ただいま帰還中
本日5話目の更新なのですよ。
急な用事が出来て出掛けていたので思ったより捗ってません。
また数日してマサルは王都をたつ事の報告にアクシオン王に挨拶に来ていた。
「もう行くのか?寂しくなるのぅ。」
「馬鹿な事を…交渉の場から逃げたりした人の言う台詞ですか?」
「お陰で必要以上の値引きをせんですんだなら余の勝ちじゃ。適材の人がいるなら派遣すれば良い、これはお主にない特別な力ぞ?」
最後に少しだけ諭されてしまった。確かに何でも自分1人でやるんじゃなく出来る人を育成する方がなかなか難しい、道はまだこれからなのだと考えさせられた。
「じゃあ、魔法やその他の技術交流で人は適当に送ってくれても良いけど獣人への偏見とかつまらん教育までこっちにさせないで下さいよ。あと護衛はザーグを推薦します。家族がこっちに住む事になってるし、なかなか叩いても壊れない人材だ。適当に昇給させて送迎の任務のスペシャリストにでもしたら面白いと思いますよ?こっちに来たら色々と叩き込んであげますし。」
「ほぅ、叩いても壊れない人材か…そういう人材はなかなかいるようで転がってないからのぅ…分かった直々に少し何かさせてみよう。では気をつけて行かれよ。」
良かったな王様直々に楽しいお仕事が貰えるらしいぞ!ある意味大出世ですぞ!
「ありがとう!じゃあ、今度は面倒な仕事の話は無しで酒でも飲もうぜ!ビクティニアスたちも呼んでさ!」
「やめんか!神々をそんな事で呼びつけるんじゃないわ!」
そんな感じで早速王都を出発である。
一行の荷物はまったりと荷台で休む動物たちだけである。他のものはアイテムボックスの中へと入れて歩くだけの体力が怪しい人はロバたちに引かせた馬車や荷台に乗って移動する。
そうそう人が増えたのを紹介しておこう。冒険者の引退を期に道中の護衛と移住を希望してきた人材の4人とエルフの2人だ。
人族はだいたい30代後半で冒険者を辞める事が多く裏方の仕事に就くか稼いでいる者は引退して田舎で過ごすそうだ。
彼らには異種族への偏見がまったくなく成り行きで若い頃からエルフの男女2人と共に冒険者として駆けてきたらしい。今回の引退にエルフの2人も珍しい街が出来るらしいと冒険者仲間に誘われ同行する事となった。
「いやぁ、こんな楽な移動はないぜ旦那!なんせ荷は持たなくて良いし食い物にも困らねぇ、挙げ句に職人がいるからちょっとした武器の手入れも楽ってなもんよ。」
「調子乗ってると怪我するわよ、昔から落ち着きがないんだから…もう良い歳なんだから何とかしなさい。」
冒険者のリーダーの男とエルフの女性のやり取りに皆が「またか」と知らん顔を決め込み毎度の光景なのだと知らされる。
「そういえばエルフの人って弓矢が得意ッスよね?どんな弓使ってるんスか?」
割り込んだのはウェインで彼は騎馬隊の中でもなかなかの弓の名手で確か獣人に弓矢を作った時も欲しそうな顔をしてたのが印象的である。
「トレントの木材とワームから採れた弦を使うのよ。ちょっと強めでクセはあるけど壊れにくいし良い弓よ。」
「トレントとワームの弓矢って、マサルの兄貴の作る弓と同じじゃなかったッスか?確かそうッスよねぇ?」
いつからお前の兄貴になった!ウェインは移住の話を持っていき「ディナも一緒にくるからどうだ?」と話をしてからマサルの事を兄貴と呼ぶようになった。…実に鬱陶しい。
「あぁ、トレント材とワームの弦を使ってるよ。」
「見せて貰えるかしら?今持ってるかしら?」
おっ?食いついて来た?残念ながらエルフスキーじゃないんですよね。見てる分には綺麗で微笑ましいけど。
「えっ…あぁ…ちょっと俺用の変わった複合弓なんだけど見たいならどうぞ?ミスリルとトレントの複合弓で弦には編み込んで張力を強くしたワームを使用したんだけど強すぎて汎用性がないという残念弓だ。」
アイテムボックスから出した弓を渡してやるとウェインと男性のエルフまでも近より興味深そうに触っている。
「ねぇ、ちょっと使ってみても良いかしら?」
「あぁ、構わないよ。専用の矢もあるんだけどまずは普通の矢でやってみたら?」
真剣な顔をして弦を引く…引く…引く?あ、止めた。
「………なんて強さの弓なの?槍でも飛ばす気なの?わたしには無理ね。」
「じゃあ、次はオレッスよ!オレ!オレもやりたいッス!」
「その次は自分だ…。」
ウェインと男性エルフも乗っかった事により他の冒険者たちまで出て来て弓を引いてみよう!引けたら怪力認定だよ!の集いが出来てしまった。結局誰もまともに引く事はできず返却される。
「本当にこんなのが引けるの?ちょっとやってみなさいよ!」
興奮気味にエルフが弓を突き返してくる。
「じゃあ、ちょっとだけだよ?…なんか的になりそうなのいるかな?」
そういうと全員がキョロキョロと周りを見渡していく。どんだけ興味あるんやねん。
「あっ!あそこに毒蛇がいるわよ!ほら木に巻き付いてる!」
それは大人の腕ほどの太さの蛇で明らかに毒を持っていそうな紫色の斑模様が気持ち悪い。
「距離は80mか…流石エルフ目が良いな…じゃあ、ちょっとここから狙ってみるか。」
「えっ、ちょっと流石にここからじゃ狙えないわよ………まさか狙えるの?」
「やった事はないから分からないけどね…じゃあ、専用の矢を出してっと…これは金属製で魔獣討伐の為に作った矢なんだけど…それはまあ良いか。」
矢をつがえ慎重に的となる蛇を狙っていく。風はないし弓で狙うならベストなコンディションだ。
「じゃあ、いくよ……………………………っ!!」
集中して目一杯引いた矢が音も置き去りにして目標の蛇へと襲いかかる。ガン!と何か弓矢らしからぬ音が聴こえてきて太さ30cm程の木がゆっくりと半ばから倒れていく…。全員に微妙な空気が流れる…。
「今の矢ッスよね?なんか木が倒れたんスけど?」
「しかも何か当たった所の木が蛇ごと爆発したわよ?なんか変なものでも矢につけてたんじゃないでしょうね?」
「いや、まずおかしいのは矢の軌道と速度だ。あれは弓矢の軌道では決してない。」
言いたい放題である。
「取り敢えず人はこの弓矢で狙ったらヤバいのは分かったよ。」
「オーガに殴られた方がマシッス!」
「じゃあ、矢と折れた木の回収してくるよ。みんなはこのまま真っ直ぐ行ってくれ、すぐに追いかけるから。」
「わたしも行くわ、ちょっと気になるし。」
木の場合にいくとなかなか酷い有り様になっていた。飛び散る蛇と木片…釣り針の形に曲がった矢に折れた木とその上にあったと思われる鳥の巣と割れた卵、そして気絶している鶏そっくりの鳥…。
「こいつは?」
鶏もどきも指差して聞いてみる。
「こいつはシーフバードって言ってよく旅人や冒険者の小さい荷物を持って飛んでいく嫌なヤツよ…わたしも昔に水袋を持っていかれて酷い思いをしたわ…。しかもこいつの何が酷いって巣に持って帰るわたしにはでもなく必要なわけでもなく適当にまた捨てていくのよ?」
「うわぁ…互いにリスクを犯してやる最悪のイタズラか…何を考えて生きてんだコイツら。」
「所詮は鳥だしね…でも飛ぶのは異様に早くて追いかけにくいの…。」
鶏のクセに飛ぶのが得意で人の物を盗っては捨てるとは意味が分からん生物だな。
「で、美味しいのか?」
「とびきり美味しいわ!」
「じゃあ、今日の夜はこいつで俺が特製のスープでもするかな。」
シーフバードにナイフでトドメをさしながら言う、アイテムボックスに入れれば鮮度などは落ちないので血抜きは後回しだ。
「あなた料理まで出来るのね、わたしはああいう細かい事は苦手だわ。」
「出来るって程じゃないけどね。まぁ、ポイントだけ押さえておけばそれなりになるものさ。さぁ、皆を追いかけよう。」
その夜、ガラや骨を折って出汁をとっていると凄く嫌な変な物を見る目で見られたが、皆が焦れるくらいにしっかり煮込み出汁の出たスープはキャベツの様な野菜に塩と胡椒の味付けだけでとても旨味溢れるものとなった。
「あぁ…米が欲しい…雑炊にしたい。」
とマサルが思わず呟いてしまったのも仕方ないのである。