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異世界に転生したんだけど俺、天才って勘違いされてない? <旧題  転生したんだけど俺なんか勘違いされてない?> 作者:にゅん

学院編1年度 前期

21/77

試作第8世代機と災害救助 (挿絵あり)

今回ちょっと長いです。それと悠里様作アリスちゃんの挿絵を挿入しました、これからはこのイメージで行きます。詳しくはプロローグの前にある『挿絵を頂きました』を御覧下さい。このお話はジプシースズキさんのネタを参考に書いています。
----荒川功樹 視点----


「パワースーツの開発?」

 俺がそう言うと信吾と相川さんが頷いた。状況が良くわからん……、なんで突然そんな事を言い出したんだよ。朝起きて、いつも通りに学院の自分の研究棟に着いた時にいきなり言われても理解できないぞ、困りながらアリスに助けを求めると苦笑いしながら教えてくれた。

「2人とも、ちゃんと初めから言わないと功樹君が分からないよ」

 そうアリスに言われて2人が説明してくれた事を整理すると、どうやら母さんが開発した『第6世代スーツ』とこの前の異世界転移の時に装着した『大気圏外用スーツ』、それに俺が個人で使用している『カルテット社製の民間スーツ』の3種類を比較して利点だけを組み合わせて新型機を作り上げるらしい……。

「そんな事できるの?」

 そもそも研究機関と民間企業が開発した程度のスーツなら俺達でも組み替えたり出来るかもしれんが、母さんの作ったスーツは謎の技術の塊だぞ。俺がその辺も含めて質問すると

「うん多分大丈夫だよ、ボクは工学系得意だしね。ただ第6世代だけは設計図が欲しいんだけど」

 なるほど、要は俺に『頼んだ!母さん』をして欲しい訳か。こいつ等になら設計図を渡しても悪用したりしないだろう、俺はそう考え渡す事に決めた。信吾に少し待つように伝え、母さんに『荒川モデル』の設計図を個人端末に送信してくれるようにメールする。3分程すると直ぐに返信が来たので内容を確認する。

『こうちゃんのお願い通りに設計図を添付しました。お願いだから、間違っても魔改造して他国の軍隊に喧嘩を売るのは止めてね』

 隣で覗き込んでいたアリスの視線が痛い……、そんな『え? お前そんな事する人なの?』みたいな目で見るのを止めてくれ。俺はそんな事をした過去も、する予定もねーよ!! 俺は余計な文面を消去して信吾に転送する。

「フヒ! これで本格的な作業に入れるよ」

 喜ぶ信吾を見ながら俺は、『その内、母さんと真剣に話をしよう』と心に誓った。




 数日間かけて3種類を比較した結果、第6世代は操作性、大気圏外用は耐久性、カルテット社製は装着感にそれぞれ優れているのが分かった。俺達はこれら全てを併せ持つパワースーツを作る事になったのだが……。

「オリジナルの荒川モデルって操縦方式は脳内の電気信号を変換して動かすようになってるんだ」

信吾が呆れたように呟いた。信吾が言ったように、なんと母さんが作ったスーツは脳内信号を変換してメインの操縦に使われている事が分かった。つまり、装着者が実際に行う操縦という動作は補助にしか過ぎなかったのだ。
 一度このスーツで庭の草毟りをした事があったが、信吾とアリス曰く『そもそもパワースーツはそんな細かい作業に向いていない』とあっさり言われてしまった。しかも母さんの作ったスーツは『俺』の脳内信号しか受け付けない仕様だ……、簡単に言うと俺の為だけに作られた超高性能スーツだったのだ。

「どうりで、庭の草むしりなんて細かい作業に使えるわけね」

 相川さんまで呆れた目で言っている。でもそれなら一般の人間が着用出来ないんじゃないか? 信吾に聞くと、

「うん、だから功樹のお母さんにメインの操縦モジュールの作り方と信号をトレースする方法を聞けないかな?」

 そう返されてしまった。俺が再び母さんにメールを送ると暫くして返ってきたので全員で俺の端末を覗き込む。

 『こうちゃんのお願い通りに設計図を添付しました。製作自体は学院生でも出来ますが問題があります、『脳内信号のトレース』は装着者の脳内信号を即時に解読・読み込みを行っているわけでは在りません。お母さんが作ったスーツに使われているシステムは、確かにこうちゃんの脳内信号をトレースしています。
 ですがそれはお母さんが数年間に渡り解読した結果です。ですから直ぐに情報が蓄積するわけではないので、学院に持っていったスーツの操縦モジュールを取り外しても情報が消去されないように保護するプログラムも同時に添付しておきます。それを打ち込んでから取り外して使用して下さい。あと今日の夕食はハンバーグです。』

 そうかハンバーグか……早く帰ろう。ってそうじゃねーよ!!! なんで勝手に俺の脳内信号を解読してるんだよ! そんな事いつやってたんだ、もうなんか母さんが少し怖いよ! 他のメンバーも『うわぁ……』みたいな顔をしている。
 結局微妙な雰囲気の中で俺達はこれから行う具体的な作業を決定した。まず外装は耐久性を極限まで高める事になった、これはあくまで試作機という名のワンオフ機なのでコストを度外視できる為である。次に装着感だがこれもカルテット社と同じように、なるべく装着者の負担にならないよう最大限配慮する。操作性については結局、第6世代機からモジュールを移植する事にした。

「目指すのは第7世代機だね! 功樹君、頑張ろうね」

 隣でアリスが笑いながら応援してくる。いや、アリスも一緒に頑張るんだけどな……。ふむ、しかし耐久性を高めて大気圏外まで適用出来る能力があるんなら空飛べるんじゃないか? 俺はそう考えて皆に聞いてみる。

「ねぇ、どうせならスラスター付けて飛行能力も追加しようよ」



 そう言うと皆固まったが、俺そんな変な事言ったか? カッコイイと思うんだけどな……。





----アリス・アルフォード 視点----


「ねぇ、どうせならスラスター付けて飛行能力も追加しようよ」

 これからの予定を決めていると功樹君が突然そんな事を言った。飛行能力? 彼は何を言っているのか自覚があるのだろうか、パワースーツに詳しくない私でも無理な事が理解出来る。姿勢制御や燃料の問題など解決しなければならない事が沢山あるのに、そんな事も分からないのだろうか?

「む、無理だよ功樹。大体どうやって姿勢制御するのさ?」

案の定、斉藤君が私の疑問を代弁するが功樹君は何事も無いように答える。

「僕の脳内信号をトレースしてるんだよね? なら多少の空気抵抗と空中の姿勢制御を計算する補助機能を組み込めば、後は自動で操縦モジュールが補ってくれると思う」

 成る程、元々パワースーツには転びそうになると自動で姿勢制御を行う機能がある。それを応用すれば出来るかもしれない……、でも燃料や追加のスラスターをどうやって搭載するかが問題だ。なにか考えがあるのだろうか? そう考えていると今度は『めぐみん』が質問した。

「操縦モジュールを積むせいで、余計なバッテリーもスラスター用の燃料も積めないわよ?」

「なら大きくすればいいじゃん。なにも今のサイズに拘らなくて良いよね?」



 その答えを聞いた瞬間に、私は今まで普通に接していたせいで忘れていた功樹君の本当の姿を思い出した。私の恋人は『天才』だという事を……。



 功樹君からしてみれば、私達の無理だという考えが理解出来なかっただろう。一般人である私達は『常識』に囚われている、しかし天才である彼はそんな事を気にしないで私達の遥か先を歩んでいる。確かに今のサイズで足りなければ大きくすれば良いのだ、だが私達はそんな事も思い浮かばない。斉藤君は興奮しながら『いける! できるかもしれない』と叫んでいるが、私は暗い表情になってしまう。
 功樹君と一般人である私が上手くやっていけるのだろうか? 私なんかと別れてもっと別の優秀な女性と付き合ったほうが良いのではないかと考えていると、

「アリスにもやってもらいたい事があるから、頑張ってね」

 そう功樹君が微笑みながら話しかけてくる。塞ぎ込んでも仕方ない、私は大好きな彼の隣にいる為に今出来る事を一生懸命する事にした。



 数日後、私達の目の前に大型のパワースーツが鎮座していた。功樹君の隣で製作の指揮を執った斉藤君が胸を張って皆に説明する。

「昨日皆が帰った後に最終調整を終わらせたんだ! これがこの世界でたった1機だけ存在する『自立飛行』可能なパワースーツだよ」

 さらに斉藤君の説明は続くが要約すると『普通なら大体3メートルか4メートルが平均の大きさなのだが、このパワースーツは8メートルで背中と足には飛行用のスラスターを搭載している。
 また第6世代と同じで非常事態には全ての部品がパージ出来る仕組みになっている。追加能力として、間違いなく行く事は無いだろうが大気圏外でも使用できるように耐久性と気密性も高めてある』そうだ。そんな中、功樹君が斉藤君に質問する。

「1機だけって、じゃあこれ第何世代になるの?」

「うーん、定義が分からないんだけど『第6世代機』で脳内信号のテストをしてたよね? たぶんだけど功樹のお母さんはそれを使って大気圏外用とかの局所対応型リモートモデル、つまり遠隔操作タイプの『局所用第7世代機』を作りたかったのだと思う。でもボク達が作ったのは、遠隔操作じゃない『局所対応型飛行モデル』例えるなら『第8世代機』だね」

 功樹君は『凄ぇえ!!』と言いながら喜んでいるが、あくまでこのパワースーツは操作モジュールの関係で功樹君しか動かせないのだが分かっているのだろうか?

「でもコレ、功樹しか動かせないよ?」

私の考えていた事を斉藤君に教えられて、ちょっと落ち込んでいる功樹君は可愛らしかった。功樹君は早速パワースーツを装着しようとして、私の方を振り返り聞いてくる。

「アリス、頼んでおいた薬出来てる?」

 私は持って来ていた鞄から使い捨て注射器が入っているケースを取り出して使い方を説明して渡すと、功樹君は『ありがとう』と言いながら頭を撫でてくれた。そして、スーツを起動させる……

「浮いた! やった!! 成功だよ」

 功樹君がスピーカーで私達に話しかける、スーツが浮く様子をみながらメンバー全員で喜んでいると学院内の放送で突然、緊急事態が告げられた。


 『全学院生にお知らせします。太平洋上で大型客船と化学薬品を満載したタンカーの衝突事故が発生しました、現在状況は非常に逼迫しています。20分前に日本政府は非常事態宣言を発令、国際科学技術学院にも協力要請がありました。
 学院生で医療技術を取得している者、又は災害救助に使用可能なパワースーツを持っている者で救助活動に参加する意思がある学院生は、航空自衛軍が迎えに来ますので正門前に集まってください。1人でも多くの人命を助ける為です、協力をお願いします』


「信吾、このスーツの最大飛行速度と航続距離は?」

 放送を聞いた時、功樹君はいつもの笑顔じゃなくて厳しい顔で斉藤君に質問してきた。まさか救助に向かう気なのだろうか? 危険すぎる、装着しているのは試作機なのにそんな所に行かすわけにはいかない。だが斉藤君は私の想いなんか関係なく答える。

「耐えられる最高速度は1600キロ、航続距離は3200キロだよ。ボク、カタログスペックが嫌いだからスラスター用の燃料は満タンだし本体のバッテリーも十分にしてある。でも出力を最大まで上げないでね、かなりのパワーが期待できるけど壊れるか最悪スーツと一緒に吹き飛ぶ」

「じゃあ、俺このまま行くわ。現場の情報は直ぐに端末に送信してくれ。学院長には先に行くからって伝えておいて」

 それだけ言って功樹君は飛んで行ってしまった。私が斉藤君になんで止めなかったのかと怒りながら詰め寄ると、斉藤君は苦笑いしながら答えた。

「だって功樹は優しいから止めても無駄だよ、アリスちゃんなら分かるでしょ? それに自分の事を『俺』って言ってたし。功樹って本気になると『俺』っていうんだね、初めて知ったよ」

 確かに、功樹君は優しい……。私が好きになった理由もそれが一番だ、だけどなにも1人で行かなくてもいいのではないか? 帰ってきたら絶対に怒ってやろう、私はそう心に誓い一先ず学院長に報告する為に走り出した。





----山本香 視点----


 学院生に災害救助の協力を促す放送をした後、自衛軍の幹部と通信していると部屋がノックされた。この忙しい時に誰だ! 私は直ぐに追い返そうとしたが、荒川君かもしれないと思いとどまり入室を促す。

「失礼します」

 部屋に入ってきたのは『欧州の悲劇の治療薬』を作り上げたせいで、マスコミや医療関係者からの問い詰めで扱いに困って面倒臭くなったので、荒川君の研究棟に隔離……もとい押し込んだメンバーだった。

「なにか用かしら? 今凄く忙しいの」

 私が遠まわしに『帰ってくれ』と言うと、その中のアリスという名の生徒が代表で話を始めた。

「荒川君が救助の為に現場へ向かっています。新型のパワースーツを装着して行ったので混乱があっては困ると思い報告に来ました」

 そう言ってパワースーツの概要が書いてある紙を私に見せてくる。なんだこれは? 単独飛行可能なパワースーツ? それに航続距離3200キロ!? しかも小さく武装可能と書いてある、ふざけているのだろうか? コレはパワースーツなんかではない。



ただの戦略兵器ではないか……。



 こんなモノを装着して行くなんてあの子は何を考えているんだ、この前も国連から『倫理教育の進行状態』について小言を言われたばかりなのにまた呼び出しをされてしまう。今からでも呼び戻そうか? しかしそんな事をして気分を害した荒川君が学院で暴れても困る。
 普段でさえ手が付けれないのにこんな兵器を使用されては学院が無くなる、いやたぶんその前に私が死ぬ。好きにさせよう……、結局私はそう結論を出した。

「私の方から救助を行っている海上自衛軍に連絡しておきます。それでアルフォードさん達は救助に参加するのかしら?」

 相川さんは兎も角、斉藤君の使用しているパワースーツの性能は是非とも欲しい。それにアリスさんの薬学の知識は負傷者の治療に必要だ、私は了解してくれるのを願うように生徒達を見つめる。

「もちろん参加します」

 よし、荒川君の問題は取り合えず後から考えるとして今は人命救助が優先だ。私は正門の前で待つように伝え、先ほどの通信を再開した。







----荒川功樹 視点----


 アリスに良いところを見せる為に格好良く学院から飛び出したのは良いが、俺は今軽く後悔しかけている。まず音速を人型で突破したせいなのか振動がヤバイ、アリスに頼んで作ってもらった強力な酔い止め薬も注射したがあまり効果がなくて吐きそうだ。そしてなにより……、

「怖ぇぇぇぇ!!! 速い、速すぎる!!!」

 海に出ると送られて来た情報通りに海上は台風のせいで大荒れだった。そんな視界がほぼ無い中を飛行しているのだが、これが凄く怖い。薄暗い中を現在1360キロの高速で突っ切っているのだ、振動と恐怖で昼に食べたモノと再会しそうになるが堪える。

「あー見えた。あれか」

 嵐の中必死に客船に近づこうとする自衛軍の救助船が視界に入った。しかし1隻しか見えない、もしかして他に居ないのか? レーダーで辺りを走査するが衝突事故を起こした2隻と自衛軍しかいないようだ、コレはまずいのではないか。取り合えず俺は自衛軍の船に救助に来た事を告げるために接近した。

「国際科学技術学院から協力に来た荒川功樹です。指示を下さい」

「ありがとうございます、我々は嵐の為に接近出来ません。現在、タンカーの方は負傷者無し浸水も確認されていません。ですが客船の方は負傷者多数、重傷者も数十名出ているようです。優先事項として客船の重傷者を我々の船まで移送して貰えませんか?」

「了解しました、行動に移ります。これからの通信はこの周波数帯を専用チャンネルとして使用させてください」

 そう告げてから客船の方に移動したのだがかなりの人数が甲板に出て俺を待っている、なるべく衝撃を与えないように負傷者を移動させるが数が多い……。このままじゃ追いつかないぞ、俺はそう思い自衛軍に通信を送る。

「こちら1機だけでは限りがあります。ほかの救助艦艇はまだですか?」

「現在、最大速度で急行中です。ですが悪天候の為に困難を極めています、航空機も同様に海面まで降下するには危険が伴い不可能です」

 何もかもが無理って少しは頑張ってくれよ、いや頑張ってるのは分かるけどもっとこうさ。俺はそんな事を考えながら移送作業を繰り返すが、やはり人数が多い……おまけに客船の方は浸水のせいで傾斜がきつくなって来ている。『間に合わない』最悪の予想が頭を過ぎる、打開策を考え1つ思い浮かび質問する。

「航空機に関してですが、例えば着陸可能であれば迅速な救助活動は可能ですか?」

「可能です」

 即座に返答してきた自衛軍の答えに満足して俺は決断する、先ほどレーダーで走査した時に近くに島があったはずだ……。




あの島の入り江まで客船を曳航する。



 『出力を最大まで上げないでね、かなりのパワーが期待できるけど壊れるか最悪スーツと一緒に吹き飛ぶ』信吾の言葉を思い出すが、大丈夫だろう。アイツは天才で凄いヤツで俺の『親友』だ、その親友が俺が死ぬようなパワースーツなんて作るわけが無い、そんな絶対の自信を胸に俺は自衛軍へ告げる。

「近くにある島の入り江に客船を曳航します、その場所に救助隊を着陸させてください」

「は? なんと言いましたか。聞き間違いがあったようです、申し訳ありませんがもう1度繰り返してください」

「だから、俺が入り江まで客船を引っ張るって言ってんだよ! グダグダ言ってねぇで準備しろ! 人の命が懸かってんだ」

 怒鳴りながらそう言うと『りょ、了解しました!』と元気のいい返事が返ってきた。よし、後は客船にも同じ通信をして乗客に知らせて貰わなければ……。



 全ての準備を終えた俺は、客船の錨を掴み全力でスラスターを点火させる。50パーセント、55・60・75……徐々に出力が上がっていくが客船は動かない。さらに80を超えた辺りで機体の振動が強くなってきた、だがまだ動かない。90パーセントを超えやがて当たり前のように100を突破してメモリは振り切れたが、客船は全く動かない。俺は予備のスラスターも点火して叫ぶ

「いけぇぇぇ!!!!!」

 俺の願いが通じたのだろうか、その時ゆっくりとだが客船が動き始めた。少しでも動けば後は慣性で動いてくれる、俺は一気に入り江まで客船を曳航した。入り江の砂浜までのつもりだったのだが、思ったより勢いの乗った客船は完全に島に乗り上げる形になったのは仕方ないことだと思う。まぁ逆にこの方が救助がしやすいだろう。
 俺はそう思い安心していたが、突然スーツの警報が鳴り出した。『スラスター内部に出火を確認』メイン画面にそう表示されたので慌てて機体全てをパージして脱出する。






 強化骨格だけで上空から落下している最中に、『救助早く来てくれんのかな』と呟きながら俺は海へダイブした……。




----海上自衛軍 災害救助船 艦長 視点----


「本土より、高速で飛来する物体を補足!」

 悪天候の中、救助現場に向かっていると通信担当者が突然報告してきた。航空隊の救難ヘリではないのか? 俺がそう聞くと否定してくる。

「敵味方識別信号に応答がありません。また救難ヘリは音速を超える速度で飛行出来ません」

 ならば何だ? 本土からなら何かの攻撃という事もあるまい、そう考えていると別の通信担当者が本部からの報告を読み上げる。

「海上自衛軍参謀本部より入電。『現在、国際科学技術学院所属のパワースーツがそちらに向かい飛行中。協力して救助を行え』以上です」

 今なんと言った? 飛行中だと? パワースーツが単独で本土から飛んでくるというのか……馬鹿馬鹿しい、そんな事を出来るわけが無かろう。大体800キロ以上離れたここまで来るなんて不可能だ。大方、現場を理解出来ない参謀本部のインテリ坊や達が見栄を張りたい学院生に法螺話でも吹き込まれたのだ。そう考えていると、凄まじい轟音と共に目の前にパワースーツが飛来してきた。


あのパワースーツ、本当に浮いてるぞ。


 艦橋に居た1人が驚いたように口に出す、恐らく全員が同じように思っているだろう。そして目の前のスーツから通信が入る、

「国際科学技術学院から協力に来た荒川功樹です。指示を下さい」

 荒川功樹……、あの天才の息子が学院に入学したのはニュースで知っていたが、所詮親の七光りだと思っていた。天才といえども息子可愛さに権力で押し通しただけだろう、2代続けて天才が輩出されるなんて在り得ない……私はそう決め付けていた。だが結果はどうだ? 息子は母親を超えるような才能を開花させ『飛行するパワースーツ』なんてモノを開発したのだ。

「艦長どうしましょう?」

 担当者からの声で我に帰る。今は人命救助が優先だ、俺は慌てて指示を出すと担当者が荒川に伝えた。全員で作業を見守っているとある事に気付いた、あのスーツはまるで人間の様な動き方をするのだ。
 普通は動作の際にある程度タイムラグが生じるのだがそれが全く無い、滑らかに動いているその姿は外観も相俟って甲冑を身に纏った悪鬼を連想させる。しかし、あの動きは一体どういう事なのか? 俺は部下の中に分かるやつが居ないか聞いてみる。

「推測ですが、よろしいですか?」

 ふむ、この部下はこの船のパワースーツの装着者だったな。優秀で頼りになる人間だ、こいつの意見なら信憑性もある……そう判断して俺が続きを促すと信じられないことを言い出した。

「恐らく、第6世代機に実験用として搭載されている『脳内信号変換式の操縦モジュール』を使用していると考察します。ですが、あくまでもそれは次期開発予定の第7世代に使用する物です、飛行しているのを考慮にいれるとあのスーツは『第8世代』に該当すると思われます。技術レベルでは30年以上先の開発レベルです」

 第8世代機だと!? 馬鹿な! 唯の子供がそんなモノを開発したのか。化け物だ、あの荒川功樹という子供は正真正銘に化け物に違いない。そんな事を考えていると再び通信が入る、

「こちら1機だけでは限りがあります。ほかの救助艦艇はまだですか?」

「現在、最大速度で急行中です。ですが悪天候の為に困難を極めています、航空機も同様に海面まで降下するには危険が伴い不可能です」

 担当者が直ぐに返答していた。我々で出来るのなら子供を危険に晒らすような事はしない、プロの海難救助隊としてのプライドもある。だが現状はたった1人の子供に頼るしか出来ない……、歯軋りする程の無力さを痛感していると三度通信が入ってきた。

「航空機に関してですが、例えば着陸可能であれば迅速な救助活動は可能ですか?」

「可能です」

 先程とは違って航空担当官が即座に返事をする。あの部下も責任感が強いヤツだ、出番が無い自分でも役に立つ事があるかもしれないと意気込んでいるようだ。しかし航空機を着陸させる場所なんて客船に無いぞ? どういうつもりだ。

「近くにある島の入り江に客船を曳航します、その場所に救助隊を着陸させてください」

 荒川は不可能としか思えない事告げてきた。何を言っているんだ? 20万トン以上の排水量を持つ客船をパワースーツが曳航するというのか、俺は信じられない思いで通信を聞いていたが担当官も同じだっただろう案の定聞き直している。すると今まで温厚そうに通信をしていた彼は怒鳴り返してきた。

「だから、俺が入り江まで客船を引っ張るって言ってんだよ! グダグダ言ってねぇで準備しろ! 人の命が懸かってんだ」

 彼の言葉に慌てて担当官が返事をしている。そして上空を飛んでいる全航空機に向かい指示をするが、『その島まで曳航出来るはずが無い、それに上からの許可が出ていないので無理だ」と全く取り合わない。それを黙って聞いていた担当官がドスを利かせた声で言い返す。

「ふざけるな!! あの子供はたった1人で救助を行っているんだぞ。そんな時に大人が、プロである俺達が黙って眺めているだけなんて恥ずかしくないのか!? そんな事も分からない奴らは今すぐ基地に引き返して辞めてしまえ!」

 そう言われたパイロットたちは、自分達が本当に行うべき事を理解したかのように一斉に島へと経路を向けて飛行し開始した。

「艦長、申し訳ありません。感情的になってしまいました」

「構わん気にするな。お前は乗組員全員の気持ちを代弁したに過ぎん、後日処罰が下るようなら俺が受ける」

 俺がそう言うと、多少困惑した様子でこちらを見つめてくる。なんだその目は? 俺は厳しい上官かもしれんが道理は弁えている筈だぞ、そんな珍獣を見る目でみるな! 
 その視線から逃げるように荒川が動かすパワースーツを眺めた。彼は錨を握り締めながら、スラスターを点火している所だった。だが動かない……、それどころかスーツから煙を吹いているのが確認できる。馬鹿止めろそれ以上負荷をかけるとスーツが爆発するぞ!? 俺は通信を送る為にマイクを掴むが聞こえてきた声に動きが止まる。

「いけぇぇぇ!!!!!」

 繋がったままの回線から叫び声が聞こえる、その時ゆっくりとだが客船が動き出したのが分かった。本当に曳航してやがる……、俺は成功した喜びとあまりの現実感の無さに笑いそうになってしまった。そしてその偉業を成し遂げたスーツを見て言葉に詰まる。



俺の目に天使の姿が映った。



 予備のスラスターにまで点火して必死に客船を曳航するその姿は、雨で視界が悪い中でもはっきりと見て取れた。スラスターから噴出する炎はまるで天使の羽のように輝いている、少し前まで俺はあのスーツを『悪鬼』のようだと思っていたがそんな自分を殴りつけてやりたい。
 天使は徐々に加速をつけたまま客船を無事に島の入り江まで曳航する事に成功した。艦橋で全員が歓声を上げる、これでスムーズに救出活動が出来るようになるのだ! そう思い感謝の通信を荒川に送ろうとして、艦橋が凍りついた。スーツの至る所から出火しているのが分かったからだ……、どうやら彼はスーツ本体を放棄する事に決めたのだろう。全てをパージして脱出した後に海面へ落下していく、俺はそれを見て慌てて部下に指示を送る。

「大至急落下ポイントに急行せよ! あの子供を死なせるな、この救助作戦の最大の功労者だぞ。もし死なせでもしたら俺達は永久に『無能者』として扱われるぞ!! 急げ」




 我々の代わりに大多数の人命を助けた子供だ……。今度は我々が助ける番だ俺はそう心に誓い現場に急行する。





----山本香 視点----


 事故が起きてから数日後、私は国連から呼び出しを受けていた。また小言を言われるのだろう、そう予想していたが、全く違う事に驚く羽目になる。

「いやー、流石に学院長の教育手腕には頭が下がりますよ」

 映像通信に映る合衆国大統領が私を褒め称える。ロシアの首相が『まったくその通りですな』と相槌を打っているが、理解できない。はたして私は何かやっただろうか? そう思い質問する。

「またまた、ご謙遜を。あの『アラカワ コウキ』が人命救助の為に自らを危険に晒すなど、学院長の倫理教育の賜物ですよ!」

「他にも聞いた話では、装着していたパワースーツが炎上しても最後まで自分に課せられた責務を全うしたようですな。その上無傷で生還するとは、重大な世界の損失にならず喜ばしい限りです」

 盛り上がっているところ申し訳ないが、私は彼に対する倫理教育は計画をしていたが、彼の出席等の都合上まだ『1度』も行っていない。だがこの雰囲気で言い出せるわけも無いので適当に話をあわせる事にした。

「勿論です! 私は教育者としての手腕に自信を持っています。今後も、彼の倫理教育には力を入れていくつもりであります」

 私がこう発言すると『素晴らしい!』とか『これは学院長に報いる為にボーナスを検討しなければ』等と相談しているのが聞こえる……。なにを勘違いして今の状況になっているのかは分からないが、取り合えず早く家に帰ってお酒飲んで寝たい。






 私はそう現実逃避をしながら、以後は会議が終わるまで無言で立ち尽くしていた。





2102年6月18日、太平洋上で大型客船と化学薬品を満載したタンカーの衝突事故が発生する。しかしながら、いち早く駆けつけた『荒川功樹』と装着していた『試作第8世代パワースーツ』の活躍により、負傷者560名を出す大惨事となったが死亡者0名という奇跡的な結果で解決された。
 なお、脱出の際にパージした部品をイギリス軍が極秘裏に回収したが『操縦モジュール』を取り外した瞬間に全てのデータがリセットされた為、回収費用の3億ポンドを無駄にするだけに終わった。


挿絵(By みてみん)
さてさて、今回のお話は功樹が主人公! ってイメージを前面に出すために頑張りました。それと海の熱い男達、海上自衛軍も頑張っている回です、どうでしたでしょうか? 感想をお待ちしています。
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