【side story】姉妹神の一時
15000ユニークありがとうございます♪
こんなに沢山の人に読んで貰えるとは…。
「あの馬鹿は…一体何がしたいのよ…。」
呟きをこぼすのは女神ビクティニアス。天界から今日も仕事の合間に現世の鏡と呼ばれる神具でマサルの行動を覗きみていた。
鏡にはマサルが獣人たちのテントから少し離れた場所で巨大な蟹を一匹丸ごと湯がいている…もちろん猫人族のライムも一緒だ。
『みんなのところで食べないのかニャ?』
『肉でも魚でもそんな物なら譲るが蟹は別だ…あんな大勢で味見と称して食べ始めたら足りないじゃないか!』
『意外とセコいのニャ…。』
『もう4年も蟹なんて贅沢品食べてないんだぞ!俺の薄給じゃあ食えなかったんだよ!誰にも邪魔はさせないぜ…。』
『目がヤバいニャ…これは邪魔したら殺られるニャ…。』
澄んだエメラルドグリーンをしていたハズの蟹は茹でると何故か赤く変わっていく。
「食べ物にはそんなにこだわって無かったのにそんなに美味しいのかしら…いって食べてみたいけどあの猫人族の娘が邪魔ね…。」
どうにかして食べられないかと頭を悩ましていると、
「姉様?また地上に降りる算段ですか?ちゃんと仕事は終わってるんでしょうね?…まったく600年近くも地上に降りようなんて言った事すら無かったのにあの子をこの世界に連れてきてから事ある事に…。」
「お小言なんて良いのよアイラ!見てよアレ!凄く美味しいらしいの!調べてみたら向こうの世界の日本って国では凄く美味なる食べ物として知られているらしいのよ!それも食べている時に無言になって夢中になるくらい美味しいらしいわ!」
「…まさか欲しいって貰いに行くんですか?」
「行かないわよ!猫人族の娘いたら気軽に降臨っ!って訳には行かないでしょ!」
「いなかったら行くんですね…姉様?仮にも貴女は神なのですよ?それも創造の力を司る程の…それが美味しそうな食べ物に釣られて地上に降臨する気だったとは…もう少し自重して下さいませ。」
「じゃあ、どうやって蟹を食べろって言うのよ!」
あくまで蟹を食べるのは諦めない様だ、このまま放置すると間違いなくこの姉は地上に降りて行ってしまうと頭を抱えるアイラセフィラ。
「では、こうしたら如何ですか?以前お伝えした通り彼のメニューにはメッセージが送れます。ここまでは良いですよね?」
「知ってるわ、もう一度使ってみたもの。」
「その機能は先日ヘラ様が彼に何かお約束した物を送る為にアップデートした機能の副産物というのもお聞きになりましたか?」
「えっ?向いてまさか…あの話を忘れていない?もう忘れてると思ってたのに…。」
「どうしました姉様?」
「いえ、何でもないわ…個人的な話よ。で、物を送る機能が?」
「神である姉様が個人的な事というのも問題なのですがヘラ様が関わっているなら聞かないでおきましょうか…で、話は戻りまして実はアイテムボックスへと直接干渉する機能を追加したみたいなんですよ、それでアイテムボックスに入れて貰って許可を貰って取り出せば食べれるのでは?と思ったのですがいかがですか?」
「どうせ2人であんなに大きなの全部食べられないわよね?少しくらいなら余ったのを…じゃあ、ちょうど良いかもしアイラがメッセージ送って、それで一緒に食べましょ。」
ビクティニアスは知らなかった…地球の蟹は大きいもので1mを超えるものも存在するし、そんなに食べれるところは多くない事を…。
「…出来ましたわ!ではメッセージをこれから送りますね!」
アイラセフィラは姉ビクティニアスとの初めての2人きりでの食事にウキウキしながらメッセージを作成していた…のだが…。
『ん?…またメッセージ………つまりは蟹よこせって事か…。なぁ、ライム?この蟹残ると思うか?』
『…むぐ?もう一匹茹でるニャ?それはちょっと多いかも知れないニャ…もぐもぐ…でもあれば食べるニャ!』
『だよな…でもコレ…ビクティニアスじゃないだろ?アレは俺の事を様なんて言わないしな…蟹が欲しいって思っても多分呼び捨てのままだろうしな…という事は食べたいのはアイラセフィラ様?』
「ちょっと姉様!姉様の名前で送ったのにわたしがメッセージ送ったのバレましたよ!わたしが食べたいと思って送ったみたいになってますし…って何でお互い呼び捨てなんですか!?」
「べ…別に意味なんてないわよ!って何でわたしの名前で送ったのよ!」
何処までも人間臭い女神の2人なのである。
『何を1人で言ってるのニャ?…こっちの爪はライムが貰ったニャ!』
『っ!…ってもう片方の爪は俺が食べたから良いか…大丈夫か?爪の殻は割れるか?』
『硬いニャ…割れないニャ…マサル…割って欲しいのニャ…。』
『はいはい、これだけ硬いと普通には割れないからハンマーで………っと、ほら割れたぞ。ここを持って捻ると…ほいっ!身が綺麗に出るだろ?』
『凄いニャ!大きいのニャ!いただきま〜す!はふはふ…うぅ…幸せにゃあ〜♪』
女神2人が言い争っている間にも蟹はどんどんお腹へと消えていく。
「ってこんな事してる間に蟹がもう無い!!?」
「そんな…せっかくの姉様との食事が!…ちょっと待って下さいませ………少しでも分けて下さいませ…っと…メッセージを送りましたわ!」
再び催促のメッセージがマサルのメニューへと届く。嫌そうにメッセージを開いてチラリと適当に読みため息をつく姿が神具へと映しだされる。
「そんなに嫌そうにしなくても良いじゃないですか…。」
落ち込むアイラセフィラに苦笑してビクティニアスが助け船を出す。
「あんな格好はするけど本当に嫌って訳じゃないのよ。ほら、新しく蟹を茹ではじめたわよ。」
「姉様…彼は本当に嫌ってないですか?本当に本当ですか?」
「本当よ。ほら見てみなさい、仕方ないなぁって感じで笑ってるじゃないの。」
最近暇さえあればマサルを見ているビクティニアスは何となく表情で感情が読めるようになってきているのである。
「わたしには分からないですけど姉様がそういうなら…。」
『ほら、ビクティニアスでもアイラセフィラ様でも良いから蟹の変わりに調べもの出来ないか?調べるのは胡椒や山椒なんかの香辛料だ。特にこの辺りで育つものが良いな、種類と産地が解れば助かるよ。可能なら入手したいと思ってるから。』
『今度は何を言ってるニャ?ん?もう一匹食べるかニャ??』
『いや、食べないからな…これはお預けだ。また食べような…蟹の事は内緒だからな…言ったらライムの分を言った人に分けるんだぞ?』
『…絶対に言わないニャ!蟹は誰にも渡さないニャ!…じゃあ、ライムはテントに戻って寝るニャ…マサルも早く寝た方が良いのニャ…。』
『まだ向こうの人達はご飯食べてないからな…そこの肉を向こうのテントに持って行ってくれ。……………じゃあ、茹でたらアイテムボックスの中に入れとけば良いんだな?簡単に食べれるように大まかに解体はしといてやるよったく…本当に似た者姉妹め…。』
その言葉にやっとマサルが本当に嫌ってたり怒ったりしてる訳じゃないのが分かりホッとする。
「美人女神2人からのお願いに対価を要求するとは…むぐぐっ…さぁ、茹で終わってマサルが解体してくれる迄に調べるわよ!胡椒と山椒っと…。」
嬉しそうに調べものを始めた姉に何だか微笑ましいモノを感じ、自らも調べものを始めるアイラセフィラ。調べものは凄く簡単に終わりメッセージを作成しながら蟹の解体作業を見守っていた。こういう姉妹2人で仕事以外でゆっくり過ごす時間も久しぶりで優しい時間が過ぎていく。
「たまにはこういう時間も良いわね…。」
茹でられた蟹とその匂いの前に2人きりの食事は初めてなのに凄く久しぶりな気がしてくる。こういうのが人間の幸せなのかな?なんて本来は食事自体が必要ない神ですら考えてしまうのであった。