建設と失敗
翌日、マサルはアイテムボックスから石材を大量に出してスキルで板状にカットしていた。カットした側から建物の一階の壁になる場所に並べ立てていく。
「かなりレベルも上がってきて魔力も増えてきたから作業が捗るな…にしても石を切るのは理屈が分かるけど継ぎ目もなく繋げるのはどうなってるんだ?まぁ、強度的にも加工の手間的にも助かるけどな…。未だに魔法の構成とか実解析な部分も多いし仕事だけが大量に増えているな…王都から帰ったら1度腰を据えて片付けていかないと…。」
「マサル〜進んでる…って壁が生えてる!?相変わらず非常識で無茶苦茶ね…。」
「まだ固定してないから近付くなよ〜倒れたら危ないからな。ってか普通に倒れるからな。」
「だったら固定してよ…何だか家なんてすぐに完成しそうね。ここは住宅の予定地なのよね?何だか広くない?」
「ん?あぁ、ここはコミュニティハウスになる予定なんだ。暫くは中にベッドを並べて男たちの住みかになるだろうけどね…広いまま放置したら後で改装しやすいしな。
向こうの開けた場所の建物は俺の故郷ではアパートと呼ばれる住宅の形式なんだ。ほら、なんだかんだ言っても住民には独身が多いだろ?だから独身の人を取り敢えず詰め込める住民を作ろうと思ってね。大家族用の住民とかはやっぱり時間がかかるからね。そこの建物は一棟は10軒、もう1棟に10軒の計20人が住める住宅になる予定なんだ。勿論建物は男女別だ…街の反対側に双方離しておく予定だ…誰かが中でイチャイチャし始めたら独身たちには毒だからな!」
少し狭い設計になっているけど個人の荷物も少なくベッドと僅かな個人スペースがあれば何とかなるだろう。
「何より目玉は公衆浴場だな…どれくらい利用者がいるかは分からないが衛生的にも気分よく過ごす為にもお風呂は必需品だ!これだけは譲れない! 」
こればっかりは日本人には絶対に要るんですってば!
「公衆浴場って何?」
「公衆浴場ってのはな、大きなお風呂だよ。」
混浴はありですか?いえ、お風呂自体が嫌煙される可能性があるから無しの方向で!
「お風呂って貴族のかなり上流の家にしかないよ?それも薪代もかなり必要になるから毎日は使ってないはずだけど何か考えがあるの?」
「それはだな。多分この近くも温泉が出るはず…というか出て欲しいなぁっていう願望がだな…いや、願望だけじゃなくってノームの集落の近くに溶岩の河があると聞いたから勝率は高いはずなんだ!………あれ?どうした?」
明らかにアデリナさんの顔には何を言ってるんだこいつ?と書いてある。
「えっと…質問はございますか?」
「温泉ってのは結局なんなの?お風呂の話だったよね?」
あり?温泉から通じてなかったのか。
「温泉ってのは地面からお湯が出る事だな、一般的には溶岩などによって地下水が温められたりした物だ。だから地面を掘って温泉が出てきたら、そのお湯を水路で引いてきてお風呂に出せば良いという算段だ。因みに川の水で温度調整する予定だ。」
「その辺りを適当に掘って出る物なの?普通に掘っても井戸みたいに水しか出ないと思うけど…???どれくらいの深さを掘るの?」
「実はだな…既に場所も目星も付けてあるのだよ!方法は内緒だけどな!」
地図スキルで立体表示して地下水脈の位置を発見しただけなのだが…。井戸とは違う水脈でノームの集落の方に伸びているので大丈夫であって欲しい…因みに深さは地下約85mくらいの場所で掘る為の秘策もある!
「…っと今日はこんな所かな…壁同士も繋げたし、壁と地面も繋がったから倒れたりはしないと思うよ?ここに扉を作って閉じればなかなかだろ?」
「屋根が無いけどね…。」
広さ40m×30mの壁のない広い部屋で10m×10m毎に中に柱を立てていて、柱を中心に十字に上部に伸びた丸太の梁が全体を支えている。屋根はまだ無いが王都から帰るまでは我慢して貰う事にする。何故なら屋根を作る技術がないからだ…王都の大きな建物を参考にして続きをしようと思っている。計画精がない?普通の人に大きな建造物の知識何て普通は無いですからね?アーチ橋を作る方法で組み上げる事なら可能だが聞き齧りの知識であまり大きく重い物を作りたくなかったのが本音である。
「色々考え込むのは良いけどまずは安全の為の外壁と神殿が先なんだからね?他の所は適当に作って少しずつ作り直せば良いんだから。」
その言葉に考えの浅さを痛感させられ、計画の再考が必要な事を思い知らされた。いきなり完成形を目指すから完成しなくてどれも形にならないのであって、最初は生活が出来さえすれば良かったのだ…こんな大きな建造物に大量の資材を使ってる場合じゃなかったのだ。
「アデリナごめん…この建物は明日には解体するわ…まずは外壁だよな…。で梁に使ってる木材で簡易的な小屋を形になる様にしてみるよ。…でも神殿は後な!今はそんなの作ってる場合じゃない。」
「神殿は先に決まってるでしょ!あなたのところに来たりするんでしょ?なら早く作っておかないと…。」
「別に良いんだよ…向こうも仕事だったり息抜きに来るんだから。それに最後に作った方が俺の技術が向上してるだろ?その方が良いものが出来るしな!」
「良いものが出来るなら…仕方ない?のかな…確かに時間をかけてでも良い神殿にしないとね!」
「ビクティニアスやアイラセフィラ様にリクエスト聞いとくよ。」
「何でビクティニアス様は呼び捨て?なのよ!」
良いんだよ駄女神様なんだから…ぷりぷり怒るアデリナをなだめながら明日の作業の準備をするのであった。
結局は一歩進んで一歩下がった回でした。
勿体ない精神から完成図が頭にあればいきなり完成形を作ろうとしてしまうのは日本人の悪い癖です。物作りというのは適切なステップを進んだ先にこそあるのです。