事故と友人
「この交差点って、昔から交通事故が多いらしいぜ」
「こんな見晴らしの良い所でか?」
「ああ、何故だか人の方から、飛び込んでいくらしい。もしかしたら、呪われているのかもな」
そう笑いながら友人は言っていた。
だが、どう見てもこの辺りには視界を邪魔するようなモノは何もない。
遠くの方を走っている車だって、ちゃんと確認できていた。
「あ、信号変わっちゃったよ。急いで渡ると危ないから次にしようか」
確かに、チカチカと赤や青が点滅し出していた。
走れば間に合う気もしたが、友人が言うので、そうすることにした。
何気なしに電柱を見ると、変色した錆のような跡を見つけた。
車が激しく衝突した事があるらしく、生々しい擦り傷も残っている。
その足下には壊れたサイドミラーの破片が飛び散ったりしていた。
かなり大きな事故だったのかもしれない。
「なんだ、あれ?」
ふと、何かに気が付いた友人が道路を指さした。
見ると、歩道の白いラインの上に赤黒いシミのようなものがあった。
雨で流されて随分と色落ちしているみたいだったが、まだ微かにその面影が残っていた。
「あれって、もしかして血文字じゃないのか?」
友人の言葉に背筋がゾッとした。
確かにそう見える。
いや、そう言われたからか、もう血文字にしか見えなかった。
もしかして交通事故にあった人が、最後の力を振り絞って書いたのかもしれない。
「でも、ここからじゃ霞んでて読めないか。もう少し近づいてみようぜ。なんて書いてあるか気になるだろ」
「そうだね」
そう言いつつ、シミに顔を近づけて確認しようとした。
刹那、骨が軋むほど強い力で誰かに肩を掴まれたのだ。
そして、目の前を大型のトラックが走り去っていった。
「君、1人で何をやっているんだ。ボーッとしたら危ないじゃないか!」
初めは怒鳴られている理由が分からなかった。
だが、状況を説明されると、次第に自分が何をしたのか理解できていった。
どうやらフラフラと1人で歩いていた所、突然道路に飛び出そうとしていたらしい。
そして、すんでの所を助けられたようだった。
そんな記憶は無いのだが、足取りが怪しかったから気になったんだと、助けた人は言っていた。
「そういえば昔も、そうやって死んだ奴がいたっけな。ただ、その時は、周りに人がいても誰も助けなかったらしいが」
とりあえず、ありがとう、とお礼を言って頭を下げた。
助けてくれた人は気にするなと言い残し、何処かに行ってしまった。
最後にあの血の跡を確認すると、此方を悔しそうに睨んでいる友人の顔にも見えたような気がした。