騎士と王都
「見えてきたな…あれがバゼラールカの王都だ。」
出発してから5日、しんと静まりかえる朝日の中に浮かぶ見事な城壁と城下町、そして王城。マサル達は少し離れた鋭く切り立った高い岩山の上からバゼラールカの王都を見下ろしていた。
「静かだな…。人の営みが見えない王都なんて初めてだ…早く奪還して生存者を捜さなければ。」
「あぁ、俺たちは国を護る騎士だからな。」
「……………………。」
意気込むナックルとスレイに言葉が出てこないマサル。道中何度もここに生存者がいない事を伝えようとはしたのだが全てが失敗し言えずにいた。
「何だよマサル。この何日かお前おかしいぞ?」
「体調でも悪いのか?………まぁ、ここまでマサルには1人で車を引かせて無理をさせたからな。少し俺たちは王都の様子をみてくるけどマサルは休んでるか?」
「………いや悪いけど2人はここで見ていてくれ。ここなら王都の様子も俺がやる事も全てが見渡せるからな。」
「え?何?どういう事だマサルさん。」
「わたし達に何か隠しているな?………良くない話だな?」
奥歯を噛み締め意を決するマサル。ごくりと喉が鳴る音がやけに大きく響き緊張が高まっていく。
「………………結論から言うと王都には生存者はいない。」
「っ!何でそれが分かる!まだ王都には入ってもいないじゃないかっ!!」
「待てスレイ、話を聞こうじゃないか………。」
「マサル殿。貴殿にはここまで連れて来て貰って…協力すると言って貰って大変感謝している。しかし、我々も王都に入る事もなく生存者はいないと言われても納得が出来ない…。でもわたしには何か先程の言葉は出鱈目に言っているように思えん…納得出来るように説明願おう…。」
やはり説明をせずに納得はしてくれるはずもなく、王都を見下ろしていた岩場にそのまま3人は座り込み話を始める。
「俺が何故グレイタス王国から救援を求められたりするのか聞いているか?」
「いや、詳しい事は聞いておらん。」
「…簡潔に言うと俺はビクティニアスにたまに頼まれ事をされたりしてるんだ。」
「ビクティニアス?…まさか創世の女神か?」
「あぁ、その女神様だよ。」
「そんな馬鹿な話があるか!もう何千年も神は国王が就任する際の儀式にしかこの地に降りてくださってないのだぞ!嘘をつくならもっとマシな嘘をつくんだな!もう良い!ボクは1人でも行く!」
「スレイ待たんか!何も保証もなくグレイタス王国が彼を使徒と認める訳があるわけないだろうが!ちゃんと話は最後まで聞け!」
激昂し1人でも王都に乗り込んで行こうとするスレイの腕を掴み、押さえ込んでもう一度座らせるナックル。
「ナックルの言う通りだよ…いきなり俺が何事もなく信用された訳じゃない。ただ、グレイタス王国にはちょっとビクティニアスとアイラセフィラに直接交渉の場に来て貰ってアクシオン王と一部騎士たちに俺の保証をして貰ったんだ。」
「いや、それちょっととかって言う問題じゃないし…。」
「お陰様でアクシオン王が直接交渉する事から逃げるくらいには発言力持ってるしな…脅迫とかパワハラとかとも言うけど。」
「………王様が逃げるとか…王も神に祝福された存在なのだから対等ではないのか?」
「その辺りはあんまり知られていないけど、王は代表として国を納める事を許して貰っているだけで神からは基本的に接触する事も何かを言われる事もないんだ。でも俺の場合は直接仕事を頼まれたり直接話したりするから王からすれば俺の方が立場が上らしい。まぁ、同じ(?)人間だけどな。」
同じと言っても一番それに疑問があるのはマサル自身なのだ………疑問はあっても不満はないが。
「で、今回も生存者がいないと知ったのはその関係でだ。つまり間違いはない。」
「………何時だ………何時から知っていた。」
「街を出て最初の夜。2人寝てるすぐ近くに彼女は来てたんだ。」
「………で、おれ達はどうすれば良い?」
「この王都の最後をここで見ていてくれ。俺が必ず奴らを皆殺しにしてやる…だからその様をここでその目で見て欲しい…2人の大事な場所と俺のやる事を…。」
「それならおれ達だって一緒に!」
「………気持ちは分かるが今回ばかりは悪いが足手纏いだ。逃げるヤツがいたりしたら松明でもつけて振って合図を頼む。じゃあ、話は終わりだ。」
「ちょっと待て!まだ話はっ!っ!?」
まだ食いかかるスレイを無視してマサルは岩山の上から身を投げ出す。高さは150m程もあり普通ならここから落ちると必ず死亡してしまう。慌てて下を覗き込む2人なのだが、
「車の中に槍と水や食料があるから!」
という声が返ってきてその姿がどんどん小さくなっていくだけだった。