謁見
「では、入られよ。王の手が空いたので今回の報告をせよとの事。速やかに謁見の間へ。」
朝早くから呼ばれたにも関わらず先客がいた様で 謁見の間の前の控え室で待つ事20分。ようやくマサルたちは呼ばれた。騎士の3人は飾りのついた明らかに普段使いではない鎧を着込んでいて、礼服や高い服を持ってないマサルはこちらの世界に着ていたジーンズにジャケットに剣帯という謎のコスプレ的な格好だ。剣は適当に見目のよい物を下げていたのだが、騎士以外が武器を持ったままの謁見は許されておらず預けてある。
「マサル…頼むから問題を起こしてくれるなよ…。」
ぼそっと言ったフリードの一言が彼の今の心境の全てを現していた。
「そちらのお荷物もお預かりします。」
椅子の横に立て掛けていた大きな鞄をマサルが担ぐのを見て文官の1人が声をかけたのだが、
「これは今回の報告に必要だ。」
と振り切ってフリード達の後に続いて謁見の間に入る。入り口の所までは文官が慌てて追い掛けて来ていたが流石に一緒に入る訳にもいかず引き下がった。
「近くへ!」
秘書官らしき男の声にフリード達と共に中央に引かれた絨毯の上を歩き近付く。部屋の中央の辺りでフリード達は足を止め跪いた。
「何をしている。貴公も跪かぬか!王の御前であるぞ!」
秘書官が声を張り上げるが、
「断る!」
と一刀両断で拒否する。前例がない為、秘書官も対応に困って目をキョロキョロさせるが今回は後々の事を考えると膝まずく訳にはいかないのだ。
「余の前に跪かぬとは何かしら理由があるのかな?」
面白そうな顔で検分を始める王と焦るフリード達と秘書官…なかなか面白いがこのまま遊んでいても仕方ない。
「俺の名は鳴海優だ。マサルと呼んでくれ。」
「余はこのグレイタス王国を束ねる王アクシオンだ。」
よし、自己紹介は終わった!よし次!
「おい、フリード。今回の任務の報告をするんだろ?何を呆けているんだ。」
「えっ?あ、はい。今回の一角の魔獣についてご報告します。この度、我々は騎乗能力と探索能力の優れる我々3名にて…。」
「ちょっと待て!貴様!王の御前でどんな言葉使いをしているのだ!自分の立場も弁えぬ愚民がっ…。」
せっかく話が進んでたのに秘書官がキレた!
「良い、続けさせろ。」
「ですが…。」
王の一言でも納得出来なかったのかまだ何か言おうとする秘書官は王に睨まれ今度こそ沈黙する。
「フリード、続けろ。アクシオン殿もそう言ってるぞ?」
ついでに固まってたフリードを再起動させる。フリードに一瞬睨まれてから報告が再会される。
「我々3名が追跡した結果、とある獣人の集落へとたどり着きそこで一角の魔獣が既に死んでいる事を知りました。しかし、手ぶらで帰る訳にもいかず現在一角の魔獣の素材を所有しているマサル殿に同行して貰った次第でございます。」
「では、我々の騎士団が倒せなかった魔獣を獣人共が倒したと申すのか?そんな馬鹿な事が…。」
「いえ、一角の魔獣は他の魔獣に獲物として捕らえられ死んだのです。その魔獣を単独で倒し一角の魔獣の亡骸を手にしたのがそこのマサル殿であります。」
「それこそ馬鹿な話ではないか!我々の騎士団が200以上いたにも関わらず翻弄され多くの死者を出した魔獣だぞ!それを捕食するような化け物を1人で倒しただとっ!」
秘書官は自分の立場も忘れ大声で叱責の言葉を浴びせ続けた。
「なぁ、アクシオン殿?この任務の報告はあんたにしてるんだろ?いい加減この五月蝿いのを黙らせてくれ。話の邪魔だ。」
「貴様、王に向かって…」
「黙れと何度も言わせるなよギュレイ。話を続けてくれ。」
再度、沈黙する秘書官ことギュレイ。呪い殺してやると言わんばかりの顔である。
「って事でその素材がこの中に入ってるんだけど…よっと…これが一角の魔獣ことアサルトサバンナホースの角と頭蓋、そして尾の毛ですっと…ザーグ、こっちの尾の毛持って!ほら…落ちるだろ…。」
ザーグが立ち上がり尾の毛を持つ。
「一角の魔獣の素材をこちらの王の御前に!」
秘書官ギュレイがよく通る声をあげた。王の前に袖から出てきた男達が台を持ってくる。
「は?何を言ってるの?」
「だから献上品を早く台に…まさか…。」
「何で献上なんて話になってんの?俺の素材だってさっき報告してたの聞いてなかったのか?」
アクシオン王はニヤニヤとこちらを見ているし、ギュレイはポカンとしているし…フリード達は予め言ってあったにも関わらず頭を抱えている。
「だいたい俺がアクシオン殿にタダでくれてやったら献上じゃなくて下賜になるじゃないか。」
こうしてマサルは今日一番の爆弾をさりげなく投下したのであった。
献上→公の立場で立場の下の人間から上の人間に物などを差し出す
下賜→公の立場で立場の上の人間が下の人間に物をあげる