追跡
「まずは名乗ろう、儂は王国騎士団王の盾所属フリードだ。そっちで寝とるのがザーグでそっちの軽いのが…。」
「ウェインっス。因みにオレっちとそっちのザーグは騎兵隊っスね。」
「「っスてのはヤメろ!」」
フリードとハモってしまった。
「2人して酷いっスよ!?」
「ガイっていう知り合いを思い出してな…。」
「あ、兄ちゃんを知ってるんスか?そういやぁ沿岸都市にいるって言ってたっスね。元気してたっスか?」
兄弟かよ…世の中狭すぎだろ…スルーしよう。
「アデリナはさっき自己紹介してたな、オレはマサルだ。んっ〜…………以上。」
「自己紹介短っ!何なんっスか!」
「別に役職も無いし、職業も…一応冒険者?だし、アピールする物がない!」
「もう良いから本題にいって…マサルがそういうノリになると話が進まないから。」
本当の事だけど酷いよアデリナさん…。
「じゃあ、真面目な話に戻すよ。王の盾って名前からしたら近衛なんじゃないのか?本気でこんな所で何をしてたんだ?」
「確かに儂は王の盾…近衛の副長をしておる。儂らがここにいるのはとある魔獣を探しておったのだが貴公らはこの辺りで魔獣は見なかったかの?」
魔獣といえば勿論心当たりがある、思わずアデリナと顔を見合わせてしまった。
「まさか黒い4本腕の大きな魔熊か?」
「ほう、その様な魔獣までおるのか…しかし我らが探しているのは違うヤツだ。一角の悪魔と呼ばれる魔獣でな先日王都の近くで騎士団の演習場を襲い死者が33人も出たのだ…中にはお偉方の身内もおってな必ず仇を取れとの命により参上したのだ。」
「へぇ、王都の方にもヤバいのがいたんだな…こっちは森の木々よりデカい熊でそれも番でいたから本気で死ぬかと思ったよ。マジで魔獣は強かったわ…もう会いたくないね。」
「その様な魔獣と戦って生き延びるとは御主なかなかの強者なのだな。」
「それで魔熊の方はマサルが倒しちゃったんだけど、その一角の悪魔とかいう魔獣はどうなったの?っていうかフリードさんがここにいるという事は…そういう事なのね?」
「あぁ、こちらの地方に逃げたという話だ。足が異様に速くての、取り敢えず偵察に騎馬で戦える儂らが来たのだがな、先日の雨と長い道のりのせいで見失っての…そこでここにたどり着いた訳だ。」
「で、何で喧嘩売ってたの?馬鹿なの?死ぬの?」
そう言って寝ているザーグをみる。
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『新着のメッセージがあります』
『答え。このままでは死にます。脳内出血が始まりましたので助けるなら早急なヒールが必要です。』
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「ちょっと待てやぁあぁぁぁぁっ!ヒール!ヒール!もう一丁ヒールっ!!」
ちょっと白かった顔色に赤みがさしてくる…多分アイラセフィラ様だよね、ありがとう女神様!面倒が回避出来ました。
「どうしたんだ?いきなり…治癒の魔術?」
「いきなりって…こいつが死にかけてたから助けただけだ!ってか犯人はフリードじゃねぇか!何で俺が焦ってんだよ。」
「死にかけて…?なんも変わらん様に見えるが…。」
「脳内出血してたんだよ…確実にそのままだと死んでたからな。神に誓って本当だ。」
アデリナは1人で「あぁ…」と納得している。そうそう気にしたら負けた。
「取り敢えずは気がついても数日は安静にして動かない様にな。死んでも知らんからな。」
生きてても死んでも面倒そうだけど拾ってしまった以上は仕方ない…。
「また話が脱線してるけどさ…一角の魔獣ってどんな魔獣なの?角があるのは名前で分かるけど?
」
「そうじゃったな、一角の魔獣とは青白く長き角の生えた馬の魔獣だ。その角で盾も鎧も突き破り多くの騎士を喰ろうた恐ろしいヤツだ。」
「「……………………………。」」
それってもしかしなくてもアレですよね?
「ねぇ、わたしには心当りがあるんだけど…マサルもよね?」
「あぁ、あいつだな…多分間違いないな。」
「知ってるのか!どこにいる!?」
知ってるもなにも…どうしたっけ?
「あれってどうしたっけ?確かアデリナに…。」
「角は頭蓋骨ごと返したでしょ!毛皮は今加工して貰っててわたしがブーツにする予定よ。骨はノームたちが道具に加工するって言ってたわ。」
騎士の二人は事情を察したのか黙ってしまった。
「もしかして…一角の魔獣は…。」
「あぁ、騎士たちを食べたなら肉は食べなくて正解だったな!」
「えっ?そ、そうね…。」
…微妙な空気が流れる。
「マサル、貴公があの一角の悪魔を倒したんだな?」
「いや、あの…さっき言った魔熊に捕獲されて食べられてました。」
…更に微妙な空気が流れる。
「悪いがその一角の悪魔の角とやらを儂らに譲って貰えんか?」
「お断りします。」
即答にフリードの顔がひきつる。だって鋼鉄より固い角だよ?軽くて丈夫な最高の武器素材じゃないですか!
「命がけの狩りの中で手に入れた極上の素材ですよ?しかも角や毛皮っていうと一番素材として上等な部分ですよ。それを簡単に譲れる訳ないでしょう?」
「しかしだな…我々も手ぶらでは帰れないのだ…何か証拠が要るのだよ。」
「じゃあ…アデリナさんや、尾の毛はどうなったの?」
「わたくのブーツの飾りに使おうかと…ほら、ここにあるわよ。」
「それ彼らにあげてくれない?手ぶらでは帰れないんだって。」
うわっ…めっちゃ嫌そうな顔…確かに手触り良さそうだし綺麗な毛だけど。こうなったら奥の手だ!
「良いじゃないか、もしかしたらあの馬の体調の悪い時にピチピチのウンコかかったりした毛かも知れないし…場所が場所だけに。」
必殺の大丈夫だけど何か嫌になる微妙な精神攻撃!いやっ、アデリナさん睨まないでっ!何かが芽生えちゃうわっ!?
「あげる…わたしが狩った獲物じゃないし…またマサルが何か面白い素材手に入れてくれるわよね?」
「そうだな…でもちゃんと彼らからお代は頂くんだぞ?誇り高き騎士がきっと高く買ってくれるさ。一般人の女性から無料で最高級の素材を持っていこうなんてしないよ、きっとね。」
あれ?お二人さん?何故に目が泳いでいるのかな?俺がアデリナにあげるのと喧嘩をしかけた騎士が同じ待遇の取り引きの訳がないじゃないですか。
「支払いは後払いでいけないっスかね?…ツケって事に…。」
「ほぅ、先ほど戦争を吹っ掛けてこようとしていた君たちにツケが出来るだけの信用があるとでも?」
「じゃあ…ザーグを質に置いて行くっス!報償を急いで貰って払いに来るっス!」
これ置いて行くつもりか…俺なら見捨てるぞ?
「ザーグ君みたいな面倒なの置いて行くなら利息付くぞ?だいたいなぁ…その素材買えるくらいの報償が本当に出るのか?そんなに気前の良い上司なのか…。」
「勿論出ないな…マサル殿の言う様にその素材は多分市場でかなりの金額が付くであろう。しかし、騎士の貰える報償の額など元々命をかけて狙う程の額ではないし3人分合わせても足りぬであろう。」
「むしろそれに付随する昇進や昇給が一番の報償なんだろ?」
頷く騎士の2人。しかしそれではその素材を買えるだけの金銭が手に入らないし、自分の身を削って払うなんてのは馬鹿馬鹿し過ぎる。
「じゃあ、事情を話して素材は見せて回収するかだな…おっ!待てよ…それで行こう!俺も王都に行くよ。角と尾の毛を見せて帰って来る…アデリナには悪いが場合によっては毛は売却価格流れになるだろう。目眩ましくらいは必要だからな。馬鹿が欲を出して角まで欲するなら後悔させてやる。」
獣の様な獰猛な笑いに息をのむアデリナと騎士の2人。さて面白くなってきたじゃないか…たまには俺から喧嘩を売ってみるのも良いじゃないか?えっ?それなりに売ってるじゃないか?今回は大安売りなんだよ♪
「あ、今回はアデリナはここにお留守番だからな。公の場で欲しい物が手に入らないお偉いさんが何をしてくるか楽しみだろ?きっとオリジナリティの欠片もない面白いオモチャを出すんだぜ?さぁ、出発はザーグ君の回復次第だぞ。きっと楽しい旅になる。」