母さんが所有する事にして購入する事を決めた。
 これから先は実際に温泉を掘る場所に行ってからではないと何も出来ないな……、そう考えて信吾に休日を利用して作業を行う事を提案したのだが予想とは違う答えが返ってくる。

「んー、期末試験も終わってるしサボろうか。功樹も特に学院で用事ないでしょ」

 俺達はそれぞれの彼女に『3週間程、昆虫の生態について研究してきます』とメールを送り、準備を整え3日後に箱根の山へと向かった。



 麓の町から俺のパワースーツで購入した土地を目指して飛行する。勿論、同じようにスーツを装着した信吾を抱きかかえて、ついでに必要な機材も積めるだけ積んである。しかし本当に山のど真ん中だな周りは森しか見えない。まぁ……この方が都合は良いけどな。

「功樹、そろそろ着陸予定地点だよ。場所を作るから高度を上げて」

 マップを見ていた信吾から通信が送られてくる。俺がその声に従い200メートル上空まで上昇した時、『じゃあ落とすね』と言いながら信吾が手に持っていた破砕作業用のダイナマイトを投下する。
 地上5メートルで作動するように設定されたダイナマイトは予想通りの効果を上げて、周囲10メートル以内の森を吹き飛ばし着陸ポイントが出来上がった。作ったばかりのポイントに着陸すると、休む間もなく更に周囲一帯にダイナマイトを仕掛け再び上空へと退避する。

「フヒ! フヒヒヒヒヒ」

 信吾が奇妙な笑いをしながら爆破スイッチを押す度に、森が吹き飛び急速に開けた土地が出来上がっていく。なぁ信吾……その吹き飛ばした木も後から使う予定なんだからあまり粉々にしないでくれよ。

「掘削機ってここでいいの?」

「うん、倒れないように支えておいて。僕がコッチから操作するから」

 土地の開墾が終わってから、大型の掘削機を設置して温泉の水脈を掘り当てる作業に入る。この為に前に行った『次世代科学研究所』の新金属開発部に所属している地質学者の人に頼んで、水脈の大体の場所を予測してもらっておいた。
 十分にアンカーが地中に潜った所で今日の作業は終了だ。後は放置して明日の朝に温泉が吹き出ているの期待するだけだな。再び信吾を抱えて空に舞い上がり、宿を予約している麓の町に向けて飛行を開始した。




----荒川美紀 視点----

 功樹と斉藤君の為に土地の手配をするのに私は国家行政府に来ていた。功樹は土地さえ所有すれば問題ないと思っていたようだが、実際はその他にも複雑な手続きがいるのだ。温泉水の使用許可や建物の建設許可など、多様に渡る手続きを私が代わりにやらなければならない。

「なんでも知っていると思ったけど、やっぱり子供なのね」

 普段なら全て自分で解決する功樹が、個人的用件で頼み事をして来るなど母親としてはとても嬉しい。そのせいか担当者にアポイントを取るのを忘れていて、突然行政府に来る形になってしまった。

「荒川美紀と言いますが、土地に関する事の担当者の方にお会いしたいのですが」

 突然訪問しても会えない事は理解出来るので、ここは『アラカワ』の名前を出して多少強引に取り次いでもらう。予想通りに直ぐ担当者との面会が許可されて部屋に入ったのだが、何故かびっしょりと汗をかいて怯えている担当者が目に入る。

「ク、クーデターでも起こす気なのですか!? それならここではなく内閣府や自衛軍本部に行ってください!」

 何を勘違いしているのだろう? 私は功樹の為に土地とそれに関わる利権についての相談に来ているのだ。私がその事を説明するが、

「わかりました! 全て許可するので命だけは助けてください!!」

と言いながら決済印を私に渡してきた。まったくこの様子では私が恫喝して無理やり許可させた形になってしまうではないか! たしかに『アラカワ』の名前を出して強引に面会したが、このままでは私だけではなく功樹や斉藤君まで誤解されてしまう。
 私はその後、2時間かけて丁重に説明して誤解を解いてから、すべての書類にサインしてもらい応接室を後にする。そして行政府の出口に立ってから、なぜあんなに担当者が怯えていたのかをやっと理解する。

「このせいだったのね」

 思わず言葉がでる私の目に映ったのはこの前の事件以来、大幅に増強された警護隊の姿だった。国連所属のペイントが書かれているとはいえ、完全武装の兵士200人と戦車・装甲車が15両、上空には戦闘ヘリが飛んでいる状況は勘違いもするだろう。

「ちょっと多いわね」

 そんな事を考えながら、私は功樹に『すべて問題ないわよ』とメールを送るのだった。



----荒川功樹 視点----

「出来たー!」

「フヒヒ、やっと出来たね」

 温泉を掘る作業を始めて2週間と少し……やっと満足する物が完成した。そもそも最初に掘削した場所から温泉が出ず、その後3箇所も掘る羽目になったのが予定より時間がかかった原因だ。温泉が湧き出てからは周囲に吹き飛ばした木で作った塀を作り、地中にパイプを通してから別の地下水脈から伸ばしたパイプを結合して、丁度いい塩梅の湯加減にした。
 その後、岩を敷き詰めて浴槽を作ってから邪魔にならない場所に輸入したログハウスを組み立てる事になったのだが……、あの作業の大変さは思い出したくないので割愛する。一言添えるのであれば『2人でやる作業ではなかった』という事だ。

「後はベッドとか生活に必要な物だけだね。功樹が往復して運ぶの?」

「いや、クレアさんが仕事の仲間達と協力してヘリで全部運んでくれるってさ。俺達は学院に戻ってアリスと相川さんを迎えに行こう」

 信吾には伝えなかったが、一昨日の夜にクレアさんからのメールで『功樹君達に生活に必要な物を揃えさせると、魔境になる可能性があるから私の方でやっておくわね』と言われたのだ。
 魔境ってなんだよ! そんな事になったりしねーから。せっかく天蓋付きのベッドとか買おうと思ったのに……。俺がブツブツ文句を言っていると信吾に、

「功樹、準備できたよ」

と言われたので大人しく学院に向けて飛び立った。



「え!? 温泉?」

 予め泊まりの準備をして研究棟で待っているように2人に連絡を入れておいたので、後は内容を教えるだけだった。信吾が恥ずかしそうに相川さんにプレゼントの話をするのをニヤニヤと眺める。

「うん、恵美ちゃんが前に温泉が好きって言っていたのを思い出してさ、功樹と一緒に作ってたんだよ。昆虫の研究って言ってたけど本当はずっと温泉掘ったりしてたんだ。その……誕生日プレゼントとして受け取ってくれないかな?」

 緊張のせいか多少日本語が怪しいが『お前の為に温泉掘ったから今から行くぞ』という意味は伝わったのだろう、相川さんは嬉しそうに信吾に抱きついている。同じように嬉しそうな信吾を見ると、俺も頑張った甲斐があったと感じる。しみじみとそんな事を思っているとアリスが、

「私の時は何が貰えるかなー?」

と笑顔で俺に聞いてきたが正直何も考えていなかったので『秘密』としか言えなかった。



 俺のスーツにアリスを乗せ、信吾のスーツに無理やり相川さんを詰め込んでヨタヨタと飛びながら温泉まで戻ってくると、すでにログハウスの中には生活用品が運び込まれた後だった。テーブルの上に置手紙があったので読んでみる。

『姉のエリスと同僚の女性一同で選んだ品々を運んでおいたわ。代金はちゃんと功樹君のキャッシュの方から落としているから心配しないでね』

 読み終えた後、辺りを見渡すと確かに『女性らしさ』溢れる食器やテーブルが置いてあった……さすがにファンシー過ぎないか? そんな心配が浮かんだが、

「めぐみん! これ可愛いね」

「本当ね、シン君達ってセンスあったのね」

と言っていたので手紙を細かく破いて俺達の手柄にする事に決めた。信吾にも目で語り掛けるとコクコクと頷いている、バレなければ良いんだよ!! バレなければ。 後は風呂の紹介だがそれは実際に入ってもらったほうが良いだろ……俺がそう言うと、

「そうする、アリスちゃんと入ってくるけど覗かないでね」

と恥らった様子で相川さんが俺に言ってきた。『もちろんそんな事しないよ』と答えるが、既に信吾と計画済みだ! 何度も言うがバレなきゃ良いんだよ! そんな不埒な考えをしているとアリスが俺の目を見ながらボソリと言葉を出す。

「そうだよね。私を覗くなら兎も角だけど、功樹がめぐみんを覗いたら潰さないといけなくなるしね!」 

え? どこを潰すんですか!? 下腹部の辺りが痛くなる恐怖に駆られる中、相川さんも同じような事を言い出す。

「そうね。シン君が私じゃなくてアリスちゃんを覗いたら、潰さないとね」

『フヒ!?』と信吾は怯えた声を出す。2人はその言葉を置き土産に露天風呂へと消えていったが、俺達はその場を動けなかった。アリスってあんなに怖い子だったけ? 
 必死に思い出そうとするが答えはでない、だがある考えが浮かぶ……『私を覗くなら兎も角だけど』とアリスは言っていたがそれって、もしかして……。信吾も相川さんに同じ事を言われてたのを思い出したのかお互い顔を見合わせると、どちらとも無く笑顔が溢れる。



今年の夏休みは楽しい事が沢山ありそうだ。
 相川さんの視点は無いのー? と感じる方が居るかもしれませんが、次回はこの直後から始まる予定なので今回はありません。
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