チャリオット
「秘密兵器…?」
「それでその魔物が倒せるんでしょうか?」
「いや、兵器っていっても武器じゃないんだ、それに違う形で実現しようとしてたから作り直すのに3日貰った訳なんだけど…。」
「はぁ…。」
「まぁ、俺は製作に入るからしっかり休んで体力回復させてくれよな!」
マサルが作ろうとしていたのは動力付きのトロッコだ、ノームの集落との取り引きをする為にロバの引く馬車では時間がかかり過ぎるし大変なのでトルク重視で大荷物が運べるトロッコを採用する事にした。トロッコなら一度レールを引いてしまえば後の運用が楽に思えたのだ。
しかしこのトロッコは各部品を作るのが思う以上に大変で既にマサルは製作中にも関わらず心が折れかけていた。それでも何とか出来ていた心臓部のギアやチェーンを組み換えトルク重視の2人でハンドルを上下して進む構造を投げ棄て、自転車の様に直にマサルが足でこぎギアで車輪に力を加える事にしたのだ。
「自転車の形は機械として完成されているなんて言われているから基本は自転車にしてしまえば良いよな…でもそれじゃあ人や荷物が運べないし…こうなったら三輪車かな…いや、自転車がひく戦車?やべ…コレじゃね?」
こうしてマサルの悪ノリに近い思い付きによって得体の知れないものが作られていく。なまじスキルの使い勝手が良すぎるせいと気分が乗りに乗ったか魔改装はどんどん進み3日どころか翌朝には三輪戦車が完成してしまった。
「どうよコレ!めっちゃ格好よくね?」
異様に頑丈に作られた車体には前方にアサルトサバンナホースの角を武装し、後輪の横には小振りの短剣が突き出ている…こんな所は中世のコロシアムの戦車のマネを忠実にしているが、マサルは今に至っても三輪車で体当たりすると乗っている人がどうなるのか等には気付いていない。本気で悪乗りだけで作られたのだ。
しかも、誰も自転車なんか見たことがないこの世界の人たちにはツッコミ役がいないのだからタチが悪い。
「じゃあ、試乗に行ってきます!」
と元気にマサルが乗り込んだのを見て自分たちもと乗り込もうとした兎人族の兄妹ジータとメイはアデリナに引きずり降ろされるという場面もあったが………暫くして大破した三輪戦車をアイテムボックスにしまい、身体中の服を血だらけにしたマサルが帰ってきた。
「お…おにいちゃん何があったの?」
そんなマサルの姿に純粋な少女メイも流石に引き気味だ…それもそうだろう、自分たちもああなったかも知れないのだ。
「いやぁ、はぐれのゴブリンがいたから後輪の短剣で攻撃してやろうとしたら当たった瞬間に車体がひっくり返るわ、ミンチになったゴブリンの足と一緒に車体が降ってくるわで大変だったんだ…こりゃあ、三輪戦車で攻撃するのは無謀だな。…よし、運搬専用にしよう!後ろに2人くらいなら楽勝で乗せれるし走れると思うしな!さっそく武装は外して修理してくるよ。」
意気揚々と走り去っていくマサルを全員がポカンと見送ったのではあったが、
「もしかして、わたしたちがあの後ろに乗って行くんでしょうか?」
そう呟き、悲痛な表現で立ち竦むバゼラールカの騎士ナックルとスレイに声を掛けられる人は居なかったのだった。
中世の戦車、チャリオットはその重量によって攻撃が可能となっています。自転車ベースの戦車じゃあ流石に攻撃は向いていなかったみたいですね。皆さんもマネは決してしないで下さいませ…ってしないよね!