降臨!
「下賜だと?ほぅ…その方は王である我より立場が上だと申すのだな?」
さっきまでニヤニヤしていたおっさんこと、グレイタス王国の国王アクシオンは威圧感のある真面目な顔をして静かに立ち上がる。確かにその周りにはオーラのような重い空気が発せられ全ての者にのしかかっていく。
「国王様っ!!?」
慌てて袖から出てきた近衛の騎士たちもその威圧に足を止めていく。
「確かにそう言ったと思ったんだけど?っていうか…俺じゃなくそっちの部下がびびってるだろ…やめてやれよ。可哀想だろ?」
くくっと笑いながら言うマサルに王も頭をふって王座に座りなおす。同時に威圧感が消え騎士たちとギュレイは息をするのを思い出したかの様に深く息を吐いた。
「この世界の王っていうのは勝手に土地と人民をまとめただけじゃあ、王になれないらしいな?」
「あぁ、王となるには偉大なる9柱の神々に認められ王と認められなければ真の王として認められる事はない。我も即位式で神に祝福され王を名乗る事を許されたのだ。」
「あぁ、アイラセフィラから聞いてるよ。緊張にガチガチになって自分の名前を噛んだんだってな。」
「「「「「「「っ!!!?」」」」」」」
今度は全員が凍り付いたかの様に固まった。
「どうした?ちゃんと合ってるだろ?」
「…何故それを…それより何故そのお方を呼び捨てにしている…。」
「何故って…本人から聞いたってさっき言っただろ?それにビクティニアスだけ呼び捨てにしてって怒られてな…何でかアイラセフィラの事もアイラって呼べって言われて…。んっ、みんなどうした?」
皆さん顔色が悪いですよ?
「きっ…きっ…貴様!気安く神の名を使い我々を騙そうとするか!すぐにその首叩き斬ってくれる!」
ギュレイさん乱心でゴザル!ぶちキレたでゴザル!
「ん?ちょっと待った!」
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『新着のメッセージがあります』
ビクティニアス姉様と一緒に、これから行きます。
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「おい、その馬鹿を黙らせろ。ビクティニアスとアイラセフィラが来るぞ!」
マサルの一言に全員がぎょっとして動きが止まるがその中で1人忘れ去られかけていたウェインが秘書官ギュレイの羽交い締めにして意識を落とす。きっと正当な処置です。
「早くそこからギュレイを片付けろ!神の前にそんなものを置いておくでない!」
はい、現場はパニックです。と頭の中でリポーターがリポートを始めているが…。
「おい、その尾の毛も片付けろ!王の盾は全員整列だ。そっちではない!余が玉座で迎える訳がなかろう!全員2人1組になって身だしなみを整えろ!」
王様が一番パニックですよ?あ、女神降臨した。
「騒がしいですね。」
アイラセフィラの一言によって全員の動きが止まり、ゆっくりと全員が音もたてず膝まずいていく。
「2人ともいらっしゃい。俺の家って訳じゃないけど歓迎するよ。」
「仕方ないから来てあげたわよ…まったく神使いが荒いんだから…こんな要請されたのなんて初めてよ。」
「たまには良いだろ?400年も人の前に出てなかったんだから気分転換くらいにはなったんじゃないか?」
「ならないわよ…でもまぁ、たまには呼んでくれても良いのよ?」
実はこの2人、今夜蟹を食べるのに招待する代価としてこの場に呼ばれたのである。勿論、誰にもそんな事実は言えないが。
「で、確かマサルの立場を証明すれば良かったのよね?」
「そうです姉様。」
面倒そうなビクティニアスと何が嬉しいのか知らないけれど妙に楽しそうなアイラセフィラ…なんか残念なんだよなぁ…美人なのに。
「マサルには色々と仕事を頼んでいるの、分かった?」
全然分かんねぇよ!それじゃあ駄目だろ駄女神!
「お久しぶりですね、アクシオン・フィン・ド・グレイタス。即位式以来ですね…あの時はあんなに可愛いかったのにこんなにおじさんになって…。」
こらこら、王様落ち込んじゃったじゃないですか!人間歳をとって老けるのは仕方ないんですよ!
「2人とも…何しに来たんだ?この王様にトドメ刺しにきたのか?ちゃんとお仕事モードになってもう1度だ。」
「って…マサルの立場って何になるのよ?」
俺に聞かれてもなぁ…適当にでっち上げてくれたら良いんだけど…。
「じゃあ、もう少し簡単にしようか…ビクティニアスやアイラセフィラにとって俺はどんな人なんだ?他人に紹介する時に俺を紹介するなら何て言って紹介するんだ?」
「「えっ…。」」
なんで2人して顔を背ける…ちょっと傷付いちゃう…。
「お友達ですわっ!ねぇ、お姉様!」
「そうね!お友達!それよっ!マサルは友達!」
いや別にお友達で良いんだけど何だろ…いや、まぁ、良いや。
「あと仕事も頼んでるわね。マサルが私たちの像を作ってくれるのよね…そうだアクシオン!あなたマサルにミスリルを少し都合しなさい!マサルったら私たちの像を普通の銅で作ろうとしてるのよ!ミスリルは武器に使って手元にないんですって!」
「ちょっと待て!ビクティニアス…それはアクシオンには関係ないから貢がせる様な事言うなよ。ちゃんと作ってやるから待ってろよ…ったく…。仕事っていえばゼラフィティス様から魔法関連の依頼が来てるんだけど基礎がない俺にそんな事言われても魔法なんぞどうにもならんぞ?」
「じゃあ1度ゼラフィティスに講義させるから何とかしなさい。アレから言い出したんだからそれくらいはさせてみせるわ!」
もう他の人達は放置です。完全についてこれてませんよ?
……………30分経過。
「じゃあ、私たちは帰るわね。ちゃんと約束は覚えてるんでしょうね?」
「あぁ、じゃあまた後でな。」
「では、夕食の時に。」
はい、神様帰還ですよ…全力で雑談した帰っていった女神達…本気で何をしに来たんだよ!?
「国王様!大丈夫ですか!」
2柱の女神が帰ると同時に謁見の間の入り口が開け放たれて騎士たちが雪崩れ込んできた。
「えっ?あ…あぁ…問題ない…ちょっと皆悪いがまだ大事な話がこの者たちとある。」
疲れきったその背中は30分程前に騎士たちを威圧したのと同じ人物とは思えず、憔悴した仕事帰りのサラリーマンに見える。
「…しかし…。」
「頼む…先程中にいた者を除いて他の者は外に出てくれ。」
王に頼まれて不安そうな顔をしながら出ていく騎士たちを見送って全員が出たのを確認したところで入り口を閉める。
「えっと…アクシオン殿…なんかゴメン。」
微妙な空気で交渉は続く…はずである。