雨の中の生態系
話し合いは結局マサルの言う通り、逃げるという案と弓で一斉に毒矢を射るという意見しか出ず結局のところ防衛に不向きな事を理由にこの集落は放棄してオリーブ園の近くのノームの集落へと向かう事となった。
どっちにしろ他の獣人たちの無事を知り合流する事を望んだ彼らに反対の意見はさほど出ず準備はあっという間に終わった。
道のりは約2日間で赤子や老人を守る様な布陣での移動となった。初日は何事もなく道のりを消化し、残りの工程は距離にして1/3にまで達していたのだが明け方になり天候が悪化して雨によりその工程は止まったのだった。
「久しぶりの雨で水に関しては助かるという反面、今で無くてもという複雑な思いですね。アデリナさんが集落のテントの布は必ず持っていくと忠告して無かったら全員が濡れ鼠でしたね。」
獣人たちの集落の住居は基本的に木の板にテントの屋根という変わった様式をしていて、オオトカゲの皮や獣の毛皮を使ってた布を張っていたのだ。獣の毛皮は油を染み込ませて撥水性を高め、トカゲなどの皮には蝋が塗ってあった。
「そうだね、運んだのは俺ですけどね。」
マサルはアイテムボックスを使う訳にも行かず、獣人達に運ばせるのも移動速度が落ちる疑念があった為、村にあった狩り用の荷車を改修してから水や食料、先ほど言った布などを1人で引いて移動していた。
「いやはや、あの荷車を1人で引いて皆と同じ速度で移動するなんてマサルさんは人族を止めてますね。」
「うるせぇぞキバ!お前に引かせるぞ!」
「無理ですよ〜やってみたけど全然動かなかったじゃないですか〜。」
「ゴロと密着させて2人でなんてどうだ?楽しそうだぞ?」
「マサルはキバをからかってないで少し遊んで来なさい、雨なのにふらふらするんでしょ?」
「そうだった!じゃあ、散策に行ってきます!」
雨の降る中わざわざ外を散策するのは雨ならではの生き物がいないかを調べる為だ。個人的にはスライムあたりが活発になってないかな?と思っているのだが。
「本当に凄い雨だな…草原地帯が大きな河に見えるな…深さも流れも無いけどかなりの土地が平地で水捌けの悪い土地なのもあって河みたいに見えるんだな…所々に木が生えているのも面白い光景だな。」
何処まで歩いても指1本分くらいの均一な深さで、小さな魚でもいそうで何だかワクワクしてくる。
「何か探しているかニャ?」
水の中に何かいないか一生懸命探していたマサルは突然かけられた声に飛び上がった。
「ビックリした!どうしてライムがこんなところに!?」
ライムは毛皮をかぶり雨具にしている。
「雨なのに何処かに行っているのを見かけて追いかけて来たニャ!で、何を探しているニャ?」
「別に何を探しているって訳じゃないけど変わった生き物いないかなって見てたんだ。」
「それならあっちの林の方が生き物は多いはずニャ!」
「確かに雨の日の生き物だって隠れる場所は必要だし、補食する生き物だってそういう場所に来るのか。じゃあ、そっちに行こうか。ライムも来るんだろ?」
「もちろんニャ!」
林に移動するとさっそく初見の生き物に遭遇した。
「蟹だ!めっちゃデカいし旨そう!」
「あの虫を食べるのニャ!?」
蟹の全長は75cm。マサルの鑑定スキルは生き物に作用しないのでさっそく鋏に挟まれない様に甲羅の隙間からナイフを突き刺す。
「蟹は虫じゃあ無いんだな〜こいつは食べれるのかなっと♪」
******
【フォレストグリーンガザミ】
最大1mを越える大型の蟹。木の根本に穴を掘り巣を作る。通常は茶色のかかった濃い緑色をしているが水に濡れると鮮やかなエメラルドグリーンに変わる。
******
「おぉ!ガザミなのか!ならきっと旨いな…よしもっと探そう!」
「こいつを探すのニャ?」
「蟹だけじゃないけどね♪蟹がまた見つかったら嬉しいけどさ♪」
「こいつはどうするのかニャ?担いでいくのかニャ?」
「あ………そうか、ライムは秘密が守れるか?」
「秘密は得意ニャ!忘れるのはもっと得意ニャ!」
そうして約束も秘密も忘れるんですね…まぁ、良いか…。
「こうやってな、収納っ!ってやればホラ、消えた♪」
「虫が消えたニャ!?何処に隠したんニャ!!?」
「ホラ見てろよ〜出てこいっ!って念じたら出てくるからな…ほい、出てこいっ!」
そうして出したのは大量の蟻の死骸…ちょっとグロい。
「ニャ!!!?虫が蟻になったニャ!?」
蟻は虫だからな…。
「本当はこっちに…ほい!出てこい!」
今度はちゃんと蟹を出す。
「おぉ!虫ニャ!今度は間違いないニャ!」
「虫じゃなくて蟹な…ったく何かツッコミ役がボケたらどうすりゃ良いんだよ…。」
蟹をしまい、蟻たちをどんどんしまっていく…と、
「げこっ!」
何だかまぬけな鳴き声が近くから聞こえてくる。目をこらすと茶色と緑の迷彩模様の大きな蛙がこちらを伺い見ている…しかし、こいつも1mを超えている…気持ち悪い。
「もしかしたらこの蟻を狙ってきたのか?食べるのかな?ほらっ!」
と一匹の蟻を蛙の前に投げると嬉しそうに蟻をくわえて飲み込んでいく…。60cmの蟻を丸のみか…やっぱり気持ち悪いな…。
しかし蛙はまだ欲しそうにこちらを見つめている…。
「まだケロちゃんが欲しいって言ってるニャ!」
それは分かるけどこんなデカい蛙に名前をつけるのはやめなさい…多分、人の子供くらいの大きさなら食べるぞ?
「ほらよっと!」
もう一匹蟻を蛙の目の前に投げる。それを嬉しそうに目を細めて飲み込んでいくケロちゃん…名前は可愛いんだがな…やはり気持ち悪い。
「ケロちゃんがまた食べたニャ!もう一匹!もう一匹投げるニャ!」
ライムは大興奮である…何が嬉しいんだか…。
「もう一匹だけだぞ?…ほらっ!」
投げた蟻にとたとたと歩きより頭から飲み込もうとくわえた時、突然ケロちゃんの姿が消えた。
「ケロちゃん!?ニャ〜っ!!あの蛇がケロちゃんを食べたニャ!」
ライムが指を指す方をみるが蛇など見えない…。
「何処に蛇が………えっ?マジか………。」
そこにいたのは巨大なケロちゃんを1呑みにした更に巨大な蛇…その身体は雨に濡れた草とほぼ同じ色に擬態しており輪郭と水面の波がなければ気付きにくい程のレベルで隠れていた。その瞳は明らかに次はお前たちだと言わんばかりにジっと見つめてきている。
「………こっちのマサルの方が美味しいニャ………。」
こいつ売りやがった!?でも言葉は多分分からないぞ?
「残念だなライム…蛇はピット器官という熱を感知するもので世界を見ているんだ…つまり雨に濡れて体温が下がっている俺より毛皮を着てぬくぬくのライムの方がハッキリ見えてるんだぞ?」
「そんニャ………マサル助けてニャ………。」
ライムが助けを求めたその時、急に目の前の蛇は動けなくなり地面に音を立てて崩れ落ちた…。
「急に動かなくなったニャ?死んだのかニャ?」
無言でマサルは生死を確める為に鑑定してみる…。
******
【ステルスジャイアントパイソン】
身体を周囲の色に瞬時に変える事が出来る大蛇。毒はないがとても巨大で相手を丸のみにしたり巻き付いて骨を砕き食べたりする。
******
「完全に死んでるな…急に何でだ?」
「本当に死んでるニャ??」
「間違いなく死んでるな……よく分からないが助かったな。ん?」
何だか死んでる大蛇の頭が動いたように見えたが?
「なぁ、ライム?今こいつ動かなかったか?」
「死んだって言ったのはマサルなのニャ!って本当に動いてるのニャ!?生きてるニャ!?」
ん?口の中から何か出てくる?
「ゲコッ」
「………………ケロちゃん?」
何と口の中からのそのそと出てきたのは食べられたケロちゃんだった。
「…どうして…?まさか!!ちょっとライム弓矢持ってるか?」
「もちろん外に出る時は持ってるニャ!」
「ちょっと貸してくれ!」
「分かったニャ。」
毛皮の下から出てきた弓矢を借り受け矢をつがえて弓を引き絞り…射つ!
見事矢はケロちゃんの額のド真ん中を射抜いていた!
「ぎゃあぁぁぁ!何でケロちゃんをいきなり殺すニャ!酷いニャ!鬼ニャ!悪魔ニャ!」
あら、やっぱりライム怒ったか…しかし無視して鑑定っと。
******
【グランドポイズントード】
微量でも生き物を死をもらたす強力な分泌液を身体の中から出して自分を食べようとする相手に分泌液に含まれる神経毒を与える蛙。成長して成体になってからも暫くは毒を持たないのだが毒のある生き物や植物を食べて身体に独自の毒を生成する。個体によって毒の特性が微妙に違う為、解毒するのはとても難しい。
******
「やっぱりか…ヤドクガエルのヤバい奴だこいつ…ライム絶対に触るなよ…死ぬぞ!」
さっきまで文句を言っていたライムはピタリと止まりケロちゃんの亡骸を見ながら後ずさっていく…分かりやすい奴だな…。
「取り敢えず、この蛇とケロちゃんはアイテムボックスの中に回収してっと…思わぬところで対熊さん用の最終兵器が手に入ったぞ!よし、ライム!蟹探しに行こうぜ蟹!」
「まだ虫を探しに行くのニャ!?マサルは思ったよりタフだニャ…。」
この後、蟹は3匹獲れました。わ〜い!蟹パーティーだ
!
ヤドクガエルってカラフルで綺麗なので私は好きなのですよね。
本当に誰かが絵の具で塗ったかの様な派手な原色が素敵です