出陣!
翌日の早朝…マサルが「あとアレも付けちゃうか!」などとニコニコしながら三輪戦車の車体の改良をする側でバゼラールカの騎士2人が顔をひきつらせて佇んでいる。他の人は巻き込まれてはならないので今日に限っては近寄らない。
「本気でこれに乗っていく気か…国や民を守る戦いで死ぬならともかくコレで死にたくはないんだが…。」
「死ぬようなトラブルなんか起きないさ!………多分。」
「ちょっ!?多分って言ってるし、昨日は実際起きてるし!」
「き…昨日のはちょっとしたお茶目だ!ほら、男ならロマンとか追いかけたくなる事があるだろ?
それだよ、それ!」
「今は明らかに追いかけちゃダメな時だろ!?それにお茶目に命かけてられるかぁ!!」
あぁ、言えばこういう…我が儘な奴らだ…。
「ちっ、せっかく早く出発出来ると思ったのに。もう少し改良するか…。」
「なぁ。わたしたちは馬で行ったら駄目なのか?」
「馬で行っても休憩が増えるし、目的地に着いても消耗した馬を放置して魔物と戦わないといけないんだぞ?帰りに困るし無理に馬を潰すような事をしなくても良いだろ?」
「………言われている事は分かるがこの納得してはいけないと心に何かが訴えてきているんだ…。」
「そんな事は知らん。乗り心地や安全性なんかはもう少し考慮してやるから心を決めておけよ、すぐ終わるからな!」
そうしてガックリと肩を落とす2人からは街の皆はそっと目を背けそそくさと居なくなるのだった。
「完成したぞ三輪戦車・改!既に戦車でも何でもないけどな!」
「マサル?誰に喋ってるの?大丈夫?」
「完成してしまった…悪魔の馬車が遂に完成してしまった…。」
「おい、アデリナ!頭がおかしくなった人みたいに言うんじゃない!俺はむしろこれで正常だ!そしてスレイ!誰が馬だ!俺が動力なんだから俺が馬か………わかった出発してから後悔するなよ。」
「………もう後悔してるよ?これ以上なにを!?」
あんまりイジると壊れそうだからそろそろ止めるか…イジられ慣れてないのか?
「なぁ…ナックル…スレイってもしかして良いとこの家のおぼっちゃん?」
「ん?あぁ、一応名前ばかりだが王家の分家の4男だ。」
王家の分家ねぇ…王家全滅してたら大変やな。
「…なるほど…王位継承権とかないよね?」
「一応あるにはあるが気にする様な順位ではなかったハズだぞ?」
「でも、王城側から攻められて偉い人から死んでたらもしかしたらもしかするんじゃないの?」
「………………………。」
もしかしたらもしかするらしい。
「じゃあ、2人とも後ろの座席にカップルの様に座るが良い!ここからは御者付きでランデブーだ!」
「ちょっ!?カップル!?」
「らんでぶー?とは何だ?」
「はいはい、何でも良いから乗った乗った。ほら、ちゃんと風切りウズラの羽毛のクッションに衝撃は出来る限り抑えてくれるスプリング、安全基準はないけどシートベルトまで完備だからな。………あっ!後、金属の鎧を着たまま何かあったらむしろ危ないかも知れないから革鎧に着替えてくれ!鎧は預かるよ。」
「最後の最後で何かあるかも知れないという前提で話すの止めてあげなさいよね、怖がってるじゃない。」
「何かあるかも知れないのは馬で移動したって同じだろ?それに軽い方が俺が楽なんだよ。」
「そっちが本音じゃないの?」
「…多分誤差くらいの重さだとは思うけどね。」
アデリナさんやっぱ鋭いッスわぁ。最近行動パターンがバレてきてるからな…やりにくいなぁ。
「ん?鎧脱げたな、じゃあ預かるなっとホイ!」
「鎧が消えた!?何処にいったんだ!?」
うわぁ…こっちの世界に来てからかなり経つけどやっと普通の反応してくれる人がいた。周りをキョロキョロ見渡して鎧を探している2人…周りで見ている人たちは苦笑している。
「ちゃんとあるから、ほら!こうやって空間にしまいこむっと!」
「まさかアイテムボックス持ち!?」
やっとテンプレの会話に…長かった、長かったよ。
「そうなんだ、実は…「良いから!早く乗りなさい‼」…なんです。」
はい、アデリナさんに怒られて強制終了です。渋々と三輪戦車・改に乗り込むマサルと騎士2名。
「はい、あんまりのんびりコントしてるとアデリナお母さんに怒られるので出発しますよ。」
「誰がお母さんなのよっ!」
「はい、では出発します。シートベルトをしっかりして座席に深くお座り下さい。なお、走行中は危険ですので座席から乗り出したりシートベルトを外したりする事のないようお願い致します。」
どこのバスだよ!?
「じゃあ、留守は任せたよアデリナ。みんなも元気で!………最初は流石に重いな………よしっ、いってきます!」
ペダルを踏み締め少しずつ進んでいく三輪戦車・改。
「思ったよりはゆっくりなんだな…これなら安全に…。」
「ギアセカンド!!」
「「ほへっ?」」
ギアを大きい方に切り換える。
「…ってどんどんスピード出てきて…って馬より速い速い速い速いっ!!怖い怖い怖い怖いっ!」
「ちょっとマサル殿少しスピードが出過ぎているんじゃないのかの…。」
見事にスレイはパニクってるし、ナックルの声も上ずっている。
「まだ馬と同じくらいしかスピードは出てないぞ?視線が低いからスピードが出てる様に感じるだけだ、まだまだ加速するから慣れてくれよな!」
「ちょっ!まだ加速って待って待って待って待って!!?」
「ちょっと!?こらスレイしがみつくな!ちゃんと真っ直ぐ座っておれ…バランス崩したらどうするんじゃ!!?」
「おい、車輪が横滑りするから片方に寄ったりするなよ!マジで危ないからな!」
タイヤはゴムではないのだ。金属のフレームに魔物の編んだ毛で丁寧に巻いた木製のタイヤを使用している。消耗を見越して替えの車輪も何個も用意しているくらいなのだ。
「じゃあ、ちょっとスピード落としてっ!危ないっ!危ないっ!危ないってば!」
完全にスレイが壊れたからちょっと速度を落とすか…このままでは完全に事故を起こす…。
「ほら、ちょっとスピード落としたから落ち着け。はい、深呼吸して!吸って〜吐いて〜吸って〜吐いて〜………。あとはナックル任せた…。」
なんなんだ、この身体動かすより疲れるやりとりは…。
「もうちょっと!もうちょっとスピード落としてっ!お願いっ、お願いだからぁぁぁぁぁっ!!」
こんなやり取りが空が薄暗くなって止まるまで続きました…。
「なんか疲れた…もの凄く疲れた…。」
「マサル殿…わたしも何か座っていただけなのに凄く疲れたぞ。」
マサルとナックルがぐったりしている一方、
「………ちょっとちびっちゃった………。」
スレイが凄く落ち込んでいる。
「ほら、水と桶と着替えを出すから水浴びして着替えろ。水浴びしたらちゃんと身体拭いて焚き火にでもあたってろ…俺は夕飯の用意するから…。」
着替え等の準備を終え、夕飯の準備に取り掛かるマサルは明日からの旅路を思い深い溜め息をつく。明日は一服もって眠らせてから運ぼうか…などと不穏な考えばかりが頭に過っていくのであった。そうして平和な夜は更けていく。